説明

水に溶けない化合物のサブミクロン粒子を生成させる方法

【課題】生物学的用途を有する広範囲の水に溶けない化合物の懸濁物を得る生産性の高い方法の提供。
【解決手段】水に溶けない化合物、特に薬のサブミクロン粒子を、そのミクロ微粒子懸濁物を表面修飾剤分子で同時に安定化しながら、液化ガスに溶かしたその化合物と表面修飾剤の圧縮溶液から水系媒体中へ急速膨張注入することにより、懸濁物を得る。このようにして調製された水系懸濁物を更に高圧ホモジナイザーでホモジナイズしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に溶けないか僅かしか水に溶けない生物学的に有用な化合物、特に水不溶性の薬剤の、ミクロンおよびサブミクロンメータサイズの微粒子状製剤を製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
生理活性化合物の調合における主要問題は、それらの、水中での貧溶性もしくは不溶性である。例えば、米国薬局方に列挙されている薬の1/3以上が、水に不溶性であるか、貧溶性である。生理的に有用な水に不溶の薬あるいは化合物の経口用製剤は、生体利用効率が低いかまたは安定しないことが多い。さらに、薬の不溶性は、新しい薬を開発している医化学者および薬学科学者が直面する最も扱いにくい問題の一つである。水不溶性の問題は、多くの新しい薬および他の生理的に有用な化合物の開発を遅らせるか、あるいは完全に阻害するか、または現在市場に出ている一定の薬の再調合(非常に需要が多い)を妨げている。この水に溶けない化合物は、有機溶媒あるいは界面活性剤水溶液中で可溶化することにより調薬できるが、多くの場合、このような可溶化は、水に不溶の薬剤を、それらの意図する生理的利用のためにデリバリーする方法としては推奨されない。例えば、現在入手できる多くの水に溶けない薬の注射用製剤は、そのラベルに、それらの可溶化に用いられた界面活性剤および他の試薬から起きる重要な有害警告を記載している。
【0003】
水に溶けない生理活性化合物の調薬のための代替法の一つは、表面安定化微粒子状製剤である。薬を小さい粒径に製剤することは、表面積、生体利用効率および溶解のための要件を最大にするために、必要であることが多い。ペース(Pace)達[製薬工学(Pharmaceutical Technology) 1999年3月号の“不溶性の薬の新規の注射用製剤”(“Novel Injectable Formulations of Insoluble Drugs”)は、水不溶性または貧溶性の注射用薬のミクロ微粒子状調薬の有用性について総説しいる。
【0004】
米国特許第5,091,187号および第5,091,188号明細書[発明者:ヘイネス(Haynes)]には、水に溶けない薬のサブミクロンサイズ粒子の水系懸濁液を製造するための表面安定剤としてリン脂質を利用することが記載されている。これらの懸濁液は、純粋の薬剤のコアから作られ、そしてリン脂質およびコレステロールを含む天然または合成の双極性脂質で安定化された粒子を含む、表面修飾ミクロ微粒子状水系懸濁液の初めての利用であると信じられる。さらに、これらの原理を利用した類似のデリバーリーシステムが、[米国特許第5,145,684号、発明者:ジー.ジー.リベルサイジ(G.G.Liversidge)達;米国特許第5,340,564号、発明者:ケー.ジェー.イリッヒ(K.J.Illig) 達;および米国特許第5,510,118号、発明者:エイチ.ウイリアム ボッシュ(H.William Bosch) 達]に記載されており、微粒子状水系懸濁物を利用するドラッグデリバーリー法の有用性が強調されている。
【0005】
米国特許第5,246,707号明細書で、ヘイネス(Haynes)は、ポリペプチドおよび蛋白質などの水溶性生体分子のデリバリーにリン脂質被覆微結晶を利用することを教示している。この蛋白質は、錯体形成により不溶化され、得られた物質が、そのリン脂質被覆粒子の固体コアを形成する。
【0006】
これらの特許および、摩擦法、キャビテーション法、高せん断法、衝撃法などのような機械的方法による粒径の低減をベースにする加工を用いる他の方法は、媒体粉砕、高圧ホモジナイゼーション、超音波処理および水系懸濁物のミクロ流動化により達成される。しかし、これらの粒径低減法は、加工時間が長い(高圧ホモジナイゼーションまたはミクロ流動化法)および汚染(媒体粉砕法、および超音波処理)のような一定の欠点に悩むことになる。さらに、これらの方法は、これらの方法で普通採用されているpH、高温および高圧条件下で、水系媒体中での安定性が限られている化合物の水系懸濁物には適していない。
【0007】
これらの問題に応える代替法の中には、ミクロ微粒子製剤の製造に液化ガスを利用する方法がある。このような方法の一つでは、液化ガス溶液が噴霧されて、エーロゾルを生成し、それから微細粒子が沈降してくる。超臨界流体から固体が沈降する現象は、早くも1879年に、ハネイ,ジェー.ビー.(Hannay,J.B.) およびホガース、ジェー.(Hogarth,J.) により観測されており、そして文献に記載されている:“ガス中での固体の溶解性について”(“On the Solubility of Solids in Gases”),Proc.Roy.Soc.London 1879 A29,324。
【0008】
超臨界領域での液化ガス溶液からの急速膨張に関する最初の包括的研究は、クルコニス(Krukonis)(1984)により報告され、彼は、多数の有機、無機および生体材料の微粒子を調製した。ロバスタチン、ポリヒドロキシ酸およびメビノリンのような有機材料について報告されている大半の粒子のサイズは、5-100 ミクロンの範囲であった。膨張後の粒子の凝集を防ぐために、粘ちょうなゼラチン溶液中にエタンを膨張注入することによって、β‐カロテンのナノ粒子(300nm) が調製された。モハメド,アール.エス.(Mohamed,R.S.)達(1988)は、 Supercritical Fluid Science and Technology,Johnston,K.P.and Penninger,J.M.L.,eds.中の“超臨界混合物の膨張後の固体生成”(“Solids Formation After the Expansion of Supercritical Mixtures)という報告で、超臨界二酸化炭素に溶かした固体ナフタレンおよびロバスタチン溶液および、その溶質の急速減圧による微粒子化の達成について説明している。その急速な減圧は、その超臨界流体の溶媒としての力を低下させ、その溶質が微粒子として沈殿する誘因になる。
【0009】
トム,ジェー.ダブリュー.(Tom,J.W.)および、デベネデッチー,ピー.ビ−.(Debenedetti,P.B.)(1991)は、“超臨界流体による粒子の調製‐総説”(“Particle Formation with Supercritical Fluids−a Review)(J.Aerosol.Sci.22:555-584) の中で、超臨界溶液の急速膨張と、無機、有機、製薬および高分子材料へのその応用について論じている。この方法は、衝撃に敏感な固体を細かく粉砕するために、よく混じり合った非晶質材料の混合物を製造するため、高分子ミクロ球体を調製するため、そして薄膜を沈積させるため、に有用である。
【0010】
有機材料での超臨界溶液からの急速膨張に関する大半の研究は、超臨界二酸化炭素を利用している。しかしβ‐カロテン用には、或る種の化学的相互作用により、エタンの方が二酸化炭素より優れている。普通、二酸化炭素は、単独で、または共溶媒と組合せて使用することが推奨される。共溶媒を少量添加すると、その溶媒の性質に有意の影響を及ぼす可能性がある。超臨界溶液からの急速膨張に、共溶媒が用いられる場合、そのノズル中に凝縮する溶媒に因る粒子の脱溶解(desolution)を防ぐために注意が必要である。普通、これは、膨張に先立って、その超臨界流体を、そのノズル・チップのところに凝縮物(ミスト)が見えなくなるまで加熱することにより達成される。
【0011】
類似の問題は、二酸化炭素が用いられる時に起きる。断熱膨張(冷却)の間、二酸化炭素は、気体状態を維持するためにノズルに十分な熱が供給されない限り、二相になっているであろう。大半の研究者は、この現象を認めており、そのノズル中での凝縮と凍結を防ぐために、膨張前の温度を高くする。二酸化炭素を気体状態に維持するために、かなりの入熱(heat input)(40-50kca/kg) が必要である。このエネルギーが、膨張前温度を高くすることにより供給されると、その密度が減小し、その結果、その超臨界流体の溶媒和力が低下する。これは、早過ぎる沈殿とノズル詰まりを起こすことがある。
【0012】
液化ガスの溶媒としての性質は、その流体の臨界点付近でのそれら流体の密度により強く影響される。液化ガス溶液からの急速膨張では、非揮発性の溶質は、超臨界相または亜臨界相のいずれかの中に残っている液化ガスの中に溶けている。その液化ガスの大気条件への急速な膨張によるその溶液の密度の低下が引き金になって、核生成と結晶化が起きる。これを達成するために、この液化ガスは、普通、縦横比(L/D)が5-100 で、(内径)10-50 ミクロンのノズルを通してスプレイされる。高水準の超飽和状態の結果、核生成速度が速くなり、そして結晶の成長が限定される。急速に伝播する機械的摂動と高水準の超飽和の組合せが、液化ガス溶液からの急速膨張の際立った特徴である。これらの条件が、狭い粒度分布を有する非常に小さい粒子の生成に導く。
【0013】
サブミクロン粒子の特徴を有する材料の調製のために、溶媒あるいは逆溶媒(antisolvent)として、この液体状態および超臨界状態にある圧縮二酸化炭素を利用することには多くの利点がある。超臨界流体二酸化炭素中での有機溶媒の拡散係数は、普通、常用の液体溶媒中より、1〜2桁大きい。さらにまた、二酸化炭素は、小さい線形の分子で、液体中を他の逆溶媒より速く拡散する。この逆溶媒沈殿過程で、両方向に加速される質量移動により非常に速い相分離が、従って、サブミクロンの特徴を有する材料の生成が、促進される。この超臨界流体溶媒は、この過程に終りに、単に圧力を低くするだけで容易に再循環することができる。超臨界液流体は表面張力を持っていないから、それらは、毛管力に因る構造の破壊を起こすことなく除去できる。二酸化炭素は、製品中に残留しないし、そして二酸化炭素は、多くの他の好ましい特性を有する。例えば、それは無毒性であり、不燃性であり、そして安価である。さらにまた、逆溶媒と溶媒の標準的な比は30:1であるから、溶媒廃棄物が大幅に減少する。
【0014】
これらの考え方を利用して、ヘンリクセン(Henrikusen)達は、WO97/14407で、生理的用途を有する水に溶けない化合物のサブミクロン粒子、特に水に溶けない薬を、その化合物が溶けている超臨界溶液から急速膨張により化合物を沈殿させることにより、または、その化合物が溶けている溶液を、その溶液とは混ざり合うがその化合物に対しては逆溶媒である圧縮ガス、液体あるいは超臨界流体中にスプレイすることにより、化合物を沈殿させることによって、製造するために圧縮流体を利用する方法を開示している。この方式により、圧縮流体逆溶媒(圧縮流体逆溶媒)による沈殿が達成される。
【0015】
この方法の基本的要素は、薬物粒子の表面を改変して粒子の凝集を防ぎ、それにより薬剤の貯蔵安定性と薬物動態学的諸性質を改善するために、リン脂質および他の表面修飾剤を使用することである。この方法は、その超臨界溶液がスプレイされる水系溶液または分散液に、リン脂質類または界面活性剤のような他の適切な表面修飾剤を組合せて用いるか一体化して用いる。この界面活性剤は、化合物‐水界面で活性であるように選ばれるが、二酸化炭素が超臨界溶液として用いられる場合には、二酸化炭素‐有機溶媒界面あるいは二酸化炭素‐化合物界面で活性であるようには選ばれない。水系媒体中で表面修飾剤を使用すれば、この圧縮流体逆溶媒法により、粒子の凝集あるいはフロック化を起こすことなしに、サブミクロン粒子を調製することが可能になる。
【0016】
本発明の簡単な説明
しかしながら、この従来法は、希望する生成物を十分な量得るには、超臨界溶液のスプレイに非常に長い時間を要する。この長いスプレイ工程時間は、水系媒体中での、表面修飾剤分子またはそれらの集合体と新しく沈殿した溶質粒子との会合速度がゆっくりしていることに帰因する。
【0017】
上記のWO97/14407法による実験中に、その水不溶の物質中に表面修飾剤を混和すると共に、その超臨界(または亜臨界)液化ガス中にも表面修飾剤を混和すると、驚くべきことに、ナノサイズからミクロンサイズの、表面が安定化された微粒子懸濁物が非常に迅速に調製可能であることが見いだされた。本発明の基本的な特徴は、それら薬の液化ガス溶液からのその薬の非常に速い沈殿工程中に、溶けている薬と表面修飾剤との密接な接触が迅速に達成されることであると信じられる。
【発明の概要】
【0018】
非常に速い沈殿は、液化ガスからの溶質の沈殿に特徴的であるが、この迅速で密接な表面修飾剤との接触は、その溶けた薬を含む液化ガス中に溶けている表面修飾剤が存在していることにより達成される。この表面修飾剤と新しく生成した粒子の間の迅速で密接な接触は、この新しく生成した粒子の結晶成長を実質的に禁止する。さらに、その溶解した薬と共に表面修飾剤(一種または複数)が含まれていなければ、その薬を含んでいる液化ガスの液滴が逆溶媒と接触するための速度は、非常に小さくて安定な粒子が得られるはずである場合より、遥かに小さい。かくして、本発明の鍵となる特徴は、この方法の高い生産性である。
【0019】
本発明の方法では、その液化ガス中に、粒径を小さくされるべき水不溶の物質と共に、少くとも一種(第1)の表面修飾剤が溶解されていなければならないが、化学的性質が同じか或いは異なる追加(第2)の表面修飾剤が、その水系媒体に含まれていてもよい。さらに、沈殿中もしくは沈殿後に、その粒子表面と表面修飾剤との密接な接触を容易にするために、高圧ホモジナイザーにより、この流体の液流に、さらに高せん断力を加えたり、キャビテーションまたは乱流(turbulence)を起こさせてもよい。かくして、その表面修飾剤が全て水系媒体中に分散されており、そして液化ガスが水に溶けない物質だけを含んでいるこれらの場合には、その粒子表面と表面修飾剤との密接な接触を容易にするために、高圧ホモジナイザーによる、追加の高せん断力、キャビテーションまたは乱流化が活用されることになる。
【0020】
かくして、本発明の総括的な目的は、超臨界流体工学を含む、液化ガス溶媒の利用をベースとして、表面修飾剤で安定化された、平均粒径が50nmから約2000nmで、分子量分布の狭い水不溶の薬の懸濁物が得られる生産性の高い方法を開発することである。この方法は、信頼性が高く、規模の調節が可能で(scalable)そして、生物学的用途を有する広範囲の水に溶けない化合物に適用できる。
【0021】
本発明の詳細な説明
本発明は、大きさが約2000nm以下、そして通常1000nm以下、望ましくは500nmより小さく、より望ましくは約200nm より小さく、そしてしばしば 5から100nmの範囲の大きさの表面修飾粒子を調製するために超臨界流体あるいは圧縮流体を利用するための複数の方法を含んでいる。この粒子の大きさは、水系媒体に懸濁されたこれら粒子の体積重みづけ(volume weighted) 平均直径で示される。
【0022】
本発明の方法は、水に溶けないか、あるいは僅かしか水に溶けない化合物のミクロ微粒子の水系懸濁物を、その懸濁物を、表面修飾剤分子で同時に安定化しながら、液化ガスに溶かしたその化合物と表面修飾剤の圧縮溶液から水系媒体中へ急速膨張注入することにより、[液化ガス溶液の急速膨張、RELGS(Rapid Expansion of Liquefied Gas Solution)]調製することを含んでいる。
【0023】
或いはまた、本発明のもう一つの態様は、水に溶けないか、あるいは僅かしか水に溶けない化合物のミクロ微粒子の水系懸濁物を、それを表面修飾剤分子で同時に安定化しながら、液化ガスに溶かしたその化合物と表面修飾剤の圧縮溶液から水系媒体へ急速膨張注入し、そしてこのようにして調製した水系懸濁物を高圧ホモジナイザーでホモジナイズ(液化ガス溶液の急速膨張とホモジナイゼーション、RELGS‐H)することにより調製することを含んでいる。
【0024】
何らかの特別な理論と結びつけられることを希望するものではないが、本発明の方法は、表面修飾剤の存在下で、液化ガスに溶解した薬および他の生理活性物質の急速な核生成を誘起し、その結果、非常に短時間に希望の粒径分布を有する粒子が生成すると信じられる。リン脂質あるいは界面活性剤のような他の適した表面修飾剤は、必要に応じて、その液化ガスに溶けた溶液あるいは分散液として、この工程に取込まれる。さらに、この表面修飾剤は、その水系媒体中の溶液または分散液として、混和されてもよく、また混和されなくてもよい。或いはまた、幾つかの表面修飾剤は、水に溶けない物質と共に液化ガスに溶解され、そしてその処方中の表面修飾剤の残りがホモジェナイズされた水系分散液中に膨張注入される。上述の工程における適切な表面修飾剤の導入は、生成する小さい粒子の安定化と、それらが生成している間に粒子が凝集したり、成長したりする何等かの傾向を抑えるのに役立つ。
【0025】
本発明者達が、工業的に有用な不溶性あるいは貧溶性化合物の中に含めるのは、生物学的に有用な化合物、結像剤(imaging agents)、薬学的に有用な化合物、そして特に、人間用の薬および獣医用薬剤である。普通、水に溶けない化合物とは、水中で、6.5 から7.4 の生理学的pHで、5mg/mLより小さい僅かな溶解度を有する化合物であるが、その水中溶解度は、1mg/mLより小さい場合も、そして、0.1mg/mLより小さい場合もある。
【0026】
幾つかの望ましい水に溶けない薬の例に含まれるのは、免疫抑制剤および免疫活性剤、抗ウイルス剤および防カビ剤、抗新生物剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗癲癇薬、麻酔薬、催眠薬、鎮静剤、精神病薬、神経弛緩剤、抗うつ剤、抗不安薬、鎮痙剤、拮抗薬、神経ブロッキング剤、コリン作動抑制剤および擬コリン薬(cholinomimetic agent)、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン剤および抗不整脈剤、血圧降下剤、ホルモン剤および栄養剤、である。これらの薬および他の適した薬に関する詳細な説明が、Remington's Pharmaceutical Science,18th edition,1990,Mack Publishing Co.Philadelphia,PA 、に見られる。
【0027】
超臨界流体相あるいは亜臨界流体相にある一連の圧縮ガスが、従来技術の中に報告されており[例えば、米国特許第5,776,486号明細書、およびトム,ジェー.ダブリュー.(Tom,J.W.)および、デベネデッチー,ピー.ビ−.(Debenedetti,P.B.)(1991)、“超臨界流体による粒子の調製‐総説”(“Particle Formation with Supercritical Fluids−a Review)(J.Aerosol.Sci.22:555-584)]、その中から、本発明の目的に適したガスを選択することができる。これらに含まれるのは、二酸化炭素および亜酸化窒素のような気体状酸化物;エタン、プロパン、ブタンおよびペンタンのようなアルカン類;エチレンおよびプロピレンのようなアルケン類;エタノールおよびイソプロパノールのようなアルコール類;アセトンのようなケトン類;ジメチルあるいはジエチルエーテルのようなエーテル類;酢酸エチルのようなエステル類;六フッ化硫黄、トリクロロフルオロメタン(CCl3 F、フレオン11としても知られている)、ジクロロフルオロメタン(CHCl2 F、フレオン21としても知られている)、ジフルオロクロロメタン(CHClF2 、フレオン22としても知られている)のようなクロロフルオロカーボン類およびトリフルオロメタン(CHF3 、フレオン23としても知られている)のようなフルオロカーボン類、を含むハロゲン化化合物;およびキセノンおよび窒素のような元素液化ガス、およびこの技術分野で知られている他の液化圧縮ガス、であるが、これらに限定はされない。
【0028】
以下の実施例で説明された薬の急速膨張溶液を調製するために、液化二酸化炭素が用いられた。二酸化炭素は、臨界温度が31.3℃で、臨界圧力が72.9気圧(1072psi)で、化学的反応性が低く、生理学的に安全で、そして比較的低コストである。もう一つの推奨される超臨界流体はプロパンである。
【0029】
幾つかの適した表面修飾剤の例に含まれるのは、(a)カゼイン、ゼラチン、天然リン脂質、トラガントゴム、ワックス、腸溶性樹脂、パラフィン、アラビアゴム(acacia)、ゼラチン、およびコレステロールのような天然界面活性剤、(b)ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタンエステル、グリセロール・モノステアレート、ポリエチレングリコ−ル、セチルアルコール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ポロキサマー、ポラキサミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、非結晶性セルロース、および合成リン脂質(一種または複数)のような非イオン性界面活性剤、(c)ラウリル酸カリウム、ステアリン酸のトリエタノールアミン塩、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルポリオキシエチレン・サルフェート、アルギン酸ソーダ、ジオクチルスルホ琥珀酸ナトリウム、負に荷電したリン脂質類(ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシット、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸およびそれらの塩類)、および負に荷電したグリセリルエステル類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムおよびカルボキシメチルセルロース・カルシウム、のような陰イオン界面活性剤、(d)第4アンモニウム化合物、ベンザルコニウムクロリド、セチルアンモニウムブロミドおよびラウリルジメチルベンジル‐アンモニウムクロリド、のような陽イオン界面活性剤、(e)ベントナイトおよびビーガム(veegum)のようなコロイド状粘土、(f)天然および合成リン脂質、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リソリン脂質、卵もしくは大豆リン脂質またはそれらの組合せである。このリン脂質は、塩型でも脱塩型でも、水素化されていても部分水素化されていても、あるいは天然、半合成または合成でもよい。これらの界面活性剤に関する詳細な説明は、Remington's Pharmaceutical Science,18th Edition,1990,Mack Publishing Co.,PA;およびTheory and Practice of Industrial Pharmacy,Lachman et al.,1986、の中に見られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、実施例3で製造されたシクロスポリンの粒径分布(相対体積対nmで示した粒径)を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例4で製造されたシクロスポリンの粒径分布(相対体積対nmで示した粒径)を示すグラフである。
【実施例】
【0031】
本発明は、以下の実施例により、さらに説明され、そして例示される。
実施例1
圧縮液化ガス中での水に溶けない化合物の相挙動
水に溶けない特定の化合物が、その液化ガス溶液から水系サブミクロン微粒子懸濁物として調合されるべきであるかどうかを判定するために、その液化ガス中でのこの候補薬の溶解度を測定した。
【0032】
一定のモル組成の溶液を調製するために、計量した薬( フェノフィブレート)を定量ビューセル(constant view cell)に入れた。温度を60℃一定に維持した。圧縮液化ガスをポンプでこのビューセルに入れることにより圧力が1300から4000psi に変化した。その相挙動は、この固体の薬が、溶解するように見える圧力を視て記録することにより測定された。液化二酸化炭素、プロパンおよびエタン中でのフェノフィブレートの溶解度を表1にまとめて示した。任意の溶媒中での溶解度の値が>1 %であれば、これらの溶媒から微粒子の調製が可能であると考えられる。
【0033】
【表1】

実施例2
RELGS法によるフェノフィブレート微粒子の調製 フェノフィブレート(2g)、リポイドE-80(0.2g)、トゥイーン(Tween)-80(0.2g)を3000psi に加圧した液化二酸化炭素に溶かした溶液を、50nmのオリフィスプレートを通して、大気圧で、室温(22 ℃)に保持した水中に膨張注入した。約200nm の平均粒径を有するフェノフィブレートの微細懸濁物が得られた。この粒径分析は、サブミクロン粒径分析計‐自動稀釈モデル370(NICOMP Particle Sizing Systems,Santa Barbara,CA)を用いて、光子相関分光法で行なった。この装置は、数重みづけ、強度重みづけ、および体積重みづけ粒度分布、さらにまた、その粒度分布の(もし存在するなら)多峰性(multi-modality)を与える。
【0034】
実施例3
微細スプレイ・ノズルは、内径63.5mmのPEEK製細管で作られた。このPEEKノズルは、M-100 ミニタイト・メールナット(M-100 Minitight male nut)で締め付けられ、そしてアップチャーチSS20V ユニオンボデー(Upchurch ss20V union body) に取付けられ、それがさらに、適切なサイズのSwagelokTM商標の管継手により 1/4インチの高圧マニホールドに取付けられた。このPEEK配管用を除いて、全ての他の構成部材は、316 ステンレス鋼で作られた。この水不溶物の液化ガス溶液は、高圧(>1000psig) で 1/4インチの高圧マニホールドを通して、63.5mmのPEEKノズルに導入され、水系媒体中に膨張注入された。液化ガス溶液用の容器に、1gのシクロスポリンと0.2gのトゥイーン‐80を入れた。この容器に5000psigで二酸化炭素を充填し、そして約24℃まで加熱した。完全に溶解して、そして平衡に達するまでの間、約20分、この容器を放置した。別に、マンニトールの5.5 %溶液に分散させた卵リン脂質(Lipoid GmbHからのリポイドE-80)の 2%w/w 懸濁物を、6000psi で、Avestin Emulsiflex-C50ホモジナイザー(Avestin Inc,Ottawa,Canada) で、15分間ホモジナイズすると、透明な分散液が生成した。このリン脂質のpHを、ホモジナイズする前に、NaOH水溶液で 8.0に調整した。この24℃で5000psigに保持されたシクロスポリンとトゥイーン‐80の二酸化炭素溶液を、卵リン脂質の水系分散液に膨張注入した。非常に急速に、約 3分で、粒径約23nmの半透明の水系懸濁物が得られた(図1参照)。この実施例は、マニホールド内に数種のPEEKノズルを組込み、そして同時に、適切な量の水系媒体を含んでいる受器の中に膨張注入する方法として、簡単で、規模の調節が可能な方法を提示する。このPEEKノズルは、不活性で非常に安価である。このノズルの組立ては非常に簡単で、10分以内に行なえる。
【0035】
実施例4
RELGS‐H法によるシクロスポリン微粒子の調製 マンニトールの(5.5%) 、リポイドE-80(2%) およびトゥイーン‐80(2%) を含む水系懸濁物を調製した。シクロスポリンの液化ガス溶液も調製し、2000psigで60℃に保持した。この溶液を、63.5mmのPEEKノズルを通して、水系懸濁液中に膨張注入した。この方法で、約3gのシクロスポリンの懸濁物が調製された。得られた懸濁物を、6000psigで 8回、ホモジナイザーに通した。サブミクロン粒径分析計‐自動稀釈モデル370(NICOMP Particle Sizing Systems,Santa Barbara,CA)を用いて測定した、均質化後の最終平均粒径は、86nmで、その99%は、150nm未満(図2参照)であった。
【0036】
本発明は、現在、最も実用的で、且つ最も推奨される態様であると考えられるものと関連させて説明されたが、本発明は、この開示されている実施態様に限定されるものではなく、それどころか、付記した請求項目の精神と範囲内に含まれる、様々な修正および同等の翻案を包含することを意図するものである。
【本発明の態様】
【0037】
[1] 次の: (a)水に溶けないか、あるいは実質的に水に溶けない生理活性化合物と第1表面修飾剤とを、それら用の液化圧縮ガスに溶解して溶液を調製する工程;および、 (b)工程(a)で調製した圧縮流体溶液を、水中または第2表面修飾剤および水溶性試薬を含んでいる水溶液中に膨張注入することにより微粒子の懸濁液を調製する工程;
を含んでなる、大きさが2000nm以下の水に溶けないか、あるいは実質的に水に溶けない生理活性化合物のサブミクロン粒子の懸濁液を製造する方法。
[2] 工程(b)で得られた懸濁液を高圧ホモジナイズする追加工程(c)を含んでいる1に記載の方法。
[3] そのようにして製造された微粒子を回収する追加工程(d)を含んでいる1または2に記載の方法。
[4] 第1表面修飾剤と第2表面修飾剤が同じ物である1または2に記載の方法。
[5] 第1表面修飾剤と第2表面修飾剤が異なっている1または2に記載の方法。
[6] その表面修飾剤の一方または両方がリン脂質である1または2に記載の方法。
[7] その表面修飾剤の一方または両方が界面活性剤である1または2に記載の方法。
[8] その表面修飾剤の一方または両方が、二種またはそれ以上の界面活性剤の混合物である1または2に記載の方法。
[9] 少くとも一方の表面修飾剤が、リン脂質に欠けた、または実質的に完全に欠けている界面活性剤である1または2に記載の方法。
[10] この表面修飾剤が、ポリエオキシエチレン・ソルビタン脂肪酸エステル、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体、エチレンジアミンへのエチレンオキシドとプロピレンオキシドの逐次付加により誘導された四官能性ブロック共重合体、アルキルアリールポリエーテルスルホナート、ポリエチレングリコ−ル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミドあるいはそれらの組合せ、である7に記載の方法。
[11] この表面修飾剤が、ホスファチジルコリン、ホスホリポン90Hあるいはジミリストイルホスファチジルグリセロール・ナトリウム塩、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、リゾホスホリピド(リゾ・リン脂質)またはそれらの組合せ、のような卵あるいは植物系リン脂質または、部分あるいは完全に水素化されているか、または脱塩されているか、あるいは塩型である半合成あるいは合成リン脂質である、6に記載の方法。
[12] この化合物が、シクロスポリン、フェノフィブレートあるいはアルファキサロンである1または2に記載の方法。
[13] 製造される粒子の粒径が、500nm より小さい、1または2に記載の方法。
[14] 製造される粒子の粒径が 5nmから約 200nmまでの範囲である、13に記載の方法。
[15] 製造される粒子の99%が、2000nm以下である、1または2に記載の方法。
[16] この液化圧縮ガスが超臨界相または亜臨界相にある二酸化炭素である、1または2に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の:
(a)水に溶けない生理活性化合物と第1表面修飾剤とを、それら用の液化圧縮ガスに溶解して溶液を調製する工程;および、
(b)工程(a)で調製した圧縮流体溶液を、該第1表面修飾剤と異なる第2表面修飾剤および水溶性試薬を含んでいる水溶液又は水系分散液中に膨張注入することにより微粒子の懸濁液を調製する工程;
を含んでなる、大きさが2000nm以下の水に溶けない生理活性化合物のサブミクロン粒子の懸濁液を製造する方法(該第1表面修飾剤が非イオン性界面活性剤であり、かつ該第2表面修飾剤が天然又は合成のリン脂質である場合を除く)。
【請求項2】
工程(b)で得られた懸濁液を高圧ホモジナイズする追加工程(c)を含んでいる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
そのようにして製造された微粒子を回収する追加工程(d)を含んでいる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
その表面修飾剤の一方または両方がリン脂質である請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
その表面修飾剤の一方または両方が界面活性剤である請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
その表面修飾剤の一方または両方が、二種またはそれ以上の界面活性剤の混合物である請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
少くとも一方の表面修飾剤が、リン脂質に欠けている界面活性剤である請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−79839(P2011−79839A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−250097(P2010−250097)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【分割の表示】特願2000−554349(P2000−554349)の分割
【原出願日】平成11年6月18日(1999.6.18)
【出願人】(502381287)オバン・エナジー・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】