説明

残土処分構造

【課題】地形形状に限定されず採用することが可能で、かつ、掘削ずりから滲出する酸性水を効果的に中和することを可能とした残土処分構造を提案する。
【解決手段】掘削残土層2と、掘削残土層2の側面および底面を覆い掘削残土層2から滲出する酸性水の中和を行う中和層3と、掘削残土層2の上面を覆い浸透する水量を制限する覆土層4と、を備える残土処分構造1であって、中和層3は、炭酸カルシウムを主成分とする中和材から構成され、酸性水を中和するために必要な滞留時間を確保して酸性水が外部に滲出することがない層厚とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残土処分構造に関する。
【背景技術】
【0002】
黄鉄鉱等を含有する掘削ずり等の残土処分では、酸化溶解により生成された酸性水が周辺地盤に滲出することを防止するための対策工を講じる必要がある。
【0003】
従来、黄鉄鉱を含有する掘削ずりを処分する場合には、消石灰などの中和材を添加混合して処分場に埋設処分するのが一般的である。
ところが消石灰を多量に添加すると、アルカリ汚染を引き起こすおそれがあるため、掘削ずりの汚染濃度と混合量との関係を十分に検討したうえで実施する必要があり、その作業に手間を要していた。
【0004】
一方、特許文献1には、傾斜地盤上に積み上げられた盛土において、傾斜上端および傾斜下端に傾斜方向に交差するようにアルカリ性材料を含む地中壁を形成した残土処分構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−220579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記従来の残土処分構造は、傾斜地盤にしか採用することができないため、残土処分場の地形によっては採用することができなかった。
また、地中壁の処理能力以上の浸透水が流入すると、汚染水が周辺地盤に流出するおそれがある。
【0007】
そのため、本発明は、地形形状に限定されず採用することが可能で、かつ、掘削ずりから滲出する酸性水を効果的に中和することを可能とした残土処分構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、掘削残土層と、前記掘削残土層の側面および底面を覆い前記掘削残土層から滲出する酸性水の中和を行う中和層と、前記掘削残土層の上面を覆い浸透する水量を制限する覆土層と、を備える残土処分構造であって、前記中和層は、炭酸カルシウムを主成分とする中和材から構成され、前記酸性水を中和するために必要な滞留時間を確保して前記酸性水が外部に滲出することがない層厚とされていることを特徴としている。
【0009】
前記中和層の層厚は、前記中和層の浸透水の流速と前記中和するために必要な滞留時間との積を前記中和層の空隙率で除した値以上にするのが望ましい。
【0010】
かかる残土処分構造は、掘削残土層内で生成された酸性水を、中和層により中和するため、汚染水が外部に滲出することが防止される。中和層は、酸性水を中和するために必要な反応時間を確保できる厚みを有して形成されているため、効果的に中和することができる。
ここで、炭酸カルシウムを主成分とする中和材には、例えば、石灰岩やドロマイトを使用する。
【0011】
また、掘削残土層の周囲を中和層で覆うのみの簡易な構成のため、施工が容易である。
【0012】
また、覆土層により外部から掘削残土層に浸透する水量を制限しているため、掘削残土層への水の浸透を均等化し、中和層の層厚を、必要最小限に設定することが可能となる。なお、覆土層には有害物質を含有しておらず、酸性化しない材料を使用することが望ましい。
【0013】
前記残土処分構造において、前記中和層の透水係数の大きさが前記掘削残土層以上であって、前記掘削残土層の透水係数の大きさが前記覆土層以上に設定すれば、浸透水が各層の境界部において湛水することを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地形形状に限定されず採用することが可能で、かつ、掘削ずりから滲出する酸性水を効果的に中和することを可能とした残土処分構造を構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係る残土処分構造の概要を示す断面図である。
【図2】残土処分構造の変形例を示す断面図である。
【図3】残土処分構造の他の変形例を示す断面図である。
【図4】残土処分構造の他の変形例を示す断面図である。
【図5】残土処分構造の他の変形例を示す断面図である。
【図6】(a)は室内試験で使用したカラムを示す模式図、(b)は石灰岩層の最低層厚の検討結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。
本実施形態にかかる残土処分構造1は、地盤5に形成された凹部(溝等)に掘削ずりを埋設処分するための構造であって、図1に示すように、掘削残土層2と、掘削残土層2の側面および底面を覆う石灰岩層(中和層)3と、掘削残土層2と石灰岩層3の上面を覆う覆土層4とを備えて構成されている。
【0017】
掘削残土層2は、地盤5に形成された凹部に埋設された掘削ずりにより形成されている。本実施形態では、黄鉄鉱含有の掘削ずりを処分する。
【0018】
掘削残土層2は、所定の厚みで石灰岩層3が敷設された凹部内に掘削ずりを埋設することにより形成されている。
【0019】
石灰岩層3は、掘削残土層2の側面および底面を覆うように形成された中和層である。
石灰岩層3は、降雨などにより掘削残土層2内に浸透した浸透水が、汚染物質を含有した状態で周辺地盤(地盤5)に滲出することを防止するために設けられた層である。
なお、本実施形態では、中和材として石灰岩を使用するが、中和材は炭酸カルシウムを主成分とする材料であれば石灰岩に限定されるものではなく、例えば、ドロマイトを使用してもよい。
【0020】
掘削残土層2に水が浸透すると、掘削ずり内の黄鉄鉱の酸化溶解により硫酸酸性水が生成される。石灰岩層3は、石灰岩の炭酸カルシウムにより掘削残土層2から滲出した硫酸酸性水を中和する。
本実施形態では、石灰岩層3の透水係数の大きさが、掘削残土層2の透水係数以上となるように、石灰岩層3を構成する石灰岩の粒径等を設定する。なお、石灰岩層3において使用する石灰岩の種類は限定されるものではなく、適宜選定して使用する。
【0021】
石灰岩層3の層厚は、硫酸酸性水を中和するために必要な反応時間(滞留時間)を確保できる厚さに設定する。
【0022】
石灰岩層3の層厚Hは、まず、算定層厚HSAを算出し、これを最低層厚HSBと比較していずれか大きい方の値を選定することにより設定する。なお、最低層厚HSBは、石灰岩層3を構成する石灰岩の粒径が4.75以上9.5mm未満の場合は4.5cm以上、石灰岩の粒径が0.25以上4.75mm未満の場合は2cm以上とする。ここで、石灰岩の粒径は、ふるい試験(JISA−1204)の結果に基いて決定すればよい。
【0023】
算定層厚HSAの算出は、石灰岩層3の透水係数kにより算出された石灰岩層3中の浸透水の流速Sと、硫酸酸性水の中和に必要な滞留時間Tとの積を、石灰岩層3の空隙率pで除することにより算出する(式1参照)。
【0024】
SA=S×T/(p/100) ・・・式1
ここで、HSA:算定層厚(cm)
S:浸透水の流速(cm/sec)=k×i
T:中和に必要な滞留時間(sec)
p:石灰岩層の空隙率(%)
k:透水係数(cm/sec)
i:動水勾配
【0025】
石灰岩層3は、掘削ずりを投入する前に、層厚Hを確保した状態で地盤5に形成された凹部の表面に敷設する。
【0026】
覆土層4は、掘削残土層2が風雨等により流出することを防止するために、掘削残土層2の上面を覆うように形成された層である。
【0027】
覆土層4を構成する材料は、有害物質を含んでおらず、酸性化しない材料であれば限定されるものではなく、適宜材料を選定して形成すればよい。また、覆土層4の層厚も限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。本実施形態では、覆土層4の透水係数が掘削残土層2の透水係数よりも小さくなるように、覆土層4を構成する材料を選定する。
【0028】
本実施形態では、掘削残土層2の上面と石灰岩層3の上面とを覆うように、覆土層4を形成する。なお、覆土層4は、少なくとも掘削残土層2の表面(上面)を覆うように形成されていればよく、必ずしも石灰岩層3の表面を覆う必要はない。
【0029】
以上、本実施形態の残土処分構造1によれば、掘削ずりの周囲に石灰岩層3を形成するのみの簡易な構成のため、中和プラント等の設備や当該設備を設置するための用地を確保する必要がなく、簡易かつ安価に構成することが可能である。
【0030】
また、掘削残土層2の周囲を覆う石灰岩層3の層厚を2cm以上確保しているため、掘削残土層2が含有する黄鉄鉱が酸化溶解することにより生成された硫酸酸性水を中和して、周辺地盤への汚染物質の滲出を防止することができる。
【0031】
また、石灰岩を使用しているため、水に溶解したとしても、pHは8.5程度しか上昇しないため、アルカリ汚染を引き起こす可能性が低い。
【0032】
また、石灰岩層3の透水係数の大きさが掘削残土層2以上であって、掘削残土層2の透水係数の大きさが覆土層4以上に構成されているため、浸透水が各層の境界部で湛水することが防止されている。ゆえに、掘削残土層2と覆土層4との境界に湛水することで覆土が流出することや、掘削残土層2と石灰岩層3との境界に湛水することで水みちが形成されて浸透水が中和されないまま地盤5に滲出することを防止できる。
【0033】
また、掘削残土層2の表面を覆土層4により覆っているため、掘削残土層2に浸透する水(降雨等)の量を調整するとともに、水の浸透を均等化する。これにより、掘削残土層2内において生成される硫酸酸性水の量および濃度を均等化し、石灰岩層3による中和効率をより向上させる。
【0034】
なお、残土処分構造1の構成は限定されるものではなく、地盤5の地形等に応じて適宜形成することが可能である。
例えば、平坦な地盤5上に掘削ずりを盛土処分する場合には、図2に示す残土処分構造1aのように、掘削残土層2と、掘削残土層2の側面および底面を覆う石灰岩層3と、掘削残土層2と石灰岩層3の表面を覆う覆土層4とにより構成する。
【0035】
残土処分構造1aは、以下の手順により形成する。まず、地盤5上に2cm以上の厚みを確保した状態で敷設された石灰岩層3の上面に、安定勾配を確保した状態で断面台形に掘削残土層2を盛土する。次に、掘削残土層2の側面の覆うように2cm以上の厚みを確保した状態で石灰岩層3を形成する。さらに、掘削残土層2の上面と、石灰岩層3の上面および側面を覆うように覆土層4を形成する。
なお、覆土層4は少なくとも掘削残土層2の表面(上面)を覆うように形成されていればよく、必ずしも石灰岩層3の表面を覆う必要はない。また、石灰岩層3と地盤5との間で湛水することを防止するために、石灰岩層3の下端から覆土層4を貫通する排水管を配管してもよい。
【0036】
また、図3に示す残土処分構造1bまたは図4に示す残土処分構造1cのように、石灰岩層3と地盤5との間に、石灰岩層3よりも透水係数が小さい敷土層6を形成することで、石灰岩層3内での浸透水の滞留時間を長くする構成としてもよい。
【0037】
残土処分構造1b、1cによれば、石灰岩層3を構成する石灰岩の粒径を大きくしても、所望の滞留時間を確保できるため、掘削残土層2から滲出した硫酸酸性水を中和することができる。
ここで、敷土層6を構成する材料は、地盤5よりも細粒の材料により構成するのが望ましい。なお、敷土層6を構成する材料として、覆土層4と同じ材料を使用してもよい。
【0038】
また、地盤5が傾斜している場合には、傾斜面(法面)に沿って盛土を行うことで残土処分構造1dに形成してもよい。
【0039】
法面に沿って残土処分構造1dを形成する場合には、法面に沿って石灰岩層3bを形成し、石灰岩層3b上に掘削残土層2を、安定勾配を確保した状態で形成する。そして、掘削残土層2の側面(法面)を石灰岩層3aにより覆う。さらに、掘削残土層2および石灰岩層3(3a,3b)の表面を覆土層4により覆う。
【0040】
残土処分構造1dにおいて、掘削残土層2と石灰岩層3aとに跨って排水管7,7を配管することで、硫酸酸性水を石灰岩層3aに誘導してもよい。このとき、石灰岩層3aに浸透した硫酸酸性水は石灰岩層3aの傾斜に沿って流下することで十分な滞留時間を確保することができるため、石灰岩層3aに使用される石灰岩は粒径が他方の石灰岩層3bで使用される石灰岩の粒径に比べて大きなものでもよい。
【0041】
なお、残土処分構造1dの最下部には、透水係数の大きい材料により排水口8を形成し、石灰岩層3からの排水が可能となるように構成する。なお、排水口8には、石灰岩を配置してもよいし、排水管を配管してもよい。
【0042】
本発明は、前述の実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【実施例】
【0043】
次に、石灰岩層の層厚の設定方法に係る実施例を示す。
本実施例では、カラム10を利用した室内試験により、石灰岩層の最低層厚HSBの検討を行った。
【0044】
本試験は、図6(a)に示すように、石灰岩11が投入されたカラム10に、下部から0.01mol/Lの硫酸水溶液12を流入させて、カラム10内の石灰岩11を通過させた後、上部から排出された水溶液13のpHを測定することで、石灰岩層による中和特性を測定した。
【0045】
本試験では、石灰岩の粒径が4.75以上9.5mm未満(ケース1)と、粒径が2.0以上4.75mm未満(ケース2)と、粒径が0.25以上2.0mm未満(ケース3)と、の3ケースについて測定を行った(表1参照)。
【0046】
【表1】

【0047】
中和能力は、水質汚濁防止法排水基準を満たすように、酸性水を少なくともpH5.8まで中和する能力を最低基準とした。
石灰岩は中和反応が進むにしたがって消費されるから、カラム内の石灰岩高さは中和反応の進行にともなって減少する。
【0048】
本試験では、カラム10内に石灰岩を補充することなく、石灰岩11の高さを低くなる方向に変化させて、流量一定にて硫酸水溶液12をカラム10(石灰岩11)内に流入させて、pHの中和効果を測定した。本試験によれば、石灰岩高さが所定値を越えると必要な中和反応をしなくなるポイントが明らかになる。
本試験の結果を図6(b)に示す。ここで、図面において符号C1,C2,C3は、それぞれケース1、ケース2、ケース3を示している。
【0049】
図6(b)に示すように、ケース1(C1)の場合は、石灰岩の高さ(層厚)が4.5cm以下になると、pHが低下し、中和効果が上記最低基準を満たさなくなった。また、ケース2(C2)およびケース3(C3)の場合は、石灰岩の高さ(層厚)が2cm以下になると、pHの値が上下して、中和効果が不安定となった。したがって、石灰岩層の最低層厚HSBとしては、石灰岩11の粒径が4.75以上9.5mm未満の場合は4.5cm、石灰岩11の粒径が0.25以上4.75mm未満の場合は2cmに設定すればよく、石灰岩層3の層厚は2cm以上であればよいことが実証された。
【符号の説明】
【0050】
1 残土処分構造
2 掘削残土層
3 石灰岩層
4 覆土層
5 地盤
6 敷土層
7 排水管
8 排水口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削残土層と、前記掘削残土層の側面および底面を覆い前記掘削残土層から滲出する酸性水の中和を行う中和層と、前記掘削残土層の上面を覆い浸透する水量を制限する覆土層と、を備える残土処分構造であって、
前記中和層は、炭酸カルシウムを主成分とする中和材から構成され、前記酸性水を中和するために必要な滞留時間を確保して前記酸性水が外部に滲出することがない層厚とされていることを特徴とする残土処分構造。
【請求項2】
前記中和層の層厚が、前記中和層の浸透水の流速と中和に必要な滞留時間との積を前記中和層の空隙率で除した値以上であることを特徴とする、請求項1に記載の残土処分構造。
【請求項3】
前記中和層の透水係数の大きさが前記掘削残土層以上であって、前記掘削残土層の透水係数の大きさが前記覆土層以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の残土処分構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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