説明

気体組成制御ユニット

【課題】エネルギー効率がより高く、二酸化炭素の濃度を高めることができる気体組成制御ユニットを提供する。
【解決手段】本発明の気体組成制御ユニットは、導入ガスを取り込む気体導入ユニットと、導入ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を高めるための気体排出ユニットとを備える気体組成制御ユニットであって、気体導入ユニットから気体排出ユニットへと二酸化炭素を選択的に透過させる二酸化炭素分離部と、気体排出ユニットの内部の圧力を減圧するための気圧制御機構と、気体排出ユニットの内部の排出ガスを外部に排出するための気体排出口とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存物に適した気体雰囲気を作る気体組成制御ユニットに関し、特に、野菜、果実等の青果、肉類、魚介類等の食品を長期間新鮮に保存することができる気体雰囲気を作る気体組成制御ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
青果の新鮮な状態を長く保つ方法として、CA(controlled atmosphere)貯蔵が知られている。CA貯蔵とは、青果を保存する雰囲気の二酸化炭素の濃度を高めつつ酸素濃度を下げることにより、青果の呼吸を抑制することをもって、青果の腐敗を防止するという貯蔵方法である。
【0003】
ここで、酸素は青果を新鮮に保つための気体として必須の気体であるが、それと同時に青果の成熟や腐敗の進行にも深く関与している気体である。このため、酸素を不活性ガスで置換した容器内に青果等を保持することにより、その成熟や腐敗を抑制することができる。
【0004】
CA貯蔵の研究は、1920年後半〜1930年前半にイギリスでスタートしたと言われている。当時のCA貯蔵は、二酸化炭素が発芽を抑える働き有するという知見を基に、ケンブリッジ大学低温研究所のキッド博士と、国立デイットン研究所のウエスト博士とが、気体雰囲気を調整した貯蔵(通称「ガス貯蔵」と呼ばれている)を確立することをテーマに行なった。
【0005】
上記の両博士らのガス貯蔵に関する研究報告によると、リンゴを0℃で保存することにより、室温で保存するときの約10分の1程度までリンゴの呼吸量を減少させることができるのに対し、ガス濃度を調整しても、大気下でのリンゴの呼吸量と比べて2分の1程度しかリンゴの呼吸量を減少させることができないということが示されている。
【0006】
このことから、保存期間を長らえるという観点では、低温貯蔵がガス貯蔵よりも適していることが明らかとなった。
【0007】
このようにCA貯蔵の保存効果は、低温貯蔵ほどの保存効果が得られないものの、低温貯蔵とCA貯蔵とを併用することにより、さらなる長期の保存効果を得ることが期待される。そのためCA貯蔵に関する研究は、上述の研究に留まることなく現在に至るまでさらに進められてきた。
【0008】
現在、CA貯蔵の方式としては、簡易CA方式、Sulzer方式、Arcagen方式、窒素発生器を用いたフラッシング法等がある。上記のいずれのCA貯蔵の方式を用いるにしても、酸素を2〜5%程度の比較的低濃度にしつつ、二酸化炭素を2〜10%程度と比較的高濃度にすることにより、気体組成をコントロールすることが重要となる。
【0009】
上記のようなCA貯蔵を適用したものとして、以下の特許文献には、分離膜により二酸化炭素を分離して高濃度なものとした上で、高濃度な二酸化炭素を含む混合気体を保存庫に導入するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1-102282号公報
【特許文献2】特開平3-232423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に示される野菜貯蔵庫に用いられる分離膜は、常圧かつ低温の使用条件において、二酸化炭素を分離する能力が不足していた。このため、分離膜で隔てられた空間のうちの一方に大きな圧力差を付加することにより、二酸化炭素を分離する必要があり、結果として余分なエネルギーを要するという問題があった。
【0012】
そこで、上記の問題を解決する試みとして、特許文献2には、気体分離膜により分断された2つの空間のうちの一方の空間に吸引ブロワーを設け、当該吸引ブロワーと気体分離膜とを利用して二酸化炭素を分離する方法が開示されている。このように吸引ブロワーを設けることにより、2つの空間の圧力差を付加することなく、二酸化炭素を分離することができる。
【0013】
しかしながら、特許文献2に示されるような構造の保存庫では、外気が直接流入する部分があるため(特許文献2の図1参照)、当該部分から外気が流入することにより、酸素濃度が上昇しやすく二酸化炭素の濃度が低下しやすいという問題があった。
【0014】
そこで、外気が流入することなく、かつ省エネルギーに二酸化炭素の濃度を高めることができる装置の登場が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述のように、分離膜により分断された隣接する2つの空間のうちの一方の空間の二酸化炭素の濃度を高める手段として、他方の空間を加圧すること、または他方の空間に吸引ブロワーを設けることは従来から広く用いられる手段であった。
【0016】
本発明者らは、エネルギー効率高く、二酸化炭素の濃度を高める手段について鋭意検討を重ねたところ、隣接する2つの空間のうちの一方の空間を減圧するという全く新規の手段により、一方の空間の二酸化炭素の濃度を高めることができることを見出した。しかも、このように一方の空間を減圧するという手段は、エネルギー効率の点でも優れていることが明らかとなった。
【0017】
そして、隣接する2つの空間のうちの一方の空間と他方の空間との間に、二酸化炭素分離部を設けることにより、一方の空間の二酸化炭素の濃度を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明の気体組成制御ユニットは、導入ガスを取り込む気体導入ユニットと、導入ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を高めるための気体排出ユニットとを備える気体組成制御ユニットであって、気体導入ユニットから気体排出ユニットへと二酸化炭素を選択的に透過させる二酸化炭素分離部と、気体排出ユニットの内部の圧力を減圧するための気圧制御機構と、気体排出ユニットの内部の排出ガスを外部に排出するための気体排出口とを含むことを特徴とする。
【0019】
また、上記の気体組成制御ユニットは、気体排出ユニットから気体導入ユニットへと酸素を選択的に透過させる酸素分離部をさらに備えることが好ましい。
【0020】
また、気体導入ユニットの二酸化炭素の分圧と、気体排出ユニットの二酸化炭素の分圧との差を、1hPa以上100hPa以下であることが好ましく、より好ましくは5hPa以上100hPa以下とすることである。このような分圧の差にすることにより気体排出ユニットの二酸化炭素の分圧を高めることができる。
【0021】
また、気体排出ユニットまたは気体排出口は、排出ガス中の二酸化炭素の濃度を検出するための二酸化炭素濃度センサを備えることが好ましい。
【0022】
また、二酸化炭素濃度センサは、気体排出口に接して配置されることが好ましい。
また、二酸化炭素分離部および酸素分離部はいずれも、平面状の膜であることが好ましい。
【0023】
また、二酸化炭素分離部は、10μm以上500μm以下の膜厚の平面状の膜であることが好ましく、より好ましくは20μm以上200μm以下の膜厚の平面状の膜である。
【0024】
また、二酸化炭素分離部は、0.1cm2以上2000cm2以下の断面積の平面状の膜であることが好ましく、より好ましくは20cm2以上2000cm2以下の断面積の平面状の膜である。
【0025】
また、気体導入ユニットと、気体排出ユニットとは、分離膜ユニットにより接続されており、分離膜ユニットは、中空糸膜からなる二酸化炭素分離部および中空糸膜からなる酸素分離部を有することが好ましい。
【0026】
また、二酸化炭素分離部は、その表面にポリアミドアミン系デンドリマーが修飾された膜であることが好ましい。
【0027】
また、前記酸素分離部は、その表面にポリジメチルシロキサンまたはブチルゴムが修飾された膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、上記の構成を有することにより、食品保管庫が一般に利用される低温環境において、エネルギー効率がより高く、二酸化炭素の濃度を高めることができる気体組成制御ユニットを提供することができる。
【0029】
この気体組成制御ユニットを備えることにより、より効率良く二酸化炭素を食品保管庫内に導入することができるため、消費電力を低減しつつ、食品を長期間新鮮に保存することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(A)本発明の気体組成制御ユニットを模式的に示す概略図である。(B)本発明の気体組成制御ユニットを構成する気体導入ユニットを模式的に示す概略図である。(C)本発明の気体組成制御ユニットを構成する気体排出ユニットを模式的に示す概略図である。
【図2】本発明の気体組成制御ユニットを構成する気体排出ユニットの排出ガスの組成の温度依存性を示す棒グラフである。
【図3】本発明において、気体排出ユニットの排出ガスに含まれる二酸化炭素の湿度依存性を示す棒グラフである。
【図4】本発明において、気体導入ユニットと気体排出ユニットとを接続する部材として用いられる分離膜ユニットを示す模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。また、図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
【0032】
<気体組成制御ユニット>
図1(A)は、本発明の気体組成制御ユニットを模式的に示す概略図であり、図1(B)は、気体組成制御ユニットを構成する気体導入ユニットを模式的に示す概略図であり、図1(C)は、気体組成制御ユニットを構成する気体排出ユニットを模式的に示す概略図である。
【0033】
本発明の気体組成制御ユニットは、図1(A)に示されるように、導入ガスを取り込む気体導入ユニット10と、該気体導入ユニット10に接して配置され、導入ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を高めるための気体排出ユニット20とを備えるものである。図1(A)においては、気体排出ユニット20上に気体導入ユニット10を備えたものを示しているが、本発明の気体組成制御ユニット1は、このような構成のみに限られるものではなく、気体排出ユニット20と気体導入ユニット10とを交互に複数個を積層した構成のものであってもよい。
【0034】
なお、図1(A)では、気体導入ユニット10の上面がないものを示しているが、これは気体導入ユニット10の構造を明確にするために省略したものであり、気体導入ユニット10の上面にはカバーが配置されていることもあるし、気体導入ユニット10の上面に、さらに気体排出ユニット20が配置されていることもある。
【0035】
本発明の気体組成制御ユニット1は、気体導入ユニット10から気体排出ユニット20へと二酸化炭素を選択的に透過させる二酸化炭素分離部11と、気体排出ユニット20から気体導入ユニット10へと酸素を選択的に透過させる酸素分離部12と、気体排出ユニット20の内部の圧力を減圧するための気圧制御機構13と、気体排出ユニット20の内部の気体を外部に排出するための気体排出口14とを含むことを特徴とする。
【0036】
このような構成の気体組成制御ユニット1は、気体導入ユニット10が外気と通じているため、外気圧と同等の圧力となっている。一方、気体排出ユニット20の気圧制御機構13は減圧ポンプと接続されているため、気体排出ユニット20は減圧された状態となる。こうして気体導入ユニット10の二酸化炭素の分圧は、気体排出ユニット20の二酸化炭素の分圧と比べて高いものとなる。
【0037】
この気体導入ユニット10および気体排出ユニット20における、二酸化炭素の分圧差をドライビングフォースとして気体導入ユニット10から気体排出ユニット20へと二酸化炭素を透過させることができる。これにより気体排出ユニット20に含まれる排出ガスを、二酸化炭素の濃度が高いものとすることができる。そして、二酸化炭素を高濃度で含有する排出ガスを気体排出口14から外部(たとえば冷蔵庫内)に排出することができる。
【0038】
ここで、気体導入ユニット10の二酸化炭素の分圧と、気体排出ユニット20の二酸化炭素の分圧との差は、1hPa以上100hPa以下であることが好ましい。このような二酸化炭素の分圧の差にすることにより、気体導入ユニット10から気体排出ユニット20への二酸化炭素の透過をより促進することができ、もって気体排出ユニット20に含まれる排出ガス中の二酸化炭素の濃度をより高めることができる。
【0039】
なお、二酸化炭素の透過をより効率的なものにするという観点から、気体導入ユニット10の二酸化炭素の分圧と、気体排出ユニット20の二酸化炭素の分圧との差を1hPa以上100hPa以下とすることがより好ましく、より好ましくは5hPa以上100hPa以下である。
【0040】
また、気体排出ユニット20は、排出ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を検出するための二酸化炭素濃度センサ15を有していることが好ましい。二酸化炭素濃度センサ15が配置されることにより、気体排出ユニット20に含まれる排出ガス中の二酸化炭素の濃度を把握することができる。これにより排出ガス中の二酸化炭素を所望の濃度とした上で、気体排出ユニット20の気体排出口14から排出ガスを排出することができる。
【0041】
また、二酸化炭素濃度センサ15は、図1(a)に示されるように、気体排出口14に設置されていてもよい。このように気体排出口14に二酸化炭素濃度センサ15を設置することにより、気体排出ユニット20から排出された排出ガスの二酸化炭素の濃度をより精確に把握することができる。
【0042】
以下においては、気体組成制御ユニットを構成する各構成部材を説明する。
<気体導入ユニット>
気体導入ユニット10は、外部から導入ガスを取り込んだ上で、当該導入ガスに含まれる二酸化炭素の一部を気体排出ユニット20に透過させる役割を果たすものである。このような気体導入ユニット10は、気体排出ユニット20と二酸化炭素分離部11を介して接続されていることにより、気体排出ユニット20に対し、二酸化炭素を選択的に透過させることができる。
【0043】
このような気体導入ユニット10は、導入ガスを通過させる流路が備えられているものであればどのようなものであってもよく、たとえば図1(B)に示されるような蛇形の流路が形成されたものを挙げることができる。また、導入ガスとして、一般的には大気が用いられるが、大気のみに限られるものではない。
【0044】
<気体排出ユニット>
気体排出ユニット20は、二酸化炭素の濃度が高い排出ガスを気体排出口14を通じて外部に排出する役割を果たすものである。そして、気体導入ユニット10から気体排出ユニット20に二酸化炭素が透過することにより、気体排出ユニット20中の排出ガスの二酸化炭素の濃度が高められる。
【0045】
このような気体排出ユニット20は、気体導入ユニット10と酸素分離部12を介して接することにより、酸素を気体導入ユニット10に透過させることができる。これにより排出ガス中の酸素の組成を減少させることができ、排出ガスの組成を食品の成熟や腐敗しにくいものにすることができる。
【0046】
ここで、酸素分離部12を通じて気体導入ユニット10に気体排出ユニット20中の排出ガスに含まれる酸素を導入することにより、排出ガス中の酸素濃度を低減することができ、以って排出ガスの組成を食品の成熟や腐敗しにくいものにすることができる。
【0047】
気体排出ユニット20は、図1(C)に示されるように、その内部の圧力を減圧するための気圧制御機構13を備えることを特徴とする。気圧制御機構13を用いて気体排出ユニット20の内部を減圧することにより、気体排出ユニット20中の二酸化炭素の分圧を減少させることができ、気体導入ユニット10の二酸化炭素の分圧との差が生じることとなる。そして、この二酸化炭素の分圧の差をドライビングフォースとして、気体導入ユニット10から気体排出ユニット20に二酸化炭素を透過させることができる。
【0048】
また、気体排出ユニット20は、図1(C)に示されるように、その内部の排出ガスを外部に排出するための気体排出口14を備えることを特徴とする。このように気体排出口14を備えることにより、所望の排出ガスの組成の混合ガスを外部(たとえば野菜貯蔵庫)に供給することができる。
【0049】
<二酸化炭素分離部>
二酸化炭素分離部11は、気体導入ユニット10に含まれる導入ガスのうち二酸化炭素を選択的に気体排出ユニット20に透過させるために設けられるものである。このように二酸化炭素分離部11を設けることにより、気体排出ユニット20に含まれる排出ガスの二酸化炭素の濃度を高めることができ、もって気体排出ユニット20に含まれる排出ガスをより長期間の保存に適した組成にすることができる。
【0050】
このような二酸化炭素分離部11の形状は、二酸化炭素を選択的に透過させるものであれば、図1(B)に示されるような平面上の膜に限られるものではなく、たとえば筒状のものであってもよい。
【0051】
このように二酸化炭素分離部11に平面上の膜を用いる場合、二酸化炭素の透過量を所望のものとするために、二酸化炭素分離部11の断面積は、0.1cm2以上2000cm2以下の平面上の膜であることが好ましく、より好ましくは20cm2以上2000cm2以下の平面上の膜である。
【0052】
また、二酸化炭素分離部11の膜厚は、10μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0053】
ここで、二酸化炭素分離部11は、その表面にポリアミドアミン系デンドリマーが修飾された膜であることが好ましい。ポリアミドアミン系デンドリマーにより二酸化炭素分離部11を修飾する方法としては、たとえばポリアミドアミンデンドリマーのペンタン溶媒を塗布する方法を挙げることができる。
【0054】
このように二酸化炭素分離部11の表面をポリアミドアミン系デンドリマーで修飾することにより、導入ガス中の二酸化炭素がポリアミドアミン系デンドリマー中に溶け込み、二酸化炭素分離部11の二酸化炭素の選択性を高めることができる。
【0055】
<酸素分離部>
酸素分離部12は、気体排出ユニット20に含まれる排出ガスのうち酸素を選択的に気体導入ユニット10に透過させるために設けられるものである。このように酸素分離部12を設けることにより、気体排出ユニット20に含まれる排出ガスの酸素の濃度を低下させることができ、もって気体排出ユニット20に含まれる排出ガスをより長期間の保存に適した組成にすることができる。
【0056】
このような酸素分離部12の形状は、酸素を選択的に透過させるものであれば、図1(B)に示されるような平面上の膜に限られるものではなく、たとえば筒状のものであってもよい。
【0057】
このように酸素分離部12に平面上の膜を用いる場合、酸素の透過量を所望のものとするために、酸素分離部12の断面積は、0.1cm2以上2000cm2以下の平面上の膜であることが好ましく、20cm2以上2000cm2以下の平面上の膜であることがより好ましい。
【0058】
また、酸素分離部12の膜厚は、1μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上200μm以下である。
【0059】
このような酸素分離部12は、その表面にポリジメチルシロキサンまたはブチルゴムが修飾された膜であることが好ましい。このようにポリジメチルシロキサンにより酸素分離部12を修飾する方法としては、たとえばポリジメチルシロキサンのペンタン溶媒を塗布する方法を挙げることができる。
【0060】
<気圧制御機構>
気圧制御機構13は、気体排出ユニット20を減圧するために設けられるものである。気圧制御機構13は、気体排出ユニット20の内部を減圧することができるものであればどのようなものでもよく、このような減圧の方法としては、たとえば減圧ポンプと接続して気体排出ユニット20の内部を減圧する方法を挙げることができる。
【0061】
<気体排出口>
気体排出口14は、気体排出ユニット20に含まれる排出ガスを外部に排出するために設けられるものである。このような気体排出口14は、排出ガスを外部に排出することができるものであればどのようなものであってもよい。なお、ここでの「外部」とは、気体組成制御ユニットの外部を意味するものである。
【0062】
<二酸化炭素濃度センサ>
二酸化炭素濃度センサ15は、気体排出ユニット20に含まれる排出ガス中の二酸化炭素の濃度を検出するために設けられるものである。二酸化炭素濃度センサ15を設けることにより、排出ガス中の二酸化炭素を所望の濃度とした上で、排出ガスを気体排出口14から外部に排出することができる。二酸化炭素濃度センサ15は、排出ガスの二酸化炭素の濃度を的確に検出するという観点から、気体排出口14に配置されていることが好ましい。
【0063】
また、二酸化炭素濃度センサ15は、排出ガス中の二酸化炭素の濃度を検出することができるものであればどのようなものでもよいが、微量の二酸化炭素を高精度で検出することができるという観点から、非分散型の赤外分光型センサを用いることが好ましい。
【0064】
<分離膜ユニット>
図4は、気体導入ユニットと気体排出ユニットとを接続する部材として用いられる分離膜ユニットを示す模式的な図である。
【0065】
図1においては、二酸化炭素分離部11および酸素分離部12として膜状のもの(フィルタ)を用いて気体導入ユニットと気体排出ユニットとを接続していたが、このような接続方法に限られるものではなく、たとえば図4に示されるような分離膜ユニットにより、気体導入ユニットと気体排出ユニットとを接続しても本発明の効果を得ることができる。
【0066】
本発明に用いられる分離膜ユニット16は、図4に示されるように、その内部に中空糸膜を含む二酸化炭素分離部11、および中空糸膜を含む酸素分離部12を有することが好ましい。このように二酸化炭素分離部11および酸素分離部12に中空糸膜を含むことにより、気体の通過時の圧力損失することなく、膜の表面積を増加させることができ、処理できる二酸化炭素および酸素の体積を増加させることができる。
【0067】
このような二酸化炭素分離部11および酸素分離部12に用いられる中空糸膜としては、たとえばポリイミド膜、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜を用いることが好ましい。また、二酸化炭素分離部11に含まれる中空糸膜は、その表面にポリアミドアミン系デンドリマーが修飾された膜であることが好ましい。また、酸素分離部12に含まれる中空糸膜は、その表面にポリジメチルシロキサンまたはブチルゴムが修飾された膜であることが好ましい。
【0068】
なお、図4における分離膜ユニット16は、2枚の中空糸膜に対し上述の溶液をそれぞれ塗布することにより、二酸化炭素分離部11および酸素分離部12を得た上で、これらを直列で繋いだ形状のものを示しているが、このような形状のみに限られるものではなく、たとえば1枚の中空糸膜に対し、上述の溶液を半分ずつ塗布することにより、二酸化炭素分離部11および酸素分離部12を得たものを用いてもよい。
【実施例1】
【0069】
<気体組成制御ユニット>
実施例1では、図1に示される気体組成制御ユニットを作製した。実施例1の気体組成制御ユニットに用いられる二酸化炭素分離部11としては、孔径100nm、厚さ125μm、断面積3.14cm2のデュラポア(Durapore)メンブレンフィルタに対し、グリセリン溶媒で1Mの濃度に調整したポリアミドアミンデンドリマーを滴下したものを用いた。
【0070】
一方、実施例1の気体組成制御ユニットに用いられる酸素分離部12としては、上記の二酸化炭素分離部11に用いられるメンブランフィルタに対し、ポリジメチルシロキサン(ジメチルシリコーンオイルKF−96)を滴下したものを用いた。
【0071】
<温度依存性>
実施例1の気体組成制御ユニットを26℃(おおよそ室温)の恒温環境に設置した場合の排出ガスの組成と、6℃の低温環境に設置した場合の排出ガスの組成とを対比することにより、気体組成制御ユニットの温度依存性を確認した。
【0072】
まず、気体組成制御ユニットを26℃(おおよそ室温)の恒温環境に設置した上で、気体排出ユニット20を減圧した。そして、気体導入ユニット10に対し、二酸化炭素1.4%、酸素21%、および窒素77.6%の組成比の導入ガスを4L/分の流速で導入した。
【0073】
このときの気体導入ユニット10と気体排出ユニット20との二酸化炭素の分圧との差は、13.7hPaであり、気体導入ユニット10と気体排出ユニット20との窒素の分圧の差は、988.6hPaであった。
【0074】
また、気体導入ユニット10から気体排出ユニット20への気体の透過速度を示す指標として、透過速度を膜面積×圧力差で徐した数値(以下においては「パーミアンス」とも称する)を用いて評価した。二酸化炭素のパーミアンスは、3.3×10-5cm3/cm2・s・cmHgであり、窒素のパーミアンスは、9.7×10-9cm3/cm2・s・cmHgであった。これらのパーミアンスの値を基に、二酸化炭素の選択性を算出すると、二酸化炭素/窒素の選択性は約3400となった。
【0075】
次に、実施例1の気体組成制御ユニット1を6℃の恒温環境に設置した上で、上記と同様の方法により気体排出ユニット20を減圧しつつ、導入ガスを導入した。このときの気体導入ユニット10と気体排出ユニット20との二酸化炭素の分圧との差は、13.9hPaであり、気体導入ユニット10と気体排出ユニット20との窒素の分圧の差は、988.4hPaであった。
【0076】
また、二酸化炭素のパーミアンスは、1.8×10-5cm3/cm2・s・cmHgであり、窒素のパーミアンスは、2.2×10-7cm3/cm2・s・cmHgであった。これらのパーミアンスの値を基に、実施例1の気体組成制御ユニットの二酸化炭素の選択性を算出すると、二酸化炭素/窒素の選択性は約80となった。
【0077】
図2は、気体排出ユニットの排出ガスの組成の温度依存性を示す棒グラフであり、縦軸は、気体排出ユニットの排出ガスを検出したときの各組成の検出濃度(ppm)を示し、横軸は気体排出ユニットに含まれる排出ガスの組成を示す。なお、各組成の検出濃度(ppm)は、ガスクロマトグラフ/熱伝導度検出器(GC/TCD:Gas Chromatograph/Thermal Conductivity Detector 商品名:GC‐3200(GLサイエンス株式会社製))を用いて得た値を採用した。
【0078】
実施例1の気体組成制御ユニットを構成する気体排出ユニット中の排出ガスは、図2に示されるように、26℃の恒温環境においても、6℃の低温環境においても、二酸化炭素の検出濃度(ppm)が最も高いことを確認することができた。このことから、実施例1の気体組成制御ユニットは、導入ガスに含まれる二酸化炭素を濃縮した上で排出ガスとして排出することができることが明らかとなった。
【0079】
また、図2によれば、6℃の低温環境のときの二酸化炭素の濃度は、26℃の恒温環境のときの二酸化炭素の濃度と比べて、その値が低いことを確認することができた。このことから、26℃の恒温環境の方が二酸化炭素の分離の性能がよいことも明らかとなった。
【0080】
以上の結果から、低温での性能は室温に比べて低下するが、庫内の二酸化炭素の濃度を高めることはできることから、実施例1の気体組成制御ユニットは、CA貯蔵へのアプリケーションとして期待することができるといえる。
【0081】
<湿度依存性>
実施例1の気体組成制御ユニットにおいて、気体導入ユニットに導入する導入ガスの湿度を25.8%、28.4%、および33.5%としたときの排出ガス中の二酸化炭素の濃度を測定した。これにより気体組成制御ユニットが、二酸化炭素を分離するときの湿度依存性を確認した。
【0082】
まず、気体組成制御ユニットを6℃(おおよそ室温)の恒温環境に設置した上で、気体排出ユニット20を減圧した。そして、気体組成制御ユニット1に対し、二酸化炭素1.0%、酸素21%、および窒素78%の組成比の導入ガスを4L/分の流速で導入した。当該導入ガスの湿度は、上述したように25.8%、28.4%、および33.5%の3種の湿度である。
【0083】
図3は、気体排出ユニットの排出ガス中の二酸化炭素の湿度依存性を示す棒グラフであり、縦軸は、気体排出ユニットの排出ガスに含まれる二酸化炭素の検出濃度(ppm)を示し、横軸は、気体導入ユニットに供給される導入ガスの湿度を示す。なお、二酸化炭素の検出濃度は、GC/TCD(商品名:GC‐3200(GLサイエンス株式会社製))を用いて得た値を採用した。
【0084】
図3によると、導入ガスの湿度を上昇させるに伴ない、排出ガス中に含まれる二酸化炭素の濃度が高くなっていることを確認することができる。このことから、導入ガスの湿度を高めるにつれて、導入ガス中の二酸化炭素を気体排出ユニットに透過させる性能を高めることができることが明らかとなった。
【0085】
実際の冷蔵庫内の湿度は、85〜90%であることから、導入ガスの濃度も85〜90%と比較的高湿度なものとなり、好適な環境下で気体組成制御ユニットを用いることができるものと考えられる。
【実施例2】
【0086】
実施例1においては、二酸化炭素分離部11および酸素分離部12として膜状のもの(フィルタ)を用いていたが、実施例2においては、図4に示されるような、二酸化炭素分離部11および酸素分離部12を有する中空糸状の分離膜ユニットを用いて、気体導入ユニットと気体排出ユニットとを接続することを特徴とする。
【0087】
実施例2では、内径120μm、膜厚40μm、長さ11cmのポリスルホン(商品名:トレスルホンTS−1.0S(東レ株式会社))からなる中空糸を36本束ねた上で、チューブ30に入れ、その両端をシリコーン接着剤で封止することにより、二酸化炭素分離部11の下地を作製した。
【0088】
上記で得られた二酸化炭素分離部11の下地を、10質量%濃度のポリアミドアミンデンドリマーのメタノール溶液に8時間浸漬した後に、60℃の窒素雰囲気下で3時間放置することにより、余分な溶液を除去して、実施例2の気体組成制御ユニットに用いられる二酸化炭素分離部11を得た。
【0089】
一方、酸素分離部12には、二酸化炭素分離部11で用いた下地と同様のものを用いて、10質量%濃度のポリジメチルシロキサンのペンタン溶液に8時間浸漬した後に、60℃の窒素雰囲気下で3時間放置することにより、余分な溶液を除去して酸素分離部11を得た。
【0090】
なお、二酸化炭素分離部11および酸素分離部12に用いられる中空糸膜は、14.9cm2の表面積を有しており、図1の平膜型の中空糸膜の4.7倍の表面積を持つものであった。
【0091】
上記で得られた二酸化炭素分離部11および酸素分離部12により作製された分離膜ユニットを用いて、実施例2の気体組成制御ユニットを作製した。
【0092】
実施例2の気体制御ユニットに対し、実施例1の<温度依存性>と同様の実験を行なったところ、6℃の環境では二酸化炭素/窒素の選択性は98.8となった。このことから、実施例2のように分離膜ユニットを用いた気体組成制御ユニットは、実施例1の気体組成制御ユニットよりも優れた二酸化炭素の透過性能を得られることが明らかとなった。
【0093】
(比較例1)
比較例1の気体組成制御ユニットは、実施例1のように気体排出ユニットに気圧制御機構が設けられたものではなく、特許文献1に示されるように、気体導入ユニットに加圧装置が設けられた構造のものである他は、実施例1と同様の構造のものである。
【0094】
実施例1の気体組成制御ユニットは、気体排出ユニットを減圧することにより、二酸化炭素の濃縮を行なっていたが、比較例1の気体組成制御ユニットは、気体導入ユニットを加圧することにより、二酸化炭素の濃縮を行なうものである。
【0095】
<エネルギー効率>
実施例1の気体組成制御ユニットのエネルギー効率を算出した。当該エネルギー効率の値は、1トンの二酸化炭素を得るために、必要とされるエネルギー量を算出することにより得たものである。
【0096】
まず、26℃の恒温環境に設置した上で、気体排出ユニット20を減圧し、気体導入ユニットに対し、二酸化炭素1.4%、酸素21%、および窒素77.6%の組成比の導入ガスを4L/分の流速で導入した。そして、1トンの二酸化炭素が得られるように、気体排出ユニット20から排出ガスを回収した。このとき気体排出ユニットの減圧に要したエネルギーは0.7GJであった。
【0097】
一方、比較例1の気体組成制御ユニットについても、実施例1と同様の方法によりエネルギー効率を評価したところ、1トンの二酸化炭素が得るために、気体導入ユニットの加圧に要したエネルギーは1.2GJであった。
【0098】
以上より、実施例1の気体組成制御ユニットは、比較例1の気体組成制御ユニットよりも効率的に二酸化炭素の濃縮を行なうことができることが明らかとなった。
【0099】
上記の結果から、気体排出ユニットの減圧による二酸化炭素の濃縮は、気体導入ユニットの加圧による二酸化炭素の濃縮よりも、エネルギー効率がよいと言うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、低温であっても二酸化炭素の濃度を高濃度に保つことができる。これにより従来よりも高性能のCA貯蔵技術を利用した食品保存庫を提供することができ、当該食品保存庫を用いれば、食品を長期間新鮮に保存することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 気体組成制御ユニット、10 気体導入ユニット、11 二酸化炭素分離部、12 酸素分離部、13 気圧制御機構、14 気体排出口、15 二酸化炭素濃度センサ、16 分離膜ユニット、20 気体排出ユニット、30 チューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入ガスを取り込む気体導入ユニットと、前記導入ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を高めるための気体排出ユニットとを備える気体組成制御ユニットであって、
前記気体導入ユニットから前記気体排出ユニットへと二酸化炭素を選択的に透過させる二酸化炭素分離部と、
前記気体排出ユニットの内部の圧力を減圧するための気圧制御機構と、
前記気体排出ユニットの内部の排出ガスを外部に排出するための気体排出口とを含む、気体組成制御ユニット。
【請求項2】
前記気体排出ユニットから前記気体導入ユニットへと酸素を選択的に透過させる酸素分離部をさらに備える、請求項1に記載の気体組成制御ユニット。
【請求項3】
前記気体導入ユニットの二酸化炭素の分圧と、前記気体排出ユニットの二酸化炭素の分圧との差を、1hPa以上100hPa以下とすることにより、前記気体排出ユニットの二酸化炭素の分圧を高める、請求項1または2に記載の気体組成制御ユニット。
【請求項4】
前記気体排出ユニットまたは前記気体排出口は、前記排出ガス中の二酸化炭素の濃度を検出するための二酸化炭素濃度センサを備える、請求項1〜3のいずれかに記載の気体組成制御ユニット。
【請求項5】
前記二酸化炭素濃度センサは、前記気体排出口に接して配置される、請求項4に記載の気体組成制御ユニット。
【請求項6】
前記二酸化炭素分離部および前記酸素分離部はいずれも、平面状の膜である、請求項2〜5のいずれかに記載の気体組成制御ユニット。
【請求項7】
前記二酸化炭素分離部は、10μm以上500μm以下の厚みの平面状の膜である、請求項1〜6のいずれかに記載の気体組成制御ユニット。
【請求項8】
前記二酸化炭素分離部は、0.1cm2以上2000cm2以下の断面積の平面状の膜である、請求項1〜7のいずれかに記載の気体組成制御ユニット。
【請求項9】
前記気体導入ユニットと、前記気体排出ユニットとは、分離膜ユニットにより接続されており、
前記分離膜ユニットは、中空糸膜を含む二酸化炭素分離部および中空糸膜を含む酸素分離部を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の気体組成制御ユニット。
【請求項10】
前記二酸化炭素分離部は、その表面にポリアミドアミン系デンドリマーが修飾された膜である、請求項1〜8のいずれかに記載の気体組成制御ユニット。
【請求項11】
前記酸素分離部は、その表面にポリジメチルシロキサンまたはブチルゴムが修飾された膜である、請求項2〜8のいずれかに記載の気体組成制御ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−246460(P2010−246460A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99076(P2009−99076)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】