説明

気流状態算出方法、プログラムおよび装置

【課題】室内に形成される気流状態を、可及的に容易に、且つより高精度に算出することを可能とする方法、プログラムおよび装置を提供する。
【解決手段】本発明は、室内空間に形成される気流状態を有限要素法により算出する気流状態算出方法である。吹き出し口近傍のチャンバ空間の一部もしくは全部を、気流状態算出のための対応チャンバ空間として設定する。そして、対応チャンバ空間に存在する障害物の、送風される空調流体に対する抵抗の程度を、該対応チャンバ空間における等方性の体積圧力損失として設定し、更に吹き出し口の開口率、および該吹き出し口におけるチャンバ空間から室内空間への空調流体の供給方向に沿った、該吹き出し口の高さを設定する。そして、等方性体積圧力損失と、吹き出し口の開口率及び高さと、所定のパラメータに基づいて、吹き出し口を介して室内空間に供給される空調流体の気流状態を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機で室内空調を行う際に、室内に生じる気流状態を算出するための方法、プログラム、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の空調における室内温度を予測するための従来の方法としては、空調空気の室内一様拡散を仮定して代表温度を求める方法と、CFD(Computational Fluid Dynamics)解析により温度分布を求める方法とがある。前者の方法は、計算が容易で計算負荷も小さいが、室内の代表温度しか求めることができない。一方、後者の方法は、室内の流れ性状を記述する基礎方程式を数値的に解くことにより、室内の風速分布や温度分布を求めるものであり、メッシュ数を多くして計算精度を高くしようとすると計算負荷が大きくなり、高速の計算機が必要で、コストと労力がかかる反面、物理現象を再現した精密な解析ができるという利点がある。
【0003】
これらの方法は、目的により使い分けられるが、たとえば、データセンターのサーバ吸込み温度を予測する場合には、室内温度分布を把握することが重要となる。そして、このような室内温度分布を把握するためには前述したCFD解析が広く利用されている。上述したとおり、CFD解析は、精度を高くしようとすると、計算負荷が大きくなるため、優れた計算能力の計算機であっても長い計算時間を必要とする。一般的に、上述したようなCFD解析では、様々な条件を評価するために、条件を変えて何度も繰り返し計算を行うことが多く、大規模な建築になると計算時間が非常に長くなり、時間の制約によって、十分な検討が困難となる。
【0004】
また、空調用に用いられる吹き出し口は、一般に複雑形状であることが多く、吹き出し気流も複雑な流れ場となる。フリーアクセスフロアからの床吹き出し方式においても同様で、吹き出し口の形状やシャッタ機構の有無で吹き出し気流が変わるほか、空調機と吹き出し口の距離や位置関係、床下のケーブルやフリーアクセスフロア支持脚などの障害物の量によっても吹き出し気流に影響を与える。複数の吹き出し口からの気流方向や風速の予測方法において、計算時間の大幅短縮を図る流体シミュレーション技術が、特許文献1、2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−22220号公報
【特許文献2】特開2001−99748号公報
【特許文献3】特開平5−331948号公報
【特許文献4】特開平11−63622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
室内に設置される様々な装置に求められる温熱環境の実現が図られるべく、空調機による室内の空調が行われる。ここで、室内の温熱環境は、空調流体を室内に吹き出す吹き出し口の風速や向き等の気流状態によって大きく影響されることが分かっている。そこで、温熱空気環境の予測精度を上げるためには、例えば、すべての吹き出し口に均一な吹き出し条件を与えるのではなく、忠実に室内形状を再現したモデルを作成して解析を行うことが必要であり、多くのCFD解析においても既に実施されている。このような場合、床下空間や天井裏空間を解析領域に含め、ケーブルやフリーアクセスフロア支持脚などの障害
物を詳細にモデル化する必要があるが、室内の大きさに対して、それらの小さな障害物を詳細にモデル化する必要がある。そして、支持脚は円柱形状であることが多く、円柱形状部品のデフォルメ(階段状にモデル化)を行うことで曲線をモデル化する構造格子系ソフトでは、メッシュ数(計算格子)が増大し、膨大な計算時間を費やす結果となっている。
【0007】
また、床下の障害物を詳細に模擬せず、少ないメッシュで吹き出し気流を模擬する方法として、吹き出し面に面積圧力損失(開口率)を設定する方法が挙げられる。このとき、経験的に、実際の気流状態に近づけるべく、吹き出し口の実際の状態よりも大きい抵抗を与えるように開口率を設定することで、床下圧力を高めて吹き出し風量を計算させることになる。しかし、この抵抗値は床下障害物の量などによっても変更し、かつ吹き出し口の場所により与える値を変える必要があるため、あらかじめ値を設定することが困難であった。
【0008】
このように室内の温熱環境を予測するために、そこに形成される気流状態を算出する従来技術については、算出に要する労力と算出結果の精度が常に背反となるため、室内での気流状態の算出が好適には行われていなかった。そこで、本発明では、上記問題に鑑み、室内に形成される気流状態を、可及的に容易に、且つより高精度に算出することを可能とする方法、プログラムおよび装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記の課題を解決するために、有限要素法を用いた気流状態算出において、空調機からの空調流体が室内空間に吹き出す吹き出し口近傍のチャンバ空間において、該チャンバ空間に存在する障害物に起因する等方性体積圧力損失を設定することで、上記課題の解決を図るものである。実際に存在する障害物の大きさ、位置等の現状を直接利用するのではなく、これら障害物の現状から導出される等方性体積圧力損失というパラメータを利用することで、気流状態の算出に要する労力を低減し、且つ算出時間の短縮を図ることが可能となる。
【0010】
そこで、本発明は、壁面パネルによって画定された空間であって空調機から出される空調流体の送風が行われるチャンバ空間と、該チャンバ空間との境界に設けられた吹き出し口を介して該空調流体の供給が行われる室内空間と、を含む空調空間において、該チャンバ空間から該室内空間に供給される空調流体によって該室内空間に形成される気流状態を有限要素法により算出する気流状態算出方法であって、前記吹き出し口近傍の前記チャンバ空間の一部もしくは全部を、気流状態算出のための対応チャンバ空間として設定する設定ステップと、前記設定ステップで設定された前記対応チャンバ空間に存在する障害物の、送風される空調流体に対する抵抗の程度を、該対応チャンバ空間における等方性の体積圧力損失として設定する第一モデル化ステップと、前記吹き出し口の開口率、および該吹き出し口における前記チャンバ空間から前記室内空間への空調流体の供給方向に沿った、該吹き出し口の高さを設定する、第二モデル化ステップと、前記対応チャンバ空間に送風される空調流体に関する所定のパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、前記第一モデル化ステップで設定された前記対応チャンバ空間の等方性体積圧力損失と、前記第二モデル化ステップで設定された前記吹き出し口の開口率及び高さと、前記パラメータ取得ステップで取得された前記所定のパラメータに基づいて、前記吹き出し口を介して前記室内空間に供給される空調流体の気流状態を算出する算出ステップと、を含む。
【0011】
上記気流状態算出方法においては、チャンバ空間から室内空間に空調気流が供給されるとき、室内空間に形成される気流状態が有限要素法により算出される。そのために設定ステップで設定される対応チャンバ空間は、上記第一モデル化ステップおよび上記第二モデル化ステップにおいて行われるモデル化の対象となる空間であり、それは空調機から空調流体が送り込まれるチャンバ空間の一部又は全部の空間である。すなわち、本発明に係る
気流状態算出方法は、この対応チャンバ空間において、第一モデル化ステップと第二モデル化ステップでの各モデル化処理を施すことで、有限要素法に従って室内空間での気流状態を、容易に且つ高精度に算出することを可能とする。
【0012】
ここで、第一モデル化ステップについて説明すると、対応チャンバ空間に存在する障害物による空調流体への抵抗の程度を、該対応チャンバ空間における等方性の体積圧力損失として設定する。このように一定の空間に対して、等方性に体積圧力損失を設定することは、当該空間の全て(すなわち、X、Y、Z方向)において障害物が均等に配置されることで、空調流体に対する抵抗が形成されているとみなすことを意味する。従来技術による気流状態の算出方法では、このような空調機からの空調流体が送り込まれるチャンバ空間における障害物の影響を考慮する場合、具体的に生じ得る、もしくは生じているチャンバ空間の現状(たとえば、壁面パネルを支える脚の形状、寸法や、敷設されるケーブルの本数)を可及的に正確に反映させ、それを基に有限要素法による解析が行われる。しかし、この第一モデル化ステップで行われるのは、当該対応チャンバ空間における、等方性体積圧力損失の数値の設定であるから、その作業量は極めて小さく、また有限要素法による解析の負荷を小さく抑えることができる。
【0013】
次に、第二モデル化ステップについて説明すると、ここではチャンバ空間から室内空間へと空調流体を供給するための吹き出し口に関するモデル化が行われる。具体的には、吹き出し口の開口率およびその高さの設定が行われる。吹き出し口の開口率は、チャンバ空間から室内空間へ至る際の、空調流体の流速を決定するパラメータである。また、吹き出し口の高さは、主に吹き出し口を経由して室内空間に空調流体が供給される際に生じる、室内空間からチャンバ空間への誘引流を、気流状態算出に反映させるために設定される。これらの吹き出し口に関するパラメータの設定が行われることで、室内空間での気流状態の算出がより正確に行われることになる。
【0014】
そして、算出ステップによって、これらの少なくとも2つのモデル化ステップで行われた等方性体積圧力損失の設定および吹き出し口に関するパラメータの設定に加えて、対応チャンバ空間に送り込まれる空調流体に関する所定のパラメータ(風量や、温度等)を踏まえて、室内空間での空調流体の気流状態の算出が行われる。当該気流状態の算出においては、従来の有限要素法による分析技術に従い、室内空間を適切にメッシュ化等すればよい。
【0015】
本発明に係る気流状態算出方法によれば、第一モデル化ステップにより、チャンバ空間での障害物の影響を等方性体積圧力損失で表わす。等方性体積圧力損失の設定は、上述の通り、所定の空間(体積中)に障害物が均等に存在することを意味するため、従来で一般的に行われていた吹き出し口の抵抗のみの設定と比べると、実際の流れ場を、容易に且つ的確にモデル化することが可能となる。さらに、本発明に係る気流状態算出方法では、対応チャンバ空間での等方性体積圧力損失の設定とは別に、吹き出し口の開口率およびその高さの設定が行われることから、実際の流れ場のより忠実なモデル化が達成されることになる。そして、対応チャンバ空間では、障害物による抵抗の程度をメッシュ化による分析結果によらずに設定するため、最終的に有限要素法による気流状態の算出時間を短縮することが可能である。
【0016】
上記気流状態算出方法において、前記等方性の体積圧力損失は、前記対応チャンバ空間に存在する障害物の、前記吹き出し口における前記チャンバ空間から前記室内空間への空調流体の供給方向に沿った基準断面積における占有率に基づいて決定されてもよい。等方性の体積圧力損失は、対応チャンバ空間での障害物による抵抗の程度を示すものであることから、基準断面積において障害物が占有する割合(上記占有率)を当該抵抗の程度に関連するパラメータと捉えたものである。ここで、上記基準断面積とは、対応チャンバ空間
から吹き出し口を経由して室内空間に空調流体が供給される際の流れを踏まえて決定される断面積であり、吹き出し口で形成される空調流体の供給方向に沿った断面積である。したがって、この基準断面積における障害物の占有率に基づいて決定される等方性体積圧力損失は、吹き出し口を経由して室内空間に供給される空調流体の抵抗の程度を的確に捉えていると考えられる。
【0017】
ここで上記気流状態算出方法においては、前記第一モデル化ステップは、前記対応チャンバ空間において前記壁面パネルを支持する支持部材の、前記基準断面積における密度、および該支持部材の高さに基づいて、該対応チャンバ空間に対応する基準等方性体積圧力損失を算出する第一ステップと、前記対応チャンバ空間に存在する、前記支持部材以外の障害物の、前記基準断面積における占有率に基づいて、前記基準等方性体積圧力損失を補正し、該対応チャンバ空間の等方性の体積圧力損失を導出する第二ステップと、を有してもよい。壁面パネルを支持する支持部材は、壁面パネルの設置によりチャンバ空間が形成された時点で、概ね固定的な障害物となる。一方で、それ以外の障害物、例えばチャンバ空間内に敷設されるケーブルなどは、状況に応じて変更される非固定的な障害物となり得る。そこで、第一ステップにより、固定的な障害物に起因する等方性体積圧力損失を基準等方性体積圧力損失として設定し、非固定的な障害物の影響を、第二ステップにおいてこの基準等方性体積圧力損失の補正という形式で反映させることで、最終的に気流状態の算出に採用される等方性体積圧力損失が導出される。このような形態を採用することで、比較的頻繁に変動する非固定的な障害物の配置を想定した気流状態の算出が容易に行い得る。
【0018】
また、上述までの気流状態算出方法においては、前記第二モデル化ステップでは、前記吹き出し口の高さは、該吹き出し口の全ての周端部に設定され、該吹き出し口を除く前記壁面パネルにおいては、その高さは設定されないようにしてもよい。実際の流れ場をより正確に反映するとともに、その反映のためのモデル化の作業量を可及的に軽減するために、上記の通り吹き出し口の高さの設定については、上記のように限られた設定を行うのが好ましい。
【0019】
上述までの気流状態算出方法において、前記チャンバ空間は、建物の室内の床下空間、該建物の室内の天井裏空間、該建物の室内の壁面に沿った空間の何れかであってよい。また、これら以外の建物における空調空間に対しても、当然に本発明に係る気流状態算出方法は適用可能である。
【0020】
ここで、本発明を気流状態を算出する方法以外の側面から捉えることも可能である。その一つとして、本発明をプログラムの側面から捉えると、本発明は、壁面パネルによって画定された空間であって空調機から出される空調流体の送風が行われるチャンバ空間と、該チャンバ空間との境界に設けられた吹き出し口を介して該空調流体の供給が行われる室内空間と、を含む空調空間において、該チャンバ空間から該室内空間に供給される空調流体によって該室内空間に形成される気流状態を、コンピュータに有限要素法により算出させるプログラムであって、該コンピュータに、前記吹き出し口近傍の前記チャンバ空間の一部もしくは全部を、気流状態算出のための対応チャンバ空間として設定する設定ステップと、前記設定ステップで設定された前記対応チャンバ空間に存在する障害物の、送風される空調流体に対する抵抗の程度を、該対応チャンバ空間における等方性の体積圧力損失として設定する第一モデル化ステップと、前記吹き出し口の開口率、および該吹き出し口における前記チャンバ空間から前記室内空間への空調流体の供給方向に沿った、該吹き出し口の高さを設定する、第二モデル化ステップと、前記対応チャンバ空間に送風される空調流体に関する所定のパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、前記第一モデル化ステップで設定された前記対応チャンバ空間の等方性体積圧力損失と、前記第二モデル化ステップで設定された前記吹き出し口の開口率及び高さと、前記パラメータ取得ステッ
プで取得された前記所定のパラメータに基づいて、前記吹き出し口を介して前記室内空間に供給される空調流体の気流状態を算出する算出ステップと、を実行させる。そして、上記気流状態算出方法について開示した技術的思想は、同様に本発明に係る気流状態算出のためのプログラムにも適用可能である。
【0021】
さらに、本発明を気流状態を算出するための装置の側面から捉えると、本発明は、壁面パネルによって画定された空間であって空調機から出される空調流体の送風が行われるチャンバ空間と、該チャンバ空間との境界に設けられた吹き出し口を介して該空調流体の供給が行われる室内空間と、を含む空調空間において、該チャンバ空間から該室内空間に供給される空調流体によって該室内空間に形成される気流状態を有限要素法により算出する気流状態算出装置であって、前記吹き出し口近傍の前記チャンバ空間の一部もしくは全部を、気流状態算出のための対応チャンバ空間として設定する設定手段と、前記設定手段によって設定された前記対応チャンバ空間に存在する障害物の、送風される空調流体に対する抵抗の程度を、該対応チャンバ空間における等方性の体積圧力損失として設定する第一モデル化手段と、前記吹き出し口の開口率、および該吹き出し口における前記チャンバ空間から前記室内空間への空調流体の供給方向に沿った、該吹き出し口の高さを設定する、第二モデル化手段と、前記対応チャンバ空間に送風される空調流体に関する所定のパラメータを取得するパラメータ取得手段と、前記第一モデル化手段によって設定された前記対応チャンバ空間の等方性体積圧力損失と、前記第二モデル化手段によって設定された前記吹き出し口の開口率及び高さと、前記パラメータ取得手段によって取得された前記所定のパラメータに基づいて、前記吹き出し口を介して前記室内空間に供給される空調流体の気流状態を算出する算出手段と、を備える。そして、上記気流状態算出方法について開示した技術的思想は、同様に本発明に係る気流状態算出装置にも適用可能である。
【発明の効果】
【0022】
室内に形成される気流状態を、有限要素法に従って、可及的に容易に、且つより高精度に算出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】本発明に係る、気流状態算出方法で気流状態が算出される空調空間の構成を示す図である。
【図1B】本発明に係る気流状態算出方法により、図1Aに示す空調空間を、気流状態算出のためにモデル化した状態を示す図である。
【図2】本発明に係る気流状態算出方法が実行されるコンピュータの構成を示す図である。
【図3】本発明に係る気流状態算出方法の、処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る気流状態算出方法により気流状態の算出が行われる、空調空間の具体的な構成を示す図である。
【図5】本発明に係る気流状態算出方法に基づいた算出結果と、空調空間での実測値とを比較する第一の図である。
【図6】本発明に係る気流状態算出方法に基づいた算出結果と、空調空間での実測値とを比較する第二の図である。
【図7】本発明に係る気流状態算出方法に基づいた算出結果と、空調空間での実測値とを比較する第三の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明に係る気流状態の算出方法について説明する。当該気流状態算出方法は、建築物内でフリーアクセスフロアの床吹き出し空調が行われる際の室内への吹き出し気流を、有限要素法を用いて少ない計算負荷で予測するCFD解析に関する
。なお、以下の実施の形態の構成は例示であり、本発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明に係る気流状態算出方法が適用される空調空間3であり、これはいわゆるフリーアクセスフロアの形式で必要な空調が提供される。具体的には、空調空間3は、チャンバ空間1と室内空間2を有しており、チャンバ空間1には図示しない空調機からの空調流体(空調空気)が送り込まれる一方で、室内空間2には空調対象であるデータセンターの計算機等が配列されている。このチャンバ空間1は、支持脚6によって支持されている床パネル4で、室内空間2と区切られることで形成されており、また、床部分の所定の場所に、チャンバ空間1と室内空間2とを連通する吹き出し口5が設けられている。なお、チャンバ空間1にはケーブル7等を敷設することもでき、これによりケーブル7等を室内空間に露呈することなく所望の配線が可能となる。
【0026】
このように、吹き出し口5が設置されることで、空調機から送り込まれた空調空気は、チャンバ空間1内を流れ、吹き出し口5を通って室内空間2へと入る。そして、室内空間2に入った空調空気は、計算機の冷却用吸気口に吸い込まれることで、該計算機自体の冷却を行うことが可能となる。したがって、計算機等の安全な運転のためにも適切な冷却(空調)が行われる必要があり、そのためにも室内空間2における気流状態の正確な算出が求められる。一方で、室内空間2における気流状態の算出にあたり、高精度の算出結果を得るべく作成するメッシュ数を多くすると算出に要する時間が長くなる。そこで、本発明に係る気流状態の算出方法においては、高精度の算出結果と算出に要する時間の短縮化を両立するために、CFD解析における空調空間3のうちチャンバ空間1の適切なモデル化と、チャンバ空間1と室内空間2とを連通する吹き出し口5の適切なモデル化を行う。
【0027】
そこで、本発明に係る気流状態算出方法では、当該方法による上記モデル化の対象となる空間、すなわち吹き出し口5とチャンバ空間1を含む空間を、対応チャンバ空間10として設定する。具体的には、図1Aに示すように吹き出し口5を含む、その近傍のチャンバ空間1の一部を、対応チャンバ空間10と設定する。そして、上記2つのモデル化は、この対応チャンバ空間10に対して施され、そのモデル化の状況を図1Bに示す。
【0028】
まず、対応チャンバ空間10におけるチャンバ空間1のモデル化(以下、「第一モデル化」という。)について説明する。本発明に係る気流状態算出方法では、上記の通り高精度の算出結果と算出に要する時間の短縮化を両立するために、第一モデル化においては、対応チャンバ空間10に存在している障害物の空調空気に対する抵抗の程度を、等方性体積圧力損失というパラメータで表わす。すなわち、対応チャンバ空間では、従来のCFD解析において行われているメッシュ作成に代えて、等方性体積圧力損失というパラメータを設定することで、上記目的の達成を図る。これにより、気流状態算出のためのCFD解析での繰り返し計算量を少なくすることが可能となる。
【0029】
ここで、等方性体積圧力損失を対応チャンバ空間10に設定する技術的意義は、当該空間での全方向に障害物が均等に配置され、その障害物により空調空気の抵抗状態を形成することが可能という点である。そして、この等方性体積圧力損失が大きければ大きいほど、空調空気に対する抵抗の程度が大きくなる。このように対応チャンバ空間10において等方性体積圧力損失を設定することにより、そこに存在する障害物による空調空気への抵抗の程度を、室内空間2での気流状態の算出に反映させることが可能となり、以て精度の高いCFD解析結果を得ることができる。また、対応チャンバ空間10においては、モデル構成に伴うメッシュ分割が大幅に削減できるため、結果的にCFD解析結果を得るために要する時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0030】
ここで、対応チャンバ空間10における等方性体積圧力損失ΔPは、以下の式で算出で
きる。
【数1】

ρ:流体密度[kg/m3]
C:抵抗係数
V:流体速度[m/s]
流体密度ρおよび流体速度Vは、実際の空調空間の状況に応じて設定が可能である。そして、上記式での唯一の変数である抵抗係数Cについては、対応チャンバ空間10に占める障害物の面積比(占有率)に準じた値を設定する。具体的には、吹き出し口5近傍の領域において、該吹き出し口5を介してチャンバ空間1から室内空間2へ供給される空調空気の流れ方向、換言すると吹き出し口5の高さ方向であって、その周囲に存在するパネル壁面4によって形成される吹き出し方向に沿った基準断面積11における、対応チャンバ空間10内に存在する障害物の断面積の占有率に準じて、抵抗係数Cを設定する。抵抗係数Cの具体的な設定については後述する。
【0031】
このように導出される等方性体積圧力損失は、図1Bに示すように、対応チャンバ空間10に対してP1としてモデル化されることになる。
【0032】
次に、フリーアクセスフロア用吹き出し口5は、落下防止や強度が必要なこと、空調空気を床上に吹出すことなどを目的とした形状により、数cm、数mm間隔の格子状となっている。CFD解析による気流状態の算出のためには、より忠実に形状を模擬することが望ましいが、その分多くのメッシュ分割が必要となり、算出時間の延長へとつながってしまう。そこで、このような現状の課題を踏まえて、上記吹き出し口5のモデル化(以下、「第二モデル化」という。)が行われる。
【0033】
第二モデル化では、吹き出し口5による空調空気の流速に着目し、そこで吹き出し口5の開口率を設定する。当該開口率の技術的意義は、チャンバ空間1から室内空間2へ空調空気が供給されるときの、流速を決定するパラメータであり、開口率が小さくなるほど室内空間2へ流れ込む空調空気の流速が大きくなり、室内空間2での気流状態に反映される。このように設定される開口率は、図1Bに示すように、対応チャンバ空間10の吹き出し口5が設置される箇所に対してP2とモデル化されることになる。
【0034】
さらに、第二モデル化では、吹き出し口5の周端部で生じる、室内空間2からチャンバ空間1への誘引風に着目し、そこで吹き出し口5の高さを、該吹き出し口5の周端部の全周に設定する。当該吹き出し口5の高さの技術的意義は、実際の空調給気の供給の際に風量が分岐される場所で発生する圧力損失により生じる誘引風の再現であり、この吹き出し口5の高さを設定しなければCFD解析において誘引風の影響を反映させた気流状態の算出が困難となる。なお、誘引風の出現に関与するのは、吹き出し口5の周端部の高さであるから、それ以外の場所での高さ(床パネルの厚さ)は、設定しない。これにより気流状態の算出に要する労力を低減できる。このように設定される吹き出し口5の高さは、図1Bに示すように、対応チャンバ空間10の吹き出し口5の高さ方向にP3とモデル化されることになる。吹き出し口の高さについてより具体的に説明すると、該高さとして、コンクリートスラブの厚みや、床面等の、チャンバ空間1と室内空間2との接面から直交して延出する短管の長さ、チャンバ空間1から気流変換した流路の長さ等が挙げられる。
【0035】
このように本発明に係る気流状態算出方法では、第一モデル化と第二モデル化の二重モデル化により、従来のCFD解析で行われるメッシュ分割を控えることにより算出時間を
抑制しながら、チャンバ空間1の流れ場による影響を室内空間2に反映させ、また吹き出し口5による気流状態への影響を的確に反映させることが可能となる。また、吹き出し口5や床パネル4の裏側には、風量調整用のシャッタや補強のための補強構造部材が配置されることもあるが(図1Aにおいては図示せず)、これらの存在も空調空気に対する抵抗に寄与すると考えられる場合は、上記第一モデル化による等方性体積圧力損失を調整することで、より正確な気流状態の算出が容易に行い得る。
【0036】
また、従来のCFD解析において、チャンバ空間の障害物を詳細に模擬せず、少ないメッシュで吹き出し気流を模擬する方法として、チャンバ空間から室内空間への吹き出し面に面積圧力損失(開口率)を設定する方法が挙げられる。この場合、チャンバ空間の流れ場は実際より距離減衰の小さい流れ場となり、空調機近傍は誘引が増えて大きなマイナス風量となり、チャンバ空間への片側給気時のチャンバ末端部やチャンバ空間への両側給気時の室中央部など吹き出しの分岐抵抗が小さくなる場所では、よりプラス風量となる。そこで、実際の流れ場に近似させるために、実際の吹き出し口の開口率よりも大きい抵抗を与えることが可能な開口率を設定し、チャンバ空間内の圧力を高めて吹き出し風量を計算させることになる。しかし、このような手法では、設定する開口率が、チャンバ空間に存在する障害物の量等によって変更することになり、且つ吹き出し口の場所によりその値を変える必要があるため、気流状態の算出に要するユーザの作業量は大きい。一方で、本発明に係る算出方法は、上記の通り、第二モデル化において吹き出し口5の開口率は設定するが、これは実際の吹き出し口5の形状、寸法に従うものであり、チャンバ空間の障害物の影響は、第一モデル化において等方性体積圧力損失として設定される。当該等方性体積圧力損失は、基準断面積11における障害物の占有率に従って対応チャンバ空間10に対して設定されるため、気流状態の算出に要するユーザの作業量は極めて小さくなる。
【0037】
上述までの気流状態算出方法に従って室内空間2の気流状態を算出する、本発明に係る気流状態算出装置の具体的な構成について、以下に説明する。図2は、上記気流状態算出装置の構成を示す図である。この気流状態算出装置は、室内空間2のCFD解析を行うユーザが、該CFD解析に関する所定のデータの入力を行うための入力装置20、その入力装置20から入力されたデータを記憶するデータ記憶部21、上述した第一モデル化および第二モデル化を行い、室内空間2の気流状態算出のために所定のモデル化処理を行うCFDモデル生成部22、そのモデル化結果に基づいて有限要素法によりCFD解析を実行し、気流状態の算出を行う気流状態算出実行部23、その算出結果をユーザに対して数値やイメージ等を利用して表示する表示部24を有する。
【0038】
そして、上記気流状態算出装置はコンピュータによって構成され、さらに、上記データ記憶部21、CFDモデル生成部22、気流状態算出実行部23、表示部24は、不図示のCPU、メモリ、ハードディスク等を含む当該コンピュータ上で実行されるコンピュータプログラムにより実現される。また、上記入力装置20として、当該コンピュータに設けられたキーボードやマウス等が利用できる。
【0039】
次に、図2に示す気流状態算出装置による、室内空間2の気流状態の算出について、図3に基づいて説明する。図3は、気流状態算出装置によって行われる、有限要素法に基づいたCFD解析の処理の流れを示すフローチャートである。なお、当該フローチャートによるCFD解析の対象を図4に示す。図4に示される空調空間30は、直方体の空間であって、その中に6列のフリーアクセスフロアの床吹き出し空調構造が設けられている。そして、符号31は空調対象としてのサーバラックであり、吹き出し口32に沿って且つ2列の吹き出し口32の間の無孔床に立設されている。ここで、各空調構造の床下空間の構成は、実質的に図1Aに示す構成と同様であり、以下、説明を簡便にするため、図1Aに示す構造が図4に示す空調空間30に当てはまることを前提とする。そして、空調空間30では、床パネルで形成される床面に開口率40%の吹き出し口32が設けられている。
この吹き出し口32から空調空気を供給すべく、各空調構造の両側に空調機が設置され、各空調機は、空調空間の天井に設けられた還気口を経由して室内の空気を空調機還気口33に取り入れ、それに空調処理を行った後、空調空気を空調機給気口34からフリーアクセスフロアの床下空間であるチャンバ空間に送り出す。
【0040】
ここで、図3に示すフローチャートにおけるS101〜S104までの処理はCFDモデル生成部22が主として行い、S105〜S107までの処理は気流状態算出実行部23が主として行う。以下に各処理の詳細を説明する。先ず、S101では、空調空間30の対応チャンバ空間10の設定が、入力装置20からの入力に従って行われる。空調空間30には、同じ空調構造が6列設けられていることから、一つの空調構造について代表的に対応チャンバ空間を設定する。本実施例では、当該一つの空調構造に含まれる吹き出し口32の全てが包含されるように対応チャンバ空間を設定する。S101の処理が終了すると、S102へ進む。
【0041】
S102では、S101で設定された対応チャンバ空間において等方性体積圧力損失の設定が、入力装置20からの入力、および/またはデータ記憶部21に記憶されているデータに従って行われる。当該処理は、上記第一モデル化に対応する処理である。本実施例における等方性体積圧力損失の設定については、基準等方性体積圧力損失を設定する第一ステップと、当該基準等方性体積圧力損失を補正する第二ステップとを経る。第一ステップで設定される基準等方性体積圧力損失は、対応チャンバ空間10において、特に構成の変動が少ないと考えられる障害物(以下、「固定障害物」という)に基づいて決定される。本実施例では、フリーアクセスフロアの床面を支持する支持脚6を固定障害物として扱う。そして、基準等方性体積圧力損失は、支持脚6の基準断面積11における占有率に基づいて算出される。具体的には、支持脚6の当該占有率が大きくなるに従い基準等方性体積圧力損失は大きく設定され、例えば、上記式1の抵抗係数Cの値を0.4とする。
【0042】
次に、第二ステップにおいては、第一ステップで設定された基準等方性体積圧力損失を、対応チャンバ空間10において、構成の変動が多いと考えられる障害物(以下、「非固定障害物」という)に基づいて補正する。本実施例では、フリーアクセスフロアの床下のチャンバ空間1に敷設されるケーブル7を非固定障害物として扱う。そして、基準等方性体積圧力損失の補正は、ケーブル7の基準断面積11における占有率に基づいて算出される。具体的には、ケーブル7の当該占有率が大きくなるに従い基準等方性体積圧力損失の値を更に大きくするように補正がされ、例えば、ケーブル7の占有率に基づいて上記式1の抵抗係数Cの値を0.4から0.5に補正する。このように、等方性体積圧力損失の設定を二段階で行う利点は、構成が変更され得る障害物の状況を、空調空間30の室内の気流状態の算出に的確に反映させることが可能となる点である。なお、本実施例では、支持脚6を固定障害物としたが、必ずしも支持脚6の全てを固定障害物として扱う必要は無く、その一部でもよい。また、支持脚以外の障害物も固定障害物として扱っても構わない。非固定障害物についても、同様である。
【0043】
S102の処理が終了すると、S103およびS104へ進む。入力装置20からの入力、および/またはデータ記憶部21に記憶されているデータに従って、S103では、S101で設定された対応チャンバ空間において吹き出し口32(図1Aに示す吹き出し口5)の開口率が設定され、S104では、当該対応チャンバ空間において吹き出し高さの設定がされる。なお、開口率および吹き出し口の高さは、実際の設備に従った値が、例えば設計図に従って設定される。なお、当該処理は、上記第二モデル化に対応する処理である。S104の処理が終了すると、S105へ進む。
【0044】
S105では、空調空間30の室内の気流状態を算出するために必要な所定のパラメータ、例えば、空調機からチャンバ空間1に送り込まれる空調空気の温度や風速等のデータ
の取得が行われる。当該処理は、入力装置20からの入力、および/またはデータ記憶部21に記憶されているデータに従って行われる。S105の処理が終了すると、S106へ進む。
【0045】
S106では、気流状態算出実行部23によるCFD解析の実行に必要な有限要素格子の取得(メッシュ化)が、上記第一モデル化および第二モデル化が行われた場所、すなわち対応チャンバ空間以外の、空調空間30の場所に対して行われる。なお、有限要素格子は従来技術による任意の有限要素格子形成技術に従って取得されればよい。そして、S106の処理後、S107で気流状態算出実行部23によるCFD解析が実行され、その解析結果が表示部24によりユーザに表示される。
【0046】
ここで、上記気流状態算出装置による気流状態の算出結果を、図5、図6に示す。図5は、吹き出し口32における風量分布について、本発明を適用した場合(式1における抵抗係数C=0.5)と、適用しない場合(同抵抗係数C=0)の2ケースのCFD解析結果と実測とを比較して示した図であり、その横軸は、空調機側からの距離に対応している。図5より、本発明に係る気流状態算出装置(同抵抗係数C=0.5)でのCFD解析結果と実測
とは、空調機側から遠方の風速分布まで、ほぼ一致する結果が得られた。一方、等方性体積圧力損失を付与しない場合(同抵抗係数C=0)でのCFD解析結果は、両側に設置された空調機近傍において、床下の動圧が実際より大きくなるため、誘引が増加し給気風量が減少する。また室中央部では、両側からの空調機給気が実際よりも速い速度で衝突するため、給気風量が増加する結果となる。
【0047】
図6は、開口率の違いによる吹き出し風速の変動を示す図であり、その横軸は図5と同様に空調機側からの距離に対応している。なお、図4に示す空調空間30の吹き出し口32の開口率は40%であるところ、それと同じ値を本発明に係る気流状態解析装置に設定することで、実測の風速の変動とほぼ一致する結果を得ることができることが分かる。
【0048】
このように、本発明に係る気流状態算出装置では、床下障害物の存在(その増減も含む)に対して、抵抗係数を介した等方性体積圧力損失、開口率、吹き出し口高さの数値変更だけで精度良く床下気流を再現でき、簡易なモデル修正で済む。また、詳細なモデル化に伴う調査やモデル作成時間の削減、吹き出し口や床下障害物に起因するメッシュ数の増加が無くなることにより、大幅な計算時間の短縮が可能となる。以下に、計算時間の短縮効果について、一例を示す。
【0049】
<CFD解析に使用したコンピュータスペック>
Windows(登録商標) XP, Pentium(登録商標) (R)4, CPU3.4GHz, 2.99GB RAM
<解析結果>
・従来技術によるフリーアクセスフロア支持脚を詳細模擬したモデルのメッシュ数と計算時間(500サイクル)
202(X)×194(Y)×43(Z)=1,685,084 約6時間30分
・本発明に係る気流状態算出装置による計算時間(等比率1、アスペクト比1)
153(X)×148(Y)×43(Z)=973,692 約4時間
この解析結果では、メッシュ数と計算時間がともに約4割削減された。計算精度に影響
を与える等比率(隣り合うメッシュ幅の比率、推奨値0.8〜1.2)やアスペクト比(メッシュ幅の縦横比、推奨値10以下)を適正な値とした場合、さらに多くのメッシュが必要となり、従来技術では、実務的な計算が困難となると考えられる。
【0050】
また、図7に、本発明に係る気流状態算出装置によって算出されたその他の空調空間での、等方性体積圧力損失における抵抗係数と、温度偏差および風速偏差の関係を示す。温度偏差は、実測の温度値とCFD解析値の差分を、風速偏差は、実測の風速値とCFD解
析値の差分を示す。図7から明らかなように、本発明を適用しない場合(抵抗係数C=0.0)は、適用する場合と比べて、温度および風速ともに、実測値とCFD解析値との乖離
が大きくなる傾向がある。また、本発明を適用し抵抗係数Cを設定する場合でも、温度および風速ともに、所定の抵抗係数C(図7においては概ね0.65)近傍で、実測値とCFD解析値との乖離が極小となる。これにより、本発明に係る気流状態算出装置では、適切な等方性体積圧力損失(すなわち、抵抗係数C)を設定することで、より実際の気流状態に近い気流状態を算出することが可能であることが明らかである。
【0051】
<その他の実施例>
上記実施例においては、等方性体積圧力損失を決定するステップとして第一ステップによる基準等方性体積圧力損失の算出と、第二ステップによる当該基準等方性体積圧力損失の補正について開示した。これに代えて、等方性体積圧力損失の算出するために、上記式1中の抵抗係数Cを以下の、式2に従ってもよい。
C=1−k・H/D (式2)
H:チャンバ空間の高さ
D:障害物であるケーブルの断面積
k:比例定数
すなわち、上記式2は、チャンバ空間の高さが高くなるに従い、ケーブルによる抵抗の程度は小さくなり、ケーブルの断面積が大きくなるに従い、ケーブルによる抵抗の程度が大きくなるように、抵抗係数を導き出すものである。なお、ケーブルの断面積は、空調空間に供給されている電流の許容値から類推するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1・・・・チャンバ空間
2・・・・室内空間
3・・・・空調空間
4・・・・床パネル
5・・・・吹き出し口
6・・・・支持脚
7・・・・ケーブル
10・・・・対応チャンバ空間
11・・・・基準断面積
30・・・・空調空間
32・・・・吹き出し口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面パネルによって画定された空間であって空調機から出される空調流体の送風が行われるチャンバ空間と、該チャンバ空間との境界に設けられた吹き出し口を介して該空調流体の供給が行われる室内空間と、を含む空調空間において、該チャンバ空間から該室内空間に供給される空調流体によって該室内空間に形成される気流状態を有限要素法により算出する気流状態算出方法であって、
前記吹き出し口近傍の前記チャンバ空間の一部もしくは全部を、気流状態算出のための対応チャンバ空間として設定する設定ステップと、
前記設定ステップで設定された前記対応チャンバ空間に存在する障害物の、送風される空調流体に対する抵抗の程度を、該対応チャンバ空間における等方性の体積圧力損失として設定する第一モデル化ステップと、
前記吹き出し口の開口率、および該吹き出し口における前記チャンバ空間から前記室内空間への空調流体の供給方向に沿った、該吹き出し口の高さを設定する、第二モデル化ステップと、
前記対応チャンバ空間に送風される空調流体に関する所定のパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、
前記第一モデル化ステップで設定された前記対応チャンバ空間の等方性体積圧力損失と、前記第二モデル化ステップで設定された前記吹き出し口の開口率及び高さと、前記パラメータ取得ステップで取得された前記所定のパラメータに基づいて、前記吹き出し口を介して前記室内空間に供給される空調流体の気流状態を算出する算出ステップと、
を含む、気流状態算出方法。
【請求項2】
前記等方性の体積圧力損失は、前記対応チャンバ空間に存在する障害物の、前記吹き出し口における前記チャンバ空間から前記室内空間への空調流体の供給方向に沿った基準断面積における占有率に基づいて決定される、
請求項1に記載の気流状態算出方法。
【請求項3】
前記第一モデル化ステップは、
前記対応チャンバ空間において前記壁面パネルを支持する支持部材の、前記基準断面積における密度、および該支持部材の高さに基づいて、該対応チャンバ空間に対応する基準等方性体積圧力損失を算出する第一ステップと、
前記対応チャンバ空間に存在する、前記支持部材以外の障害物の、前記基準断面積における占有率に基づいて、前記基準等方性体積圧力損失を補正し、該対応チャンバ空間の等方性の体積圧力損失を導出する第二ステップと、
を有する、
請求項2に記載の気流状態算出方法。
【請求項4】
前記第二モデル化ステップでは、前記吹き出し口の高さは、該吹き出し口の全ての周端部に設定され、該吹き出し口を除く前記壁面パネルにおいては、その高さは設定されない、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の気流状態算出方法。
【請求項5】
前記チャンバ空間は、建物の室内の床下空間、該建物の室内の天井裏空間、該建物の室内の壁面に沿った空間の何れかである、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の気流状態算出方法。
【請求項6】
壁面パネルによって画定された空間であって空調機から出される空調流体の送風が行われるチャンバ空間と、該チャンバ空間との境界に設けられた吹き出し口を介して該空調流体の供給が行われる室内空間と、を含む空調空間において、該チャンバ空間から該室内空
間に供給される空調流体によって該室内空間に形成される気流状態を、コンピュータに有限要素法により算出させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記吹き出し口近傍の前記チャンバ空間の一部もしくは全部を、気流状態算出のための対応チャンバ空間として設定する設定ステップと、
前記設定ステップで設定された前記対応チャンバ空間に存在する障害物の、送風される空調流体に対する抵抗の程度を、該対応チャンバ空間における等方性の体積圧力損失として設定する第一モデル化ステップと、
前記吹き出し口の開口率、および該吹き出し口における前記チャンバ空間から前記室内空間への空調流体の供給方向に沿った、該吹き出し口の高さを設定する、第二モデル化ステップと、
前記対応チャンバ空間に送風される空調流体に関する所定のパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、
前記第一モデル化ステップで設定された前記対応チャンバ空間の等方性体積圧力損失と、前記第二モデル化ステップで設定された前記吹き出し口の開口率及び高さと、前記パラメータ取得ステップで取得された前記所定のパラメータに基づいて、前記吹き出し口を介して前記室内空間に供給される空調流体の気流状態を算出する算出ステップと、
を実行させる、気流状態算出プログラム。
【請求項7】
壁面パネルによって画定された空間であって空調機から出される空調流体の送風が行われるチャンバ空間と、該チャンバ空間との境界に設けられた吹き出し口を介して該空調流体の供給が行われる室内空間と、を含む空調空間において、該チャンバ空間から該室内空間に供給される空調流体によって該室内空間に形成される気流状態を有限要素法により算出する気流状態算出装置であって、
前記吹き出し口近傍の前記チャンバ空間の一部もしくは全部を、気流状態算出のための対応チャンバ空間として設定する設定手段と、
前記設定手段によって設定された前記対応チャンバ空間に存在する障害物の、送風される空調流体に対する抵抗の程度を、該対応チャンバ空間における等方性の体積圧力損失として設定する第一モデル化手段と、
前記吹き出し口の開口率、および該吹き出し口における前記チャンバ空間から前記室内空間への空調流体の供給方向に沿った、該吹き出し口の高さを設定する、第二モデル化手段と、
前記対応チャンバ空間に送風される空調流体に関する所定のパラメータを取得するパラメータ取得手段と、
前記第一モデル化手段によって設定された前記対応チャンバ空間の等方性体積圧力損失と、前記第二モデル化手段によって設定された前記吹き出し口の開口率及び高さと、前記パラメータ取得手段によって取得された前記所定のパラメータに基づいて、前記吹き出し口を介して前記室内空間に供給される空調流体の気流状態を算出する算出手段と、
を備える、気流状態算出装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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