説明

歯間ブラシ

【課題】先端側でブラシ体を支持する柄体が屈曲して設けられたアングル型の歯間ブラシについて、耐久性を確保しながら優れた清掃能を発揮できるようにする。
【解決手段】連結用凹部20を有した連結体2と、連結体2先端側から延設され線状金属からなる柄体3Aと、柄体3A先端側で支持されたブラシ体5とを備え、柄体3Aが連結体2の中心軸延長線に沿って延設され途中で屈曲したアングル型の歯間ブラシ1Aにおいて、柄体3Aが、管材300からなり基端から所定の範囲を構成する基管部30と、管材300先端側に基端側を挿入して延設され先端側でブラシ体5を弾性的に支持する超弾性合金製の線材310が露出した弾性変形部31とを有し、且つ、基管部30の線材310を挿入している部分で線材310とともに所定角度で屈曲されたことにより、アングルを形成しながら管材300中で線材310が脱抜不能に固定されている、ことを特徴とするものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の汚れを清掃するための歯間ブラシに関し、殊に、ブラシ体を先端側で支持する線状部材からなる柄体が途中で屈曲している、いわゆるアングル型の歯間ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
隣接する歯面に溜まった歯垢や食べかすは通常の歯ブラシによる清掃だけでは完全に除去しにくいものであり、また、近年外出先でも食後の口腔内清掃を行うスタイルが増加していることも関連して、歯間に挿入可能な細いブラシ体を有して歯ブラシよりもコンパクトで嵩張らない歯間ブラシを用いて、簡易に歯の清掃を行うことが広く一般化しつつある。
【0003】
この歯間ブラシは、縄状に撚ったワイヤの間に毛を挟んで細い円柱状にしたブラシ体を線状部材からなる柄体で支持し、その基端側の連結体でハンドル手段に連結させて使用するものが知られており、ワイヤを撚った芯線がそのまま延長されて柄体を構成しているのが通常である。
【0004】
そして、この柄体は歯肉の損傷を回避したり歯の周囲まで清掃しやすくしたりする観点から、所定の弾力性・柔軟性を備えていることが好ましいとされている。しかし、歯間ブラシは軸線方向に沿って前後に動かすだけではなく、軸線とは異なる方向にブラッシングを行う場合も多いことから、その柄体には比較的大きな曲がり方向の力が加わって塑性変形を生じやすく、この曲がりを元に戻すことを繰り返すことで金属疲労による強度不足や折損トラブルを生じやすかった。
【0005】
この問題に対し、実開平5−95322号公報や特開平6−70812号公報には、ブラシ体を支持する柄体に常温下で超弾性作用を発揮する超弾性合金を使用したものが提案されている。この超弾性合金は、例えばTi−Ni合金に代表されるようなマルテンサイト変態を示し得る組成を有していることで超弾性作用を発揮する合金である。
【0006】
即ち、超弾性合金は、常温下で通常の弾性ひずみを超える大きなひずみ領域まで変形させても、除荷することにより逆変態に伴いゴムのように元に戻る特性を有している。そのため、これを歯間ブラシの柄体に使用することで歯の表面形状に応じて柔軟に変形し、且つ大きく変形しても正確に元の形状に戻ることから、金属疲労を起こしにくい耐久性を発揮するものであり、優れた清掃効率が期待できるものとなる。
【0007】
一方、歯間ブラシを用いて口腔内の清掃を行う場合、前歯においては柄体がストレート型のものでも充分であるが、奥歯を清掃する場合には側方から歯間に挿入する関係で、線状金属からなる柄体がハンドル手段の中心軸延長線に対して屈曲した向きで設けられたものが使用しやすい。そこで、例えば特開2007−29164号公報に記載され、図7(A)に示すもののように、ブラシ体5を支持する短い鋼線からなる柄体3Cを、ハンドル9の中心軸延長線に対し45°以上屈曲した向きで接続・固定したアングル型の歯間ブラシ1Cも使用されるようになった。
【0008】
このようなアングルを備えた歯間ブラシ1Cは、奥歯の清掃において優れた機能を発揮するものであるが、実際にはそのまま前歯の清掃にも使用される。その場合、図7(B)に示すように、ブラシ体5をほぼ水平にして使用するため、ハンドル9とブラシ体5との接続部分である柄体3Cを中心として屈曲した状態で使用される。
【0009】
また、図8(A)の上顎前歯の咬合面観による略図に示すように、歯と歯の間は一般に鼓状の空隙を形成しており、この歯間に汚れが溜まりやすいとともに清掃が困難とされているところ、この歯間を図7(B)のような角度でブラシ体5を挿入した状態で歯間ブラシ1Cを用いてまんべんなく清掃する場合には、図8(B)に示すような角度でブラッシングを行う必要がある。
【0010】
しかし、実際に清掃する場合には、図8(C)のようにバンドル9を平行移動させてブラッシングを行うことが多いため、図8(D)に示すように柄体3Cの屈曲部を中心としてブラシ体5の先端側を水平方向左右に180°近く旋回させることになる。これにより、柄体3Cの屈曲部及びハンドル9への固定部分にトルク方向の力が集中的に加わり、ねじれ変形が生じることで比較的短期間でこの部分が破断するため、アングル型の歯間ブラシの使用可能期間は極めて短いのが現状である。
【0011】
この問題に対し、アングル型の歯間ブラシ1Cの柄体3Cを超弾性合金で作成することが考えられるが、これを前歯の清掃に使用する際には、上述のように曲げ方向の力だけではなくねじり方向にも大きな力がハンドル9と柄体3Cとの接続部分に集中的にかかることから、超弾性による緩衝作用を発揮しても比較的短期間で接続部分において脱落することになり、耐久性の確保は充分ではない。
【特許文献1】実開平5−95322号公報
【特許文献2】特開平6−70812号公報
【特許文献3】特開2007−29164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、先端側でブラシ体を支持する柄体が屈曲して設けられたアングル型の歯間ブラシについて、その耐久性を確保しながら優れた清掃能を発揮できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明は、ハンドル手段側に連結するための連結用凹部を有した連結体と、この連結体の先端側から延設された線状金属からなる柄体と、この柄体先端側で支持された略円柱状のブラシ体とを備え、この柄体が連結体の中心軸延長線に沿って延設されるとともに途中で所定角度屈曲したアングル型の歯間ブラシにおいて、その柄体は、管材からなり基端から所定の範囲を構成する基管部と、その管材先端側に基端側を挿入した状態で延設され先端側でブラシ体を弾性的に支持する超弾性合金製の線材が弾性変形可能な露出部分を構成してなる弾性変形部とを有し、且つ、基管部の線材を挿入している部分でこの線材とともに所定角度で屈曲されたことにより、アングルを形成しながら管材中で線材が脱抜不能に固定されている、ことを特徴とするものとした。
【0014】
このようにアングル型の歯間ブラシにおいて、柄体の屈曲位置よりも先端側の所定範囲を弾性に優れた超弾性合金製の線材で構成して弾性変形部を備えたものとしたことにより、柄体に金属疲労を起こしにくいものとしながら高い清掃能を発揮できるものとなるが、ねじり方向の大きな力が加わる柄体の連結体への固定位置から屈曲部までの部分を高い剛性を確保しやすい管材で構成したことでこの部分の強度を充分に確保可能なものとし、且つ、管材を内部の線材とともに屈曲したことにより接着固定しにくい超弾性合金製の線材を機械的に堅固に固定できるものとなる。
【0015】
また、この超弾性合金製の線材を、その中心軸線に直角な面で切断した断面形状が、その断面の長径の2分の1以上の長さの辺を有する多角形となる角ワイヤであるものとすれば、屈曲位置の管材の潰れ変形により挿入した線材の外周平面部分に内周面が圧接するとともに角ワイヤのエッジが効くようになることから、線材が管材内で回転不能に固定されて、ねじり方向へのぶれや回転を最小限に抑えるため、ブラシ体の正確な支持位置を確保して極めて操作性の高いものとなり、且つ、線材が管材から脱抜しにくいものとなる。この場合、その断面形状が正方形であるものとすれば、回転防止機能を確保しながら脱抜しにくいとともに線材の強度を確保しやすいものとなる。
【0016】
さらに、上述した歯間ブラシにおいて、そのブラシ体はその中心部となる芯線の基端側が前述の管材とは別の第2の管材の先端側に挿入されており、この第2の管材の基端側には線材の先端側が挿入されてこの線材をブラシ体に接続する先管部を構成しており、且つ、管材の基端側は連結体の連結用凹部内で開口したものとされ、基管部と先管部との間で線材が露出する部分を樹脂チューブで線材外周面との間に隙間を有しながら内外気・液密状態にして覆ったことにより、連結体の連結用凹部からブラシ体基端側まで連通路が形成されており、この連結体に洗浄液を充填したシリンジを連結して洗浄液を圧送することにより、洗浄液がブラシ体基端側から噴出してブラシ体の洗浄を行うことを特徴とするものとすれば、ブラシ体を洗浄しながら清掃を行うことでブラシ体の汚れを除くために口腔外での洗浄を行う手間を要しないものとなる。
【0017】
さらにまた、上述した歯間ブラシにおいて、その線材はTi−Ni合金製であるものとすれば、優れた超弾性作用を発揮しやすいとともに、耐久性・耐蝕性を確保しやすいものとなる。この場合、その線材の屈曲する部分を含む所定範囲を、予め所定温度で加熱することにより超弾性作用を発揮しない塑性変形可能なものとしておけば、屈曲により管材とともに塑性変形することで線材が管材から脱抜しにくいものとなり、線材の管材への接続・固定状態の維持が確実なものとなる。
【0018】
加えて、上述した歯間ブラシは、少なくとも柄体から先の部分を収納して保護するためのストレート型で管状のキャップ体を別体として有しており、柄体の弾性変形部が弾性変形した状態でキャップ体内に収まることにより、全体として1本の棒状になることを特徴とするものとすれば、アングルを有する柄体から先をキャップ体に収納することにより、アングルを有する歯間ブラシであっても嵩張りにくく携帯に便利なものとなる。
【0019】
この場合、キャップ体の先端側に連結体の連結用凹部に連結するための連結用凸部を有したものとして、連結体に連結することによりハンドル手段を兼ねることを特徴とするものとすれば、別個にハンドル手段を用意したり携帯したりする手間を省くことができる。
【0020】
さらに加えて、上述した歯間ブラシにおいて、連結体はその連結用凹部がハンドル手段となる電動歯ブラシ本体駆動部の連結用凸部に連結可能な構造を有したものとして、電気的な振動を与えながら使用可能とされたことを特徴とするものとすれば、より高い清掃能を発揮できることに加え弾力性・柔軟性に優れた弾性変形部が緩衝作用を発揮して、歯や歯肉の損傷を回避しながらその耐久性を確保しやすいものとなる。
【発明の効果】
【0021】
柄体が屈曲して設けられたアングル型の歯間ブラシについて、屈曲部分を有した管材からなる基管部と超弾性合金製の線材からなる弾性変形部とで柄体を構成した本発明によると、その耐久性を確保しながら優れた清掃能を発揮できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0023】
図1乃至図4は、本発明における実施の形態の歯間ブラシ1Aを示している。図1(A)の正面図を参照して、歯間ブラシ1Aは手で把持するためのハンドル手段とは別体とされており、図示しないハンドル手段の連結用凸部に連結するための連結用凹部20の開口部を基端面側に有した略筒状の連結体2を備え、連結体2の先端面から柄体3Aが延設されて先端側にブラシ体5を支持してなるものである。
【0024】
柄体3Aは、連結体2の先端部に基端側を埋設され、接着剤21で接着・固定されたステンレス綱等の金属製の管材300からなり所定の剛性を備えた基管部30と、ブラシ体5の中心部分である芯線50の基端側を先端側から挿入・固定する金属製の管材320からなる先管部32と、基管部30の管材300開口端から所定深さで基端側を挿入され先端側を先管部32の管材320基端側開口端に挿入されてブラシ体5を弾性的に支持する超弾性合金製の線材310で構成された弾性変形部31とからなる。
【0025】
そして、柄体3Aの基端側約半分を構成する基管部30は、線材310を挿入している先端側の所定位置で線材310とともに連結体2の中心軸延長線(=ハンドル手段の中心軸延長線)に対し約45°の角度で屈曲されており、この屈曲位置でアングルを形成しているとともに、線材310を管材300に対し脱抜不能に接続・固定している。
【0026】
基管部30をこのような構成としたことで、アングル型の歯間ブラシにおいてねじり方向の力が加わりやすい連結体2との接合部分の固定力を確保するとともに、接合部分から屈曲部分までの強度を確保することができる。また、超弾性合金製の線材は通常接着固定が困難であるのに対し、この線材310は屈曲部分における管材300の潰れによりカシメ式に機械的に固定され、確実且つ堅牢に接続されている。
【0027】
さらに、基管部30の管材300先端開口部側は潰されずに開放しており屈曲部分までスリーブ状を呈しているため、線材310のねじり力に対する有効長さはこのスリーブ内の部分も加わることになる。従って、このスリーブ状部分の長さを調整することにより、ねじり力に対する線材310の有効長さを変えることなく、管材300の屈曲部分から開口部分までの距離を変更して曲げ力に対する硬さ(バネ定数)を容易に調整・設定することもできる。
【0028】
一方、2本のワイヤを縄状に撚って芯線50としその間にナイロン等の毛材を挟み込んで略円柱状に形成してなるブラシ体5は、その芯線50の基端側を先述の管材300とは異なる第2の管材320の先端側に挿入して固定されている。また、基管部30の管材300先端側に基端側を挿入・固定された線材310が、その先端側を管材320基端側に挿入している。
【0029】
即ち、この管材320が柄体3Aの先端側部分である先管部32を構成しているが、先管部32を部分的に拡大した円中の縦断面図に示すように、芯線50基端側と線材310先端側とを挿入した部分がカシメ式に押し潰されており、機械的に固定されて接続した状態となっている。
【0030】
そして、この線材310が管材300,320の間で外部に露出している部分で弾性変形部31を構成しており、この部分が超弾性変形作用を発揮してブラシ体5を弾性的且つ柔軟に支持するようになっている点が、本発明の特徴部分である。尚、この線材310を形成する超弾性合金として、常温下および口腔内温度(体温)下で超弾性作用を発揮しながら金属疲労や腐食を起こしにくい点で、Ti−Ni合金が好適である。
【0031】
さらに、この超弾性合金製の線材310は、図1(A)のX−X線に沿う拡大した端面図である図1(B)に示すように、その中心軸線に対し直角に切断した断面が少なくともその長径の2分の1以上の長さの辺を有する多角形となる角ワイヤを使用したことも特徴となっている。このような多角形は正三角形、正四角形(正方形)、正五角形、正六角形等が想定されるが、その作成の容易さ、変形の対称性の観点から図のような正四角形のものが好適である。
【0032】
歯間ブラシ1Aをこのような構成としたことで、図1(A)のY−Y線に沿う拡大した端面図である図1(C)に示すように、管材300とともに屈曲させてアングルを設けた屈曲部分において、管材300の潰れた内周面で線材310外周側の平面に当接して圧着したことにより、角ワイヤのエッジが効いて線材310の回転方向の動きを規制するようになっている。
【0033】
そのため、アングル型の歯間ブラシにおいて問題となりやすい線材310の固定部分のねじれ方向のぶれや回転を最小限に抑え、ブラシ体5を正確な位置で支持することを可能としている。尚、この断面の多角形は上述した作用が発揮される限りにおいて、必ずしも正確な正多角形である必要はなく、また角部に多少の面取りや丸め処理が施されていても差し支えない。
【0034】
図2(A)は、本実施の形態の歯間ブラシ1Aに付帯させることを想定しているストレート型で管状のキャップ体7内に、その連結体2中途から先の部分を収納した状態を示す正面図である。この場合、仮に一般的な鋼線を柄体に使用したものをストレート型のキャップ体に収納すると、柄体に塑性変形を起こしてアングルが狂ったりこの部分に金属疲労を生じたりすることが問題となる。
【0035】
しかし、本実施の形態の歯間ブラシ1Aでは、柄体3Aの中央部所定範囲で超弾性合金製の線材310で弾性変形部31を構成しており、図のように変形させてキャップ体7に収納し全体として1本の棒のようにした場合でも、キャップ7から脱抜すると図2(B)のように当初の正確なアングルを再現するものとなる。
【0036】
このように、ブラシ体5及び柄体3Aをストレート型のキャップ体7内に収納することによる効果として、上述したように微細で変形しやすいブラシ体5及び細い線状金属からなる柄体3Aを保護することのほか、嵩張りやすいアングル型の歯間ブラシ1Aを図2(A)のように真っ直ぐな棒状にして嵩張りにくいものとして保管・携帯に便利な状態にすることがある。これに加えて、ブラシ体5は乾燥した状態では歯間に挿入しにくいところ、これを予め所定の液体成分で濡らしておく場合に、キャップ体7内で気密的に保持してその乾燥を防止することも可能となる。
【0037】
図3は、本実施の形態の歯間ブラシ1Aについて、図2(A)のキャップ体7をハンドル手段として使用する場合を示している。キャップ体7の先端側には連結体2の連結用凹部20に挿入して連結するための連結用凸部71が設けられており、歯の清掃時に手で把持するためのハンドル手段を兼ねるようになっている。
【0038】
そして、図2(A)に示すキャップ体7内に収納した状態の保管・携帯時から、キャップ体7を外し、図3に示すようにその連結用凸部71を連結体2の連結用凹部20内に嵌挿して連結・固定することで、そのまま手で把持して清掃を行えるようになっている。そのため、別途ハンドル手段を準備して保管したり、携帯したりする必要のないものとなる。
【0039】
図4は、本実施の形態の歯間ブラシ1Aを、電動歯ブラシ本体駆動部80の連結用凸部81に接続して使用する場合を示している。電動歯ブラシ本体駆動部80は、連結用凸部81で縦方向の音波振動を発生させる音波歯ブラシ用であっても、比較的低周波の横方向の振動を発生させるものであっても良いが、電気的に生じた振動を連結用凸部81からブラシ体5まで伝えることにより、より優れた清掃能を発揮できるものとなる。
【0040】
この電動歯ブラシ本体駆動部80に歯間ブラシを連結して使用する際に、仮に柄部が一般的な鋼線製で弾性変形能が不充分なものを用いた場合には、不用意な使用により歯や歯肉を損傷したりブラシ体や柄体が屈曲・破損して耐久性に問題が生じたりする。しかし、本実施の形態では超弾性合金からなる弾性変形部31が基管部30と先管部32の間に介在しているため、超弾性変形作用により過剰な力を吸収することができ、且つ、先端側のブラシ体5が歯の表面形状に密着するように柔軟に変形するため、充分な清掃能を発揮することが可能となる。
【0041】
図5、図6は、歯間ブラシ1Aの応用例としての歯間ブラシ1Bを示している。図5(A)を参照して、この歯間ブラシ1Bは、図1(A)の歯間ブラシ1Aと基本的構成は共通しているが、その線材310が露出した弾性変形部31の外周側を、所定の隙間を有しながら樹脂チューブ90で完全に覆ってこの部分の内外を気・液密状態としており、洗浄水を充填したシリンジを連結体2に連結することでブラシ体5基端側から洗浄水を噴出可能とした点を特徴としている。
【0042】
この樹脂チューブ90としては、加熱することにより内径が収縮する軟質で熱収縮性のチューブを用いればよく、収縮前の状態で図1(A)に示した歯間ブラシ1Aのブラシ体5先端側から挿通し、先端側が基管部30の屈曲部分を僅かに超えるとともに基端側が先管部32の中途になる位置で停止させ、その位置で加熱することにより樹脂チューブ90が縮径方向に収縮して先端側及び基端側の内周面が管材300,320の外周面に密着し、弾性変形部31の線材310の外周面との間に隙間部分を形成する。
【0043】
図5(A)のX−X線に沿う拡大した端面図である図5(B)に示すように、管材300内に挿入した線材310の断面は多角形であるため、管材300内周面との間に適度な隙間を形成している。また、図5(A)のY−Y線に沿う拡大した端面図である図5(C)に示すように、先管部32内部でカシメ止めされたブラシ体5の芯線50外周面と管材320内周面との間にも隙間が形成され、ブラシ体5基端側でこれが開口している。
【0044】
一方、連結体2の連結用凹部20の頂壁側には管材300基端側の開口部が露出しており、連結体2内部と管材300内部とが連通されており、連結体2内部からブラシ体5基端側まで繋がる連通路が形成されている。そのため、図6に示すように、連結体2の連結凹部20に洗浄液を充填したシリンジ100の噴口がある接続用凸部101を挿入・連結した後、プランジャ102を指で押して洗浄液を圧送することにより、洗浄液がブラシ体5基端側から噴出してブラシ体5の洗浄を行えるようになっている。殊に、本実施の形態において線材310に断面正方形の角ワイヤを使用したことにより、その外周側に適度な洗浄液の通路が形成されているため洗浄液の送出がスムースなものとなっている。
【0045】
このように、プランジャ102を押してブラシ体5を頻繁に洗浄しながら口腔内の清掃を行うことにより、ブラシ体5の汚れを除くために歯間ブラシ1Bを頻繁に口腔外に出してブラシ体5の洗浄を行う手間を省略することができ、優れた清掃能を連続的に発揮できるようになった。尚、ブラシ体5基端側から洗浄水を噴出してブラシ体5を濡らすことは、これを歯間に挿入しやすくする利点もある。
【実施例1】
【0046】
以下に、本発明の歯間ブラシについて、実施例により更に詳細に説明する。本実施例では、先ず図1(A)示した歯間ブラシ1Aと同様のものを作成し、その次に、図5(A)に示した歯間ブラシ1Bと同様のものを作成して、各々実際に歯の清掃に使用してその作用と効果を確認した。
【0047】
(歯間ブラシの製作)a,連結体:長さ18.00mm、医療用注射針の連結部をそのまま使用、合成樹脂製、b,管材(基管部):内径0.57mm、外径0.80mm、全長19.00mm(露出部分12.00mm、先端から屈曲部分まで2.50mm)、SUS304製、c,線材:0.41mm×0.41mm×12.00mm(弾性変形部5.00mm)Ti−Ni超弾性合金(製品名 G&Hスーパーエラスチックワイヤー、角型、G&Hワイヤーカンパニー社製)、基端側5.00mm(中央が屈曲部分)に700℃〜800℃焼きなましによる可塑化処理実施、d,第2の管材(先管部):内径0.57mm、外径0.80mm、全長4.00mm、SUS304製、e,ブラシ体:ブラシ部分2.0mm×10.00mm、基端側芯線突出部2.00mm、
【0048】
(結果)図3と同様にキャップ体を接続してハンドル手段として用い、上下の歯列において各歯間及び歯の周囲を清掃した結果、1本の歯間ブラシで歯茎を傷つけることなく全歯間に亘って容易に清掃作業が行われ、目視上、総ての歯の歯垢及び食べかすを充分に除去することができた。また、作業後の柄体のアングル等の形状を観察した結果、特に変化は見られず塑性変形は確認されなかった。さらに、同一の歯間ブラシを用いて上記と同様の作業を30回実施したが、毎回ほぼ同様の作用・効果を発揮し、柄体に変形は見られなかった。
【0049】
尚、参考までにこの歯間ブラシと同じ構成のものを、音波歯ブラシ本体にも接続して実際に使用してみた。与えた振動は実施周波数約258Hzの縦振動であったが、アングルの先端側に異常共振を起こすことはなく、また歯肉に損傷を与えずに比較的短時間で充分な清掃を行えた。
【0050】
一方、この歯間ブラシと同じ構成のものについて、その弾性変形部を熱収縮性の樹脂チューブで覆って、図5(A)に示した歯間ブラシ1Bと同様のものを作成し、清掃途中でブラシ体基端側から洗浄液を適宜噴出させながら使用した。その結果、口腔外でブラシ体の洗浄を要することはなく、充分且つ効率的な清掃が行えた。尚、樹脂チューブに透明のものを用いたことにより洗浄液の通過が確認できたため洗浄作業は実施しやすかった。
【実施例2】
【0051】
実施例1で作成した図1(A)のタイプの歯間ブラシを、図7(A)に示したアングル型の歯間ブラシを対照例として、柄体へのトルク(ねじり)方向の動作に対する耐久性を試験して比較した。
【0052】
(対照例):製品名 プロスペック(登録商標)歯間ブラシ、アングル型、サイズ SSS、柄体の径 0.4mm
(試験方法):図7(B)と同様にハンドルまたは連結体の中心軸延長線にブラシ体の中心軸線が一致するように柄体部分を中心として屈曲させた状態でブラシ体先端を固定し、図8(D)と同様に柄体を中心にブラシ体先端側が左右に約180°旋回するように、ハンドルまたは連結体を手で把持して左右に平行移動させて、柄体の連結部分が破断するまでの往復回数をカウントした。
(検体数):各10
【0053】
(結果)対照例の歯間ブラシは15〜20回の往復動作で破断したのに対し、本実施例の歯間ブラシは、100回の往復動作でも総て破断しなかった。
【0054】
(考察)以上の結果から、本実施例において超弾性合金製の線材による弾性変形部が歯の清掃時においてブラシ体を弾性的且つ柔軟に支持したことが確認され、弾性変形部が曲げ方向のみならずねじり方向にも弾性的に変形しながら歯の表面形状に柔軟に追従・変形して、ブラシ体側面を歯の表面に密着させながら、あらゆる向きに操作することを可能としたものと考えられ、優れた清掃機能を発揮したものと評価できる。
【0055】
即ち、本実施例においては、ブラシ体を強く圧入した場合でも弾性変形部が柔軟に変形して、歯肉や歯の損傷を回避するとともに柄体にかかる荷重を軽減し、その金属疲労を低下させて多数回に亘る使用を可能としたものと考えられる。また、耐久性試験の結果から、柄体の連結体側から屈曲部分までを比較的剛性のある管材で構成し、超弾性合金製で角型の線材を屈曲部でカシメ式に機械的に固定したことにより、柄体のアングルでねじり方向の力が加わった際に、線材の柄体への連結部分、及び柄体の連結体への固定部分において大きな強度を発揮して、柄体や線材の破断・脱落を回避したものと考えられる。
【0056】
尚、上述した結果より、本実施例で作成した歯間ブラシを使用することにより、通常の歯間の清掃目的のみならず、例えばインプラント設置後の全周囲的な清掃において極めて優れた清掃能を発揮することが予想され、インプラントのメンテナンス作業の効率化においても大きく貢献することが期待されるものである。
【0057】
以上、述べたように、先端側でブラシ体を支持する柄体が所定角度で屈曲して設けられたアングル型の歯間ブラシについて、本発明により、その耐久性を確保しながら優れた清掃能を発揮できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(A)は本発明における実施の形態を示す正面図、一部拡大部分図、(B)は(A)のX−X線に沿って切断した端面図、(C)は(A)のY−Y線に沿って切断した端面面図。
【図2】(A)は図1(A)の歯間ブラシをキャップ体に収納した状態を示す正面図、(B)は(A)のキャップ体を歯間ブラシから外した状態を示す正面図。
【図3】図2(A)のキャップ体の連結用凸部に歯間ブラシの連結体を連結した状態を示す正面図。
【図4】図1(A)の歯間ブラシを、電動歯ブラシ本体駆動部に連結した状態を示す正面図。
【図5】(A)は図1(A)の歯間ブラシの応用例を示す正面図、(B)は(A)のX−X線に沿って切断した端面図、(C)は(A)のY−Y線に沿って切断した端面図。
【図6】図5(A)の歯間ブラシをシリンジに連結した状態を示す正面図。
【図7】(A)は従来例を示す正面図、(B)は(A)の歯間ブラシを前歯に使用する場合を示す正面図。
【図8】(A)は上顎前歯の咬合面観による歯間の状態を示す略図、(B)は(A)に示した歯間を図7(A)の歯間ブラシで清掃する場合を示す略図、(C)は(A)に示した歯間を図7(A)の歯間ブラシで実際に清掃する場合を示す略図、(D)は(C)の場合のブラシ体及び柄体の動作を示す略図。
【符号の説明】
【0059】
1A,1B 歯間ブラシ、2 連結体、3A,3B 柄体、5 ブラシ体、7 キャップ体、20 連結用凹部、30 基管部、31 弾性変形部、32 先管部、50 芯線、71,81,101 連結用凸部、80 電動歯ブラシ本体駆動部、90 樹脂チューブ、100 シリンジ、300, 320 管材、310 線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル手段側に連結するための連結用凹部を有した連結体と、該連結体の先端側から延設された線状金属からなる柄体と、該柄体先端側で支持された略円柱状のブラシ体とを備え、前記柄体が前記連結体の中心軸延長線に沿って延設されているとともに途中で所定角度屈曲したアングル型の歯間ブラシにおいて、
前記柄体は、管材からなり基端から所定の範囲を構成する基管部と、前記管材先端側に基端側を挿入した状態で延設され先端側で前記ブラシ体を弾性的に支持する超弾性合金製の線材が弾性変形可能な露出部分を構成してなる弾性変形部とを有し、且つ、前記基管部の線材を挿入している部分で該線材とともに所定角度で屈曲されたことにより、アングルを形成しながら前記管材中で前記線材が脱抜不能に固定されている、ことを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項2】
前記線材は、該線材の中心軸線に直角な面で切断した断面形状が前記断面の長径の2分の1以上の長さの辺を有する多角形となる角ワイヤである、ことを特徴とする請求項1に記載した歯間ブラシ。
【請求項3】
前記線材の断面形状は、正方形であることを特徴とする請求項2に記載した歯間ブラシ。
【請求項4】
前記ブラシ体は、芯線の基端側が前記管材とは別の第2の管材の先端側に挿入され、該第2の管材の基端側には前記線材の先端側が挿入されて該線材を前記ブラシ体に接続する先管部を構成しており、且つ、前記管材の基端側は前記連結体の連結用凹部内で開口したものとされ、前記基管部と前記先管部との間で前記線材が露出する部分が、樹脂チューブで前記線材外周面との間に隙間を有しながら内外気・液密状態に覆われたことにより、前記連結体の連結用凹部から前記ブラシ体基端側まで連通路が形成されており、前記連結体に洗浄液を充填したシリンジを連結して洗浄液を圧送することにより前記洗浄液が前記ブラシ体基端側から噴出して該ブラシ体の洗浄を行う、ことを特徴とする請求項1,2または3に記載した歯間ブラシ。
【請求項5】
前記線材はTi−Ni合金製であることを特徴とする、請求項1,2,3または4に記載した歯間ブラシ。
【請求項6】
前記線材の屈曲する部分を含む所定範囲を、予め所定温度で加熱することにより超弾性作用を発揮しない塑性変形可能なものとした、ことを特徴とする請求項5に記載した歯間ブラシ。
【請求項7】
請求項1,2,3,4,5または6に記載した歯間ブラシは、少なくとも前記柄体から先の部分を収納して保護するためのストレート型で管状のキャップ体を別体として有しており、前記弾性変形部が弾性変形した状態で前記キャップ体内に収まることにより、全体として1本の棒状になることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項8】
前記キャップ体は、先端側に前記連結体の連結用凹部に連結するための連結用凸部を有しており、前記連結体に連結することによりハンドル手段を兼ねることを特徴とする、請求項7に記載した歯間ブラシ。
【請求項9】
前記連結体は、前記連結用凹部が前記ハンドル手段となる電動歯ブラシ本体駆動部の連結用凸部に連結可能な構造を有しており、電気的な振動を与えながら使用可能とされていることを特徴とする、請求項1,2,3,4,5,6,7または8に記載した歯間ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−56254(P2009−56254A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228430(P2007−228430)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【特許番号】特許第4108735号(P4108735)
【特許公報発行日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(301077389)
【Fターム(参考)】