説明

毛髪成分流出防止剤

【課題】損傷毛髪からの毛髪成分の流出を防止し、毛髪の触感を改善することのできる、毛髪成分流出防止剤を提供する。
【解決手段】ケラチン、アミノ酸、および、メラニンを含む色素成分の流出を防止する毛髪成分流出防止剤は、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、および硫酸マグネシウムからなる群より選択される水溶性の軽金属塩と、重量平均分子量が、1,000〜100,000であるセリシン加水分解物と、水とを必須成分として含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は毛髪成分流出防止剤に関する。詳しくは、本発明は、損傷毛髪からの毛髪成分の流出を防止し、損傷毛髪の触感を改善することが可能な、毛髪成分流出防止剤に関する。
【0002】
背景技術
毛髪は、洗髪、ブラッシング、ドライヤー等の物理的処理や、乾燥、紫外線などの環境ストレスによって、常に損傷を受けている。また、ブリーチ、パーマネントウェーブ、カラーリング、縮毛矯正などの化学的処理によって、毛髪の損傷は著しく進行する。その他、加齢に伴って毛根細胞におけるタンパク質合成能力が衰えた場合にも、毛髪は弱体化し、物理的あるいは化学的処理によって損傷しやすくなる。このような種々の要因により損傷した毛髪は、一般的に、「損傷毛髪」または「ダメージヘア」と呼ばれている。
【0003】
損傷毛髪を洗髪すると、タンパク質やアミノ酸、ミネラル、脂質、色素成分などの毛髪成分が、毛髪から流出することが知られている。このような毛髪成分の流出は、毛髪の弱体化と損傷を著しく加速する。このため、損傷毛髪では、しばしば、パサツキ感やゴワツキ感が生じて毛髪の触感が悪化したり、毛髪の美しさが損なわれたりする。
【0004】
したがって、毛髪の損傷を防止し、美しい髪を維持するために、損傷毛髪からの毛髪成分の流出を防止する技術が求められていた。
【0005】
毛髪の損傷の防止や触感の改善等を目的とした従来技術として、金属塩を毛髪化粧料等に配合することが知られている。
例えば、特開平8−53325号公報(特許文献1)には、毛髪の水分保持能を高めることによって、毛髪に滑らかさを付与し毛髪の損傷を抑えるものとして、マグネシウム化合物と陽イオン性界面活性剤を配合することを特徴とする毛髪化粧料が開示されている。
【0006】
国際公開第2003/70206号パンフレット(特許文献2)には、パーマ処理にともなう毛髪の損傷を防止するものとして、二価金属イオンまたは金属塩を含む動物繊維保護用処理剤が開示されている。
【0007】
特開平7−2627号公報(特許文献3)には、毛髪に良好な触感をもたらし、かつ長期間にわたり弾力性と光沢を付与し続けるものとして、二価金属塩とアルコール類またはエーテル類とを含有する毛髪用コンディショニング組成物が開示されている。
【0008】
特許第3793492号公報(特許文献4)には、毛髪のパサツキを抑え、弾力性を付与するものとして、アルミニウム化合物と、シリコーン類と、カチオン性化合物とを含有する水性の毛髪化粧料組成物が開示されている。
【0009】
しかしながら、これら先行技術文献に開示されている毛髪化粧料、処理剤、コンディショニング剤等は、毛髪の水分保持能を高めたり、パーマ処理のような熱処理への耐性をもたらしたり、毛髪に光沢や弾力性をもたらしたりするものであって、損傷毛髪からの毛髪成分の流出と、その防止という観点で検討されたものではなかった。このため、これら文献による場合では、本発明者らが求める毛髪成分流出防止効果の観点からは十分ではなく、また、毛髪の触感の改善効果も、本発明者らが想定する消費者が十分満足するレベルには、至っていないと考えられた。
【0010】
一方で、損傷毛髪にタンパク加水分解物を作用させて、損傷を防止または改善する技術が知られている。
【0011】
例えば、特開2003−267845号公報(特許文献5)には、損傷を受けた毛髪を回復させ、かつ毛髪に滑らかさを付与することができるものとして、加水分解シルクまたはその誘導体とカルボキシメチルキチンとセリシンとを含有することを特徴とする毛髪処理剤が開示されている。
【0012】
しかしながら、この先行技術文献に開示されている毛髪処理剤であっても、損傷毛髪からの毛髪成分の流出を防止する効果は、本発明者らにとって必ずしも満足できるものではなく、毛髪の触感の改善効果も、本発明者らが想定する消費者が十分満足するレベルには、至っていないと考えられた。
【0013】
特開2006−131579号公報(特許文献6)には、損傷した毛髪内部のタンパク質を接着し、水中での膨潤を抑制することで、損傷毛髪からのタンパク質の流出を抑制し、毛髪の損傷を補修する、損傷毛髪改善剤が開示されている。ここでは、損傷毛髪改善剤としてセリシンが使用できることも開示されている。
【0014】
また、特開2007−15936号公報(特許文献7)には、毛髪の膨潤を抑えて毛髪内部タンパク質の溶出を防止するものとして、二塩基酸ジエステル化合物とセリシンを含有することを特徴とする毛髪化粧料が開示されている。
【0015】
しかしながら、これら文献では、損傷毛髪におけるタンパク質の流出のみに着目するものであって、他の毛髪成分、例えば色素成分等の流出防止に関しては何ら検討されていない。このため、本発明者らが期待する毛髪成分流出防止効果としては、これら文献によるものでは十分とは言えない。
【0016】
【特許文献1】特開平8−53325号公報
【特許文献2】国際公開第2003/70206号パンフレット
【特許文献3】特開平7−2627号公報
【特許文献4】特許第3793492号公報
【特許文献5】特開2003−267845号公報
【特許文献6】特開2006−131579号公報
【特許文献7】特開2007−15936号公報
【発明の概要】
【0017】
本発明者らは今般、水溶性の軽金属塩と、セリシン加水分解物とを同時に、損傷毛髪に作用させることにより、損傷毛髪からの毛髪成分の流出を効果的に防止すると同時に、損傷毛髪の触感を大幅に改善できることを見出した。特に、水溶性の軽金属塩と、セリシン加水分解物とを組み合わせて使用することで、タンパク質、アミノ酸、色素成分などの各種の毛髪成分の流出防止を同時に達成でき、併せて損傷毛髪の触感、まとまり感、ツヤ等を大幅に改善できることは、予想外のものであった。特に、奏される効果は、個々の使用成分から予想される効果を超える相乗的なものであり、この点も予想外のことであった。
本発明はかかる知見に基づくものである。
【0018】
本発明は、損傷毛髪からの毛髪成分の流出を防止し、毛髪の触感を改善することのできる、毛髪成分流出防止剤を提供することをその目的とする。
【0019】
本発明による毛髪成分流出防止剤は、水溶性の軽金属塩と、セリシン加水分解物と、水とを必須成分として含んでなることを特徴とする。
【0020】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記毛髪成分流出防止剤における水溶性の軽金属塩は、アルミニウム塩、およびマグネシウム塩からなる群より選択される1種または2種以上のものである。
【0021】
本発明の一つのより好ましい態様によれば、前記水溶性の軽金属塩は、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、および硫酸マグネシウムからなる群より選択される1種または2種以上のものである。
【0022】
本発明の別の一つの好ましい態様によれば、前記毛髪成分流出防止剤におけるセリシン加水分解物の重量平均分子量は、1,000〜100,000である。
【0023】
本発明のさらに別の一つの好ましい態様によれば、前記セリシン加水分解物は、グリシン、セリン、スレオニン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、およびリジンからなる群より選択される2種以上のアミノ酸を含み、かつ加水分解物のアミノ酸組成における前記アミノ酸の合計の割合が50モル%以上である。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、本発明による毛髪成分流出防止剤は、毛髪からの、ケラチン、アミノ酸、および、メラニンを含む色素成分の流出を防止するために用いられる。また本発明による毛髪成分流出防止剤は、損傷毛髪の毛髪成分流出防止に有利に用いられる。
【0025】
本発明の毛髪成分流出防止剤によれば、損傷毛髪からの毛髪成分の流出を効率的に防止し、毛髪の触感を大幅に改善することができる。本発明による毛髪成分流出防止剤は、毛髪の損傷に伴って増大する毛髪成分の流出、特に毛髪からの色素成分の流出を防止する効果に優れるとともに、損傷毛髪に滑らかさを付与して毛髪の触感を大幅に改善するものであり、損傷毛髪のケアに極めて有効である。
【発明の具体的説明】
【0026】
毛髪成分流出防止剤
本発明による毛髪成分流出防止剤は、前記したように、(A)水溶性の軽金属塩と、(B)セリシン加水分解物と、(C)水とを必須成分として含んでなることを特徴とする。
【0027】
本発明において「毛髪成分」とは、毛髪を構成する成分のことであり、例えばケラチンなどのタンパク質、アミノ酸、アミノ酸誘導体、メラニンなどの色素成分、脂質、多糖類、無機塩類などが包含され、好ましい態様によれば、ケラチン、アミノ酸、および、メラニンを含む色素成分が包含される。これら成分の毛髪からの流出については、慣用の方法、または、後述する実施例に記載の各方法にしたがって測定することができる。
【0028】
ここで、「必須成分として含んでなる」とは、本発明による毛髪成分流出防止剤が、上記成分(A)、(B)および(C)を、所望の毛髪成分流出防止効果を発揮するのに充分な量(すなわち、有効量)で必然的に含むことを意味し、その限りにおいて、必要により他の成分を含んでも良いことを意味する。
【0029】
メラニンなどの色素成分は、毛髪内でタンパク質と強固に結合し複合体を形成していると考えられている(例えば、「最新の毛髪科学」、フレグランスジャーナル社(2003)を参照のこと)。したがって、これらの色素成分の流出は、通常、毛髪に大きなダメージを与えることとなる。またメラニンなどの色素成分は、アミノ酸や脂質などとは異なり、構造が複雑で分子量も大きいことから、毛髪から流出してしまうと、外部から毛髪に補充することは極めて困難である。通常、損傷毛髪では、色素成分が流出し易くなり、色素成分の流出によって、ダメージの進行がさらに一段と加速するという悪循環が起こる。この結果、毛髪の触感が悪化し、毛髪の美しさが損なわれるという問題が生じる。したがって、損傷毛髪のケアにおいて、メラニンなどの色素成分の流出を防止することは、極めて重要である。
【0030】
本発明者らは今般、毛髪から流出する色素成分に着目して検討を行ったところ、毛髪の損傷に比例して、色素成分の流出量が増大することが実験的に明らかとなった。さらに、流出した色素成分を含む水溶液の可視光波長領域における吸光度を測定することによって、色素成分の流出量を数値化し、これによって色素成分流出防止効果を客観的かつ明確に評価することにも成功した。本発明はまた、このような知見にも基づいている。
【0031】
(A) 水溶性の軽金属塩
本発明における「水溶性の軽金属塩」の「軽金属」とは、比重が4ないし5以下の比較的密度の低い金属のことを言い、例えば、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、チタン等が包含される。「水溶性の軽金属塩」とは、このような軽金属の水溶性塩であって、水溶液中で2価以上の金属イオンを放出し得るものをいい、例えば、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩などが包含される。「水溶性の軽金属塩」としては、これらを2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明においては、毛髪に対する効果、入手の容易さ、安全性および製剤化した際の安定性の観点から、水溶性の軽金属塩として、アルミニウム塩、マグネシウム塩からなる群より選択される1種または2種以上のものが好ましく用いられる。
【0033】
ここで、「水溶性の軽金属塩」の「塩」としては、水溶性であれば特に制限されるものでなく、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩などが包含される。本発明においては、水溶液の安定性が高く、毛髪に対する効果が優れていることから、該塩としては、塩酸塩または硫酸塩が好ましい。
【0034】
本発明の好ましい態様によれば、水溶性の軽金属塩は、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、および硫酸マグネシウムからなる群より選択される1種または2種以上のものである。より好ましくは、塩化アルミニウム、および/または、硫酸マグネシウムである。
【0035】
水溶性の軽金属塩から放出された2価以上の金属イオンは、セリシン加水分解物、および、毛髪成分であるケラチンや色素成分と、電気的に相互作用し、毛髪表面および毛髪内部において、各成分の分子間に安定な架橋構造を形成すると考えられる。この結果、毛髪成分の流出を防止する効果が相乗的に高まるとともに、毛髪に滑らかで良好な触感を付与する効果が得られると考えられる。なおこれら作用メカニズムに関する説明は、一つの理論的考察であって、本発明を限定するものではない。
【0036】
本発明の毛髪成分流出防止剤における水溶性の軽金属塩の含有量は、該流出防止剤全量に対し、好ましくは0.05〜10重量%であり、より好ましくは0.1〜5重量%であり、さらに好ましくは0.5〜3重量%である。前記含有量が0.05重量%未満であると、毛髪の構造を安定化させる能力が低下し、本発明の毛髪成分の流出を防止する効果が十分に得られない虞がある。また該含有量が10重量%を超えても毛髪成分流出防止効果は得られるが、毛髪表面に電気的に結合する金属イオンが多くなり、ゴワツキ感を生じて毛髪の滑らかさが低下する虞がある。
【0037】
(B) セリシン加水分解物
本発明における「セリシン加水分解物」は、繭糸に存在する天然タンパク質セリシンを、慣用の方法で加水分解して溶出させ、得られるものである。
より具体的には、セリシン加水分解物は、蚕繭、生糸などの原料を、例えば、塩酸、硫酸、リン酸などを使用した酸加水分解法、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを使用したアルカリ加水分解法、または、微生物や植物由来のプロテアーゼを使用した酵素分解法に付すことにより、原料中のセリシンを加水分解して溶出し、得ることができる。これを公知のタンパク質分離精製手法に従って精製することによって、高純度のセリシン加水分解物の水溶液を得ることができる。さらに、熱風乾燥、減圧乾燥、または凍結乾燥などの処理に付して乾燥させ、固体としてもよい。
【0038】
本発明において、セリシン加水分解物は、後述のように損傷毛髪から流出するアミノ酸を多く含むものであると、毛髪との親和性が高く相互作用しやすいため、本発明の効果をより高めることができ、有利である。
【0039】
本発明者らは今般、損傷毛髪から流出する成分に含まれるアミノ酸について検討を行ったところ(後述する実施例を参照のこと)、損傷毛髪を水に浸漬した場合に、水中に流出する成分には、グリシン、セリン、スレオニン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、リジンが多く含まれていることが実際に明らかとなった。また、毛髪から流出するアミノ酸全体に対するこれらのアミノ酸の合計の割合は、50モル%以上であることが明らかとなった。中でも、グリシン、セリンの割合が多く、毛髪から流出するアミノ酸全体に対するこれら2種のアミノ酸の合計の割合は、20モル%以上であった。
【0040】
また、損傷毛髪から流出する成分の分子量は、約15,000以下であることが明らかとなった。
【0041】
毛髪から流出するこれらの成分は、本来はキューティクルやコルテックス、メデュラの構成成分であり、電気的相互作用や水素結合によって、毛髪の構造安定化や、色素成分などの毛髪成分の流出防止に関与しているものと考えられる。本発明はまた、このような知見にも基づいている。
なおこれら作用メカニズムに関する説明は、一つの理論的考察であって、本発明を限定するものではない。
【0042】
したがって、本発明において用いられるセリシン加水分解物は、前記アミノ酸の群、すなわちグリシン、セリン、スレオニン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、およびリジンからなる群、より選択される2種以上を含み、かつ、加水分解物のアミノ酸組成におけるこれらのアミノ酸の合計の割合が50モル%以上であるものが好ましい。
【0043】
本発明によれば、セリシン加水分解物が、毛髪を構成しているケラチン等と強固で安定な水素結合を形成することによって、損傷毛髪の構造を安定化させ、本発明の毛髪成分流出防止効果を相乗的に高めると同時に、損傷毛髪に滑らかさを付与し、触感を改善することができると考えられる。なおこれら作用メカニズムに関する説明は、一つの理論的考察であって、本発明を限定するものではない。
【0044】
本発明において、セリシン加水分解物は、分子量15,000以下のポリペプチドを含むものであることが好ましい。さらに本発明のより好ましい態様によれば、毛髪内部および表面に作用させるという点から、該セリシン加水分解物の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜100,000であり、より好ましくは3,000〜70,000であり、さらに好ましくは10,000〜50,000である。前記重量平均分子量が1,000未満であると、ペプチド鎖が短いため毛髪内部への浸透は容易になるが、分子間の相互作用が弱く毛髪への結合力が小さくなり、毛髪に対する効果が十分に得られず、かつその持続性も不十分となる虞がある。該重量平均分子量が100,000を超えると、毛髪表面での皮膜性が高まるが、毛髪内部への浸透が阻害されたり、水溶性が低下するため製剤化した際の安定性が低下したりするため、本発明の効果が十分に得られない虞がある。
【0045】
本発明の毛髪成分流出防止剤におけるセリシン加水分解物の含有量は、求められる使用感に応じて適宜変更することができる。本発明の好ましい態様によれば、該含有量は、該流出防止剤全量に対し、好ましくは0.01〜20重量%であり、より好ましくは0.05〜10重量%であり、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。前記含有量が0.01重量%未満であると、ペプチド分子間の相互作用が弱く、毛髪に対する効果が十分に得られない虞がある。また該含有量が20重量%を超えると、毛髪に塗布した際に、ベタツキ感やゴワツキ感などの好ましくない触感を与える虞がある。
【0046】
(C)水
本発明において、成分(C)の水は、前記(A)および(B)の各成分の溶媒として、本発明の毛髪成分流出防止剤を水溶液または乳化物とするために配合される。
【0047】
(D)他の成分および条件
本発明による毛髪成分流出防止剤のpHは、好ましくは2〜8であり、より好ましくは2.5〜7であり、さらに好ましくは3〜6である。前記pHが2に満たない酸性側であると、毛髪成分流出防止剤が頭皮に付着した際の皮膚刺激が予想されうる。該pHが8を超えてアルカリ性側であると、毛髪を構成しているケラチンの分解が促進されるなどの、毛髪への悪影響が懸念される。
【0048】
一般的に毛髪は、酸性領域で安定性が高いと考えられているが、多くのタンパク加水分解物は、酸性領域に等電点を有し、酸性側では溶液安定性が低い。このため、毛髪が安定な酸性領域で、タンパク加水分解物を毛髪に作用させることは困難であった。一方、本発明の毛髪成分流出防止剤では、水溶性の軽金属塩が、共存するタンパク加水分解物の等電点沈殿を抑制できるため、酸性領域におけるタンパク加水分解物の溶液安定性を高めることができる。したがって、本発明の毛髪成分流出防止剤は、共存するセリシン加水分解物を酸性領域で効率良く毛髪に作用させることができるという利点も備えている。
【0049】
本発明による毛髪成分流出防止剤は、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、セリシン加水分解物以外のタンパク加水分解物を含有してもよい。本発明において用いられるセリシン加水分解物以外のタンパク加水分解物としては、例えば、ケラチン加水分解物、カゼイン加水分解物などの動物由来タンパク加水分解物や、ダイズ加水分解物などの植物由来タンパク加水分解物などが挙げられる。これらのタンパク加水分解物は、毛髪に弾力感や潤い感などを付与する目的で、適宜配合することができる。
【0050】
さらに、本発明による毛髪成分流出防止剤は、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、通常の化粧料などに用いられる他の任意成分を適宜含有してもよい。このような任意成分としては、例えば、アミノ酸類、多価アルコール類、シリコーン類、油性成分、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、香料、色素、防腐剤などが挙げられる。
【0051】
本発明における毛髪成分流出防止剤の剤型は、毛髪に適用できる性状のものである限り特に限定されるものでない。したがって、毛髪成分流出防止剤の剤型は、例えば、液状、乳状、クリーム状、ジェル状の剤型とすることができる。また、専用の容器に収容することで、ミスト状、泡状(エアゾール)として毛髪に適用してもよい。
【0052】
毛髪成分流出防止剤の毛髪への適用
本発明による毛髪成分流出防止剤は、下記のようにして毛髪へ適用される。
【0053】
本発明による毛髪成分流出防止剤は、種々の要因により損傷した毛髪に適用することで、本発明の効果を最大限に発揮させることができる。毛髪への適用方法は特に限定されないが、洗髪の前、中間、後;トリートメントの前、中間、後;パーマネントウェーブ処理の前、中間、後;縮毛矯正処理の前、中間、後;染毛処理の前、中間、後;脱色処理の前、中間、後など、任意の時点で行うことができる。なかでも、洗髪の前、中間、後のいずれかの時点で毛髪に適用すると、本発明の効果を最大限に発揮させることができ好ましい。
【0054】
本発明による毛髪成分流出防止剤の毛髪への適用方法としては、例えば、毛髪に所定量を塗布し所定時間放置した後、水ですすぐという方法や、毛髪に所定量を塗布し所定時間放置した後、他のリンスやコンディショナー、トリートメント等を重ねて塗布し、その後に洗い流すという方法、さらには、毛髪に所定量を塗布し所定時間放置した後、水ですすぎ、その後、通常のリンスやコンディショナー、トリートメント等を塗布するという方法などが挙げられる。用いられるリンスやコンディショナー、トリートメント等は特に限定されるものでなく、従来、用いられているものを用いることができる。また、処理方法も、従来の方法に従えばよい。このとき、必要に応じてドライヤーなどで毛髪を乾燥させてもよい。また、毛髪成分流出防止剤の効果を高めるために、毛髪成分流出防止剤の適用を複数回繰り返してもよい。
【0055】
本発明による毛髪成分流出防止剤の毛髪への適用の際のその使用量は、特に限定されるものでなく、剤型や処理すべき毛髪の量に応じて適宜調整することができる。
【0056】
例えば、毛髪処理剤が液状である場合には、20cm程度の全頭の毛髪に対し10〜100mlであることが好ましく、20〜80mlであることがより好ましい。
【0057】
該流出防止剤の毛髪への適用後の放置時間は、1〜10分であることが好ましく、より好ましくは2〜5分である。このとき、毛髪成分流出防止剤の毛髪への作用を高める目的で、毛髪成分流出防止剤、毛髪、またはその双方を、室温以上、好ましくは25〜80℃、より好ましくは30〜60℃に加温してもよい。毛髪成分流出防止剤や毛髪は、あらかじめ加温しておいてもよいし、毛髪成分流出防止剤を毛髪に適用後に加温してもよい。加温方法は特に限定されるものでなく、例えば、超音波、赤外線、電磁波などを照射したり、電子レンジ、オーブン、アイロン、ドライヤー、コテなどの加熱機能を備える電気器具や、蛍光灯、白熱灯などの照明器具、温熱シート、発熱ジェルなどの発熱体を用いたりする方法が挙げられる。また、毛髪にヘアキャップを被せるだけでも加温効果が得られうる。またこの時、毛髪成分流出防止剤の毛髪への作用をさらに促進させる目的で、加温などの物理的処理を組み合わせても良い。
【実施例】
【0058】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
1. 損傷毛髪の作製
下記のような組成1および組成2の薬剤をそれぞれ調製した。ここで、組成2の水酸化ナトリウムの含有量を示す適量とは、pHを3.0に調整するために必要な量を意味し、組成1および組成2の精製水の含有量を示す残量とは、合計を100重量%とするために必要な量を意味する。
組成1および組成2の薬剤を、使用直前にそれぞれ2:3の割合で混合し、ブリーチ用処理剤とした。
【0060】
化学的に処理されていない人毛黒髪(株式会社 ビューラックス製)を用いて、重さ3.5g、長さ20cmの毛束を複数作製した。
前述のブリーチ用処理剤5mlを、毛束に塗布して、60℃で20分間放置した。その後、精製水で1分間すすぎ、ドライヤーで乾燥させた。
このブリーチ処理を複数の毛束に対して、それぞれ0回〜3回および6回繰り返し、損傷の程度が異なる損傷毛髪を作製した。
【0061】
組成1
28重量%アンモニア水 4.0(重量%)
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 0.7
炭酸水素ナトリウム 2.6
EDTA−2Na 0.1
精製水 残量
【0062】
組成2
35重量%過酸化水素 17.1(重量%)
クエン酸 1.6
水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
【0063】
2. 損傷毛髪からの色素成分流出試験
作製した損傷毛髪を蓋付サンプル瓶に入れ、精製水30mlを加えた後、37℃、24時間、180rpmの条件で振とうして精製水中に毛髪成分を流出させた。
得られた水溶液をフィルターろ過(平均孔径0.2μm)し凝集物を除去した後、適宜希釈し、可視光領域(波長350nm〜700nm)における吸収スペクトルを測定した。さらに、吸収スペクトルの測定結果を基に、可視光領域における吸光度の積算値(積算吸光度値)を求めた。毛髪から流出する色素成分は、可視光領域に吸収をもつため、積算吸光度値と色素成分量には相関関係がある。すなわち、前記の積算吸光度値が大きいほど、流出した色素成分の量が多いと評価できる。
なお、吸光度の測定には、紫外可視分光光度計[UV−2450;株式会社 島津製作所製]を用いた。
【0064】
結果は表1に示される通りであった。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から明らかなように、ブリーチ処理の回数が増えるにつれて、すなわち毛髪の損傷が増大するにつれて、毛髪から流出する色素成分の量が著しく増加することが明らかになった。特にブリーチ処理を1回〜3回行ったときに、色素成分の流出量の増加が顕著であった。
【0067】
さらに、毛髪成分を流出させた前述の水溶液中のアミノ酸組成をOPA(オルトフタルアルデヒド)試薬を用いるポストカラム蛍光検出法(アミノ酸分析システム;株式会社 島津製作所製)によって調べたところ、グリシン、セリン、スレオニン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、リジンが多く含まれていることを明らかにした。毛髪から流出するアミノ酸全体に対する前記8種類のアミノ酸の合計の割合は、約60モル%であった。中でも、グリシン、セリンの割合が多く、毛髪から流出するアミノ酸全体に対するこれら2種類のアミノ酸の合計の割合は、約20モル%であった。また、流出した毛髪成分の分子量をゲル濾過クロマトグラフィーによって測定したところ、約15,000以下であった。
【0068】
3. セリシン加水分解物の調製
セリシン加水分解物を、以下の方法に従って調製した。
すなわち、生糸からなる絹織物を、0.2重量%炭酸ナトリウム水溶液(pH11〜12)に浸漬して95℃にて2時間処理し、セリシンを加水分解して抽出した。得られた抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターで濾過し、凝集物を除去した後、濾液を透析膜により脱塩し、濃度0.2重量%のセリシン加水分解物精製液を得た。この精製液を、エバポレーターを用いて濃度約2重量%まで濃縮した後、凍結乾燥して、セリシン加水分解物の粉末を得た。得られたセリシン加水分解物の分子量分布は5,000〜70,000、重量平均分子量は25,000であり、15,000以下のポリペプチドを含んでいた。また、得られたセリシン加水分解物は、グリシン、セリン、スレオニン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、リジンを豊富に含み、アミノ酸組成におけるこれらのアミノ酸の合計の割合は約80モル%であった。また、グリシン、セリンの合計の割合は、約40モル%であった。
【0069】
4. 毛髪成分流出防止剤の調製(実施例1〜2および比較例1〜4)
後述する表2に示す組成にしたがって、毛髪成分流出防止剤(本発明に従う実施例)と比較例としての毛髪成分流出防止剤とを調製した。
なおこのとき、水溶性の軽金属塩として、硫酸マグネシウム(MgSO)、塩化アルミニウム(AlCl)、を用いた。表中の濃度は重量%である。また、表2中のクエン酸はpH調整剤であり、含有量を示す適量とは、pHを調整するために必要な量を意味する。精製水の含有量を示す残量とは、合計を100重量%とするために必要な量を意味する。
【0070】
【表2】

【0071】
5. 評価試験(使用試験)
得られた実施例および比較例の毛髪成分流出防止剤について、下記のような試験を行った。
(1) 使用試験1
ブリーチ処理を3回繰り返した損傷毛髪を用いて、重さ1.0g、長さ20cmの毛束を作製した。この毛束に、表2に示した実施例および比較例をそれぞれ2ml塗布し、室温で10分間放置した。
その後、精製水で1分間すすぎ、室温で24時間自然乾燥させた評価サンプルについて、毛髪成分流出防止効果、ならびに、触感、まとまり感、およびツヤの改善効果を評価した。
【0072】
毛髪成分流出防止効果:
評価サンプルをそれぞれ蓋付サンプル瓶に移し、前述の「損傷毛髪からの色素成分流出試験」と同様の方法で、可視光領域における積算吸光度値を求めた。
毛髪から流出する色素成分は、可視光領域に吸収をもつため、積算吸光度値と色素成分量には相関関係がある。すなわち、前記の積算吸光度値が比較例1と比べて低いほど、色素成分の流出防止効果が高いと評価できる。
【0073】
結果は図1および表2に示される通りであった。
【0074】
図1は、実施例1または比較例1で処理した毛髪から、前述の方法で流出させた成分の、可視光領域(波長350nm〜700nm)における吸収スペクトルを示したものである。実施例1では比較例1と比べて、各波長における吸光度が有意に小さく、色素成分の流出防止効果が高いことが明らかとなった。
【0075】
触感、まとまり感、およびツヤの改善効果:
専門パネラー5名により、下記の基準に従って官能評価した。
結果は表2に示される通りであった。
<評価基準>
◎: 比較例1と比べて改善した
○: 比較例1と同等であった
×: 比較例1と比べて悪化した
【0076】
表2から明らかなように、実施例は比較例1と比較して、積算吸光度値が100以下まで大幅に低下しており、優れた毛髪成分流出防止効果を示した。同時に、実施例では毛髪に滑らかさが付与されており、触感が大幅に改善されていた。さらに、実施例では、まとまり感の改善効果や、ツヤの改善効果も認められた。
これらの結果から、本発明による毛髪成分流出防止剤は、優れた毛髪成分流出防止効果を発揮できると同時に、損傷毛髪の触感を大幅に改善することができることが示された。
【0077】
(2) 使用試験2
人毛白髪(株式会社ビューラックス製)の毛束0.5gを複数作製し、市販の染毛剤(ホーユー株式会社製)を用い、常法に従って25℃で15分間、染毛処理を行った。
染毛した毛束を洗浄後、ドライヤーで乾燥させた。続いて、前述の染色した毛束を、シャンプーで洗浄後、実施例1のサンプルを塗布した。10分間放置後、水洗しドライヤーで乾燥させるという工程を1サイクルとして、0サイクル(シャンプー洗浄無し)、7サイクル、および14サイクル繰り返し処理した毛束をそれぞれ作製し、下記の方法で測色を行った。
対照実験(比較例)として、実施例1を塗布せずに、上記と同様の処理を行った。
【0078】
退色防止効果:
使用試験2で処理した毛束について、分光測色計(spectro photometer CM-2500d (KONICA MINOLTA社製))を用いて測色し、毛髪の色をL*a*b*値で数値化した。退色防止効果は、色差ΔEで評価し、色差が小さいほど、色の変化が小さく、退色防止効果が良好であるとした。
なお、色差ΔEは以下のように計算した。
毛束1と毛束2のL*a*b*値をそれぞれ( L01,a01,b01 )、( L02,a02,b02 )とするとき、各パラメータにおける差ΔL*、Δa*、Δb* は、ΔL* =( L01 − L02 )、Δa* = ( a01 − a02 )、Δb* = ( b01 − b02 )である。
この値をもとに、色差ΔEはΔE=(ΔL*+Δa*+Δb*1/2 と定義される。
【0079】
結果は表3に示される通りであった。
【0080】
【表3】

【0081】
結果から、実施例1では、対照と比べて、シャンプーを繰り返した後も色差(ΔE)変化が小さく、退色が大幅に防止されている。
このことから、本発明による毛髪成分流出防止剤は、染毛処理を行った毛髪からの色素成分の流出防止においても有効であり、染毛処理後の髪を美しく維持する効果があることが示された。
【0082】
6. 毛髪成分流出防止剤の処方例
本発明による毛髪成分流出防止剤の処方例を下記に示す。
なお下記組成中、クエン酸およびクエン酸ナトリウムの含有量を示す適量とは、pHを調整するために必要な量を意味し、精製水の含有量を示す残量とは、合計を100重量%とするために必要な量を意味する。
【0083】
(1) 処方例1: 液状ヘアトリートメント
塩化アルミニウム 1.0(重量%)
セリシン加水分解物 1.0
グリセリン 2.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.2
クエン酸ナトリウム 適量
精製水 残量
(pH3.0)
【0084】
(2) 処方例2: ジェル状ヘアトリートメント
硫酸マグネシウム 2.0(重量%)
セリシン加水分解物 0.2
ケラチン加水分解物 0.8
プロピレングリコール 5.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.2
クエン酸 適量
精製水 残量
(pH5.0)
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例の使用試験1における毛髪成分流出防止効果の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の軽金属塩と、セリシン加水分解物と、水とを必須成分として含んでなることを特徴とする、毛髪成分流出防止剤。
【請求項2】
水溶性の軽金属塩が、アルミニウム塩、およびマグネシウム塩からなる群より選択される1種または2種以上のものである、請求項1に記載の毛髪成分流出防止剤。
【請求項3】
水溶性の軽金属塩が、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、および硫酸マグネシウムからなる群より選択される1種または2種以上のものである、請求項1または2に記載の毛髪成分流出防止剤。
【請求項4】
セリシン加水分解物の重量平均分子量が、1,000〜100,000である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の毛髪成分流出防止剤。
【請求項5】
セリシン加水分解物が、グリシン、セリン、スレオニン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、およびリジンからなる群より選択される2種以上のアミノ酸を含み、かつ加水分解物のアミノ酸組成における前記アミノ酸の合計の割合が50モル%以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の毛髪成分流出防止剤。
【請求項6】
毛髪からの、ケラチン、アミノ酸、および、メラニンを含む色素成分の流出を防止するために用いられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の毛髪成分流出防止剤。
【請求項7】
損傷毛髪の毛髪成分流出防止に用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の毛髪成分流出防止剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−6778(P2010−6778A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170595(P2008−170595)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】