説明

母親の全血からの非侵襲的胎児RhDジェノタイピング

本発明は、被験体のRhD遺伝子型を判定する方法を開示する。特に、本発明は、胎児細胞を含む母親の生物学的サンプルから胎児RhD遺伝子型を判定する非侵襲的方法を提供する。本発明はまた、記載した方法に有用な新規プローブおよびプライマーも提供する。さらに、新規プローブおよびプライマーを含むキットおよび混合物も開示する。被験体のRhD遺伝子型を判定する方法は、被験体由来の1つまたは複数の細胞を含む生物学的サンプル中の細胞を溶解して溶解混合物を形成すること、前記溶解混合物から核酸を抽出すること、および前記抽出された核酸においてRhD遺伝子の少なくとも1個のエクソンを検出することを含み、前記エクソンの有無から被験体のRhD遺伝子型が示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2008年7月18日に出願された米国仮出願61/082,169への優先権を主張し、上記米国仮出願の内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
一般に、胎児の性別、遺伝性障害または疾患のマーカー、および染色体異常など1つまたは複数の遺伝的特性を判定するには出生前診断が行われる。こうした出生前検査の1つに、胎児アカゲザルD抗原(RhD:Rhesus D antigen)状態の判定がある。この検査は、RhD陰性の妊婦にとって特に重要である。RhD陽性胎児を妊娠したRh−D陰性の母親は、胎児赤血球の表面に発現するRhD抗原への抗体を産生する可能性がある。この抗体は、胎盤を通して胎児循環に入ることができるため、RhD陽性胎児は、母親の抗D抗体がD陽性の胎児赤血球を攻撃してこれを溶解させる胎児新生児溶血性疾患(HDFN:hemolytic disease of the fetus and newborn)のリスクがある。HDFNのリスクは、胎児がRhD陽性である第2子以降の妊娠で著しく高まる。HDFNは、比較的軽度の場合、網状赤血球増加を伴う胎児貧血を、最も重度の場合、胎児の死亡を特徴とする。
【0003】
D表面抗原を発現する可能性がある胎児の循環中の赤血球に対して母親のRhD抗体が産生されるのを防ぐには、予防的な抗RhD免疫グロブリン処置剤を妊娠約28週のRhD陰性妊婦全員に投与し、さらに任意に妊娠34週にブースターを投与するのが出産前の一般的な医療行為である。しかしながら、こうした女性の最大約38%がRhD陰性胎児を妊娠し、予防的処置を受ける必要がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在利用できる胎児RhD状態の判定方法では、検査用の胎児細胞を採取する侵襲的な手順が必要となるのが一般的である。たとえば、RhD状態または遺伝的異常のスクリーニングには絨毛膜絨毛サンプリング(CVS:chorionic villus sampling)または羊水穿刺(aminocentesis)を行う場合がある。しかしながら、自然流産、感染症および同種免疫にはこうした侵襲的な手順が関連している。したがって、侵襲的な診断検査に伴う合併症、および高価な予防的処置剤の不必要な投与を回避するには、胎児RhD状態を判定する非侵襲的な手順を開発することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の概要)
本発明は1つには、母体血液サンプルから胎児DNAを単離する非侵襲的方法の開発、およびRhD遺伝子の特定のエクソンの特定領域の検出からRhD遺伝子型が予測されるという発見に基づく。したがって、本発明は、生物学的サンプルから被験体、特に胎児被験体のRhD遺伝子型を判定する非侵襲的方法、および本発明の方法に使用できる新規なプローブおよびプライマーを提供する。
【0006】
一実施形態では、本発明は、ヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10を増幅するためのプライマーとして有用な単離されたポリヌクレオチドを提供する。別の実施形態では、本発明は、RHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7またはエクソン10を検出するためのプローブとして有用な単離されたポリヌクレオチドを提供する。単離されたポリヌクレオチドは、二重標識プローブであってもよい。
【0007】
本発明は、被験体のRHD遺伝子型を判定する方法を包含する。一実施形態では、この方法は、被験体由来の1つまたは複数の細胞を含む生物学的サンプル中の細胞を溶解して溶解混合物を形成すること;前記溶解混合物から核酸を抽出すること;および前記抽出された核酸においてRHD遺伝子の少なくとも1個のエクソンを検出することを含み、前記エクソンの有無から被験体のRHD遺伝子型が示される。別の実施形態では、被験体は胎児であってもよい。生物学的サンプルは、全血サンプルなど胎児細胞を含む母親の生物学的サンプルであってもよい。いくつかの実施形態では、母親の細胞よりも胎児細胞を優先的に溶解することができる。
【0008】
別の実施形態では、本方法は、少なくとも1個のエクソンを1種または複数種のプライマーセットで増幅し、少なくとも1個のエクソンを1種または複数種の標識プローブで同定することによりRHD遺伝子の少なくとも1個のエクソンを検出することを含む。エクソンは、ヒトRHD遺伝子のエクソン4でも、エクソン5でも、エクソン7でも、あるいはエクソン10でもよい。別の実施形態では、2種以上のプライマーセットを使用して少なくとも1個のエクソンを増幅し、2種以上の標識プローブを使用して少なくとも1個のエクソンを同定する。別の実施形態では、2種以上のプライマーセットによりヒトRHD遺伝子の1個のエクソンを増幅する。さらに別の実施形態では、2種以上のプライマーセットによりヒトRHD遺伝子の2個以上のエクソンを増幅する。
【0009】
本発明の別の実施形態では、本方法は、被験体由来の1つまたは複数の細胞を含む生物学的サンプルから核酸を抽出すること;および抽出された核酸においてRHD遺伝子の少なくとも3個のエクソンを検出することを含み、エクソンの有無から被験体のRHD遺伝子型が示される。一実施形態では、RHD遺伝子の4個のエクソンを検出する。検出され得るエクソンには、ヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10が含まれる。RHD遺伝子の3個以上のエクソンは、3種以上のプライマーセットで3個以上のエクソンを増幅し、3種以上の標識プローブで3個以上のエクソンを同定することにより検出できる。いくつかの実施形態では、その被験体は胎児である。他の実施形態では、生物学的サンプルは胎児細胞を含む母親の生物学的サンプルである。
【0010】
いくつかの実施形態では、本方法はさらに、前記抽出された核酸において胎児DNAの存在を確認することを含む。一実施形態では、胎児DNAの存在は、Y染色体を検出することにより確認される。別の実施形態では、Y染色体は、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む1種または複数種のプライマーセットでY染色体上にある遺伝子を増幅し;1種または複数種の標識プローブで遺伝子を同定することにより検出される。別の実施形態では、Y染色体上にある遺伝子は、SRY、FCYおよびDAZからなる群より選択される。なお別の実施形態では、胎児DNAの存在は、父系遺伝の対立遺伝子を検出することにより確認される。
【0011】
本発明はさらに、本明細書に開示された新規なプライマーおよびプローブを含むRhDジェノタイピングキットを提供する。一実施形態では、キットは、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む少なくとも1種のプライマーセット;少なくとも1種の標識プローブ;および生物学的サンプルにおいてRHD遺伝子を検出するための、前記少なくとも1種のプライマーセットおよび前記少なくとも1種のプローブの使用説明書を含み、前記フォワードプライマーおよび前記リバースプライマーは、ヒトRHD遺伝子のエクソンにハイブリダイズする。エクソンは、ヒトRHD遺伝子のエクソン4でも、エクソン5でも、エクソン7でも、あるいはエクソン10でもよい。別の実施形態では、キットは、2種以上のプライマーセットおよび2種以上の標識プローブを含む。2種以上のプライマーセットは、ヒトRHD遺伝子の1個のエクソンにハイブリダイズしてもよいし、あるいは2種以上のプライマーセットは、ヒトRHD遺伝子の2個以上のエクソンにハイブリダイズしてもよい。別の実施形態では、キットはさらに、溶解試薬を含む。溶解試薬は、S−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素および任意にビタミンE、トリトンX−100、トウィーン−20、NP−40およびサポニンなどの界面活性剤を含んでいてもよい。
【0012】
本発明はさらに、単離された核酸と、本明細書に開示された新規なプローブおよびプライマーセットの様々な組み合わせとを含む試薬混合物を企図している。一実施形態では、試薬混合物は、単離された核酸;各々がフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む、RHD遺伝子の3個以上のエクソンを増幅するための3種以上のプライマーセット;および3種以上の標識プローブを含む。別の実施形態では、試薬混合物は、単離された核酸;RHD遺伝子の4個のエクソンを増幅するための4種のプライマーセット;および4種の標識プローブを含む。プライマーセットおよび標識プローブは好ましくは、ヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10から選択される3個以上のエクソンにハイブリダイズする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】RhD陽性および陰性遺伝子型のRh抗原遺伝子およびそのコードされたRhタンパク質の模式図である。反対の方向を向いているRhD遺伝子(赤色)およびRhCE遺伝子(青色)の10個のエクソン、RhボックスおよびSMP1遺伝子を示す。
【図2】RhD陽性胎児を妊娠したRhD陰性の母親の血液サンプルから単離されたDNAにおける、プライマーセットを用いたRhD遺伝子のエクソン4のPCR増幅を示す。Aは、RhDプライマーセット4.2で増幅されたサンプル14202である。一番上のバンドは予想された70bpの単位複製配列(アスタリスク)に対応する。Bは、RhDプライマーセット4.3で増幅されたサンプル14202である。単一のバンドは予想された62bpの単位複製配列(アスタリスク)に対応する。
【図3】RhD陽性胎児を妊娠したRhD陰性の母親から得られた血液サンプルから単離したDNAにおける、プライマーセットを用いたRhD遺伝子のエクソン5のPCR増幅を示す。Aは、RhDプライマーセット5で増幅されたサンプル14180(最後の2レーン)である。一番上のバンドは予想された83bpの単位複製配列(アスタリスク)に相当する。Bは、RhDプライマーセット5.2で増幅されたサンプル14180(最後の2レーン)である。一番上のバンドは予想された72bpの単位複製配列(アスタリスク)に相当する。
【図4】RhD陽性胎児を妊娠したRhD陰性の母親から得られた血液サンプルから単離したDNAにおける、プライマーセットを用いたRhD遺伝子のエクソン7のPCR増幅を示す。Aは、RhDプライマーセット7で増幅されたサンプル14202である(最後の3レーン)。4.5%MS8アガロースゲル上に約53および58bpというサイズが近い2個のバンドが目視可能である。シーケンシングデータから58bpのバンドは間違いなく単位複製配列(アスタリスク)であることが確認された。Bは、RhDプライマーセット7.3で増幅されたサンプル14202である(最後の2レーン)。単一のバンドは予想された61bpの単位複製配列(アスタリスク)に相当する。
【図5】RhD陽性胎児を妊娠したRhD陰性の母親から得られた血液サンプルから単離したDNAにおける、プライマーセットを用いたRhD遺伝子のエクソン10のPCR増幅を示す。サンプル14180は、エクソン10(最後の2レーン)および10.1(最初の2レーン;10H)のRhDプライマーセットで増幅した。一番上のバンドは間違いなく、プライマーセット10(59bp、最後の2レーン)およびプライマーセット10.1(74bp、最初の2レーン)の単位複製配列に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
アカゲザル(Rh:Rhesus)血液型抗原は、免疫原性が高いため臨床的に最も重要と考えられている。Rh抗原への抗体は、新生児の溶血性疾患だけでなく、輸血反応および自己免疫性溶血性貧血にも関わっている。ヒトRh表現型は、1番染色体(1p34.1−1p36)上にある近接した2つのRh遺伝子、RhDおよびRhCEにより制御されている。RhDはD抗原をコードし、RhCEはCcおよびEe抗原をコードする(Y.Colin et al.(1991)Blood,Vol.78:2747)。2つの遺伝子は10個のエクソンを含み、配列相同性が各々約94%であるが、テイル−テイル(tail− to− tail)構造をとり染色体上で反対の方向を向いているため、RhD遺伝子のコード鎖はRhCEの非コード鎖であり、その逆も同様である(図1;N.D.Avent et al.(2006)Expert Reviews in Mol.Med.,Vol.8:1)。膜小タンパク質(SMP1:small membrane protein 1)遺伝子は、この2つのRh遺伝子の間にある。また、RhDは、相同性が98.6%でアカゲザル(Rhesus)ボックスとして公知の2つの9kbの領域に挟まれている。
【0015】
RhDおよびRhCEは、417個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。RhDおよびRhCEタンパク質は、アミノ酸が31〜35個異なっている。RhDはD抗原をコードし、RhCEは、2組の対立遺伝子のC/cおよびE/e抗原の発現に関わる4つの共通の対立遺伝子をコードする。RhD陰性の個体の場合、RHD遺伝子が完全に欠失しているか、あるいは遺伝子が変異していたり、一部が欠失していたりして遺伝子が非機能的になっているためRhD抗原が赤血球上に発現しない。
【0016】
コーカサス人種は約15パーセントがRhD陰性であり、通常RHDの欠失のホモ接合体である。RhD陰性の黒人系アフリカ人の66パーセントはインタクトなRhDを持っているが、この遺伝子は、269番目のチロシンのコドンを翻訳終結コドンに変化させるエクソン6のナンセンス変異のため不活性である。このインタクトなRhD遺伝子はRhD偽遺伝子(RHDΨ)として公知であり、イントロン3とエクソン4の境界における37bpの重複、エクソン5のミスセンス変異、およびエクソン6のナンセンス変異など複数の変異を持っている(B.K.Singleton,et al.(2000)Blood,Vol.89:2568)。この不活性な偽遺伝子はDタンパク質もD抗原も産生しない。アフリカ人に比較的に多く見られるもう1つの非機能的な遺伝子としてはRhD−CE−Dがある。RhDエクソンが存在していても、RhD抗原は産生されない。
【0017】
上記で論じたように、RhD陰性の母親がRhD陰性胎児を妊娠していることが分かれば、出産前の不要な抗Rh免疫グロブリン予防法および往診がなくなる。胎児RhD遺伝子型の判定に利用できる標準的な臨床試験は典型的には、妊娠を危うくするリスクを伴う侵襲的な手順を使用する必要がある。したがって、胎児RhD状態を判定する非侵襲的な臨床試験の開発が求められている。
【0018】
本発明は1つには、母親の生物学的サンプルから胎児DNAを単離する新規な方法の開発による。参照によってその全体を本明細書に援用する、2007年11月1日に出願された同時係属中の米国特許仮出願第60/984,698号に詳しく記載されているように、この方法は、生物学的サンプルを所定の時間特定の溶解試薬(lysing reagent)に曝露することにより母親の細胞よりも胎児細胞を選択的に溶解することを含む。この方法により、選択的ライセートからの胎児DNA、たとえば、質の高い胎児DNAの抽出が可能になる。抽出された胎児DNAは、RhD遺伝子型など様々な遺伝的マーカーのスクリーニングに使用することができる。
【0019】
本発明はまた、RHD遺伝子の1個または複数の特定のエクソンの検出からRhD遺伝子型が正確に予測されるという知見に基づく。したがって、本発明は、被験体のRHD遺伝子型を判定する方法を提供する。一実施形態では、この方法は、被験体由来の1つまたは複数の細胞を含む生物学的サンプル中の細胞を溶解して溶解混合物を形成すること;前記溶解混合物から核酸を抽出すること;および前記抽出された核酸においてRHD遺伝子の少なくとも1個のエクソンを検出することを含み、前記エクソンの有無から被験体のRHD遺伝子型が示される。別の実施形態では、その被験体は胎児である。別の実施形態では、前記生物学的サンプルは胎児細胞を含む母親の生物学的サンプルである。例示的な母親の生物学的サンプルとして、全血、血漿、血清、尿、頸管粘液、羊水または絨毛膜絨毛サンプルがあるが、これに限定されるものではない。好ましい実施形態では、前記母親の生物学的サンプルは全血サンプルである。
【0020】
生物学的サンプル中の細胞を溶解するには、任意の好適な溶解試薬(lysing reagent)を用いればよい。溶解試薬の例としては、ビタミンE、サポニン、S−[(2−グアニジノ−4−チアゾイル)メチル]−イソチオ尿素(GTMI)またはその塩、グアニジニウムヒドロクロリド、グアニジニウムイソチオシアネート;尿素、フェリシアン化リチウム、フェリシアン化ナトリウムおよびチオシアン酸ナトリウム、フェリシアン化カリウムおよびチオシアン酸カリウム、アンモニウムクロリド、ジエチレングリコール、Zap−Oglobin、およびトリトン、トウィーンおよびNP−40、DMSOなどの一般に用いられる界面活性剤、ならびに参照によってその全体を本明細書に援用する、2007年11月1日に出願された米国特許仮出願第60/984,698号に記載された組成物のいずれか一つがあるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明の一実施形態では、胎児細胞は、母親の生物学的サンプルにおける母親の細胞よりも優先的に溶解される。胎児細胞は、母親の生物学的サンプルを、本明細書に記載するような溶解試薬と一定の時間接触させることにより母親の細胞よりも優先的に溶解することができる。技術的な限界にとらわれるわけではないが、母親の循環血中の胎児細胞は元来、傷ついており(compromised)、アポトーシスを起こしやすい(apoptotic)と考えられ、たとえば、胎児細胞は、母親の細胞がほとんど溶解しない濃度の溶解試薬で、あるいは(同じ濃度の溶解剤を使用する場合)母親の細胞の溶解に要する時間より短い時間で優先的に溶解できる。胎児細胞を優先的に溶解する溶解条件に関連する様々な因子は変化させてもよい。以下に限定されるものではないが、溶解反応の時間、溶解剤の濃度、溶解剤の性質、溶解液のpHおよび溶解反応が起こる温度などの例示的な因子は、胎児細胞の優先的な溶解を実現するが、母親の細胞の溶解は実現しないように変化させてもよい。別の実施形態では、前記時間は、約10分から約30分である。別の実施形態では、前記溶解試薬は、S−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素(GTMI)またはその塩を含む。GTMIの濃度は、約0.1mM〜約500mM、一層好ましくは約0.5mM〜約25mM、最も好ましくは約20mMであってもよい。別の実施形態では、溶解試薬は、GTMI、ビタミンE、界面活性剤および任意にサポニンを含む。別の実施形態では、溶解試薬は、GTMI、ビタミンE、サポニン、トリトンX−100、DMSOおよびpH7.2〜7.4の緩衝液を含む。
【0022】
上記のように、母親の生物学的サンプルにおいて母親の細胞よりも胎児細胞の優先的な溶解を実現するには、様々な因子を変化させてもよい。一実施形態では、母親の生物学的サンプルを約0.1mM〜約500mMのGTMI溶液と濃度範囲の上限で約1〜10秒間、さらに濃度範囲の下限で約1時間接触させる。別の実施形態では、母親の生物学的サンプルを約1mM〜約25mMのGTMI溶液と濃度範囲の上限値で約5分間、さらに濃度範囲の下限値で約30分間接触させる。なお別の実施形態では、生物学的サンプルを約1mM〜約5mMのGTMI溶液と約10〜30分間接触させる。こうした変更および操作は、当業者の知識の範囲内である。
【0023】
核酸については、当該技術分野において公知の任意の手段により溶解混合物から抽出することができる。一実施形態では、溶解混合物の遠心分離により得られた上清から任意の好適な手段により核酸を単離する。上清は任意に、核酸を単離する前にさらに処理してもよい。たとえば、上清は、試薬、たとえば、タンパク質を消化して溶解混合物中の核酸を取り出したり、あるいは精製したりしやすくするプロテイナーゼKで処理してもよい。こうした試薬を使用する場合、たとえば、サンプルを約95℃に加熱して試薬を不活性化する。次いで核酸を、たとえばフェノールクロロホルムで抽出し、エタノールで沈殿させてさらに精製してよい。次いで核酸ペレットをヌクレアーゼフリー水に懸濁し、その後の遺伝学的分析に使用してよい。あるいは、市販されているキット、たとえば、RocheのApoptotic DNA Ladderキット、またはQIAMP DNA Blood Miniキット、またはRocheのMagNA Pure LC DNAキット1を使用して上清から核酸を取り出してもよい。
【0024】
本発明の一実施形態では、RHD遺伝子の少なくとも1個のエクソンを検出して被験体のRhD遺伝子型を確認する。10個のエクソンのいずれかを検出してRhD遺伝子型を判定できる。好ましくは、エクソン4、エクソン5、エクソン7またはエクソン10の少なくとも1個を検出する。いくつかの実施形態では、RHD遺伝子の少なくとも2個のエクソンを検出する。他の実施形態では、RHD遺伝子の少なくとも3個のエクソンを検出する。本発明の方法は、好ましいエクソン各々の起こり得るすべての組み合わせの検出を企図している。たとえば、エクソン4および5;エクソン4および7;エクソン4および10;エクソン5および7;エクソン5および10;またはエクソン7および10の検出を使用すれば、被験体のRhD遺伝子型を予測することができる。同様に、エクソン4、5および7;エクソン4、5および10;エクソン5、7および10またはエクソン4、7および10の検出を使用すれば、被験体のRhD遺伝子型を診断することができる。別の実施形態では、エクソン4、5、7および10を検出して被験体のRhD遺伝子型を判定する。
【0025】
RHD遺伝子の2個以上のエクソンを検出するとアッセイの感度および特異性が高まる。前述したように、RHD遺伝子のエクソンの一部または全部を含む個体群にはRHD遺伝子の改変体が存在するが、遺伝子の変異により機能的なD抗原は産生しない。したがって、こうした対立遺伝子を保有する個体はRhD陰性である。2個以上のエクソンまたはエクソンの特定の領域(特定のpsi領域など)を検出することで、こうした非機能的なRHDΨ改変体による偽陽性を排除できる。たとえば、エクソン7を検出すれば、RHD遺伝子および非機能的なRHDΨ改変体が共に同定される。しかしながら、エクソン5の特定のpsi領域の検出はRHDΨ−遺伝子のみ同定する。いくつかの実施形態では、RHD遺伝子の3個以上のエクソンを検出して被験体のRhD遺伝子型を判定する。他の実施形態では、RHD遺伝子の4個のエクソンを検出して被験体のRhD遺伝子型を判定する。
【0026】
RHD遺伝子のエクソンは、特定の核酸配列の存在を同定する、当該技術分野において公知の任意の方法により検出することができる。好適な方法として、サザンブロット法、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR:Polymerase Chain Reaction)、サンドイッチハイブリダイゼーションおよびリアルタイムPCR(RT−PCR:Real Time−Polymerase Chain Reaction)があるが、これに限定されるものではない。本発明の一実施形態では、RHD遺伝子の少なくとも1個のエクソンの検出は、前記少なくとも1個のエクソンを1種または複数種のプライマーセットで増幅し、その少なくとも1個のエクソンを1種または複数種の標識プローブで同定することを含む。本明細書で使用する場合「プライマーセット」とは、一対のプライマー、すなわち特定のヌクレオチド配列またはゲノム領域に隣接し、かつポリメラーゼが特定の配列またはゲノム領域を増幅することを可能にする遊離の3’ヒドロキシル末端を持つフォワードプライマーおよびリバースプライマーをいう。「標識プローブ」とは、検出可能なシグナルを発生する化合物にコンジュゲートされ、かつ標的DNA配列と相補的である一本鎖核酸をいう。本発明の別の実施形態では、1種または複数種のプライマーセットにより、ヒトRHD遺伝子のエクソン4を増幅する。別の実施形態では、1種または複数種のプライマーセットにより、ヒトRHD遺伝子のエクソン5を増幅する。別の実施形態では、1種または複数種のプライマーセットにより、ヒトRHD遺伝子のエクソン7を増幅する。さらに別の実施形態では、1種または複数種のプライマーセットにより、ヒトRHD遺伝子のエクソン10を増幅する。2種以上のプライマーセットを使用して1個のエクソンの特定の領域を増幅してもよい。たとえば、第1のプライマーセットにより第1のエクソンの第1の領域を増幅してもよく、第2のプライマーセットにより第1のエクソンの第2の領域を増幅してもよい。エクソンの第1の領域および第2の領域は重複しても構わない。その代わりに、またはそれに加えて、2種以上のプライマーセットを使用して2個の異なるエクソンを増幅してもよい。いくつかの実施形態では、2種以上のプライマーセットによりヒトRHD遺伝子の2個以上のエクソンを増幅する。
【0027】
上記で論じたように、プライマーセットは、ヒトRHD遺伝子の特定のエクソンまたはそのエクソンの特定の領域を増幅するように設計してもよい。したがって、本発明はさらに、ヒトRHD遺伝子の1つまたは複数のエクソンの特定の領域を増幅するためのプライマーとして使用できる単離された新規なポリヌクレオチド(たとえばオリゴヌクレオチド)を提供する。単離されたポリヌクレオチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号8、配列番号10、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号20、配列番号22および配列番号23からなる群より選択される配列を含んでいてもよく、単離されたポリヌクレオチドは50未満の塩基を含む。一実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号10、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号17、配列番号19、配列番号20、配列番号22および配列番号23からなる群より選択される配列を含み、単離されたポリヌクレオチドは50未満の塩基を含む。プライマーポリヌクレオチドは、以下に限定されるものではないが、ロックド核酸(LNA:locked nucleic acid)、ペプチジル核酸(PNA:peptidyl nucleic acid)、2’−O−アルキル(たとえば2’−O−メチル、2’−O−メトキシエチル)などの糖修飾、2’−フルオロおよび4’チオ修飾、骨格修飾、1つまたは複数のホスホロチオアート結合、メチルホスホナート結合、モルホリノ結合またはホスホノカルボキシレート結合などを含む1つまたは複数の化学修飾を含んでいてもよい。一実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、約10〜約30塩基を含む。別の実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、約15〜約25塩基を含む。ヒトRHD遺伝子のエクソン4を増幅するための好ましいプライマーセットとして、配列番号1、配列番号2、配列番号4または配列番号5に記載された配列を含む単離されたポリヌクレオチドがある。ヒトRHD遺伝子のエクソン5を増幅するための好ましいプライマーセットとして、配列番号7、配列番号8、配列番号10または配列番号11に記載された配列を含む単離されたポリヌクレオチドがある。ヒトRHD遺伝子のエクソン7を増幅するための好ましいプライマーセットとして、配列番号13、配列番号14、配列番号16または配列番号17に記載された配列を含む単離されたポリヌクレオチドがある。ヒトRHD遺伝子のエクソン10を増幅するための好ましいプライマーセットとして、配列番号19、配列番号20、配列番号22または配列番号23に記載された配列を含む単離されたポリヌクレオチドがある。本発明の別の実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、ヒトRHD遺伝子のエクソンにハイブリダイズする。なお別の実施形態では、本発明のプライマーは、非常に密接に関連するRHCE遺伝子、またはゲノム内の他の任意の遺伝子の任意の部分を増幅せずにRHD遺伝子の特定のエクソンまたはエクソンの領域を特異的に増幅し、たとえば、プライマーは高感度であり、汚染染色体DNAのバックグラウンドが大きくても、RHD遺伝子の配列を含む非常に少量のDNAを増幅することができる。
【0028】
本発明の別の実施形態では、プライマーポリヌクレオチドは、配列番号76、配列番号77、配列番号79、配列番号80、配列番号83、配列番号84、配列番号86、配列番号87、配列番号89、配列番号90、配列番号92、配列番号93、配列番号95、配列番号96、配列番号98、配列番号99、配列番号100、配列番号101、配列番号102、配列番号103、配列番号104、配列番号105、配列番号107、配列番号109、配列番号110、配列番号112、配列番号113、配列番号114、配列番号115、配列番号116、配列番号117、配列番号118、配列番号119、配列番号121および配列番号122からなる群より選択される配列を含んでいてもよく、プライマーポリヌクレオチドは50未満の塩基を含む。
【0029】
本発明はさらに、RHD遺伝子の1つまたは複数のエクソンを検出するプローブとして使用できる単離されたポリヌクレオチド(たとえばオリゴヌクレオチド)を提供する。単離されたポリヌクレオチドは、配列番号3、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21および配列番号24からなる群より選択される配列を含んでいてもよく、単離されたポリヌクレオチドは、50未満の塩基を含む。一実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、約10〜約40塩基を含む。別の実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、約15〜約30塩基を含む。RHD遺伝子のエクソン4を検出する例示的なプローブポリヌクレオチドは、配列番号3または配列番号6に記載された配列を含む。RHD遺伝子のエクソン5を検出する例示的なプローブポリヌクレオチドは、配列番号9または配列番号12に記載された配列を含む。RHD遺伝子のエクソン7を検出する例示的なプローブポリヌクレオチドは、配列番号15または配列番号18に記載された配列を含む。RHD遺伝子のエクソン10を検出する例示的なプローブポリヌクレオチドは、配列番号21または配列番号24に記載された配列を含む。
【0030】
別の実施形態では、プローブポリヌクレオチドは、配列番号78、配列番号81、配列番号82、配列番号85、配列番号88、配列番号91、配列番号94、配列番号97、配列番号106、配列番号108、配列番号111、配列番号120および配列番号123からなる群より選択される配列を含んでいてもよく、プローブポリヌクレオチドは50未満の塩基を含む。
【0031】
好ましくは、単離されたプローブポリヌクレオチドは、1つまたは複数の方法により検出が可能なシグナルを発生する少なくとも1つの標識を含む。好適な標識としては、35S、33Pおよび32Pなどの放射能標識、ビオチン、ジゴキシゲニン、蛍光色素およびアルカリホスファターゼなどの酵素があるが、これに限定されるものではない。別の標識および標識の適切な検出方法については、当業者であれば確認することができる。一実施形態では、標識は、単離されたポリヌクレオチドの5’末端に結合される。別の実施形態では、標識は、単離されたポリヌクレオチドの3’末端に結合される。別の実施形態では、第1の標識を単離されたポリヌクレオチドの5’末端に結合し、第2の標識を単離されたポリヌクレオチドの3’末端に結合する。第1の標識および第2の標識は、相互作用して特有のシグナルを発生してもよいし、またはどちらかの標識が発生したシグナルを減弱させてもよい。たとえば、蛍光共鳴エネルギー転移、すなわちFRET(fluorescence resonance energy transfer)として公知の現象では、第1の蛍光標識が励起されると、エネルギーが転移するため第1の蛍光標識の近傍にある第2の蛍光標識の発光波長でシグナルが発生する。この現象の変形では、第1の蛍光標識の近傍にある第2の標識により第1の蛍光標識のシグナルを消光(quench)することができる。こうした様式で相互作用する第1の標識および第2の標識を使用すれば、標識を結合した分子の特定のコンホメーションを検出することができる。本発明の好ましい実施形態では、単離されたプローブポリヌクレオチドは、このポリヌクレオチドの5’末端に結合したレポーター分子、およびポリヌクレオチドの3’末端に結合したクエンチャー分子を含む。レポーター/クエンチャーの任意の組み合わせを単離されたポリヌクレオチドにコンジュゲートしてもよい。好適なレポーター分子として、6−カルボキシフルオレセイン(6−FAM)、テトラクロロフルオレセイン(TET:tetrachlorofluorescein)、ROX、HEXおよびJOEがあるが、これに限定されるものではない。好適なクエンチャー分子としては、テトラメチルローダミン(TAMRA:tetramethylrhodamine)、ジヒドロシクロピロロインドールトリペプチド副溝結合物質(MGB:minor groove binder)、ブラックホールクエンチャー(BHQ:black hole quencher)および副溝結合型非蛍光クエンチャー(MGBNFQ:minor groove binding nonfluorescent quencher)があるが、これに限定されるものではない。こうした二重標識ポリヌクレオチドは、リアルタイムPCR技術を使用してRHD遺伝子の1つまたは複数のエクソンを検出する際に本発明のプライマーポリヌクレオチドと併用するとプローブとして特に有用である。
【0032】
本発明は、胎児のRHD遺伝子型を判定する方法であって、胎児細胞を含む母親の生物学的サンプル中の細胞を溶解して溶解混合物を形成すること;前記溶解混合物から核酸を抽出すること;および前記抽出された核酸においてRHD遺伝子の少なくとも1個のエクソンを検出することを含み、前記エクソンの有無から胎児のRhD遺伝子型が示される、方法を包含する。一実施形態では、この方法はさらに、前記抽出された核酸において胎児DNAの存在を確認することを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、抽出された核酸中の胎児DNAの存在は、Y染色体を検出することにより確認される。生物学的サンプルから抽出されたDNAのY染色体を検出するには、いくつかの方法が当業者に知られている。一実施形態では、Y染色体は、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む1種または複数種のプライマーセットでY染色体上にある遺伝子を増幅し;1種または複数種の標識プローブで遺伝子を同定することにより検出する。ヒトY染色体上にある遺伝子、AMELY(amelogenin,Y−chromosomal:アメロゲニン、Y染色体)、ANT3Y(adenine nucleotide translocator−3 on the Y:Y上のアデニンヌクレオチド輸送体−3)、ASMTY(アセチルセロトニンメチルトランスフェラーゼ(acetylserotonin methyltransferase)を表す)、AZF1(azoospermia factor 1:無精子症因子1)、AZF2(azoospermia factor 2:無精子症因子2)、BPY2(basic protein on the Y chromosome:Y染色体上の塩基性タンパク質)、CSF2RY(granulocyte−macrophage colony−stimulating factor receptor, alpha subunit on the Y chromosome:Y染色体上の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体、αサブユニット)、DAZ(deleted in azoospermia:無精子症で欠失)、IL3RAY(interleukin−3 receptor:インターロイキン−3受容体)、PRKY(protein kinase, Y−linked:プロテインキナーゼ、Y連鎖)、RBM1(RNA binding motif protein, Y chromosome, family 1, member A1:RNA結合モチーフタンパク質、Y染色体、ファミリー1、メンバーA1)、RBM2(RNA binding motif protein 2:RNA結合モチーフタンパク質2)、RPS4Y(Ribosomal protein S4, Y−linked copy 1:リボソームタンパク質S4、Y連鎖コピー1)、RPS4Y2(Ribosomal protein S4, Y−linked copy 2:リボソームタンパク質S4、Y連鎖コピー2)、SRY(sex−determining region:性決定領域)、TSPY(testis−specific protein:精巣特異的タンパク質)、UTY(ubiquitously transcribed TPR gene on Y chromosome:Y染色体上で遍在的に転写されるTPR遺伝子)、ZFY(zinc finger protein:亜鉛フィンガータンパク質)およびFCYなどのいずれか一つを検出すればよい。好ましい実施形態では、遺伝子はSRY、FCYまたはDAZである。SRY遺伝子を増幅するための例示的なプライマーとして、配列番号25または配列番号26に記載された配列を含むポリヌクレオチドがある。FCY遺伝子を増幅するための例示的なプライマーとして、配列番号28または配列番号29に記載された配列を含むポリヌクレオチドがある。DAZ遺伝子を増幅するための例示的なプライマーとして、配列番号31または配列番号32に記載された配列を含むポリヌクレオチドがある。SRY遺伝子を検出するための例示的なプローブとして、配列番号27を含むポリヌクレオチドがある。FCY遺伝子を検出するための例示的なプローブとして、配列番号30を含むポリヌクレオチドがある。DAZ遺伝子を検出するための例示的なプローブとして、配列番号33を含むポリヌクレオチドがある。
【0034】
本発明はさらに、Y染色体上のDAZ遺伝子の検出に例示的なプライマーおよびプローブとして使用できる新規なポリヌクレオチド(polynucelotide)(たとえばオリゴヌクレオチド)を提供する。一実施形態では、この単離されたポリヌクレオチドは、配列番号31、配列番号32または配列番号33に記載された配列を含み、単離されたポリヌクレオチドは、50未満の塩基を含む。別の実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、約10〜約30塩基を含む。別の実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、約15〜約25塩基を含む。
【0035】
他の実施形態では、抽出された核酸中の胎児DNAの存在は、父系遺伝の対立遺伝子を検出することにより確認される。父系遺伝の対立遺伝子の検出は、1つまたは複数の多型マーカーの存在を判定することにより行えばよい。一実施形態では、母親の細胞から得られたDNAの1つまたは複数の多型マーカーをスクリーニングする。その後、母体血液サンプルの選択的溶解物から得られる抽出されたDNAについて、母親のDNA抽出物に認められない1つまたは複数の多型マーカーをスクリーニングする。選択溶解物からの抽出物に1つまたは複数の多型マーカーが存在すれば父系遺伝の対立遺伝子が示され、抽出物中に胎児DNAが存在することが確認される。父系遺伝の対立遺伝子の判定には様々な多型マーカーを使用してもよい。プライマーおよびプローブについては、抽出されたDNAにおいて適切な多型マーカーを検出するように設計すればよい。多型マーカーならびに多型マーカーを検出するためのプライマーおよびプローブの例示的なセットは実施例3に記載する。
【0036】
本発明はさらに、被験体から得られる生物学的サンプルから抽出された核酸においてRHD遺伝子の複数のエクソンを検出することにより被験体のRHD遺伝子型を判定する方法を包含する。一実施形態では、この方法は、被験体由来の1つまたは複数の細胞を含む生物学的サンプルから核酸を抽出すること;および前記抽出された核酸においてRHD遺伝子の少なくとも3個のエクソンを検出することを含み、前記エクソンの有無から被験体のRhD遺伝子型が示される。別の実施形態では、前記抽出された核酸においてRHD遺伝子の4個のエクソンを検出する。いくつかの実施形態では、被験体は胎児である。他の実施形態では、生物学的サンプルは胎児細胞を含む母親の生物学的サンプルである。
【0037】
RHD遺伝子の10個のエクソンの任意の組み合わせの検出を使用して被験体のRhD遺伝子型を確認することができる。好ましくは、エクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10の組み合わせを検出する。いくつかの実施形態では、エクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10の4個をすべて検出して被験体のRhD遺伝子型を判定する。RHD遺伝子の3個以上のエクソンの検出では、3種以上のプライマーセットでの3個以上のエクソンの増幅、および3種以上の標識プローブまたは上述の他の任意の方法での3個以上のエクソンの同定を含んでもよい。3種以上のプライマーセットおよび3種以上の標識プローブは、本明細書に記載の本発明のプライマーおよびプローブのいずれであってもよい。
【0038】
本発明はさらに、本明細書に記載の新規なプライマーセットおよび新規なプローブを含むRhDジェノタイピングキットを提供する。一実施形態では、このキットは、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む少なくとも1種のプライマーセット;少なくとも1種の標識プローブ;および生物学的サンプルにおいてRHD遺伝子を検出するための、前記少なくとも1種のプライマーセットおよび前記少なくとも1種のプローブの使用説明書を含み、前記フォワードプライマーおよび前記リバースプライマーは、ヒトRHD遺伝子のエクソンにハイブリダイズする。
【0039】
いくつかの実施形態では、キットは、2種以上のプライマーセットおよび2種以上の標識プローブを含む。他の実施形態では、2種以上のプライマーセットは、ヒトRHD遺伝子の1個のエクソンにハイブリダイズする。なお他の実施形態では、2種以上のプライマーセットは、ヒトRHD遺伝子の2個以上のエクソンにハイブリダイズする。好ましくは、各プライマーセットは、RHD遺伝子のエクソンを増幅するためのフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む。一実施形態では、エクソンは、ヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7またはエクソン10である。別の実施形態では、フォワードプライマーは、配列番号1、配列番号4、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19または配列番号22に記載された配列を含むポリヌクレオチドを含んでもよい。別の実施形態では、リバースプライマーは、配列番号2、配列番号5、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20または配列番号23に記載された配列を含むポリヌクレオチドを含んでもよい。なお別の実施形態では、標識プローブは、配列番号3、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21または配列番号24に記載された配列を含むポリヌクレオチドを含んでもよい。
【0040】
別の実施形態では、キットはさらに、溶解試薬を含む。溶解試薬は、本明細書に記載のものを含む生体細胞を溶解するための溶解試薬(lying reagent)のいずれでもよい。好ましい実施形態では、溶解試薬は、S−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素を含む。別の実施形態では、溶解試薬は、S−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素、ビタミンE、トリトンX−100およびサポニンを含む。なお別の実施形態では、溶解試薬は、S−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素、ビタミンE、サポニン、DMSO、トリトンX−100およびpH7.2〜7.4の緩衝液を含む。キットは、生物学的サンプル中の細胞を溶解し、その後そのライセートからDNA抽出物を調製するための溶解試薬の使用説明書をさらに含んでもよい。別の実施形態では、説明書には、母親の生物学的サンプル中の胎児細胞を選択的に溶解するための、溶解試薬の使用について記載されていてもよい。
【0041】
本発明はさらに、単離された核酸および本明細書に記載の新規なプライマーおよびプローブの様々な組み合わせを含む試薬混合物を企図している。一実施形態では、この試薬混合物は、単離された核酸;各々がフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む、RHD遺伝子の3個以上のエクソンを増幅するための3種以上のプライマーセット;および3種以上の標識プローブを含む。「単離された核酸」とは、被験体の生物学的サンプルから抽出された核酸をいう。単離された核酸は、試薬混合物に含まれる本発明のプライマーによりRHD遺伝子の特定のエクソンを増幅するための鋳型としてもよい。好ましい実施形態では、3個以上のエクソンは、ヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10からなる群より選択される。別の実施形態では、試薬混合物は、単離された核酸;RHD遺伝子の4個のエクソンを増幅するための4種のプライマーセット;および4種の標識プローブを含む。4個のエクソンは、ヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10であってもよい。
【0042】
上記に詳細に記載されているように、本発明の新規なプライマーおよびプローブは、RHD遺伝子の特定のエクソンまたは特定のエクソンの領域を特異的に増幅する。試薬混合物には、前述のプライマーポリヌクレオチドおよびプローブポリヌクレオチドのいずれが含まれていてもよい。いくつかの実施形態では、3種以上のプライマーセットのフォワードプライマーは、配列番号1、配列番号4、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19および配列番号22からなる群より選択される。他の実施形態では、3種以上のプライマーセットのリバースプライマーは、配列番号2、配列番号5、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20および配列番号23からなる群より選択される。なお他の実施形態では、3種以上の標識プローブは、配列番号3、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21および配列番号24からなる群より選択される。
【0043】
以下、別の例により本発明をさらに説明するが、こうした例を限定するものと解釈してはならない。この出願において引用した参考文献、特許および公開された特許出願ならびに図の内容はすべて、参照によってその全体を本明細書に援用する。
【実施例】
【0044】
(実施例)
(実施例1.母体血液ライセートから得られた胎児細胞のRhDジェノタイピング)
蓋をした50mlチューブにおいて妊婦(妊娠8〜12週)由来の血液サンプル(20ml)を溶解試薬(2ml)で穏やかに混合しながら室温で10〜20分間処理した。溶解試薬は、10mMのS−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素(GTMI)、5mMのビタミンE、1%トリトンX−100、0.5%サポニン、2.5%DMSO、0.15MのNaClおよび0.05MのHEPES、pH7.2を含んでいた。次いでチューブを2000gで10分間遠心分離し、上清を別の50mlチューブに移した。この手順を行うことで、母体血液サンプル中に存在する母親の細胞よりも、アポトーシスを起こしやすい胎児細胞の方を優先的に溶解する。参照によってその全体を本明細書に援用する、2007年11月1日に出願された同時係属中の米国特許仮出願第60/984,698号を参照されたい。
【0045】
DNAから任意のタンパク質を分離するため、まず上清をプロテイナーゼK(10mg/ml)で55℃、10分間処理し、続いて溶解緩衝液(5mMのグアニジニウムイソチオシアネート12ml、20%トリトンX−100を含む50mMのトリスHCl(pH7.2)、あるいは12ml、MagNA Pureキット、Roche Diagnosticsのどちらか)および磁性ガラス粒子(MGP:Magnetic Glass Particle)(3ml、MagNA Pureキット)で処理した。よく混合してからチューブを回転ホイールで室温にて20〜30分間回転させた。チューブの上清を磁性ラックに2分間置いてMGPに結合したDNAを集めた。MGPで集めた後、上清を捨て、MGPを洗浄用緩衝液Iで2回、さらに洗浄用緩衝液IIで2回、あるいは洗浄液が透明になるまで洗浄した。MGPを数時間にわたって完全に風乾した。このビーズから溶出緩衝液でDNAを溶出し(2×400μl)、濃度をNanoDrop Spectrophotometer−1000で判定した。溶出したDNAは、下記のような胎児起源および胎児RhD状態を判定するPCR増幅に使用した。
【0046】
特異性を高めるため、RHD遺伝子の4個のエクソン(4、5、7および10)各々に対しプライマーとプローブとのセットを2組作製した。母体血液から抽出したDNAからの胎児RhD状態の確認は、一致する胎児組織でのDNAのリアルタイム−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により行った。既知のRhD陽性およびRhD陰性の個体由来のDNAを対照として使用した。胎児遺伝子型を評価する定量PCR法に使用できる、ヒトRHD遺伝子のエクソンごとに作製したプライマーおよびプローブの配列を以下に示す。
【0047】
【化1】

RT−PCR反応はすべて3連で行った。3反応のうち少なくとも2反応を、胎児RhD遺伝子型判定の前にPCR増幅産物を生じさせるために必要とした。PCR反応混合物の組成およびサイクルプロトコルを以下に示す。RT−PCR反応の実施および分析はすべてABI社の7900HT Fast Real−Time PCR Systemにより行った。
【0048】
【化2】

RT−PCRの結果は、PCR反応ごとにサイクル閾値(Ct:cycle threshold)に基づいて表にした。初期DNA鋳型の量が多いほど、Ct値は低くなる。低いCt値(<30)は母親のRhD陽性状態を示す(RHD遺伝子の非機能的な遺伝的改変体の存在によりサンプルの1〜3%で母親のDNAから陽性シグナルを得た)。高いCt値(34〜43)から、陽性胎児RhD状態が診断されるだけでなく、ライセートに胎児DNAが存在することも確認した。鋳型(抽出された)DNAの増幅がないとき、機能的なD抗原がない胎児(すなわち胎児のRhD陰性)と解釈し、これは、対応する胎児組織から抽出されたDNAのRT−PCRにより確認した。表1は、16例のRhD陰性母体血液サンプルから抽出されたDNAのRT−PCRのCt値を示す。その結果を表2にまとめてある。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

(実施例2.RhDエクソンプライマーセットのバリデーション)
RhD陰性の母親由来の選択溶解血液でのRT−PCR増幅を行った際に、37を超える高いCt値が認められることもあった。RhDプライマーにより作製された単位複製配列のこうした高いCt値が実際に少量のRhD陽性胎児DNAの存在に対応するPCR産物を反映するものであることを確認するため、PCR産物のサイズをゲル電気泳動により調査し、その後RhD遺伝子座が間違いなく増幅されていたかを確認するため配列決定を行った。
【0051】
実施例1に記載した方法に従って、RhD陽性胎児(サンプル14180または14202)を妊娠しているRhD陰性の母親の血液サンプルを溶解させた。溶解後、Roche MagNA Pureキットを使用してDNAを単離した。Taqman Universal Master Mix(Applied Biosystems)と実施例1に記載したRhDプライマーセット4.2、4.3、5、5.2、7、7.3、10および10.1とを使用してABI社の7900HT RT−PCR SystemでリアルタイムPCRを行った。すべてのプライマーセットでDNA鋳型なしの対照(NTC:no DNA template control)を実行したところ、増幅を示すものではない、特定されないCt値を常に得た。次いで1.5%アガロースゲルあるいは4.5%アガロースMS−8ゲルで高いCt(>37)PCR反応物およびNTCを流し、マーカーとして既知のDNAラダーを基準に単位複製配列のサイズを評価した。すべてのRhDプライマーから得られた全PCR産物で、予想された単位複製配列サイズ、58〜83bp長を観察した。
【0052】
予想された単位複製配列のバンドをゲルから抽出後、フォワードあるいはリバースPCRプライマーのどちらかを使用して単位複製配列の配列決定を直接行った。シーケンシングは、San DiegoのRetrogenが行った。得られたシーケンシングデータが不確定である場合、単位複製配列をpCR4−TOPOベクター(Invitrogen)にクローニングし、T3プライマーを使用して配列決定を行った。8個の単位複製配列のうち6個は直接配列決定ができたのに対し、残りの2個はpCR4−TOPOベクターから配列決定を行う必要があった。BLASTアルゴリズムを使用して、単位複製配列ごとに得られた配列をGenBank配列データベース(NCBI)で公表されている配列と比較した。各プライマーセットについては以下で検討する。黒文字のDNA配列は、実験で得られた単位複製配列の配列を表す。赤文字のDNA配列は、GenBankで公表されている配列(以下Gene Bankと表示)である。すべての場合において、PCRの単位複製配列の配列はRhD遺伝子座に100%一致した。
【0053】
(Rh(D)プライマーセット4.2(エクソン4))
図2Aは、プライマーセット4.2で増幅されたサンプル14202を示す(Ct40.2)。観察された3つのPCR産物を、pCR4−TOPOに別々にクローニングし、配列決定を行った。一番上のバンドは70bpの単位複製配列に正確に対応しており、BLASTによりRhD遺伝子座と同定した。
【0054】
【化3】

(Rh(D)プライマーセット4.3(エクソン4))
図2Bは、RhDプライマーセット4.3で増幅されたサンプル14202の電気泳動ゲルを示す(Ct40.4)。
【0055】
【化4】

(Rh(D)プライマーセット5(エクソン5))
図3Aは、RhDプライマーセット5で増幅されたサンプル14180の電気泳動ゲルを示す(最後の2レーン)(Ct39.3)。
【0056】
【化5】

(Rh(D)プライマーセット5.2(エクソン5))
図3Bは、RhDプライマーセット5.2によるサンプル14180の増幅を示す(最後の2レーン)(Ct35)。
【0057】
【化6】

(Rh(D)プライマーセット7(エクソン7))
図4Aは、RhDプライマーセット7で増幅されたサンプル14202の電気泳動ゲルを示す(最後の3レーン)(Ct37.3)。4.5%MS8アガロースゲル上に約53および58bpというサイズが近い2個の単位複製配列が目視可能である。この2つの産物をどちらも別々にTAクローニングベクターにクローニングし、複数のクローンの配列決定を行った。配列決定したクローンはすべて、間違いなく同一の58bpの単位複製配列であることを明らかにし、これを、BLASTによりRhD遺伝子座と同定した。
【0058】
【化7】

(Rh(D)プライマーセット7.3(エクソン7))
図4Bは、RhDプライマーセット7.3で増幅されたサンプル14202の電気泳動による分析を示す(最後の2レーン)(Ct38.2)。BLASTによりRhD遺伝子座と同定された約61bpの単位複製配列が1個存在した。
【0059】
【化8】

(Rh(D)プライマーセット10および10.1)
図5は、RhDプライマーセット10(Ct42.1、最後の2レーン、59bp)および10.1(10H;Ct37.7、最初の2レーン、74bp)で増幅されたサンプル14180を示す。プライマーセット10.1および10の約74bpおよび59bpの単位複製配列をそれぞれ、BLASTによりRhD遺伝子座と同定した。
【0060】
【化9】

表3にまとめたこれらの実験結果から、RhDプライマーで行ったリアルタイムPCRから得られたCt値42.1までのCtが高いPCR産物はすべて、本物の増幅産物であることを確認する。
【0061】
【表3】

(実施例3−母体血液サンプル中の胎児DNAの存在の判定)
(胎児RhD陰性男性サンプル)
この実施例に記載した実験の目的は、母体血液サンプルから調製したライセートに胎児DNAが存在することを確認することであった。RhD陰性の母親の血液由来の胎児RhDが陽性であれば、母親のサンプルに胎児DNAが存在する診断指標となると考えた。胎児RhD状態が陰性である場合、DNAの胎児起源を、まず、Y染色体上のSRY(性決定領域)およびFCY遺伝子座を増幅するように設計されたプライマーおよびプローブを使用してRT−PCRで胎児の性別を判定することにより確認した。使用したFCYプライマーおよびプローブについては、以前文献(D.Bianchi,et al.,(2001)Clin.Chem.,Vol.47:1867)に報告された。さらに胎児の性別は、Y染色体上のDAZ(deleted in azoospermia:無精子症で欠失)遺伝子を増幅するために作製された新規なプライマーおよびプローブによっても判定した。βグロビン遺伝子をハウスキーピング遺伝子として、さらに既知の男性DNAを陽性対照として、女性DNAを陰性対照として使用した。SRY陽性サンプルのCt値は32〜37.5の範囲であったのに対し、FCY陽性サンプルのCt値は32〜38であった。DAZ陽性サンプルのCt値は30〜35の範囲であり、このことは、DAZプライマーおよびプローブの方が、SRYおよびFCYプライマー/プローブより感度が高いことを示した。βグロビンの値は24〜32の範囲であった。SRY、FCY、DAZおよびβグロビン遺伝子のプライマーおよびプローブの配列を以下に示す。
【0062】
【化10】

(胎児RhD陰性女性サンプル)
父親から胎児に遺伝した対立遺伝子を増幅するように設計された16組の多型マーカーを使用して、RhD陰性、かつY染色体遺伝子陰性でもあったサンプルをRT−PCRにより分析した(M.Alizadeh,et al.,(2002),Blood,Vol.99:4618)。最初にこれらの2対立遺伝子(bi−allelic)マーカーについて母親のDNAを検査した。次いで母親のDNAで陰性であったこれらのマーカーについて胎児のDNAを検査した。胎児のDNAに対立遺伝子が存在し、母親のゲノムに同じ対立遺伝子が存在しないことは、対立遺伝子が父親から胎児に遺伝したことを示した。これらのマーカーの検出用のプライマーおよびプローブの配列を以下に示す。
【0063】
【化11】

【0064】
【化12】

【0065】
【化13】

Ct値が43と高い単位複製配列のシーケンシングは、こうしたCtの高い単位複製配列が実際に本物のPCR産物であることを疑いの余地なく示している(データ示さず)。これらの実験結果から、実施例1に記載されているように母体血液サンプルの選択的溶解により胎児DNAを抽出できること、さらにこの単離されたDNAを使用して胎児のRhD遺伝子型を正確に予測できることを明らかにする。
【0066】
(実施例4−RhD遺伝子の特定のエクソンを増幅するための新規なプライマーおよびプローブ)
本実施例は、ヒトRhD遺伝子の特定のエクソンを増幅および検出するための別の新規なプライマーおよびプローブ配列について記載する。こうしたプローブおよびプライマーの配列を、被験体のRhD遺伝子型を判定する方法、特にRT−PCRをベースとした方法において使用する。
【0067】
【化14】

【0068】
【化15】

【0069】
【化16】

【0070】
【化17】

開示された発明は、記載した特定の方法論、プロトコルおよび材料が変化しても構わないため、それらに限定されるものではないことが理解される。また、本明細書に使用した用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解される。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0071】
当業者であれば、本明細書に記載した本発明の具体的な実施例に対する等価物を数多く認識するか、あるいはごく通常の実験を用いるのみで確認することができる。そのような等価物は以下の特許請求の範囲の包含するところとして意図されている。
【図3A】

【図3B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号10、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号17、配列番号19、配列番号20、配列番号22および配列番号23からなる群より選択される配列を含む単離されたポリヌクレオチドであって、前記単離されたポリヌクレオチドが50未満の塩基を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドがヒトRHD遺伝子のエクソンにハイブリダイズする、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号3、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21および配列番号24からなる群より選択される配列を含む単離されたポリヌクレオチドであって、前記単離されたポリヌクレオチドが50未満の塩基を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
レポーター分子が前記ポリヌクレオチドの5’末端に結合し、クエンチャー分子が前記ポリヌクレオチドの3’末端に結合する、請求項3に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドがヒトRHD遺伝子のエクソンを検出する、請求項3に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号31、配列番号32または配列番号33に記載された配列を含む単離されたポリヌクレオチドであって、前記単離されたポリヌクレオチドが50未満の塩基を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチドがヒトY染色体を検出する、請求項6に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
フォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む少なくとも1種のプライマーセット、
少なくとも1種の標識プローブ、および
生物学的サンプルにおいてRHD遺伝子を検出するための、前記少なくとも1種のプライマーセットおよび前記少なくとも1種のプローブの使用説明書
を含み、前記フォワードプライマーおよび前記リバースプライマーがヒトRHD遺伝子のエクソンにハイブリダイズする、RhDジェノタイピングキット。
【請求項9】
前記エクソンがヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7またはエクソン10である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記エクソンがエクソン4である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記フォワードプライマーが配列番号1または配列番号4であり、前記リバースプライマーが配列番号2または配列番号5である、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記少なくとも1種の標識プローブが配列番号3または配列番号6である、請求項10に記載のキット。
【請求項13】
前記エクソンがエクソン5である、請求項9に記載のキット。
【請求項14】
前記フォワードプライマーが配列番号7または配列番号10であり、前記リバースプライマーが配列番号8または配列番号11である、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記少なくとも1種の標識プローブが配列番号9または配列番号12である、請求項13に記載のキット。
【請求項16】
前記エクソンがエクソン7である、請求項9に記載のキット。
【請求項17】
前記フォワードプライマーが配列番号13または配列番号16であり、前記リバースプライマーが配列番号14または配列番号17である、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記少なくとも1種の標識プローブが配列番号15または配列番号18である、請求項16に記載のキット。
【請求項19】
前記エクソンがエクソン10である、請求項9に記載のキット。
【請求項20】
前記フォワードプライマーが配列番号19または配列番号22であり、前記リバースプライマーが配列番号20または配列番号23である、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記少なくとも1種の標識プローブが配列番号21または配列番号24である、請求項19に記載のキット。
【請求項22】
前記キットが2種以上のプライマーセットおよび2種以上の標識プローブを含む、請求項8に記載のキット。
【請求項23】
前記2種以上のプライマーセットがヒトRHD遺伝子の1個のエクソンにハイブリダイズする、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記2種以上のプライマーセットがヒトRHD遺伝子の2個以上のエクソンにハイブリダイズする、請求項22に記載のキット。
【請求項25】
溶解試薬をさらに含む、請求項8に記載のキット。
【請求項26】
前記溶解試薬がS−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素を含む、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記溶解試薬がS−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素、ビタミンE、サポニン、DMSO、トリトンX−100およびpH7.2〜7.4の緩衝液を含む、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
被験体のRhD遺伝子型を判定する方法であって、前記方法は、
前記被験体由来の1つまたは複数の細胞を含む生物学的サンプル中の細胞を溶解させて溶解混合物を形成する工程、
前記溶解混合物から核酸を抽出する工程、および
前記抽出された核酸においてRHD遺伝子の少なくとも1個のエクソンを検出する工程
を含み、ここで、前記エクソンの有無から前記被験体のRhD遺伝子型が示される、方法。
【請求項29】
前記被験体が胎児である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記生物学的サンプルが胎児細胞を含む母親の生物学的サンプルである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記母親の生物学的サンプルが全血サンプルである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記胎児細胞が母親の細胞よりも優先的に溶解させられる、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
細胞を溶解させる前記工程が、前記母親の生物学的サンプルを溶解試薬と一定の時間接触させる工程を含み、前記溶解試薬がS−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記溶解試薬がS−(2−グアニジノ−4−チアゾイル)−メチル−イソチオ尿素、ビタミンE、サポニン、トリトンX−100、DMSOおよびpH7.2〜7.4の緩衝液を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記時間が約10分から約30分である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
RHD遺伝子の少なくとも1個のエクソンの前記検出が、前記少なくとも1個のエクソンを1種または複数種のプライマーセットで増幅する工程、および前記少なくとも1個のエクソンを1種または複数種の標識プローブで同定する工程を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
前記1種または複数種のプライマーセットがフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記少なくとも1個のエクソンがヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7またはエクソン10である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記少なくとも1個のエクソンがエクソン4である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記フォワードプライマーが配列番号1または配列番号4であり、前記リバースプライマーが配列番号2または配列番号5である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記1種または複数種の標識プローブが配列番号3または配列番号6である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記少なくとも1個のエクソンがエクソン5である、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
前記フォワードプライマーが配列番号7または配列番号10であり、前記リバースプライマーが配列番号8または配列番号11である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記1種または複数種の標識プローブが配列番号9または配列番号12である、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記少なくとも1個のエクソンがエクソン7である、請求項38に記載の方法。
【請求項46】
前記フォワードプライマーが配列番号13または配列番号16であり、前記リバースプライマーが配列番号14または配列番号17である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記1種または複数種の標識プローブが配列番号15または配列番号18である、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記少なくとも1個のエクソンがエクソン10である、請求項38に記載の方法。
【請求項49】
前記フォワードプライマーが配列番号19または配列番号22であり、前記リバースプライマーが配列番号20または配列番号23である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記1種または複数種の標識プローブが配列番号21または配列番号24である、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
2種以上のプライマーセットが前記少なくとも1個のエクソンを増幅するために使用され、2種以上の標識プローブが前記少なくとも1個のエクソンを同定するために使用される、請求項36に記載の方法。
【請求項52】
前記2種以上のプライマーセットがヒトRHD遺伝子の1個のエクソンを増幅する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記2種以上のプライマーセットがヒトRHD遺伝子の2個以上のエクソンを増幅する、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記抽出された核酸において胎児DNAの存在を確認する工程をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項55】
胎児DNAの存在を確認する前記工程がY染色体を検出する工程を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記Y染色体が、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む1種または複数種のプライマーセットで前記Y染色体上にある遺伝子を増幅する工程、および、前記遺伝子を1種または複数種の標識プローブで同定する工程により検出される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記Y染色体上にある前記遺伝子がSRY、FCYおよびDAZからなる群より選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記遺伝子がDAZである、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記フォワードプライマーが配列番号31であり、前記リバースプライマーが配列番号32である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記1種または複数種の標識プローブが配列番号33である、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
胎児DNAの存在を確認する前記工程が父系遺伝の対立遺伝子を検出する工程を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
被験体のRhD遺伝子型を判定する方法であって、前記方法は、
前記被験体由来の1つまたは複数の細胞を含む生物学的サンプルから核酸を抽出する工程、および
前記抽出された核酸においてRHD遺伝子の少なくとも3個のエクソンを検出する工程
を含み、ここで、前記エクソンの有無から前記被験体のRhD遺伝子型が示される、方法。
【請求項63】
RHD遺伝子の少なくとも3個のエクソンの前記検出が、前記少なくとも3個のエクソンを3種以上のプライマーセットで増幅する工程、および前記少なくとも3個のエクソンを3種以上の標識プローブで同定する工程を含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記少なくとも3個のエクソンがヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10からなる群より選択される、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
RHD遺伝子の4個のエクソンが、前記抽出された核酸において検出される、請求項62に記載の方法。
【請求項66】
前記4個のエクソンがヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10である、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記被験体が胎児である、請求項62に記載の方法。
【請求項68】
前記生物学的サンプルが胎児細胞を含む母親の生物学的サンプルである、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記抽出された核酸において胎児DNAの存在を確認する工程をさらに含む、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
胎児DNAの存在を確認する前記工程がY染色体を検出する工程を含む、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記Y染色体が、前記Y染色体上にある遺伝子を1種または複数種のプライマーセットで増幅する工程、および、前記遺伝子を1種または複数種の標識プローブで同定する工程により検出される、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記Y染色体上にある前記遺伝子がSRY、FCYおよびDAZからなる群より選択される、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
胎児DNAの存在を確認する前記工程が父系遺伝の対立遺伝子を検出する工程を含む、請求項69に記載の方法。
【請求項74】
単離された核酸、各々がフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む、RHD遺伝子の3個以上のエクソンを増幅するための3種以上のプライマーセット、ならびに3種以上の標識プローブを含む、試薬混合物。
【請求項75】
前記3個以上のエクソンがヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10からなる群より選択される、請求項74に記載の試薬混合物。
【請求項76】
前記3種以上のプライマーセットの前記フォワードプライマーが配列番号1、配列番号4、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19および配列番号22からなる群より選択される、請求項75に記載の試薬混合物。
【請求項77】
前記3種以上のプライマーセットの前記リバースプライマーが配列番号2、配列番号5、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20および配列番号23からなる群より選択される、請求項75に記載の試薬混合物。
【請求項78】
前記3種以上の標識プローブが配列番号3、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21および配列番号24からなる群より選択される、請求項75に記載の試薬混合物。
【請求項79】
前記混合物が、単離された核酸、RHD遺伝子の4個のエクソンを増幅するための4種のプライマーセット、および4種の標識プローブを含む、請求項74に記載の試薬混合物。
【請求項80】
前記4個のエクソンがヒトRHD遺伝子のエクソン4、エクソン5、エクソン7およびエクソン10である、請求項79に記載の試薬混合物。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−528554(P2011−528554A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518950(P2011−518950)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/051061
【国際公開番号】WO2010/009440
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】