説明

殺菌剤の製造方法、その製造装置及び殺菌剤、並びに殺菌処理方法

【課題】電気分解を利用する原水からの高い殺菌作用を有する電解処理液からなる新しい殺菌剤の製造方法であって、電力及び水の使用量が少なく、装置の構造が小型かつ簡単であり、長時間運転が可能であり、製造コストを低減することが可能な製造方法、その製造装置及びその方法により製造された殺菌剤、並びに殺菌処理方法を提供する。
【解決手段】陰陽両極間に隔膜が存在しない電解槽に、塩酸添加原水を通液し、塩酸添加原水に浸漬した陰陽両極に通電し、上記塩酸添加原水を電解処理し、電解処理液を採取することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法、その製造装置及びその方法により製造された殺菌剤、並びに原水の殺菌処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩酸添加原水を電気分解(以下、電解処理と記載することがある)することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法、その製造装置、及びその方法により製造された殺菌剤、並びに原水の殺菌処理方法に関する。
更に詳しくは、本発明は、陰陽両極間に隔膜が存在しない電解槽によって塩酸添加原水を電解処理することにより、電解処理液を陽極水と陰極水とに分離することなく採取することを特徴とする、全電解処理液が高い殺菌効果を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法、その製造装置、及びその方法により製造される殺菌剤、並びにその方法を利用した原水の殺菌処理方法に関する。
本明細書において、百分率の表示は、特に断りのない限り、重量による値である。
【背景技術】
【0002】
従来、水を電気分解することにより酸性水又はアルカリイオン水を得る方法が知られている。一般に、酸性水又はアルカリイオン水を得る目的で水の電気分解を行う場合、電解槽が用いられる(非特許文献1)。従来の電解槽は、内部に陽極及び陰極からなる電極を備えており、この陽極と陰極とを隔膜で隔離し、陽極室と陰極室の二室に区分した構造を有しており、この電解槽に、食塩等の電解質を少量添加してその電気伝導度を増加させた水を給水し、電極に直流電流を印加し、水の電気分解を行っていた。
【0003】
従来の電解槽の作用を説明すれば、まず電気分解の対象となる水(以下、原水と記載する。)が、ポンプ等により電解槽の陽極室と陰極室に送られて電気分解されるが、陽極室では原水が酸化作用を受け、水酸イオンの一部が酸素ガスとして除去されるため、陽極室から排出される水は酸化還元電位が高く、かつ酸性を呈し、いわゆる酸性水となる。一方、陰極室では原水が還元作用を受け、水素イオンの一部が水素ガスとして除去されるため、陰極室から排出される水は酸化還元電位が低く、かつアルカリ性を呈し、いわゆるアルカリイオン水となる。酸性水は殺菌作用を有しており、食品産業、医療等の現場で器具、手指等の殺菌洗浄に使用されており、アルカリイオン水は飲用として利用されている。
このように、近年、電解処理により殺菌効果を有する酸性水を製造し、これを一種の殺菌剤として利用することが行われている。
一方、我々の日常生活、工場設備等において使用される種々の原水は、一般に、殺菌処理を必要とすることが多く、より効果的な殺菌処理方法が常に待望されており、このために前記従来の電解槽が用いられる場合があった。
例えば、工場等の冷却設備に設置するコンデンサーと、これに付属するクーリングタワーの間には冷却水を循環させて熱交換を行っているが、このような冷却水には雑菌が繁殖しやすく衛生上の問題となっていた。従って、冷却水の循環管路に電解槽を設置することにより、雑菌の繁殖を防止することが試みられている(例えば、特許文献1参照)。また、水洗トイレのシスターンに電解槽を備えて便器に流す洗浄水を処理すること(例えば、特許文献2参照)、電解槽により電解処理した水を凍結し、氷の状態にして利用すること(例えば、特許文献3参照)も行われている。更に、風呂、プール等の貯水槽に電解槽を備え、貯留された水を殺菌処理する技術も公知である(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
前記従来の電解処理方法(以下、従来技術1と記載する)に関して、種々の改良技術が発表されている。例えば、電解処理の際に、酸性水及びアルカリイオン水のうち、使用しない側の水を有効利用する技術が報告されている。また、陰極へのスケール付着を軽減する技術として次のような従来技術が知られている。即ち、電解槽の陰極室及び陽極室にアルカリ中和剤及び酸性中和剤を切り替え自在に添加する手段を設け、生成する酸性水及びアルカリイオン水のうち、使用しない方を中和して他方に混和する技術、及び、電解槽の電極の極性を適時逆転させ、陰極室及び陽極室の機能を逆転させて陰極へのスケール付着を防止する方法(特許文献5。従来技術2)等が知られている。
【0005】
また、本発明者らは、同様の課題を解決するために、次のような技術を開発し、既に、特許出願している。即ち、電解槽の陰極室内の原水に塩酸を添加して予め酸性にしておき、陰極室で中性に近いアルカリイオン水を生成させ、これを原水にフィードバックする技術を完成している(特許文献6。従来技術3)。
更に、原水を濾過した後食塩を添加し、常法により電解処理してpH1.5〜3.3の酸性水を得て、これを殺菌剤として使用する技術も知られている(特許文献7。従来技術4)。
【0006】
しかるに、前記従来技術1には、次のような問題点があった。
(1)原水に溶解しているカルシウム等が陰極の表面にスケールとして付着し、電解処理の効率を低下させるので、長時間の運転が困難となる。
(2)隔膜の両面が酸及びアルカリに晒され、かつ電気が流れるため隔膜の消耗が激しく、ランニングコストが高価となる。
(3)酸性水のみを殺菌剤として取り出したい場合、アルカリイオン水を廃棄することになるため、アルカリイオン水に相当する水と電力が無駄になる。
【0007】
これに対して、前記従来技術2では、上記(1)の問題点を軽減するために、電解槽の陰陽両極の機能を適時逆転させる方法が採用されているが、この電極を逆転させるための装置が余分に必要であるという欠点がある。また、上記(3)の問題点を軽減するために、使用しないアルカリイオン水を酸で中和し、再利用する方法も考えられるが、この方法はpHのみを調整しただけなので、酸化還元電位等の他の特性が失われ、本来の効果が得られない欠点がある。
また、前記従来技術3では、前記従来技術の問題点(2)、即ち、ランニングコストが高価となる点を解決することができないという不都合があった。
更に、前記従来技術4では、酸性水(殺菌剤)と同時にアルカリイオン水が生成されるため、電力及び水の損失が大きく、また中性の原水から低pHの酸性水を得るために大量の電力を要し、総じてランニングコストが高価になる欠点があり、更に陰極のスケール付着防止のために別途原水を濾過する設備を要する等、装置が複雑になる傾向があった。
また、従来の電解槽を用いて原水を殺菌処理する方法においても、従来の電解槽には上記(1)〜(3)の問題点が存在するため、結局、満足のできる殺菌処理方法は存在しなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平5−87489号公報
【特許文献2】特開平3−33332号公報
【特許文献3】特開平7−218062号公報
【特許文献4】特開平7−256262号公報
【特許文献5】特開平4−99295号公報
【特許文献6】特願平7−63384号
【特許文献7】特願平7−274921号
【非特許文献1】綿抜邦彦ら監修、「新しい水の科学と利用技術」、200〜207頁、サイエンスフォーラム社、1992年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、前記従来技術に鑑みて、電気分解を応用した新しい殺菌剤の製造方法について鋭意研究を行った結果、塩酸添加原水を、陰陽両極間に隔膜が存在しない電解槽に通液し、上記塩酸添加原水を電解処理することにより電解処理液の殺菌作用が飛躍的に向上し、該電解処理後の電解処理液を高い殺菌作用を有する優れた殺菌剤として好適に使用し得ることを見い出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明の目的は、従来技術の前記問題点を解決し、アルカリイオン水を廃棄する必要が全くなく、即ち、原料となる塩酸添加原水の全量が高い殺菌作用を有する殺菌剤として得られる新しい殺菌剤の製造方法を提供すること、電解槽の隔膜が不要であり、また装置の構造が簡便であり、小規模の装置で大量の殺菌剤を得ることができる新しい殺菌剤の製造方法を提供すること、スケール付着の心配が無く長時間運転が可能であり、殺菌効果が高い殺菌剤を容易に、かつ安価に製造できる製造方法を提供すること、にある。
また、本発明の他の目的は、前記殺菌効果が高い殺菌剤を容易に製造するための装置を提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、前記の方法により製造された高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤を提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、前記の方法を用いて原水を殺菌処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための本発明の第一の発明は、陰陽両極間に隔膜が存在しない電解槽に、塩酸添加原水を通液し、該塩酸添加原水に浸漬した陰陽両極に通電し、上記塩酸添加原水を電解処理し、電解処理液を採取することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法、であり、塩酸添加原水の通液、電解処理、及び電解処理液の採取が、連続的に行われること、塩酸添加原水を、塩酸モル濃度0.001mol/l以上6.4mol/l以下の塩酸を希釈して調製すること、電解処理液の採取が、水で希釈後に行われること、電解処理液の採取が、0.1ppm以上の有効塩素濃度の範囲で行われること、通電が、周波数0Hzを超え5Hz以下の交番電流で行われること、通電が、塩酸添加原水1ml当たり0.4クーロン以上6.0クーロン以下の割合の電気量で行われること、及び塩酸添加原水が、pH0.5以上3.0以下であること、をそれぞれ望ましい態様としてもいる。
【0012】
前記課題を解決するための本発明の第二の発明は、前記第一の発明により製造された殺菌剤、である。
前記課題を解決するための本発明の第三の発明は、原水に塩酸を添加して塩酸添加原水を調製し、前記第一の発明の方法を行うことにより電解処理液を採取し、採取した電解処理液を殺菌処理原水として取得することを特徴とする原水の殺菌処理方法、である。また前記第三の発明は、原水の一部に塩酸を添加して塩酸添加原水を調製し、前記第一の発明の方法を行うことにより電解処理液を採取し、採取した電解処理液を原水に戻す態様をとることもできる。
前記課題を解決するための本発明の第四の発明は、隔膜で隔離されていない陰陽両極を配設した電解槽、該電解槽に原水を通液する送水手段、該送水手段を介して通液する原水に塩酸を添加する塩酸添加手段、及び電解槽から電解処理液を排出する排出管路を具備することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造装置、である。また、前記本発明の第四の発明は、隔膜で隔離されていない陰陽両極を配設した電解槽、塩酸添加原水を貯留する塩酸添加原水貯留手段、該塩酸添加原水貯留手段より電解槽に塩酸添加原水を通液する塩酸添加原水通液手段、及び電解槽から電解処理液を排出する排出管路を具備することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造装置、との態様を取ることも可能であり、排出管路が、電解処理液に水を混合して希釈する電解処理液希釈手段を具備することを望ましい態様としてもいる。
【0013】
次に本発明について詳述するが、まず本発明の第一の発明である殺菌剤の製造方法について説明する。
本発明の第一の発明において、塩酸添加原水は、塩酸を添加した水又は化学物質が溶解した水溶液に塩酸を添加したものとして定義されるものであるが、本発明の効果を最大限に発揮するためには、比較的高濃度の塩酸を水に添加した塩酸添加原水を用いることが望ましい。換言すれば、塩化水素のみを含有する塩酸添加原水を用いることが望ましい。この場合に、塩酸の濃度が高すぎる場合は、塩化水素ガスの発生により、刺激臭が感じられ、またその影響で周囲の部材が腐食することがあるため、本発明を適用する場合には塩酸の濃度は高すぎないほうが良い。実際に、食品添加物規格の塩酸(純正化学社製。36.46%)を500ccビーカーに所定量とり、所定量の純水で徐々に希釈し、刺激臭の有無を確認したが、塩酸モル濃度が9.5mol/l、7.7mol/l、7.0mol/lでは、刺激臭が感じられたが、6.4mol/lでは刺激臭が感じられなくなり、濃度が6.0mol/lより低い場合は刺激臭は皆無だった。従って、本発明においては、塩酸添加原水を調製するための塩酸のモル濃度は、6.4mol/l以下が望ましい。尚、後記するように塩酸で調製した後の塩酸添加原水の塩酸モル濃度は、0.001mol/l以上が望ましいため、原料となる塩酸のモル濃度も、当然、0.001mol/l以上が望ましい。即ち、0.001mol/lの塩酸は、特に希釈せずに塩酸添加原水として使用すればよいからである。
塩酸添加原水は、原水ポンプにより原水タンクから原水供給管を通って隔膜が存在しない電解槽に通液される。原水供給管には塩酸ポンプにより塩酸タンクから所定量の塩酸が混合され、原水のpHが0.5〜3.0、望ましくはpH0.8〜3.0、に調整され、塩酸添加原水が調製され、隔膜が存在しない電解槽に通液される。尚、予め調製した塩酸添加原水をそのまま通液してもよい。また、通液する手段は適宜選択することができる。
【0014】
電解槽には、陰陽両電極が膜により隔離されることなく配設されており、陰陽両電極は塩酸添加原水に浸漬され、通電され、塩酸添加原水が電解処理される。通電は、周波数が0Hzを超え5Hz以下、望ましくは0Hzを超え2Hz以下、の交番電流又は直流電流を、塩酸添加原水1ml当たり0.4〜6.0クーロン、望ましくは0.8〜3.0クーロン、の割合で行われる。
電解処理液は、電解槽から電解処理液排出管を通って取り出され、そのまま又は水で希釈して殺菌剤として使用することができる。
【0015】
前記従来の技術において記載したとおり、通常の水を電気分解するための電解槽は、陽極と陰極とを隔膜によって隔離する構造となっている。一般に、水の電気分解に限らず、電解処理は溶液から種々の生成物を分離する目的で行われることが多く、このために通常は隔膜がある電解槽を使用する。しかしながら、本発明では、塩酸添加原水の性質を転換させる目的で電解処理を行うので、陽極で生成した液と陰極で生成した液とを分離する必要がなく、隔膜が存在しない電解槽を使用し得るのである。
【0016】
隔膜が存在しない電解槽において塩酸添加原水を電解処理することにより、電解処理液の殺菌効果が顕著に向上する理由は、次のとおりであると推定される。 電解処理を行うことにより、陽極表面では塩素イオンが酸化されて次亜塩素酸に変化するのである。この結果、高い殺菌作用を有する液体が発生する。
【0017】
一方、陰極の表面では水素ガスが発生してpHが高くなるが、本発明の製造方法において使用する電解槽では陽極室と陰極室の間に隔膜がないので、両方の水が混合し、pHは塩酸の一部が次亜塩素酸に変化したことによりやや上昇するが、結局、電解処理液には、陽極で発生した殺菌作用がそのまま残存し、塩酸添加原水の全部が高い殺菌作用を有する電解処理液になるものと推定される。
【0018】
次に本発明の第一の発明の望ましい実施態様について説明する。
本発明の製造方法においては、連続的に電解処理を行うことも可能である。即ち、電解槽に塩酸添加原水を連続的に通液し、連続的に電解処理し、電解処理液を連続的に取り出すのである。これにより、大量の殺菌剤を製造することができる。
【0019】
また、本発明の製造方法においては、電解処理液を水で希釈したうえで採取しても良い。即ち、予めpHが低い塩酸添加原水を電解処理した後、電解処理液を水で希釈して所望の濃度の殺菌剤を得ることができる。一般に、塩酸添加原水のpHが低い場合は、電解処理する際の電気抵抗が減少し、より低電圧で電解処理することが可能であり、使用する電力量を削減することができる。また、pHが低い塩酸添加原水を少量だけ電解処理し、後に希釈すれば、電解処理する液量が少量で済むため、小型の装置で大量の殺菌剤を得ることが可能になる。
この場合、後記試験例に記載したように、希釈後の電解処理液の有効塩素濃度が0.1ppm未満になるまで希釈すると殺菌効果が減少する。従って、希釈は、希釈後の電解処理液の有効塩素濃度が0.1ppm以上の値となる範囲とすれば、殺菌効果の上で好ましい。尚、一般に電解処理液の有効塩素濃度は、通電の際の電流値によって左右されるが、いずれにしても殺菌剤は有効塩素濃度が0.1ppm以上の値となる範囲が望ましいのである。
また、pHに着目すれば、希釈後の電解処理液のpHは7.0以下が好ましく、特にpH3.5以上6.5以下の範囲が望ましい。即ち、希釈後の電解処理液のpHがこのような範囲であれば、液中に遊離な次亜塩素酸が比較的安定して存在できるためである。
【0020】
また、本発明の製造方法においては、電解処理する際には、従来と同様に直流電流を通電することもできる。ただし、この場合でも、本発明の電解槽は従来の電解槽と比較して陰極表面へのスケール付着が少ない利点がある。これは、本発明の電解槽には隔膜が存在しないため、陽極水と陰極水とが混合し、また、塩酸添加原水のpHが低いこともあって、陰極表面のpHが高くなることが避けられるためである。
【0021】
しかしながら、本発明の製造方法においては、電解処理の際に交番電流を通電するのが望ましい。その理由は、本発明の製造方法において使用する電解槽には隔膜が存在しないため、陰陽両極は適宜逆転させることが可能であるが、交番電流を通電すれば定期的に陰陽両極が逆転することになり、結果的に直流電流よりも陰極表面へのスケール付着を効果的に抑制することができるからである。
尚、交番電流とは周期的に陰陽両極が逆転する電流のことであり、電流の波形には特に制約はないが、後記実施例に記載したように矩形波であれば、瞬時に陰陽両極が逆転するため好ましい。
【0022】
本発明の製造方法において、通電する交番電流の周波数は、0Hzを越え5Hz以下であることが望ましい。その理由は、交番電流の周波数が高すぎる場合、電解処理しても反応が無くなるためであり、後記試験例に記載したように、5Hz以下、特に、2Hz以下の交番電流を用いることが望ましい。尚、「周波数が0Hzを超え」との範囲には0Hzは含まれないが、周波数が0Hzの交番電流は直流電流を意味している。
【0023】
本発明の製造方法においては、塩酸添加原水1mlあたり0.4クーロン以上6.0クーロン以下の割合の電気量で電解処理する(以下、塩酸添加原水1ml当たりのクーロン数の単位をc/mlと記載することがある。)。
後記試験例に記載したように、塩酸添加原水1mlあたり0.4クーロン以上の電気量で電解処理した場合に、殺菌剤の殺菌効果が高まり、電気量が0.8クーロン以上であれば、より強力な殺菌作用を有するものとなるため好ましい。
また、電気量が6.0c/mlを越えた場合には、電解処理の効果が必要以上に高くなり、電力の無駄が多くなる。即ち、塩素ガス、水素ガス、酸素ガス等の気体の発生量が増加するが、その割りには電解処理液自体の殺菌効果は向上せず、結局、電力を無駄に消費する傾向が強くなる。従って電気量は6.0c/ml以下であることが望ましい。
【0024】
本発明の製造方法においては、pH0.5以上3.0以下の塩酸添加原水を使用する。塩酸添加原水のpHが3.0以下であれば、電解処理する際の電気抵抗が減少し、より低電圧で電解処理できる利点がある。しかしながら、pHが極端に低い場合は、電解処理時の塩素、水素、酸素等のガスの発生量が増加する割りには電解処理液の殺菌効果は向上せず、結局電力の無駄が多くなる。従って、塩酸添加原水のpHは、少なくとも0.5以上、好ましくは0.8以上であることが望ましい。塩酸添加原水のpHは、特に電解処理の際の効率等に影響するために重要である。
尚、塩酸添加原水の濃度に着目すれば、塩酸添加原水の塩酸モル濃度は、0.001mol/l以上1mol/l以下であることが望ましい。
また、本発明の方法を、家庭、工場、食堂等で行う場合は、濃度が高い塩酸から塩酸添加原水を調製することが繁雑であるため、予め調製した塩酸添加原水を使用することが好ましい。この場合は、塩酸添加原水の塩酸モル濃度が0.05mol/l以上、0.2mol/l以下であれば、殺菌効果が確保できる範囲で電力のムダが少なく、また仮に直流電流を使用した場合でも陰極表面へのスケール付着が少ないため、好適である。
【0025】
本発明の第二の発明は、前記製造方法により製造される殺菌剤である。本発明の殺菌剤は、塩酸添加原水を出発物質としているため、酸味以外に特に不快な異味、異臭を呈することがなく、また乾燥した後の残留物が無いという特徴を有する。従って、食品産業、薬品産業等の分野において、配管、充填装置、容器等を殺菌する場合に使用するのが、特に好適である。前記製造方法により製造される本発明の殺菌剤は、望ましくは水で希釈され、希釈後のpHが7.0以下、特に望ましくはpH3.5以上6.5以下の範囲に調節される。
本発明の第三の発明は、前記第一の発明の方法を利用して原水を殺菌処理する方法である。
前記本発明の第一の発明は、原水の殺菌処理方法として利用することができる。本発明において、原水とは、具体的には水又は化学物質が溶解した水溶液、例えば全固形分300ppm以下の水溶液又は懸濁液を意味しているが、また殺菌処理を必要とする液体又は殺菌処理を行うことが望ましい液体ということもできる。
このような原水に塩酸を添加して塩酸添加原水を調整し、本発明の第一の発明の電解処理を行えば、生成した電解処理液は、殺菌処理した原水とみなすことができる。また、原水の一部に塩酸を添加することによって塩酸添加原水を調製し、同様に本発明の第一の発明の電解処理を行って電解処理液を採取し、採取した電解処理液を原水に戻す態様であっても良い。
本発明の第三の発明の方法は、従来技術のようにアルカリ水が生成することがなく、アルカリ水を廃棄する必要がない。従って、前記第三の発明によれば、原水を全く廃棄せずに殺菌処理を行うことができる。即ち、前記従来の電解槽による(1)〜(3)の問題点を解決した殺菌処理方法ということができるのである。
以上のように、本発明の第三の発明においては、アルカリ水を廃棄せずに殺菌処理できるため、極めて適用範囲が広く、種々の液体の殺菌処理に利用することができる。本発明の第三の発明における原水としては、飲料用水、種々の廃水、クーリングタワーの冷却水、氷の原料となる水、トイレの洗浄水、及び風呂、プール、水槽、養魚場等の貯水が例示できるが、むろんこれらに限定されるものではない。尚、本発明の第三の発明の、具体的な実施の態様については後記する。
【0026】
本発明の第四の発明は、前記殺菌剤の製造装置であり、少なくとも、隔膜で隔離されていない陰陽両極を配設した電解槽、該電解槽に原水を通液する送水手段、該送水手段を介して通液する原水に塩酸を添加する塩酸添加手段、及び電解槽から電解処理液を排出する排出管路を備えている。
本発明の電解槽は、容器及び陰陽両電極を備えており、陰陽両電極を隔離する膜が存在しない。電解槽を構成する容器は、塩酸添加原水入口及び電解処理液排出口を有している。容器の形状は矩形柱状、円筒状等、いかなるものでも良く、容器の材質は塩酸に対する耐蝕性に優れているものが望ましく、ポリ塩化ビニル、FRP、ポリエチレン等を例示できる。電極の形状は公知のもので良いが、電極の材質は、塩酸添加原水と反応した場合にも化学的に安定していることが必要であり、材質としてはプラチナが最適である。尚、電解槽の電解処理液排出口には、電解処理液を排出するための排出管路が接続される。
【0027】
また、本発明の装置は、比較的高濃度の塩酸を原水により希釈し、塩酸添加原水を適宜調製しながら電解槽に通液する構成を採用している。
原水は、送水手段によって電解槽に通液される。送水手段はどのようなものでも良いが、水道管又は水道蛇口から分岐させた原水送水管を、送水ポンプを介して電解槽の塩酸添加原水入口に連絡する態様が例示できる。この場合は、水道管から直接水道水を引き込むだけの簡単な構造であるため、設備費が安価である。また、後記の望ましい実施の態様のように、送水タンクの上流に原水タンクを配置し、この原水タンクに一時的に原水を貯留してから電解槽に通液する態様であっても良い。
【0028】
また、本発明の装置は、送水手段を介して通液する原水、即ち、電解槽に到達する前の原水に塩酸を添加する塩酸添加手段を備えている。塩酸添加手段は、どのような態様でも良いが、例えば、塩酸が充填容器の形で市販されている場合には、その充填容器に直接ホースを差し込み、そのホースの他端を塩酸供給管の一端に接続し、その塩酸供給管の他端を原水送水管に連結する態様が例示できる。
【0029】
塩酸供給管を原水送水管に接続する態様としては、塩酸供給管の末端を原水送水管に食い込ませ、原水送水管の中心部で原水が流れる方向に屈曲させた後に開口するものが例示できる。このような塩酸供給管では、原水送水管の内部において、原水の流れの動圧によって塩酸が吸引されることになり、エジェクターの機能により自動的に原水の流れに塩酸が添加されることになる。尚、この場合には塩酸供給管には調節弁を設け、添加量を調節することが望ましい。また、塩酸用定量ポンプによって塩酸を強制的に送液することも可能である。
【0030】
また、塩酸添加手段の例としては、前記した塩酸充填容器にホースを差し込む態様以外に、予め塩酸を貯留する塩酸タンクを設けておき、塩酸タンクの出口から原水送水管までを塩酸用定量ポンプを介して塩酸供給管により連絡する態様が例示できる。塩酸供給管と原水送水管との合流場所は原水送水管のいかなる場所に設けても良く、塩酸用定量ポンプは塩酸に対して耐蝕性に優れた材質であることが望ましい。尚、塩酸供給管と原水送水管との合流場所が、送水ポンプよりも上流側にある場合には、送水ポンプ自身も塩酸に対して耐蝕性に優れた材質を用いることが望ましい。塩酸に対する耐蝕性に優れた材質としてはテフロン(登録商標)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等が例示できる。
【0031】
次に本発明の装置の作用を説明する。まず、原水が送水手段によって電解槽に通液される。原水が電解槽に到達する前に、比較的高濃度の塩酸が塩酸添加手段によって原水に添加される。従って、電解槽には、pHが調整された塩酸添加原水が通液されることになる。電解槽では塩酸添加原水に浸漬した陰陽両極に通電することにより電解処理する。電解槽に配設された排出管路から電解処理液が排出され、これを殺菌剤として得ることができる。
また、本発明の装置の別な態様においては、前記送水手段及び塩酸添加手段に替えて、塩酸添加原水貯留手段及び塩酸添加原水通液手段を備えており、より簡易な構造になっている。塩酸添加原水貯留手段は、予め調製した塩酸添加原水を一時的に貯留する手段であり、簡単な容器を使用することができるが、塩酸により腐食されない材質であることが好ましい。塩酸添加原水通液手段は、塩酸添加原水貯留手段より電解槽に塩酸添加原水を通液する手段であり、ポンプ、エジェクター等の装置が例示できる。
塩酸添加原水貯留手段は簡便な容器を使用しても良く、例えば、容器に直接ホースを差し込み、そのホースの他端を電解槽に接続する態様等、総じて、前記塩酸添加手段の構造に類似した構造をとることができる。
この様な態様においては、塩酸添加原水貯留手段及び塩酸添加原水通液手段によって、予め調製した塩酸添加原水を電解槽に通液し、殺菌剤を得ることができる。
【0032】
また、本発明の装置は、電解処理液に水を混合して希釈する電解処理液希釈手段を排出管路に備えている。電解処理液希釈手段は、電解槽から排出される電解処理液に水が添加できるものであればいかなるものでも良く、例えば、電解処理液を、開放されたタンクに一時的に貯留し、このタンクに電解処理液の流量及びpHに応じた流量で水を添加して混合する態様が例示できる。採取される殺菌剤の殺菌効果を最大限に高めるためには、電解槽から排出された電解処理液に可及的に早期に水を混合して希釈することが望ましい。また、電解処理液は種々のガスを含んでいるため、密閉状態で希釈することが望ましい。
尚、本発明の装置は原水の殺菌処理装置として利用することもできる。本発明の装置を原水の殺菌処理装置として利用する場合には、排出管路を、原水が流れる管路等に接続し、電解処理液を原水に混合して希釈しても良い。尚、前記排出管路が電解処理液希釈手段を具備する場合においては、電解処理液に「水」を混合して希釈することになるが、この「水」との用語の範囲には、原水も包含されるものとする。
【0033】
本発明の装置の実施の態様として、図1に示す装置を例示できる。図1は、本発明の装置の実施の一態様を示す図である。
図1において、原水タンク1に原水給水管1aが接続されている。原水Wはフロートバルブ(図示せず)を通して供給されるため原水タンク1の水位は一定に保持される。原水タンク1には原水送水管2が接続され、原水ポンプ3を介して電解槽5に接続されている。更に、塩酸タンク9から塩酸用定量ポンプ4を介して原水送水管2に合流する塩酸供給管10が、原水ポンプ3の上流箇所10aで原水送水管2に接続されている。電解槽5には殺菌剤を排出する電解処理液排出管8が接続されている。電解槽5の中は、陰陽両電極を隔離する膜が存在せず、一の室になっており電極7が設置され、各々電源6に結線されている。
【0034】
次に、前記構成を備えた装置の作用について説明する。原水Wが原水ポンプ3によって原水送水管2を通って電解槽5に通液される。比較的高濃度の塩酸Aが塩酸用定量ポンプ4によって塩酸供給管10を通じて原水Wに注入される。このようにして電解槽に通液される原水Wは一定濃度の塩酸添加原水AWとなる。次いで電解槽5内の電極7に通電して電解処理を行うが、電解槽内では陰極で還元された液と陽極で酸化された液とが常時混合しているので、pHは電解処理前の塩酸添加原水AWとほぼ同じ値である。陽極での酸化反応によって生成した塩素、次亜塩素酸、オゾン等は、電解処理液の酸性が強いこと等のために比較的安定して遊離状態で存在する傾向が強い。従って、塩酸添加原水AWは酸化作用の強い電解処理液Eとなり、電解処理液排出管8からはpHが低く、かつ酸化作用の強く、高い殺菌作用を有する殺菌剤として好適に使用し得る電解処理液Eが排出される。
【0035】
また、本発明の装置の別な実施の態様として、例えば、図2に示す装置を例示できる。図2は、本発明の装置の別な実施の態様を示す図である。図2の装置においては、構成要素の大部分は、図1と同一の符号を付して示したように、図1に示した装置と共通しており、詳細な説明は省略する。
図2の装置には、電解処理液の希釈手段が備えられている。電解処理液の希釈手段として、原水タンク1に原水送水管2とは別に、希釈水送水管12が設置されている。希釈水送水管12は、電解槽5からの電解処理液排出管8と合流点12aにおいて合流しており、合流点12aの下流には、殺菌剤送液ポンプ11が配設されている。また、希釈水送水管12には、流量調節弁13が配設されている。他の構成要素は図1の装置と同様である。
【0036】
図2の装置の作用を説明すると、電解槽5から排出された電解処理液Eが電解処理液排出管8を流れるが、合流点12aにおいては、希釈水送水管12を通じて送液された希釈水と合流し、混合されて希釈される。希釈された電解処理液は処理液排出管8を流れるが、合流点12aにおいては、希釈水送水管12を通じて送液された希釈水と合流し、混合されて希釈される。希釈された電解処理液は殺菌剤送液ポンプ11により送液され殺菌剤Edとして採取することができる。希釈水の流量は、流量調節弁13により調節することができる。
尚、図2の実施態様においては、電解槽5から排出された電解処理液Eを直ちに希釈することが可能であり、また、電解処理液Eを密閉状態で希釈できるため、電解処理液Eに含有されるガスが抜けることがないという特有の効果がある。 また、本発明の装置の別な実施の態様として、例えば、図3に示す装置を例示できる。図3は、本発明の装置の別な実施の態様を示す図である。図3の装置においては、構成要素の大部分は、図1と同一の符号を付して示したように、図1に示した装置と共通しており、詳細な説明は省略する。
図3の装置には、塩酸添加原水貯留手段14を備えており、この塩酸添加原水貯留手段14は塩酸添加原水管15により電解槽5に接続されている。電解槽5には殺菌剤を排出する電解処理液排出管8が接続されているが、電解処理液排出管8は、オリフィス16を介してエジェクター19に接続されており、また、エジェクター19には希釈水送水管12が接続している。希釈水送水管12は定流量弁16を備えており、希釈水源17に接続している。他の構成要素は図1の装置と同様である。
図3の装置の作用を説明すると、塩酸添加原水貯留手段14には、予め調製された塩酸添加原水AWが貯留されている。希釈水が希釈水源17より希釈水送水管12を通じてエジェクター19に流れるが(矢印Y方向)、その流量は定流量弁18により一定に制御される。エジェクター19が電解処理液排出管8を吸引するため、塩酸添加原水貯留手段14に貯留された塩酸添加原水AWが塩酸添加原水管15を流れ(矢印X1方向)、電解槽5に通液される。電解槽5から排出された電解処理液Eが電解処理液排出管8を流れエジェクター19に達し(矢印X2方向)、希釈水源17からの希釈水と混合されて希釈される。希釈された電解処理液は殺菌剤Edとして採取することができる。希釈水の流量に対する電解処理液の流量の比率は、予め電解処理液排出管8に設置されたオリフィス16により調節される。
図3の装置においては、エジェクター19の作用が塩酸添加原水通液手段の作用を兼ねていることになり、構造が簡便である。
次に、図3の装置を利用する態様について説明する。図3の装置により製造した殺菌剤は、例えば水洗トイレの洗浄水に添加することができる。一般に水洗トイレの便器は雑菌により汚染されやすく、しかも雑菌に由来する汚れが付着することがある。このような場合に電解槽を用いることは公知であるが、従来の電解槽には前記(1)〜(3)の問題点があるため、図3の装置を適用することにより、より望ましい水洗トイレとすることができる。
図4は、図3の装置を利用した水洗トイレを示す図である。図4において、図3と共通する構成要素には、図3と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。 図4において、便器25には洗浄水送水管24が接続されており、洗浄水送水管24はシスターン23に接続されている。シスターン23には洗浄水が貯留されている。
シスターン23にはフロートバルブ21が備えられており、フロートバルブ21には洗浄水送水管12aが接続され、洗浄水送水管12aの末端は、洗浄水給水源17aに接続されている。この洗浄水送水管12aに、図3の殺菌剤の製造装置20が備えられている。
図4の装置の作用を説明すると、洗浄水送水管24から便器25に洗浄水が流されると、シスターン23の水位が下がる。フロートバルブ21のフロート22の位置が下がり、フロートバルブ21が開栓され、洗浄水W0が洗浄水給水源17aから洗浄水送水管12aを介してシスターン23に送水される。洗浄水W0はシスターンの水位が回復するまで送水される。
この際、殺菌剤の製造装置20が作動して殺菌剤を製造し、殺菌剤はエジェクター19を介して洗浄水W0に混入される。これによって、シスターン23、洗浄水送水管24、及び便器25には、殺菌された洗浄水が流れる。尚、殺菌剤の製造装置20の作動は、フロートバルブ21と連動させる等、種々自動化することもできる。また、前記エジェクター19に替えてポンプを使用しても良い。
図4の装置では、従来の電解槽のように、前記(1)〜(3)の問題点が存在しないため、製造した殺菌剤を好適に利用することができる。特に図4の装置では、シスターンが存在しないタイプの水洗トイレであっても対応できる利点がある。
尚、最近流行している、便器にシャワーが付属しており、このシャワーにより排便後の肛門を洗浄できるタイプの水洗トイレにおいては、本発明の装置により製造した殺菌剤を、シャワー用の水として利用すれば極めて衛生的である。この場合は、シャワーの作動と本発明の装置とが連動するように自動化すれば良い。 次に、本発明の第三の発明である殺菌処理方法の実施の態様について説明する。説明の便宜上、殺菌処理を行う装置を例示し、この装置を説明することにより殺菌処理方法の説明に替えるものとする。
本発明の殺菌処理方法は、例えば、図5に示す装置を使用することにより実施することができる。図5は、本発明の殺菌処理方法を実施するための殺菌処理装置の一例を示す図である。図5の装置は、前記図1乃至図3の装置の構成要素の一部を変更したものであり、構成要素の大部分は、図1乃至図3と同一の符号を付して示したように、図1乃至図3に示した装置と共通しており、詳細な説明は省略する。
図5において、原水送水管2の一端が原水供給源17bに接続されている。原水送水管2は、原水送水管2aと原水送水管2bに分岐しており、原水送水管2bには、殺菌処理装置30が備えられている。この殺菌処理装置30は図2に示した装置を応用したものである。原水送水管2aには流量調節弁32が、また原水送水管2bには流量調節弁31が備えられている。電解処理液排出管8は原水送水管2aと合流して原水送水管2cとなる。
図5の装置の作用を説明すると、原水送水管2には、図示しないポンプによって原水供給源17bから原水W1が流れ(矢印Y方向)、原水送水管2a及び原水送水管2bに各々分岐して流れる(各々矢印Y1方向及び矢印Y2方向)。これらの流量比は、流量調節弁31及び32によって調節される。原水送水管2bを流れる原水には、比較的高濃度の塩酸Aが塩酸供給管10を通じて注入される。次いで、電解槽に通液され、電解処理されて電解処理液排出管8から排出される(矢印X2方向)。電解処理液は、原水送水管2aを流れる原水に合流して原水送水管2cを流れる(矢印Y3方向)。これによって、原水W1は殺菌処理される。
図5の装置によれば、従来の電解槽のように、アルカリ水が生成することがなく、アルカリ水を廃棄する必要がない。また、原水送水管2bによって原水W1の一部を採取し、これを塩酸添加原水AWとして調製するため、殺菌処理後に原水W1の流量が大幅に増加することがない。
次に、図5の装置を利用する態様を説明すると、まず、飲料用水を殺菌処理して飲料水に変換する操作が例示できる。この場合は、図5における「原水供給源17b」を飲料用水の供給源とする。即ち、飲料用水の供給源17bから流れる飲料用水は、図5の装置によって殺菌処理され、飲用に好適な水となり、上水道等に供給される。
また、図5の装置の別な利用形態として、工場、家庭等で排出される廃水の殺菌処理が例示できる。この場合は、図5における「原水供給源17b」を廃水の排出源とする。即ち、廃水の排出源17bから排出される廃水を、図5の装置により殺菌処理すれば、河川、下水等に流す際に、病原菌等による環境汚染を防ぐことができる。
更に、図5の装置の別な利用形態として、図5の装置によって殺菌処理した水を凍結し、衛生的な氷を得る操作を例示できる。一般に、新鮮な魚介類を輸送する際には、鮮度を維持するために氷詰めにすることが多いが、このために使用する氷は衛生的なものが望ましい。図5の装置によって殺菌処理した水から氷を製造すれば、殺菌作用を保持しているため、衛生的であり、好適である。
更に、図5の装置の別な利用形態を説明すると、図6に示すようなクーリングタワー冷却水の殺菌処理が例示できる。図6は、図5の殺菌処理装置をクーリングタワー冷却水の循環管路に備えた一例を示す図である。図6において、クーリングタワー33と冷却設備のコンデンサー34とは、循環管路37により接続されている。循環管路37にはポンプ35が設置されている。
また循環管路37には、前記図5の殺菌処理装置30が設置されている。更に、循環管路37には塩素濃度計36が備えられ、塩素濃度計36の出力線36aはコントローラー38に結線されている。コントローラー38の出力線4aは殺菌処理装置30の塩酸用定量ポンプ4に、また出力線6aは電源6に結線されている。
図6の装置の作用を説明すると、ポンプ35によって冷却水が循環管路37を循環するが(矢印Y方向)、冷却水の塩素濃度は塩素濃度計36によって計測されている。計測された塩素濃度の値は、出力線36aを介してコントローラー38に送信され、これに基づいてコントローラー38が最適な殺菌条件を算出し、出力線4a及び6aを介して塩酸用定量ポンプ4及び電源6を各々制御し、冷却水を殺菌することにより、雑菌が繁殖することを防止する。図6の態様においては、冷却水のpH又は有効塩素濃度を制御できる点、従って各機器の腐食が抑制できる点が、従来の電解槽を用いることに比べた有利な効果である。
更に、図5の装置の別な利用形態を説明すると、図7に示すような貯水槽の殺菌処理が例示できる。図7は、図5の殺菌処理装置を貯水槽に備えた一例を示す図である。図7においては、構成要素の大部分は、図6と同一の符号を付して示したように、図6に示した装置と共通しており、詳細な説明は省略する。
図7において、貯水槽39には循環管路37が備えられており、循環管路37には、ポンプ35、図5の殺菌処理装置30、及び塩素濃度計36が備えられている。
図7の作用を説明すると、貯水槽39内の原水W2は、ポンプ35によって循環管路37を矢印Y方向に循環する。原水W2の塩素濃度は塩素濃度計36によって計測され、図6と同様に殺菌処理装置30により殺菌処理される。即ち、貯水槽39内の原水W2を殺菌処理することができ、雑菌の繁殖状態を自由に制御することができる。この場合に、貯水槽39内の有効塩素濃度が最適値になるようにコントローラー38により制御しても良い。
尚、図7の貯水槽39としては、風呂、プール、水槽、養魚用池等が例示できる。風呂に利用する場合は、循環管路37に濾過装置、加熱装置を設置すると好適であり、プールに利用した場合は、水に塩素を直接吹き込む方法、水に次亜塩素酸ソーダを注入する方法に比して、殺菌力が強い点、設備が簡易である点、塩素ガスの取り扱いを要しない点で、有利な効果を有している。
以上に例示した全ての例において、従来の電解槽が有する前記(1)〜(3)の問題点が全て解決されていることは明らかであり、本発明が極めて有効であることが理解できる。
尚、従来の電解槽においては、原水に塩化ナトリウム等の塩類を混入して電解処理を行い、電解効率を上げることが多かったが、本発明では、塩類を含有しない塩酸添加原水であっても効率良く電解処理することができる。このように塩類を含有しない塩酸添加原水を使用した場合は、電解処理液を使用する際に塩類が固形物として析出することがないという利点がある。即ち、図6においてはクーリングタワー33内に塩類が付着することがなく、図7においては貯水槽39の壁面に塩類が付着することがない。このように、塩類を含有しない塩類添加原水を使用した場合には、本発明は、従来よりもはるかに有利な効果を奏するのである。
【0037】
次に試験例を示して本発明を詳述する。
試験例1
この試験は、矩形波交番電源により電解処理した場合の周波数と殺菌効果との関係を調べるために行った。
1)試料の調製
原水の流量を1分当たり900mlの割合に調整したこと、原水ポンプ3及び塩酸用定量ポンプ4の回転数を調節して塩酸添加原水のpHを2.4に調整したこと、並びに通電する交番電流を14Aで、周波数を0.5Hzから10Hzまで段階的に変化させたことを除き、後記する実施例3の装置を使用し、後記する実施例4と同様の方法により殺菌剤の試料を製造した。
【0038】
2)試験方法
各条件において製造した殺菌剤の殺菌効果を次の方法により試験した。各殺菌剤試料99mlに、大腸菌[東京大学医科学研究所(IID)O111株。以下同じ]を滅菌普通ブイヨン培地(栄研化学社製)50mlに1白金耳接種し、37℃で20時間培養した培養液(菌数11×10/ml。)1mlを添加し、均一に混合し、室温で2分間放置し、混合液中の菌数(N)を常法(津郷友吉ら編、「乳業ハンドブッック」、第513〜514頁、株式会社朝倉書店、1973年)により測定した。また、殺菌剤試料の代わりに、滅菌生理食塩水を使用して同様に試験した対照の菌数(N)も測定した。
前記対照の菌数に対する殺菌剤試料の菌数の比(N/N)を算出し、その比を対数値で表現し、殺菌効果を試験した。
【0039】
3)試験結果
この結果は表1に示すとおりである。表1から明らかなとおり、周波数が5Hz以下の試料で殺菌効果が認められ、周波数が2Hz以下の試料では極めて高い殺菌効果が認められた。この結果、本発明においては、交番電流の周波数は5Hz以下、より好ましくは2Hz以下であることが判明した。尚、本発明に係る殺菌剤について、他の装置及び他の製造方法についても同様に試験を行ったが、ほぼ同様の結果が得られた。
【0040】
【表1】

【0041】
試験例2
この試験は、直流電源により電解処理した場合の電解電気量と殺菌効果との関係を調べるために行った。
1)試料の調製
原水の流量を1分当たり900mlの割合に調整したこと、原水ポンプ3及び塩酸用定量ポンプ4の回転数を調節して塩酸添加原水のpHを2.6に調整したこと、並びに通電する電流を直流電流として電解電気量を、表2に示すとおり0.27c/mlから1.3c/mlまで段階的に変化させたことを除き、後記する実施例4と同様の方法により殺菌剤の試料を製造した。
【0042】
2)試験方法
各殺菌剤試料の殺菌効果を試験例1と同一の方法により試験した。
【0043】
3)試験結果
この結果は表2に示すとおりである。表2から明らかなとおり、電解電気量が0.4c/ml以上の試料で殺菌効果が認められ、0.8c/ml以上の試料では極めて高い殺菌効果が認められた。この結果から、本発明の電解処理においては、電解電気量の値が0.4c/ml以上、より好ましくは0.8c/ml以上であることが判明した。尚、本発明に係る殺菌剤について、他の装置及び他の製造方法についても同様に試験を行ったが、ほぼ同様の結果が得られた。
【0044】
【表2】

【0045】
試験例3
この試験は、殺菌剤の有効塩素濃度と殺菌効果との関係を調べるために行った。
1)試料の調製
原水の流量を1分当たり470mlの割合に調整したこと、通電する電流を直流電流として電解電気量を段階的に変化させて、有効塩素濃度を変化させたことを除き、後記する実施例4と同一の方法により殺菌剤の試料を製造した。
得られた試料を適量希釈し、有効塩素濃度をヨウ素法(日本薬学会編、「衛生試験法・注解」、第1066頁、金原出版株式会社、1990年)により定量して、有効塩素濃度が0.05ppmから6.4ppmまで段階的に変化した一群の試料を得た。なお、各試料のpHは、約5に揃えた。
【0046】
2)試験方法
各殺菌剤試料の殺菌効果を試験例1と同一の方法により試験した。
【0047】
3)試験結果
この結果は表3に示すとおりである。表3から明らかなとおり、有効塩素濃度が0.1ppm未満の試料では殺菌効果が低減している。この結果、本発明の製造方法においては、殺菌剤は有効塩素濃度が0.1ppm以上である状態で使用することが望ましいことが判明した。尚、本発明に係る殺菌剤について、他の装置及び他の製造方法についても同様に試験を行ったが、ほぼ同様の結果が得られた。
【0048】
【表3】

【発明の効果】
【0049】
以上詳記したとおり、本発明は、陰陽両極間に隔膜が存在しない電解槽に、塩酸添加原水を通液し、塩酸添加原水に浸漬した陰陽両極に通電し、上記塩酸添加原水を電解処理し、電解処理液を採取することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法、その製造装置及びその方法により製造された殺菌剤に係るものであり、本発明により奏せられる効果は次のとおりである。
1)本発明の製造方法又は装置によれば、供給した塩酸添加原水の全量を殺菌剤として利用することができるので、陰極から生成するアルカリイオン水を廃棄する必要がなく、電力及び水の使用量が低減される。
2)本発明の製造方法又は装置によれば、電解槽に隔膜を使用しないので、電解槽及び付帯設備が簡単な構造となり、隔膜の保守管理費が軽減される。
3)本発明の製造方法又は装置によれば、低いpHの塩酸添加原水を電解処理した後に希釈すれば良いため、電解処理する量が少量で良く、この点でも電解槽及び付帯設備の小型化、低価格化、及び消費電力の低減が可能である。
4)本発明の製造方法又は装置によれば、電極へのスケール付着が防止できるので、長時間運転が可能であり、製造費が安価になる。
5)本発明の殺菌剤は、高い殺菌作用を有する電解処理液からなり、殺菌効果が高く、食品の製造器具・設備、医薬品の製造器具・設備、医療器具、医療関係者の手指の消毒等に効果的に使用できる。
6)本発明の殺菌処理方法は、極めて広範囲の原水に適用することができ、生産活動、サービス活動、日常生活等の様々な分野で応用することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
次に、実施例を示して本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
本発明の製造装置の一実施例を図1に示す。図1に示した装置は、次の各機器により構成されている。図1において、各構成要素及びその作用は、前記の如く、その実施の態様として説明したとおりである。
原水タンク1・・・・・・北越技研工業社製100l塩化ビニール製タンク
原水ポンプ3・・・・・・エレポン社製、SL−35SFD
塩酸タンク9・・・・・・北越技研工業社製
塩酸用定量ポンプ4・・・エレポン社製、CRM−04
電解槽5 ・・・・・・北越技研工業社製、電極間距離2mm、電極面積5000cm2 、隔膜なし
電極7 ・・・・・・北越技研工業社製、白金コーティング・チタン網
電源6 ・・・・・・中央制作所製、SM93−1280
電解処理液排出管8・・・北越技研工業社製
【実施例2】
【0052】
この実施例は、前記実施例1の製造装置を使用した殺菌剤の製造方法の一例であり、その内容を図1に基づいて説明する。
まず、予備的に次のとおり装置を作動させた。原水(井水)を貯留した原水タンク1から原水ポンプ3により電解槽5に1時間当たり1000lの割合で原水を供給し、食品添加物規格の塩酸(純正化学社製。36.46%)を貯留した塩酸タンク9から塩酸用定量ポンプ4により連続的に原水に添加し、塩酸添加原水を試験的に調製し、調製した塩酸添加原水を採取し、pHを測定し、塩酸用定量ポンプ4の回転数を調節し、塩酸添加原水のpHを2.5に調整した。
【0053】
次に、前記予備試験により設定された条件に基づいて原水を貯留した原水タンク1から原水ポンプ3により電解槽5に1時間当たり1000lの割合で原水を供給し、食品添加物規格の塩酸(純正化学社製。36.46%)を貯留した塩酸タンク9から塩酸用定量ポンプ4により連続的に原水に添加し、pH2.5の塩酸添加原水を調製し、電解槽5に連続的に通液し、塩酸添加原水に浸漬した電極7に周波数2Hzの交番電流を、塩酸添加原水1ml当たり0.8クーロンの割合で通電し、塩酸添加原水を電解処理し、電解処理液排出管8から電解処理液を採取し、pH2.5及び酸化還元電位1130mVの殺菌剤を1時間当たり約1000lの割合で連続的に得た。
得られた殺菌剤を試験例1と同一の方法により試験した結果、log(N/N)は7.0以上であり、顕著な殺菌効果が認められた。
【実施例3】
【0054】
本発明の製造装置の別な実施例について説明する。各構成要素の態様は、前記実施例1と同一であり(各構成要素には図1と共通の符号を付して図示を省略する)、本実施例の装置は、次の各機器を具えている。
原水ポンプ3・・・・・・コールパーマー社製、7553−70
塩酸用定量ポンプ4・・・アトー社製、SJ−1211H
電解槽5 ・・・・・・ユアサアイオニクス社製、MARK−IL(電極間隔2mm、隔膜なし)
電源6 ・・・・・・直流電源(菊水電気社製、PAK35−20A)及び、矩形波交番電源(オムロン社製、直流電源S82D−3024 2台を組み合わせ±24Vを発生させ、周波数を任意に変換可能)のいずれかを選択可能に配設した。
以上の機器の他は、前記実施例1と共通のものを使用した。
【実施例4】
【0055】
この実施例は、前記実施例3の装置を使用した殺菌剤の製造方法の一例であり、その内容を図1に基づいて説明する。
まず、予備的に次のとおり装置を作動させた。原水(井水)を貯留した原水タンク1から原水ポンプ3により電解槽5に1時間当たり130lの割合で原水を供給し、試薬1級の塩酸(関東化学社製)を貯留した塩酸タンク9から塩酸用定量ポンプ4により連続的に原水に添加し、塩酸添加原水を試験的に調製し、調製した塩酸添加原水を採取し、pHを測定し、塩酸用定量ポンプ4の回転数を調節し、塩酸添加原水のpHを1.45に調整した。
【0056】
次に、前記予備試験により設定された条件に基づいて原水を貯留した原水タンク1から原水ポンプ3により電解槽5に1時間当たり130lの割合で原水を供給し、試薬1級の塩酸(関東化学社製)を貯留した塩酸タンク9から塩酸用定量ポンプ4により連続的に原水に添加し、pH1.45の塩酸添加原水を調製し、電解槽5に連続的に通液し、塩酸添加原水に浸漬した電極7に直流電流を、電流値21A、電圧6.3Vで通電し、塩酸添加原水を電解処理し、電解処理液排出管8から電解処理液を採取し、pH1.45及び酸化還元電位1170mVの殺菌剤を得た。
また、得られた殺菌剤を井水で10倍に希釈し、pH2.55、酸化還元電位1135mVの殺菌水を得た。
得られた殺菌剤及び殺菌水を試験例1と同一の方法により試験した結果、両者ともlog(N/N)が7.0以上であり、共に顕著な殺菌効果が認められた。
また、この実施例4で得られた殺菌剤を井水で20倍に希釈し、pH5.1の殺菌水を得た。この殺菌水の有効塩素濃度は3.0ppmであった。この20倍に希釈した殺菌水を試験例1と同一の方法により試験した結果、log(N/N)が7.0以上であり、顕著な殺菌効果が認められた。
更に、前記10倍に希釈した殺菌水と20倍に希釈した殺菌水とを各々容器に入れ、室温で遮光した状態で3日間保存した後、各々の殺菌効果を試験例1と同一の方法により試験した結果、log(N/N)は、10倍に希釈したものは5.3であり、20倍に希釈したものは7.0以上であった。従って、希釈後のpHが5.1である方が、殺菌効果をより長く維持できることが判明した。
更に、希釈の度合を変更し、種々のpHの殺菌水について、同様の実験を行ったところ、希釈後のpHが7.0以下であれば、殺菌効果の経時劣化が少なく、特にpHが3.5以上6.5以下の範囲が好ましいことが判明した。
【実施例5】
【0057】
本発明の装置の別な実施例について説明する。本発明の装置の別な実施例を図2に示す。図2の装置の各構成要素の態様は、図1と共通の符号を付して示したように、前記図1と同一であり、その詳細な説明を省略する。
図2に示した装置の各機器は、基本的には、前記実施例3と同一の機器を使用しており、更に、次の機器を追加している。
殺菌剤送液ポンプ11・・・イワキ社製遠心ポンプ、MD−30R
流量調節弁13・・・・・・トーワテクノ社製、手動式
図2において、各構成要素及びその作用は、前記の如く、その実施の態様として説明したとおりである。
尚、殺菌剤送液ポンプ11として遠心ポンプを使用しているため、電解処理水と希釈水とを混合後に攪拌することができる。
【実施例6】
【0058】
この実施例は、前記実施例5の装置を使用した殺菌剤の製造方法の一例であり、その内容を図2に基づいて説明する。
まず、予備的に次のとおり装置を作動させた。原水(井水)を貯留した原水タンク1から原水ポンプ3により電解槽5に1時間当たり130lの割合で原水を供給し、前記実施例4と同様の手順により、塩酸添加原水のpHを1.45に調整した。
【0059】
次に、前記実施例4と同様の手順により、pH1.45の塩酸添加原水を調製して電解槽5に連続的に通液し、塩酸添加原水を電解処理した。
更に、遠心ポンプ11を作動させて流量調節弁13を調節し、1時間あたり1170lの希釈水を原水タンク1から合流点12aに送液し、電解処理液排出管8から排出される電解処理液と混合して希釈した。希釈水と電解処理液との流量比率は9対1である。そして、pH2.55、酸化還元電位1135mVの殺菌剤を得た。
得られた殺菌剤を試験例1と同一の方法により試験した結果、log(N/N)が7.0以上であり、顕著な殺菌効果が認められた。
【実施例7】
【0060】
本発明の装置の別な実施例について説明する。本発明の装置の別な実施例を図3に示す。図3の装置の各構成要素及びその作用は、前記の如く、その実施の態様として説明したとおりである。
容器(塩酸添加原水貯留手段)14・・・ポリエチレンテレフタレート製
電解槽5 ・・・・・・・・・・自家製
電極7 ・・・・・・・・・・チタンプラチナメッキ20×85、電極間隔2mm
電源6 ・・・・・・・・・・オムロン S8E1−01505E
定流量弁18・・・・・・・・・・カクダイ 0651A
オリフィス16・・・・・・・・・細管テフロンチューブ1mm直径
エジェクター19・・・・・・・・ポリエチレン製水流ポンプ
希釈水源17・・・・・・・・・・公営水道
図3に示した装置は、希釈水源17が家庭の水道蛇口に接続するだけであるため、構造が簡便であり、主に一般家庭、工場、食堂等で使用する場合に好適である。また、回転ポンプ等の稼動部分が全くなく、安価で保守点検性が良いという利点があり、小型軽量であるため運搬が楽である。
【実施例8】
【0061】
この実施例は、前記実施例7の製造装置を使用した殺菌剤の製造方法の一例であり、その内容を図3に基づいて説明する。
食品添加物規格の塩酸(純正化学社製。36.46%)を蒸留水で希釈し、0.1mol/lの塩酸添加原水を調製し、容器14に貯留した。
希釈水源17である水道蛇口を開き、エジェクター19に希釈水を流し、定流量弁18によって流量を調節し、エジェクター19出口流量を2.5l/minに調節した。このとき、塩酸添加原水管15、電解槽5、電解処理液排出管8を介して流れる塩酸添加原水及び電解処理液の流量は、50ml/minであった。
電解槽5の電極7に1.5Aの直流電流を通電し、塩酸添加原水を電解処理したところ、pH3.4の殺菌剤を、2.5l/minの能力で連続的に得ることができた。
得られた殺菌剤を試験例1と同一の方法により試験した結果、顕著な殺菌効果が認められた。
実施例8において調製した0.1mol/lの塩酸添加原水は、取り扱いの安全性が高く、家庭において使用しても安全である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上詳記したとおり、本発明は、陰陽両極間に隔膜が存在しない電解槽に、塩酸添加原水を通液し、塩酸添加原水に浸漬した陰陽両極に通電し、上記塩酸添加原水を電解処理し、電解処理液を採取することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法、その製造装置及びその方法により製造された殺菌剤に係るものであり、本発明により奏せられる効果は次のとおりである。
1)本発明の製造方法又は装置によれば、供給した塩酸添加原水の全量を殺菌剤として利用することができるので、陰極から生成するアルカリイオン水を廃棄する必要がなく、電力及び水の使用量が低減される。
2)本発明の製造方法又は装置によれば、電解槽に隔膜を使用しないので、電解槽及び付帯設備が簡単な構造となり、隔膜の保守管理費が軽減される。
3)本発明の製造方法又は装置によれば、低いpHの塩酸添加原水を電解処理した後に希釈すれば良いため、電解処理する量が少量で良く、この点でも電解槽及び付帯設備の小型化、低価格化、及び消費電力の低減が可能である。
4)本発明の製造方法又は装置によれば、電極へのスケール付着が防止できるので、長時間運転が可能であり、製造費が安価になる。
5)本発明の殺菌剤は、高い殺菌作用を有する電解処理液からなり、殺菌効果が高く、食品の製造器具・設備、医薬品の製造器具・設備、医療器具、医療関係者の手指の消毒等に効果的に使用できる。
6)本発明の殺菌処理方法は、極めて広範囲の原水に適用することができ、生産活動、サービス活動、日常生活等の様々な分野で応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の装置の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の装置の別な実施例を示す図である。
【図3】本発明の装置の別な実施例を示す図である。
【図4】図3の装置を利用した水洗トイレを示す図である。
【図5】本発明の殺菌処理方法を実施するための殺菌処理装置の一例を示す図である。
【図6】図5の殺菌処理装置をクーリングタワー冷却水の循環管路に備えた一例を示す図である。
【図7】図5の殺菌処理装置を貯水槽に備えた一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 原水タンク
1a 原水給水管
2 原水送水管
3 原水ポンプ
4 塩酸用定量ポンプ
5 電解槽
6 電源
7 電極
8 電解処理液排出管
9 塩酸タンク
10 塩酸供給管
11 殺菌剤送液ポンプ
12 希釈水送水管
12a 合流点
13 流量調節弁
14 容器
15 塩酸添加原水管
16 オリフィス
17 希釈水源
18 定流量弁
19 エジェクター
20 殺菌剤の製造装置
21 フロートバルブ
22 フロート
23 シスターン
24 洗浄水送水管
25 便器
30 殺菌処理装置
31 流量調節弁
32 流量調節弁
33 クーリングタワー
34 コンデンサー
35 ポンプ
36 塩素濃度計
37 循環管路
38 コントローラー
39 貯水槽
A 塩酸
W 原水
AW 塩酸添加原水
E 電解処理液
Ed 殺菌剤
W0 洗浄水
W1 原水
W2 原水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰陽両極間に隔膜が存在しない電解槽に、塩酸添加原水を通液し、該塩酸添加原水に浸漬した陰陽両極に通電し、上記塩酸添加原水を電解処理し、電解処理液を採取することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法。
【請求項2】
塩酸添加原水の通液、電解処理、及び電解処理液の採取が、連続的に行われる請求項1に記載の高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法。
【請求項3】
塩酸添加原水を、塩酸モル濃度0.001mol/l以上6.4mol/l以下の塩酸を希釈して調製することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法。
【請求項4】
電解処理液の採取が、水で希釈後に行われる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法。
【請求項5】
電解処理液の採取が、0.1ppm以上の有効塩素濃度の範囲で行われる請求項1乃至請求項4に記載の高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法。
【請求項6】
通電が、周波数0Hzを超え5Hz以下の交番電流で行われる請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法。
【請求項7】
通電が、塩酸添加原水1ml当たり0.4クーロン以上6.0クーロン以下の割合の電気量で行われる請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法。
【請求項8】
塩酸添加原水が、pH0.5以上3.0以下である請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の方法により製造された高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤。
【請求項10】
原水に塩酸を添加して塩酸添加原水を調製し、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の方法を行うことにより電解処理液を採取し、採取した電解処理液を殺菌処理原水として取得することを特徴とする原水の殺菌処理方法。
【請求項11】
原水の一部に塩酸を添加して塩酸添加原水を調製し、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の方法を行うことにより電解処理液を採取し、採取した電解処理液を原水に戻すことを特徴とする原水の殺菌処理方法。
【請求項12】
隔膜で隔離されていない陰陽両極を配設した電解槽、該電解槽に原水を通液する送水手段、該送水手段を介して通液する原水に塩酸を添加する塩酸添加手段、及び電解槽から電解処理液を排出する排出管路を具備することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造装置。
【請求項13】
隔膜で隔離されていない陰陽両極を配設した電解槽、塩酸添加原水を貯留する塩酸添加原水貯留手段、該塩酸添加原水貯留手段より電解槽に塩酸添加原水を通液する塩酸添加原水通液手段、及び電解槽から電解処理液を排出する排出管路を具備することを特徴とする高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造装置。
【請求項14】
排出管路が、電解処理液に水を混合して希釈する電解処理液希釈手段を具備する請求項12又は請求項13に記載の高い殺菌作用を有する電解処理液からなる殺菌剤の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−88156(P2006−88156A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305081(P2005−305081)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【分割の表示】特願平8−309920の分割
【原出願日】平成8年11月7日(1996.11.7)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【出願人】(592094759)森永エンジニアリング株式会社 (3)
【Fターム(参考)】