説明

歯科用陶材組成物

【課題】歯冠の審美性を向上させる歯科用陶材組成物を提供する。
【解決手段】酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラスを含み、軟化点が680℃以下の温度である陶材と、硬質マイカを金属または金属酸化物の薄層で被覆したパール顔料とを含むこととしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用陶材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用陶材組成物は、焼結した際に、強度、耐久性、低摩擦係数等の機能が要求されている。その機能面に加え、近年では審美性が求められるようになってきている。こうした要求を満足するものとして、歯科用陶材組成物は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラスが通常使用されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−323694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1における審美性は、歯科用陶材組成物の外観を自然歯に近づけることに留まっている。たしかに歯の色の不自然さを解消することは、看者に奇異な印象を与えない意味で審美性を向上させることとなる。しかし、歯が人間の顔を構成し顔の表情等に大きな影響を与えている以上、看者に自然な印象を与えるだけではなく、看者の注意を引く程度の美感を歯が備えることは重要である。
【0005】
人工歯の審美性を向上させる手段に、パール顔料を歯科用陶材組成物に混合する手段が考えられる。パール顔料は、通常の顔料と異なる光学的性質を有し、規則的な多重反射によって真珠のような光沢を有した顔料であり、多くは硬質マイカを金属や金属酸化物の薄層で被覆した構造をしている。しかし、パール顔料は、通常の陶材の焼成温度では分解してしまうため、人工歯の審美性を向上するために用いることはできなかった。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、歯冠の審美性を向上させる歯科用陶材組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、パール顔料が分解する温度(約720℃)以下で焼結できる陶材を開発し、当該陶材とパール顔料とを混合した歯科用陶材組成物を用いることにより、真珠光沢を持つ歯冠を作製できることを見出した。
【0008】
具体的には、本発明は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラスを含み、その軟化点が680℃以下の温度である陶材と、硬質マイカを金属または金属酸化物の薄層で被覆したパール顔料とを含むこととしている。
【0009】
本発明の歯科用陶材組成物によれば、パール顔料の輝きによって、従来に無かった審美性に優れた歯科用陶材組成物を提供することができる。また、陶材の軟化点が680°以下であるため、パール顔料の分解温度(通常700℃程度)以下で焼結でき、パール顔料の分解を防止できる。
【0010】
他の本発明に係る歯科用陶材組成物は、上述の発明に加え、パール顔料は、パール顔料を黒色人工皮革表面に平均0.05mg/cmで塗布し、入射光側にS偏光板、受光側にP偏光板を装着した分光測色計を用い、C光による2°視野の受光条件で、パール顔料の反射光量を測定したとき、測定試料面の法線方向に対して45°で入射し、法線方向で受光した粉体反射光のa*値及びb*値の絶対値が10以下であることとしている。このようなパール顔料は、虹色のより鮮やかな発色を有し好ましい。
【0011】
他の本発明に係る歯科用陶材組成物は、上述の発明に加え、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラスにおける各成分のプラズマ発光分光分析(ICP)による含有割合が、上記各成分をそれぞれSiO2、Al23、B23、およびNa2Oに換算したときのこれら各成分の合計に対する質量%で表して、それぞれSiO:57〜66質量%、Al:8〜20量%、B:15〜26質量%、およびNaO:1〜7質量%であることとしている。この構成を有することで、パール顔料が分解しない温度で、陶材とパール顔料とを同時に焼成することができる。
【0012】
さらに、他の本発明に係る歯科用陶材組成物は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラスが、前記主成分にさらに酸化亜鉛および酸化リチウムを含有し、この酸化亜鉛および酸化リチウムのプラズマ発光分光分析(ICP)による含有割合が、これら成分をそれぞれZnO、及びLi2Oに換算したときの前記主成分と前記酸化亜鉛および酸化リチウムの成分との合計に対する質量%で表して、それぞれZnO:5質量%以下、及びLiO:8質量%以下であることとしている。この構成を有することで、焼結体の熱膨張係数を低く(通常、5.5〜8×10−6)することができ、熱膨張係数が上記範囲より大きく(〜13×10−6)金属焼付け用として使用されるものではなく、オールセラミック用、特にはアルミナやディオプサイドをコアとして使用する陶材とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歯冠の審美性を向上させる歯科用陶材組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係る歯科用陶材組成物について説明する。
【0015】
以下に、本発明の実施の形態に係る歯科用陶材組成物に含まれる陶材およびパール顔料、さらには歯科用陶材組成物の製造法について説明する。
【0016】
(1.陶材)
陶材は、その組成が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化ナトリウム、及び酸化リチウムを主成分として含有するガラスを含んでなるものが使用される。このような陶材は、強度、耐久性、低摩擦係数等の機能に優れ、歯科用陶材として好適である。ただし、酸化亜鉛および酸化リチウムは、非必須成分であり、陶材の成分として含まれていなくても良い。
【0017】
本発明の最大の特徴は、上記組成の陶材として、軟化点が680℃以下のものを用いる点にある。一般に陶材に用いられるガラス質からなる粉末は、その軟化点より少なくとも20℃高温であれば十分な焼結性を示すようになるため、上記軟化点を有する陶材の焼成温度は700℃以下にすることができる。一方、パール顔料は、硬質マイカに二酸化チタンなどの無色金属酸化物を被覆したものであるところ、該硬質マイカは、600℃〜700℃の範囲で結晶水を放出し、分解が起こる物質である。そして、この硬質マイカの分解性は、上記パール顔料とするために、無色金属酸化物で被覆することにより、やや抑制されるため、陶材焼成のように短時間の暴露では、該パール顔料は720℃程度の焼成温度までであれば十分な耐熱性を有する。よって、上述の陶材とパール顔料とを混合した歯科用陶材組成物を焼成すると、パール顔料が分解することなく焼結させることができ、良好なパール光沢を有する焼結体を得ることができる。
【0018】
上記軟化点が680℃以下の陶材としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素および酸化ナトリウムを主成分とし、係る軟化点の要件を満足するものであれば制限なく使用できるが、具体的には、各成分をそれぞれSiO2、Al23、B23、およびNa2Oに換算したときのこれら各成分の合計に対する質量%で表して、それぞれSiO:57〜66質量%、Al:8〜20量%、B:15〜26質量%、およびNaO:1〜7質量%のものが挙げられる。
【0019】
上述の組成の陶材は、インサイザル陶材、トランスルーセント陶材、トランスペアレント陶材等とすることができる。
【0020】
本発明の実施の形態では、SiO:61質量%、Al:11質量%、B:18質量%、ZnO:2質量%、NaO:5質量%、およびLiO:4質量%の陶材を用いる。この組成の陶材は、二酸化珪素(試薬特級、和光純薬社製)30.4g、水酸化アルミニウム(試薬特級、関東化学社製)8.3g、酸化ホウ素(試薬特級、和光純薬社製)8.7g、炭酸リチウム(試薬特級、和光純薬社製)4.7g、炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬社製)4.0g、酸化亜鉛(試薬特級、和光純薬社製)1.1gを秤量、混合した後、混合物を1300℃にて2時間溶融後、冷却して得られた均一なガラスをアルミナ乳鉢により粉砕した後、200メッシュのふるいにて分級し、ふるい通過分を回収して得られる。
【0021】
好ましい陶材のガラスにおける酸化ケイ素の含有量は、SiO換算で57〜66質量%であり、より好ましくは57〜63質量%である。酸化ケイ素の含有量が66質量%以下の場合には、ガラスの軟化点を過度に高くしないようにできる。一方、酸化ケイ素の含有量が57質量%以上の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。
【0022】
好ましい陶材のガラスにおける酸化アルミニウムの含有量は、Al換算で8〜20質量%であり、より好ましくは9〜19質量%である。酸化アルミニウムの含有量が20質量%以下の場合には、ガラスの高温での粘性を抑制し、軟化点が高くなり過ぎるのを防止できる。一方、酸化アルミニウムの含有量が8質量%以上の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。
【0023】
好ましい陶材のガラスにおける酸化ホウ素の含有量は、B換算で15〜26質量%であり、より好ましくは16〜23質量%である。酸化ホウ素の含有量が26質量%以下の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。一方、酸化ホウ素の含有量が15質量%以上の場合には、ガラスの軟化点を低くすることができる。
【0024】
好ましい陶材のガラスにおける酸化ナトリウムの含有量は、NaO換算で1〜7質量%であり、より好ましくは1〜5質量%である。酸化ナトリウムは、ガラスにおいて融剤の働きをする。その含有量が7質量%以下の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの熱膨張係数が過度に大きくならず、それをセラミックス製のフレームに焼き付けた場合に剥離等が起きにくくなり、それと共に化学的耐久性が高まる。一方、酸化ナトリウムの含有量が1質量%以上の場合には、ガラスの軟化点を低く抑えることができる。
【0025】
本発明の実施の形態に係る陶材のガラスの必須の成分は、上記の酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、および酸化ナトリウムであるが、酸化亜鉛および酸化リチウムを加えるのが良好な態様である。このように酸化亜鉛および酸化リチウムを加えることにより、焼結体の熱膨張係数を低くすることができ、例えば、オールセラミック用、特にはアルミナやディオプサイドをコアとして使用する陶材とすることができ好ましい。酸化亜鉛の好適な含有量は、当該酸化物をZnOに換算し、これら他の金属酸化物の質量を前記SiO2、Al23、B23、及びNa2Oの各成分の合計からなる基準質量(以下、この合計質量を単に「基準質量という」)に加えた質量を基準として5質量%以下であり、より好ましくは0.1〜4%質量%である。酸化亜鉛は、ガラスにおいて融剤の働きをし熱膨張係数を大きくすることなく軟化点を下げる働きをするため好ましい。その含有量が5質量%以内の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。一方、酸化亜鉛の含有量が0.1質量%以上の場合には、融剤としてより有効に機能し好ましい。
【0026】
酸化リチウムを加える場合も、その好適な含有量は、当該酸化物をLiOに換算し、これら他の金属酸化物の質量を前記基準質量に加えた質量を基準として8質量%以下、より好ましくは2〜5質量%である。酸化リチウムを当該含有量とすると、ガラスの熱膨張係数を低く抑えることができる。
【0027】
なお、このように酸化亜鉛および酸化リチウムを含有する場合の、前記SiO2、Al23、B23、及びNa2Oの各成分の、これら成分の合計からなる前記基準質量に上記ZnO、及びLi2Oの質量を加えた質量に対するそれぞれの質量%は、好ましくはSiO:57〜65質量%、Al:8〜18質量%、B:15〜25質量%、およびNaO:1〜7質量%であり、より好ましくはSiO:57〜32質量%、Al:9〜17質量%、B:16〜22質量%、およびNaO:1〜5質量%になる。
【0028】
また、本発明の実施の形態に係る陶材のガラスには、必要により、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化バリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化物を加えることにより、ガラス軟化点の低下と歯科用陶材組成物中の気泡の減少等を図ることができる。当該効果を有効に発揮するには、当該少なくとも一種の酸化物の含有量は、当該酸化物を、それぞれKO、CaO、MgO及びBaOに換算したときに、前記基準質量にこれら他の金属酸化物の質量を加えた質量を基準として、それぞれ7質量%以下であるのが好ましく、さらには1〜5質量%とするのが好ましい。
【0029】
さらに、本発明の実施の形態に係る陶材のガラスには、前記必須成分以外に各種金属酸化物を配合することが可能である。これらの金属酸化物を例示すれば、酸化ストロンチウム;酸化リン;酸化錫;酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の遷移金属酸化物;および酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化タンタル等のランタノイド酸化物等を挙げることができる。
【0030】
なお、軟化点が680℃以下の陶材としては、上記説明したものに限定されるものではなく、この他にも、例えば、特開平5−194134号公報に記載の組成によっても良好に達成できる。
【0031】
(2.パール顔料)
本発明においてパール顔料は、パール光沢を発揮させるために必要な薄片状粉体として、表面の平滑性に優れ、透明や淡黄色等の歯科用に適した色調を有していることから硬質マイカを使用し、これを金属または金属酸化物の薄層で被覆したものを用いている。この構造のパール顔料では、硬質マイカとこれを被覆する金属または金属酸化物の薄層との間の屈折率の違いにより、その境で光が反射してパール光沢が創り出される。なお、この金属または金属酸化物の薄層は、異なる種類で2層以上設けても良い。
【0032】
硬質マイカは、通常、化学式でKAl(SiAl)O10(OH)で表すことができ、これは前記したように600℃〜700℃の範囲で結晶水を放出し分解する性質を有している。したがって、陶材として、軟化点が680℃以下のもの(すなわち、焼成温度を700℃以下にできるもの)を用いて歯科用陶材組成物としなければ、これを用いたパール顔料は、焼成時に該硬質マイカが分解してしまい、パール光沢が損なわれてしまう。
【0033】
また、硬質マイカの粉体は、平均粒径が2〜200μmで、平均厚さが0.01〜5μmであることが好ましい。特に、塗料等に配合する際には、配合適正の点から、薄片状の粉体は、平均粒径が2〜20μmで、平均厚さが0.05〜1μmであることが好ましい。ここで、平均粒径は、体積平均粒径(D4)(体積分率で計算した平均粒径)を示す。平均粒径の測定には、レーザ回折式の粒度分布計を用いる。この測定方法は容易で再現性の良好なものである。薄片状の粉体の平均厚さは、原子間力顕微鏡を用いて基準面との差を測定し、相加平均して求められる。
【0034】
硬質マイカを被覆する薄層は、金属または金属酸化物のいずれでも良く、これらは有色及び無色のいずれでも良く、その屈折率とパール顔料に求められる色調等に応じて適宜に採択すればよい。有色金属としては、金、銅等を好適に用いることができ、特に金が好適である。無色金属としては、チタン、ジルコニウム、亜鉛、錫、ケイ素、アルミニウム等を用いることができる。これらの中では、特にチタンを用いるのが好ましい。また、有色金属酸化物としては、酸化鉄、低次酸化チタン、酸化銅、酸化コバルト、酸化クロム、酸化ニッケル等を用いることができる。これらの中では、特に酸化鉄を用いるのが好ましい。有色金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等を用いることができる。これらの中では、特に酸化チタンを用いるのが好ましい。
【0035】
これらの被覆する薄層に用いる材質の中でも、歯科用としての審美性を勘案すると、通常は、無色のものが好ましく、歯科用としての色調の良好さ等の理由からから無色金属酸化物がより好ましい。最も好ましくは、上記無色金属酸化物であり、しかも、光が照射されることで抗菌効果を発揮し、歯科用陶材組成物に含まれた場合には、口腔内を殺菌する効果を有すること等から、酸化チタンである。
【0036】
この金属または金属酸化物の薄膜層の厚みは、散乱光を抑えた鮮やかな発色にする等の優れたパール光沢を得る観点から、一般には250nm以下が好ましく、特に、10〜210nmであるのがより好ましい。
【0037】
本発明の実施の形態に係るパール顔料の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法に従えばよい。例えば、金属酸化物の薄層を設けるのであれば、硬質マイカの水分散液に、金属酸化物薄層の前駆体の水溶液を添加し、次いで、混合液にアルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、固体を分離した後、上記硬質マイカが分解しない温度および時間の範囲で焼成する方法が挙げられる。
【0038】
より好ましいパール顔料は、パール顔料を黒色人工皮革表面に平均0.05mg/cmで塗布し、入射光側にS偏光板、受光側にP偏光板を装着した分光測色計を用い、C光による2°視野の受光条件で、パール顔料の反射光量を測定したとき、測定試料面の法線方向に対して45°で入射し、法線方向で受光した粉体反射光のa*値及びb*値の絶対値が10以下、より好ましくは5以下である。ここで、上記a*値及びb*値は、国際照明委員会(1976年)で規定された色度であり、このa*値及びb*値の絶対値が上記特定した値に小さいものが、散乱による光吸収を抑えることができ、これによりパール顔料の赤色の発色を抑え鮮やかな白から透明の虹色の発色を有するものとすることができる。この測色を行う測定機は、村上色彩技術研究所社製のGCMSシリーズ等である。その他、a*値及びb*値の絶対値を用いて、パール顔料を散乱色の抑制の程度評価することは、例えば特開2006−193737号公報に、その測定方法とともに詳述されている。
【0039】
パール顔料は、虹彩色(干渉色)を呈する。この色彩効果は、光の干渉現象によって生じ、例えばその強さは二酸化チタンをコートした場合にはコート層の膜厚によって色が変化する効果を利用している。たとえば、光が干渉膜を通過するとその膜の厚さが210nmの場合は紫色の光を透過し紫色を除いた残りの光を反射してその色は黄色になる。これは光の入射角度または観察者の見る位置によってその色が変化することを意味する。これは、シャボン玉または水面に拡がった油膜がその膜厚に応じて七色の輝きを発する現象(薄膜の干渉現象)に相当する現象である。この効果が歯冠の天然歯に類似した審美性を生み出す。
【0040】
なお、本発明の実施の形態に係るパール顔料には、真珠またはアワビ貝等が放つ柔らかな美しい輝きを放つものが含まれる。このような輝きは、光の多重層反射によって起こる。このような輝きを呈する顔料は、薄板状雲母粒子の表裏を二酸化チタンで被覆したもので、この粒子が層状にされることによって、光が多重層反射され真珠と同じような光沢感を与える。これは、たとえば透明なセロファンまたはポリ袋を何枚も重ねたときに柔らかな光沢を呈するのと同じ現象である。つまり、セロファン・空気・セロファン・空気の繰り返しによって光の多重層反射の効果を生み出しているのと同じ現象である。
【0041】
パール顔料は、歯科用陶材組成物中に混合することで、歯の光沢性と輝きを強調する効果を有する。また、以上のように本発明の実施の形態に係るパール顔料には、様々の色彩、色合い、特性のものがあるため、そのパール顔料が含まれた歯科用陶材組成物の使用者は、それらの中から好みのものを選択することができる。また、その使用者は、複数種の様々の色彩、色合いのパール顔料を含んだ歯科用陶材組成物を用意しておき、適宜付け替えることも可能である。
【0042】
(3.歯科用陶材組成物の製造法)
歯科用陶材組成物は、上述した陶材とパール顔料とを混合して得られる。陶材とパール顔料との混合割合は質量%表記で、好ましくは1〜20%、より好ましくは3%〜15%である。パール顔料の添加量が20%を超える場合には焼結が阻害され、良好な焼成体が得られなくなる虞がある。また、数%の添加量でもパール光沢は発現するが、より効果が得やすいものは3%以上の場合である。歯科用陶材組成物は、水と練和されて練和泥とされて使用される。練和するために使用される水の量は、特に規定されないが歯科用陶材組成物100質量部に対して、30〜80質量部であるのが好ましい。この練和泥を、歯冠の表面に塗布し、あるいは、その成形物をコア上に盛り付けた後、陶材の軟化点より20℃高い温度〜720℃までの温度範囲、より好ましくは陶材の軟化点より20℃高い温度〜700℃までの温度範囲で焼成する。その焼成時間は、上記温度範囲内であっても、余り長くなると硬質マイカが分解する虞が生じるため、一般には0.1〜5分、より好ましくは0.2〜3分が良好である。
【0043】
上述した本実施の形態に係る歯科用陶材組成物は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【実施例】
【0044】
実施例1
二酸化ケイ素(試薬特級、和光純薬社製)30.4g、水酸化アルミニウム(試薬特級、関東化学社製)8.3g、酸化ホウ素(試薬特級、和光純薬社製)8.7g、炭酸リチウム(試薬特級、和光純薬社製)4.7g、炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬)4.0g、酸化亜鉛(試薬特級、和光純薬)1.1gを秤量、混合した後、混合物を1300℃にて2時間溶融後ステンレス板上に流し出して冷却し均一なガラスを得た。
【0045】
溶融により得られたガラスをアルミナ製ボールミルにより粉砕した後、100メッシュの篩いにて分級し、平均粒子径を35μmとしガラスAとした。このガラスAの酸化ホウ素の含有量を求めると19.1質量%であった。この含有量は、プラズマ発光分光分析(ICP:パーキンエルマー社製、OPTIMA4300DV)によって求めた(以下同じ。)。このガラスAのその他の主成分となる金属酸化物の含有量を求めると、酸化ケイ素は63.4質量%、酸化アルミニウムは9.3質量%、酸化リチウムは2.2質量%、酸化ナトリウムは2.2質量%、酸化亜鉛は3.8質量%であった。また、このガラスAの軟化点をJIS R3104に基づき測定したところ673℃であった。
【0046】
硬質マイカを二酸化チタンの薄層で被覆したパール顔料である商品名「マグナパール2100」(エンゲルハンド製、平均粒子径12μm)を、黒色人工皮革表面に0.05mg/cmで塗布し、入射光側にS偏光板、受光側にP偏光板を装着した分光測色計を用い、C光による2°視野の受光条件で、前記パール顔料の反射光量を測定したとき、測定試料面の法線方向に対して45°で入射し、法線方向で受光した粉体反射光のa*値及びb*値の絶対値は4であった。
【0047】
このマグナパール2100を上記により得られたガラスAに対し、10質量%を加えて陶材組成物を得た。この陶材組成物0.46gと蒸留水0.24gを練和し、厚さ1.5mm、直径12mmの孔を有する型にコンデンスを行いながら充填し、成型体を得た。この成型体を、ポーセレンファーネス(シグマ120、TDF社製)を用い、予め450℃に加熱された炉口で5分間保持して乾燥を行った後に炉内に導入し、25℃/分の速度で昇温して700℃で2分間保持する焼成条件で焼結した。この焼結体の陶材について、目視でパール光沢が確認できた。
【0048】
実施例2
二酸化ケイ素(試薬特級、和光純薬社製)31.2g、水酸化アルミニウム(試薬特級、関東化学社製)8.5g、酸化ホウ素(試薬特級、和光純薬社製)8.2g、炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬)4.4gを秤量、混合した後、混合物を1300℃にて2時間溶融後ステンレス板上に流し出して冷却し均一なガラスを得た。
【0049】
溶融により得られたガラスをアルミナ製ボールミルにより粉砕した後、100メッシュの篩いにて分級し、平均粒子径を30μmとしガラスBとした。このガラスBの酸化ホウ素の含有量を求めると17.9質量%であった。同様に、このガラスBのその他の主成分となる金属酸化物の含有量を求めると、酸化ケイ素は68.0質量%、酸化アルミニウムは9.9質量%、酸化ナトリウムは2.5質量%であった。また、このガラスAの軟化点をJIS R3104に基づき測定したところ674℃であった。なお、この陶材は、700℃で焼結した。実施例1のガラスAに替わりガラスBを用いた陶材は、パール光沢が確認できた。
【0050】
実施例3〜4
実施例1において、パール顔料の混合量を実施例3の陶材では15質量%、実施例4の陶材では3質量%に変える以外は実施例1と同様に実施して陶材組成物を製造した。得られた陶材組成物はパール光沢が確認できた。
【0051】
実施例5
実施例1において、パール顔料を、同じく硬質マイカを二酸化チタンの薄層で被覆した別のパール顔料である商品名「マグナパール3000」(エンゲルハンド製、平均粒子径7μm)に変える以外は実施例1と同様に実施して陶材組成物を製造した。尚、マグナパール3000の、法線方向で受光した粉体反射光のa*値及びb*値の絶対値は2であった。得られた陶材組成物はパール光沢が確認できた。
【0052】
実施例6
実施例1において、マグナパール2100に、さらにマグナパール3000を2質量部加える以外は実施例1と同様に実施して陶材組成物を製造した。得られた陶材組成物はパール光沢が確認できた。
【0053】
従来例1
実施例1において、パール顔料を加えない以外は実施例1と同様に実施して陶材組成物を製造した。得られた陶材組成物を用いて、パール光沢の有無を確認したところパール光沢は確認できなかった。
【0054】
比較例1
二酸化ケイ素(試薬特級、和光純薬社製)32.5g、水酸化アルミニウム(試薬特級、関東化学社製)5.0g、酸化ホウ素(試薬特級、和光純薬社製)5.0g、炭酸リチウム(試薬特級、和光純薬社製)9.9g、炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬)5.1g、酸化亜鉛(試薬特級、和光純薬)1.0gを秤量、混合した後、混合物を1300℃にて2時間溶融後ステンレス板上に流し出して冷却し均一なガラスを得た。
【0055】
溶融により得られたガラスをアルミナ製ボールミルにより粉砕した後、100メッシュの篩いにて分級し、平均粒子径を30μmとしガラスCとした。このガラスCの酸化ホウ素の含有量を求めると10.9質量%であった。同様に、このガラスCのその他の主成分となる金属酸化物の含有量を求めると、酸化ケイ素は67.6質量%、酸化アルミニウムは8.5質量%、酸化リチウムは4.5質量%、酸化ナトリウムは1.4質量%、酸化亜鉛は3.5質量%であった。また、このガラスCの軟化点をJIS R3104に基づき測定したところ708℃であった。
【0056】
実施例1において、ガラスAの代わりにガラスCを用い、得られた陶材を用いて、730℃で焼成し、パール光沢の有無を確認したがパール顔料が分解し、パール光沢は確認できなかった。なお、この陶材は、700℃以下の温度ではチョーク状のポーラス体となり焼結しなかった。
【0057】
上記実施例1〜6および従来例1および比較例1より得られた陶材組成物に用いたパール顔料の種類・質量部、ガラスの種類、およびパール光沢を表1に示す。表1のパール光沢が「○」のものは、パール光沢が確認できたものであり、「×」のものは、パール光沢が確認できなかったものである。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、歯科用陶材組成物を製造または使用する産業に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラスを含み、軟化点が680℃以下の温度である陶材と、硬質マイカを金属または金属酸化物の薄層で被覆したパール顔料とを含むことを特徴とする歯科用陶材組成物。
【請求項2】
前記パール顔料は、前記パール顔料を黒色人工皮革表面に平均0.05mg/cmで塗布し、入射光側にS偏光板、受光側にP偏光板を装着した分光測色計を用い、C光による2°視野の受光条件で、前記パール顔料の反射光量を測定したとき、測定試料面の法線方向に対して45°で入射し、法線方向で受光した粉体反射光のa*値及びb*値の絶対値が10以下であることを特徴とする請求項1記載の歯科用陶材組成物。
【請求項3】
酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラスにおける各成分のプラズマ発光分光分析(ICP)による含有割合が、上記各成分をそれぞれSiO2、Al23、B23、およびNa2Oに換算したときのこれら各成分の合計に対する質量%で表して、それぞれSiO:57〜66質量%、Al:8〜20量%、B:15〜26質量%、およびNaO:1〜7質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用陶材組成物。
【請求項4】
酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラスが、前記主成分にさらに酸化亜鉛および酸化リチウムを含有し、この酸化亜鉛および酸化リチウムのプラズマ発光分光分析(ICP)による含有割合が、これら成分をそれぞれZnO、及びLi2Oに換算したときの前記主成分と前記酸化亜鉛および酸化リチウムの成分との合計に対する質量%で表して、それぞれZnO:5質量%以下、及びLiO:8質量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用陶材組成物。

【公開番号】特開2009−137847(P2009−137847A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313137(P2007−313137)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】