説明

毛髪画像表示方法及び表示装置

【課題】毛髪のスタイリングにおいて、同じ流れにある毛髪を毛束としてわかりやすく表示し、その束幅の変化を容易に評価できるようにする。
【解決手段】毛髪画像表示方法が、毛髪画像から毛髪領域を選択し、毛髪領域にエッジ検出を行ってエッジ方向画像を算出し、毛髪領域の画素において、該画素のエッジ方向に直交する方向に対する近傍画素のエッジ方向の相関長を算出し、各画素の相関長をカラー画像化又は濃淡画像化して毛髪の束幅画像を表示する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪のスタイリングの状態をわかりやすく表示する毛髪画像表示方法及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪のスタイリングでは、毛髪の広がり、流れ、カールの程度が意図したものとなっているか、湿気等の影響によらず、当初のスタイリングを安定して維持できるか等が問題となる。そこで、種々のスタイリング剤、縮毛矯正剤、パーマ剤等が開発されている。
【0003】
しかしながら、個々の毛髪の太さ、引っ張り強度、水分率等の物性の測定装置や、キューティクル、コルティックス、メデュラ等の画像解析を行う観察装置(特許文献1)は開発されているが、毛髪の全体的なスタイリングの状態をわかりやすく表示し、客観的に評価する装置は存在しない。そのため、スタイリング剤等の評価は、もっぱら、それを実際に使用し、ヘアスタイルの崩れの有無等を官能評価することによってなされている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−287953号公報
【特許文献2】特開平11−92346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術に対し、本発明は、毛髪のスタイリングにおいて、同じ流れにある毛髪を毛束としてわかりやすく表示し、その束幅の変化を容易に評価できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、毛髪のスタイリングの画像に特定の画像処理を施し、毛髪のエッジ方向画像に、毛束の幅に応じた色ないし濃さを施すと、毛髪のスタイリングの広がり具合を容易に評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、毛髪画像から毛髪領域を選択し、毛髪領域にエッジ検出を行ってエッジ方向画像を算出し、毛髪領域の画素において、該画素のエッジ方向に直交する方向に対する近傍画素のエッジ方向の相関長を算出し、各画素の相関長をカラー画像化又は濃淡画像化して毛髪の束幅画像を表示する毛髪画像表示方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、上述の毛髪画像表示方法を実施する装置として、毛髪画像取得手段、
毛髪画像から毛髪領域を選択する手段、毛髪領域にエッジ検出を行い、エッジ方向画像を算出する手段、毛髪領域の画素において、該画素のエッジ方向に直交する方向に対する近傍画素のエッジ方向の相関長を算出する手段、各画素の相関長をカラー画像化又は濃淡画像化して毛髪の束幅画像を算出する手段、及び毛髪の束幅画像を表示する表示手段を備えた毛髪画像表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の毛髪画像表示方法によれば、毛髪の束幅画像により、毛髪領域の各画素が毛束の幅に対応する相関長に応じた色ないし濃さで表示されるので、スタイリング全体における毛束を容易に認識することが可能となり、その束幅の分布、時間変化等も容易に集計することが可能となる。したがって、スタイリングにおける毛束の広がりを評価することが可能となる。さらに、毛髪処理化粧料を使用してスタイリングした場合や、その後さらに毛髪に湿気等を与えた場合において、経時的に毛髪のエッジ方向の相関長を得ると、スタイリングに使用する毛髪化粧料自体やスタイリング方法自体を評価することができる。
【0010】
また、本発明の毛髪画像表示装置によれば、本発明の毛髪画像表示方法を容易に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は、同一又は同等の構成要素を表している。
【0012】
図1は、本発明の一実施例の毛髪画像表示方法の流れ図であり、図2は、この毛髪画像表示方法を実施する毛髪画像表示装置1のブロック図である。
【0013】
この毛髪画像表示装置1は、評価対象とするヘアスタイルの毛髪画像を取得するデジタルカメラ2と、デジタルカメラ2で撮った毛髪画像を保存し、また、演算処理を施すパーソナルコンピュータ3と、演算処理前の毛髪画像(原画像)や演算結果を表示するディスプレイ4及びプリンタ5を有している。
【0014】
毛髪画像の取得手段としては、デジタルカメラ2の他、被験者の毛髪スタイルの写真から毛髪画像を取り込むイメージスキャナ6を設けてもよく、毛髪画像が記録されている任意の記録媒体から毛髪画像を読み込むドライブを設けてもよく、インターネット等の通信回線から毛髪画像を取り込むものでもよい。また、パーソナルコンピュータ3には、スタイリング剤等の毛髪化粧料と、その適用の前後の毛髪のスタイリング状態を蓄積したデータベース7を接続してもよい。
【0015】
パーソナルコンピュータ3は、次の(a)〜(e)の手段として機能するプログラムを備えている。
(a)毛髪画像から毛髪領域を選択する手段、
(b)選択した毛髪領域についてエッジ検出を行い、エッジ方向画像を算出する手段、
(c)毛髪領域の画素において、該画素のエッジ方向に直交する方向に対する近傍画素のエッジ方向の相関長を算出する手段、
(d)各画素の相関長をカラー画像化又は濃淡画像化して毛髪の束幅画像を算出する手段、
【0016】
ここで、(a)の毛髪画像とは、毛髪領域を含む顔画像、頭部画像などをいい、毛髪画像からの毛髪領域の選択は、例えば、黒髪の場合は、明るさが特定の閾値より暗い画素を毛髪領域とし、茶髪、金髪等の場合は、彩度が特定の閾値より高い画素を毛髪領域とすることにより行う。また、必要に応じて、これらにエッジ強度が特定の閾値よりも大きいという条件を組み合わせて毛髪領域を選択してもよい。
【0017】
この他、毛髪領域の選択は、毛髪画像を所定の方法で撮ることにより、毛髪画像上所定の部位に毛髪領域が位置するように設定し、その位置に基づいて毛髪領域を選択してもよい。
【0018】
(b)でエッジ検出により算出するエッジ画像は、毛髪の流れ(流れから外れた毛を含む)を示す画像に対応する。エッジ検出自体は、画像の濃度勾配を利用した公知の微分処理により行うことができ、より具体的には、Prewitt、Robinson、Kirsch等のエッジ抽出フィルタを用いることができる。
【0019】
例えば、Prewittフィルタを使用する方法では、横方向の濃度差dxは
【0020】
【数1】

【0021】
を用いて算出され、縦方向の濃度差dyは
【0022】
【数2】

【0023】
を用いて算出される。そして、毛髪の流れの向きに対応するエッジ方向θが次式
【0024】
【数3】

【0025】
により算出され、エッジ強度rが次式
【0026】
【数4】

【0027】
により算出される。
【0028】
このようなエッジ検出により、図3の原画像(a)から、同図(b)の横方向のエッジ画像と、同図(c)の縦方向のエッジ画像を得ることができ、またこれら横方向のエッジ画像と縦方向のエッジ画像から、上述の数3の式と数4の式によって、それぞれ同図(d)のエッジ方向画像と同図(e)のエッジ強度画像が算出される。
【0029】
(c)で算出する相関長は、毛髪領域中の或画素でのエッジ方向が、そのエッジ方向に直交する方向にどれほどの秩序で広がっているかを表す量であり、毛束の幅に対応する。相関長は、例えば、次のようにして求めることができる。即ち、図4(a)に示すように、画素P0を中心とする円内の領域Aにおいてエッジ方向がD0で、それに直交する方向がDx の場合に、画素P0とその近傍の画素P1、P2、P3、P4、P5におけるエッジ方向が、それぞれD0、D1、−、D3、−、D5であるとする。この場合に、同図(b)のように、各画素のエッジ方向と、画素P0におけるエッジ方向D0がなす角度θのcosをとり、cosθの値が0.5以上となる上記の直交方向Dx の距離を相関長とする。ここで、cosθの値が0.5以上となる領域が不連続に存在する場合には、注目する画素P0を含む領域の距離とする。また、近傍画素としては、画像中に含まれることが予想される束幅の最大値を直径とする円内にある画素を選択する。こうして得られる相関長の値を画素P0の画素値とする。
【0030】
このように、画素P0における相関長を算出するにあたり、図4(b)のcosθの曲線は、その急峻さに応じてcosnθを用いてもよい。また、エッジ方向と直交する方向にcosθの移動平均値を求め、その値が0.5以上になる距離を用いることもできる。
【0031】
この他、相関長の算出方法としては、画素P0に直交する方向Dx の色又は明度の類似度が一定値以上となる長さを求めてもよい。この場合、色又は明度の類似度としては、例えば、1/(1+|画素P0と近傍画素の色の距離/毛髪領域に含まれる画素の色の距離の標準偏差|)や、1/(1+ |画素P0の近傍画素の明度の差/毛髪領域に含まれる画素の明度の標準偏差|)により算出される数値を使用し、色の類似度が一定値以上となる範囲のDx方向の長さ、又は、明度の類似度が一定値以上となる範囲のDx方向の長さを相関長とする。ここで色の距離はRGB空間におけるユークリッド距離を用いることができるが、L*a*b*空間やL*u*v*空間などの異なる色空間での距離を用いてもよい。
【0032】
相関長は、毛髪領域の全画素について算出する。
【0033】
(d)の各画素の相関長をカラー画像化又は濃淡画像化する処理は、例えば、相関長の数値に色相を対応させたり、濃淡の階調度を対応させたりすればよい。これにより、相関長をビジュアル化し、束幅によって色ないし濃淡が異なる束幅画像を得ることができる。
【0034】
例えば、前述の図3(d)のエッジ方向画像の各画素について相関長を求め、相関長を白黒256階調で濃淡画像化することにより図3(f)の束幅画像のように、太い束幅ほど明るい画像を得ることができる。
【0035】
本発明においては、相関長を上述のように束幅画像として表示する他、例えば図5のように、ある毛束の部位について、相関長の時間変化をグラフ化してもよく、ある毛束を毛髪化粧料で処理した場合、あるいはさらに湿気等を与える処理をした場合において、処理前後の束幅画像を経時的に求め、相関長の変化を、毛髪化粧料の種類や処理方法(温度、時間等)ごとに表示してもよい。これにより、毛髪化粧料の種類や使用方法によるスタイリングの安定性の違いを統計的に解析することが容易となる。
【0036】
さらに、これらの解析結果や上述の束幅画像の見え方を、データベース7に保存されている毛髪化粧料やスタイリング方法と関連づけてもよい。
【実施例】
【0037】
ブラウン毛の頭髪の毛髪画像(原画像)をデジタルカメラで撮り(拡散照明、カメラの撮像子:約400万画素)、その中央部の図6(a1、a2)に示す毛髪領域P(256×256画素)について、エッジ検出をPrewittフィルタにより行い、得られたエッジ方向画像にエッジと直交する方向にcosθが0.5以上になる距離を算出し、この算出値を濃淡画像化することにより図6(b1、b2)の毛髪の束幅画像を得た。この束幅画像では、毛髪の束幅によって画像の濃淡が明確に異なって見える。従って、本実施例の方法によれば、ヘアスタイリング剤の違い等によって変化する毛髪スタイルにおいて、束幅の変化を際立たせて表示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の毛髪画像表示方法ないし表示装置は、毛髪のスタイリングにおいて、毛束の広がりを評価する際に有用であり、また、スタイリングに使用する毛髪化粧料自体やスタイリング方法自体の評価にも有用である。さらに、毛髪化粧料やスタイリング方法の開発や宣伝販売にも有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】毛髪画像表示方法の流れ図である。
【図2】毛髪画像表示装置のブロック図である。
【図3】原画像と、そのエッジ方向画像及び束幅画像である。
【図4】相関長の算出方法の説明図である。
【図5】相関長と時間との関係図である。
【図6】実施例における原画像と束幅画像である。
【符号の説明】
【0040】
1 毛髪画像表示装置
2 デジタルカメラ
3 パーソナルコンピュータ
4 ディスプレイ
5 プリンタ
6 イメージスキャナ
7 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪画像から毛髪領域を選択し、毛髪領域にエッジ検出を行ってエッジ方向画像を算出し、毛髪領域の画素について、該画素のエッジ方向に直交する方向に対する近傍画素のエッジ方向の相関長を算出し、各画素の相関長をカラー画像化又は濃淡画像化した毛髪の束幅画像を表示する毛髪画像表示方法。
【請求項2】
前記エッジ方向と該エッジ方向に直交する方向の近傍画素のエッジ方向のなす角θの相関長として、cosn θが一定値以上となる前記直交方向の長さを算出する請求項1記載の毛髪画像表示方法。
【請求項3】
前記エッジ方向に直交する方向に対する近傍画素のエッジ方向の相関長として、該直交方向の色または明度の類似度が一定値以上となる長さを算出する請求項1記載の毛髪画像表示方法。
【請求項4】
前記相関長を経時的に算出し、毛髪の束幅の変化を表示する請求項1〜3のいずれかに記載の毛髪画像表示方法。
【請求項5】
毛髪画像取得手段、毛髪画像から毛髪領域を選択する手段、毛髪領域にエッジ検出を行い、エッジ方向画像を算出する手段、毛髪領域の画素において、該画素のエッジ方向に直交する方向に対する近傍画素のエッジ方向の相関長を算出する手段、各画素の相関長をカラー画像化又は濃淡画像化して毛髪の束幅画像を算出する手段、及び毛髪の束幅画像を表示する表示手段を備えた毛髪画像表示装置。
【請求項6】
前記エッジ方向と該エッジ方向に直交する方向の近傍画素のエッジ方向のなす角θの相関長として、cosn θが一定値以上となる長さを算出する請求項5記載の毛髪画像表示装置。
【請求項7】
前記エッジ方向に直交する方向に対する近傍画素のエッジ方向の相関長として、色または明度の類似度が一定値以上となる長さを算出する請求項5記載の毛髪画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−198156(P2008−198156A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35696(P2007−35696)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】