殺菌剤
【課題】食中毒の予防に適し、人体、及び、環境に安全であり、しかも食品の風味を損なうことの少ない殺菌剤を提供すること。
【解決手段】クエン酸と、食酢と、炭酸水素ナトリウムとを混合して得られ、PHが2.25以下である。別の態様として、水、酢酸、ナトリウム、及び、クエン酸を含み、PHが2.25以下である。
【解決手段】クエン酸と、食酢と、炭酸水素ナトリウムとを混合して得られ、PHが2.25以下である。別の態様として、水、酢酸、ナトリウム、及び、クエン酸を含み、PHが2.25以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、平成8年に大規模発生した大腸菌O−157による感染や、平成12年に発生した黄色ブドウ球菌による感染に関しては、食中毒の罹患率の高さと重篤な症状が注目され、安全性の高い予防方法の確立が必要とされている。特に、生食食品類については、その流通過程で加熱工程を経ないので、大腸菌等による汚染頻度が高く、健康上の重大な障害を引き起こしかねない。
【0003】
現在、食中毒の起因菌を駆除するために、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒・洗浄が行われている。しかし、人体に対する毒性や水質汚染等の問題があり、安全性を備えた代用品が求められている。埼玉県では、平成4年7月より学校給食施設に対し生鮮野菜・くだもの類について、「次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄」から、「流水で十分に洗浄」に操作内容が変更された。しかし、流水による洗浄では、充分な殺菌・消毒効果が得られないという問題が指摘されている。
【0004】
これらの問題を解決するために、安全性が高く、且つ、食中毒の起因菌に対する効力が高い殺菌剤が要求されている。
【0005】
特許文献1には、食酢と、食塩を含有する殺菌用組成物の記載がある。しかし、食塩を必須成分として含有するため、生鮮野菜・くだもの類に用いる際に、残留塩分による水分流出が起こり、食品の食感を損なう。又、食酢の酸味や刺激臭によって、食品の風味も損なう。
【0006】
特許文献2には、クエン酸と酢酸を含む殺菌料が記載されている。しかし、酢酸は、強い腐食性と、人体への急性、及び、慢性の毒性を有するので、食品や、調理器具への直接使用には適さない。更に、酢酸の刺激臭を防止する技術が開示されておらず、食品や調理器具に使用する際に、その刺激臭が残留し、食品の風味を損なうという問題を生じる。
【特許文献1】特開平10−136955
【特許文献2】特開2000−342237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、食中毒の予防に適した殺菌剤を提供することである。
【0008】
本発明のもう一つの課題は、人体、及び、環境に安全であり、食品の風味を損なうことのない殺菌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明は、原料の混合比に着目した第1の態様と、製造品の分析結果に着目した第2の態様との2つの態様に係る殺菌剤を開示する。
【0010】
第1の態様に係る殺菌剤は、クエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムを含み、PHが2.25以下である。
【0011】
食中毒の原因は、大腸菌や黄色ブドウ球菌等の食中毒起因菌の経口摂取によるものが主である。一般的に、食中毒の起因菌は、中性付近のpHで最も良好に増殖し、強い酸性環境では生存することはできない。
【0012】
本発明に係る殺菌剤は、pHが2.25以下である。そのpH値領域では、食中毒起因菌は生存することができないため、本発明に係る殺菌剤を用いることによって、食中毒起因菌を駆除し、食中毒の予防に用いることができる。
【0013】
又、本発明に係る殺菌剤は、その原料であるクエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムの全てが食品として供されるものであるため、当然、それらを含む殺菌剤は、人体、及び、環境に安全である。
【0014】
本発明に係る殺菌剤は、クエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムを含む。通常、食酢単体を使用した場合、その強い刺激臭のため、使用感が劣る。これに対して、本発明の構成によれば、食酢に、クエン酸、及び、炭酸水素ナトリウムを加えることにより、その刺激臭を抑制することができる。そのため、食品、又は、食品流通過程で使用される器具に使用しても、食品の風味は、それほど損なわれない。
【0015】
通常、炭酸水素ナトリウムと、有機酸を混合すると、中和反応が起こり、有機酸単独のときより、pHが上昇する。そのため、炭酸水素ナトリウムと有機酸の混合物は、そのPHの高さから殺菌剤として効力が弱く、適当ではないと考えられてきた。
【0016】
ところが、本発明者の研究によれば、有機酸である食酢とクエン酸の混合物に炭酸水素ナトリウムを加えると、更にpHが下がり、酸性が強まるため、食酢の洗浄・殺菌力を減退することはないということが分かった。
【0017】
本発明に係る殺菌剤は、好ましくは、PHが2.25以下であり、更に好ましくは、2以下である。食中毒起因菌の最適PHは7付近であるため、酸性が強いほど(PHが小さいほど)洗浄・殺菌効力は大きくなる。
【0018】
本発明において、好ましいクエン酸、酢酸、及び、炭酸水素ナトリウムの添加量の重量組成比は、0.3679:1:(0.00156〜0.0044)である。この重量組成比の構成により、洗浄・殺菌に有効なpH値を確保しつつ、食酢の刺激臭を抑制することができる。詳細については、後にデータを用いて説明する。
【0019】
本発明において、食酢とは、果実酢、醸造酢等を含む。
【0020】
本発明に係る殺菌剤は、好ましくは液剤である。液剤とすることにより、濃度の均一性、及び、製品の安定性を確保することができる。又、目的物に噴霧することで、簡易に洗浄・殺菌を行なうことができる。もっとも、錠剤、粉剤等の固体剤形として、使用することもできる。
【0021】
本発明に係る殺菌剤は、通常、食品本体、料理器具、又は、食品パッケージに噴霧することにより、食中毒を予防することができる。そのため、噴霧された殺菌剤が直接口に入ることを考慮し、食品本体、料理器具、又は、食品パッケージを変質、汚染するようなものであったり、食物の風味を損なうものであってはならない。
【0022】
本発明に係る殺菌剤の原料である、クエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムは、食品として供することのできるものである。具体的には、食品添加物の基準を満たすもの、又は、医薬部外品原料規格の基準を満たすものである。したがって、本発明に係る殺菌剤を、食品本体、料理器具、又は、食品パッケージに噴霧した後、安全性の観点からは、洗浄は不要である。もっとも、若干臭いは残るので、消臭という観点から、洗浄してもよい。
【0023】
本発明に係る第2の態様の殺菌剤は、水、酢酸、ナトリウム、及び、クエン酸を含み、PHが2.25以下である。前にも述べたように、本発明に係る第2の態様の殺菌剤は、製造品の分析結果に着目したものである。
【0024】
すなわち、クエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムは、水溶液中で化学反応を起こし、酢酸、ナトリウム、及び、クエン酸が生じる。そのため、本発明に係る第1の態様の殺菌剤と、本発明の第2の態様の殺菌剤は、同様の作用効果を奏する。
【0025】
好ましくは、前記酢酸が、1.56(%)〜1.72(%)、クエン酸が、3.97(%)〜1.72(%)、及び、ナトリウムが、13.3(mg/100g)〜15.4(mg/100g)の範囲にある。この構成により、洗浄・殺菌に有効なpH値を確保しつつ、食酢の刺激臭を抑制することができる。詳細については、後にデータを用いて説明する。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(a)食中毒の予防に適した殺菌剤を提供することができる。
(b)人体、及び、環境に安全であり、食品の風味を損なうことの少ない殺菌剤を提供することができる。
【0027】
本発明の他の目的、構成及び利点は、添付図面を参照して、更に詳しく説明する。図面は、単なる例示にすぎない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<ベース液の製造>
まず、食酢1023.00kg、炭酸水素ナトリウム4.54kgを混合し、ベース液1025.16kg(比重:1.026)を作成した。使用した食酢として、食酢(株式会社ミツカン社製MHV−S)を用い、炭酸水素ナトリウムとして、医薬部外品原料規格に適合するものを用い、クエン酸として、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の第2添加物の規格に適合するものを用いた。ベース液の組成は表1に記載した通りである。
【0029】
【表1】
【0030】
<実施例>
まず、前工程で作成したベース液を原料とし、酸度を1.5%となるように調節したコントロール液を作成した。
次に、前工程で作成したベース液101.69Lに対して、クエン酸、脱イオン水を加え、実施例1とした。クエン酸、脱イオン水の添加量は表2に記載した通りである。
同様に、前工程で作成したベース液101.69Lに対して、クエン酸、脱イオン水を加え、実施例2、3とした。クエン酸、脱イオン水の添加量は表2に記載した通りである。
【0031】
【表2】
【0032】
更に、実施例1より得られた殺菌剤の分析結果を測定した。測定結果は、表3に記載したとおりである。
【0033】
【表3】
【0034】
尚、水分は、計算式(乾燥減量−酢酸)から求めたものであり、滴定濃度は、検体100gを中和するのに要する1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液のml数である。
【0035】
又、実施例1〜3で使用したものと同様の脱イオン水、食酢、炭酸水素ナトリウム、及び、クエン酸を使用し、実施例4を作成した。実施例4の食酢、炭酸水素ナトリウム、及び、クエン酸の混合比は、表4に記載した通りである。混合比の右欄に記載した数値は、全量に対してその成分の占める重量%である。
【0036】
【表4】
【0037】
更に、実施例4より得られた殺菌剤の分析結果を測定した。測定結果は、表5に記載したとおりである。
【0038】
【表5】
【0039】
尚、水分は、計算式(乾燥減量−酢酸)から求めたものであり、滴定濃度は、検体100gを中和するのに要する1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液のml数である。
【0040】
<洗浄・殺菌効力の測定1(精製水との比較)>
まず、0.05%のポリソルベート80溶液(対照)と、実施例4(検体)とを用いて洗浄・殺菌効力を測定した。対象菌として、食中毒の起因菌である大腸菌、及び、黄色ぶどう球菌を使用し、測定を3回行なった。その結果を、表6に記載した。
【0041】
【表6】
【0042】
尚、測定1〜3の欄には、試験片1個当たりの生菌数を記載し、<10の値は検出しないことを意味する。
【0043】
<洗浄・殺菌効力の測定2(ポリソルベート)との比較>
次に、大腸菌、及び、黄色ぶどう球菌を用い、実施例4との接触時間を変化させ、それに伴う洗浄・殺菌効力の変化を測定した。測定は、室温で2回行い、その結果を表7に記載した。
【0044】
【表7】
【0045】
尚、接触時間は、試験液噴霧後の放置時間を意味し、接触時間「―」は、調整直後に測定を行い、試験片の生菌数を測定したものである。又、対照としては、精製水を使用した。更に、表6と同様に、<10の値は検出しないことを意味する。
【0046】
表6、表7の結果より、実施例4は、精製水、ポリソルベートと比較して、非常に優れた洗浄・殺菌効力を有することが分かった。又、大腸菌と、黄色ぶどう球菌の両者に対して、効力を示すことから、食中毒起因菌全般に対して、広範囲で使用できることが分かった。更に、実施例4は、15秒という短い接触時間で殺菌効力を示すため、簡便に用いることができ、又、表2で示したとおり、安全性の高い原料により製造されたものであるため、安全性が高い。
【0047】
<洗浄・殺菌効力の測定3(大腸菌・黄色ブドウ球菌に対する効果測定)>
まず、試験菌をNA培地で35℃±1℃、18〜24時間培養後、得られた試験菌の菌体を0.1ペプトン水に懸濁させ、1ml当たりの菌数が106〜107となるように調整し、菌液とした。
【0048】
次に、99.5V/V%エタノールを含ませた脱脂綿で拭き、乾燥させたまな板(約5cm×5cm)の表面約3cm×3cmに菌液0.1mlを塗布後、乾燥させ、試験片とした。
【0049】
実施例3を試験液とした。試験液をスプレー容器に入れ、試験片の真上約10cmの位置から3回噴霧し、室温で3及び5分間放置後、試験片をSCDLP培地10mlで洗い出し、液の生菌数をSCDLPA培地を用いた混釈平板培地(35℃±1℃、2日間培養)により測定し、試験片1個当たりの生菌に換算した。また、精製水を対象に試験液とし、同様に噴霧後、室温で5分間放置した試験片の生菌数を測定した。その結果を表8に示した。
【0050】
【表8】
更に、表6と同様に、<10の値は検出しないことを意味する。
【0051】
表8より、大腸菌、及び、大腸菌(O157:H7)は、本願発明に係る殺菌剤を噴霧すると、放置3分で菌の検出が見られなかった。又、黄色ブドウ球菌については、若干の殺菌効果が見られた。
【0052】
又、培養後の生菌数測定平板の写真を図1〜図12に示した。
【0053】
測定で用いた試験菌は、Escheichia coli NBRC 3972(大腸菌)、Escheichia coli ATCC 43888(大腸菌、血清型O157:H7、ベロ毒素非産生株)、及び、Staphylococcus aureus subsp. Aureus NBRC 12732(黄色ブドウ球菌)であり、試験用培地としてNA培地(普通寒天培地 栄研化学株式会社)、SCDLP培地(日本製薬株式会社)、SCDLPA培地(日本製薬株式会社)を使用した。
【0054】
図1は、試験液噴霧前の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図2は、試験液を噴霧後に3分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図3は、試験液を噴霧後に5分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。図4は、対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【0055】
図5は、試験液噴霧前の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図6は、試験液を噴霧後に3分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図7は、試験液を噴霧後に5分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。図8は、対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【0056】
図9は、試験液噴霧前の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図10は、試験液を噴霧後に3分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図11は、試験液を噴霧後に5分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。図12は、対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【0057】
図1〜4より、大腸菌は、試験液噴霧前には、培地全体にその繁殖が認められたが、試験液噴霧後3分後、及び、5分後では、全くその存在がなくなっている。しかし、対象(精製水)を試験液とした図4では、図1の写真と比較しても、大腸菌の殺菌効果は認められなかった。
【0058】
図5〜8より、大腸菌(O157:H7)は、試験液噴霧前には、培地全体にその繁殖が認められたが、試験液噴霧後3分放置すると、ほとんど大腸菌(O157:H7)の存在は確認できなかった。更に、5分後放置すると、大腸菌(O157:H7)の存在は、全く認められなかった。しかし、対象(精製水)を試験液とした図8では、図4の写真と比較しても、大腸菌(O157:H7)の殺菌効果は認められなかった。
【0059】
図9〜12より、黄色ブドウ球菌は、試験液噴霧前には、培地全体にその繁殖が認められたが、試験液噴霧後3分放置すると、ほとんど黄色ブドウ球菌の存在は確認できなかった。更に、5分後放置すると、黄色ブドウ球菌のコロニーは、3分放置後より更に小さくなり、その数もかなり減少することが分かった。しかし、対象(精製水)を試験液とした図12では、図9の写真と比較しても、黄色ブドウ球菌の殺菌効果は認められなかった。
【0060】
<洗浄・殺菌効力の測定4(使用場所に対する効果測定)>
実施例3を試験液とし、実際に使用する箇所に噴霧し、その効力を測定した。測定箇所、及び、測定結果は、表9に示す通りである。
【0061】
【表9】
試験は、一般家庭の実際に使用している箇所で行なった。更に、各家庭間の衛生状況の違いを考慮し、2軒の家庭で測定を行った。/の箇所は、測定を行わなかったことを示す。
【0062】
表9は、本願発明に係る殺菌剤を噴霧すると、一般細菌、及び、大腸菌群のいずれについても、殺菌効果が期待できることを示している。また、家庭で菌が繁殖しやすく、又、安全性の高い殺菌剤の使用を要求されている箇所でも、本願発明に係る殺菌剤は、実際に殺菌効果を有することが分かる。
【0063】
「シンクの底」の2回目の測定結果では、殺菌前より、殺菌後の方が、菌の繁殖程度が高いが、これは、「シンクの底」にクッション用のシートが敷いてあるため、噴霧した試験液がシート全体に行き渡らず、シートに、試験液による殺菌作用を受けない部分が生じ、そのシート部分が菌の温床となってしまったことに起因すると推測される。
【0064】
<洗浄・殺菌効力の測定4−1(衛生管理を行い難い使用場所に対する効果測定)>
実施例3を試験液とし、実際に給食センター内施設で使用している脱水機に噴霧し、測定を行った。対照として、水、及び、アルコールを使用した。測定結果は、表10に示した通りである。なお、噴霧の代わりに、孔径の小さいノズルを用いて水洗処理をする手法も考えられるが、この手法では、試験液を、脱水機の隅々まで充分に行き渡らせることが難しい。そこで、噴霧する手段を用いた。噴霧によれば、脱水機の狭い箇所にも、試験液を行き渡らせることができる。
【0065】
【表10】
【0066】
表10より、衛生面、及び、安全性が心配され、且つ、衛生管理を行い難い脱水機にも、本願発明の殺菌剤を噴霧するのみで、水洗、又は、アルコールと比較して殺菌作用が得られることが分かった。
【0067】
<洗浄・殺菌効力の測定5(生食食品に対する効果測定、浸漬時間比較)>
実施例3の試験液を用い、この試験液中にキャベツ、及び、キュウリを一分間、三分間、五分間浸漬し、その殺菌効果を測定した。キャベツ、及び、キュウリのサンプル数は、それぞれ、3個とし、大腸菌群、及び、一般細菌について測定を行った。測定に使用する器具は、全て、アルコール殺菌処理済みのものを使用した。キャベツの測定結果は表11、キュウリの測定結果は表12に示した通りである。
【0068】
【表11】
【0069】
【表12】
【0070】
表11、表12により、生食食品であるキャベツ、キュウリは、水洗のみでは殺菌ができず、本願発明の殺菌剤に浸漬することで殺菌効果が得られることが分かった。特に、大腸菌群は、本願発明の殺菌剤に、一分浸漬するだけで、殺菌できることが分かった。
【0071】
<洗浄・殺菌効力の測定5−1(生食食品に対する効果測定、試験液の再利用測定)>
実施例3を試験液とし、サンプルとしてキュウリ、せんキャベツ、及び、ちぎりレタスを用いて、一般細菌、及び、大腸菌群に対する殺菌力を有する再利用回数の測定を行った。試験に用いる器具は、アルコール殺菌処理済みのものを使用した。試験は、2回行い、同一液を用いて6回の再使用を行なった。キュウリ、せんキャベツ、及び、ちぎりレタスの測定結果はそれぞれ、表13、表14、表15に示した通りである。なお、試験方法は、3分間の浸漬法
【0072】
【表13】
【0073】
【表14】
【0074】
【表15】
表13〜表15より、表面凹凸の小さなサンプル(キュウリ、せんキャベツ)は、5回程度の再使用が可能である。表面凹凸の大きなサンプル(ちぎりレタス)は、再利用が難しいため、時間延長や、攪拌等の処理方法の変更の必要があると思われる。
【0075】
次に、表13〜表15の測定結果を受けて、キュウリ、及び、レタスを試験液(実施例3)に5分間浸漬し、更に、浸漬中に何度か攪拌を行なった。測定項目は、一般細菌、及び、大腸菌群に対する殺菌力である。測定結果は表16に記載する通りである。
【0076】
【表16】
表16を参照すると、表面凹凸の大きいちぎりレタスであっても、5分間程度の浸漬により、殺菌効果が見られることが分かる。
【0077】
<洗浄・殺菌効力の測定6(実施例3、及び、実施例4の効力比較)>
実施例3を試験液1、実施例4を試験液2とし、サンプルとしてキュウリを用いて、3分間浸漬した。検査項目として、一般細菌、及び、大腸菌群に対する殺菌力を測定した。その測定結果は表17に記載する通りである。
【0078】
【表17】
表17より、実施例3、及び、実施例4は、同等の殺菌効果があることが分かる。
【0079】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】試験液噴霧前の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図2】試験液を噴霧後に3分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図3】試験液を噴霧後に5分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図4】対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【図5】試験液噴霧前の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図6】試験液を噴霧後に3分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図7】試験液を噴霧後に5分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図8】対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【図9】試験液噴霧前の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図10】試験液を噴霧後に3分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図11】試験液を噴霧後に5分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図12】対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、平成8年に大規模発生した大腸菌O−157による感染や、平成12年に発生した黄色ブドウ球菌による感染に関しては、食中毒の罹患率の高さと重篤な症状が注目され、安全性の高い予防方法の確立が必要とされている。特に、生食食品類については、その流通過程で加熱工程を経ないので、大腸菌等による汚染頻度が高く、健康上の重大な障害を引き起こしかねない。
【0003】
現在、食中毒の起因菌を駆除するために、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒・洗浄が行われている。しかし、人体に対する毒性や水質汚染等の問題があり、安全性を備えた代用品が求められている。埼玉県では、平成4年7月より学校給食施設に対し生鮮野菜・くだもの類について、「次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄」から、「流水で十分に洗浄」に操作内容が変更された。しかし、流水による洗浄では、充分な殺菌・消毒効果が得られないという問題が指摘されている。
【0004】
これらの問題を解決するために、安全性が高く、且つ、食中毒の起因菌に対する効力が高い殺菌剤が要求されている。
【0005】
特許文献1には、食酢と、食塩を含有する殺菌用組成物の記載がある。しかし、食塩を必須成分として含有するため、生鮮野菜・くだもの類に用いる際に、残留塩分による水分流出が起こり、食品の食感を損なう。又、食酢の酸味や刺激臭によって、食品の風味も損なう。
【0006】
特許文献2には、クエン酸と酢酸を含む殺菌料が記載されている。しかし、酢酸は、強い腐食性と、人体への急性、及び、慢性の毒性を有するので、食品や、調理器具への直接使用には適さない。更に、酢酸の刺激臭を防止する技術が開示されておらず、食品や調理器具に使用する際に、その刺激臭が残留し、食品の風味を損なうという問題を生じる。
【特許文献1】特開平10−136955
【特許文献2】特開2000−342237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、食中毒の予防に適した殺菌剤を提供することである。
【0008】
本発明のもう一つの課題は、人体、及び、環境に安全であり、食品の風味を損なうことのない殺菌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明は、原料の混合比に着目した第1の態様と、製造品の分析結果に着目した第2の態様との2つの態様に係る殺菌剤を開示する。
【0010】
第1の態様に係る殺菌剤は、クエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムを含み、PHが2.25以下である。
【0011】
食中毒の原因は、大腸菌や黄色ブドウ球菌等の食中毒起因菌の経口摂取によるものが主である。一般的に、食中毒の起因菌は、中性付近のpHで最も良好に増殖し、強い酸性環境では生存することはできない。
【0012】
本発明に係る殺菌剤は、pHが2.25以下である。そのpH値領域では、食中毒起因菌は生存することができないため、本発明に係る殺菌剤を用いることによって、食中毒起因菌を駆除し、食中毒の予防に用いることができる。
【0013】
又、本発明に係る殺菌剤は、その原料であるクエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムの全てが食品として供されるものであるため、当然、それらを含む殺菌剤は、人体、及び、環境に安全である。
【0014】
本発明に係る殺菌剤は、クエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムを含む。通常、食酢単体を使用した場合、その強い刺激臭のため、使用感が劣る。これに対して、本発明の構成によれば、食酢に、クエン酸、及び、炭酸水素ナトリウムを加えることにより、その刺激臭を抑制することができる。そのため、食品、又は、食品流通過程で使用される器具に使用しても、食品の風味は、それほど損なわれない。
【0015】
通常、炭酸水素ナトリウムと、有機酸を混合すると、中和反応が起こり、有機酸単独のときより、pHが上昇する。そのため、炭酸水素ナトリウムと有機酸の混合物は、そのPHの高さから殺菌剤として効力が弱く、適当ではないと考えられてきた。
【0016】
ところが、本発明者の研究によれば、有機酸である食酢とクエン酸の混合物に炭酸水素ナトリウムを加えると、更にpHが下がり、酸性が強まるため、食酢の洗浄・殺菌力を減退することはないということが分かった。
【0017】
本発明に係る殺菌剤は、好ましくは、PHが2.25以下であり、更に好ましくは、2以下である。食中毒起因菌の最適PHは7付近であるため、酸性が強いほど(PHが小さいほど)洗浄・殺菌効力は大きくなる。
【0018】
本発明において、好ましいクエン酸、酢酸、及び、炭酸水素ナトリウムの添加量の重量組成比は、0.3679:1:(0.00156〜0.0044)である。この重量組成比の構成により、洗浄・殺菌に有効なpH値を確保しつつ、食酢の刺激臭を抑制することができる。詳細については、後にデータを用いて説明する。
【0019】
本発明において、食酢とは、果実酢、醸造酢等を含む。
【0020】
本発明に係る殺菌剤は、好ましくは液剤である。液剤とすることにより、濃度の均一性、及び、製品の安定性を確保することができる。又、目的物に噴霧することで、簡易に洗浄・殺菌を行なうことができる。もっとも、錠剤、粉剤等の固体剤形として、使用することもできる。
【0021】
本発明に係る殺菌剤は、通常、食品本体、料理器具、又は、食品パッケージに噴霧することにより、食中毒を予防することができる。そのため、噴霧された殺菌剤が直接口に入ることを考慮し、食品本体、料理器具、又は、食品パッケージを変質、汚染するようなものであったり、食物の風味を損なうものであってはならない。
【0022】
本発明に係る殺菌剤の原料である、クエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムは、食品として供することのできるものである。具体的には、食品添加物の基準を満たすもの、又は、医薬部外品原料規格の基準を満たすものである。したがって、本発明に係る殺菌剤を、食品本体、料理器具、又は、食品パッケージに噴霧した後、安全性の観点からは、洗浄は不要である。もっとも、若干臭いは残るので、消臭という観点から、洗浄してもよい。
【0023】
本発明に係る第2の態様の殺菌剤は、水、酢酸、ナトリウム、及び、クエン酸を含み、PHが2.25以下である。前にも述べたように、本発明に係る第2の態様の殺菌剤は、製造品の分析結果に着目したものである。
【0024】
すなわち、クエン酸、食酢、及び、炭酸水素ナトリウムは、水溶液中で化学反応を起こし、酢酸、ナトリウム、及び、クエン酸が生じる。そのため、本発明に係る第1の態様の殺菌剤と、本発明の第2の態様の殺菌剤は、同様の作用効果を奏する。
【0025】
好ましくは、前記酢酸が、1.56(%)〜1.72(%)、クエン酸が、3.97(%)〜1.72(%)、及び、ナトリウムが、13.3(mg/100g)〜15.4(mg/100g)の範囲にある。この構成により、洗浄・殺菌に有効なpH値を確保しつつ、食酢の刺激臭を抑制することができる。詳細については、後にデータを用いて説明する。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(a)食中毒の予防に適した殺菌剤を提供することができる。
(b)人体、及び、環境に安全であり、食品の風味を損なうことの少ない殺菌剤を提供することができる。
【0027】
本発明の他の目的、構成及び利点は、添付図面を参照して、更に詳しく説明する。図面は、単なる例示にすぎない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<ベース液の製造>
まず、食酢1023.00kg、炭酸水素ナトリウム4.54kgを混合し、ベース液1025.16kg(比重:1.026)を作成した。使用した食酢として、食酢(株式会社ミツカン社製MHV−S)を用い、炭酸水素ナトリウムとして、医薬部外品原料規格に適合するものを用い、クエン酸として、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の第2添加物の規格に適合するものを用いた。ベース液の組成は表1に記載した通りである。
【0029】
【表1】
【0030】
<実施例>
まず、前工程で作成したベース液を原料とし、酸度を1.5%となるように調節したコントロール液を作成した。
次に、前工程で作成したベース液101.69Lに対して、クエン酸、脱イオン水を加え、実施例1とした。クエン酸、脱イオン水の添加量は表2に記載した通りである。
同様に、前工程で作成したベース液101.69Lに対して、クエン酸、脱イオン水を加え、実施例2、3とした。クエン酸、脱イオン水の添加量は表2に記載した通りである。
【0031】
【表2】
【0032】
更に、実施例1より得られた殺菌剤の分析結果を測定した。測定結果は、表3に記載したとおりである。
【0033】
【表3】
【0034】
尚、水分は、計算式(乾燥減量−酢酸)から求めたものであり、滴定濃度は、検体100gを中和するのに要する1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液のml数である。
【0035】
又、実施例1〜3で使用したものと同様の脱イオン水、食酢、炭酸水素ナトリウム、及び、クエン酸を使用し、実施例4を作成した。実施例4の食酢、炭酸水素ナトリウム、及び、クエン酸の混合比は、表4に記載した通りである。混合比の右欄に記載した数値は、全量に対してその成分の占める重量%である。
【0036】
【表4】
【0037】
更に、実施例4より得られた殺菌剤の分析結果を測定した。測定結果は、表5に記載したとおりである。
【0038】
【表5】
【0039】
尚、水分は、計算式(乾燥減量−酢酸)から求めたものであり、滴定濃度は、検体100gを中和するのに要する1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液のml数である。
【0040】
<洗浄・殺菌効力の測定1(精製水との比較)>
まず、0.05%のポリソルベート80溶液(対照)と、実施例4(検体)とを用いて洗浄・殺菌効力を測定した。対象菌として、食中毒の起因菌である大腸菌、及び、黄色ぶどう球菌を使用し、測定を3回行なった。その結果を、表6に記載した。
【0041】
【表6】
【0042】
尚、測定1〜3の欄には、試験片1個当たりの生菌数を記載し、<10の値は検出しないことを意味する。
【0043】
<洗浄・殺菌効力の測定2(ポリソルベート)との比較>
次に、大腸菌、及び、黄色ぶどう球菌を用い、実施例4との接触時間を変化させ、それに伴う洗浄・殺菌効力の変化を測定した。測定は、室温で2回行い、その結果を表7に記載した。
【0044】
【表7】
【0045】
尚、接触時間は、試験液噴霧後の放置時間を意味し、接触時間「―」は、調整直後に測定を行い、試験片の生菌数を測定したものである。又、対照としては、精製水を使用した。更に、表6と同様に、<10の値は検出しないことを意味する。
【0046】
表6、表7の結果より、実施例4は、精製水、ポリソルベートと比較して、非常に優れた洗浄・殺菌効力を有することが分かった。又、大腸菌と、黄色ぶどう球菌の両者に対して、効力を示すことから、食中毒起因菌全般に対して、広範囲で使用できることが分かった。更に、実施例4は、15秒という短い接触時間で殺菌効力を示すため、簡便に用いることができ、又、表2で示したとおり、安全性の高い原料により製造されたものであるため、安全性が高い。
【0047】
<洗浄・殺菌効力の測定3(大腸菌・黄色ブドウ球菌に対する効果測定)>
まず、試験菌をNA培地で35℃±1℃、18〜24時間培養後、得られた試験菌の菌体を0.1ペプトン水に懸濁させ、1ml当たりの菌数が106〜107となるように調整し、菌液とした。
【0048】
次に、99.5V/V%エタノールを含ませた脱脂綿で拭き、乾燥させたまな板(約5cm×5cm)の表面約3cm×3cmに菌液0.1mlを塗布後、乾燥させ、試験片とした。
【0049】
実施例3を試験液とした。試験液をスプレー容器に入れ、試験片の真上約10cmの位置から3回噴霧し、室温で3及び5分間放置後、試験片をSCDLP培地10mlで洗い出し、液の生菌数をSCDLPA培地を用いた混釈平板培地(35℃±1℃、2日間培養)により測定し、試験片1個当たりの生菌に換算した。また、精製水を対象に試験液とし、同様に噴霧後、室温で5分間放置した試験片の生菌数を測定した。その結果を表8に示した。
【0050】
【表8】
更に、表6と同様に、<10の値は検出しないことを意味する。
【0051】
表8より、大腸菌、及び、大腸菌(O157:H7)は、本願発明に係る殺菌剤を噴霧すると、放置3分で菌の検出が見られなかった。又、黄色ブドウ球菌については、若干の殺菌効果が見られた。
【0052】
又、培養後の生菌数測定平板の写真を図1〜図12に示した。
【0053】
測定で用いた試験菌は、Escheichia coli NBRC 3972(大腸菌)、Escheichia coli ATCC 43888(大腸菌、血清型O157:H7、ベロ毒素非産生株)、及び、Staphylococcus aureus subsp. Aureus NBRC 12732(黄色ブドウ球菌)であり、試験用培地としてNA培地(普通寒天培地 栄研化学株式会社)、SCDLP培地(日本製薬株式会社)、SCDLPA培地(日本製薬株式会社)を使用した。
【0054】
図1は、試験液噴霧前の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図2は、試験液を噴霧後に3分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図3は、試験液を噴霧後に5分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。図4は、対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【0055】
図5は、試験液噴霧前の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図6は、試験液を噴霧後に3分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図7は、試験液を噴霧後に5分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。図8は、対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【0056】
図9は、試験液噴霧前の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図10は、試験液を噴霧後に3分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真であり、図11は、試験液を噴霧後に5分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。図12は、対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【0057】
図1〜4より、大腸菌は、試験液噴霧前には、培地全体にその繁殖が認められたが、試験液噴霧後3分後、及び、5分後では、全くその存在がなくなっている。しかし、対象(精製水)を試験液とした図4では、図1の写真と比較しても、大腸菌の殺菌効果は認められなかった。
【0058】
図5〜8より、大腸菌(O157:H7)は、試験液噴霧前には、培地全体にその繁殖が認められたが、試験液噴霧後3分放置すると、ほとんど大腸菌(O157:H7)の存在は確認できなかった。更に、5分後放置すると、大腸菌(O157:H7)の存在は、全く認められなかった。しかし、対象(精製水)を試験液とした図8では、図4の写真と比較しても、大腸菌(O157:H7)の殺菌効果は認められなかった。
【0059】
図9〜12より、黄色ブドウ球菌は、試験液噴霧前には、培地全体にその繁殖が認められたが、試験液噴霧後3分放置すると、ほとんど黄色ブドウ球菌の存在は確認できなかった。更に、5分後放置すると、黄色ブドウ球菌のコロニーは、3分放置後より更に小さくなり、その数もかなり減少することが分かった。しかし、対象(精製水)を試験液とした図12では、図9の写真と比較しても、黄色ブドウ球菌の殺菌効果は認められなかった。
【0060】
<洗浄・殺菌効力の測定4(使用場所に対する効果測定)>
実施例3を試験液とし、実際に使用する箇所に噴霧し、その効力を測定した。測定箇所、及び、測定結果は、表9に示す通りである。
【0061】
【表9】
試験は、一般家庭の実際に使用している箇所で行なった。更に、各家庭間の衛生状況の違いを考慮し、2軒の家庭で測定を行った。/の箇所は、測定を行わなかったことを示す。
【0062】
表9は、本願発明に係る殺菌剤を噴霧すると、一般細菌、及び、大腸菌群のいずれについても、殺菌効果が期待できることを示している。また、家庭で菌が繁殖しやすく、又、安全性の高い殺菌剤の使用を要求されている箇所でも、本願発明に係る殺菌剤は、実際に殺菌効果を有することが分かる。
【0063】
「シンクの底」の2回目の測定結果では、殺菌前より、殺菌後の方が、菌の繁殖程度が高いが、これは、「シンクの底」にクッション用のシートが敷いてあるため、噴霧した試験液がシート全体に行き渡らず、シートに、試験液による殺菌作用を受けない部分が生じ、そのシート部分が菌の温床となってしまったことに起因すると推測される。
【0064】
<洗浄・殺菌効力の測定4−1(衛生管理を行い難い使用場所に対する効果測定)>
実施例3を試験液とし、実際に給食センター内施設で使用している脱水機に噴霧し、測定を行った。対照として、水、及び、アルコールを使用した。測定結果は、表10に示した通りである。なお、噴霧の代わりに、孔径の小さいノズルを用いて水洗処理をする手法も考えられるが、この手法では、試験液を、脱水機の隅々まで充分に行き渡らせることが難しい。そこで、噴霧する手段を用いた。噴霧によれば、脱水機の狭い箇所にも、試験液を行き渡らせることができる。
【0065】
【表10】
【0066】
表10より、衛生面、及び、安全性が心配され、且つ、衛生管理を行い難い脱水機にも、本願発明の殺菌剤を噴霧するのみで、水洗、又は、アルコールと比較して殺菌作用が得られることが分かった。
【0067】
<洗浄・殺菌効力の測定5(生食食品に対する効果測定、浸漬時間比較)>
実施例3の試験液を用い、この試験液中にキャベツ、及び、キュウリを一分間、三分間、五分間浸漬し、その殺菌効果を測定した。キャベツ、及び、キュウリのサンプル数は、それぞれ、3個とし、大腸菌群、及び、一般細菌について測定を行った。測定に使用する器具は、全て、アルコール殺菌処理済みのものを使用した。キャベツの測定結果は表11、キュウリの測定結果は表12に示した通りである。
【0068】
【表11】
【0069】
【表12】
【0070】
表11、表12により、生食食品であるキャベツ、キュウリは、水洗のみでは殺菌ができず、本願発明の殺菌剤に浸漬することで殺菌効果が得られることが分かった。特に、大腸菌群は、本願発明の殺菌剤に、一分浸漬するだけで、殺菌できることが分かった。
【0071】
<洗浄・殺菌効力の測定5−1(生食食品に対する効果測定、試験液の再利用測定)>
実施例3を試験液とし、サンプルとしてキュウリ、せんキャベツ、及び、ちぎりレタスを用いて、一般細菌、及び、大腸菌群に対する殺菌力を有する再利用回数の測定を行った。試験に用いる器具は、アルコール殺菌処理済みのものを使用した。試験は、2回行い、同一液を用いて6回の再使用を行なった。キュウリ、せんキャベツ、及び、ちぎりレタスの測定結果はそれぞれ、表13、表14、表15に示した通りである。なお、試験方法は、3分間の浸漬法
【0072】
【表13】
【0073】
【表14】
【0074】
【表15】
表13〜表15より、表面凹凸の小さなサンプル(キュウリ、せんキャベツ)は、5回程度の再使用が可能である。表面凹凸の大きなサンプル(ちぎりレタス)は、再利用が難しいため、時間延長や、攪拌等の処理方法の変更の必要があると思われる。
【0075】
次に、表13〜表15の測定結果を受けて、キュウリ、及び、レタスを試験液(実施例3)に5分間浸漬し、更に、浸漬中に何度か攪拌を行なった。測定項目は、一般細菌、及び、大腸菌群に対する殺菌力である。測定結果は表16に記載する通りである。
【0076】
【表16】
表16を参照すると、表面凹凸の大きいちぎりレタスであっても、5分間程度の浸漬により、殺菌効果が見られることが分かる。
【0077】
<洗浄・殺菌効力の測定6(実施例3、及び、実施例4の効力比較)>
実施例3を試験液1、実施例4を試験液2とし、サンプルとしてキュウリを用いて、3分間浸漬した。検査項目として、一般細菌、及び、大腸菌群に対する殺菌力を測定した。その測定結果は表17に記載する通りである。
【0078】
【表17】
表17より、実施例3、及び、実施例4は、同等の殺菌効果があることが分かる。
【0079】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】試験液噴霧前の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図2】試験液を噴霧後に3分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図3】試験液を噴霧後に5分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図4】対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の大腸菌(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【図5】試験液噴霧前の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図6】試験液を噴霧後に3分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図7】試験液を噴霧後に5分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図8】対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の大腸菌(O157:H7)(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【図9】試験液噴霧前の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図10】試験液を噴霧後に3分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図11】試験液を噴霧後に5分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)の状態を示す写真である。
【図12】対照(精製水)を試験液とし、噴霧後後に5分放置後の黄色ブドウ球菌(洗い出し液1ml相当)を示す写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸と、食酢と、炭酸水素ナトリウムとを混合して得られた殺菌剤であって、PHが2.25以下である、殺菌剤。
【請求項2】
請求項1に記載された殺菌剤であって、PHが2以下である、殺菌剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された殺菌剤であって、前記クエン酸と、前記食酢と、前記炭酸水素ナトリウムとの重量比が、(16.00〜37.33):102.30:0.454である、
殺菌剤。
【請求項4】
水、酢酸、ナトリウム、及び、クエン酸を含む殺菌剤であって、PHが2.25以下である、殺菌剤。
【請求項5】
請求項4に記載された殺菌剤であって、前記酢酸が、1.56(%)〜1.72(%)、クエン酸が、3.97(%)〜1.72(%)、及び、ナトリウムが、13.3(mg/100g)〜15.4(mg/100g)の範囲にある、殺菌剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された殺菌剤であって、前記クエン酸が、食品添加物の基準を満たすものである、殺菌剤。
【請求項1】
クエン酸と、食酢と、炭酸水素ナトリウムとを混合して得られた殺菌剤であって、PHが2.25以下である、殺菌剤。
【請求項2】
請求項1に記載された殺菌剤であって、PHが2以下である、殺菌剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された殺菌剤であって、前記クエン酸と、前記食酢と、前記炭酸水素ナトリウムとの重量比が、(16.00〜37.33):102.30:0.454である、
殺菌剤。
【請求項4】
水、酢酸、ナトリウム、及び、クエン酸を含む殺菌剤であって、PHが2.25以下である、殺菌剤。
【請求項5】
請求項4に記載された殺菌剤であって、前記酢酸が、1.56(%)〜1.72(%)、クエン酸が、3.97(%)〜1.72(%)、及び、ナトリウムが、13.3(mg/100g)〜15.4(mg/100g)の範囲にある、殺菌剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された殺菌剤であって、前記クエン酸が、食品添加物の基準を満たすものである、殺菌剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−278959(P2009−278959A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137166(P2008−137166)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(399080733)木曽路物産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(399080733)木曽路物産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]