説明

歯科用インプラント及び歯科用インプラントの表面処理方法

【課題】 表面にナノメートルレベルの孔を有しながら数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔と1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を有するインプラントを提供する。
【解決手段】 数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を有し、かつ、1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラントとする。その表面処理方法を、表面を酸処理することにより数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を作製する行程、インプラント表面をブラスト処理することにより1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を作製する行程、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顎骨に直接埋入され咬合機能を回復させる歯科用インプラント、及びその表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科補綴治療の一つとして、欠如歯部の顎骨内に生体親和性に優れたチタンまたはチタン合金製の歯科用インプラントを埋入し、骨との直接的な結合(オッセオインテグレーション)を介して、天然歯根の代用とする歯科インプラント治療が普及している。
【0003】
埋入後のインプラント体は、血液・繊維芽細胞・骨芽細胞等の生体組織と接触・治癒期間を経て、最終的にオッセオインテグレーションが得られた状態で人工歯根として機能する。そのため現在の市場の多くのインプラント表面は、機械的に加工された状態から更に表面改質された表面性状であり、骨組織と結合し易い工夫がなされている。
【0004】
従来の表面処理として、ブラスト処理と酸処理を組み合わせることで表面を0.5μm〜2μmのミクロ粗面とする方法(例えば、特許文献1参照。)、陽極酸化処理によりマクロ表面とする方法(例えば、特許文献2参照。)、酸処理後にリン酸カルシウムナノ結晶を堆積させたミクロかつナノ表面とする方法(例えば、特許文献3参照。)、インプラント表面の少なくとも一部分にフッ素および/またはフッ化物を付与することで、≦250nmの二乗平均平方根(Rqおよび/またはSq)を有しそして/または≦1μmの細孔直径および≦500nmの細孔深さを有する細孔を含むミクロ粗さをインプラント表面上に与える方法(例えば、特許文献4参照。)等がある。
【0005】
【特許文献1】特開平3−47264号公報
【特許文献2】特表2003−500160号公報
【特許文献3】特表2009−515600号公報
【特許文献4】特表2005−533551号公報
【特許文献5】特表2005−533552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インプラント表面性状の形態と効果を纏めると、数十マイクロメートルレベルのマクロ表面はインプラント表面の表面積を増大させ生体組織との接触面積を増大させる効果があり、1〜2マイクロメートルのミクロ表面はインプラント表面の濡れ性・血液由来フィブリン繊維の方向による血餅の維持性等を向上させる効果があることが知られている。更に近年開発された数十〜数百ナノメートルレベルのナノ表面は、細胞接着力・骨芽細胞からの骨活性物質・カルシウム沈着量等を増大させる効果があることが知られている。
【0007】
しかしながら、インプラント内部からインプラント最表面に至るまで同じ金属体からなり、かつ、均一にナノ表面及び、マクロまたはミクロ表面を同一のインプラント表面に有するものは存在せず、前記特許文献1はナノ表面を含まず、前記特許文献2はミクロ表面及びナノ表面を含まない。前記特許文献3はミクロ表面にナノ結晶を堆積させる発明であるが、堆積したナノハイドロキシアパタイト結晶はインプラント材質とは別個の物質であるので剥がれてしまう虞がある。前記特許文献4及び5はミクロ孔かつナノ表面がインプラント全面に均一に得られる処理方法ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明は、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、かつ、均一にナノ表面及び、マクロまたはミクロ表面を同一のインプラント表面に有するインプラントを提供することを課題とする。
【0009】
即ち本発明は、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を有し、かつ、1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラントである。または、数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラントである。または、1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラントである。
【0010】
そしてそれらインプラントの表面処理方法に関する発明であり、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントにおいて、インプラント表面をブラスト処理することにより数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を作製する行程、インプラント表面を酸処理することにより1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を作製する行程、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法である。または、インプラント表面をブラスト処理することにより数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を作製する行程、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法である。または、インプラント表面を酸処理することにより1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を作製する行程、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るインプラント及びインプラントの表面処理方法によれば、インプラント表面の接触面積、濡れ性、血餅の維持性、細胞接着力・骨芽細胞からの骨活性物質・カルシウム沈着量等の各特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るインプラントの1実施例のマクロ孔を示す顕微鏡写真。
【図2】本発明に係るインプラントの1実施例のミクロ孔を示す顕微鏡写真。
【図3】本発明に係るインプラントの1実施例のナノ放電痕を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の発明は、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を有し、かつ、1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラントである。第1の発明によれば、マクロ孔、かつ、ミクロ孔、かつ、ナノ放電痕を有したインプラント表面が得られ、接触面積、濡れ性、血餅の維持性、細胞接着力・骨芽細胞からの骨活性物質・カルシウム沈着量等の各特性を向上させることができる。
【0014】
本発明の第2の発明は、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラントである。第2の発明によれは、マクロ孔、かつ、ナノ放電痕を有したインプラント表面が得られ、接触面積、細胞接着力・骨芽細胞からの骨活性物質・カルシウム沈着量等の各特性を向上させることができる。
【0015】
本発明の第3の発明は、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラントである。第3の発明によれば、ミクロ孔、かつ、ナノ放電痕を有したインプラント表面が得られ、濡れ性、血餅の維持性、細胞接着力・骨芽細胞からの骨活性物質・カルシウム沈着等の各特性を向上させることができる。
【0016】
本発明におけるナノ放電痕は、10ナノメートル以上100ナノメートル未満の放電痕であることが好ましい。この範囲内であれば、細胞接着力・骨芽細胞からの骨活性物質・カルシウム沈着量等を増大させる効果がより大きくなる。
【0017】
本発明におけるインプラントは、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントである。金属体は純チタン1〜4種,Ti−6Al−4V合金または、TiをベースとしNb,Zr,Ta,Mo,Sn,Alを1種または2〜3種類から成る合金であることが好ましい。
【0018】
本発明に係るインプラントの表面処理方法の第1の発明は、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、表面をブラスト処理することにより数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を作製する行程、次に、インプラント表面を酸処理することにより1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を作製する行程、次に、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法である。本発明方法によれば、マクロ孔、かつ、ミクロ孔、かつ、ナノ放電痕を有したインプラント表面が得られ、接触面積、濡れ性、血餅の維持性、細胞接着力・骨芽細胞からの骨活性物質・カルシウム沈着量等の各特性を向上させることができるインプラントを得ることができる。
【0019】
本発明に係るインプラントの表面処理方法の第2の発明は、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、インプラント表面をブラスト処理することにより数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を作製する行程、次に、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法である。本発明方法によれば、マクロ孔、かつ、ナノ放電痕を有したインプラント表面が得られ、接触面積、細胞接着力・骨芽細胞からの骨活性物質・カルシウム沈着量等の各特性を向上させることができるインプラントを得ることができる。
【0020】
本発明に係るインプラントの表面処理方法の第3の発明は、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、インプラント表面を酸処理することにより1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を作製する行程、次に、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法である。本発明方法によれば、ミクロ孔、かつ、ナノ放電痕を有したインプラント表面が得られ、濡れ性、血餅の維持性、細胞接着力・骨芽細胞からの骨活性物質・カルシウム沈着等の各特性を向上させることができるインプラントを得ることができる。
【0021】
本発明方法においては、ブラスト処理で用いるブラスト粒子が、アルミナ,マグネシア,チタニア,鉄,チタンまたは、ジルコニアから選ばれる1種または2種以上の粒子であることが好ましい。
【0022】
本発明方法においては、酸処理に用いる酸が、塩酸,硫酸,リン酸,乳酸,フッ酸,過酸化水素から選ばれる酸の水溶液、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
【0023】
本発明方法においては、陽極酸化処理における印加電圧が、10〜150Vであることが好ましい
【0024】
本発明方法においては、陽極酸化処理で用いられる処理液が、リン酸,硫酸,硫酸アルミニウムから選ばれる酸の水溶液、または過酸化水素水、あるいはこれらの混合物から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【実施例】
【0025】
機械加工を行い作製した、内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラント形状の試験片(材質:純チタン4種またはTi−6Al−4V合金)に対し、下記表1に示したそれぞれの条件にてマクロ孔、または、ミクロ孔、または、その双方を付与した。なお、数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を作製する行程は、インプラント表面をブラスト処理することにより1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を作製する行程よりも前に行った。
HF:フッ化水素(2重量%水溶液)
HCL-H2SO4:塩酸・硫酸(H2SO4:HCl:水=1:2:1,重量比)
【0026】
<表1>

【0027】
上記試料に対して10%−HPO溶液中にて110Vの電圧を印加して陽極酸化処理を行い、ナノ放電痕を付与した。代表として、条件2で製造されたインプラント表面の電子顕微鏡写真を写真1〜3に示す。
【0028】
条件2で製造されたインプラント表面は、図1に示されるように数十マイクロメートルレベルのマクロ孔を有し、かつ、図2に示されるように1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を有し、かつ、図3に示されるように数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を有することが確認できた。
【0029】
表1で示された条件1〜6について上記陽極酸化処理を行い、電子顕微鏡観察にて、マクロ孔、ミクロ孔、及びナノ放電痕それぞれの獲得状況を調査した結果を表2に示す。
【0030】
<表2>

【0031】
条件1及び3〜5では、ミクロ孔かつナノ放電痕、条件6では、マクロ孔かつナノ放電痕、条件2では、マクロ孔かつミクロ孔かつナノ放電痕を有するインプラント表面を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を有し、かつ、1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラント。
【請求項2】
内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラント。
【請求項3】
内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントであって、1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を有し、かつ、数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕からなる表面をもつインプラント。
【請求項4】
ナノ放電痕が、10ナノメートル以上100ナノメートル未満の放電痕である請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項5】
金属体が、純チタン1〜4種,Ti−6Al−4V合金または、TiをベースとしNb,Zr,Ta,Mo,Sn,Alを1種または2〜3種類から成る合金である請求項1〜4のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項6】
内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントにおいて、インプラント表面をブラスト処理することにより数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を作製する行程、インプラント表面を酸処理することにより1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を作製する行程、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法。
【請求項7】
内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントにおいて、インプラント表面をブラスト処理することにより数十マイクロメートルレベル内径のマクロ孔を作製する行程、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法。
【請求項8】
内部から最表面まで同一金属体の原料から作製されたインプラントにおいて、インプラント表面を酸処理することにより1〜2マイクロメートル内径のミクロ孔を作製する行程、インプラント表面を陽極酸化処理することにより数十ナノメートルレベル内径のナノ放電痕を作製する行程から成るインプラントの表面処理方法。
【請求項9】
ブラスト処理で用いるブラスト粒子が、アルミナ,マグネシア,チタニア,鉄,チタンまたは、ジルコニアから選ばれる1種または2種以上の粒子である請求項6または7に記載のインプラントの表面処理方法。
【請求項10】
酸処理に用いる酸が、塩酸,硫酸,リン酸,乳酸,フッ酸,過酸化水素から選ばれる酸の水溶液、あるいはこれらの混合物である請求項6または8に記載のインプラントの表面処理方法。
【請求項11】
陽極酸化処理における印加電圧が、10〜150Vである請求項6〜10のいずれか1項に記載のインプラントの表面処理方法。
【請求項12】
陽極酸化処理で用いられる処理液が、リン酸,硫酸,硫酸アルミニウムから選ばれる酸の水溶液、または過酸化水素水、あるいはこれらの混合物から選ばれる1種または2種以上である請求項6〜11に記載のインプラント表面処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate