説明

歯科用ハンドピース

【課題】ヘッド部分の防塵機能を向上させるとともに、故障の少ない歯科用ハンドピースを提供する。
【解決手段】歯科用ハンドピースにおいて、歯車軸5の軸部8はハードコーティング処理が施され、リング状構造の防塵シール9の内周には半径方向内側へ突出した第1のリップ38と、当該第1のリップよりも上側に所定の間隔を開けた位置で半径方向内側へ突出した第2のリップ39を設け、防塵シールを歯車軸の軸部周面に密着保持したとき、前記第1及び第2のリップの歯車軸の軸部周面への当接部の間に空間40が形成されるようにした。よって、歯車軸の軸部と防塵シールの接触部分から歯車部分の方への塵埃の侵入が防止され、また、歯車軸の軸部と防塵シールの接触部分において塵埃等により前記軸部分が磨耗することも防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ハンドピースに関し、特に、ヘッド部に取り付けられ歯科用工具を装着する歯車軸を改良し、また、当該歯車軸に装填される防塵シール部材を改善した歯科用ハンドピースに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯科用ハンドピースには、治療用工具が装着される回転軸を有するヘッド及びヘッドから略筒状に延び、動力伝達軸が挿通されるネックと、ネックの基端部に略筒状に連接し、回転軸が挿通されるグリップとを備え、グリップの後端部にモータを有する駆動ユニットが接続されて、モータと回転軸が作動連結され、モータの回転により、グリップ内の回転軸、ネック部内の動力伝達部材を介してヘッド内の回転軸を高速回転するようにしたものがある。
【0003】
図5にこのようなハンドピースの従来例を示している。このハンドピースHは、治療用工具を装着するヘッド51a及び当該ヘッド51aから略筒状に延びるネック51bが一体化されたヘッド・ネック部52を供えている。ヘッド・ネック部52の基端部にはグリップ3(図示してない)が連結される。
【0004】
ヘッド51aは、図5に示されているように、略筒状のヘッドハウジング54と、ヘッドハウジング54の内部に配設される歯車軸55と、歯車軸55をヘッドハウジング54内に回転可能に保持し軸受としての機能を有する保持部材としての支持メタル56とを有する。歯車軸55は、上部に水平な円形方向に配列された噛合い歯を有するギア部57と、このギア部57から下方へ延びるステンレスでできた軸部58とを有し、軸部58には、上記支持メタル56の下側において防塵シール59が嵌合されており、さらにこの防塵シール59の下側から防塵シール59及び支持メタル56固定用の口金62が取り付けられている。
【0005】
歯車軸55に取り付けられた防塵シール59はリング状構造体から成る。リング状構造の防塵シール59の内周にはシール本体部60から半径方向内側へ、シール本体部60に接続する部分においては幅広の寸法を有し、先端に行くにしたがって次第に幅が狭くなる断面略三角形状のリップ61を有している。このため、リップ61の先端部に外力が加わると、リップ61は、弾性変形することにより防塵シール59を歯車軸55の軸部周面に密着保持する。このような構造の歯科用ハンドピースは先行技術文献にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−290342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この種のハンドピースにおいて上記従来のような防塵シールの固定構造では、歯車軸の軸部分と防塵シールの当接(或いは接触)部分に歯の削り粉や研磨剤等の塵埃が入り込み、軸部を磨耗することにより、塵埃がヘッドハウジング内へ入り込んで歯車を傷付け、回転不良になる虞があった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、歯科ハンドピースにおいて、ヘッド部分の防塵機能を向上させるとともに、故障の少ない歯科用ハンドピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、治療用工具を装着するヘッド及び当該ヘッドから略筒状に延びるネックと、前記ネックの基端部に各種の連結手段を介して着脱可能に連結される略筒状のグリップとを備え、前記グリップの後端部に駆動ユニットを着脱可能に接続される歯科用ハンドピースにおいて、前記ヘッドには、駆動ユニットからの動力を受ける歯車軸と、ヘッド内に歯車軸を保持する保持部材と、ヘッドに前記保持部材を固定取り付けする軸取り付け部材と、歯車軸の軸部周面に密着保持され且つ前記保持部材と軸取り付け部材との間に挟持される防塵シールとを備え、前記歯車軸の軸部はハードコーティング処理が施され、且つ前記防塵シールはリング状構造体から成り、リング状構造体の内周には半径方向内側へ突出した第1のリップと、当該第1のリップよりも上側に所定の間隔を空けた位置で半径方向内側へ突出した第2のリップとを有し、前記防塵シールを歯車軸の軸部周面に密着保持したとき、前記第1のリップの歯車軸周面への当接部と前記第2のリップの歯車軸の軸部周面への当接部との間に空間が形成されることを特徴とするものである。
【0010】
本発明において、前記防塵シール部材はラバー材料から成ることが好ましい。これにより、防塵シールが弾力性を有し、当該防塵シールと歯車軸との間の接触に緊密性を持たせることができる。
【0011】
また、歯車軸の軸部は、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)、CrN(チッ化クロム)、TiN(チッ化チタン)、TiCN(カーボンチッ化チタン)のうちのいずれか1つによりハードコーティング処理が施されていることが好ましい。これにより、歯車軸の軸部を高硬度にすることができ、歯の削り粉等の塵埃により歯車の軸部が磨耗することが防止される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の歯科用ハンドピースによれば、歯科用ハンドピースにおいて、歯車軸の軸部はハードコーティング処理が施され、リング状構造の防塵シールの内周には半径方向内側へ突出した第1のリップと、当該第1のリップよりも上側に所定の間隔を開けた位置で半径方向内側へ突出した第2のリップとを有し、防塵シールを歯車軸の軸部周面に密着保持したとき、前記第1のリップの歯車軸の軸部周面への当接部と前記第2のリップの歯車軸の軸部周面への当接部との間に空間が形成されるようにしたため、歯車軸の軸部と防塵シールの接触部分から歯車部分の方への塵埃の侵入が防止される。また、軸部にハードコーティング処理が施されていることにより、歯車軸の軸部と防塵シールの接触部分において塵埃等により前記軸部分が磨耗することも防止される。そして、これらの作用が相俟って、歯車が傷付けられる虞がなくなり、故障の少ない歯科用ハンドピースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態における歯科用ハンドピースの全体構成を示す一部分解側面図
【図2】上記実施の形態に係るハンドピースの内部構成を示す側面断面図
【図3】上記実施の形態に係るハンドピースに用いられる防塵シールの構成を示す一部断面正面図
【図4】上記実施の形態に係るハンドピースのヘッド部分の内部構成を側方から示す部分断面図
【図5】従来技術に係るハンドピースのヘッド部分の内部構成を側方から示す部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。図1に歯科用ハンドピースの全体構成を示し、図2乃至図4にこのハンドピースの内部構成或いは各部の構成を示している。
【0015】
図1に示すように、歯科用ハンドピースPは、治療用工具を装着するヘッド1a及び当該ヘッド1aから略筒状に延びるネック1bが一体化されたヘッド・ネック部2と、ヘッド・ネック部2の基端部に着脱可能に連結される略筒状のグリップ3とを備え、グリップ3の後端部に駆動ユニット(図示してない)が着脱可能に接続されるようになっている。このハンドピースPの各部は次のような構成を有する。
【0016】
ヘッド1aは、図4に示されているように、略筒状のヘッドハウジング4と、ヘッドハウジング4の内部に配設される歯車軸5と、歯車軸5をヘッドハウジング4内に回転可能に保持する支持メタル6とを有する。支持メタル6は歯車軸5にとって軸受としての機能を有する。歯車軸5は、上部に水平な円形方向に配列された噛合い歯を有するギア部7と、このギア部7から下方へ延びる軸部8とを有する。軸部8には、上記支持メタル6の下側において防塵シール9が嵌合されており、さらにこの防塵シール9の下側から防塵シール9及び支持メタル6を固定する、軸取り付け部材としての口金10が取り付けられている。
【0017】
ヘッド・ネック部2のネック1bの中には、動力伝達部材としてのシャフト11が配設され、このシャフト11のヘッド1a側先端には歯車軸5のギア部7に噛合う出力歯車12が取り付けられている。歯車軸5の軸芯とシャフト11の軸芯とは互いに交差する方向(例えば直交する方向)に延びており、ギア部7と出力歯車12はかさ歯車に類似する動力伝達機構を構成している。シャフト11はネック1b内に配設された円筒構造の保持筒部材13内に装填され、シャフト11の両端部分においてメタル軸受14(ヘッド1a側)及びメタル軸受15(グリップ3側)により回転可能に支持されている。また、シャフト11の基端部(駆動源側端部)には入力歯車16が取り付けられている。
【0018】
グリップ3は略筒状のグリップハウジング30とグリップハウジング30の内部に挿通される回転軸32と、回転軸32よりも駆動源側に設けられたカップリング部材33と、回転軸32よりもネック1b側に設けられた減速部34と、減速部34のネック1b側に隣接して設けられた出力歯車35とを有する。回転軸32は、駆動源側においてカップリング部材33に連結され、ネック1b側において減速部34に作動連結されている。減速部34は出力軸36を有しており、この出力軸36の先端部(ネック1b側先端)に出力歯車35が取り付けられている。出力軸36に取り付けられた出力歯車35とシャフト11に取り付けられた入力歯車16は、前者が駆動側、後者が従動側の関係で噛合している。グリップ3内に配設されたカップリング部材33はモータ等の駆動ユニットに作動連結されている。
【0019】
歯車軸5に取り付けられた防塵シール9は、例えばフッ素ゴム、シリコンゴム等の弾性材料から出来ており、その構造は、図3に示されているように、リング状構造体から成る。リング状構造の防塵シール9の内周にはシール本体部37下部において当該シール本体部37から半径方向内側へ突出した第1のリップ38と、第1のリップ38よりも上側に所定の間隔を開けた位置でシール本体部37から半径方向内側へ突出した第2のリップ39とを有している。第1のリップ38及び第2のリップ39は、シール本体部37に接続する部分においては幅広の寸法を有し、先端に行くにしたがって次第に幅が狭くなる断面略三角形状に成形されている。このため、第1のリップ38及び第2のリップ39の先端部に外力が加わると、これら第1のリップ38及び第2のリップ39は、両部材の間に隙間を空けた状態で弾性変形する。したがって、防塵シール9を歯車軸5の軸部周面に密着保持したとき、前記第1のリップ38の歯車軸周面への当接部と前記第2のリップ39の歯車軸周面への当接部との間に空間40(図4参照)が形成される。なお、図4において、符号41は歯科治療に使われる治療用工具である
【0020】
以上の構成を有する歯科用ハンドピースについて、その動作を説明する。駆動モータからの動力はグリップ3のカップリング部材に入力され、回転軸32へ伝達される。回転軸32の回転は減速部34において減速され、出力歯車35と入力歯車16の噛合いによりネック1bのシャフト11へ伝えられる。次に、シャフト11の回転は出力歯車12と歯車軸5のギア部7(入力歯車に相当する)の噛合いにより歯車軸5を回転させ、この歯車軸5に取り付けられた治療用工具41により歯の治療が行われる。
【0021】
この治療に際して、治療用工具41が歯に当たって回転動作することにより、歯に付いていた付着物質や歯の研削物或いは研磨剤などの塵埃が歯車軸5の軸部8に付着する。この塵埃は、防塵シール9の第1のリップ38と歯車軸5の軸部8との当接部にも到達し、この当接部においてあたかも軸部8をラッピングする状況が発生する。しかし、本実施の形態の歯科用ハンドピースでは、歯車軸5の軸部8はハードコーティング処理が施されているため、歯車軸5の軸部分8と防塵シール9の接触部分において塵埃等により前記軸部分8が磨耗することも防止される。また、防塵シール9の第1のリップ38と歯車軸5の軸部8との当接部に到達した塵埃は、その一部が防塵シール9の第1のリップ38と歯車軸5の軸部8との当接部から、歯車軸5内部に入り込もうとするが、上記防塵シール9は第1のリップ38と第2のリップ39とを有し、且つ第1のリップ38と第2のリップ39との間に空間40を設けているため、歯車軸5内部への侵入が大きく抑制される。
【0022】
これにより、歯車軸5は損傷及び塵埃等による目づまりから防護され、長時間にわたって動作することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の歯科用ハンドピースは、歯車軸の軸部にハードコーティング処理が施され、また防塵シール部材を歯車軸の軸周面に密着保持したとき、前記第1及び第2のリップの歯車軸周面への当接部の間に空間が形成されるようにされている。このため、歯車軸の軸部分と防塵シールの接触部分において塵埃等により前記軸部分が磨耗することが防止され、また歯車軸の軸部分と防塵シールの接触部分から歯車部分の方への塵埃の侵入が防止されることにより、歯科用ハンドピースの損傷や故障が少なくなり、有用である。
【符号の説明】
【0024】
P 歯科用ハンドピース
1a ヘッド
1b ネック
2 ヘッド・ネック部
3 グリップ
4 ヘッドハウジング
5 歯車軸
6 支持メタル
7 ギア部
8 軸部
9 防塵シール
10 口金(軸取り付け部材)
11 シャフト(動力伝達部材)
12、35 出力歯車
13 保持筒部材
14、15 メタル軸受
16 入力歯車
30 グリップハウジング
32 回転軸
33 カップリング部材
34 減速部
36 出力軸
37 シール本体部
38 第1のリップ
39 第2のリップ
40 空間
41 治療用工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用工具を装着するヘッド及び当該ヘッドから略筒状に延びるネックと、前記ネックの基端部に各種の連結手段を介して着脱可能に連結される略筒状のグリップとを備え、前記グリップの後端部に駆動ユニットを着脱可能に接続される歯科用ハンドピースにおいて、
前記ヘッドには、駆動ユニットからの動力を受ける歯車軸と、ヘッド内に歯車軸を保持する保持部材と、ヘッドに前記保持部材を固定取り付けする軸取り付け部材と、歯車軸の軸部周面に密着保持され且つ前記保持部材と軸取り付け部材との間に挟持される防塵シールとを備え、
前記歯車軸の軸部はハードコーティング処理が施され、且つ
前記防塵シールはリング状構造体から成り、リング状構造体の内周には半径方向内側へ突出した第1のリップと、当該第1のリップよりも上側に所定の間隔を空けた位置で半径方向内側へ突出した第2のリップとを有し、
前記防塵シールを歯車軸の軸部周面に密着保持したとき、前記第1のリップの歯車軸周面への当接部と前記第2のリップの歯車軸の軸部周面への当接部との間に空間が形成されることを特徴とする歯科用ハンドピース。
【請求項2】
前記防塵シール部材はラバー材料から成ることを特徴とする請求項1記載の歯科用ハンドピース。
【請求項3】
前記歯車軸の軸部は、DLC、CrN、TiN、TiCNのうちのいずれか1つによりハードコーティング処理が施されていることを特徴とする請求項1記載の歯科用ハンドピース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−249766(P2012−249766A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123783(P2011−123783)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000150327)株式会社ナカニシ (43)
【Fターム(参考)】