説明

歯科鋳造用合金

【課題】ベース合金としてAuとAgを合計で40%以上含有する歯科鋳造用合金において、Znを含有させなくても、鋳巣の発生を抑えることができ、補綴物の機械的特性の劣化を防止できる歯科鋳造用合金を提供する。特に、繰り返し鋳造を行なっても上記作用を顕著に発揮させることができる歯科鋳造用合金を提供する。
【解決手段】AuとAgを含有し、これらの合計が40%(質量%の意味。以下同じ)以上の歯科鋳造用合金であって、該合金はZnを含有せず、Gaを10%以下(0%を含まない)含有する歯科鋳造用合金である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造法によって歯科補綴物を製造する際に原料素材として用いる歯科鋳造用合金に関するものであり、具体的には、Au(金)とAg(銀)を合計で40%以上含有する歯科鋳造用合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科補綴物を作製する際に用いる歯科鋳造用合金としては、例えば、金銀パラジウム合金や銀合金、金合金、ニッケルクロム合金、コバルトクロム合金、チタン合金等が知られている。
【0003】
成人用の歯科補綴物を作製する際には、長期使用に耐えうるように、Auを含有する歯科鋳造用合金が原料素材として用いられる。ところが純金で歯科補綴物を作製すると、補綴物の強度が不足し、長期使用に耐えられない。また、著しく高価になる。そこで補綴物の強度を高め、しかも価格を抑えるために、一般には、Auに対しどのような配合比率でも固溶するAgを合金化したAu−Ag系の歯科鋳造用合金が、歯科補綴物の原料素材として用いられている。
【0004】
ベース金属としてAuとAgを含有する歯科鋳造用合金としては、例えば、特許文献1に、Au、Ag、PdおよびInを含有する歯科鋳造用合金が提案されている。この文献には、AuとInの配合バランスを制御することによって、鋳巣や合金組成偏析を発生させずに耐変色性を確保できることが記載されている。
【0005】
ところで補綴物を作製する過程で、AuとAgを含有する歯科鋳造用合金を溶融させると、合金中のAgが酸化して酸化物を形成し、溶湯表面にスラグ膜を形成する。このスラグ膜は、鋳込み時に溶湯内に混入し、鋳型内での溶湯(溶融金属)の流れを悪くする。また、溶湯にスラグが混入すると補綴物に鋳巣が発生する。鋳巣が発生すると、補綴物の機械的特性(特に、強度や伸び)が劣化する。
【0006】
こうしたAgの酸化を防止するために、合金にZnを酸化防止剤として含有させることが知られている。Znは合金内で脱酸剤として作用して溶融時にAgが酸化するのを防止する。また、Znは補綴物の耐変色性を向上させる作用も有している。しかしZnを含有させると、患者によってはZnアレルギーを発症することがあった(非特許文献1)。
【0007】
ところでAuを含有する歯科鋳造用合金は高価なため、補綴物として使用しなかった合金(例えば、押湯や湯道に残った合金など)は、再度溶融して利用される。ところが溶融と鋳造を繰返すと、補綴物の機械的特性(特に、強度と伸び)が低下することがあり、繰り返し使用による機械的特性の改善が求められていた。
【0008】
なお、Auを含まない歯科鋳造用合金であるが、特許文献2には、In,Zn,Ga,PdおよびFeを含み、残部がAgからなる歯科鋳造用Ag合金が開示されている。ここでは合金の鋳造時の酸化を防止し、繰り返し鋳造時における合金の物性の劣化を防ぐために、ZnとGaの両方を使用することが開示されている。
【特許文献1】特開2003−155528号公報
【特許文献2】特開平7−76744号公報
【非特許文献1】「歯科と金属アレルギー」、井上昌幸、株式会社デンタルダイヤモンド社、1993年11月1日発行、P.12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ベース合金としてAuとAgを合計で40%以上含有する歯科鋳造用合金において、Znを含有させなくても、鋳巣の発生を抑えることができ、補綴物の機械的特性の劣化を防止できる歯科鋳造用合金を提供することにある。特に、本発明では、繰り返し鋳造を行なっても上記作用を顕著に発揮させることができる歯科鋳造用合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできた本発明に係る歯科鋳造用合金とは、AuとAgを含有し、これらの合計が40%(質量%の意味。以下同じ)以上の歯科鋳造用合金において、当該合金はZnを含有せず、Gaを10%以下(0%を含まない)含有する点に要旨を有する。
【0011】
本発明の歯科鋳造用合金は、更に他の元素として、
(a)Pt:10%以下(0%を含まない)、Pd:30%以下(0%を含まない)およびIr+Ru+Rh:合計で1%以下(0%を含まない)、よりなる群から選ばれる少なくとも1種の白金族元素、
(b)Cu:25%以下(0%を含まない)、
(c)In:30%以下(0%を含まない)、
(d)B、P、Ca、Sn、Mg、Al、Si、Mn、Fe、Zr、Ge、Y、Re、およびTiよりなる群から選ばれる元素を、合計で3%以下(0%を含まない)、
等を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベース合金としてAuとAgを合計で40%以上含有する歯科鋳造用合金に、所定量のGaを含有させることで、Znを配合しなくても溶融時におけるAgの酸化を防止できる。そのためスラグの発生を抑えることができ、補綴物に発生する鋳巣を低減できる。本発明のGa含有Au−Ag含有合金は、Znを配合していないため、Znアレルギー体質の患者にも適用可能となる。しかもGaは、Znに比べAg酸化抑制作用を長期にわたって発揮できるため、溶融と鋳造を繰り返し行なってもスラグが発生し難く、補綴物の機械的特性(特に、強度と伸び)が劣化するのを防止できる。さらにGaは、耐変色性向上作用も有しているため、Znの優れた作用を全て維持しつつ、Znよりも極めて顕著な繰り返し使用によるスラグ発生防止作用や機械的特性改善作用も発揮できる点で極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の歯科鋳造用合金は、AuとAgの両方を含有するベース合金に対し、Znの代わりにGaを含有する点に特徴がある。
【0014】
なお、前述した特許文献2には、ベース合金の種類は異なるが、Znは合金の鋳造時の酸化を防止し、繰り返し鋳造時における合金の物性の劣化を防ぐ効果を有すること、GaはZnと同様の作用を有することが記載されているが、ここには本発明のようにZnレス合金を提供することは全く意図していない。また本発明者らの実験によれば従来の認識とは異なって、Gaの脱酸作用はZnの脱酸作用をはるかに上回ることが明らかになった。即ち、後述する実施例で明らかにするように、Gaの脱酸作用は、溶融と鋳造を繰り返し行っても継続的に発揮されるため、スラグの発生を長期にわたって抑えることができ、補綴物の機械的特性(特に、強度と伸び)の劣化を最小限に抑えることができる。これに対し、Znの脱酸作用は後述する実施例で示すように、鋳造を繰り返すに連れて低下し、スラグが生成するため、補綴物の機械的特性(特に、強度と伸び)が劣化する。
【0015】
更に、Znの代わりにGaを含有させることによって、Znを含有させる場合よりも歯科鋳造用合金の融点を下げることができ、鋳造作業性を改善できる。即ち、Gaの融点は29.8℃であるのに対し、Znの融点は419℃であるため、Ga含有歯科鋳造用合金の方が融点は低い。歯科鋳造用合金の融点が低下すれば、鋳造可能温度域が広がるため、溶融温度の制御が適切に行なわれない場合であっても歯科鋳造用合金を鋳造できる。従って鋳造作業がし易くなる。
【0016】
上述したGaによる作用を有効に発揮させるには、Gaの含有量は0.05%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.1%以上である。しかし過剰に含有させても歯科鋳造用合金の融点が低下し過ぎるため、補綴物の強度を確保するために行なわれる鋳造後の熱処理(通常、約400〜700℃に加熱)で変形し易くなる。従って実用性を考慮してGaの含有量は10%以下とする。好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下である。
【0017】
本発明の歯科鋳造用合金は、ベース合金としてAuとAgを含有し、これらの合計が40%以上を満足している。後記するようにAuの耐食性向上作用とAgの強度向上作用の両方を有効に発揮させるには、上記のベース合金の活用が好ましいからである。
【0018】
ベース合金のうち、Auは耐食性に極めて優れているため、口腔内での耐変色性に優れている。また、Auは、良好な延性を有しているため、補綴物の伸びを向上させることができ、補綴物の破損を防止できる。Auの含有量の具体的な下限は、使用目的や用途等によっても相違するが、例えば、約5%以上(特に、10%以上)である。Au含有量の上限も特に限定されないが、Auは強度が低い元素であるため、補綴物としての強度を確保する観点から、例えば、約85%以下とするのがよい。
【0019】
一方、ベース合金のうち、AgはAuと容易に合金化する元素であり、特に補綴物の強度を確保するためには、おおむね35%以上含有することが好ましい。より好ましくは40%以上である。Ag含有量の上限は特に限定されないが、Agは口腔内で硫化して変色し易いため、例えば、65%以下とするのがよい。
【0020】
ここでベース合金としてAuとAgを含有する歯科鋳造用合金としては、例えば、
(1)Auが65%以上で、Auと白金族元素(Pd、Pt、Ir、RuおよびRh)の合計が75%以上を満足するJIS T6116の「歯科鋳造用金合金」、
(2)Auと白金族元素の合計が25%以上、75%未満を満足するJIS T6122の「貴金属含有量が25%以上、75%未満の歯科鋳造用合金」、
(3)Auが12%以上、Pdが20%以上、Agが40%以上を満足するJIS T6106の「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」、或いは
(4)Auが20%以下(0%を含まない)、Agが40%以上を満足する合金、
等に適用可能である。後記する実施例に示すようにいずれの合金系においてもGaの添加による優れた脱酸作用が有効に発揮されている。
【0021】
上述したように本発明の歯科鋳造用合金は、少なくともAuとAgとGaを含み、鋳造過程で不可避的に混入してくる不純物も許容し得る。本発明の合金は、Gaを含むAu−Ag合金であって、残部が不可避不純物からなるものであってもよいが、必要に応じて、更に、
(a)Pt:10%以下(0%を含まない)、Pd:30%以下(0%を含まない)、およびIr+Ru+Rh:合計で1%以下(0%を含まない)、よりなる群から選ばれる少なくとも1種の白金族元素、
(b)Cu:25%以下(0%を含まない)、
(c)In:30%以下(0%を含まない)、
(d)B、P、Ca、Sn、Mg、Al、Si、Mn、Fe、Zr、Ge、Y、Re、Tiよりなる群から選ばれる元素を、合計で3%以下(0%を含まない)、
等の選択元素を含有していてもよい。これらの選択元素を含有させることによって更に下記の特性を向上させることができる。
【0022】
(a)白金族元素(Pt、Pd、Ir、Ru、Rh)は、いずれも補綴物の強度を高める元素であり、夫々単独で、或いは任意に選択される2種以上を併用して含有してもよい。各元素の好ましい含有量は以下の通りである。
【0023】
[Pt(白金):10%以下(0%を含まない)]
Ptは、補綴物の強度を高めるほか、硬度や耐変色性も高める元素である。しかし過剰に含有すると、合金の溶融温度が高くなるため、鋳造可能温度域が狭くなる。また、過剰の含有はコスト高となる。従ってPt含有量は10%以下とする。好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下である。Ptは、少量の添加でその効果を発揮するが、好ましくは0.05%以上含有するのがよい。
【0024】
[Pd(パラジウム):30%以下(0%を含まない)]
Pdは、Ptと同様の効果を発揮する元素であるが、Ptと比べると相対的に安価である。しかし過剰に含有すると、合金の溶融温度が高くなり過ぎると共に、溶融した合金が凝固して収縮するときに割れが生じ易くなる。従ってPd含有量は30%以下とする。好ましくは25%以下である。Pdは、少量の添加でその効果を発揮するが、好ましくは10%以上含有するのがよい。
【0025】
[Ir(イリジウム)+Ru(ルテニウム)+Rh(ロジウム):合計で1%以下(0%を含まない)]
Ir、RuおよびRhは、いずれもPtやPdマトリックス中に拡散固溶し、PtやPdの結晶を微細化することで外部から応力が負荷されたときの応力を分散させ、補綴物の機械的特性(強度・伸び・硬度)を向上させる元素である。しかしIr、RuおよびRhは、AuやAgに対する溶解度が低いため、これらの元素の合計量が1%を超えると偏析を生じ易くなり、補綴物の強度や伸び、靭性が低下する。従ってIr、RuおよびRhの合計量は1%以下とする。好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.5%以下である。Ir、RuおよびRhの合計量は、0.005%以上であることが好ましい。なお、Ir、Ru、Rhは、夫々単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を使用できる。
【0026】
(b)Cuは、Auと合金化して補綴物の強度を高める元素である。特に、補綴物に熱処理を施すことで、強度が高くなる。しかしCuは酸化され易いため、Cuを過剰に含有させるとスラグが発生する。従ってCu含有量は25%以下とするのがよい。好ましくは20%以下である。Cuは少量の添加で上記作用を発揮するが、好ましくは5%以上含有させるのがよい。
【0027】
本発明の歯科鋳造用合金としては、上記(a)の白金族元素と上記(b)のCuの両方を含む例として、Au:20%以下(0%を含まない)、Ag:40%以上、Pd:30%以下(0%を含まない)、Cu:25%以下(0%を含まない)のAu−Ag−Ga−白金族元素−Cu合金が挙げられる。
【0028】
(c)上述したように、PtやPdは、補綴物の耐変色性を向上させる作用を有しているが、PtやPdは比較的高価な元素である。そこでPtやPdの含有量を減らす場合は、Inを積極的に含有させることが好ましい。
【0029】
In(インジウム)は、PtやPdとの相乗作用により歯科鋳造用合金の耐硫化性を向上させて、口腔内での耐変色性を高める作用を有している。Inは、Gaとの相乗作用により脱酸効果も発揮する。Inは、歯科鋳造用合金の融点を下げて鋳造作業性を向上させる作用も有している。しかしInを過剰に含有させると融点が低下し過ぎる。従ってIn含有量は30%以下とするのがよい。好ましくは25%以下であり、より好ましくは10%以下、更に好ましくは3%以下である。Inは、少量の添加でその効果を発揮するが、好ましくは0.5%以上含有するのがよい。
【0030】
(d)B、P、Ca、Sn、Mg、Al、Si、Mn、Fe、Zr、Ge(ゲルマニウム)、Y(イットリウム)、Re(レニウム)、およびTiは、Gaの脱酸作用を促進する元素であり、スラグの発生を一段と長期にわたって抑えることができるため、鋳巣の発生を防止でき、補綴物の機械的特性(特に、強度と伸び)が劣化するのを防ぐことができる。しかしこれらの脱酸元素を過剰に含有させると金属組織に歪を生じ、歯科鋳造用合金の機械的特性が劣化する傾向があり、歯科鋳造用合金として要求される機械的特性を満足できないことがある。従ってこれらの脱酸元素の合計は、3%以下とするのがよい。好ましくは2%以下であり、より好ましくは1%以下である。上記脱酸元素は、少量の添加でその効果を発揮するが、好ましくは0.001%以上含有するのがよい。上記脱酸元素は、夫々単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を使用できる。
【0031】
本発明の歯科鋳造用合金は上記のように、Au−Ag−Gaを必須成分として含み、更に上記の選択元素を含有するものであり、その製法は特に限定されず、常法に従って製造すればよい。なお、上記の選択元素を添加する際には、選択元素の単体元素をベースとなるAu−Ag−Ga合金に添加しても良いし、化合物や合金の形態で添加してもよい。例えば、Bを硼化物[例えば、ホウ化カルシウム(CaB6)]、Pをリン化合物[例えば、リン化銅(Cu3P、CuP2、Cu32)]、Caをカルシウム化合物の形態で添加して各元素の含有量を調整してもよい。また、Pをリン青銅(Cu−Sn系青銅に少量のPを添加した合金)の形態で添加してP含有量を調整してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0033】
[実施例1]
下記表1、表2に示す配合比率で歯科鋳造用合金を作製し、得られた合金を溶融させた後、鋳造してスラグ発生の有無と鋳造性について評価した。なお、Au,Ag,Ga,Inについては、純度が99.99%以上のもの、Pd,Pt,Cuについては純度が99.95%以上のものを用い、これら以外の元素については、市販品のなかから可能な限り高純度のものを用いた。また、表2のNo.31とNo.45の歯科鋳造用合金については、リン銅(Cu3P)を添加してCu量とP量を調整した。また、表2のNo.32の歯科鋳造用合金については、ホウ化カルシウム(CaB6)を添加してCa量とB量を調整した。
【0034】
詳細には、上記歯科鋳造用合金をセラミックス製のルツボ皿に入れ、フラックス(酸化防止剤)を添加せずに合金を火炎(都市ガス+圧縮空気)で、約1000〜1100℃に加熱して溶融させた。溶融させた合金を次の手順で鋳造して鋳造品を得た。鋳型材としてクリストバライト鋳型材を用い、この鋳型材にロウ型(10mm×30mm×0.5mm)を埋没し、十分に硬化させた。硬化して得られた鋳型原型を700℃の電気炉に入れ、脱ロウして鋳型を作製した。得られた鋳型を歯科用横型遠心鋳造機に取り付け、溶融させた合金を注入して鋳造し、板状の鋳造品を得た。鋳造品は10枚作製した。
【0035】
スラグ発生の有無については、上記合金をルツボ皿内で溶融させたときに、溶湯表面にスラグが発生するかしないかを目視で確認した。スラグ発生の有無を評価した結果を下記表1、表2に示す。なお、スラグ発生無しの状態は、後記する図1の評価レベル0に相当し、スラグ発生有りの状態は、後記する図1の評価レベル1〜4に相当する。
【0036】
また、鋳造して得られた板状の鋳造品の外観を目視で観察し、鋳造品が変形していないかどうか、鋳巣が発生していないかどうかを調べ、下記基準で鋳造性を評価した。評価結果を下記表1、表2に示した。
【0037】
[鋳造性の評価基準]
◎(合格):鋳造品10枚の全てについて問題無し。
○(合格):鋳造品10枚のうち、1枚に変形や鋳巣が認められた。
△(不合格):鋳造品10枚のうち、2〜3枚に変形や鋳巣が認められた。
×(不合格):鋳造品10枚のうち、4枚以上に変形や鋳巣が認められた。
【0038】
下記表1、表2から次のように考察できる。No.1〜27,No.31〜47は、Gaを含有するZnレスのAu−Ag合金(本発明例)であり、溶融時にスラグが発生せず、鋳造性も良好であった。しかもこれらはZnを含有していないので、Znアレルギー体質の患者にも適用できる。
【0039】
特に、No.31〜47は、更に脱酸元素を含有しているため、スラグの発生を一段と長期にわたって抑えることができ、鋳造品には鋳巣が全く認められなかった。即ち、表2のNo.31、32は、表1のNo.18に示した歯科鋳造用合金をベースとし、更に脱酸元素を添加した例であり、鋳造性が一層改善できていることが分かる。表2のNo.33〜44は、表1のNo.19に示した歯科鋳造用合金をベースとし、更に脱酸元素を添加した例であり、鋳造性が一層改善できていることが分かる。
【0040】
これに対し、No.28とNo.29は、GaもZnも含まないAu−Ag合金(比較例)であり、溶融時にスラグが発生し、鋳造品には鋳巣が発生していた。特にNo.29は、Ag含有量が48%と多く、しかもCu含有量も20%と多いため、No.28の例よりも溶融時にスラグが生じ易く、鋳造性が悪かった。
【0041】
なお、No.30は、Znを含みGaを含まないAu−Ag合金(従来例)であり、溶融時におけるスラグの発生を防止できるため鋳造性も比較的良好である。しかしZnアレルギー体質の患者には適用できない。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
[実施例2]
上記実施例1において、上記表1にNo.19,No.29,No.30として示した歯科鋳造用合金をルツボ皿に入れ、この合金を溶融させた後、一旦凝固させ、この溶融+凝固を10回繰返したときのスラグ発生の有無を目視で確認した。溶融条件は上記実施例1と同様で、フラックス(酸化防止剤)を添加せずに合金を火炎(都市ガス+圧縮空気)で、約1000〜1100℃に加熱して1分程度溶融させた。溶融した合金は、還元炎中で、ルツボ皿に入れたまま凝固させた。なお、溶融時には新たな合金を追加していない。
【0045】
スラグ発生の有無は、次に示す目視基準で9段階評価した。各基準に当てはまるスラグの生成状態を撮影した写真を図面代用写真として図1に示す。なお、溶融+凝固を10回繰返したときに、下記基準で評価点が0.5以下であるものを本発明例とする。
【0046】
[基準]
0 :スラグ発生無し。
0.5:スラグ膜が薄く生成し、湯面の約25%未満を覆っていた。
1 :スラグ膜が薄く生成し、湯面の約25%以上、50%未満を覆っていた。
1.5:スラグ膜が薄く生成し、湯面の約50%前後を覆っていた。
2 :スラグ膜が薄く生成し、湯面の約50%以上、75%未満を覆っていた。
2.5:スラグ膜が薄く生成し、湯面の約75%以上を覆っていた。
3 :スラグ膜が厚く生成し、且つ当該スラグ膜にはひび割れも認められた。スラグ膜は湯面の約50%未満を覆っていた。また、溶湯の粘性も高かった。
3.5:スラグ膜が厚く生成し、且つ当該スラグ膜にはひび割れも認められた。スラグ膜は湯面の約50%前後を覆っていた。また、溶湯の粘性も高かった。
4 :スラグ膜が厚く生成し、且つ当該スラグ膜にはひび割れも認められた。スラグ膜は湯面の約50%以上を覆っていた。また、溶湯の粘性も高かった。
【0047】
図2に、繰り返し実験を行ったときのスラグ発生の有無を評価した結果を示す。図2では、No.19(本発明例)の結果を○で、No.29(比較例)の結果を■で、No.30(従来例)の結果を▲で夫々示した。
【0048】
図2から次のように考察できる。No.19(○)の合金は、Gaを含有しているため、溶融と凝固を繰返し行なっても、溶融時にスラグが殆ど発生しない。
【0049】
これに対し、No.29(■)の合金は、GaもZnも含有していないため、溶融時にスラグが発生した。No.30(▲)の合金は、Znを含有しているため、溶融と凝固を3〜4回程度繰返してもスラグの発生を抑制できているが、5回以上繰返すと、急激にスラグが発生する。従ってZn含有合金を繰り返し使用すると、得られる補綴物の強度は徐々に低下すると考えられる。
【0050】
以上の実験結果より本発明のようにZnの代わりにGaを含むAu−Ag合金を用いれば、Zn含有合金に比べ、特に繰り返し使用時におけるスラグ発生防止作用が格段に向上することが実証された。
【0051】
[実施例3]
上記表1にNo.19(本発明例),No.29(比較例),No.30(従来例)として示した歯科鋳造用合金を溶融し(1回溶融)、上記実施例1と同じ条件で鋳造して得られた鋳造品を用いて引張試験を行なった。引張試験は、JIS T6106に記載されているように、JIS Z2241に基づいて行ない、引張強さと伸びを測定した。測定結果を下記表3に示す。
【0052】
また、鋳造後に残った合金(例えば、押湯や湯道に残った合金)を回収し、この回収した合金と、鋳造に用いたのと同じ成分組成の歯科鋳造用合金とを、質量基準で1:1の割合で混合し、これを溶融した後、2回目の鋳造を行なった。これらの作業を10回繰返して行い、10回目の鋳造で得られた鋳造品を用いて引張試験を行なった。引張試験は、上記と同じ条件とし、引張強さと伸びの測定結果を下記表3に示す。
【0053】
1回目の鋳造で得られた鋳造品の引張強さと、10回目の鋳造で得られた鋳造品の引張強さとを比較し、強度変化を算出した。伸び変化についても同様に算出した。算出結果を下記表3に併せて示す。実用上、引張強さは550MPa以上、伸びは5%以上必要であると判断した。
【0054】
下記表3から次のように考察できる。No.19の合金は、Gaを含有しているため、溶融と鋳造を繰返してもスラグが殆ど発生せず、引張強さや伸びも殆ど劣化しない。なお、上記表1のNo.2,No.5,No.14,No.17,No.20,No.22,No.27、表2のNo.31,No.35,No.45の例についても同様の実験を行ったが、スラグの発生も無く、物性の低下も認められなかった。
【0055】
No.29の合金は、Gaを含有していないため、溶融時にスラグが発生し、このスラグが鋳造品に鋳込まれることで引張強さが低下した。この現象は鋳造を繰返すに連れて顕著となり、鋳造を10回繰返すと、鋳造品の強度は200MPa程度にまで低下した。なお、No.29の合金は、引張強さが低く、脆いため、伸びを測定することができなかった。
【0056】
No.30の合金は、Znを含有する従来例であり、1回目の溶融時ではスラグの発生を抑えることができており、得られた鋳造品の機械的特性(強度と伸び)は良好である。しかし鋳造を繰返すに連れて合金内にスラグが蓄積し、10回目の鋳造で得られた鋳造品の引張強さは約14%、伸びは約57%も低下していた。
【0057】
以上の結果より、繰り返し実験下における機械的特性改善作用は、Znに比べてGaの方がはるかに優れていることが実証された。
【0058】
【表3】

【0059】
[実施例4]
臨床使用に向けた模擬試験として、JIS T6106に規定されている変色試験を行った。即ち、上記表1にNo.19(本発明例),No.29(比較例),No.30(従来例)として示した歯科鋳造用合金を溶融し、上記実施例1と同じ条件で鋳造して得られた鋳造品を、口腔内装着を想定して調製した腐食液に浸漬して変色試験を行った。腐食液には硫化ナトリウムを0.1質量%含有する水溶液50mlを用い、水溶液の温度を37±2℃に制御した状態で、上記鋳造品を3日間浸漬した。変色試験前後における鋳造品の色の変化を色彩色差計(オリンパス製「CR−200」)で測定した。色の変化は、JIS Z8721に規定される「色の表示方法」に基づいて色相、明度、彩度で表し、結果を下記表4に示す。
【0060】
また、変色試験後の鋳造品を目視で観察し、色の変化を目視でも判定した。
【0061】
表4から次のように考察できる。No.19は、PdとInを併用しているため、相乗効果で耐硫化性が向上している。そのため耐変色性に優れている。No.29は、Inを含有していないため、耐硫化性が劣っており、変色が認められた。鋳巣が発生したことも変色を生じた原因であると考えている。No.30は、Inを含有していないが、Znを含有しているため、耐硫化性が多少向上しているものの、変色が若干認められた。
【0062】
以上の実験結果より、InやPdによる耐食性向上作用は、本発明のGa含有Au−Ag合金にも有効に発揮されることが実証された。
【0063】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、スラグの生成状態を評価する基準を示す図面代用写真である。
【図2】図2は、スラグ発生の有無を評価した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AuとAgを含有し、これらの合計が40%(質量%の意味。以下同じ)以上の歯科鋳造用合金であって、
該合金はZnを含有せず、Gaを10%以下(0%を含まない)含有することを特徴とする歯科鋳造用合金。
【請求項2】
更に他の元素として、
Pt:10%以下(0%を含まない)、
Pd:30%以下(0%を含まない)および
Ir+Ru+Rh:合計で1%以下(0%を含まない)、
よりなる群から選ばれる少なくとも1種の白金族元素を含有するものである請求項1に記載の歯科鋳造用合金。
【請求項3】
更に他の元素として、Cu:25%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の歯科鋳造用合金。
【請求項4】
更に他の元素として、In:30%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の歯科鋳造用合金。
【請求項5】
更に他の元素として、
B、P、Ca、Sn、Mg、Al、Si、Mn、Fe、Zr、Ge、Y、Re、およびTiよりなる群から選ばれる元素を、合計で3%以下(0%を含まない)含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の歯科鋳造用合金。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−214748(P2008−214748A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21470(P2008−21470)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(591234307)アサヒプリテック株式会社 (17)