説明

気道狭窄の誘起及び/または痰の誘発の方法及び装置

【課題】ぜん息に対する過敏性を試験する方法が提供される。
【解決手段】塩化ナトリウム、マンニトール、又は、患者の気道表面液の容量オスモル濃度を変えることのできる他の物質の有効量を吸引する。この物質は、呼吸に適したサイズの粒子を有効比率で含む分散可能な乾燥粉末の形態をなしている。次いで、患者を計測してぜん息の傾向を表す気道狭窄を検出する。同様の乾燥粉末吸引技術は、鼻炎、痰の誘発及び粘液清浄化進行の過敏症試験にも用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
気道狭窄の誘起及び/または痰の誘発の方法及び装置発明の属する技術分野 本発明は、気道狭窄を誘起し及び/または痰を誘発するために有用な方法及び装置に関する。より詳細には、本発明は、狭窄及び/または痰の誘発を起こすために、気道の容量オスモル濃度を変化させるための乾燥粉末状物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ぜん息は気道の慢性炎症性疾患であり、広範な化学的、物理的、アレルゲン的刺激に対する気管支過敏症(hyperresponsiveness)をもたらす。この過敏症は、気道の狭窄及び1秒間当たりの強制呼吸容量(forced expiratory volume、FEV1)の減少に現れる。
【0003】
刺激物の吸入に応じたFEV1の変化を測定する気管支過敏症の試験法は、ぜん息を持つと疑われるヒトにおける気道過敏症の同定及び試験のための技術として良好に確立されている(J.Allergy Clin.Immunol.,1979; 64: 1-250,Ster k,et al.,Eur.Respir.J.,1993; 6(Supp 16): 53-83)。
【0004】
最も普通に用いられる刺激薬はヒスタミン及びメタコリンであり、これらは気道の特定のレセプターに直接作用して気管支の平滑筋収縮を引き起こす。これらの試薬による対抗量(challenge)は高い負の予想値を持つが、ランダム集団で実施するとぜん息に対して低い選択性しか持たない。最近、ヒトに対する使用が認められている唯一の製品は、米国のフェデラル・ドラッグ・アドミニストレーション(Federal Drug Administration)製のProvoline (Hoffman La Roche)のみであり、これは塩化メタコリンである。
【0005】
疑わしい試薬とぜん息の発症との関係を確立するために特定のアレルゲンを同定する方法として、呼吸に適したアレルゲン(例えば、花、杉花粉、樹脂、ゴム)粒子を含む乾燥粉末による気管支刺激試験も用いられている。これらは、職業性ぜん息の実験に最も普通に用いられている。
【0006】
最近10年間に、本発明者の研究所は超音波噴霧器で生成されたハイパーオスモル(hyperosmolar)食塩水の湿式エアロゾルを用いた気管支刺激試験を開発、標準化した(Anderson,et al.,in Provocation Testing in Clinical Practice ,pp 249-278,Marcel Dekker Inc.,1994)。この試験は、オーストラリア全土の研究所で良好に確立され、医療給付予定表(Medical Benefits Schedule Book) に記載されている。この対抗試験は、欧州鋼鉄石炭協会(European Community fo r Steel and Coal)の研究グループによっても報告されている(Sterk,et al., Eur.Respir.J.,1993,6(Supp 16): 53-83)。最近では、小児におけるぜん息及びアレルギーの国際研究会の気管支刺激部会(Bronchial Provocation Committ ee of the International Study of Asthma and Allergy)により推奨されている。
【0007】
ハイパーオスモル食塩水対抗は、現在ぜん息を持っているヒト、及び職業誘発性ぜん息にかかっているヒトを同定するために極めて優れた技術である。また、ぜん息の治療に用いる薬剤の評価にも非常に有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Allergy Clin.Immunol.,1979; 64: 1-250
【非特許文献2】Ster k,et al.,Eur.Respir.J.,1993; 6(Supp 16): 53-83
【非特許文献3】Anderson,et al.,in Provocation Testing in Clinical Practice ,pp 249-278,Marcel Dekker Inc.,1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ハイパーオスモル食塩水の湿式エアロゾルを用いることの主な欠点は、高価な超音波噴霧器が必要なことである。他の欠点としては、超音波噴霧器が洗浄及び殺菌といった維持を必要とすることが挙げられる。さらに、噴霧器の出力が経時的に及び装置毎に異なる場合、各試験での出力を測定するために秤量装置が必要である。他の欠点は、他の湿式エアロゾルと同様に、噴霧器によって生成された量の半分以上が環境中に分散されるので、対抗量を投与するヒトもエアロゾルに曝されることである。さらに、そのヒトは患者の唾液にも曝される。患者側にも幾分の困難があり、それらは鼻栓の使用、多くの唾液の生成及び塩の味を含んでいる。湿式エアロゾルでの対抗の実施に要する時間は、軽度のぜん息または健常な対照者では70分程度である。これは、溶液及び装置の準備(約10分)、軽度のぜん息患者の実際の対抗時間としての高々30分、及び対抗後の洗浄及び殺菌(約30分)を含む。
【0010】
また、塩の湿式エアロゾルが、患者の粘液清浄(mucocilliary clearance)及び痰の誘発の目的に使用されることも知られている。この技術は、嚢胞性線維症及び気管支炎を持つ患者の気道からの分泌物の清浄化を促進するために、1970年代から理学療法士によって使用されている。近年、この技術は、肺炎を引き起こすニューモシスティス・カリニ(Pneumocystis carinii)を持つと疑われ治療が必要なHIV患者に用いられている。結核菌を持つと疑われる患者の痰分析も、疾患を発見する簡便な方法として知られている。
【0011】
気道表面液(airway surface liquid)の容量オスモル濃度の増加によって、水分が気道の管腔へ移動する。この水分の移動及び向上した粘液清浄が、過剰容量オスモル濃度によって誘起され、同時に痰の生成を刺激する。この処理に伴う問題は、気道狭窄の決定のためのハイパーオスモル食塩水対抗に伴う問題と類似している。この方法を実施するのにも高価な噴霧器が必要であるからである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(a)呼吸に適したサイズの粒子を有効比率で含む分散可能な乾燥粉末の形態をなす物質の、患者の気道表面液の容量オスモル濃度を変えることができるための有効量を気道に吸入させ、(b)この患者の気道の空気流通抵抗を表すパラメーターを測定する過程からなる患者の気道狭窄を誘起するための方法である。
【0013】
本発明の他の態様は、呼吸に適したサイズの粒子を有効比率で含む分散可能な乾燥粉末の形態をなす物質の患者の気道表面液の容量オスモル濃度を変えることができるための有効量を気道に吸入させることからなる痰の誘発方法である。
【0014】
本発明のさらに他の態様は、呼吸に適したサイズの粒子を有効比率で含む分散可能な乾燥粉末の形態をなす物質の、患者の気道表面液の容量オスモル濃度を変えることができるための有効量を含有する破裂性容器(rupturable container)である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明による乾燥粉末対抗の前及び後における、健常者及びぜん息患者の予想(predicted)FEV1の比率を示すグラフである。
【図2】図2は、過敏症患者におけるぜん息反応を起こすのに必要とされる湿式エアロゾルの投与量に対する乾燥粉末投与量を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明による乾燥粉末対抗の前後での鼻の気流抵抗を示すグラフである。
【図4】図4は、2回の連続した本発明による乾燥粉末対抗の前後での鼻気流抵抗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
湿式エアロゾルではなく乾燥粉末の形態で患者にハイパーオスモル対抗量を投与することは、噴霧器を通さず、従来の乾燥粉末吸入によって対抗量を投与することを可能にする。この吸入は極めて安価で済み、広範に入手可能であるので非常に有利である。洗浄、殺菌、維持、または用いた乾燥粉末試験に含まれる秤量をする必要がないので、対抗を実施する時間は半分になる。また、望まれる反応を達成するための投与に必要とされる乾燥粉末状の対抗物質は、湿式エアロゾル形態で必要とされる量より少ないこともわかった。
【0017】
この明細書で用いる「気道」という用語は、鼻の上気道及び肺の下気道の両方を含む。本発明は、特に肺の下気道の場合への適用に適しているが、鼻の上気道へも適用可能であり、乾燥空気又はアレルゲン及び類似の環境で誘発された実際のまたは初期の鼻炎の検出に用いられる。本発明は以後特に下気道について説明するが、この技術は鼻の気道についても同様の効果をもって適用できる。
【0018】
吸入する物質は、患者に生物学的に適合し、患者の気道表面液の容量オスモル濃度を変化させ、通常は上昇させることができるものであれば如何なる物質であってもよい。好ましくは、この物質は鉱物塩または糖または糖アルコールであり、さらに好ましくは、ナトリウム塩またはカリウム塩、ヘキソース及びペントース糖類並びにそれらに相当する糖アルコールからなる群から選択される。最も好ましくは、この物質は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、デキストロースからなる群から選択される。物質のより好ましい群の中で、低価格、要求される粒子サイズでの入手しやすさ、及び生物学的適合性の点から、塩化ナトリウム及びマンニトールが最も好ましい。
【0019】
この物質は、通常は最初の8−12呼吸(generation)で、気道内に吸入されることが必要であり、そして有効量が気道の表面に沈着しなければならない。好ましくは、物質は、気道の最初の12の呼吸において気道表面に接触する。これを起こすために、吸入させる物質は初期において十分な量で存在し、それが十分に分散して患者の吸気または推進ガスによって運搬され、その十分な比率が呼吸に適したサイズでなければならない。ここで、「呼吸に適したサイズ」とは、沈降を起こしたり患者の呼吸の妨げにならないように十分小さいと同時に、患者の肺にまで引き込まれない大きさを意味する。実際には、約7μm未満の粒子が呼吸に適していることがわかった。
【0020】
ぜん息試験のように気道の狭窄を誘発を図る場合は、口腔咽頭部への刺激をできるだけ低減するように、多くの粉末を呼吸に適したものにするのが望ましい。この場合、呼吸に適した範囲の粒子は、好ましくは物質の少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも25重量%、さらに好ましくは少なくとも40重量%、最も好ましくは少なくとも50重量%である。反対に、痰の誘発を指向する場合は、呼吸に適した粒子と呼吸に適さない粒子の両方を含むのが好ましく、後者は、痰の生成を助長する咳を誘発する。各場合における好ましい投与量は個々人の状況に依存しており、健康管理者によって選択される。
【0021】
狭窄を誘起する方法は、患者のぜん息のかかり易さを試験するために用いられる。この場合患者は、各々が高い投与量の選択された物質からなる一連の対抗量を投与される。各対抗の後、患者は、通常は1秒間の強制呼吸容量(FEV1)を測定することによって気道狭窄を試験される。気道狭窄を表すパラメーターを測定する他の知られた方法も同様に用いられるが、気道抵抗は、通常は鼻に対して用いられる。多くの場合に、ぜん息または鼻炎について陰性傾向を示す狭窄が無いことが望ましいだろう。患者がぜん息にかかりやすい場合、投与した物質の有効量、即ち、気道表面に実際に到達した量に対する患者の過敏性に比例して狭窄が生じる。各場合において、対抗後の気流抵抗を示すパラメータを、対抗前の同じパラメータと比較して、気道狭窄の有無を表現する。
【0022】
物質は、例えばゼラチンなどの破裂性硬質カプセルに実装するのが好ましい。ぜん息または鼻炎の対抗試験の場合、このカプセルは1から100mg、好ましくは5から40mgの物質を含有するのが望ましい。痰の誘発及び粘液清浄の場合は、気道狭窄と無関係な患者において、より高い投与量とするのが好ましいことがわかる。ぜん息患者から痰を誘発したり、粘液清浄を向上させることを図る場合、処置前の患者に、ベーターアデノレセプター拮抗体、インタル(Intal)、またはネドクロミルナトリウム(Nedocromil sodium)を予め投与して気道狭窄を予防することが必要であろう。
【0023】
この痰の誘発方法は、細菌または微生物病原体の存在を分析するための痰の収集のみならず、ぜん息患者における肺からの炎症細胞の収穫にも用いられる。このことから、患者からの細胞の侵入的収穫無しに同定すべき炎症細胞を活性状態にすることが可能になる。
【0024】
目的
ぜん息の治療をされている患者における気道狭窄を誘導するための塩化ナトリウムまたはマンニトール粒子を運搬するためにカプセル系を用いることの有効性を確立すること。
【0025】
患者
1951年6月30日から1975年8月19日までに生まれた19−55歳のぜん息患者を、地方自治体から募集した。全てのヒトは臨床的にぜん息であることが認められ、この疾患の治療を受けていた。全ての患者は、非喫煙者であり、50%より大きな1秒間の強制呼吸容量(FEV1)のベースラインを有し、4.5%食塩水でFEV1が20%減少する対抗投与量FEV1(PD20)は<30mlであった。
【0026】
4.5%食塩水での対抗の実験計画は、Rodwell,et al.,1992(American Re view of Respiratory Disease,1992; 146: 1149-55)に記載されている。試験前6週間の間に胸の疾患に罹患した患者は実験から除外した。患者には、研究所を訪れる6時間前から気管支拡張薬を用いず、実験当日にはコルチコステロイドを与えず、実験前3−5日間は抗ヒスタミン薬を与えなかった。
【0027】
この実験は、ロイヤル・プリンス・アルフレッド病院(Royal Prince Alfred H ospital)倫理委員会に承認され、全ての患者には、実験開始前に同意書類へのサインを求めた。実験は、オーストラリアの連邦健康局(Commonwealth Department of HEalth of Australia)の治療用品投与(Therapeutic Goods Administration) に関する臨床治験計画通知書(Clinical Trial Notifiocation Scheme)(CTNNo94−492、94−633)に従って行なった。
【実施例】
【0028】
方法
実験計画
患者が最初に研究所を訪れたとき、各患者に、超音波噴霧器によって噴霧される4.5%食塩水を用いた標準的なハイパーオスモル食塩水対抗を実施した。この対抗によって、FEV1が20%減少した場合には、これも実験に含めた。ぜん息反応は、FEV1が対抗前の値から15%以上減少するものと考えた。患者は、2から5回に渡って研究所に通わせた。各通院の間隔は、最低でも48時間以上おいた。これらの通院の少なくとも1回に、カプセル化した塩化ナトリウムまたはマンニトールの乾燥粉末を吸入させた。17人の患者には、ハラマチック (Halermatic)吸入器(Fisons Pharmaceuticals製)を用いて塩化ナトリウムで対抗を実施し(実験1)、13人の患者には、マンニトールでの対抗を実施し(実験2)、この同じ患者のうち10人にはインゲルハイム(Ingelheim)吸入器(Boehr inger Ingerheim製)を用いて塩化ナトリウムでも対抗を実施した(実験3)。
【0029】
粉末運搬用の調剤及び装置
塩化ナトリウム及びマンニトールの乾燥粉末は、水溶液のスプレー乾燥によって調製したが、必要に応じて粉砕し、粒子サイズを呼吸に適した範囲(<7μm)とした。この粉末はゲネンテック社(Genentech Inc.)、南サンフランシスコ、カリフォルニア州で製造され、400または600mgの薬瓶で我々の研究所に送られた。2バッチの塩化ナトリウムと1バッチのマンニトールを入手した。重量で決定した量(5、10、20及び40mg)の乾燥粉末は、我々の研究所のスタッフが、硬質のゼラチンカプセル(Gallipot,St.Paul,Minnesota 55120) に実装した。再び水和する可能性を減らすために、この作業は調整した空気中(温度16−20℃、相対湿度40%)で行なった。
【0030】
粉末の患者への運搬
ハラマチックまたはインゲルハイム吸入器のいずれかに、5、10、20または40mgの塩化ナトリウムまたはマンニトールを含有するカプセルを導入した。カプセルは破れ、患者は1度又は2度カプセルが空になるまで吸入した。流動速度の測定 ハラマチックを介した吸入時の流速は、最大強制吸入における口の圧力変化を(Viggo-Spectromed DTX Disposable Pressure Transducer,Oxnard,CA,USAを用いて)測定することにより間接的に測定し、29−188L/分の値を記録した(Miniwriter Type WTR771A,Watanabe,Instruments Corp.)。この低い流速は装置の抵抗によるものである。
【0031】
インゲルハイム吸入器では、吸入時の流速は、それをミナト・オートスパイロメータ(AS800、大阪、日本)に接続するとともに、患者に各実験の最初において空のインゲルハイム吸入器を介して最大の吸入をするように求めて測定した。このミナト・AS800は、ロタメータ及び種々の流体を用いて較正した。
【0032】
反応の測定
・FEV1は、カプセルの投与後60秒に2回測定した(ミナト・オートスピロメータAS300、ミナト・メディカル・サイエンス(株)、大阪、日本)。
・最大値を気道反応の計算に用いた。
・各投与量でのEFV1の減少は、空のカプセルを含む吸入器からなされた吸入操作の60秒後に測定したFEV1の値に対する比率で表した。
・対抗は、空のカプセルを与えることから開始した。投与は5mgから始め、各投与量を2倍して、合計投与量635mg(5、10、20、40、2×40、4×40、4×40、4×40mg)とした。この投与の実験計画は、患者におけるFEV1の減少が”重篤”な場合は同じ投与量を繰り返すように変更した。
・患者への各対抗の完了に続けて、少なくとも30分間肺活量測定を行い、自発的回復を試験した。
・気道反応は、FEV1の20%の減少を引き起こすのに必要な運搬された投与量(PD20)によって表した。FEV1が15%減少する値(PD15)も同様に用いた。これらの値は、塩化ナトリウムまたはマンニトールの投与量に対するFEV 1の減少%の相関を示すグラフの線形内挿によって得た。
【0033】
粒子サイズの測定
マルチステージ液体インピンガー(multistage liquid impinger)(Astra Phar maceuticals社製)で測定した。この装置は13−6.8mm、6.8−3.1mm及び<3.1mmの範囲の粒子を測定するものである。この装置は、呼吸に適した範囲(<6.8mm)の塩化ナトリウムの投与量の測定に用いた。これを行うために、容量オスモル濃度の知られた25mlの塩化ナトリウムまたはマンニトールを、インピンガーの3つのステージに配置した。塩化ナトリウムまたはマンニトールの3つの40mgカプセルをハラマチックまたは吸入器に配置し、真空ポンプを用いて、「スロート」を介してインピンガーを通し60L/分で粉末を引き出した。3つのステージにある流体の容量オスモル濃度を測定した。この結果は、ハラマチックによって運搬される塩化ナトリウムの約30%は呼吸に適していることを示した。インゲルハイム吸入器を介したマンニトールでは22%、この吸入器を介した塩化ナトリウムでは16%であった。
【0034】
統計:4.5%食塩水での湿式エアルゾル対抗、及び塩化ナトリウム及びマンニトールでの乾燥粉末対抗のPD20について、幾何学的平均および95%の信頼区間を計算した。数値を対数変換した後、1対のt−試験を行った。対抗前の肺機能(FEV1)も、1対のt−試験を用いて比較した。乾燥マンニトール及び塩化ナトリウムでのPD20の湿式4.5%食塩水での値に対する関係を、ピエゾン補正係数(Piersons correlation coefficient)を用いて決定した。p<0.05の値を有意なものとした。
【0035】
参考値
肺活量測定は、ゴールドマンとベックレイク(Goldman & Becklake)(Am.Rev .Respir.Dis.,1956; 79: 457-567)、または、カンジャー等(Quanjer,et al .) のインゲルハイム吸入器を用いた研究(Eur.Resp.J.,1993; 6(Spp 16)5-40)を採用した。
【0036】
4.5%食塩水に対する通常の反応の参考値として、スミスとアンダーソン(S mith & Anderson)(Eur.Respir.J.,1990; 3: 144-151)を採用した。健常対照者におけるFEV1減少は12%を最大限とした。
【0037】
全ての試験についての結果は、添付した3つの表及び図1及び2に示した。現在患者等に使用されている喘息薬(フェノテロール(fenoterol)、サルブタモール(salbutamol)、テルブタリン(terbutaline,Terb)、テオフィリン(Theo))、最初の訪問(基準日)での予想値に対する比率(%)で表したFEV1、4.5%食塩水の湿式エアロゾルでの対抗のPD20、マンニトールまたは塩化ナトリウム乾燥粉末を用いたときのPD20を、全ての患者に対して表1−3に示した。多くの患者で、乾燥粉末を用いて2回目の対抗を行い、気道反応の再現性を示した。ある実験においては、何人かの患者にメタコリンを用いた対抗試験を実施し、これらの患者のPD20の値も表2に示した。各試験日におけるFEV1の対抗前での値の間、または全ての実験における2つの試験日でのカプセルによって引き起こされるPD20値の間に有意な差は無かった。
【0038】
図1は、各試験について、予想される平常値に対する比率(%)で表した対抗前及び後の値を例示している。これは、乾燥粉末対抗に対する気道反応が健常対照者とぜん息患者とでは異なっていること、及びぜん息患者の気道が(1つのケースを除く全ての患者で)乾燥粉末の吸入に応答して狭くなったことを明らかに示している。図2は、乾燥粉末塩化ナトリウム及びマンニトールに対するPD20を、4.5%食塩水の湿式エアルゾルとの相関として表している。これは、患者が、塩化ナトリウム及びマンニトールの乾燥粉末の吸入に対して、同投与量の4.5%食塩水の湿式エアロゾルに比較して、幾分より敏感であることを示している。このことは、特に実験1から明らかであり、湿式エアロゾルに比較して、乾燥粉末塩化ナトリウムでは、有意に低い投与量(p<0.02)でFEV1の20%減少が達成されている。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
自発的回復実験3:吸入器を介する塩化ナトリウム乾燥粉末
前対抗、前カプセルの値に対する比率(%)で表したFEV1の平均値±標準偏差(SD)の値は、対抗後30分で88.4%±10.6%、対抗後60分で94.8%±7%であった。
【0043】
乾燥カプセル対抗に要した時間及びカプセル数実験2について
マンニトールの乾燥粉末で対抗を実施するのに要した平均時間は、10.0± 3分であり、13人の患者に対して6から14分の間で変化した。
【0044】
実験3について
塩化ナトリウムの乾燥カプセルを用いた対抗を実施するのに要した背筋時間( ±SD)は、10.6±3分であり、20分を要した患者10を除いた患者に対して6から15分の間で変化した。カプセルの平均数は、患者1−9では8.6 ±6.7であった。患者10は、33分を費やしても反応しなかった。この患者は、毎日6400μgのブデソニド(Budesonide)を服用していた。
【0045】
ハラマチックを介した肺活量測定の流速
僅かな吸入を除いた全ての肺活量測定流速は50L/分を越えていた。この流速は、カプセル中の粉末投与量が増加するに従って低下した。即ち、ハラマチックに空のカプセルを配置したときは、流速の中点が96L/分であり、40mgのカプセルを吸入したときは73L/分であった。
【0046】
吸入器を介した肺活量測定の流速
各実験日に1回ずつしか測定しなかった。全ての患者において、流速は43L分を越えており、43−70L/分の範囲にあって、中点は57L/分であった。
【0047】
対抗中の酸素飽和
動脈酸素飽和を測定するために、オメダ・ビオックス・パルス・オキシメータ (Ohmeda Biox pulse Oximeter)を用いた。これは、マンニトールの吸入の間に、重篤な低酸素症を生じないことを確認する安全性指標として行った。3人の患者のみが3%を越える飽和の低下を示したが、乾燥粉体での対抗を通して全ての飽和値は平常値の範囲内であった。
【0048】
健常対照者
5人の健常な対照者(年齢19−22歳)を試験したが、4人の対照者は、620mgから540mgの投与量を受けた。対照者として協力したこれらの健常なボランティアは、PD20を記録することは無かったが、FEV1の最大減少%は6.5%であり、その値は0から6.5%の間にあった。
【0049】
議論
この実験結果は、ハラマチックまたは吸入器を介したカプセルから誘導された塩化ナトリウムとマンニトールの両方が、食塩水の湿式エアロゾル調剤に過敏な同じぜん息患者において気道狭窄を引き起こすことを明らかに示している。湿式エアロゾルに対してPD20によって示されたようなぜん息の過敏症の重篤度における良好な範囲がある。医学的干渉を必要とする反対実験は無い。数名の患者では、特に40mg投与量の場合に、塩化ナトリウム粉末の吸入が困難であることがわかった。我々は、投与量の30%未満が下気道に沈着し、残りが装置及び気管を刺激するものと見積もった。理想的には、投与量のより多くの比率が、呼吸に適したサイズを有する。
【0050】
湿式エアロゾルを越える乾燥粉末対抗の利点は、対抗時間が早いこと、装置洗浄の必要性が少ないこと、及び吸入剤が潜在的にディスポーザブル性を有していることである。
【0051】
これは、ヒトの気道におけるマンニトール乾燥粉末の吸入効果を初めて報告するものである。これは、既知のぜん息患者における塩化ナトリウムの乾燥粉末の気道狭窄効果を最初に報告するものである。
【0052】
気管支喘息に罹患した子供の治療用としては、呼吸に適した範囲の塩化ナトリウム粒子の吸入のみが参照される。ソビエト連邦のTikhomirov,Povlotsuka,& Zmievskaya(cc Number SU 1581325,Kind A Date 900730 Week 9113(Basic))は、(密度9−12mg/m3の3μm粒子を70−80%含む)NaClエアロゾルを1日に1−15回吸入させる方法であって、そのエアロゾルが、0.1−0.2m/秒の空気流速、16−18度で40−60%の相対湿度を持つ容器で与えられ、その時間を6−15分で徐々に増加させることによって、1年以内に61.5%のケースでぜん息が緩和したと報告している。我々の出願における乾燥粉末粒子の濃度はさらに高く、典型的には2.5−10mg/リットル(250−1620mg/m3)であり、我々の研究の適用は、まさに診断目的の気道狭窄であり、治療を目的とするものではない。
【0053】
鼻対抗の方法及び結果
この実験は一人の患者について行った。この患者はこの方法に馴染んでおり再現性ある結果を出すことができる。患者は自発的に鼻翼筋を活性化して吸入時の気道狭窄を予防し、最大吸入流速が少なくとも0.5L/秒となる呼吸容量で呼吸した。実験は、温度21.5から23.5℃、相対湿度55から65%に調節された室内に座った状態で行った。
【0054】
鼻を介する圧力及び流速は、ポスト鼻腔風速計(posterior rhinomanometry)で測定した。流速は、No.2フライシュ呼吸気流計に接続した変形スリバン(Sul livan)マスク(Rescare、オーストラリア)を用いて測定した。空気を満たした硬質カテーテルを舌後方(posterior tongue)に配置して唇で封止した。マスク圧力を参照し、変化をValidyne MP45圧力トランスデューサ(Validyne社、ノースブリッジ、カナダ)で測定した。圧力及び流動信号を、12ヘルツの速度で記録し、同時にコンピュータ画面にプロットした。
【0055】
5から7呼吸のサンプルから圧力/流速データを記録した。ローターの関係式 (Rohter's equation)(圧力減少=k1×流速+K2×流速2)を、最小自乗多変数線形級数によって合致させた。次いで、0.5L/秒の吸入方向の流速での圧力減少に合わせた平常の鼻抵抗を計算した。鼻の抵抗のベースラインは、少なくとも4回の測定の平均値である。ベースラインを確定した後、患者は対抗実験を受け、対抗後1、2、4、6、8、10、15及び20分の鼻の抵抗を測定した。
【0056】
塩は、投与量の半分を充填したスピンハラー(spinhaler)装置(Fisons Parnma ceuticals製)を用いて鼻粘膜に輸送した。患者には、外鼻孔の直内に充填したスピンハラーを配置し、深く吸入させた。1回の吸入の後にカプセルが空にならないときは、患者は、カプセルが完全に空になるまで吸入を実施した。次いで、この装置を取り外し、他の外鼻孔を用いた。
【0057】
図3及び4は、対抗前に4回のベースライン測定を行った後に対抗後測定を行ったときの鼻抵抗を示している。鼻の抵抗はcm H2O/L/秒で表した。これらの図は、1分後に増加した鼻抵抗が15分に渡ってベースラインの値に向けて徐々に低下してゆくことを示している。このパターンは、増加の度合い及びそれに続くベースラインへ向けて減少するパターンの両方が、冷乾燥空気を用いたときに見られるパターンと極めて類似している。図4は、引き続き40mgの吸入をしたときの結果を示しており、測定は40mgの投与から20分間行った。
【0058】
粘液清浄測定の方法
粘液清浄はラジオエアロゾル技術(radioaerosol technique)(99mTc−イオウ・コロイドが通常使用される)を用いて試験した。ラジオエアロゾルは、約6mmの質量中点空気力学的半径(MMAD)及び2未満の幾何学的標準偏差(GSD)を有する液滴を生成する噴霧器で生成されねばならない。単分散エアロゾルが理想的である。ラジオエアロゾルは制御された呼吸パターンで運搬され、大気道または誘導気道に沈着せねばならない。これは、コンピュータまたはオシロスコープ上に、呼吸容量及び呼気及び吸気の回数をセットする目標を作製することによって最も良好に達成される。実験データにより、中心沈着のためには、450mlの呼吸容量及び約60L/分の最大吸入流速が良好な呼吸パターンであることを示した。肺に運搬される活性は、約40MBqであり、それに従って運搬時間を調節せなければならない。噴霧器の出発活性が約1GBqであるときは、通常は2から3分で十分である。
【0059】
粘液清浄の測定は、ラジオエアロゾルの運搬後できるだけ早く開始すべきである。粘液清浄の測定の最も良い方法は、ガンマ線カメラを用いることである。ガンマ線カメラによる放射固像の収集は、ラジオエアロゾルの初期沈着に関して分散及び強度の点から良好な情報を提供する。約1時間に渡る前/後画像は、粘液清浄を試験するための最良のデータとなる。大きな利点は、大小の気道粘液清浄の試験について領域的分析ができることである。通常は、粘液清浄は、2指数的パターンに従い、データを平滑化するためにカーブ・フィッティングが行われる。塩またはマンニトールは、第1の画像を収集した後に投与され、その第1の画像はラジオエアロゾルの初期沈着の試験に用いられる。
【0060】
結論
十分な量の呼吸に適した粒子を含む十分な投与量を吸入したときに、気道表面液の容量オスモル濃度を変化させることのできる物質の乾燥粉末は、気管支において、気道の過敏症即ちぜん息を同定する試験のための刺激のために好適に用いられる。これらの物質は、鼻炎を同定するために鼻に吸入させることもできる。これらの物質は、痰を誘発したり粘液清浄をするためにも用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、デキストロース、及び別の糖アルコールからなる群より選択される、患者の気道表面液の容量オスモル濃度を変えることができる物質を含み、当該物質が、呼吸に適した大きさの粒子を有効な割合で含んだ分散可能な乾燥粉末形態である、痰生成誘発剤。
【請求項2】
前記の乾燥粒子の有効量が、最大で7ミクロンの大きさを有する、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
呼吸に適した範囲にある前記の粒子の割合が、前記物質の少なくとも10重量%である、請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
前記の物質を、1乃至100mg含む、1乃至3の何れか一項に記載の薬剤。
【請求項5】
肺気道投与用の、請求項1乃至4の何れか一項に記載の薬剤。
【請求項6】
鼻気道投与用の、請求項1乃至4の何れか一項に記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49708(P2013−49708A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257721(P2012−257721)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2011−103746(P2011−103746)の分割
【原出願日】平成7年2月23日(1995.2.23)
【出願人】(506392562)セントラル シドニー エリア ヘルス サービス (5)
【Fターム(参考)】