説明

毛髪用組成物

【課 題】
毛周期のうち、成長期への早期誘導を促し、脱毛症に対する予防効果や改善効果を有する毛髪用組成物を提供する。
【解決手段】
微生物の代謝産物を有効成分とする毛髪用組成物によって、毛周期の成長期を早期に誘導でき、脱毛症などの治療効果を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛周期における成長期への早期誘導を促す毛髪用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪を作り出す毛包は成長期(毛髪形成)、退行期、休止期、成長期を毛周期と呼ばれる独自の周期で繰り返すことが知られている。成長期においては毛包中の上皮系細胞である毛母細胞が激しく分裂する結果、毛髪の伸長が起こる。この毛母細胞の増殖や分化をコントロールしているのが間葉系細胞である毛乳頭細胞であり、毛乳頭細胞が産生する細胞増殖因子としてIGF−1やHGF、VEGF、FGF−7等が挙げられている。一方、毛乳頭細胞がFGF−5やTGF−βを産生すると毛母細胞の増殖が抑制され、退行期が誘導されると報告されている。しかしながら毛髪形成の基となる毛母細胞の活性には毛乳頭細胞との相互作用による影響が大きく、その制御には上記以外にも多種多様な因子が関与していることが推測される。
【0003】
毛髪は成人の象徴とされ、男女を問わず脱毛に関する悩みは大きいとされる。実際に養毛や育毛という効果をうたった製品が多数販売されており、そのような効果をもたらす物質に対する社会的要請は非常に大きい。
【0004】
これまでに発明された育毛剤(医薬品)としては「ミノキシジル」を有効成分とするものが挙げられる(特許文献1)。「ミノキシジル」の作用機序は以下のように推測されている。つまり、ミノシキジルは毛包でミノキシジルサルフェートに変換され、毛乳頭細胞のスルフォニアウレア受容体(SUR)に反応し、ATPを細胞外へ放出する。放出されたATPはATPアーゼによりアデノシンに分解され、このアデノシンが毛乳頭細胞膜上のアデノシン受容体に作用して血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を放出して毛の成長に働くとされる。また毛乳頭細胞でのFGF−7の発現による毛成長の促進にも関与しているといわれている。
【0005】
その他、薬用育毛剤(医薬部外品)に配合されている成分としてはビタミンE、塩化カルプロニウム、センブリエキスなどの末梢血管を拡張して血行を促進するもの、塩酸ジフェンドラミン、グリチルリチン誘導体、ヒノキチオールなどの抗炎症・抗菌効果により頭皮を清浄にして頭皮の状態を改善するもの、ビタミン類やアミノ酸、ジアルキルモノアミン誘導体、ペンタデカン酸グリセリド、にんじんエキス、プラセンタエキスなどの栄養補給や細胞賦活化作用を有するものなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−68308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、毛周期のうち、成長期への早期誘導を促し、脱毛症に対する予防効果や改善効果を有する毛髪用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、微生物の代謝産物に注目し、鋭意研究を進めてきたところ、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の態様を含むものである。
(1)微生物の代謝産物を有効成分とする毛髪用組成物。
(2)前記微生物が、リゾプス属、モナスカス属のいずれかに属することを特徴とする請求項1記載の毛髪用組成物。
(3)極性脂質を含む培地を使用し、微生物を培養することを特徴とする、毛髪用組成物の製造方法。
(4)前記極性脂質が、 ホスファシジルコリン、ホスファシジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファシジルイノシトール、ホスファシジルセリンから選択されるいずれか一種以上が少なくとも含まれることを特徴とする(3)に記載の毛髪用組成物の製造方法。
(5)前記代謝産物が、微生物を培養した培養液の有機溶媒抽出物であることを特徴とする(1)の毛髪用組成物。
(6)前記微生物を培養した培養液が、極性脂質を含むことを特徴とする(5)記載の毛髪用組成物。
(7)極性脂質を含む培地を用いて微生物を培養し、得られた培養液を有機溶媒抽出することを特徴とする、毛髪用組成物の製造方法。
(8)前記極性脂質が、 ホスファシジルコリン、ホスファシジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファシジルイノシトール、ホスファシジルセリンから選択されるいずれか一種以上が少なくとも含まれることを特徴とする(7)に記載の毛髪用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の毛髪用組成物は、毛髪の成長期を早期に誘導する。従って本発明によれば、脱毛症の予防もしくは改善に有効である。また本発明により毛周期の成長期が早期誘導される毛髪用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の評価に用いたマウスの状態を示す。
【図2】実施例品をマウスに塗布した際のマウスの発毛時期を示す。
【図3】マウス背部における毛周期の進行を区別する基準を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の毛髪用組成物は、微生物の代謝産物を有効成分としている。微生物としては、リゾプス属、モナスカス属のいずれかに属する微生物が挙げられる。より具体的には、リゾプス属として、Rhizopus oryzae、モナスカス属として、Monascus anka(purpureus)が挙げられる。微生物の培養方法については特に制限はなく、通常用いられる液体培地中でこれらの微生物を培養し、得られた培養液からメタノール・クロロホルムを用いて抽出し、濃縮・乾固した後、エタノール可溶画分を得る。本発明の有効成分である代謝産物は、このエタノール可溶画分を用いる。
【0012】
また、本発明では、微生物の培地として極性脂質を添加した極性脂質培地を使用する。添加する極性脂質としては、ホスファシジルコリン、ホスファシジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファシジルイノシトール、ホスファシジルセリンから選択されるいずれか1種以上が好ましい。
【0013】
本発明の毛髪用組成物は、非経口的に直接頭皮に投与可能な製剤が好ましく、剤形としては外用剤を挙げることができる。具体的には、ローション剤、エアゾール剤等のほか、シャンプーやリンス、コンディショナー、ヘアトニック、ヘアクリームなどに配合して用いることもできる。製剤化は公知の方法によって行えばよく、一般的に使用される賦形剤や香料などの添加物を使用しても良い。
【0014】
本発明の毛髪用組成物は、使用者の年齢、症状などに応じて、毛髪が減少している部位や、あるいは毛髪の発生部位に塗布または噴霧等行うことによって、脱毛の症状を緩和できるものである。製剤中の毛髪用組成物の配合量としては、使用目的等を考慮し、適宜決定すればよいが、1〜5%配合することが好ましい。また、配合にあたっては、すでに育毛や発毛の効果を有することが知られている成分を配合しても良い。これらの成分としては、例えば、呉茱萸、五味子、牡丹皮、木瓜、白蘚皮、五加皮、半夏、大黄、牛膝、枸杞子、茯苓、干姜、陳皮、甘草、百部、地骨皮、柴胡、天麻、白芍、荊芥、桂枝、楊梅皮、側柏葉および当薬等の生薬並びにこれら生薬の抽出物(チンキ、エキスなど)、さらには塩化カルプロニウム、パントテニールエチルエーテル、ミノキシジル、セファランチン、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸アミド、ビオチン、D−パントテニルアルコール、イソプロピルメチルフィノール、ヒノキチオール、L−メントール、溶性シスチン、オクトピロックス、塩化ベンザルコニウム、ピリドキシンおよびその誘導体、サリチル酸、塩酸ジフェンヒドラミン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、ペンタデカン酸グリセリドなどを挙げることができる。これらの成分は、本発明の毛髪用組成物に単独で加えてもよく、また2種以上を組み合わせて加えてもよい。
【0015】
本発明の毛髪用組成物は、具体的には育毛、発毛、発毛促進および/または養毛用に用いるものである。したがって、本発明の毛髪用組成物の効能・効果としては、育毛、発毛、薄毛、毛生促進、発毛促進、脱毛(抜け毛)の予防、病後・産後の脱毛、養毛、円形脱毛症、発毛不全、粃糠性脱毛症、脂漏性脱毛症、びまん性脱毛症、若禿(壮年性脱毛症)および老人禿等を挙げることができる。
【0016】
以下に実施例を記載し、本発明を詳細に説明するが、実施例は本発明の態様の1つであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
リゾプス属として、Rhizopus oryzae NBRC4780株(独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門)モナスカス属として、Monascus anka AHU9085株(国立大学法人北海道大学農学部)を表1に示す培地を用い、30℃で2週間培養した。なお、極性脂質としては、ミルクセラミドMC−5(雪印乳業株式会社製)からクロロホルム、メタノール及びアセトンを用いて抽出したものを使用した。得られた培養液をクロロホルム、メタノールで各3回抽出を行い、濃縮・乾固させ、エタノール可溶画分を取り出した。得られたエタノール可溶画分を1.0%となるように希釈し、本発明の毛髪用組成物を得た。なお、Rhizopus oryzae NBRC4780株から得られたものを実施例品1、Monascus anka AHU9085株から得られたものを実施例品2とした。
【0018】
【表1】

【0019】
[比較例1]
実施例で培養にもちいた極性脂質(ミルクセラミドMC−5(雪印乳業株式会社製)からクロロホルム、メタノール及びアセトンを用いて抽出したもの)を1.0%となるようにエタノールに溶解し、比較例品1を得た。
【0020】
[比較例2]
Rhizopus oryzae NBRC4780株(独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門)、Monascus anka AHU9085株(国立大学法人北海道大学農学部)を、極性資質を含まない表2に示す培地を用いて、30℃で2週間培養した。得られた培養物をそれぞれクロロホルム、メタノールで各3回抽出を行い、濃縮・乾固させ、エタノール可溶画分を取り出した。得られたエタノール可溶画分を1.0%となるように希釈し、Rhizopus oryzae代謝産物(比較例品2)及びMonascus anka代謝産物(比較例品3)を得た。
【0021】
【表2】

【0022】
[試験例1]
実施例1で得られた毛髪用組成物(実施例品1、実施例品2)についてマウスへの塗布実験を行った。マウスは、C57BL/6NcrlCrlj系統を用いた。このマウスの背部を剃毛後、1週間の予備飼育を行った。その後、エタノールのみのコントロール、ミノキシジル(1.0%・ポジティブコントロール)、微生物代謝産物由来エタノール可溶各分(1.0%)2種類を週に6回ずつ100μlを塗布した。マウスの発毛状況を図1に示すようにA(局所・青)、A’(局所・発毛)、B(全体・青)、B’(全体・発毛)に分類した。C57BL/6NcrlCrlj系統のマウスは成長期が誘導されると発毛前に皮膚が青く変色することが知られている。この状態をAとし、この青色部分から発毛した状態をA’とした。また、皮膚全体に青色に変色した状態をB、青色部分から発毛した状態をB’とした。結果を図2に示す。
【0023】
図2では、各エタノール溶液を5匹ずつの57BL/6NcrlCrlj系統のマウスに63日齢から塗布を開始して毛包の成長期が誘導された時期を示した。エタノールはコントロール、ミノキシジルはポジティブコントロール、ミルクセラミドはMC-5由来極性脂質、Monascus anka及びRhizopus oryzaeはそれぞれの食用微生物代謝産物を塗布したマウスの結果を示している。オスの場合、コントロールのエタノールと比較して、ミルクセラミド及びRhizopus oryzaeはポジティブコントロールのミノキシジルと同様に5匹とも毛包の成長期が早期誘導されており、その効果が確認された。また、メスの場合は、Monascus ankaに成長期を早期誘導する効果が高いことが確認された。すなわち、本発明の毛髪用組成物は、毛法の成長期を誘導させることにより、脱毛症等の治療に有効であることが確認された。
【0024】
[試験例2]
実施例品1、2の毛髪用組成物及び比較例品1、2の代謝産物について、マウスへの塗布実験により毛髪への影響を確認した。マウスは、C57BL/6NcrlCrlj系統(オス)を用いた。このマウスの背部を剃毛後、1週間の予備飼育を行った。その後、エタノールのみのネガティブコントロール(NC)、ミノキシジル(1.0%)のポジティブコントロール(PC)、実施例品1、実施例品2、比較例品1、比較例品2、比較例3をそれぞれ週に6回ずつ、100μlを各サンプル6匹ずつのマウスに63日齢から塗布を開始し、毛包の成長期の誘導を確認した。マウスの発毛状況を図3に示すように以下のとおりとした。
第1段階:塗布開始前と変わらず背部全体が休止期で、淡紅色を呈したままの状態。
第2段階:局部的に成長期に入り、一部が青い状態。
第3段階:背部全体が成長期になり、青色を呈する状態。
第4段階:成長期が進行し、発毛している状態。
結果として、各段階の個体数を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
C57BL/6NcrlCrlj系統のマウスは成長期が誘導されると発毛前に皮膚が青く変色することが知られている。極性脂質エタノール溶解物は比較例品1、Rhizopus oryzae及びMonascus ankaはそれぞれの培地を用いた培養抽出物(実施例品1、実施例品2、比較例品2、比較例品3)を塗布したマウスの結果を示している。極性脂質のエタノール溶解物である比較例品1では、6匹のうち4匹で毛包の成長期が促進されている。一方、Monascus ankaの極性脂質培地培養抽出物(実施例品2)では、ポジティブコントロールのミノキシジルと同様にすべてのマウスの毛包の成長期が早期誘導されていた。また、Rhizopus oryzaeの極性脂質培地培養抽出物(実施例品1)は6匹のうち5匹の毛包の成長期が早期誘導されており、比較例品1と比べても効果が高いことが確認された。すなわち、本発明の毛髪用組成物は、毛包の成長期を誘導させることにより、脱毛症等の治療に有効であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の代謝産物を有効成分とする毛髪用組成物。
【請求項2】
前記微生物が、リゾプス属、モナスカス属のいずれかに属することを特徴とする請求項1記載の毛髪用組成物。
【請求項3】
極性脂質を含む培地を使用し、微生物を培養することを特徴とする、毛髪用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記極性脂質が、 ホスファシジルコリン、ホスファシジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファシジルイノシトール、ホスファシジルセリンから選択されるいずれか一種以上が少なくとも含まれることを特徴とする請求項3に記載の毛髪用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記代謝産物が、微生物を培養した培養液の有機溶媒抽出物であることを特徴とする請求項1記載の毛髪用組成物。
【請求項6】
前記微生物を培養した培養液が、極性脂質を含むことを特徴とする請求項5記載の毛髪用組成物。
【請求項7】
極性脂質を含む培地を用いて微生物を培養し、得られた培養液を有機溶媒抽出することを特徴とする、毛髪用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記極性脂質が、 ホスファシジルコリン、ホスファシジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファシジルイノシトール、ホスファシジルセリンから選択されるいずれか一種以上が少なくとも含まれることを特徴とする請求項7に記載の毛髪用組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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