説明

歯科用治療椅子

【課題】狭い場所でも診療ポジションに制約が出ず、起倒した際に、患者の口腔部の移動が小さく、患者に背ずれが生じない歯科用治療椅子を提供する。
【解決手段】バックレスト1001、コンターシート1002、レッグレスト1003、フットレスト1004が一体的に構成された治療椅子本体部100と、該治療椅子本体部を回動可能に支持する基台部13A〜16Aと、前記治療椅子本体部を回動するアクチュエータ20とより成る。治療椅子本体部100の下部には、該治療椅子の前後に延長する弧状のレール部材12Aを、前記基台の上部には前記レール部材を支持する滑車13A,14Aを該レール部材12Aの前記弧に沿って少なくとも2個有する。アクチュエータ20は、直動的に伸縮するピストン21を有し、該ピストンによりレール部材12Aを前記滑車13A,14A上で移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起倒可能な歯科用治療椅子に係り、特に、起倒時における頭部の前後方向への移動を小さくして診療位置の変動に伴う術者の負担を少なくし、更には、椅子本体部を一体にした固定状態で旋回動させ、起倒に伴う患者の背ずれをなくし、更には、起倒に伴う前後方向への移動を小さくして必要スペースを狭くした歯科用治療椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の歯科用治療椅子の一例を説明するための要部概略構成図で、歯科用治療椅子1は、バックレスト2、コンターシート3、レッグレスト4、フットレスト5、ヘッドレスト6、基台部7等から成り、周知のように、常時は、図5(A)に示す起状態にあり、この状態で、患者は、フットレスト(フットステップ)5の上に乗り、その後、コンターシート3に腰掛ける。その後、術者(ドクター)は、椅子を起状態にしたままで治療を行い、或いは、バックレスト2を矢印A方向にレッグレスト4,フットレスト5を矢印B方向に回転して椅子を倒状態(図4(B))にして歯科治療を行っていた。
【0003】
上述のように、バックレスト2を起倒すると、図5(A),図5(B)に示すように、患者の頭部Kが前後方向に移動し、それに応じて、術者も前後に移動しなければならず、特に椅子に座って治療を行う座位治療においては、術者の椅子をも移動しなければならず、歯科治療を効果的に行うことができなかった。
【0004】
上述のごとき問題を解決するために、バックレスト2の倒動作と連動してコンターシート3を矢印C方向に前進動させ、図5(C)に示すように、バックレスト2の倒起動にかかわりなく、治療椅子上の患者の前後方向における口腔位置が変らないようにした歯科用治療椅子が提案されている(特許文献1)。図5(C)に示した歯科用治療椅子によると、術者は、治療椅子の起倒に係らず、同位置にて歯科治療を行うことができ、また、患者の頭部後方の移動スペースを必要とせず、スペースを無駄に使用することもない。しかし、今度は、その分、フットレスト5の前方に余分なスペースを設けておかなければならず、やはり、歯科治療のためのスペースを大きく設けなければならなかった。
【0005】
更に、上述のごときバックレストを起倒させる治療椅子においては、バックレストを起倒した場合、患者の上半身の支点と椅子自体の回転支点との間に背ずれが起きてしまうため、患者としては衣服を直す必要があり、これが患者にとって不快感となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−342333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたもので、特に、狭い場所でも診療ポジションに制約が出ず、しかも、起倒した際に、患者の口腔部の移動が小さく、患者に背ずれが生じない歯科用治療椅子を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、バックレスト部、コンターシート部、レッグレスト部、フットレスト部が一体的に構成された治療椅子本体部と、該治療椅子本体部を回動可能に支持する基台部と、前記治療椅子本体部を回動するアクチュエータとより成り、前記治療椅子本体部の下部には、該治療椅子の前後に延長する弧状のレール部材を、前記基台の上部には前記レール部材を支持する滑車を該レール部材の前記弧に沿って少なくとも2個有し、前記アクチュエータは直動的に伸縮するピストン部材を有し、該ピストン部材により前記レール部材を前記滑車上で移動させることを特徴としたものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記滑車はH型であり、前記レールは該H型滑車の溝内を移動することを特徴としたものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記滑車は樹脂で形成されていることを特徴としたものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかの発明において、前記アクチュエータは、電動アクチュエータであることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、治療椅子の前後方向の移動が小さく、従って、狭い場所でも診療ポジションに制約が出ず、しかも、起倒した際に、患者の口腔部の移動が小さく、患者に背ずれが生じない歯科用治療椅子を提供することができる。
【0013】
特に、治療椅子本体部に設けられたレール部材が基台部に設けられたH型の滑車の溝内を移動するようにしたので、レール部材がH型の滑車から外れるようなことがなく、治療椅子を、安全に起倒させることができる。滑車を樹脂製としたので、騒音や振動が少ない。アクチュエータを電動アクチュエータとしたので、騒音が少なく、制御も簡単にできる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による歯科用治療椅子の一実施例を説明するための要部側面図である。
【図2】本発明による歯科用治療椅子の作動を説明するための要部構成図である。
【図3】本発明による歯科用治療椅子のレール部材と滑車の関係を説明するための図である。
【図4】本発明による歯科用治療椅子の外観を示す図である。
【図5】従来の歯科用治療椅子の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図4は、本発明による歯科用治療椅子の外観斜図で、図中、100は治療椅子本体部、110は安頭台、120は治療椅子本体部100を支える基台部で、本発明においては、治療椅子本体部100は、バックレスト部1001、コンターシート部1002、レッグレスト部1003、フットレスト部1004が一体的に構成され、これらが一体的に基台120上で矢印A方向に回動(起倒)されるようになっている。
【0016】
図1は、本発明の一実施例を説明するための要部構成図で、図1は、図4に示した治療椅子本体部100を中心線より少し手前のI−I線より見た側面図で、図1(A)は、治療椅子本体部100が起状態にある場合の側面図、図1(B)は、倒(寝)状態にある時の側面図である。而して、本発明においては、治療椅子本体100は、全体が円Oの周りに一体的に回動(起倒)するものであり、起倒時におけるバックレストやレッグレストの動き(コンターシートに対するバックレストやレッグレストの回動)がなく、従って、患者に背ずれを生じることはなく、患者は気持ちよく診療を受けることができる。また、起倒時における安頭台の前後方向の移動量も小さく、術者は、治療位置をほとんど変えることなく診療を行うことができる。
【0017】
図1は、図3における縦断線I−IよりA部側を見た側面図であるが、B部側はA部側に対称に構成されているので、以下、A部側の部材には接尾辞Aを付し、B部側の部材には、接尾辞Bを付して示す。
【0018】
図1において、10A(10B)は、治療椅子本体部100の上面側の形状を構成する上部フレーム部材で、該上部フレーム部材10Aと、B側に対称に設けられた上部フレーム部材10Bとの間に当て板101が張り渡され、該当て板101にクッション部材102が配設されるようになっている。
【0019】
11A(11B)は、前記上部フレーム10A(10)の下方に配設され、歯科用治療椅子本体部100の裏面側を構成する下部フレーム部材で、該下部フレーム部材11A(11B)は、上部フレーム部材10A(10B)の下側でかつこれら上部フレーム部材10A(10B)より内側に配設され、両端部が一体的に連結され、治療椅子100の全体形状を形成している。
【0020】
上部フレーム10A(10B)と下部フレーム11A(11B)との幅方向の間には、治療椅子100を起倒(回動)するためのレール部材12A(12B)が設けられており、該レール部材12A(12B)がアクチュエータ20により円Oまわりに回動(起倒)されるようになっている。
【0021】
基台15A、16A,(15B、16B)の上には、滑車部材13A、14A(13B、14B)が配設されており、これら滑車部材13A、14A(13B,14B)は、前記円Oの軌跡上に配設され、前記レール部材12A(12B)は、前記円Oの円弧と同一の円弧をしており、これにより、レール部材12A(12B)は、滑車13A、14A(13B、14B)上を摺動可能となっている。従って、アクチュエータ20によりピストン21を伸縮すると、治療椅子本体100は、円Oのまわりに回動し、起状態(図1(A)、倒(寝)状態(図1B)とすることができる。
【0022】
図2は、前記アクチュエータ20の詳細を示す図で、図2(A)は側面図、図2(B)は斜視図で、図示のように、弧状のレール部材12Aと12Bは、一端において、連結部材22により連結され、該連結部材22がアクチュエータ20によって直進運動されるピストン21の先端に連結され、ピストン21を伸縮することにより、レール部材12A(12B)は、滑車13A、14A(13B、14B)上を回動し、これにより、治療椅子本体部100が円Oのまわりに回動する。
【0023】
図3は、前記滑車13A(14A、13B、14B)とレール12A(12B)との関係を示す図で、本発明においては、弧状のレール部材12A(12B)をH型の滑車13A(14A、13B、14B)で支え、レール部材12Aが滑車13Aを転がすことで、治療椅子本体部100を起倒するようにしたもので、レール部材12Aが移動する部分をH型の滑車13Aの溝内とすることで、レール部材が滑車から外れることなく、安全に動作する。滑車を樹脂(MCナイロン)にすると、レールの端面の表面荒さが動作時に振動・騒音を起こす原因にならない。また、滑車の溝とレールの幅の差を少なくすることで、レールと滑車間の振動をなくすことができる。
【0024】
更には、アクチュエータを直動するアクチュエータとしたので、機構を単純にすることができる。
電動のアクチュエータを採用することにより、アクチュエータの動作音が騒音にならにようにすることができる。
電動のアクチュエータを採用することにより、ショックレス機能(スロースタート、スローストップ)が電気的な制御だけでできる。
電動のアクチュエータに供給する電圧を上げるとアクチュエータの動作スピードが上がるため動作速度も電気的な制御だけでできる等の利点がある。
【符号の説明】
【0025】
100…治療椅子本体部、10A…上部フレーム部材、11A…下部フレーム部材、12A…弧状レール部材、13A,14A…滑車、15A,16A…基台、20…アクチュエータ、21…ピストン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックレスト部、コンターシート部、レッグレスト部、フットレスト部が一体的に構成された治療椅子本体部と、該治療椅子本体部を回動可能に支持する基台部と、前記治療椅子本体部を回動するアクチュエータとより成り、前記治療椅子本体部の下部には、該治療椅子の前後に延長する弧状のレール部材を、前記基台の上部には前記レール部材を支持する滑車を該レール部材の前記弧に沿って少なくとも2個有し、前記アクチュエータは直動的に伸縮するピストン部材を有し、該ピストン部材により前記レール部材を前記滑車上で移動させることを特徴とする歯科用治療椅子。
【請求項2】
前記滑車はH型であり、前記レールは該H型滑車の溝内を移動することを特徴とする請求項1に記載の歯科用治療椅子。
【請求項3】
前記滑車は樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科用治療椅子。
【請求項4】
前記アクチュエータは、電動アクチュエータであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の歯科用治療椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−80982(P2012−80982A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228047(P2010−228047)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000150671)株式会社長田中央研究所 (194)
【Fターム(参考)】