説明

歯科用接着性組成物

【課題】再石灰化能(修復性象牙質誘導能)を有し、かつ、歯質接着性能に優れた歯科用接着性組成物の提供。
【解決手段】(a)酸性基を有する重合性単量体、(b)重合性単量体、(c)光重合触媒、並びに(d)ESQES(Glu-Ser-Gln-Glu-Ser)のシークエンスを有するペプチド及びQESQSEQDS(Gln-Glu-Ser-Gln-Ser-Glu-Gln-Asp-Ser)のシークエンスを有するペプチドペプチドを含有してなる歯科用接着性組成物。さらに、(e)塩化カルシウムを含有する歯科用接着性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯質接着性を有し、かつ、再石灰化を促進し得る歯科用接着性組成物に関し、詳しくは、酸性基を有する重合性単量体及び特定のアミノ酸シークエンスを有するペプチドを有効成分とする歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の欠損部に修復物を充填する際、通常、その前処理として歯科用接着性組成物が用いられる。また、インレー、アンレー修復を行ったり、歯冠材料(一部被覆冠、全部被覆冠)を歯の欠損部に被せる場合、歯科用セメントを用いて合着するが、歯質との接着性を高めるために、前処理として歯科用プライマーを用いる場合もある。
【0003】
エナメル質に対しては、通常、リン酸等の酸エッチング処理によりエナメル質を脱灰してエナメル小柱を出現させることにより、接着性の向上が図られる。また、象牙質に対しては、象牙質表面を機能性モノマーの酸性成分により脱灰させ、それにより露出したコラーゲン層に機能性モノマーが吸着しながらモノマー成分を歯質に浸透することにより接着性の向上が図られる。よって、機能性モノマーには象牙質の脱灰作用を有することが必要であることから、通常、酸性基を有する重合性単量体が用いられる。また、浸潤脱灰象牙質に対して、モノマーの浸透性を助長させるため、水酸基を有する親水性の単量体をモノマー成分に配合することが多い。さらに最近では、エネメル質及び象牙質に対し、酸エッチング処理をしないで、酸性基を有する重合性単量体自身の酸性作用により歯質を脱灰させ、モノマー成分を歯質に浸透させる、エッチングとプライミング作用を兼ね備えた、所謂、セルフエッチングシステムが頻用されている。
【0004】
一方、歯質との接着性を高めるだけでなく、歯質の再石灰化による予防的修復又は予防処置が近年注目されている。例えば、フッ素が歯質の再石灰化を促進することが知られており、フッ素徐放性グラスアイオノマーセメントやフッ化物を配合したコンポジットレジンやセメントが予防的修復に効果があるとして臨床家に受け入れられている。また、カルシウムイオンやリン酸イオンを含有する再石灰化液で象牙質面を前処理してから、歯科用接着性組成物を塗布し、接着界面に石灰化を誘導させようとする試みもなされている(非特許文献1)。また、日常臨床において、罹患歯質の除去や窩洞形成時に、しばしば偶発的に露髄又は不顕性露髄に遭遇する場合があるが、そういう症例に通常、水酸化カルシウム製剤が用いられるのに対し、ハイドロキシアパタイト粉末やブルッシャイト粉末を配合した歯科用接着性組成物を用いて、露髄部に修復性象牙質を誘導する試みもなされている(特許文献1)。更に、進行したう蝕等の歯髄保存療法を目的に、象牙質−歯髄複合体の欠損部又は象牙質の欠損部にグロスファクター(例えば、塩基性繊維芽細胞増殖因子)を配合して歯髄組織の再生や象牙質を新生させる試みもなされている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−289934号公報
【特許文献2】国際公開07/046540号パンフレット
【非特許文献1】「歯科保存学会誌」第47巻第3号、2004年、第358〜364頁
【非特許文献2】「ネイチャー マテリアルズ(Nature Materials)」第2巻、 ネイチャー パブリシング グループ(Nature Publishing Group)、2003年7月20日、第552〜558頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような従来の露髄部に修復性象牙質を誘導する方法や、歯髄組織の再生や象牙質を新生させる方法では、ある程度の再生効果は確認できるものの、決して満足できるものではなく、更なる改善の余地が残されている。
従って、本発明が解決しようとする課題は、従来に比べて優れた再石灰化能(修復性象牙質誘導能)を有し、かつ、歯質接着性能に優れた歯科用接着性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、骨および象牙質のマトリックス中に特異的に存在している酸性リン蛋白質であるDentin Matrix Protein 1(DMP1)由来のハイドロキシアパタイト(HAp)の結晶形成に関る生理活性ポリペプチドのなかでも、ESQES(Glu-Ser-Gln-Glu-Ser)のシークエンスを有するペプチド(以下、「pA」と呼ぶ。)及びQESQSEQDS(Gln-Glu-Ser-Gln-Ser-Glu-Gln-Asp-Ser)のシークエンスを有するペプチド(以下、「pB」と呼ぶ)を重合性単量体に添加する(好ましくは、pA及びpBとともに塩化カルシウムを重合性単量体に添加する)ことにより、かかるpA及びpBが硬組織形成を誘導するグロスファクターとなって、優れた歯質接着性を有しながら、格別顕著な再石灰化能を有する歯科用接着性組成物を実現できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
なお、in situ hybridizationを用いた研究等によりDMP1が骨および象牙質の再石灰化に関連することが知られており、また、DMP1並びにDMP1由来のハイドロキシアパタイト(HAp)の結晶形成に関る生理活性ポリペプチド(ESNES、ESQES、DSQDS、QESQSEQDS等)のうちのpAとpBをCa2+の存在下で混合することで、HApの形成が促進されることをHeらが報告している(非特許文献2)。しかし、かかる文献では、pA及びpBの接着材への適用(重合性単量体と共存)については一切言及しておらず、pA及びpBが歯科用接着性組成物の硬組織形成を誘導するグロスファクターとなり得ることは見出されていない。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)(a)酸性基を有する重合性単量体、(b)重合性単量体(但し、酸性基を有する重合性単量体を除く。)、(c)光重合触媒、並びに(d)ESQES(Glu-Ser-Gln-Glu-Ser)のシークエンスを有するペプチド及びQESQSEQDS(Gln-Glu-Ser-Gln-Ser-Glu-Gln-Asp-Ser)のシークエンスを有するペプチドを含有してなる歯科用接着性組成物、
(2)さらに、(e)塩化カルシウムを含有する上記(1)記載の歯科用接着性組成物、
(3)さらに、(f)水を含有する上記(1)または(2)記載の歯科用接着性組成物、
(4)酸性基を有する重合性単量体がリン酸基を有する重合性単量体である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の歯科用接着性組成物、
(5)リン酸基を有する重合性単量体が10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートである、上記(4)記載の歯科用接着性組成物、
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物からなる歯科用プライマー、及び
(7)上記(6)記載の歯科用プライマーと、(g)酸性基を有する重合性単量体、(h)重合性単量体(但し、酸性基を有する重合性単量体を除く。)及び(i)光重合触媒を含有する組成物からなるボンドとを含む、歯科用接着材キット、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯科用接着性組成物は、歯質への優れた接着性を持ちながら、優れた再石灰化機能を有する。従って、通常の歯科充填修復では困難であった、露出根面の封鎖(露出象牙細管の再石灰化)やう蝕象牙質の封鎖(う蝕象牙質の再石灰化)に適し、歯芽露髄面の覆罩(露髄部に修復性象牙質の誘導)の用途に特に有用である。特に充填用コンポジットレジンを充填する際の前処理剤(例:プライマー)に使用する、すなわち、充填用コンポジットレジンと組み合わせて用いることで、より顕著な効果が得られる。
また、本発明の歯科用接着性組成物はレジン系歯科用セメントの前処理剤に使用することで、辺縁部の封鎖性を高めると共に、再石灰化促進効果により抗う蝕性を高めることができ、歯質強化に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の歯科用接着性組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう。)は、少なくとも、(a)酸性基を有する重合性単量体、(b)重合性単量体、(c)光重合触媒、並びに(d)ペプチド(pA及びpB)を含有する組成物であり、
好適には、上記(a)〜(d)に加え、(e)塩化カルシウム及び(f)水から選ばれるいずれか1種または2種以上を更に含有する組成物である。
【0011】
本発明の組成物は、歯質への優れた接着性を持ちながら、優れた再石灰化機能を有する。従って、通常の歯科充填修復では困難であった、露出根面の封鎖(露出象牙細管の再石灰化)やう蝕象牙質の封鎖(う蝕象牙質の再石灰化)に適し、歯芽露髄面の覆罩(露髄部に修復性象牙質の誘導)の用途に特に有利に適用することができる。
【0012】
また、本発明の組成物は、それ単体で使用できるが、これを充填用コンポジットレジンを充填する際の前処理剤であるプライマーとして用い、(g)酸性基を有する重合性単量体、(h)重合性単量体及び(i)光重合触媒を含むボンドと併用することにより、接着材層が強化され、それにより歯質接着性の一層の向上を図ることができる。
【0013】
[(a)酸性基を有する重合性単量体]
本発明の組成物において、酸性基を有する重合性単量体は、本発明の組成物が歯質に対して優れた接着性を得るために必須であり、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、カルボン酸基及びスルホン酸基等から選ばれる酸性基を少なくとも1つ以上有し(酸性基の総数が2つ以上の場合、互いに同一の基でも異なる基でもよい。)、かつ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基及びスチレン基等から選ばれる重合可能な不飽和基を少なくとも一つ以上有する重合性単量体が挙げられ、具体例としては以下のものが挙げられる。なお、本明細書中、「(メタ)アクリロイル」は「メタクリロイル」と「アクリロイル」の両者を包括的に表現するものとして使用する。
【0014】
リン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2’−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニルホスホネート等;特開平3−294286号公報に記載されている(5−メタクリロキシ)ペンチル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノアセテート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノアセテート等;特開昭62−281885号公報に記載されている2−メタクリロイルオキシエチル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート等;特開昭52−113089号公報、特開昭53−67740号公報、特開昭53−69494号公報、特開昭53−144939号公報、特開昭58−128393号公報及び特開昭58−192891号公報等に記載されているリン酸基を有する重合性単量体、及びこれらの酸塩化物を挙げることができる。
【0015】
ピロリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、ピロリン酸ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕等、及びこれらの酸塩化物が挙げられる。
【0016】
カルボン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、マレイン酸、メタクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、およびこれらの酸無水物;5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ヘキサンジカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−オクタンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等、及びこれらの酸塩化物が挙げられる。
【0017】
スルホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート等、及びこれらの酸塩化物を挙げることができる。
【0018】
酸性基を有する重合性単量体の中でも、歯質に対する接着性が優れている点で、リン酸基を有する重合性単量体が好ましく、また、リン酸基を有する重合性単量体の中でも、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが好ましい。
【0019】
本発明において、酸性基を有する重合性単量体は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、酸性基を有する重合性単量体の配合量が少な過ぎたり、多過ぎたりする場合、本発明の接着材の歯質に対する接着性が低下するおそれがあるので、酸性基を有する重合性単量体は、接着材組成物全体に対して、通常、0.1〜80重量%の範囲、より好ましくは1〜50重量%の範囲、更に好ましくは5〜30重量%の範囲で配合される。
【0020】
[(b)重合性単量体]
本発明の組成物おいて、重合性単量体は、硬化後の組成物の機械的強度向上を目的として配合されるものであり、前記の酸性基を有する重合性単量体以外の重合性単量体が使用される。具体例としては、例えば、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類;(メタ)アクリルアミド及びその誘導体;ビニルエステル類;ビニルエーテル類;モノ−N−ビニル誘導体;スチレン誘導体等が挙げられ、これらの中でも(メタ)アクリル酸エステルが好適に用いられる。(メタ)アクリル酸エステルの好ましい例は以下の通りである。なお、本明細書中、「(メタ)アクリレート」は「メタクリレート」と「アクリレート」の両者を包括的に表現するものとして使用する。
【0021】
(イ)一官能性単量体(一つの重合不飽和基を有する単量体)
メチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド等が挙げられる。
【0022】
(ロ)二官能性単量体(二つの重合性不飽和基を有する単量体)
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−((メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられる。
【0023】
(ハ)多官能性単量体(三つ以上の重合性不飽和基を有する単量体)
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。
【0024】
本発明において、当該重合性単量体(b)は1種又2種以上の化合物を組み合わせて用いることができる。配合量は、接着性組成物全体に対し、通常1〜80重量%の範囲、好ましくは5〜60重量%の範囲、より好ましくは10〜50重量%の範囲で使用される。
【0025】
なお、当該重合性単量体(b)においては、水酸基を有する親水性の高い重合性単量体が好ましく用いられる。このような水酸基を有する重合性単量体は主に、歯質及び露髄部への接着材の浸透性向上を目的として配合される。かかる水酸基を有する重合性単量体とは、水酸基と、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性不飽和基とを有する単量体を意味し、具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリン−1,3−ジ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
【0026】
本発明において、上述の水酸基を有する重合性単量体は1種又2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は重合性単量体(b)全体に対し、通常30〜100重量%の範囲、好ましくは40〜100重量%の範囲、より好ましくは50〜80重量%の範囲である。
【0027】
[(c)光重合触媒]
本発明の組成物において、光重合性触媒は、公知の光重合開始剤が使用され、なかでも、α−ジケトン類、アシルホスフィンオキサイド類、ケタール類、チオキサントン類等が好適に使用される。
【0028】
α−ジケトン化合物の具体例としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3−ペンタンジオン等が挙げられる。アシルホスフィンオキサイド化合物の具体例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジエチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。また、ケタール化合物の具体例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられ、チオキサントン化合物の具体例としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられる。これらの中でも、α−ジケトン化合物又は/及びアシルホスフィンオキサイド化合物が好ましい。なお、かかる光重合開始剤は、それ単独で使用される場合もあるが、通常、光硬化性をより促進させる目的で、各種アミン類、アルデヒド類、メルカプタン類或いはスルフィン酸塩等の還元剤と併用して配合される。なお、該還元剤は、触媒活性及び生体親和性の点から、アミン類及びスルフィン酸塩類が好ましい。
【0029】
アミン類としては、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕−N−メチルアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N−メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノベンゾフェノン、ジメチルアミノフェナントール等の第3級アミンが好適であり、アルデヒド類としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒド等が好適である。また、メルカプタン類としては、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸等が好適であり、スルフィン酸塩類としては、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4−ジメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4−ジメトキシベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム等が好適である。
【0030】
本発明の組成物において、光重合性触媒(c)は1種又2種以上の化合物を組み合わせて用いることができ、その配合量は接着性組成物全体に対し、通常0.01〜20重量%の範囲、好ましくは0.05〜10重量%の範囲、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲で使用される。なお、ここでの配合量は、光重合性触媒が光重合開始剤のみからなる場合、光重合開始剤の配合量であり、光重合性触媒が光重合開始剤と還元剤との併用である場合、そのトータルの配合量である。また、光重合性触媒が光重合開始剤と還元剤との併用である場合、その配合比率は適宜選択できるが、通常、還元剤は光重合開始剤1重量部に対して0.1〜10重量部の割合で使用するのが好ましい。
【0031】
[(d)ペプチド(pA及びpB)]
本発明の組成物において、ペプチド(pA及びpB)とは、ESQES(Glu-Ser-Gln-Glu-Ser)のアミノ酸シークエンスを有するペプチド(pA)とQESQSEQDS(Gln-Glu-Ser-Gln-Ser-Glu-Gln-Asp-Ser)のアミノ酸シークエンスを有するペプチド(pB)との混合体を意味する。前述したように、前骨芽細胞(MC3T3−E1)を用いた培養試験において、pAとpBの混合体によって再石灰化が促進されることが見出されているが、pAとpBの混合体を歯科用接着性組成物に内在させるという発想はこれまでなかった。本発明の組成物は、pAとpBの混合体を必須成分として含有するものであり、当該pAとpBの混合体を含む組成物は優れた接着性を示すとともに、再石灰化の促進や修復性象牙質の誘導において優れた作用を発揮する。pA及びpBはアミノ酸合成により得られ、通常、固相合成法及び液相合成法によって合成される。なお、高純度のペプチドを得る目的からは固相合成法が好ましく用いられる。
【0032】
pA及とpBの混合割合は、通常、pA1モルに対してpB0.1〜10モルで使用され、好ましくはpA1モルに対してpB0.5〜2.0モルの範囲であり、より好ましくはpAとpBが略等モルである。ペプチド(pA及びpB)の配合量は接着性組成物全体に対し、通常0.001〜30重量%の範囲、好ましくは0.01〜20重量%の範囲、より好ましくは0.1〜10重量%の範囲で使用される。0.001重量%未満では、十分な再石灰化促進(修復性象牙質誘導)効果が期待できず、30重量%を超える場合は、接着性組成物中に占める重合性単量体(a)および(b)の割合が低下するため、接着強度や接着耐久性が低下する傾向にある。
【0033】
[(e)塩化カルシウム]
本発明の組成物において、塩化カルシウムは、再石灰化の核となる必要なミネラル成分の供給を目的として使用される。塩化カルシウムの配合量は接着性組成物全体に対し、通常0.1〜30重量%の範囲、好ましくは0.5〜20重量%の範囲、より好ましくは1〜10重量%の範囲で使用される。
【0034】
[(f)水]
本発明の組成物において、水は、主に水酸基を有する重合性単量体との組合せによって、歯質及び露髄部への接着材の浸透性を高めるとともに、再石灰化時のカルシウムの溶出、沈着を促進する。なお、本発明に使用される水は不純物を実質的に含有していないことが必要であり、蒸留水またはイオン交換水が好適である。また、その配合量は、接着性組成物全体に対し、通常1〜70重量%の範囲、好ましくは5〜50重量%の範囲、さらに好ましくは10〜40重量%の範囲で使用される。
【0035】
本発明の組成物には、上記(a)〜(f)の成分以外に、所望に応じて、エタノール、アセトン等の揮発性溶剤、重合禁止剤、着色剤、紫外線吸収剤等を配合してもよい。また、抗齲蝕効果を付与する目的で、フッ化ナトリウム等のフッ化金属塩を配合してもよい。さらに、フィラーを接着性組成物の流動性を損なわない範囲の量で配合することができる。
【0036】
フィラーとしては、無機系フィラー、有機物のフィラー又はこれらの複合体等が使用される。無機系フィラーとしては、例えば、シリカの他、カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物、シリカを基材とし、Al23、B23、TiO2、ZrO2、BaO、La23、SrO2、CaO、P25等を含有するセラミックスやガラスの類(ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミナムボロシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラス等)等が挙げられる。また、結晶石英、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト(HAp)やブルシャイトの様なリン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム等も好適に用いられる。一方、有機物のフィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の有機ポリマーが挙げられる。また、無機系フィラーと有機物との複合体としては、かかる例示の有機ポリマー中に無機フィラーが分散したり、無機フィラーをかかる例示の有機ポリマーでコーティングしたもの等が挙げられる。なお、これらのフィラーは、接着性組成物の流動性調整のため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いても良く、かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの各種のフィラーの中でも、平均粒径0.1μmの以下のコロイダルシリカが特に好適である。フィラーは単独または数種類を組み合わせて配合できるが、接着性組成物全体に対し、通常30重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲で添加される。
【0037】
本発明の組成物は、通常、1包装で用いるが、保存安定性や分離性を考慮して、必要により各成分を分割し、2以上の包装とすることがある。2以上の包装とする場合、それらの包装物を使用直前に混合して用いたり、又は、1包装毎に包装物を重ね塗りして用いる。
【0038】
また、本発明の組成物は、これをプライマーとして用い、さらにボンドと組み合わせた、2ステップの接着材キット(本発明の接着材キット)として使用することも可能であり、その際のボンドは、少なくとも、(g)酸性基を有する重合性単量体、(h)重合性単量体及び(i)光重合触媒を含む組成物で構成される。また、ボンドには、所望に応じて、重合禁止剤、着色剤、紫外線吸収剤等を配合してもよい。また、抗齲蝕効果を付与する目的で、フッ化ナトリウム等のフッ化金属塩を配合してもよい。さらには、フィラーを、ボンドの流動性を損なわない範囲の量で配合することができる。
【0039】
ボンドにおける「(g)酸性基を有する重合性単量体」は前述の本発明の組成物に使用される「(a)酸性基を有する重合性単量体」と同様の化合物(単量体)であり、1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができる。当該酸性基を有する重合性単量体は、ボンド組成物全体に対して、通常、0.1〜60重量%の範囲、より好ましくは1〜40重量%の範囲、更に好ましくは5〜20重量%の範囲で配合される。
【0040】
また、ボンドにおける「(h)重合性単量体」は前述の本発明の組成物に使用される「(b)重合性単量体」と同様の化合物(単量体)であり、1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができる。当該重合性単量体は、ボンド組成物全体に対し、通常1〜80重量%の範囲、好ましくは5〜60重量%の範囲、より好ましくは10〜50重量%の範囲で使用される。
【0041】
ボンドにおける「(i)光重合触媒」は前述の本発明の組成物に使用される「(c)光重合触媒」と同様の化合物であり、1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができる。当該光重合触媒は、ボンド組成物全体に対し、通常0.01〜20重量%の範囲、好ましくは0.05〜10重量%の範囲、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲で使用される。
【0042】
なお、ボンドには、歯質及び露髄部への浸透性向上を目的として、「(h)重合性単量体」として水酸基を有する重合性単量体を適宜配合することがある。該水酸基を有する重合性単量体は、前述の本発明の組成物に使用される水酸基を有する重合性単量体と同様の化合物(単量体)であり、1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができる。当該水酸基を有する単量体は、ボンド組成物全体に対し、通常1〜60重量%の範囲、好ましくは5〜40重量%の範囲、より好ましくは10〜30重量%の範囲で使用される。
【0043】
また、ボンドには所望に応じて、重合禁止剤、着色剤、紫外線吸収剤等を配合してもよい。さらに、抗齲蝕効果を付与する目的で、フッ化ナトリウム等のフッ化金属塩を配合してもよい。さらにまた、フィラーをボンドの流動性を損なわない範囲の量で配合することができる。該フィラーとしては前述と同様のものが使用され、1種又は2種以上を組み合わせて配合することができる。当該フィラーはボンド組成物全体に対し、通常30重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲で添加される。
【0044】
本発明の歯科用接着性組成物及び接着材キットは、好適には、充填用コンポジットレジンと組み合わせて充填修復領域で用いられる。また、それ以外に、レジン系歯科用セメント、グラスアイオノマーセメント、レジン添加型グラスアイオノマーセメント等の前処理(プライマー)として組み合わせた合着領域でも用いることができる。
【0045】
上記充填用コンポジットレジンは、この種の分野で使用される公知のものを制限なく使用でき、市販品を使用してもよい。かかる充填用コンポジットレジンとしては、通常、重合開始剤、重合性単量体、無機フィラーからなるペースト状の重合性組成物であり、う蝕窩洞を直接充填修復する窩洞充填用歯科用コンポジットレジン、支台築造用コンポジットレジン、インレーやクラウンなどの歯冠材料として用いられる硬質レジンやハイブリッドセラミックス等のレジン材料が挙げられる。市販品としては、例えば、窩洞充填用の歯科用コンポジットレジンであるClearfil(クリアフィル)AP−X(クラレメディカル社製、商品名)、Clearfil マジェスティ(クラレメディカル社製、商品名)、Clearfil マジェスティポステリア(クラレメディカル社製、商品名)、Clearfil マジェスティLV(クラレメディカル社製、商品名)、Clearfil DCコア(クラレメディカル社製、商品名)、エステニア(クラレメディカル社製、商品名)、パルフィーク エステライト(トクヤマデンタル社製、商品名)、ビューティフィル(松風社製、商品名)、グラディアダイレクト(GC社製、商品名)、Filtek Supreme(3Mエスペ社製、商品名)、テトリックフロー(Ivoclar社製、商品名)等を挙げることができる。
【0046】
本発明の組成物は、歯質への優れた接着性を持ちながら、優れた再石灰化機能を有するので、それを窩洞修復部又は露髄部に塗布することで、露出根面の封鎖やう蝕象牙質の封鎖に好適に作用するが、ボンドと組み合わせた接着材キットにして使用することで、歯芽露髄面の覆罩(露髄部に修復性象牙質の誘導)に極めて良好な結果をもたらす。
【0047】
従って、本発明の組成物の好ましい使用方法の一例として、以下の手順を挙げることができる。
先ず、本発明の組成物からなるプライマーを筆等で塗布し、そのまま所定時間(一般的には5〜30秒程度)放置してから、エアーシリンジで乾燥させる。その後、必要により歯科用光照射器(例えば、「グリップライトII」(松風社製)等)にて所定時間(一般的には2〜15秒程度)光照射を行う。この後、その上に、ボンド(本発明の接着材キットのボンド)を筆等で塗布し、歯科用光照射器にて所定時間(一般的には5〜30秒程度)光照射を行い、硬化させる。さらに、その上に光重合歯科用コンポジットレジン(例えば、「クリアフィルAP−X」(クラレメディカル社製)等)を充填し、所定時間(一般的には20秒程度)光照射して、硬化させる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例と比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
【0049】
《合成例1》
[アミノ酸配列がESQES(Glu-Ser-Gln-Glu-Ser)であるペプチド(pA)の製造]
(1)Fmoc-L-Ser(t-Bu)-PEG基を有するスチレン/ジビニルベンゼン共重合体(99/1モル比)からなるレジン(米国アプライド・バイオシステムズ社製「HMPレジン」)0.2ミリモルを用い、目的とするポリペプチドのカルボキシル末端からアミノ末端に向かってPioneer Peptide Synthesizer (PE Biosystems社製)を用いて順次対応するアミノ酸を結合させて、ポリペプチドを合成した。その際に、上記合成反応(結合反応)では、原料アミノ酸として、米国アプライド・バイオシステムズ社製の9−(フルオレニルメトキシカルボニル)−γ−ブチル−L−グルタミン酸〔Fmocグルタミン酸〕、9−(フルオレニルメトキシカルボニル)−O−t−ブチル−L−セリン〔Fmocセリン〕、9−(フルオレニルメトキシカルボニル)−L−グルタミン〔Fmocグルタミン〕を、合成スケール0.2ミリモルに対して4当量となる各々0.8ミリモルをバイアルに秤量し、合成機にセットした。
【0050】
(2)溶媒は、DMF、20%ピペリジン/DMF、0.84M DIEA/DMF、5%無水酢酸/5%ピリジン/DMF、メタノールをそれぞれ調製し、合成機にセットした。合成後、レジンをジクロロメタンでよく洗浄し、減圧乾燥した。クリベージでは、乾燥させたレジンを入れた50ミリリットルのなす型フラスコに、TFA:Triisopropylsilane:Phenol:HO=88:2:5:5(体積比)の割合で調製した混合液25ミリリットルを加え、マグネチックスターラーを用いて室温で約2時間攪拌した。その後、フィルターを詰めたカラムにレジンを移して濾別し、濾液にジエチルエーテルを加えてペプチドを析出させた。遠心分離機に掛けて(7000rpm、10分、4℃)上澄みを捨て、再度ジエチルエーテルを加えて懸濁し、ペプチドを洗浄した。この操作を3回繰り返して、TFAを除いた後、減圧乾燥した。得られた粗ペプチドの収率は103.5%であった。
【0051】
(3)クリベージ後の粗ペプチドを水に溶解させ、0.45ミクロンフィルターで濾過した後、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製を行った。HPLCのポンプにはGULLIVER PU−980(JASCO社製)、UV検出器にはUV−VIS SPD−10APV((株)島津製作所製)を用いた。カラムはPEGASIL ODS−II(C−18、20.0φ×250mm、センシュー科学(株)社製)を用いた。展開溶媒には、A液に0.1%TFA/HO、B液に0.08%TFA/アセトニトリルを用いた。流速は7ミリリットル/秒とした。分取条件には、B液:0−100%、60分とした。分取した溶液をエバポレータによりアセトニトリルを除去した後、凍結乾燥することにより、ペプチドを回収した。HPLC後のペプチド収率は65.4%であった。
【0052】
《合成例2》
[アミノ酸配列がQESQSEQDS(Gln-Glu-Ser-Gln-Ser-Glu-Gln-Asp-Ser)であるペプチド(pB)の製造]
1)合成反応(結合反応)における原料アミノ酸として、米国アプライド・バイオシステムズ社製の9−(フルオレニルメトキシカルボニル)−L−グルタミン〔Fmocグルタミン〕、9−(フルオレニルメトキシカルボニル)−γ−ブチル−L−グルタミン酸〔Fmocグルタミン酸〕、9−(フルオレニルメトキシカルボニル)−O−t−ブチル−L−セリン〔Fmocセリン〕、9−(フルオレニルメトキシカルボニル)−β−t−ブチル−L−アスパラギン酸〔Fmocアスパラギン酸〕を用いた以外は合成例1と同様に合成機にてペプチド合成を行った。クリベージ後の得られた粗ペプチドの収率は89.7%であった。粗ペプチドの精製は、HPLCにより行い、カラムにPEGASIL C4(20.0φ×250mm、センシュー科学(株)社製)を用い、展開溶媒に0.08%TFA/アセトニトリルを用い、分取条件にB液:0−10%、60分とした以外は合成例1と同様な条件で行った。HPLC後のペプチド収率は27.4%であった。
【0053】
本発明の組成物は、クラレメディカル社製の歯科用コンポジットレジン接着材料の市販品(商品名「クリアフィル メガボンド」(以下、MBと略称する。))をベースに構成することができる。すなわち、MBはプライマーとボンドとで構成されるが、そのプライマーは本発明の組成物の構成成分(a)〜(f)のうち、(d)ペプチド(pA及びpB)及び(e)塩化カルシウムを除く全ての成分を前述の含量量の範囲内で含む組成物であり、また、そのボンドは本発明の接着材キットのボンドの構成成分(g)〜(i)の全ての成分を前述の含量量の範囲内で含む組成物である。
【0054】
以下に記載の実施例1〜3及び比較例1〜2の接着材(ここでは、プライマーとボンドの組み合わせを「接着材」と呼ぶ。)は、当該クラレメディカル社製MB(プライマー、ボンド)を用いて調製した下記のプライマー(A)〜(C)と、ボンド(A)〜(B)から選択した、いずれかの組み合せで構成した。
【0055】
[プライマー]
(A)MBP:クラレメディカル社製、歯科用コンポジットレジン接着材料MBのプライマー〔リン原子含有酸性基を有する重合性単量体として10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(以下、MDP)及び水酸基を有する重合性単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを含有〕。
(B)MBP−2:クラレメディカル社製、歯科用コンポジットレジン接着材料MBのプライマーに塩化カルシウムを10重量%配合したもの。
(C)MBP−3:クラレメディカル社製、歯科用コンポジットレジン接着材料MBのプライマーにペプチド(pAとpBを等モル量含む)を10重量%配合したもの。
【0056】
[ボンド]
(A)MBB:クラレメディカル社製、歯科用コンポジットレジン接着材料MBのボンド(リン原子含有酸性基を有する重合性単量体としてMDPを含有)。
(B)MB1:クラレメディカル社製、歯科用コンポジットレジン接着材料MBのボンドにハイドロキシアパタイト粉末10重量%配合したもの。
【0057】
[接着材試料]
実施例1:接着材1[プライマー(MBP+MBP−3)+ボンド(MB1)]
実施例2:接着材2[プライマー(MBP−2+MBP−3)+ボンド(MB1)]
実施例3:接着材3[プライマー(MBP−2+MBP−3)+ボンド(MBB)]
比較例1:接着材4[プライマー(MBP)+ボンド(MBB)]
比較例2:接着材5[プライマー(MBP+MBP)+ボンド(MB1)]
【0058】
[実験]
8〜9週齢の雄のSD系ラットを実験動物とし、上顎第一臼歯近心咬頭頂部を440SSダイヤモンドと1/2スチールラウンドバーを用いて滅菌蒸留水注水下で慎重に露髄させた。創面をADGel(クラレメディカル社製、商品名)にて5分処理し、6%NaOCと3%Hによる交互洗浄を行った後、上記の接着材1〜5で直接歯髄覆罩を行い、Clearfil AP−X(クラレメディカル社製)を充填し、修復を完了した。但し、実施例1〜3および比較例2で2種類のプライマーを用いる場合には、具体的には以下の手順で行った。例えば、実施例1の接着材を用いる場合は、プライマーのMBP液の一滴を小皿に移し、ここに小筆を浸してMBP液を小筆の先に採取した。この小筆でMBP液を露髄面に塗布した。引き続き同じ手順で、別の小筆を用いて、MBP−3液を露髄面上に塗布して、2種類のプライマーを塗り重ねた。この手順では2種類のプライマーをそれぞれ全く同じ手順で塗布するため、MBPとMBP−2は略等量が露髄面に塗布されたと考えられる。ここで、最初のプライマーを塗布後光照射は行わず、2回目のプライマーを重ね塗りした後、20秒間放置し、歯科用エアーシリンジで軽くエアブローしてプライマーの揮発成分を蒸散させた後に、一括して光照射を行った。光照射は、歯科用可視光線照射器「キャンデラックス」(モリタ製作所製)を用いて10秒間行った。次に、ボンドであるMB1液を同じ小筆で採取して、プライマーで処理した面の上に重ね塗りし、同じ光照射器を用いて10秒間光照射を行ってボンドを硬化させた。引き続き、光重合歯科用コンポジットレジン「Clearfil AP−X」(クラレメディカル社製)を充填し、20秒間光照射して硬化させた。
比較例2では実施例に合わせ、同じプライマーを重ね塗りし、2回目のプライマー塗布後に一括して光照射を行った。
【0059】
2週間の観察期間の後、腹腔内麻酔下で4%パラホルムアルデヒド液による灌流固定を行い、摘出試料は10%EDTA液にて脱灰後、通法にてパラフィン処理、連続切片標本を作製し、ヘマトキシリンエオジン染色により光学顕微鏡下で組織学的観察を行った。なお、各接着材毎の被験体個数(n)は5とした。
【0060】
[実験結果]
実施例1の接着材1[プライマー(MBP+MBP−3)+ボンド(MB1)]を使用した場合、露髄面に2層の修復性象牙質の形成が認められ、ほぼ露髄面は硬組織で覆われる良好な修復性象牙質誘導能が確認された。なお、歯髄組織形態は正常で、炎症性細胞浸潤は見られなかった。図1は実施例1の接着材1による露髄直接覆罩部の代表例の光学顕微鏡写真である。
【0061】
実施例2の接着材2[プライマー(MBP−2+MBP−3)+ボンド(MB1)]を使用した場合、露髄面に独特の3層からなる修復性象牙質の形成が認められ、実施例1より強い修復性象牙質誘導効果が確認された。3層の間には歯髄組織が介在しているが、ほぼ露髄面は硬組織で覆われる像が観察された。なお、歯髄組織形態は正常で、炎症性細胞浸潤は見られなかった。図2は実施例2の接着材2による露髄直接覆罩部の代表例の光学顕微鏡写真である。
【0062】
実施例3の接着材3[プライマー(MBP−2+MBP−3)+ボンド(MBB)]を使用した場合、露髄面に実施例2と同様に3層からなる修復性象牙質の形成が認められ、強い修復性象牙質誘導効果が確認された。なお、歯髄組織形態は正常で、炎症性細胞浸潤は見られなかった。図3は実施例3の接着材3による露髄直接覆罩部の代表例の光学顕微鏡写真である。
【0063】
比較例1の接着材4[プライマー(MBP)+ボンド(MBB)]を使用した場合、修復性象牙質の形成は殆ど認められなかった。なお、歯髄組織は正常であった。図4は該比較例1の接着材4による露髄直接覆罩部14日経過後の代表例の光学顕微鏡写真である。
【0064】
比較例2の接着材5[プライマー(MBP+MBP)+ボンド(MB1)]を使用した場合、露髄面に象牙質削片が散見され、骨様象牙質からなる軽度の不規則な修復性象牙質の形成と、その直下に象牙芽細胞の再配列が見られた。なお、露髄部周辺にややマクロファージが多く認められた。図5は比較例2の接着材5による露髄直接覆罩部の代表例の光学顕微鏡写真である。
【0065】
〔象牙質接着力試験〕
ウシの前歯を#1000シリコン・カーバイド紙(日本研紙(株)製)で平滑に湿潤研磨した後、エナメル質表面または象牙質表面を露出させた後、表面の水を歯科用エアーシリンジで吹き飛ばした。露出したエナメル質表面または象牙質表面に直径3mmの穴を開けた厚さ約150ミクロンの粘着テープを貼り、穴の部分にプライマー組成物を筆で塗布した。プライマーが2種類の場合は、最初のプライマーを塗布した後、引き続き二つ目のプライマーを塗布し、そのまま30秒間放置して後、エアーシリンジで乾燥させた。さらに、歯科用光照射機「ライテルII」(群馬牛尾電気(株)製)にて20秒間光照射を行った。
引き続きその上に、ボンドを筆で約100ミクロンの厚さに塗布し、同じ歯科用光照射器にて10秒間光照射を行い、硬化させた。さらに、その上に市販の光重合型歯科用コンポジットレジン「Clearfil AP−X」(クラレメディカル(株)製)をのせ、エバール(登録商標、(株)クラレ製)からなるフィルムをかぶせた後、スライドガラスを上から押しつけ、かかる状態で上記光照射器にて20秒間光照射を行い、硬化させた。この硬化面に対して、市販の歯科用レジンセメント「パナビア21」(クラレメディカル(株)製)を用いてステンレス棒を接着し、30分間後に試験片を37℃の水中に浸漬し、24時間浸漬後に接着強度を測定した。
【0066】
接着強度の測定には、万能試験機(島津製作所製)を用い、クロス・ヘッドスピード2mm/minの条件で引張接着強度を測定した。各接着強度の測定値は、8個の試験片の測定値の平均値で示した。
【0067】
実施例1〜3、比較例1、2の接着材を用いた場合の象牙質に対する接着強度は以下(表1)のとおりであった。なお、括弧内の数値は標準偏差を表す。
【0068】
【表1】

【0069】
[考察]
歯科用コンポジットレジン接着材料の市販品であるMB(クラレメディカル社製)をそのまま使用した場合、歯髄覆罩による修復性象牙質の形成を認めることが無く、MBに公知のハイドロキシアパタイト粉末を配合しても軽度の修復性象牙質の形成しか認められなかったのに対し、MBにグロスファクターとして特定のアミノ酸シークエンスを有するペプチド(pA及びpB)をプライマーに配合した本発明の接着材1は積極的な修復性象牙質誘導能が確認できた。また、プライマーにペプチド(pA及びpB)と共に、ミネラル成分として塩化カルシウム粉末を配合した接着材2、3は一層強い修復性象牙質誘導能が確認できた。形成された修復性象牙質は3層から構成されるものが多く、深層から中間層までがプライマー中の塩化カルシウムの効果により誘導され、上層はプライマー中のペプチド(pA及びpB)とボンド(ハイドロキシアパタイト)により誘導された修復性象牙質層であると推察された。
また、接着材1〜3は、本来ならば歯質との接着には積極的には寄与しないと思われる、ペプチドや塩化カルシウム等のミネラル成分を含有しているにもかかわらず、従来の接着材とほぼ同等の接着力を有することがわかった。このように、本発明の接着材は、接着材としての性能を損なうことなく、優れた再石灰化促進効果を発現することが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1の接着材による露髄直接覆罩部の光学顕微鏡写真のコピーである。
【図2】実施例2の接着材による露髄直接覆罩部の光学顕微鏡写真のコピーである。
【図3】実施例3の接着材による露髄直接覆罩部の光学顕微鏡写真のコピーである。
【図4】比較例1の接着材による露髄直接覆罩部の光学顕微鏡写真のコピーである。
【図5】比較例2の接着材による露髄直接覆罩部の光学顕微鏡写真のコピーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸性基を有する重合性単量体、(b)重合性単量体(但し、酸性基を有する重合性単量体を除く。)、(c)光重合触媒、並びに(d)ESQES(Glu-Ser-Gln-Glu-Ser)のシークエンスを有するペプチド及びQESQSEQDS(Gln-Glu-Ser-Gln-Ser-Glu-Gln-Asp-Ser)のシークエンスを有するペプチドを含有してなる歯科用接着性組成物。
【請求項2】
さらに、(e)塩化カルシウムを含有する請求項1記載の歯科用接着性組成物。
【請求項3】
さらに、(f)水を含有する請求項1または2記載の歯科用接着性組成物。
【請求項4】
酸性基を有する重合性単量体がリン酸基を有する重合性単量体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項5】
リン酸基を有する重合性単量体が10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートである、請求項4に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物からなる歯科用プライマー。
【請求項7】
請求項6記載の歯科用プライマーと、(g)酸性基を有する重合性単量体、(h)重合性単量体(但し、酸性基を有する重合性単量体を除く。)及び(i)光重合触媒を含有する組成物からなるボンドとを含む、歯科用接着材キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−84200(P2009−84200A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255477(P2007−255477)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(504135527)
【Fターム(参考)】