説明

歯科用硬化性組成物

【課題】機械的強度が高い硬化体を与え、研磨性が良好であり、操作性に優れた歯科用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】(A)重合性単量体(B)b1)大粒径である、表面処理された球形状または略球形状のシリカ系金属酸化物粒子I、b2)小粒径である、表面処理された球形状または略球形状のシリカ系金属酸化物粒子II、およびb3)フュームドシリカ等のシリカ系金属酸化物微粒子IIIが混合されてなるシリカ系金属酸化物粒子混合フィラー(C)重合開始剤を含んでなる歯科用硬化性組成物。該組成物は、特に、歯科用複合修復材として使用されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用複合修復材として好適な硬化性組成物に関する。さらに詳しくは機械的強度が高い硬化体を与え、表面滑沢性が良好であり、広い温度範囲で操作性に優れた硬化性組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
歯科用複合修復材は、重合性単量体、重合開始剤、及びフィラーを主成分とする複合材料であり、天然歯牙色と同等の色調を付与できることや操作が容易なことから、治療した歯牙を修復するための材料として近年多用されている。
【0003】
該歯科用複合修復材の具体的用途としては、齲蝕等による歯牙の窩洞に直接充填して修復する充填用コンポジットレジン、天然歯の歯冠の一部または全体を代替しうる歯冠用硬質レジン等の歯冠用材料があり、これら用途に於いては修復後の機械的物性や研磨性が優れていることが要求されている。これらの物性に対しては、フィラーが非常に大きな役割を果たしていることが知られている。これまで種々のフィラーが検討されてきており、その中でも機械的物性と研磨性を両立させたものがいくつか提案されている。
【0004】
例えば、平均粒子径0.1ミクロンを越え、1ミクロン以下の範囲にある略球形状無機粒子40〜99質量%、及び平均粒子径が0.1ミクロン以下である無機微粒子60〜1質量%からなるフィラー、及び重合性単量体を含む光硬化性歯科用複合修復材料が提案されている(特許文献1)。該修復材料は、曲げ強度、表面滑沢性、対合歯非摩損性に優れるという特徴を有している。
【0005】
また、無機粒子の混合フィラーとして(A)平均粒子径0.1〜1μmの不定形無機粒子、(B)平均一次粒子径が0.1〜5μmの球形状無機粒子、及び(C)平均一次粒子径が0.1μm以下の微細無機粒子を、各粒子の質量をそれぞれmA、mB、及びmCとしたときに、{mA/(mB+mC)}が0.2〜3、{mB/(mB+mC)}が0.5〜0.99、{mC/(mB+mC)}が0.01〜0.5となるよう配合したものを用いた光硬化性歯科用修復材料も提案されている(例えば、特許文献2)。該修復材料は、操作性が良好で硬化したときの破壊靱性が高く、しかも表面滑沢性も良好である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−26226号公報
【特許文献2】国際公開第02/005752号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの歯科用複合修復材の操作性は必ずしも満足のいくものではなかった。すなわち、特許文献1および2に示される修復材料は、1ミクロン以下の微粒子の粒度分布を制御して用いることによって機械的強度と研磨性の両立を達成した材料であるが、微粒子の配合量が多いためにペーストの粘りが大きくなり、歯科用充填器具(インスツルメント)で取り扱った場合にべたつきが現れやすいものであった。この問題は充填率の調整によってある程度軽減できたものの、特に夏季など気温の高い環境下で使用した場合に、べたつきが増すことでインスツルメントとの離れ性が悪くなることがあった。
【0008】
そこで本発明は、高い機械的強度と良好な表面滑沢性を兼ね備えながら、さらに温度が高い環境化においてもペーストのべたつきが少なく操作性に優れた歯科用硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、一次粒子径が数〜数十ナノメートルの超微粒子を特定の粒子径分布及び形状を持つシリカ系金属酸化物組成と組み合わせて使用することによって操作性の良好な歯科用硬化性組成物のペーストを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、(A)重合性単量体 100質量部、
(B)下記組成からなるシリカ系金属酸化物粒子混合フィラー
200〜700質量部、
b1)平均一次粒子径0.3〜0.6μmである、有機ケイ素化合物により表面処理されてなる、球形状または略球形状のシリカ系金属酸化物粒子I 40〜80質量%
b2)平均一次粒子径がb1)シリカ系金属酸化物粒子Iの平均一次粒子径の1/8〜1/4である、有機ケイ素化合物により表面処理されてなる、球形状または略球形状のシリカ系金属酸化物粒子II
15〜55質量%
b3)平均一次粒子径が5〜30nmであるシリカ系金属酸化物微粒子III 0.5〜5質量%
(C)重合開始剤 0.01〜5質量部
を含んでなる歯科用硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科用硬化性組成物は、従来の歯科用修復材料が有していた硬化体の高い機械的強度や優れた表面滑沢性といった特徴だけでなく、さまざまな温度の環境下において、ペーストのべたつきが少ない良好な操作性を有する特徴を持つ。特に、べたつきが激しくなり、歯科用充填器具での操作性が低下する28〜40℃の温度下においても、このような悪現象が良好に抑制でき、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の歯科用硬化性組成物は、(A)重合性単量体、(B)特定の組成からなるシリカ系金属酸化物粒子混合フィラー、および(C)重合開始剤の各成分により少なくとも構成される。
【0013】
本発明において(A)重合性単量体は、公知のものが制限無く使用できる。好適に使用できる重合性単量体としては、アクリロイル基及び/またはメタクリロイル基を有するラジカル重合性単量体等が挙げられ、この様な重合性単量体の具体例としては下記〔I−1〕〜〔I−4〕に示される各モノマーが挙げられる。
〔I−1〕 単官能性ビニルモノマー
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;あるいはアクリル酸、メタクリル酸、p−メタクリロイルオキシ安息香酸、N−2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル−N−フェニルグリシン、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、及びその無水物、6−メタクリロイルオキシヘキサメチレンマロン酸、10−メタクリロイルオキシデカメチレンマロン酸、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、10−メタクリロイルオキシデカメチレンジハイドロジェンフォスフェート、2−ヒドロキシエチルハイドロジェンフェニルフォスフォネート等。
〔I−2〕 二官能性ビニルモノマー
(i) 芳香族化合物系のもの2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン(以下、bis−MEPPと略する)、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(以下、bis−GMAと略する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(以下、bis−MPEPPと略する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート、あるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
(ii) 脂肪族化合物系のものエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、TEGDMAと略する)、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(以下、HDDMと略する)、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト、例えば1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2−4−トリメチルヘキサン(以下、UDMAと略す。);無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2−メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート等。
〔I−3〕 三官能性ビニルモノマートリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート(以下、TMPTと略する。)等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
〔I−4〕 四官能性ビニルモノマーペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加から得られるジアダクト等。
【0014】
上記重合性単量体は単独で用いても、2種類以上のものを混合して用いても良い。特に、機械的強度、屈折率、粘度を調整する為に2種類以上のものを混合して用いることが好ましい。良好な操作性を得るうえで好適な重合性単量体を例示すれば、bis−MEPP、bis−MPEPP、TEGDMA、HDDM、もしくはTMPTを主成分とする重合性単量体組成物が挙げられる。
【0015】
本発明において、(B)シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーは、下記3種のシリカ系金属酸化物粒子の特定の配合比からなる混合フィラーである。
b1)平均一次粒子径0.3〜0.6μm、より好ましくは0.45〜0.58μmである、有機ケイ素化合物により表面処理されてなる、球形状または略球形状のシリカ系金属酸化物粒子I
40〜80質量%
b2)平均一次粒子径がb1)シリカ系金属酸化物粒子Iの平均一次粒子径の1/8〜1/4、より好ましくは1/5.5〜1/4.5である、有機ケイ素化合物により表面処理されてなる、球形状または略球形状のシリカ系金属酸化物粒子II
15〜55質量%
b3)平均一次粒子径が5〜30nmであるシリカ系金属酸化物微粒子III 0.5〜5質量%
ここで、本発明において、b1)〜b3)からなる各シリカ系複合酸化物粒子の一次粒子径は、走査型や透過型の電子顕微鏡の撮影像から、円相当径(対象粒子の面積と同じ面積を持つ円の直径)を画像解析により測定したものをいう。測定に用いる電子顕微鏡撮影像としては、明暗が明瞭で粒子の輪郭を判別できるものを使用し、画像解析の方法としては、少なくとも粒子の面積、粒子の最大長、最小幅の計測が可能な画像解析ソフトを用いて行う。また、これら一次粒子の平均粒子径、変動係数、平均均斉度は、上記によって計測した一次粒子径より、下記式によって算出する。
【0016】
【数1】

【0017】
【数2】

【0018】
ここに、粒子の数(n)、粒子の最大長を長径(Li)、この長径に直交す方向の径を最小幅(Bi)である。
【0019】
これらの値を算出する場合、測定精度を保つためには少なくとも40個以上の粒子を測定する必要があり、100個以上の粒子について測定することが望ましい。
【0020】
このシリカ系金属酸化物粒子混合フィラーにおいて、b1)シリカ系金属酸化物粒子Iとb2)シリカ系金属酸化物粒子IIとを組合せて使用させることによって、フィラーの充填率を大きく増加させることができる。すなわち、平均一次粒子径0.3〜0.6μmの比較的大きい粒子径のb1)シリカ系複合酸化物粒子Iと、その平均一次粒子径の1/8〜1/4の大きさのb2)シリカ系複合酸化物粒子IIを併用することにより、前者の大粒子同士の間隙を、後者の小粒子が充填し、結果的に最密充填に近づくため、その充填率を著しく高くすることができる。これにより、得られる歯科用硬化性組成物は、硬化体の機械的強度が大きく向上し、低い吸水溶解性、小さい熱膨張率や重合収縮率といった歯科用硬化性組成物としての優れた基本物性を有するものになる。しかも、b1)シリカ系複合酸化物粒子Iを前記粒子径の範囲で使用していることにより、硬化体は、表面滑沢性にも優れ、短時間で容易に仕上げ研磨が行える、良好な研磨性を備えたものにすることができる。
【0021】
そしてさらに、このb1)シリカ系金属酸化物粒子Iとb2)シリカ系金属酸化物粒子IIとを併用した混合フィラーに、b3)微細(平均一次粒子径5〜30nm)なシリカ系金属酸化物微粒子IIIを配合することにより、歯科用硬化性組成物のペーストを歯科用充填器具で取り扱った際のべたつきも大きく改善することが可能になる。
【0022】
ここで、b1)シリカ系金属酸化物粒子Iにおいて、平均一次粒子径が0.6μmを超える場合は、歯科用硬化性組成物の硬化物の表面滑沢性に劣るものになり、この平均一次粒子径が0.3μm未満の場合は、十分な機械的強度を得ることができなくなる。なお、上記b1)シリカ系金属酸化物粒子Iの一次粒子のバラツキはできるだけ小さいものが好ましく、通常、一次粒子径の変動係数が30%以下のものが使用される。さらに、一次粒子径の変動係数は、好ましくは20%以下であり、最も好ましくは10%以下のものが好適である。
【0023】
本発明におけるb1)シリカ系金属酸化物粒子Iは、シリカもしくはシリカを主成分とする金属酸化物であり、結晶質のものも使用可能であるが、非晶質のものが好ましい。具体的に例示するとシリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−バリウムオキサイド、シリカ−アルミナ、シリカ−カルシア、シリカ−ストロンチウムオキサイド、シリカ−マグネシア、シリカ−チタニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−チタニア−カリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−カリウムオキサイド、シリカ−アルミナ−ナトリウムオキサイド、またはシリカ−アルミナ−カリウムオキサイド等が挙げられる。
【0024】
上記のb1)シリカ系金属酸化物粒子Iの形状は、球形状または略球形状である。なお、ここでいう略球形状とは、前記走査型や透過型の電子顕微鏡の撮影像の画像解析において求められる平均均斉度が0.6以上であることを意味する。平均均斉度は0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。
【0025】
上記b1)として使用する性状のシリカ系金属酸化物粒子の製造方法は特に限定されず、液相反応、気相反応いずれの方法も可能であるが、前記一次粒子径の変動係数が小さく球形状の粒子を得ることが容易であることから、加水分解可能な有機ケイ素化合物を含んだ溶液、あるいは更に周期律表第I、II、III、及び第IV族の金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む加水分解可能な有機化合物を含んだ混合溶液を、これら原料は溶解するが反応生成物は実質的に溶解しないアルカリ性溶媒中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させる、所謂ゾルゲル法が好適に採用される。
【0026】
なお、このような方法で製造されたシリカ系金属酸化物粒子は、その表面安定性を保持するために乾燥後500〜1000℃の温度で焼成するのが好ましい。また焼成時に粒子が凝集するので、ジェットミル、振動ボールミル等を用いて凝集粒子を解きほぐし、粒度を調整してから使用するのが好ましい。このような操作を行なっても凝集粒子を完全に凝集前の状態にするのは困難であり、上記のような熱処理を行なった場合には、シリカ系複合酸化物の一次粒子とその凝集体とが混合したものが得られる場合があるが、大粒子径の独立粒子を添加した場合と異なり、多少の凝集体が含まれていても重合硬化後の滑沢性や耐摩耗性に対して実質的に悪影響がなければ差し支えない。
【0027】
本発明において、上記b1)シリカ系金属酸化物粒子Iは、(A)重合性単量体とのなじみを良くし、硬化体の機械的強度、ペーストの操作性を良好にする観点から、有機ケイ素化合物により表面処理して用いられる。この表面処理は、有機ケイ素化合物からなる公知の表面処理剤ならびにこれらを用いた公知の表面処理方法が好適に採用できる。好適な表面処理剤を例示すれば、メチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン系のシランカップリング剤やその加水分解物、トリメチルシラノール等の一官能シラン化合物、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン、シリコーンオイル等が挙げられる。これら表面処理剤の処理量は、粒子の表面を被覆するために必要な量あれば良い。一般に、表面処理剤は、シリカ系金属酸化物Iの100質量部に対して0.1〜30質量部の範囲で使用される。
【0028】
(B)シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーにおいて、b2)シリカ系金属酸化物粒子IIは、上述のb1)シリカ系金属酸化物粒子Iの平均一次粒子径の1/8〜1/4のものである。この平均一次粒子径が、上記値より小さい場合または大きい場合には、フィラーの充填率が低下するため、本発明の歯科用硬化性組成物の硬化体の基本物性が十分満足できないものに低下する。
【0029】
また、b2)シリカ系金属酸化物粒子IIにおいても、一次粒子径の変動係数は、通常、30%以下のものが使用され、20%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。形状も、b1)シリカ系金属酸化物粒子Iと同様に、球形状または略球形状であり、略球形状の場合の平均均斉度は0.6以上であり、0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。
【0030】
金属酸化物の種類も、b1)シリカ系金属酸化物粒子Iで説明したものと同じであり、そこで例示したようなシリカもしくはシリカを主成分とする金属酸化物が制限なく使用できる。この際、該b1)シリカ系金属酸化物粒子Iと同一の材質であっても異なる材質であってもよい。
【0031】
さらに、b2)シリカ系金属酸化物粒子IIの製造方法も、b1)シリカ系金属酸化物粒子Iで説明したものと同様の方法が制限なく採用でき、前記b1)シリカ系金属酸化物粒子Iの平均一次粒子径の1/8〜1/4のものとして適宜に製造すればよい。
【0032】
このb2)シリカ系金属酸化物粒子IIも、(A)重合性単量体とのなじみを良くし、硬化体の機械的強度、ペーストの操作性を良好にする観点から、有機ケイ素化合物により表面処理されて用いられ、その表面処理剤や表面処理方法も、前記したb1)シリカ系金属酸化物粒子Iの場合と同様である。
【0033】
(B)シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーに配合される、b3)平均一次粒子径が5〜30nmであるシリカ系金属酸化物微粒子IIIは、ペーストのべたつきを抑えるのに、極めて重要な成分である。平均一次粒子径が、上記微細な範囲を外れると、歯科用硬化性組成物のペーストはべたつくようになり、歯科用充填器具での取り扱い性が大きく低下する。このb3)シリカ系金属酸化物微粒子IIIのより好適な平均一次粒子径の範囲は、10〜28nmの範囲である。なお、これら粒子は、一次粒子が凝集してサブミクロン程度の二次凝集粒子を形成していてもよい。
【0034】
本発明において、b3)シリカ系金属酸化物微粒子IIIは、前記b1)シリカ系金属酸化物粒子Iで例示した材質のものから、適宜に採択して使用すれば良い。この際、b1)シリカ系金属酸化物粒子Iやb2)シリカ系金属酸化物粒子IIと同一の材質であっても異なる材質であってもよい。粒子表面のシラノール基の数が少なく分散性が良好であり、透明性が高く、さらに、ペーストのべたつきを抑える効果も特に良好に発揮されることから、気相反応により得られたシリカ系金属酸化物が好ましく、中でもヒュームドシリカが最も好ましい。シリカ系金属酸化物(C)の形状、製造方法は特に限定されない。
【0035】
こうしたb3)シリカ系金属酸化物微粒子IIIは、そのまま使用しても良いが、b1)シリカ系金属酸化物粒子Iやb2)シリカ系金属酸化物粒子IIと同様に、有機ケイ素化合物により表面処理して用いるのが、(A)重合性単量体とのなじみを良くし、分散性を良くして前記した配合効果をより良好に発揮させる観点から好ましい。この際の使用する表面処理剤や表面処理方法は、上記b1)シリカ系金属酸化物粒子Iやb2)シリカ系金属酸化物粒子IIでの表面処理と同様に実施すればよい。
【0036】
本発明において、上記各組成からなるシリカ系金属酸化物粒子混合フィラーの配合量は、(A)重合性単量体を100質量部に対して200〜700質量部である。また、更に好適な配合比は300〜600質量部である。シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーの配合量が200質量部未満の場合、歯科用硬化性組成物の硬化体の機械的物性が劣り、さらに、ペーストのべたつきの抑制効果も十分でなくなる。他方、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーの配合量が700質量部を超えると、(A)重合性単量体との均一な混合が困難になり、ペースト状態にすることが難しくなる。
【0037】
本発明の歯科用硬化性組成物において(C)重合開始剤は、公知のものが制限無く使用可能である。硬化性組成物の重合方法には、紫外線、可視光線等の光エネルギーによる反応(以下、光重合という)、過酸化物と促進剤との化学反応によるもの、加熱によるもの等があり、採用する重合方法に応じて下記に示す各種重合開始剤を適宜選択して使用すればよい。
【0038】
例えば、光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、ベンゾフェノン、4,4'−ジメチルベンゾフェノン、4−メタクリロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、ジアセチル、2,3−ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナントラキノン、9,10−アントラキノンなどのα-ジケトン類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類等を使用することができる。
【0039】
なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N−メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン類、ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物などを挙げることができる。
【0040】
また、熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p−フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
【0041】
これらの重合開始剤の中でも、使用時の操作の簡便さの観点からは光重合開始剤の使用が好ましく、特に好適なものは、カンファーキノン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)―2,4,4−トリメチルフェニルホスフィンオキサイドなどである。
【0042】
これら(C)重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。(C)重合開始剤の配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して0.01〜5質量部である。この(C)重合開始剤の配合量が0.01質量部よりも少ない場合は硬化が不十分であり、5質量部よりも多い場合は環境光に対する安定性が低下するため好ましくない。(A)重合性単量体のより好ましい配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して0.1〜3質量部である。
【0043】
本発明の歯科用硬化性組成物には、前記(B)シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーの他に、本発明の効果を大きく損なわない範囲で他のフィラー成分が配合されていても良い。このような他のフィラーとしては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、等の無機フィラー、ポリメタクリル酸メチル等の有機フィラー、有機無機複合フィラー等が挙げられ、これらは平均一次粒子径が0.1〜5μmのものが一般に使用される。また、前記平均一次粒子径や粒子形状等の条件がb1)〜b3)で特定するもの以外のシリカ系金属酸化物粒子も、上記本発明の効果を大きく損なわない範囲であれば使用可能である。特に、(D)平均一次粒子径が0.5〜2ミクロンである、不定形粒子であるシリカ系金属酸化物粒子IVを加えることによって、機械的強度、特に靭性を更に高くすることができ、べたつきの抑制効果もより向上することから好ましい。
【0044】
この(D)シリカ系金属酸化物粒子IVは、上記機械的強度を良好にする点から不定形のものが使用される。ここで、本発明における不定形とは、SEM等で観察される一次粒子の形状が、不規則な多数の角及び面を有していることを意味し、通常は破砕や粉砕によって得られる粒子を指す。また、材質は、前記b1)シリカ系金属酸化物粒子Iで例示したものから、適宜に採択して使用すれば良い。この際、(B)シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーを構成する各シリカ系金属酸化物粒子と同一の材質であっても異なる材質であってもよい。
【0045】
こうした(D)シリカ系金属酸化物粒子IVの製造方法も、特に限定されないが、不定形粒子を得やすいことからバルク体を粉砕する事によって得ることが好適である。また、このシリカ系金属酸化物粒子IVも、有機ケイ素化合物により表面処理されていることが好ましく、表面処理条件は前記した方法等から適宜に採択して実施すればよい。
【0046】
(D)シリカ系金属酸化物粒子IVの好適な配合量は、(B)シリカ系複合酸化物粒子混合フィラーを100質量部とした際に、10〜65質量部であり、更に好適には20〜45質量部である。
【0047】
本発明の歯科用硬化性組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、紫外線吸収剤、蛍光剤等、公知の添加剤を必要に応じて適宜に配合させることができる。
【0048】
次に、本発明の歯科用硬化性組成物において、前記説明した各成分を混合してペーストとする手法は、特に制限されることなく、公知の混合手法により適宜に実施すればよい。(B)シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーは、(A)重合性単量体に対して、b1)〜b3)成分の全種を同時に添加して混合しても良いが、該(A)重合性単量体に混合するよりも先に、その少なくとも2種を予備混合しておくのが好ましい。この予備混合は、適当な分散媒中に、所望するシリカ系金属酸化物粒子を配合し、分散機に処したのちに乾燥する方法により実施するのが一般的である。また、この際、表面処理剤も配合させることによって、予備混合するシリカ系金属酸化物粒子に対する表面処理工程も同時に施すのが効率的である。
【0049】
分散媒としては、好適には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン等、または、これらの混合溶媒等の極性溶媒を挙げることができる。また分散機としては、一般に公知の乳化分散機、湿式解砕機、湿式粉砕機等が用いられる。具体的に例示すれば、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、超高圧衝撃型乳化分散装置等が挙げられる。上記分散は、特に制限された温度で行う必要はなく、一般に室温前後、例えば、10〜60℃の範囲で行えばよい。シリカ系金属酸化物粒子と分散媒との混合割合はスラリーとなる範囲であれば良く、一般に粒子100質量部に対して分散媒は200〜1000質量部の範囲で使用される。分散はシリカ系金属酸化物粒子が1時間の静置で沈降しない状態まで行うのが好ましい。分散液の乾燥は一般的には噴霧乾燥機で行われる。
【0050】
(A)重合性単量体、(B)シリカ系金属酸化物粒子混合フィラー、(C)重合開始剤、および各任意成分を混合して歯科用硬化性組成物とする方法は、これら各成分をミキサーやライカイ機を用いて十分に均一に混練すればよい。この際、重合性単量体に重合開始剤や各種添加剤を混合しておいたもの(以下、重合性単量体組成物とも略す)に対して、(B)シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーを徐々に添加する方法を行っても良いが、微粒子ほど凝集しやすいことから、まず、微細粒子である前記b3)シリカ系金属酸化物微粒子IIIを(A)重合性単量体と混合し、ミキサーやライカイ機で2〜30分程度かけて十分に混合してから、これにb1)シリカ系金属酸化物粒子Iとb2)シリカ系金属酸化物粒子IIの前記手法による予備混合物を少しずつ混合していく方法を行うのが適している。得られた歯科用硬化性組成物のペーストは、さらに減圧下脱泡するのが好ましい。
【0051】
本発明の歯科用硬化性組成物の用途は特に限定されないが、歯科用複合修復材が好ましく、具体例としては、歯冠用修復材等でも有効に使用できるが、歯科充填用コンポジットレジンに使用するのが特に好ましい。歯科充填用コンポジットレジンの一般的な使用方法としては、修復すべき歯の窩洞を適切な前処理剤や接着剤で処理した後に該歯科充填用コンポジットレジンを直接充填した後に専用の光照射器にて強力な光を照射して重合硬化させる方法等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例で用いた重合性単量体、重合開始剤、及びシリカ系金属酸化物粒子は以下の通りである。
●シリカ系複合酸化物粒子:
・b1−1:シリカ粒子
平均粒径0.38μm、球形状(平均均斉度0.9)、一次粒子径の変動係数4%
・b1−2:シリカチタニア粒子
平均粒径0.42μm、球形状(平均均斉度0.9)、一次粒子径の変動係数8%
・b1−3:シリカジルコニア粒子
平均粒径0.57μm、球形状(平均均斉度0.7)、一次粒子径の変動係数23%
・b1−4:シリカジルコニア粒子
平均粒径0.42μm、球形状(平均均斉度0.8)、一次粒子径の変動係数13%
・b2−1:シリカチタニア粒子
平均粒径0.08μm、球形状(平均均斉度0.9)、一次粒子径の変動係数8%
・b2−2:シリカジルコニア粒子
平均粒径0.07μm、球形状(平均均斉度0.9)、一次粒子径の変動係数18%
・b3−1:フュームドシリカ(「レオロシールQS−102」;トクヤマ社製)
平均一次粒径12nm
・b3−2:フュームドシリカ(「レオロシールMT−10」;トクヤマ社製)
平均一次粒径12nm、有機ケイ素化合物で表面処理された疎水性グレード
・b3−3:フュームドシリカ(「レオロシールQS−30」;トクヤマ社製)のγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシランによる表面処理物
平均一次粒径7nm
・b3−4:フュームドシリカ(「アエロジルR972」;日本アエロジル社製)
平均一次粒子径27ナノメートル
・D−1:微粉砕バリウムガラス(「GM27884」;ショット社製)
平均粒径0.7μm、不定形
・D−2:微粉砕シリカジルコニア
平均粒径0.95μm、不定形
●重合性単量体:
UDMA:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2−4−トリメチルヘキサン
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
bis−MPEPP:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
●重合開始剤:
CQ:カンファーキノン
DMBE:ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
DMPT:ジメチルパラトルイジン
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
(1)平均粒子径、変動係数
走査型電子顕微鏡(以下、SEMという)を用いて得た撮影像から、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製IP−1000PC)で処理を行い、単位視野内における一次粒子の円相当径と粒子数を求めた。粒子数は100個以上とした。下記式により一次粒子の平均体積径を求め平均粒子径とした。また、一次粒子径の変動係数を算出した。
【0053】
【数3】

【0054】
(2)平均均斉度
走査型電子顕微鏡(以下、SEMという)を用いて得た撮影像から、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製IP−1000PC)で処理を行い、単位視野内における各一次粒子の最大長、最小幅と粒子数を求めた。粒子数は100個以上とした。単位視野内に観察される一次粒子の数(n)、一次粒子の最大長を長径(Li)、この長径に直交する方向の径を最小幅(Bi)、としてn、Li、Biをもとめ、次式により算出した。
【0055】
【数4】

【0056】
(3)付着性(ペーストのべたつきの評価)
直径8mm高さ10mmの型に硬化性組成物ペーストを充填し暗所にて30℃に保温した。直径5mm円柱状のステンレス棒をペースト表面に接触した状態からペースト内部に2mm浸入させ、その後棒を引き抜いた。初期のペースト表面の座標を0としたときに、ステンレスにペーストが付着して上昇し、離れた座標までの距離を付着性[mm]とした。
(4)曲げ強さ
2×2×25mmの角柱状の試料片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG−5000D)にて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ破壊強度を測定した。
(5)表面滑沢性
幅2×高さ4×長さ20mmの角柱状の型枠に硬化性ペーストを充填し、十分に光重合を行って硬化させた後に型枠から取り出し、37℃水中に24時間浸漬した。この試料片表面を耐水研磨紙1500番で研磨後、Soflex−Superfine(3M社製)にて1分間仕上げ研磨し、表面の光沢度を目視により判定した。滑沢性に優れるものについては○、滑沢性に劣るものについては×の判定とした。
(6)重合性単量体組成物の調整
M−1:UDMA70gとTEGDMA30gに、0.5質量%のCQと0.5質量%のDMPTを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製して、これをマトリックスM−1とした。
【0057】
M−2:bis−MPEPP70gとTEGDMA30gに、0.5質量%のCQと0.5質量%のDMBEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製して、これをマトリックスM−2とした。
【0058】
M−3:bis−MPEPP70gとTEGDMA15gとUDMA15gに、0.5質量%のTPOを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製して、これをマトリックスM−3とした。
【0059】
また、下記に示す方法で、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーを調整した。
製造例1
b1−1の440gとb2−1の540gとを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−1を得た。
製造例2
b1−2の590gとb2−2の390gとを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−2を得た。
製造例3
b1−2の690gとb2−2の290gとを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−3を得た。
製造例4
b1−2の685g、b2−2の290g、およびb3−1の25gを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−4を得た。
製造例5
b1−3の590g、b2−1の390g、およびb3−4の20gを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−5を得た。
製造例6
b1−2の590gとb2−1の390gとを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−6を得た。
製造例7
b1−2の600gとb3−1の400gとを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−7を得た。
製造例8
b2−2の600gとb3−1の400gを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−8を得た。
製造例9
b1−2の290gとb2−2の690gを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−9を得た。
製造例10
b1−1の290gとb1−2の690gを4Lの純水中に混合し、大量循環型ビーズミルを用いて分散させた。酢酸水溶液中で加水分解を行ったγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを分散液に加え攪拌した後にスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行い、更に減圧加熱乾燥を行うことによって、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−10を得た。
実施例1
重合性単量体組成物M−1の100gとb3−2の7gを55℃に保温したミキサーに仕込み1時間かけて予め混合した。次いでシリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−1を少しずつ添加しながら混合し、最終的に350g添加してペースト化した。さらにこのペーストを減圧下脱泡し、硬化性組成物を得た。
【0060】
得られた硬化性組成物のペーストについて、付着性、硬化体の曲げ強さ、表面滑沢性を測定した。その結果を表1に示した。
実施例2〜10
配合する重合性単量体組成物及びシリカ系酸化物粒子混合フィラーを表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、各々の硬化性組成物を得た。得られた硬化性組成物のペーストについて、付着性、硬化体の曲げ強さ、表面滑沢性を測定した。その結果を表1に示した。
比較例1
重合性単量体組成物M−2の100gに、シリカ系金属酸化物粒子混合フィラーF−2を少しずつ添加しながら混合し、最終的に420g添加してペースト化した。さらにこのペーストを減圧下脱泡し、硬化性組成物を得た。得られた硬化性組成物のペーストについて、付着性、硬化体の曲げ強さ、表面滑沢性を測定した。その結果を表1に示した。
比較例2〜7
配合する重合性単量体組成物及びシリカ系酸化物粒子混合フィラーを表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、各々の硬化性組成物を得た。得られた硬化性組成物のペーストについて、付着性、硬化体の曲げ強さ、表面滑沢性を測定した。その結果を表1に示した。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性単量体 100質量部、
(B)下記組成からなるシリカ系金属酸化物粒子混合フィラー
200〜700質量部、
b1)平均一次粒子径0.3〜0.6μmである、有機ケイ素化合物により表面処理されてなる、球形状または略球形状のシリカ系金属酸化物粒子I 40〜80質量%
b2)平均一次粒子径がb1)シリカ系金属酸化物粒子Iの平均一次粒子径の1/8〜1/4である、有機ケイ素化合物により表面処理されてなる、球形状または略球形状のシリカ系金属酸化物粒子II
15〜55質量%
b3)平均一次粒子径が5〜30nmであるシリカ系金属酸化物微粒子III 0.5〜5質量%
(C)重合開始剤 0.01〜5質量部
を含んでなる歯科用硬化性組成物。
【請求項2】
b3)シリカ系金属酸化物微粒子IIIが、フュームドシリカである請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
さらに、(D)平均一次粒子径が0.5〜2μmである、不定形粒子であるシリカ系金属酸化物粒子IVを、(B)シリカ系酸化物粒子混合フィラー100質量部に対して、10〜65質量部配合してなる請求項1または請求項2に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項4】
歯科用複合修復材である請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。

【公開番号】特開2008−260720(P2008−260720A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105066(P2007−105066)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】