説明

歯科用接着性組成物

【課題】 本発明は、歯科用修復物の歯質との接着に関して、優れた接着力および接着耐久性を有する歯科用の接着性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 (A)アルギン酸および/またはアルギン酸塩を、(B)強酸性基含有重合性単量体、並びに(C)水からなる歯科用前処理材に配合する。また、(A)アルギン酸および/またはアルギン酸塩を、(B)強酸性基含有重合性単量体、(C)水、並びに(D)光重合開始剤からなる歯科用接着材に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科医療分野等における歯の修復に際し、修復材料と歯質との優れた接着力および接着耐久性を実現する為の歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により損傷を受けた歯の修復には、主にコンポジットレジンと呼ばれる充填材料が用いられる。このコンポジットレジンは歯の空洞に充填後重合硬化して使用されることが一般的である。しかし、この材料自体歯質への接着性を持たない為、歯科用接着材が併用される。この接着材にはコンポジットレジンの硬化に際して発生する内部応力、即ちコンポジットレジンと歯質との界面に生じる引張り応力に打ち勝つだけの接着強度が要求される。さもないと過酷な口腔環境下での長期使用により脱落する可能性があるのみならず、コンポジットレジンと歯質の界面で間隙を生じ、そこから細菌が侵入して歯髄に悪影響を与える恐れがあるためである。
【0003】
歯の硬組織はエナメル質と象牙質から成り、臨床的には双方への接着が要求される。従来、接着性の向上を目的として、接着材塗布に先立ち歯の表面を前処理する方法が用いられてきた。このような前処理材としては、歯の表面を脱灰する酸水溶液が一般的であり、リン酸等の酸水溶液が用いられてきた。エナメル質の場合、処理面との接着機構は、酸水溶液の脱灰による粗造な表面へ、接着材が浸透して硬化するというマクロな機械的嵌合であるのに対し、象牙質の場合には、脱灰後に歯質表面に露出するスポンジ状のコラーゲン繊維の微細な空隙に、接着材が浸透して硬化するミクロな機械的嵌合であると言われている。但し、コラーゲン繊維への浸透はエナメル質表面ほど容易ではなく、酸水溶液による処理後に更にプライマーと呼ばれる浸透促進材が一般的に用いられる。即ち、この方法ではエナメル質と象牙質の双方に対して良好な接着強度を得るためには、歯科用接着材を塗布する前に2段階の前処理が必要な3ステップシステムであり、操作が煩雑であるという問題があった。
【0004】
近年、この前処理操作を1段階に簡略化した2ステップシステム(特許文献1)が提案され、さらに、前処理が不要で接着材のみで歯質と接着する1ステップシステム(特許文献2)が提案されている。
【0005】
これら2ステップシステムの前処理材および1ステップシステムの接着材には、いずれも歯質を脱灰するために、酸性基を有する重合性単量体が用いられている。しかしながら、このような酸性基含有重合性単量体は、一般的に機械的強度が低く、また耐水性も悪いため、水分を多く含む口腔内という過酷な条件下で長期間安定した接着力を維持するのは必ずしも十分とは言えなかった。
【0006】
一方で、酸性基を有する高分子化合物を利用した接着性組成物(特許文献3、4)も提案されているが、接着力および接着耐久性は十分とは言えなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平06−009327号公報
【特許文献2】特開平10−236912号公報
【特許文献3】特開平05−246817号公報
【特許文献4】特開平06−279226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は歯科用修復物の歯質との接着に関して、優れた接着力および接着耐久性を有する歯科用の接着性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、強酸性基含有重合性単量体とともに、アルギン酸および/またはアルギン酸塩と水とを前処理材や接着材に用いることにより、歯質に対して優れた接着力及び接着耐久性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、(A)アルギン酸および/またはアルギン酸塩、(B)強酸性基含有重合性単量体、並びに(C)水を含有することを特徴とする歯科用接着性組成物である。
【0011】
該歯科用接着性組成物は、歯科用前処理材として用いることができ、この場合、歯質の脱灰力および歯質への浸透力に特に優れ、且つ、歯質に対して特に優れた接着力及び接着耐久性を備えたものになる。
【0012】
また、該歯科用接着性組成物を歯科用接着材として用いることもでき、この場合には、(A)アルギン酸および/またはアルギン酸塩、(B)強酸性基含有重合性単量体、(C)水に、(D)光重合開始剤を加えることにより、前処理をしなくても歯質に対して特に優れた接着力及び接着耐久性を発揮するものが得られる。また、前処理をしたものであっても、上記接着力及び接着耐久性はさらに良好に発揮される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯科用接着性組成物は、従来の歯科用接着材と比較してより高い接着強度および優れた接着耐久性を得ることができる。本発明の歯科用接着性組成物を、前処理材や接着材として齲蝕の治療に用いることにより、歯質と修復材料との接着界面からの齲蝕菌の侵入が抑制されて、齲蝕の再発が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の歯科用接着性組成物は、(A)アルギン酸および/またはアルギン酸塩、および(B)強酸性基含有重合性単量体を含有することを特徴とし、エナメル質や象牙質などの歯質に対し優れた接着力および接着耐久性を有する。この理由は、水の存在下で、強酸性基含有重合性単量体によって脱灰された歯質中のカルシウムイオンと、アルギン酸および/またはアルギン酸塩のカルボキシル基および水酸基との水素結合などの化学的な相互作用が強固であるため、接着界面で耐水性に優れた接着材層を形成する為と推測する。
【0015】
以下、これら各成分について説明する。
【0016】
本発明の歯科用接着性組成物に使用する(A)アルギン酸は、直鎖状のポリウロン酸で、各ウロン酸ユニットはカルボキシル基と水酸基を持つ。上述したように、本発明においては、分子鎖中にカルボキシル基と水酸基の両者を持つ高分子化合物を用いることが、歯質への優れた接着力および接着耐久性を有するために必要である。
【0017】
ウロン酸はD−マンヌロン酸と、そのエピマーであるL−グルロン酸の2種の構造を持つが、本発明の接着性組成物に使用するアルギン酸は、分子中のD−マンヌロン酸(以下Mと略す)とL−グルロン酸(以下Gと略す)のモル比がM/G=2.0以下のものが、カルシウムイオンとの化学的な相互作用が強固になるため良好である。
また、本発明の接着性組成物で使用するアルギン酸塩は、上述したアルギン酸の、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩であり、なかでもナトリウム、カリウム塩が、アルギン酸と同等の高い接着力が得られるため好ましい。
【0018】
また、本発明の接着性組成物で使用するアルギン酸および/またはアルギン酸塩の分子量に関しては、平均分子量が5,000〜200,000の範囲であるのが好ましく、7,000〜150,000がより好ましく、10,000〜100,000の範囲が最も好ましい。分子量が小さすぎるとカルシウムイオンと相互作用したとしても耐水性が低下する傾向があり、また分子量が大きすぎると粘度が高くなり取り扱い性が悪くなる傾向がみられる。
【0019】
本発明の歯科用接着性組成物におけるアルギン酸および/またはアルギン酸塩の配合量は特に限定されないが、全組成物中の0.01〜20質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜20質量%、特に好ましくは0.3〜15質量%である。
【0020】
本発明の歯科用接着性組成物に使用する(B)強酸性基含有重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの重合性不飽和基と少なくとも1つの強酸基を有する重合性単量体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。上記強酸基とは、酸解離定数(pKa)が3.0以下のものをいう。具体的にはリン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。こうした強酸基の分子内の数は、1〜4個が一般的であり、1〜2個が特に好ましい。また、重合性不飽和基とは、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基;ビニル基:アリル基;スチリル基等が例示される。
【0021】
強酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル) ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル ジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル ジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2−ブロモエチル ハイドロジェンフォスフェート等の分子内にリン酸基を有す重合性単量体(重合性酸性リン酸エステルとも称す)、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;ビニルホスホン酸、p−ビニルベンゼンホスホン酸等の分子内にホスホノ基を有す重合性単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等の分子内にスルホン酸基を有す重合性単量体が例示される。
【0022】
これら強酸性基含有重合性単量体は単独で用いても、複数の種類のものを併用しても良い。
【0023】
上記強酸性基含有重合性単量体のなかでも、歯質に対する接着性が優れている点で、重合性酸性リン酸エステルが特に好ましい。また光照射時の重合性が良好な点で、重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基の誘導体基であることが好ましい。
【0024】
本発明の歯科用接着性組成物における強酸性基含有重合性単量体の配合量は特に限定されないが、全組成物中の1〜80質量%であることが好ましい。より好ましくは3〜70質量%、特に好ましくは7〜55質量%である。
【0025】
本発明の歯科用接着性組成物に使用する(C)水は、(B)強酸性基含有重合性単量体と共に歯質脱灰作用を効果的に発揮させるために加える成分である。該(C)水は、保存安定性、生体適合性および接着性に有害な不純物を実質的に含まないことが好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。本発明の接着剤における(C)水の配合量は、特に限定されるものではなく適宜設定すれば良いが、前処理材とした場合には、全組成物中の60質量%以内であることが好ましく、より好ましくは5〜55質量%、特に好ましくは20〜55質量%である。また、接着材とした場合には、全組成物中の30質量%以内であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%、特に好ましくは7〜20質量部である。
【0026】
本発明の歯科用接着材に使用する(D)光重合開始剤としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体、ベンゾフェノン、p,p’−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p’−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、さらには、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、α−ジケトン系の光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤、及びアリールボレート化合物/色素/光酸発生剤を組み合わせた系からなる光重合開始剤である。
【0027】
上記α−ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジルが好ましく、また、アシルホスフォンオキサイドとしては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。なお、これらα−ジケトン及びアシルホスフォンオキサイドは単独でも光重合活性を示すが、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミン化合物と併用することがより高い活性を得られて好ましい。
【0028】
また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の光重合開始剤については特開平9−3109号公報等に記されているものが好適に用いられるが、より具体的には、テトラフェニルホウ素ナトリウム塩等のアリールボレート化合物を、色素として3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン系の色素を、光酸発生剤として、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物を用いたものが特に好適に使用できる。
【0029】
該光重合開始剤はそれぞれ単独で配合するのみならず、必要に応じて複数の種類を組み合わせて配合することもできる。これらの配合量は本発明の効果を阻害しない、有効量であれば特に限定されず、調整する硬化性組成物の用途や目的に応じ適宜決定すれば良いが、一般には全重合性単量体成分の合計を100質量部として、0.001〜20質量部である。詳しくは、α−ジケトン又はアシルホスフィンオキサイドの場合には、全重合性単量体成分の合計を100質量部として、0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部であり、さらに必要に応じてアミン化合物を0.01〜20質量部加えれば良い。また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の場合、全重合性単量体成分の合計を100質量部として、色素が0.001〜1質量部、光酸発生剤が0.01〜10質量部とすれば良い。
【0030】
本発明の前処理材には、通常、上記(A)〜(C)成分、接着材には通常、(A)〜(D)成分が配合されていればその効果を発現するが、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて歯科用接着性組成物の配合成分として公知の他の成分、例えば、酸性基を有しない重合性単量体、水溶性有機溶媒、紫外線吸収剤、重合禁止剤、重合抑制剤、染料、顔料などが配合されていてもよい。
【0031】
酸性基を有しない重合性単量体としては、歯科分野で使用可能な公知のものが制限なく使用できる。具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
酸性基を有しない重合性単量体の配合量は、全組成物中の75質量%以内であることが好ましく、より好ましくは65質量%以内である。
【0033】
水溶性有機溶媒としては、水溶性を示すものであれば公知の有機溶媒が何等制限なく使用できる。ここで言う水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。このような水溶性有機溶媒として具体的に例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する為害性を考慮すると、エタノール、プロパノール又はアセトンが好ましい。
【0034】
水溶性有機溶媒の配合量は、全組成物中の75質量%以内であることが好ましく、より好ましくは65質量%以内である。
【0035】
また、例えば、酸性基を有しない重合性単量体と水溶性有機溶媒の添加など、任意成分を複数の種類添加する場合には、その合計の配合量が、全組成物中の75質量%以内であることが好ましく、より好ましくは65質量%以内である。
【0036】
本発明の歯科用接着性組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の歯科用接着性組成物の製造方法に従えばよく、一般的には、赤色光などの不活性光下に、配合される全成分を秤取り、均一溶液になるまでよく混合すればよい。
【0037】
本発明の歯科用接着性組成物の使用方法もまた、公知の歯科用接着性組成物の使用方法に従えばよく、例えば、前処理材の場合には、齲蝕部を取り除くなどした被着体となる歯質に本発明の前処理材を塗布、5〜60秒程度放置後に圧縮空気などを軽く吹き付けて揮発成分を揮発させればよい。また、歯科用接着材の場合には、齲蝕部を取り除くなどした被着体となる歯質に本発明の接着材を塗布、5〜60秒程度放置後に圧縮空気などを軽く吹きつけて揮発性成分を揮発させ、ついで歯科用照射器を用いて可視光を照射し重合、硬化させればよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、本発明の前処理材および接着材のエナメル質、象牙質接着強度測定方法を(2)に示す。
(1)略称及び構造
(A)成分;アルギン酸、アルギン酸塩
A−1;M/G比=0.6、分子量50,000
A−2;M/G比=1.3、分子量50,000
A−3;M/G比=2.2、分子量50,000
A−4;M/G比=2.6、分子量50,000
A−5;M/G比=1.3、分子量200,000
A−6;M/G比=1.3、分子量50,000、ナトリウム塩、
A−7;M/G比=1.3、分子量50,000、カリウム塩
(B)成分;強酸性基含有重合性単量体
PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MDP;10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MAMS;2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
(D)成分;光重合開始剤
CQ;カンファーキノン
DMBE;N,N−ジメチルp−安息香酸エチル
TPO;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
その他成分
P−1;ポリメタクリル酸、分子量100,000
P−2;セルロース
UDMA;1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルオキサン
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
EtOH;エチルアルコール
MA;メタクリル酸
(2)エナメル質、象牙質接着強度測定方法
(2−1)本発明の接着性組成物を前処理材として用いた場合
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に本発明の前処理材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。次に歯科用接着材(トクソーマックボンドII ボンディングエージェント、トクヤマデンタル社製)を模擬窩洞内に塗布し可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し接着剤を硬化させた。更にその上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークエステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片を作製した。
【0039】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を初期接着強度とした。また、同様に作製した接着試験片を熱衝撃試験機にて4℃と60℃の水中に1分間ずつ交互に浸漬し、これを3000回行った後で上記と同様に引張り接着強度を測定し、その値を耐久性後の接着強度とした。
(2−2)本発明の接着性組成物を接着材として用いた場合
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に本発明の接着剤を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。次に可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し接着剤を硬化させた。更にその上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークエステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片を作製した。
【0040】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を初期接着強度とした。また、同様に作製した接着試験片を熱衝撃試験機にて4℃と60℃の水中に1分間ずつ交互に浸漬し、これを3000回行った後で上記と同様に引張り接着強度を測定し、その値を耐久性後の接着強度とした。
【0041】
実施例1
(A)成分として0.5gのA−1(アルギン酸、M/G=0.6)、(B)成分として4.5gのPM、(C)成分として5gの水を量り取り、混合し本発明の前処理材を調製した。該前処理材を用いて、(2−1)の方法に従い、エナメル質、象牙質接着強度を測定した。前処理材の組成を表1に、エナメル質、象牙質に対する初期及び耐久性後の接着強度を表2示す。
【0042】
実施例2〜13、比較例1〜6
実施例1の方法に準じ組成の異なる前処理材を調整した。前処理材の組成を表1に、接着強度の測定結果を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
実施例1〜13は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても初期及び耐久性後において高い接着強度が得られている。
【0046】
これに対して、比較例1〜3では、(A)成分であるアルギン酸、またはアルギン酸塩が配合されていない為、初期接着強度は高いものの、耐久性後の接着強度は低下している。比較例2、3では、カルボキシル基を有するが水酸基を有さない高分子化合物、または、水酸基を有するがカルボキシル基を有さない高分子化合物を配合した例であるが、良好な接着耐久性は得られなかった。このことより、分子中にカルボキシル基と水酸基の両者をもつアルギン酸、および/またはアルギン酸塩が良好な接着耐久性を得るには必須であることがわかる。比較例4、5は、(B)成分である強酸性基含有重合性単量体が配合されていない為、初期接着強度、および接着耐久性が低下している。さらに、比較例6も、(C)成分である水が配合されていない為、初期接着強度、および接着耐久性が低下している。
【0047】
実施例14
(A)成分として1gのA−1(アルギン酸、M/G=0.6)、(B)成分として4gのPMと4gのMAMS、(C)成分として1gの水および(D)成分として0.05gのCQ、0.05gのDMBEを量り取り、混合し本発明の接着材を調製した。該接着材を用いて、(2−2)の方法に従い、エナメル質、象牙質接着強度を測定した。接着材の組成を表3に、エナメル質、象牙質に対する初期及び耐久性後の接着強度を表4示す。
【0048】
実施例15〜29、比較例7〜12
実施例14の方法に準じ組成の異なる接着材を調整した。該接着材の組成を表3に、接着強度の測定結果を表4に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
実施例14〜29は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても初期及び耐久性後において高い接着強度が得られている。
【0052】
これに対して、比較例7〜9では、(A)成分であるアルギン酸、またはアルギン酸塩が配合されていない為、初期接着強度は高いものの、耐久性後の接着強度は低下している。比較例10、11は、(B)成分である、強酸性基含有重合性単量体が配合されていない為、初期接着強度および接着耐久性が低下している。さらに、比較例12も、(C)成分である水が配合されていない為、初期接着強度、および接着耐久性が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルギン酸および/またはアルギン酸塩、(B)強酸性基含有重合性単量体、並びに(C)水を含有することを特徴とする歯科用接着性組成物。
【請求項2】
請求項1記載の歯科用接着性組成物からなる歯科用前処理材。
【請求項3】
さらに(D)光重合開始剤を含む請求項1記載の歯科用接着性組成物からなる歯科用接着材。