説明

歯車加工装置

【課題】工具の回転位置の検出精度を向上し、これにより加工精度を高くすることが可能な歯車加工装置を提供する。
【解決手段】被加工歯車を加工する環状の工具ユニットと、被加工歯車を回転自在に支持し、工具ユニットに相対的に近接離間するワーク支持ユニットと、を備え、工具ユニットは、ハウジング21と、ハウジング21の内周側に回転自在に配置される環状の支持体5と、支持体5の内周側に取り付けられ、被加工歯車に噛合する内歯車形状の工具6と、ハウジング21の内周側に取り付けられた環状のステータ部81、及び支持体5の外周に取り付けられ、ステータ81と対向配置されるロータ部82を有し、支持体5をハウジング21に対して回転させる駆動手段と、ハウジング21に取り付けられ、支持体5の回転角度位置を検出する検出手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工歯車に、内歯車状の工具を噛合させて加工を行う歯車加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯車に対する仕上げ加工として、例えばホーニング加工が知られている。これらの加工においては、加工対象となる被加工歯車と砥石用歯車とを互いにかみ合わせた状態で、回転させて仕上げ加工を行っている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ホーニング加工を行う歯車仕上げ装置が記載されている。この装置では、加工対象となる歯車は、一対の固定具により軸方向の両端から挟むことで支持されており、両固定具の間に配置された、内歯車状の工具を有する環状の工具ヘッドを歯車に噛合させている。そして、この状態で工具ユニットを回転させることにより、歯車の仕上げを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2880407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載の装置では、工具ユニットの外部に配置されているモータにより、工具ユニット内の工具を回転させている。その際、モータの回転をベルト及びギアを介して伝達している。ところが、ギアにはバックラッシュが存在するため、工具を回転させる際の制御の精度が高くなかった。そのため、工具の回転位置を検出する精度も低く、これに起因して加工精度も高くはなかった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、工具の回転位置の検出精度を向上し、これにより加工精度を高くすることが可能な歯車加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歯車加工装置は、被加工歯車を加工する環状の工具ユニットと、被加工歯車を回転自在に支持し、前記工具ユニットに相対的に近接離間するワーク支持ユニットと、を備え、前記工具ユニットは、ハウジングと、前記ハウジングの内周側に回転自在に配置される環状の支持体と、前記支持体の内周側に取り付けられ、被加工歯車に噛合する内歯車形状の工具と、前記ハウジングの内周側に取り付けられた環状のステータ部、及び前記支持体の外周に取り付けられ前記ステータと対向配置されるロータ部を有し、前記支持体を前記ハウジングに対して回転させる駆動手段と、前記ハウジングに取り付けられ、前記支持体の回転角度位置を検出する検出器と、を備えている。
【0008】
この構成によれば、工具ユニットにステータ部とロータ部で構成された駆動手段を有している。より詳細には、工具ユニットのハウジングに工具を支持する支持体を回転自在に配置するとともに、ハウジングにステータ部を取り付け、支持体にロータ部を配置することで、工具を回転させている。そのため、ギアを介さずに工具及び支持体を回転させることができ、これによって回転位置の検出精度を向上することができる。その結果、加工精度も向上することができる。
【0009】
上記歯車加工装置において、ハウジングには、工具を挟んで、軸方向の一方に、駆動手段が配置される駆動手段収容部を設け、軸方向の他方に、検出手段を配置する検出手段収容部を設けることができる。この構成により、工具を挟んで駆動手段収容部及び検出手段収容部が配置されるため、工具ユニットをコンパクトにすることができる。例えば、被加工歯車を加工する場合には、該歯車の軸線と工具の軸線との間で交差角をつけるべく工具ユニットを傾ける必要があるが、工具の一方側に駆動手段と検出手段との両方が配置されていると、工具の一方側が大きく膨らみ工具ユニットを傾ける際、周囲の装置部品等に干渉することが考えられる。これに対して、上記のように工具を挟んで駆動手段と検出手段をそれぞれ配置すると、余分なスペースを要さず、装置をコンパクトにすることができる。
【0010】
また、上記歯車加工装置においては、ハウジングに対し、支持体を回転可能に支持するとともに駆動手段収容部と検出手段収容部との間に配置される環状のベアリングをさらに設けることができる。そして、軸方向の外方の両端におけるハウジングと支持体との隙間に第1の油密部を設け、駆動手段収容部と、ベアリングとの間に第2の油密部と、を設けることができる。この構成によれば、第1の油密部によって、歯車の加工に際して発生する切り屑や、切削油がハウジング内の駆動手段収容部に浸入するのを防止することができる。さらに、第2の油密部を有しているため、万が一、駆動手段収容部に切り屑等が進入しても、これがベアリングに到達するのを防止することができる。このように、2つの油密部を設けることにより、ハウジング内への切り屑等の進入を防止することができ、歯車加工装置の駆動の不具合を防止することができる。
【0011】
上記歯車加工装置においては、冷却媒体が供給される熱交換部材をさらに設けることができる。そして、この熱交換部材は、ハウジングの内周壁とステータ部との間に取り付けられる基部と、軸方向の外方においてステータ部を覆う側面部と、を備えたものとすることができる。この構成によれば、ステータ部の径方向外方、及び軸方向外方からステータ部を冷却することができるため、駆動手段の冷却効率を向上することができる。
【0012】
また、上記歯車加工装置において、前記駆動手段収容部および前記検出手段収容部の各々に向かって空気を噴出する空気噴出手段をさらに設けることかできる。これにより、前記駆動手段収容部および前記検出手段収容部の各々の内圧が高くなりハウジング外の切削油や切り屑等がハウジング内に進入するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る歯車加工装置によれば、工具の回転位置の検出精度を向上し、これにより加工精度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る歯車加工装置の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の歯車加工装置の平面図である。
【図3】図1の歯車加工装置の側面図である。
【図4】図1の歯車加工装置における工具ユニットのハウジングの正面図である。
【図5】図4のA−A線断面図である。
【図6】図5のB−B線断面図である。
【図7】図5とは異なる位置におけるハウジングの断面図である。
【図8】図5及び図7とは異なる位置におけるハウジングの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る歯車加工装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1、図2、及び図3は、それぞれ本実施形態に係る歯車加工装置の正面図、平面図、及び側面図である。なお、以下の説明では、図1の左右をX軸方向、図1の上下をZ軸、図2の上下をY軸方向と称し、これを基準に説明をしていく。
【0016】
図1〜図3に示すように、本実施形態に係る歯車加工装置は、基台1上に配置された工具ユニット2及びワーク支持ユニット3を備えている。工具ユニット2は、環状に形成されたハウジング21を有しており、その軸方向が、X軸方向に向くように配置されて、ワークWである被加工歯車と噛合するようになっている。また、この工具ユニット2のハウジング21は、通常の仕上加工に際し該歯車の軸線に対して交差角を形成するべくY軸周りに回転可能とし、更にはクラウニングを行うためにZ軸周りに回転可能となっている。そのため、工具ユニット2は、基台1上に配置され、上述したハウジング21を支持する支持台23を備えている。図3に示すように、この支持台23は基台1上をZ軸周りに回転可能な基部231と、この基部231の両端からそれぞれ上方に延びる支持片232とを有し、全体としてU字型に形成されている。そして、ハウジング21は両支持片232の間に配置され、回転可能に支持されている。すなわち、両支持片232には、ハウジング21側に突出する軸部材233が設けられており、これらがハウジング21の外周面にさし込まれることで、ハウジング21が回転可能となっている。この構成により、支持台23は、ハウジング21とともにZ軸周りに回転可能であり、さらにハウジング21は、軸部材233を中心にY軸周りに回転可能となっている。
【0017】
図1に示すように、ワーク支持ユニット3は、工具ユニット2を挟んで配置される主軸台31と、心押し台32とで構成されており、これらは、X軸方向に互いに近接離間し、ワークWを回転自在に挟持するようになっている。主軸台31は、基台1上に配置された支持ブロック33上に配置されており、この支持ブロック33が、Y軸方向に配置されたレール34上を移動可能となっている。また、主軸台31は、支持ブロック33上でX軸方向に配置されたレール35上を移動可能となっている。そして、主軸台31の先端には、X方向に突出しワークWを支持する軸部材311が回転自在に設けられており、内蔵されているモータ(図示省略)によって回転駆動する。心押し台32も同様に構成されており、基台1上をレール37を介してY軸方向に移動可能なテーブル36上に配置されている。そして、心押し台32自身もレール38を介してテーブル36上をX軸方向に移動可能となっている。また、心押し台32の先端には、ワークWを支持する軸部材321が回転自在に設けられており、互いにハウジング21に向かって移動し主軸台31の軸部材311との間で、ワークWを挟持するようになっている。主軸台31と心押し台32とは、一体的にY軸方向に移動するように制御されており、両者がワークWを狭持した状態でY軸方向に移動し、ワークWを工具ユニット2の工具に噛合・離間するようになっている。
【0018】
次に、工具ユニットについて、図4〜図6を参照しつつ説明する。図4はハウジングの正面図、図5は図4のA−A線断面図、図6は図5のB−B線断面図である。図4〜図6に示すように、ハウジング21は、全体として環状に形成されているが、軸方向の中央部が径方向内方に陥没している。これにより、ハウジング21の外周面には環状の凹部211が形成され、これに対応して内周面には凸部212が形成されている。そして、この凸部212の内周面には、スペーサによって所定間隔をおいて2個のベアリング4が配置されている。両ベアリング4の両外側には、これらの外輪側面に当接する一対の環状部材41がハウジング21に取り付けられており、ベアリング4を軸方向に固定している。また、ハウジング21の内周側には、ベアリング4を介して、環状の支持体5が回転自在に取り付けられている。そして、この支持体5の内周面には、内歯車状の工具6が着脱自在に取り付けられている。
【0019】
続いて、図7及び図8を参照しつつ、ベアリング4への潤滑構造について説明する。図7及び図8は、図5とは異なる周方向の位置におけるハウジング21の断面図である。図7に示すように、ハウジング外周面の凹部211には、ベアリング4へと通ずる供給孔213が形成されており、オイルミストを供給するようになっている。また、両ベアリング4の外輪間には供給孔213から供給されたオイルミストを両ベアリング4へと分配するための流路を有する環状の分配部材43が配置されている。両ベアリング4に供給されたオイルミストは前記環状部材41によってベアリング外への漏出が堰き止められる。一方、図8に示すように、ハウジング21には、供給孔213とは異なる位置で下面に開口形成された排出孔214が設けられている。この排出孔214は、両ベアリング4に対する潤滑を終えて液状化したオイルミストをハウジング21の外部に排出するためのものである。
【0020】
次に、図5に戻って、支持体5について説明する。同図に示すように、支持体5は、ハウジング21の軸方向の一端部(図5の下側)とベアリング4を覆う基部51と、この基部51に連結され、ハウジング21の他端部(図5の上側)を覆う延在部52とで構成されている。これにより、工具ユニット2には、凸部212を挟んで軸方向に2つの空間が形成されている。すなわち、図5の下側には支持体5の基部51とハウジング21とで、電動モータを収容するためのモータ収容部25が形成されている。一方、図5の上側には、支持体5の延在部52とハウジング21とで、検出器を収容するための検出器収容部26が形成されており、この検出器によって支持体5の回転角度位置が検出される。
【0021】
続いて、モータ収容部25の構成について説明する。図5に示すように、モータ収容部25には、熱伝導性の高い材料で、環状に形成された冷却ジャケット7が取り付けられている。この冷却ジャケット7は、ハウジング21の内周面に沿って取り付けられる基部71と、この基部71に一体的に連結されハウジング21の軸方向の外方を覆う側板部72とで形成され、全体として断面L字型に形成されている。基部71には、径方向外方に溝711が形成されており、この溝711とハウジング21の内周面との間に環状に延びる環状空間が形成されている。そして、この環状空間には、図7に示すように、ハウジング21の外周面に形成された供給孔73から冷却油が供給されるようになっている。供給された冷却油は、環状空間をハウジング21の周方向に流通した後、図8に示すように、供給孔73とは異なるハウジング21の外周面に形成された排出孔74から、ハウジング21の外部に排出されるようになっている。
【0022】
図5及び図6に示すように、冷却ジャケット7の基部71の内周面と側板部72との段部には、環状に形成されたモータのステータ部81が嵌合固定されている。一方、支持体5の外周面には、このステータ部81と対向する位置に環状に形成されたモータのロータ部82が固定されている。ステータ部81には、ハウジング21の凹部211を介して外部から導線(図示省略)が連結されており、ステータ部81のコイルに対して電力を供給可能として電動モータが構成される。なお、ステータ部81は及びロータ部82は複数のコイルや磁石を備えた公知のものを使用することができる。
【0023】
続いて、工具ユニット2において、加工中の切り屑や切削油等の異物の侵入を防止するための構造について説明する。図5に示すように、冷却ジャケット7の側板部72には、径方向内方の先端に、環状の第1カバー部材91が取り付けられている。一方、支持体5の軸方向の端部には、第1カバー部材91と径方向に対向するように、環状の第2カバー部材92が取り付けられている。第1カバー部材91と第2カバー部材92とは、境界の断面が階段状になるように端面が形成されている。また、この境界の一部に環状の空間が形成されるように、第1カバー部材91の端部には周方向に延びる第1環状溝94が形成されており、この溝94に後述するエアパージ用の空気が供給される。ここで、第1カバー部材91は、ハウジング21に固定されているが、第2カバー部材92は、支持体5に固定されているため、支持体5とともに回転する。したがって、両カバー部材91,92の境界は、固定部分と可動部分の境界であり、この境界から異物がハウジング21内に進入し得る。そこで、これを防止するため、両カバー部材91,92の境界は上述したように、断面が階段状に形成され、ラビリンス構造(第1油密部)となっている。また、環状溝94には、エアパージ用の空気が供給されるため、境界を通じてモータ収容部25内の圧力を高めて異物が侵入するのを防止している。さらに、第2カバー部材92には、第3カバー部材93が取り付けられており、第1及び第2カバー部材91,92の境界を軸方向の外方から覆っている。これにより、第1及び第2カバー部材91,92の隙間に異物が侵入するのをさらに防止している。また、第3カバー部材93と、第1及び第2カバー部材91,92の境界との間には、周方向に延びる第2環状溝95が形成されており、第3カバー部材93を超えて進入した異物は、この環状溝95に収容される。この第2環状溝95は前記第1環状溝94の外側に隣接しているが、第1環状溝94の内圧が高い為に第2環状溝95内の異物は第1環状溝94の側に移動することはない。
【0024】
上記のような、ラビリンス構造(油密部)は、モータ収容部25からベアリング4へ至る経路にも設けられている。図5に示すように、モータ収容部25とベアリング4との間に取り付けられた環状部材41は、支持体5に固定されているが、その境界がモータ収容部25からベアリング4に至る経路45を形成している。そして、この経路45は、凹凸によって形成されており、ラビリンス構造(第2油密部)をなしている。したがって、モータ収容部25の内圧が、環状部材41と支持体5とで構成されるラビリンス構造ベアリング4を潤滑したオイルミストがモータ収容部25に到達するのを防止している。なお、油密部の形態については特には限定されず、公知の形態を適宜適用することができる。なお、同様のラビリンス構造は検出器収容部26にも設けられている。
【0025】
また、図7に示すように、モータ収容部25側の第1カバー部材91には、前記第1環状溝94への空気の供給孔913が開口され、ここから高圧空気が、冷却ジャケット7の側板部72と第1カバー部材91との間の長溝74aを介して再度、第1カバー部材91の案内路96aから第1環状溝94へ導入されるようになっている。また、図8に示すように、第2環状溝95に溜まった異物は、第1カバー部材91に形成された案内路96bから、冷却ジャケット7の側板部72と第1カバー部材91との間の長溝74bを介して第1カバー部材91に開口した排出孔915から排出される。
【0026】
続いて、検出器収容部26について説明する。図5に示すように、検出器収容部26には、支持体5の回転角度位置を検出する検出器が収容されている。この検出器は、支持体5の延在部52に固定される環状の磁気メモリ付スケール83と、ハウジング21に固定される磁気エンコーダ84とで構成されている。磁気エンコーダ84は、磁気メモリスケール83と対向するように配置されており、ハウジング21の外部へと延びる導線85と接続されている。また、検出器収容部26を覆う油密部の構造は、モータ収容部25とほぼ同様であり、同様の形態の第1〜第3カバー部材101〜103が取り付けられ第1・第2環状溝104・105を備えている。図7に示すように、第1環状溝104への空気供給は供給孔215から第1カバー部材101に設けられた案内路97aを通じて行われる。
【0027】
さらに、図8に示すように、第2環状溝105内に溜まった異物は第1カバー部材101の案内路97bを通じてハウジング21の排出孔216から排出される。なお、前記排出孔214は、ハウジング21内の各環状部材41の内側面に臨む分岐通路214aを有し、モータ収容部25、検出器収容部26内に供給された空気は各環状部材41とハウジング21の間の隙間から漏出しオイルミストと共にハウジング21外へ排出される。
【0028】
次に、支持体5への工具の取り付け構造について説明する。図5に示すように、支持体5の内周面の中心には、径方向に延びる凹部55が形成されており、この凹部55を覆うように、周方向に薄い帯状の溝56が形成されている。凹部55には、L字形の油孔57の一端が連通しており他端は支持体5の外端面に開口し、プッシュピン58が差し込まれている。そして、帯状の溝56を覆うように、径方向の内側に環状の弾性部材59が配置され、これを介して、上述した内歯車状の工具6が嵌め込まれている。支持体5の油孔57、凹部55及び溝56には油が充填されており、プッシュピン59を押し込み固定することで、油の圧力が増加する。これにより、弾性部材59が径方向内方に突出するように変形し、工具6の外周面が押圧される。その結果、工具6が支持体5に固定される。一方、プッシュピン58の固定を解き引き抜くと、油孔57、凹部55及び溝56の油の圧力が低下して、弾性部材59が元の形状に戻り、工具6が取り外し可能となる。但し、これ以外の工具の取り付け方法も採用可能である。
【0029】
次に、上記のように構成された歯車加工装置の動作について説明する。まず、ワークWとの間で所定の交差角を形成するために、工具ユニット2のハウジング21をY軸周りに回転させ、工具6に応じた交差角の位置で位置決めする。次に、ワークWを主軸台31の軸部材311に取り付けた後、主軸台31及び心押し台32を互いに近接させ、工具ユニット2の中でワークWを挟持する。この状態で、主軸台31の軸部材311をワークWとともに回転させる。これと並行して、モータを駆動し工具ユニット2の工具6をワークWと同期するように、回転させる。続いて、主軸台31及び心押し台32を一体的にY軸方向に移動させ、ワークWを工具6に近接させる。そして、ワークWと工具6とを噛み合わせることで、ワークWの加工を行う。また、必要に応じてハウジングをZ軸周りに回転させ、ワークWにクラウニングを施す。このとき、検出器が支持体5の回転角度位置を検出することで、工具6とワークWの回転が同期するように、各モータの回転が制御される。また、このような加工作業と同時に、工具6とワークWとの噛み合わせ部分に切削油を噴射し、加工部位の冷却、潤滑、切り屑除去を行う。こうして、所定時間加工を行った後、各モータの駆動を停止し、加工されたワークWを取り外す。
【0030】
上記加工中、工具ユニット2は次のように動作する。まず、ベアリング4に対しては、潤滑油を供給する。すなわち、図7に示す供給孔213から供給された潤滑油は、オイルミストとして両ベアリング4の隙間から分配部材43を介して各ベアリング4に供給される。この潤滑油は環状の空間を周方向に流通しつつ図8に示す排出孔214から排出される。この過程でベアリング4に対して潤滑油が供給される。また、モータ収容部25側において、空気の供給孔913から高圧の空気を供給する。この空気は、第1及び第2カバー部材91,92の境界に形成された第1環状溝94に向けて放出される。そのため、この空気が壁となって、ハウジング21内に切削油、切り屑が進入するのが防止される。また、第3カバー部材93を超えて進入した油は、第2環状溝95に一旦溜まり、排出孔915を経て外部に排出される。以上は、モータ収容部25側の説明であるが、検出器収容部26側のカバー部材101〜103においても同様の動作がなされる。さらに、冷却ジャケット7の溝711に冷却油が供給されることにより、冷却ジャケット7の基部71及び側板部72が冷却される。これにより、冷却ジャケット7に嵌合固定したステータ部81が周方向外方及び軸方向の外方から冷却され、ステータ部81が高温になるのを防止している。ワークWの加工中は、以上のような動作が行われて工具ユニット2の安定的な動作が保証される。
【0031】
以上のように、本実施形態では、工具ユニット2のハウジング21に工具6を支持する支持体5を回転自在に配置している。そして、ハウジング21にステータ部81を取り付け、支持体5にロータ部82を配置することで、工具6を電気的にダイレクト回転させている。したがって、従来技術のようなギアを介することなく、支持体5及び工具6を回転させることができるため、回転位置の検出精度を向上することができる。その結果、加工精度も向上することができる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、工具ユニット2を固定し、ワーク支持ユニット3を工具ユニット2に近接させることで、加工を行っているが、これとは反対に、ワーク支持ユニット3を固定し、工具ユニット2を移動させても良い。また、ワーク支持ユニット3においては、主軸台31と心押し台32とでワークWを狭持しているが、主軸台31のみでワークWを支持するような形態であってもよい。
【0033】
上記実施形態では、検出器を、磁気メモリ付スケールと磁気エンコーダで構成しているが、これ以外の構成であってもよく、支持体5の回転角度位置を検出できるものであれば、特には限定されない。また、冷却構造は、水冷及び空冷のいずれでもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、油密部として3つのカバー部材91〜93を設けているが、固定部位であるハウジング21と、可動部位である支持体5との隙間を塞ぐものであれば、その構成は特には限定されない。例えば、別体のカバー部材を設けずに、これらをハウジング21や支持体5と一体的に形成することもできる。そして、この隙間から空気を噴出できるものであれば、エアパージの取り付け位置などは限定されない。
【符号の説明】
【0035】
2 工具ユニット
21 ハウジング
25 モータ収容部(駆動手段収容部)
26 検出器収容部(検出手段収容部)
3 ワーク支持ユニット
4 ベアリング
5 支持体
6 工具
7 冷却ジャケット(熱交換部材)
81 ステータ部(駆動手段)
82ロータ部(駆動手段)
83 磁気メモリ付スケール(検出器)
84 磁気エンコーダ(検出器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工歯車を加工する環状の工具ユニットと、
被加工歯車を回転自在に支持し、前記工具ユニットに相対的に近接離間するワーク支持ユニットと、を備え、
前記工具ユニットは、
ハウジングと、
前記ハウジングの内周側に回転自在に配置される環状の支持体と、
前記支持体の内周側に取り付けられ、被加工歯車に噛合する内歯車形状の工具と、
前記ハウジングの内周側に取り付けられた環状のステータ部、及び前記支持体の外周に取り付けられ、前記ステータと対向配置されるロータ部を有し、前記支持体を前記ハウジングに対して回転させる駆動手段と、
前記ハウジングに取り付けられ、前記支持体の回転角度位置を検出する検出手段と、
を備えている、歯車加工装置。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記工具を挟んで、軸方向の一方に、前記駆動手段が配置される駆動手段収容部を有し、軸方向の他方には、前記検出手段を配置する検出手段収容部を有している、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記ハウジングに対して前記支持体を回転可能に支持し、前記駆動手段収容部と検出手段収容部との間に配置される環状のベアリングをさらに備え、
前記軸方向の外方の両端における前記ハウジングと支持体との隙間に第1の油密部を有し、
前記駆動手段収容部と、前記ベアリングとの間に第2の油密部を有している、請求項2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
冷却媒体が供給される熱交換部材をさらに備え、
当該熱交換部材は、前記ハウジングの内周壁とステータ部との間に取り付けられる基部、及び前記軸方向の外方において前記ステータ部を覆う側面部、を備えている、請求項1から3のいずれかに記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記駆動手段収容部および前記検出手段収容部の各々に向かって空気を噴出する空気噴出手段をさらに備えている、請求項3に記載の歯車加工装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate