説明

気体吸着デバイスの作製方法および気体吸着デバイス

【課題】気体吸着材の劣化を抑制し、容器に貫通孔を生じないよう気体吸着デバイスを作製する。
【解決手段】一端が開口し他端が密封された円筒状薄肉金属部材からなる気体難透過性容器7の開口部8より気体吸着材14を気体難透過性容器7内に充填した後に、外径が開口部8の内径より小さい棒状部12と外径が開口部8の内径より大きいフランジ部13からなる縦断面が略凸型の蓋材11を、棒状部12が開口部8内に収まるように気体難透過性容器7に取付け、フランジ部13側を重力方向の下向きにして、気体難透過性容器7の開口した端部とフランジ部13との隙間に近接して環状のロウ材5を設置して、ロウ材5とその周辺部を加熱し、ロウ材5が溶融し毛細管現象により気体難透過性容器7と蓋材11の棒状部12の間に流れ込んだ後、冷却固化することにより、気体難透過性容器7の開口部8を封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に気体吸着材を充填した気体吸着デバイスに係わり、詳しくは、容器内に気体吸着材を充填した後の容器の開口部の封止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、真空断熱材、真空断熱容器、プラズマディスプレイパネル等、高度な真空環境により性能を発揮することができる機器(以下、真空機器と記述)の開発が盛んになってきている。
【0003】
これらの真空機器にとって、製造時における残留気体や経時的に侵入する気体による内部の圧力上昇は性能を劣化する原因になる。そこで、これらの気体を吸着するための気体吸着材の適用が試みられている。
【0004】
気体吸着材は大気中で空気に接触すると、空気を吸着してしまい、気体の吸着能力が低下してしまう。そこで、気体難透過性容器や気体難透過性素材で被うことが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、気体吸着材の吸着性能を発揮させるために熱処理を要する場合、気体吸着材を気体難透過性容器で被って封止するためには、予め気体難透過性容器とロウ材をセットにして熱処理炉の中に設置して温度を上昇させることにより、気体吸着材の熱処理と同一の工程でロウ材を融解してロウ付けをする手法が有効である。
【0006】
従来のこのようなロウ付けの方法としては、例えば、特許文献2に開示されているものがある。以下、図4を参照しながら従来のロウ付けの方法を説明する。
【0007】
図4(a)に示すように、内容器1と、排気孔2を設けた外容器3とを端部4で接合して二重構造とし、排気口2を上にして、周りにロウ材5を配置し、このロウ材5上に封止板6を設置した後、真空加熱炉内で真空加熱処理を行ない、内容器1と外容器3により形成される空間内を真空にした後にロウ材5を軟化させることにより封止板6を自重により外容器3に近づけ、図4(b)の状態にすることにより、排気孔2を密封する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平9−512088号公報
【特許文献2】特開昭58−192516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、気体吸着材を被う気体難透過性素材の気体バリア性が必ずしも十分ではなく、気体吸着材を吸着対象の気体が存在する空間に設置する工程で、気体吸着材が周囲の気体を吸着してしまうため、吸着材の劣化抑制が困難であった。
【0010】
また、一般に、大気中のロウ付けは、融解したロウ材を接合対象の部材に付着させた後、速やかに冷却することにより終了する。一方、特許文献2に記載の方法では、接合対象となる外容器と溶融状態のロウ材が、大気中でのロウ付けに比較して長時間接触することになる。それは、加熱時に炉内の温度がロウ材の融点に到達してから、冷却時にロウ材の融点を下回るまで、ロウ材は融解状態にあるが、一般に、真空加熱炉の冷却は、大気中の炉より大幅に長い時間を要するためである。
【0011】
一方で、溶融状態にある異なる金属や組成が異なる合金を接触させて保持すると、互いの構成元素が交じり合って均一化しようとする現象が生じる。この現象が、組成の異なる筒状薄肉金属部材とロウ材とのロウ付け時に生じると、金属部材は薄肉であるため、貫通孔が生じる可能性がある。よって、本来は、真空加熱炉の中でロウ付けを行う場合、接合対象の部材が薄肉であることは好ましくない。
【0012】
ところが、気体吸着デバイスは、真空機器の内部で開封する必要があるため、容易に開封できるように、気体難透過性容器は薄肉である必要がある。
【0013】
そこで、本発明は、気体吸着デバイスの作製工程および吸着対象の気体が存在する空間への設置の工程での気体吸着材の劣化を抑制し、かつ、薄肉の容器に貫通孔を生じることのない優れた気体遮断性を有する気体吸着デバイスの作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の気体吸着デバイスの作製方法は、一端が開口し他端が密封され一端から他端までの胴部の長さが端部の最大幅以上の中空の筒状薄肉金属部材からなる気体難透過性容器の前記開口部より気体吸着材を充填した後に、外径が前記開口部の内径より小さい棒状部と外径が前記開口部の内径より大きいフランジ部からなる縦断面が略凸型の蓋材を、前記棒状部が前記開口部内に収まるように前記気体難透過性容器に取付け、前記フランジ部側を重力方向の下向きにして、前記気体難透過性容器の開口した端部と前記フランジ部との隙間に近接してロウ材を設置して、前記ロウ材とその周辺部を加熱し、前記ロウ材が溶融し毛細管現象により前記気体難透過性容器と前記蓋材の棒状部の間に流れ込んだ後、冷却固化することにより、前記気体難透過性容器の前記開口部を封止するのである。
【0015】
これによると、気体吸着デバイスの作製(容器の開口部の封止)を真空中で行うことができ、気体吸着デバイス作製工程における気体吸着材の劣化を抑制し、大気中の保存時における気体吸着材の劣化も抑えた気体吸着デバイスを得る事ができる。
【0016】
さらに、次に示すようにして、気体難透過性容器への貫通孔の生成を抑えることができる。
【0017】
気体難透過性容器と蓋材の棒状部の間に、ロウ材が毛細管現象で流れ込むことにより、ロウ材は、気体難透過性容器と蓋材を構成する元素を取り込む。ロウ材が元素を取り込むことができる総量には限界があるため、蓋材を構成する元素が、気体難透過性容器の主元素と同じ元素を多く含む場合は、ロウ材は蓋材と気体難透過性容器との両方から、この元素を多く取り込む。その結果、ロウ材が取り込む元素の気体難透過性容器からの寄与度が小さくなり、気体難透過性容器の貫通孔の生成を抑えることができる。この結果、優れた気体遮断性を有する気体吸着デバイスを得る事ができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の気体吸着デバイスの作製方法によれば、気体吸着デバイスの作製工程と、気体吸着デバイスを吸着対象の気体が存在する空間へ設置する工程での気体吸着材の劣化を抑制可能な気体吸着デバイスを提供することができる。
【0019】
さらに、気体難透過性容器と蓋材の間に、融解したロウ材を流し込むことにより、融解したロウ材の組成が気体難透過性容器の組成と均質化する際に生じる、気体難透過性容器への貫通孔の生成を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1の気体吸着デバイスの作製工程における熱処理前の気体吸着デバイスの概略断面図
【図2】同実施の形態の気体吸着デバイスの作製工程における熱処理後の気体吸着デバイスの概略断面図
【図3】二元合金の模式的状態を示す特性図
【図4】(a)従来の気体難透過性容器のロウ付け前の側面図(b)同従来の気体難透過性容器のロウ付け後の側面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
第1の発明は、一端が開口し他端が密封され一端から他端までの胴部の長さが端部の最大幅以上の中空の筒状薄肉金属部材からなる気体難透過性容器の前記開口部より気体吸着材を充填した後に、外径が前記開口部の内径より小さい棒状部と外径が前記開口部の内径より大きいフランジ部からなる縦断面が略凸型の蓋材を、前記棒状部が前記開口部内に収まるように前記気体難透過性容器に取付け、前記フランジ部側を重力方向の下向きにして、前記気体難透過性容器の開口した端部と前記フランジ部との隙間に近接してロウ材を設置して、前記ロウ材とその周辺部を加熱し、前記ロウ材が溶融し毛細管現象により前記気体難透過性容器と前記蓋材の棒状部の間に流れ込んだ後、冷却固化することにより、前記気体難透過性容器の前記開口部を封止する気体吸着デバイスの作製方法である。
【0022】
気体吸着材は、使用時までに、目的外の気体に触れると、その気体を吸着し、吸着容量が減少(劣化)したり、吸着能力を失ってしまう(失活)ため、使用時までは外気と接触しないような気体吸着デバイスに封入する必要がある。よって、気体吸着デバイスの重要な機能の一つは、使用時まで気体との接触を抑制し、気体吸着材の気体吸着能力を保持することである。
【0023】
従って、気体吸着材の作製は、真空中或いは、気体吸着材が吸着し得ない気体、例えばアルゴン等の不活性ガス中でなされる必要があった。
【0024】
一般には、アルゴン等の不活性ガスで満たしたグローブボックス内で実施されることが多いが、作業性が悪く、取り扱いに時間を要する、また、アルゴンガスの消費量が多い等、コスト的には不利な条件となっていた。また、グローブボックス内に外部より侵入した空気等の不純物ガスが存在することにより、気体吸着材が劣化することも課題の一つであった。
【0025】
本構成による気体吸着デバイスの作製方法では、一例として、真空熱処理によって活性を付与された後は大気に触れると劣化または失活する気体吸着材の劣化を低く抑えて気体吸着デバイスを作製することができる。
【0026】
すなわち、本構成による気体吸着デバイスの作製方法によると、気体吸着材を充填した気体難透過性容器を、外部と接触することなく、加熱のみにより封止することができる。従って、不活性ガスを充填したグローブボックス内での作業を行わずに気体難透過性容器の封止、すなわち気体吸着デバイスの作製が可能となり、気体吸着デバイス作製工程での気体吸着材の劣化や、不活性ガス使用のランニングコスト増大を抑制することができる。
【0027】
また、棒状部からなる蓋材を設置した開口部の付近にロウ材を設置することにより、加熱して融解したロウ材が、気体難透過性容器と蓋材の間に流れ込み、開口部を封止することができるとともに、ロウ材による貫通孔生成による気体難透過性容器の封止ロスを低減することができる。
【0028】
この作用効果について以下に述べる。
【0029】
一般に、気体難透過性容器の組成とロウ材の組成は異なるため、ロウ材を融解すると、気体難透過性容器の組成とロウ材の組成が均一化する現象が生じる。気体難透過性容器の組成とロウ材の組成が大きく異なる場合、この現象が強く生じる。例えば、気体難透過性容器が純アルミニウムで、ロウ材がアルミニウムとシリコンの合金である場合、ロウ材が気体難透過性容器のアルミニウムを取り込み、気体難透過性容器に貫通孔が生じる。
【0030】
しかし、本発明においては次のような理由で貫通孔は生じない。
【0031】
気体難透過性容器と蓋材の棒状部の間にロウ材が毛細管現象で流れ込むことにより、気体難透過性容器と蓋材を構成する物質を取り込む。しかし、ロウ材が物質を取り込むことができる総量には限界があるため、蓋材を構成する物質が、気体難透過性容器を構成する物質の主元素と同じ元素を多く含む場合は、ロウ材は蓋材と気体難透過性容器との両方から、この元素を多く取り込む。その結果、ロウ材が取り込む物質の気体難透過性容器からの寄与度が小さくなり、気体難透過性容器の貫通孔の生成を抑えることができる。この結果、優れた気体遮断性を有する気体吸着デバイスを得る事ができる。
【0032】
この結果、優れた気体遮断性を有する気体吸着デバイスを得る事ができる。
【0033】
さらに、フランジ部と前記開口部の周縁境界部にロウ材を設置することにより、気体吸着デバイス作製のコストを抑えることができ、この要因は次に示す通りである。
【0034】
フランジ部と前記開口部の周縁境界部にロウ材を設置するには、上記の位置にロウ材を固定する必要がある。例えば、ロウ材の形状を、内径が気体難透過性容器の開口部がある方の端部の外径より大きく、フランジ部の外径より小さい環状とすると、環状にした前記ロウ材の中空部に前記気体難透過性容器を通し、フランジ部を底部として設置すると、自動的に重力によりフランジ部に接触して固定される。このようにして前記ロウ材は前記フランジ部と前記開口部の周縁境界部に設置される。
【0035】
従って、ロウ材の設置に煩雑な作業を要することがなく、速やかに作業を終えることができる。
【0036】
ここで、端部とは、筒状部材の最も長い方向の、周囲との境界部分であり、底面、上面がこれに相当する。
【0037】
開口部とは、中空の気体難透過性容器の内部と外部が、気体難透過性容器の構成材料を経ずにつながることが可能であり、ここから気体吸着材の充填が可能な部分である。
【0038】
胴部とは、筒状部材の大部分を構成する部分であり、1つの端部から5mm程度の部分から、もう一方の端部から5mm程度の部分までの部分である。
【0039】
筒状とは、一方向が長い物体であり、中空のものである。
【0040】
ここで、気体難透過性容器とは、容器の気体透過度が、104[cm3/m2・day・atm]以下となるものであり、より望ましくは103[cm3/m2・day・atm]以下のものである。
【0041】
また、気体難透過性容器を構成する金属は、特に指定するものではないが、例えば、鉄、銅、アルミニウム等を用いることが可能である。また、アルミニウム合金、銅合金等の合金を用いることも可能である。
【0042】
気体吸着材とは、気体中に含まれる非凝縮性気体を吸着できるものである。特に指定するものではないが、ZSM−5型ゼオライトを銅でイオン交換したCuZSM−5や、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物や、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物等が利用でき、特に、酸化リチウム、水酸化リチウム、酸化バリウム、水酸化バリウム等がある。
【0043】
また、気体吸着デバイスは、吸着対象の気体が存在する空間に設置後は、気体難透過性容器を破壊し、通気性を確保して外部の気体を吸着できるようにする必要がある。従って、気体吸着デバイス容器材質の厚さは、真空断熱材内に設置した際、画鋲のような突起物を大気圧で押圧することにより容易に破壊できる程度に薄いことが望ましい。例えば、アルミニウムの場合は1mm以下の場合が良く、望ましくは0.5mm以下、さらに望ましくは0.15mm以下の場合が良い。
【0044】
また、ロウ材は、熱で融解した後、冷却固化することにより、気体難透過性容器を密封できるものであれば良い。そして、封止部の気体通過量が、気体難透過性容器の気体通過量と同等程度に小さくできるものであればよい。
【0045】
ロウ材は、一般には合金材料であり、特に指定するものではないが、銅ロウ、アルミロウ等を用いることができる。
【0046】
ロウ材の溶融温度は、温度制御の観点から、アルミニウムの融解温度より30℃以上低いことが望ましいが、精密な温度制御が可能な場合はこの限りではない。
【0047】
冷却固化の温度制御条件は、特に指定するものではなく、加熱炉内での自然冷却を行うことが可能である。また、気体難透過性容器が厚く、破壊することが難しい場合は、焼きなましによる軟化を行うために300℃/h程度で冷却することも可能である。さらに、気体難透過性容器が薄く、容易に破壊できる場合は、気体吸着デバイスの生産性向上のため、10℃/min程度で冷却してもよい。
【0048】
以上の構成により、目的外の気体に触れると、その気体を吸着し、劣化したり、失活したりする気体吸着材を、目的外の気体に触れさせないように封止して十分な吸着能力が得られ、作製してから使用時までの保管時、真空機器への適用時の劣化を低減できる気体吸着デバイスを安価に提供することができる。
【0049】
また、ロウ材による気体難透過性容器への貫通孔の生成を抑えて優れた気体遮断性を確保することにより、長期間保存しても気体吸着材の劣化を低減した気体吸着デバイスを提供することができる。
【0050】
第2の発明は、特に、第1の発明において、気体難透過性容器に、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用い、ロウ材に、アルミニウムとシリコンからなる合金を用いたものである。
【0051】
アルミニウムは柔らかく、真空機器に設置後の破壊が容易であるため、取扱い性に優れた気体吸着デバイスを得る事ができる。
【0052】
さらに、アルミニウムとシリコンからなる合金のロウ材は気体難透過性容器として用いるアルミニウムまたはアルミニウム合金と親和性に優れるため、適している。
【0053】
以上の構成により、気体吸着デバイスの作製工程と、気体吸着デバイスを吸着対象の気体が存在する空間へ設置する工程での気体吸着材の劣化を抑制可能な気体吸着デバイスを得る事ができ、気体吸着材の加熱とロウ材の加熱を同時に行なうことにより、気体吸着デバイスの作製にかかる設備稼働電力、工数を低減することができ、気体吸着デバイス作製のコストを低減することができる。
【0054】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、固化後のロウ材のフランジ部からの最大距離が、融解前のロウ材のフランジ部からの最大距離より大きいものである。
【0055】
固化後のロウ材のフランジ部からの最大距離が、融解前のロウ材のフランジ部からの最大距離より高いことにより、ロウ材の浸食により気体難透過性容器の開口部付近に貫通孔が生じても密閉空間を形成して、優れた気体遮断性を有する気体難透過性容器を得る事ができる。
【0056】
第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明の気体吸着デバイスの作製方法で作製された気体吸着デバイスである。
【0057】
作製工程において、気体吸着材の劣化が少ないため、優れた気体吸着特性を有する。さらに、活性化に熱処理が必要な気体吸着材を用いる場合において、熱処理と気体難透過性容器内への封止を同一工程で行うことができるため、安価という特徴がある。
【0058】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0059】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の気体吸着デバイスの作製工程における熱処理前の気体吸着デバイスの概略断面図、図2は、同実施の形態の気体吸着デバイスの作製工程における熱処理後の気体吸着デバイスの概略断面図である。
【0060】
図1、図2において、気体難透過性容器7は金属製であり、一方の端部に円形の開口部8を有する。また気体難透過性容器7の端部間の距離(胴部9の長さ)は120mm、胴部9の壁厚は0.10mm、開口部8とは反対側の端部の封止面10の厚さは1mm、内径10mmの円筒形である。
【0061】
また、開口部8内には、蓋材11の棒状部12が挿入され、蓋材11のフランジ部13と開口部8側の端部が接触するようになっている。
【0062】
ここで、蓋材11の棒状部12は直径9.9mm、高さ5mmの円柱形である。また、蓋材11のフランジ部13は直径15mm、高さ1mmの円筒形である。
【0063】
また、蓋材11と空気吸着材13の間には、気体吸着材14の飛散を防ぐために耐熱性を有する繊維の集合体からなるフィルター15が設置されている。さらに、直径1.5mm、長さ35mmの断面が円形の棒状のものを環状に加工したロウ材5がフランジ部13の上部に設置されている。
【0064】
以上の様に構成された本実施の形態の気体吸着デバイスについて、以下、その作製方法を説明する。
【0065】
図1に示す気体難透過性容器7内に、熱処理により活性を示す気体吸着材14、例えば銅でイオン交換されたZSM−5ゼオライトである粉末状のCuZSM−5を1g充填し、その後、ロックウールからなるフィルター15を気体難透過性容器7内に設置する。ここで、フィルター15にロックウールを用いたが、耐熱性を有しガス発生が少ないものであれば良く、アルミナ繊維、石英繊維等の無機繊維、スチールウール等の金属繊維を用いることができる。
【0066】
この一連の作業は、気体難透過性容器7に充填した気体吸着材14が、こぼれないように、密封された端部の封止面10を重力方向下側にして行うが、フィルター15を設置した後は、フィルター15により気体吸着材14が、こぼれなくなるために、自由に方向を決定することができる。
【0067】
フィルター15を設置した後、蓋材11の棒状部12を、開口部8に挿入し、フランジ部13に接触させる。次に、この状態で蓋材11を下方、封止面10を上方に設置して、低部10側からロウ材5に通して、ロウ材5とフランジ部13を接触させる。
【0068】
この状態で、気体難透過性容器7と、気体吸着材14と、ロウ材5を真空加熱炉(図示せず)に設置する。真空加熱炉を0.01Paまで減圧した後に、ロウ材の固相線温度まで昇温した。この際、気体難透過性容器7内部の気体は、開口部8と棒状部12の間から排出される。
【0069】
二元合金では、固相線温度以下では、第一成分の元素と第二成分の元素からなる固溶体に第一成分の金属が単体で存在する状態を取りうる。このような状態の合金が融解するメカニズムは、次に示すとおりである。
【0070】
まず、二元合金の状態を示す特性図を図3に示す。
【0071】
ロウ材5が図3の共晶点より第一成分の割合が大きい亜共晶合金の場合について説明するが、亜共晶合金に限るものではなく、共晶合金、過共晶合金を用いることもできる。
【0072】
この説明で、固体で存在するものを第一成分S、第二成分Sと記述し、液体で存在するものを第一成分L、第二成分Lと記述する。
【0073】
亜共晶合金は、固相線温度以下では、第一成分Sと第二成分Sからなる固溶体と、単体の第一成分Sが混ざり合った状態を取り、合金の温度が上昇して固相線温度に達すると、固溶体の部分が融解して、第一成分Lと第二成分Lからなる液体中に第一成分Sが析出した状態になる。
【0074】
さらに温度が上昇すると、融解して液体となった第一成分Lと第二成分Lに、第一成分Sの金属が溶け込む。この結果、融解して液体となった部分に含まれる第一成分Lの金属の割合が増加する。
【0075】
さらに温度が上昇すると、第一成分Sの金属は、完全に液体となった部分に溶け込んで第一成分Sが無くなり、合金全体が均一な液体になる。この温度が液相線温度である。
【0076】
合金全体の組成で、第一成分と第二成分の割合に従って、第一成分の元素が液体の部分に完全に取り込まれる温度、すなわち液相線温度が異なり、合金全体の組成ごとにこの温度を結んだものが状態図の液相線である。
【0077】
従って、固相線温度以上で液相線温度以下まで加熱された状態ではロウ材5は合金の液体中に割合が多い、すなわち第一成分が析出した、半溶融状態になる。半溶融状態のロウ材5の融点が低い部分が溶解し、毛細管現象により開口部8と棒状部12の間に流れ込む。さらに、真空加熱炉を冷却することにより、ロウ材5が固化して封止がなされる。
【0078】
ロウ材5が固化した後の、開口部8付近はロウ材5により浸食されて薄くなっていたが、ロウ材5は棒状部12を完全に被う程度に流れ込み気体難透過性容器7の胴部8と、蓋材11を接合し、気体吸着材を密閉することができた。
【0079】
この際の冷却速度を遅くすることで、気体難透過性容器7を構成する金属が焼きなましされて柔軟になる。従って、吸着対象の気体が存在する空間に設置された際の破壊が容易になる。また、真空熱処理炉から取り出して大気中に開放すると、気体吸着デバイスは大気圧により圧縮されるため、気体吸着材を充填した部分の最も薄い部分の厚さは5mmであった。
【0080】
本実施の形態の気体吸着デバイスの作製方法は、一端が開口し他端が密封され一端から他端までの胴部9の長さが端部の最大幅以上の中空の円筒状薄肉金属部材からなる気体難透過性容器7の開口部8より気体吸着材14を気体難透過性容器7内に充填し、さらに、フィルター15を気体難透過性容器7内に挿入して、気体吸着材14が気体難透過性容器7の開口部8から出ないようにした後に、外径が開口部8の内径より小さい棒状部12と外径が開口部8の内径より大きいフランジ部13からなる縦断面が略凸型の蓋材11を、棒状部12が開口部8内に収まるように気体難透過性容器7に取付け、フランジ部13側を重力方向の下向きにして、気体難透過性容器7の開口した端部(開口部8側の端部)とフランジ部13との隙間に近接して環状のロウ材5を設置して、ロウ材5とその周辺部を加熱し、ロウ材5が溶融し毛細管現象により気体難透過性容器7と蓋材11の棒状部12の間に流れ込んだ後、冷却固化することにより、気体難透過性容器7の開口部8を封止するものである。
【0081】
以上の様にして作製した気体吸着デバイスの空気吸着量の測定を、作製1時間後に行ったところ、吸着量は吸着平衡圧力10Paで5cc/gであった。また、同様の測定を作製30日後に行ったところ、吸着量は吸着平衡圧力10Paで5cc/gであった。この結果、本実施の形態の気体吸着デバイスの作製方法で作製された気体吸着デバイスは、長期間保存しても性能の劣化が生じないことが判る。
【0082】
吸着量を測定後に気体難透過性容器7を解体して蓋材11付近を調べると、ロウ材5は蓋材11を完全に覆い、フランジ部13からロウ材5までの最大距離は5mmであった。フランジ部13にロウ材5を設置した当初は、フランジ部13からロウ材5の最大距離は、ロウ材5の断面の直径であるため、1.5mmである。このことから、ロウ材5は気体難透過性容器7棒状部12の間を流れ、棒状部12の上面を被うことにより封止がなされていることが判った。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
実施の形態1の構成において、気体難透過性容器7と蓋材11が純アルミニウム、ロウ材5がアルミニウムとシリコンの合金の場合を説明する。
【0084】
真空加熱炉内の温度が上昇して固相線温度に達すると、フランジ部13上部に載せたロウ材5が融解を開始する。融解開始の時点では、シリコンを比較的多く含む部分が融解し、シリコンを比較的少なく含む部分は融解せず、固相と液相が混合した状態になる。この状態で、融解した部分はシリコンを多く含むため、アルミニウムに接触すると、このアルミニウムを浸食する。このため、真空機器に設置した際、容易に破壊できるようにするために薄いことが特徴である、気体難透過性容器7の開口部8付近は侵食されて貫通孔が生じる可能性がある。
【0085】
さらに、融解したロウ材5は蓋材11の棒状部12と気体難透過性容器7の間に、毛細管現象により流れ込む。蓋材11の棒状部12と気体難透過性容器7の間に流れ込んだロウ材5は、蓋材11の棒状部12を構成するアルミニウムと、気体難透過性容器7を構成するアルミニウムを浸食しながら開口部12から離れた部分へ到達する。
【0086】
ロウ材5は気体難透過性容器7と蓋材11のアルミニウムを浸食することにより、次第にアルミニウムを浸食しにくくなる。この結果、気体難透過性容器7に接触しても、開口部8から離れた部分では、ロウ材5の浸食による気体難透過性容器7の貫通孔が生成しなくなる。
【0087】
以上の過程により、気体難透過性容器7、蓋材11、ロウ材5により密閉空間が形成され、気体吸着デバイスを得る事ができる。
【0088】
以上の様にして作製した気体吸着デバイスの空気吸着量の測定を、作製1時間後に行ったところ、吸着量は吸着平衡圧力10Paで5cc/gであった。また、同様の測定を作製30日後に行ったところ、吸着量は吸着平衡圧力10Paで5cc/gであった。この結果、この気体吸着デバイスは長期間保存しても性能の劣化が生じないことが判る。
【0089】
気体難透過性容器7、蓋材11として純アルミニウム、ロウ材5としてアルミニウムとシリコンの合金の場合を示したが、これらに限定するものではなく、銅、鉄等の金属を用いることも可能である。
【0090】
ここで、純アルミニウムとは、アルミニウムを99%以上含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明にかかる気体吸着デバイスの作製方法および気体吸着デバイスは、作製工程で空気に触れると吸着特性を失う気体吸着材の劣化を抑制する気体吸着デバイスの作製を、真空熱処理炉内に可動部を設置すること無しに達成し、安価に気体吸着デバイスを得る事ができる。さらに、気体吸着能力を発現するために熱処理が必要であり、熱処理後は気体に触れると劣化する薬品等の熱処理及び封止に用いることができる。
【符号の説明】
【0092】
5 ロウ材
7 気体難透過性容器
8 開口部
9 胴部
10 封止面
11 蓋材
12 棒状部
13 フランジ部
14 気体吸着材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口し他端が密封され一端から他端までの胴部の長さが端部の最大幅以上の中空の筒状薄肉金属部材からなる気体難透過性容器の前記開口部より気体吸着材を充填した後に、外径が前記開口部の内径より小さい棒状部と外径が前記開口部の内径より大きいフランジ部からなる縦断面が略凸型の蓋材を、前記棒状部が前記開口部内に収まるように前記気体難透過性容器に取付け、前記フランジ部側を重力方向の下向きにして、前記気体難透過性容器の開口した端部と前記フランジ部との隙間に近接してロウ材を設置して、前記ロウ材とその周辺部を加熱し、前記ロウ材が溶融し毛細管現象により前記気体難透過性容器と前記蓋材の棒状部の間に流れ込んだ後、冷却固化することにより、前記気体難透過性容器の前記開口部を封止する気体吸着デバイスの作製方法。
【請求項2】
気体難透過性容器がアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金であり、ロウ材がアルミニウムとシリコンからなる合金である請求項1に記載の気体吸着デバイスの作製方法。
【請求項3】
固化後のロウ材のフランジ部からの最大距離が、融解前のロウ材のフランジ部からの最大距離より大きい請求項1または2に記載の気体吸着デバイスの作製方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の気体吸着デバイスの作製方法で作製された気体吸着デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−260557(P2010−260557A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110566(P2009−110566)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】