説明

歯科用組成物

【課題】過酸化物のレドックス反応を利用して重合硬化する重合性樹脂として酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー,プレポリマーの少なくとも一つ以上を用いた歯科用組成物を保存安定性の高い歯科用組成物とする。
【解決手段】酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つから成る重合性樹脂を含む第一成分と、酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つから成る重合性樹脂を含む第二成分とより成り、一方の成分に重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体を、他方の成分に重合開始剤の還元性物質としてのチオ尿素誘導体を配合して歯科用組成物を構成する。一方及び/又は他方の成分中に充填材や増粘材を含む場合がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性樹脂が酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つから成り、その重合性樹脂を重合させる前の保存状態において長期間良好な保存安定性を示す歯科用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科用に用いられているメタクリレート等の重合性樹脂を用いた充填材や接着材等は、一つの成分から成り光重合させて使用するものと、二つの成分から成りこの二つの成分を混合・練和して使用するものとがある。二つの成分から成る製品では、二種類又はそれ以上の重合触媒が分かれて配合され、それらが使用時に混合されることによって重合性樹脂を重合させて使用される。
【0003】
二つの成分から成る製品としては、第1のペーストは架橋用メタクリレートモノマー、少なくとも1つのコモノマーメタクリレート稀釈材及び遊離基発生触媒から成る重合性メタクリル酸エステルモノマー系と無機充填材とから構成され、第2のペーストは架橋用メタクリレートモノマー、少なくとも1つのコモノマーメタクリレート稀釈材及び第三級芳香族アミン重合促進剤から成る重合性メタクリル酸エステルモノマー系と無機充填材とから構成される硬化性歯科用修復材(例えば、特許文献1参照。)や、重合性単量体、無機充填材、第三級アミンと有機過酸化物とからなる化学重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物であって第三級アミンを含む第1のペーストと有機過酸化物を含む第2のペーストとの2つのペーストに分割されて包装されている歯科用硬化性組成物(例えば、特許文献2参照。)等が提案されている。
【0004】
このように二つの成分から成り、少なくとも一方の成分に配合された重合性樹脂を重合させる所謂レドックス重合の製品の場合、過酸化物と還元性物質とが二つの成分中にそれぞれ分けて配合される。レドックス重合の過酸化物としては、前記特許文献1では過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、tert−ブチルヒドロペルオキシドが示されており、前記特許文献2ではt−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ジブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイルが例示されている。
また還元性物質としては、前記特許文献1ではN,N−ジメチル−P−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチレン−P−トルイジンの第三芳香族アミンが、前記特許文献2では芳香族第三級アミンと脂肪族第三級アミンとが例示されている。
【0005】
このようなレドックス重合用の過酸化ベンゾイルで代表される過酸化物は、室温で保管中に分解及びラジカル生成を起こしてしまいその成分中に共存する重合性樹脂を重合させてしまったり、過酸化物自体が失活してしまい重合硬化反応性が経時的に低下してしまう問題があった。通常、過酸化物は密閉された容器に乾燥状態で保管されるのが最も安定であるが、重合性性樹脂と共に長期間安定した状態で存在させることは難しかった。
【0006】
また、過酸化物の分解及びラジカル生成の速度は温度に依存し、低温では分解・ラジカル生成速度が遅いことを利用して、従来の製品には冷蔵保管が推奨されているものが多いが、輸送時にも冷蔵保管するとコストがかかり、またユーザーは使用時に冷蔵庫から取り出すという作業が面倒であった。また仮に冷蔵保管が推奨されていない製品であっても、室温において長期の保存安定性が保たれるわけではなく、変色やペーストのゲル化、又は硬化反応性の低下が起きてしまっていた。
【0007】
【特許文献1】特公平6−2651号公報
【特許文献2】特開2005−170813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、過酸化物のレドックス反応を利用して重合硬化する重合性樹脂として酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー、オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つ以上を用いた歯科用組成物を保存安定性の高い歯科用組成物とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体がポリマー鎖に過酸化水素を結合させており、重合性樹脂を含むペースト中で過酸化水素を放出し難い性質があることに着目し、この過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体の分解及びラジカル生成を行う還元性物質としてチオ尿素誘導体を使用すれば、過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体とチオ尿素誘導体とを共存させない状態にしておけば室温においても長期的に十分な保存が可能であり、必要なときに重合性樹脂と過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体とチオ尿素誘導体とを共存させれば速やかに重合性樹脂を重合させることが可能な歯科用組成物とすることができることを究明して本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つから成る重合性樹脂と、該重合性樹脂を重合硬化させるための重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体と該重合開始剤の還元性物質としてのチオ尿素誘導体とを含んでいることを特徴とする歯科用組成物である。
【0011】
この歯科用組成物としては、酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つと、重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体とを含む第一成分と、
酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つと、第一成分中の重合開始剤の還元性物質としてのチオ尿素誘導体とを含む第二成分と
から成る態様であることが好ましい。
【0012】
またこの態様において、いずれかの成分に充填材を含む場合や、増粘材を含む場合がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る歯科用組成物は、酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つから成る重合性樹脂と、この重合性樹脂を過酸化物のレドックス反応を利用して重合硬化する歯科用組成物であって、重合性樹脂を重合硬化させるための重合開始剤としてポリマー鎖に過酸化水素を結合させているので重合性樹脂を含む成分中で過酸化水素を放出し難い性質を持つ過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体を使用しており、この重合開始剤の還元性物質としてチオ尿素誘導体を使用しているため、保存安定性が高い歯科用組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つから成る重合性樹脂と、この重合性樹脂を重合硬化させるための重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体とこの重合開始剤の還元性物質としてのチオ尿素誘導体とを含んでいることを特徴とする歯科用組成物であり、
酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つと、重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体とを含む第一成分と、
酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つと、第一成分中の重合開始剤の還元性物質としてのチオ尿素誘導体とを含む第二成分と
から成る態様であることが好ましい。
【0015】
本発明で重合開始剤として用いる過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体は、ポリビニルピロリドンに過酸化水素を含む物質であって、例えば特表平6−505765号公報に記載されているような粉末状の複合体である。この複合体中の過酸化水素の濃度は、1〜30重量%であることが好ましい。この過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体は、長期的に過酸化水素を安定な状態で保つ。
【0016】
このように安定な過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体から過酸化水素を分解させラジカルを発生させて重合開始剤として作用させるには、還元性物質としてチオ尿素誘導体を必要とする。チオ尿素誘導体としては、1−ベンゾイル−2−チオ尿素、1−アセチル−2−チオ尿素、1−フェニル−2−チオ尿素、トリメチルチオ尿素、N−メチルチオ尿素、1−アリル−3−(2−ヒドロキシエチル)−2−チオ尿素、1−(2−テトラヒドロフルフリル)−2−チオ尿素等を例示することができ、特に1−ベンゾイル−2−チオ尿素、1−アセチル−2−チオ尿素が好ましい。
【0017】
このような重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体と、還元性物質としてのチオ尿素誘導体とを使用する本発明に係る歯科用組成物において、重合せしめられる重合性樹脂としては、酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つから成る重合性樹脂を使用する。
【0018】
このような重合性樹脂は、重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体と還元性物質としてのチオ尿素誘導体とが共存して、過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体から過酸化水素を分解させラジカルを発生させて重合開始剤としての作用が発生すると重合が開始されるので、重合開始前においては少なくとも重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体と還元性物質としてのはチオ尿素誘導体とが共存しない状態にあることが必要である。
【0019】
このように重合開始前において重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体と還元性物質としてのチオ尿素誘導体とが共存しない状態にするには、歯科用組成物を酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つと、重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体とを含む第一成分と、酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つと、第一成分中の重合開始剤の還元性物質としてのチオ尿素誘導体とを含む第二成分とから構成する態様とすれば、十分な保存安定性と優れた硬化性とを有するものとすることができるので好ましい。
【0020】
なお、この重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体の成分中への配合量は、0.01〜15重量%であることが好ましい。これは、0.01重量%未満では二つの成分を混合した後に十分な重合が得難く、15重量%を超えて配合しても重合の効果を向上させ難いからである。
【0021】
酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー,プレポリマーは、それ自体で重合硬化して歯科用組成物のマトリックスを形成する。この酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー,プレポリマーの配合量は各成分に対して5〜99重量%であることが好ましく、5重量%未満であると歯科用組成物の粘度が低下する傾向があり、適度なペースト状等にすることができなくなり易く、99重量%を超えて配合すると歯科材料としての各種添加剤が加えられず性能を発揮できない傾向がある。
【0022】
酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー,プレポリマーとしては、従来から使用されているモノマー,オリゴマー,プレポリマーが特に制限無く使用可能である。その一例を挙げると、一般に不飽和ポリエステル等の不飽和2重結合を有するモノマーや樹脂が用いられ、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(メタ)アクリロキシフェニルプロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、また分子中にウレタン結合を有する(メタ)アクリレート、特にジ−2−(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート等がある。これらのメタクリレート及びアクリレートは単独で或いは2種以上を混合して使用することができ、オリゴマー,プレポリマーとしても使用可能である。
【0023】
この酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー,プレポリマーとして、第一成分中の酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー,プレポリマーと第二成分中の酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー,プレポリマーとは同種の物質が使用可能である。
【0024】
第二成分中に配合される還元性物質としてのチオ尿素誘導体は、他方の成分と混合することでアニオンとなり他方の成分中の重合開始剤である過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体の過酸化水素を分解させラジカルを発生させる効果がある。
【0025】
なお、重合開始剤である過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体の重合補助剤して、アミン化合物(芳香族第3級アミン、脂肪族第3級アミン)を配合してもよい。具体的には、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4−ジメチル安息香酸メチル、4−ジメチル安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、トリエチルアミン、N−エチルジエタノールアミンなどが挙げられる。これらは単独又は2種以上混合して用いてもよいのは勿論であるが、重合開始剤である過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体とは共存しない状態にあることが必要である。このアミン化合物は、重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体とこの重合開始剤の還元性物質としてのチオ尿素誘導体との反応にに放出されるラジカルに反応して重合を促進する効果がある。
【0026】
本発明に係る歯科用組成物においては、第一成分と第二成分の一方又は両方に更に充填材を含むことが好ましい。この充填材は歯科用組成物の機械的強度を向上させる効果がある。充填材の各成分に対する配合量は1〜85重量%であることが好ましく、1重量%未満では歯科用組成物の強度を高める効果が低い傾向があり、85重量%を超えて配合すると歯質への接着性が低下する傾向がある。
【0027】
充填材としては、例えばシラン化合物などの噴霧熱分解で製造されたコロイダルシリカのようなシリカが一般的に使用されるが、その他、アルミナ,亜鉛華,ジルコニア,マグネシア,チタニア,ガラス等の無機質充填材が好ましい。また、前記(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー,プレポリマーの重合体を粉砕した充填剤も使用可能である。
【0028】
この充填材の平均粒子径は0.05〜20μmであることが好ましく、平均粒径が0.05μm未満の細粉を用いた場合には歯科用組成物の操作性が悪化し易く、20μmを超える場合には本発明に係る歯科用組成物を歯牙と歯科用補綴物との接着に使用する場合に歯科用補綴物と歯牙との間が大きくなりすぎて歯科用補綴物の適合精度が悪化する傾向がある。更に、無機質充填材の場合には通常の方法でシラン処理を行ったものを使用することもできる。
【0029】
またこの充填材としては、歯科用グラスアイオノマーセメントに使用されるフルオロアルミノシリケートガラス粉末や、歯科用リン酸亜鉛セメント及び歯科用カルボキシレートセメントに使用されている金属酸化物粉末も使用可能である。
【0030】
上記フルオロアルミノシリケートガラス粉末とは、従来から歯科用グラスアイオノマーセメントに用いられているガラス粉末であり、主成分としてAl3+,Si4+、F-,O2-を含み、更にSr2+及び/又はCa2+を含むフルオロアルミノシリケートガラス粉末であることが好ましい。更に、ガラスの総重量に対してAl3+:10〜21重量%、Si4+:9〜24重量%、F-:1〜20重量%、Sr2+とCa2+の合計10〜34重量%であることが好ましい。
【0031】
また、歯科用リン酸亜鉛セメント粉末及び歯科用カルボキシレートセメントに使用されている金属化合物粉末とは酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末でり、これらは一般的に酸化亜鉛70〜90重量%に酸化マグネシウム等の金属酸化物を10〜30重量%混合し、700℃以上の高温で焼結した後、冷却しボールミル等で粉砕して粉末を作製することができる。なお、他の金属酸化物として、例えば、酸化ストロンチウム,二酸化珪素,酸化第二鉄,酸化イットリウム等の金属酸化物を挙げることができる。
【0032】
第一成分と第二成分との一方又は両方に増粘材を含ませてもよい。この増粘材としては、従来から歯科で用いられている増粘剤が使用でき、ヒュームドシリカが特に好ましい。
【0033】
なお、本発明に係る歯科用組成物には必要に応じて通常用いられる光重合触媒,水,抗菌剤,顔料等を適宜配合することもできるのは勿論である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
『第一成分と第二成分の調製』
各実施例及び比較例に用いた第一成分と第二成分の配合を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1中の略語はそれぞれ以下の通りである。
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタアクリレート
GDMA:2-ヒドロキシ-1,3-ジメタアクリロキシプロパン
UDMA:ジ-2-メタクロキシ-エチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート
【0037】
SiO2フィラー:二酸化珪素
無機系増粘剤:シリカ−アルミナ微粉末(日本アエロジル社製,商品名:MOX170)
Pアミン:N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン
【0038】
K30:過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体(ISP社製,商品名:Peroxydone K-30)K90:過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体(ISP社製,商品名:Peroxydone K-90)XL-10:過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体(ISP社製,商品名:Peroxydone XL-10)
【0039】
ガラス粉末I:フルオロアルミノシリケートガラス粉末I
ガラス粉末II:フルオロアルミノシリケートガラス粉末II
ガラス粉末III:フルオロアルミノシリケートガラス粉末III
金属酸化物粉末I:酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末I
金属酸化物粉末II:酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末II
【0040】
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
KPS:ペルオキソ二硫酸カリウム
BSNa:ベンゼンスルフィン酸ナトリウム・二水和物
CQ:カンファーキノン
【0041】
NATU:1-アセチル-2-チオ尿素
NBTU:1-ベンゾイル-2-チオ尿素
IA:6-tert-ブチル-2,4-キシレノール
EPA:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル
【0042】
『粉剤であるフルオロアルミノシリケートガラス粉末の調製』
フルオロアルミノシリケートガラス粉末I,II及びIII(表1においてガラス粉末I,ガラス粉末II及びガラス粉末IIIと表示)の配合を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
原料を充分混合し1250℃の高温電気炉中で5時間保持しガラスを溶融させた。溶融後冷却し、ボールミルを用いて10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させた後の粉末100gに対し1gのγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを9gのエタノールと共に加え、通例に従い乾式のシランカップリング処理を行い、これをフルオロアルミノシリケートガラス粉末とした。
【0045】
『粉剤である金属酸化物粉末の調製』
歯科用リン酸亜鉛セメント粉末,歯科用カルボキシレートセメント粉末に使用されている金属酸化物粉末I及びIIの配合を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
原料を充分混合し1000℃の高温電気炉中で5時間保持し焼結させた。焼結後冷却し、ボールミルを用いて10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させ酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末とした。
【0048】
『保存試験』
それぞれの実施例及び比較例の試料を室温(約23℃)に1年間、又は恒温器中(約45℃)に1ヶ月間保管した後、第一成分1.0g、第二成分1.0gを練和紙上に測り採り、スパチュラを用いて40秒間の練和操作を行うことで均一に混合した。この試料の保存試験前の硬化時間との比較を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4から判るように、本発明に係る歯科用組成物である実施例1〜10は、重合触媒の劣化がなく、硬化時間も殆ど変化の無い保存安定性に優れた歯科用組成物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つから成る重合性樹脂と、該重合性樹脂を重合硬化させるための重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体と該重合開始剤の還元性物質としてのチオ尿素誘導体とを含んでいることを特徴とする歯科用組成物。
【請求項2】
酸基を持たない(メタ)アクリレートのモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つと、重合開始剤としての過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体とを含む第一成分と、
酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマー,オリゴマー及びプレポリマーの少なくとも一つと、第一成分中の重合開始剤の還元性物質としてのチオ尿素誘導体とを含む第二成分と
から成る請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
第一成分中及び/又は第二成分中に充填材を含む請求項2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
第一成分及び/又は第二成分中に増粘材を含む請求項2又は3に記載の歯科用組成物。