説明

歯科用シリンジ

【課題】バレル内から所望量の歯科用材料を容易且つ確実に吐出させることができ、また片手で簡単に使用できる歯科用シリンジを提供する。
【解決手段】歯科用シリンジを、歯科用材料が予め収納されており一端の吐出口にキャップ1aが被せられていて他端の開口端1bから中栓1cが挿嵌されて密閉されているバレル1dの、前記他端又はその近傍の周囲にフランジ部1eが形成されたバレル体1と、バレル体1と一体に又はバレル体1に接着固定されているばね設置体2と、中栓1cを押圧して歯科用材料を押し出すためのプランジャ3aの側面にラチェット歯3bが形成されているプランジャ体3とから構成させ、プランジャ3aがバレル1d内に挿入される際に、ばね設置体2のばね取付部2aに取り付けられたばね部材4の端部4aがプランジャ3aのラチェット歯3bに係止されて、プランジャ3aをバレル1d内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バレル内から所望量の歯科用材料を容易且つ確実に吐出させることができ、また片手で簡単に使用できる歯科用シリンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
予めバレル内に歯科用材料が充填された歯科用シリンジ(フィルドシリンジ)は、その使い勝手の良さから広く利用されている。このような歯科用材料が予め充填された歯科用シリンジの場合、歯科用材料を練和紙上に吐出させて混合等させたり、直接口腔内に塗布するようにノズルから吐出させて使用したりする。そして、1つの治療箇所に対して何度かに分けて使用したり、複数の箇所に使用したりすることがあるため、複数回分の量が封入されたシリンジが使用されることが多い。
【0003】
このように複数回分の量が封入された歯科用シリンジでは、バレルに付けられた目盛り等を読みながらプランジャによって歯科用材料が押し出されるが、このプランジャの押出し操作だけで正確な量を吐出させることは非常に難しいばかりでなく、バレルを構成する素材が透明でない場合には吐出量を判断することも難しかったのである。
【0004】
また歯科用材料が充填された歯科用シリンジでは、使用の直前に2種類の歯科用材料を混合して使用することがあり、このような場合、2つのシリンジから歯科用材料を同時に正確に吐出させる必要があるから、より一層所望量を吐出させることが難しいのである。
【0005】
このような所望量を吐出させることが難しいという問題に対しては、一端側にノズルが設けられたシリンジ本体と、他端側からシリンジ本体内部に挿入されたプランジャと、当該シリンジ本体内部において液体を貯留すると共に、プランジャからの押圧力により内容積が縮小されることで前記ノズル側から前記液体を吐出する液貯留器とを備えるプレフィルドシリンジであって、前記シリンジ本体の内周面およびプランジャの内の一方には、前記シリンジ本体の一端側と前記他端側を結ぶ方向に沿ってラチェット歯が刻設され、他方には、前記ラチェット歯に噛合するラチェット爪が形成されていることを特徴とするプレフィルドシリンジがある(例えば、特許文献1 請求項5参照。)。
【0006】
このプレフィルドシリンジは、シリンジ本体(バレル)と、プランジャと、シリンジ本体(バレル)内部の液貯留器とから構成されていて、シリンジ本体とプランジャとにはラチェット歯とラチェット爪とによるラチェット機構が設けられているから、プランジャを所定間隔ごとに正確に移動させることができる。
【0007】
しかしながら、このプレフィルドシリンジでは薬剤等を直接シリンジ本体(バレル)内に貯留しておくのではなく、可撓性材料等で形成された液貯留器に貯留しておき(特許文献1 段落番号0015,0017)、液貯留器が折り畳まれるようにプランジャを押し出して吐出させたり(特許文献1 段落番号0015)、液貯留器を一対のローラで挟んで吐出させようとするものであるから(特許文献1 段落番号0017)、シリンジ本体(バレル)内部に直に貯留された薬剤等をプランジャによって押し出す場合に比べて、正確な量を吐出させることが難しく、またこのプレフィルドシリンジでは同時に複数のシリンジを使用することは全く考慮されていないのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−27831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の問題に鑑み、バレル内から所望量の歯科用材料を容易且つ確実に吐出させることができ、また片手で簡単に使用できる歯科用シリンジを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、歯科用シリンジを、歯科用材料が予め収納されており一端の吐出口にキャップが被せられていて他端の開口端から中栓が挿嵌されて密閉されているバレルの、前記他端又はその近傍の周囲にフランジ部が形成されたバレル体と、バレルの開口端から前記吐出口と反対側に位置する部位にばね取付部が位置するようにバレル体と一体に又はバレル体に接着固定されているばね設置体と、バレル内に挿入されて中栓を押圧して歯科用材料を押し出すためのプランジャの側面にその長手方向に沿ってラチェット歯が形成されているプランジャ体とから構成させれば、バレル体のフランジ部に指を引っ掛け、プランジャ体の端部を指や手のひらで押さえることにより、片手で簡単に保持できると共に、指や手のひらでプランジャ体の端部を押すことによってバレル内から所望量の歯科用材料を簡単に吐出させることができ、更に、プランジャがバレル内に挿入される際に、ばね設置体のばね取付部に取り付けられたばね部材の端部がプランジャのラチェット歯に係止されて、プランジャをバレル内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構を設ければ、プランジャがバレル内に押し込まれた際にラチェット歯にばね部材の端部が順次係止されていくから、その際の接触音や手応えの回数によってプランジャの移動量が判断でき、バレルに付された目盛り等を読み取ることなくこのプランジャの押出し操作だけで正確な量を吐出させることできることを究明して本発明を完成したのである。
【0011】
即ち本発明は、歯科用材料が予め収納されており一端の吐出口にキャップが被せられていて他端の開口端から中栓が挿嵌されて密閉されているバレルの、前記他端又はその近傍の周囲にフランジ部が形成されたバレル体と、
バレルの開口端から前記吐出口と反対側に位置する部位にばね取付部が位置するようにバレル体と一体に又はバレル体に接着固定されているばね設置体と、
バレル内に挿入されて中栓を押圧して歯科用材料を押し出すためのプランジャの側面にその長手方向に沿ってラチェット歯が形成されているプランジャ体とから構成されており、
プランジャがバレル内に挿入される際に、ばね設置体のばね取付部に取り付けられたばね部材の端部がプランジャのラチェット歯に係止されて、プランジャをバレル内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構が設けられていることを特徴とする歯科用シリンジである。
【0012】
またバレル体を、併設させた2本のバレルから構成させると共に、プランジャ体を、各バレル内にそれぞれ挿入させる一体となった2本の平行なプランジャから構成させ、両プランジャの対向する側面にその長手方向に沿ってラチェット歯を形成させ、ラチェット機構を、両プランジャ間に位置するようにばね設置体のばね取付部に取り付けられたばね部材の両端部を各プランジャのラチェット歯に係止させて、各プランジャをバレル内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構とすれば、2本のプランジャに対して同様なラチェット歯を形成することで、一方のプランジャのみに押出時に大きな負荷がかかることがなく、スムーズな動きが可能となることから、2本のバレルを使用するにも拘わらず、各バレルから正確且つ簡便に歯科用材料を同時に吐出させることができて好ましいのである。
【0013】
更にばね設置体のばね取付部に取り付けられたばね部材を、板ばね又はねじりコイルばねとすれば、ラチェット機構を簡便且つ安価に製造することができて好ましいのである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る歯科用シリンジは、歯科用材料が予め収納されており一端の吐出口にキャップが被せられていて他端の開口端から中栓が挿嵌されて密閉されているバレルの、前記他端又はその近傍の周囲にフランジ部が形成されたバレル体と、バレルの開口端から前記吐出口と反対側に位置する部位にばね取付部が位置するようにバレル体と一体に又はバレル体に接着固定されているばね設置体と、バレル内に挿入されて中栓を押圧して歯科用材料を押し出すためのプランジャの側面にその長手方向に沿ってラチェット歯が形成されているプランジャ体とから構成されているから、バレル体のフランジ部に指を引っ掛け、プランジャ体の端部を指や手のひらで押さえることにより、片手で簡単に保持できると共に、指や手のひらでプランジャ体の端部を押すことによってバレル内から所望量の歯科用材料を簡単に吐出させることができ、更に、プランジャがバレル内に挿入される際に、ばね設置体のばね取付部に取り付けられたばね部材の端部がプランジャのラチェット歯に係止されて、プランジャをバレル内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構が設けられていて、プランジャがバレル内に押し込まれた際にラチェット歯にばね部材の端部が順次係止されていくから、その際の接触音や手応えの回数によってプランジャの移動量が判断でき、バレルに付された目盛り等を読み取ることなくこのプランジャの押出し操作だけで正確な量を吐出させることできるのである。
【0015】
またバレル体が併設された2本のバレルから構成されていると共に、プランジャ体が各バレル内にそれぞれ挿入される一体となった2本の平行なプランジャから構成されていて両プランジャの対向する側面にその長手方向に沿ってラチェット歯が形成されており、ラチェット機構が、両プランジャ間に位置するようにばね設置体のばね取付部に取り付けられたばね部材の両端部が各プランジャのラチェット歯に係止されて、各プランジャをバレル内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構である態様であれば、2本のプランジャに対して同様なラチェット歯を形成することで、一方のプランジャのみに押出時に大きな負荷がかかることがなく、スムーズな動きが可能となることから、2本のバレルを使用するにも拘わらず、各バレルから正確且つ簡便に歯科用材料を同時に吐出させることができて好ましく、更にばね設置体のばね取付部に取り付けられたばね部材が、板ばね又はねじりコイルばねである態様であれば、ラチェット機構を簡便且つ安価に製造することができて好ましいのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る歯科用シリンジの一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1に係る歯科用シリンジを分解した状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る歯科用シリンジの他の実施例を示す斜視図である。
【図4】図3に係る歯科用シリンジを分解した状態を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る歯科用シリンジの更に他の実施例を分解した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明に係る歯科用シリンジについて詳細に説明する。
【0018】
図面中、1は歯科用材料が予め収納されており一端の吐出口にキャップ1aが被せられていて他端の開口端1bから中栓1cが挿嵌されて密閉されているバレル1dの、前記他端又はその近傍の周囲にフランジ部1eが形成されたバレル体である。このようなバレル体1としては、歯科用材料がバレル1d内部に収納された状態で、一端の吐出口にキャップ1aが他端の開口端1bから中栓1cが挿嵌されているカートリッジタイプのもの等が使用できる。またバレル体1が、併設された2本のバレル1dから構成されている態様であってもその形状等において特に限定はない。
【0019】
2はバレル1dの開口端1bから前記吐出口と反対側に位置する部位にばね取付部2aが位置するようにバレル体1と一体に又はバレル体1に接着固定されているばね設置体である。
【0020】
3はバレル1d内に挿入されて中栓1cを押圧して歯科用材料を押し出すためのプランジャ3aの側面にその長手方向に沿ってラチェット歯3bが形成されているプランジャ体である。このプランジャ体3のプランジャ3aは、図1〜5の如くバレル1d内の中栓1cを押圧して歯科用材料を押し出すため、中栓1cはバレル1dの内面に密着されている必要があるが、それを押し出すプランジャ3aについては、バレル1dとの間で高い嵌め合い精度等は必要ない。
【0021】
4はばね設置体2のばね取付部2aに取り付けられたばね部材である。このばね部材4はプランジャ3aがバレル1d内に挿入される際にその端部4aがプランジャ3aのラチェット歯3bに係止されて、プランジャ3aをバレル1d内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構となっている。
【0022】
またバレル体1が併設された2本のバレル1dから構成されていると共に、プランジャ体3が各バレル1d内にそれぞれ挿入される一体となった2本の平行なプランジャ3aから構成されていて両プランジャ3aの対向する側面にその長手方向に沿ってラチェット歯3bが形成されている態様では、ラチェット機構が、両プランジャ3a間に位置するようにばね設置体2のばね取付部2aに取り付けられたばね部材4の両端部4aが各プランジャ3aのラチェット歯3bに係止されて、各プランジャ3aをバレル1d内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構となっているから、2本のプランジャに対して同様なラチェット歯を形成することで、一方のプランジャのみに押出時に大きな負荷がかかることがなく、スムーズな動きが可能となることから、2本のバレルを使用するにも拘わらず、正確且つ簡便に歯科用材料を同時に吐出させることができて好ましいのである。更にばね部材4が、板ばね又はねじりコイルばねであれば、ラチェット機構を簡便且つ安価に製造することができて好ましいのである。
【0023】
このような本発明に係る歯科用シリンジを実際に使用するには、先ず、バレル体1とばね設置体2とを一体に成形させたものを準備したり、またはバレル体1とばね設置体2とが別個に成形されていて、バレル体1が図2及び図4の如く、フランジ部1eがバレル1dの開口端1bの近傍の周囲に形成されていて、バレル1dの開口端1b側の部位がフランジ部1eより吐出口と反対側に向けて突出した態様である場合には、そのバレル体1の突出した部位にばね設置体2を外嵌させて接着固定する(図1及び図3)。
【0024】
またバレル体1が図5のように、フランジ部1eがバレル1dの開口端1bの周囲に形成されていて、バレル1dの開口端1b側の部位がフランジ部1eから突出していない態様の場合には、バレル1dの内部にばね設置体2の筒状をなす部位を挿入してバレル体1に接着固定したり、また図示していないが、バレル体1のフランジ部1eにばね設置体2を接着固定してもよい。
【0025】
次に、ばね設置体2内に設置されたばね部材4の端部4aを、プランジャ3aのラチェット歯3bに係止させた状態で、プランジャ体3のプランジャ3aをそれぞれのバレル1d内に挿入して、バレル1d内の中栓1cを押圧して歯科用材料が安定して吐出される状態となるように、例えば歯科用材料が多少吐出するまで押圧する。
【0026】
このような状態にした後に、例えば人差し指と中指をバレル体1のフランジ部1eに引っ掛けて、プランジャ体3の吐出口と反対側の端部を親指又は手のひらで押すようにすれば容易に片手で持って操作することができる。そしてプランジャ3aがバレル1d内に挿入された際に、ばね部材4の端部4aは、ラチェット歯3bを構成する個々の歯を1つずつ乗り越えるようにして順次係止されていくので、接触音がしたり手応えを十分に感じたりすることができるので、これらの接触音や手応えの回数を数えることによって、プランジャ体3の移動量を正確に把握できるから、所望量の歯科用材料を容易且つ確実に吐出させることできるのである。
【0027】
また図3〜5のように、2本のプランジャ3aに対して同様なラチェット歯3bを形成した態様では、一方のプランジャ3aのみに押出し時に大きな負荷がかかることがなく、スムーズな動きが可能となり、2本のバレル1dから成るバレル体1を使用するにも拘わらず、2本のバレル1dから正確且つ簡便に歯科用材料を同時に吐出させることができるのである。
【符号の説明】
【0028】
1 バレル体
1a キャップ
1b 開口端
1c 中栓
1d バレル
1e フランジ部
2 ばね設置体
2a ばね取付部
3 プランジャ体
3a プランジャ
3b ラチェット歯
4 ばね部材
4a 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用材料が予め収納されており一端の吐出口にキャップ(1a)が被せられていて他端の開口端(1b)から中栓(1c)が挿嵌されて密閉されているバレル(1d)の、前記他端又はその近傍の周囲にフランジ部(1e)が形成されたバレル体(1)と、
該バレル(1d)の開口端(1b)から前記吐出口と反対側に位置する部位にばね取付部(2a)が位置するように該バレル体(1)と一体に又は該バレル体(1)に接着固定されているばね設置体(2)と、
該バレル(1d)内に挿入されて該中栓(1c)を押圧して該歯科用材料を押し出すためのプランジャ(3a)の側面にその長手方向に沿ってラチェット歯(3b)が形成されているプランジャ体(3)とから構成されており、
該プランジャ(3a)が該バレル(1d)内に挿入される際に、該ばね設置体(2)のばね取付部(2a)に取り付けられたばね部材(4)の端部(4a)が該プランジャ(3a)のラチェット歯(3b)に係止されて、該プランジャ(3a)を該バレル(1d)内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構が設けられていることを特徴とする歯科用シリンジ。
【請求項2】
バレル体(1)が併設された2本のバレル(1d)から構成されていると共に、プランジャ体(3)が各バレル(1d)内にそれぞれ挿入される一体となった2本の平行なプランジャ(3a)から構成されていて両プランジャ(3a)の対向する側面にその長手方向に沿ってラチェット歯(3b)が形成されており、
ラチェット機構が、両プランジャ(3a)間に位置するようにばね設置体(2)のばね取付部(2a)に取り付けられたばね部材(4)の両端部(4a)が各プランジャ(3a)のラチェット歯(3b)に係止されて、各プランジャ(3a)をバレル(1d)内に挿入される方向にのみ可動するように規制するラチェット機構である請求項1に記載の歯科用シリンジ。
【請求項3】
ばね設置体(2)のばね取付部(2a)に取り付けられたばね部材(4)が、板ばね又はねじりコイルばねである請求項1又は2に記載の歯科用シリンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−45046(P2012−45046A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187220(P2010−187220)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】