説明

水の腐食性評価法及び水の腐食性評価装置

【課題】 短時間で孔食といった局部腐食について評価することができる水の腐食性評価法及び水の腐食性評価装置を得ることを目的とするものである。
【解決手段】 金属からなる試験片7に対する水の腐食性を評価する水の腐食性評価法において、試験片7を酸洗、水洗、乾燥させ(S1)、腐食性を評価する水である試験水の中で−500mVに陰分極することによって試験水中に含まれる金属イオンを還元した(S2)後、試験片7をpH緩衝溶液からなる標準液の中に浸漬して、試験片7が全面腐食することなく試験片7の表面に緻密な酸化膜を形成することができる電位で試験片7を陽分極し(S3)、陽分極の継続時間と試験片7の溶出電流との関係を調べる(S4)ことによって水の腐食性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属部材に対する水の腐食性評価法及び水の腐食性評価装置に関し、特に、海水、淡水等の水系に接する金属部材に対する孔食のような局部腐食についての水の腐食性を容易かつ正確に予知するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水系の配管等を備えたプラントや熱交換器等の装置において腐食が進行し、配管等を貫通する腐食が発生すると、水漏れのためにプラント、装置等に不測の事態が生じるとともに、元の状態に復帰させるために多額の費用がかかるため、金属部材に対する水の腐食性を予測し、腐食の発生を事前に予測し、防止する技術が求められている。
【0003】
特許文献1に記載された腐食のモニタリング方法では、テストピースを水系に浸漬した後、次いで、テストピースをリン酸塩含有水中に浸漬し、一定時間経過後にリン酸塩含有水中に浸漬したテストピースの腐食電位を測定することによって、その水系の腐食性を評価し腐食が発生するかどうかを予知している。
【0004】
【特許文献1】特開平6−201637号公報(第2−3頁、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された水系の腐食評価法では、水系に浸漬して安定な皮膜を形成するために、例えば、8日間というような長い期間が必要な上、この評価法を適用できるのは全面腐食あるいは均一腐食に限られ、より危険性の高い腐食形態である孔食といった局部腐食の予測には適用できないという問題があった。
【0006】
また、従来、金属表面に形成されるスケールの腐食に対する影響については考慮されているが、水中に含まれる微粒子成分の腐食に対する影響については全く考慮されていないという問題があった。
【0007】
この発明は、上記のような問題を解決するものであり、短時間で孔食といった局部腐食について評価することができる水の腐食性評価法及び水の腐食性評価装置を得ることを目的とするものである。
【0008】
さらに、水中に含まれる微粒子成分の腐食に対する影響を考慮した水の腐食性評価法及び水の腐食性評価装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る水の腐食性評価法は、金属部材に対する水の腐食性を評価する水の腐食性評価法において、
腐食性を評価する水である試験水の中で陰分極することによって上記試験水中に含まれる金属イオンを還元した後、
上記金属部材をpH緩衝作用を有する溶液の中に浸漬して、上記金属部材が全面腐食することなく上記金属部材の表面に酸化膜を形成することができる電位で上記金属部材を陽分極し、上記陽分極の継続時間と上記金属部材の溶出電流との関係を調べることによって水の腐食性を評価するものである。
【0010】
この発明に係る水の腐食性評価装置は、金属部材に対する腐食性を評価する水である試験水の中に上記金属部材を浸漬し上記金属部材を定電位分極するためのポテンショスタット、上記金属部材の近傍に配置され上記定電位分極における基準となる参照電極、上記ポテンショスタットに接続され上記金属部材を保持するとともに、上記ポテンショスタットと上記金属部材とを電気的に接続する作用極、上記試験水の中で上記金属部材と対向させて配置され上記ポテンショスタットに電気的に接続される対極を備えた水の腐食性評価装置において、
上記試験水を収容し上記金属部材を陰分極して上記試験水中に含まれる金属イオンを還元するための第1の水槽、
pH緩衝作用を有する溶液を収容し、上記金属部材が全面腐食することなく上記金属部材の表面に酸化膜を形成することができる電位で上記金属部材を陽分極するための第2の水槽、
上記金属部材、上記参照電極及び上記対極のセットを上記第1の水槽と上記第2の水槽との間を相対的に移動させる移動機構を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る水の腐食性評価法及び水の腐食性評価装置によれば、孔食といった局部腐食を短時間で評価することができる。
【0012】
また、標準液にpH緩衝溶液を用いることによって、陽分極で成長する酸化膜を緻密なものとし、的確な評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、この発明に係る水の腐食性評価法の実施の形態1を示すフロー図であり、図2は、この発明に係る水の腐食性評価装置の実施の形態1を示す断面模式図である。
【0014】
図2に示したように、この発明に係る水の腐食性評価法に用いる水の腐食性評価装置は、金属部材からなる試験片7の水中における電位を一定に保って定電位分極を行うためのポテンショスタット1と、標準水あるいは腐食性を評価すべき試験水を収容するための第1の水槽5a及び第2の水槽5bと、第1の水槽5a及び第2の水槽5bを架台6とともに垂直方向及び水平方向に移動させる移動機構4と、試験片7を保持するとともにポテンショスタット1に試験片7を電気的に接続するための試験片保持部(作用極)9と、白金等からなりポテンショスタット1に接続され水中において試験片7と対向するように配置される対極3と、試験片7を定電位分極するときの基準となる銀−塩化銀電極等の参照電極2とを備えている。
【0015】
図1に示したように、管、棒あるいは板からなる銅の試験片7を準備し、この試験片7を純水で希釈した10%硝酸水溶液に浸漬して酸洗し、さらに、水洗して乾燥する(S1)。銅の試験片7としては熱交換器等の実際の製品に使用されるもの等を用いることができる。
【0016】
次に、試験片保持部9に酸洗・水洗・乾燥した試験片7を固定し、露出する試験片7の端面をシール材8でシールし、第1の水槽5中に収容した腐食性を評価すべき試験水中に浸漬し、ポテンショスタット1で参照電極2を基準にして試験片7を、例えば、−500mVに陰分極して試験片7表面に試験水中のCaやMg等の金属イオンを還元してスケール層10を形成する(S2)。
【0017】
次に、移動機構4により第1の水槽5aをpH6.8のほう酸/ほう砂緩衝溶液等のpH緩衝溶液からなる標準液が収容された第2の水槽5bと取り替え、スケール層10が形成された試験片7、参照電極2及び対極3のセットを標準液中に浸漬し、ポテンショスタット1で参照電極2を基準にし試験片7を全面腐食が発生せず、銅の酸化膜が形成される電位、例えば、+50mVに陽分極して試験片7表面に銅の酸化膜11を形成する(S3)。的確な評価を行うためには、酸化膜11を防食性の高い緻密な膜にする必要がある。標準液にpH緩衝作用を有するpH緩衝溶液を用いるのは、陽分極によって成長する酸化膜11をできる限り緻密にするためである。
【0018】
この定電位による陽分極を継続し、試験片7と対極3との間に流れる銅の溶出電流(腐食電流)を測定する(S4)。
【0019】
銅の酸化膜11の成長に伴う機械的強度や化学的な強さなどの性質は、スケール層10の内容によって影響を受ける。したがって、上記(S3)で形成される銅の酸化膜11の性質は、試験水の水質を反映したものであり、腐食性が高いスケール層10の水質の場合には、より多くの孔食の起点となる欠陥を有する酸化膜11が形成され、上記(S4)において、短時間で酸化膜11の破壊が起こって銅の溶出による腐食電流が観察され、腐食性が低いスケール層10の水質の場合には、孔食の起点となる欠陥が少なく長時間にわたって腐食電流が観察されない。
【0020】
以上のように、この実施の形態1の水の腐食性評価法によれば、腐食性を評価すべき試験水で金属部材からなる試験片に試験水中の金属イオンを還元してスケール層10を形成し、試験片をpH緩衝溶液等の標準液中に浸漬して陽分極により全面腐食することなく酸化膜11を形成することができる電位で陽分極し、陽分極の継続時間と試験片の溶出電流との関係を調べることにより、孔食といった局部腐食を短時間で評価することができる。
【0021】
また、標準液にpH緩衝溶液を用いることによって、陽分極で成長する酸化膜11を緻密なものとし、的確な評価を行うことができる。
【0022】
なお、上記実施の形態1では、架台6を移動機構4で動かすことによって、第1の水槽5aと第2の水槽5bを移動させて、試験片7、参照電極2、対極3のセットを第1の水槽5aの試験水から第2の水槽5bの標準液中に移動させたが、試験片7、参照電極2、対極3のセットを移動させる移動機構によって試験片7、参照電極2、対極3のセットを第1の水槽5aの試験水から第2の水槽5bの標準液中に移動させるようにしてもよい。
【0023】
実施の形態2.
図3は、この発明に係る水の腐食性評価装置の実施の形態2を示す断面模式図である。図3に示したように、この実施の形態2は試験片7の内部に磁石12を有する点が、上記実施の形態1と異なり、他の構成は上記実施の形態1と同様である。
【0024】
この実施の形態2では、磁石12を有することで、試験水中の主に鉄酸化物の微粒子を試験片の表面に吸着することによって、上記実施の形態1における(S3)(図1参照)において形成されるスケール層10は微粒子を含んだものとなる。
【0025】
既に述べたように、銅の酸化膜11の成長に伴う機械的強度や化学的な強さなどの性質は、スケール層10の内容によって影響を受ける。したがって、上記(S3)で形成される銅の酸化膜の性質は、試験水の水質を反映したものであり、微粒子を多く含む腐食性が高いスケール層10の水質の場合には、より多くの孔食の基点となる欠陥を有する酸化膜11が形成され、上記(S4)において、短時間で酸化膜11の破壊が起こって銅の溶出による腐食電流が観察され、微粒子が少なく腐食性が低いスケール層10の水質の場合には、孔食の基点となる欠陥が少なく長時間にわたって腐食電流が観察されない。
【0026】
以上のように、この実施の形態2の水の腐食性評価法によれば、腐食性を評価すべき試験水で陰分極し試験片に試験水中の微粒子を含む金属イオンを還元してスケール層10を形成し、試験片をpH緩衝溶液等の標準液中に浸漬して全面腐食することなく酸化膜11を形成することができる電位で陽分極し、陽分極の継続時間と試験片の溶出電流(腐食電流)との関係を調べることにより、孔食といった局部腐食について試験水中の微粒子を含めて評価することができる。
【0027】
なお、上記実施の形態1及び2では試験片が銅の場合について述べたが、試験片は銅に限らず、この発明の水の腐食性評価法及び水の腐食性評価装置は、ステンレス鋼、鉄等の他の金属にも適用して同様の効果が得られるものである。
【実施例】
【0028】
以下に具体的な実施例を以下に示す。
図4は、この発明の水の腐食性評価装置を用いて試験水の腐食性を調べた結果を示す図であり、上記図3の水の腐食性評価装置を用いている。
試験片には実際に熱交換器に使用する直径10mm、肉厚0.5mm、長さ50mmの銅管を使用し、図4(a)は、試験水に熱交換器の実機において1年で孔食が発生した水を用いた場合、図4(b)は、試験水に熱交換器の実機において3年で孔食が発生した水を用いた場合、図4(c)は、試験水に熱交換器の実機において10年経過しても孔食が発生しなかった水を用いた場合である。
【0029】
まず、試験片を10%硝酸水溶液中に10秒間浸漬し、純水の流水中で洗浄した後、窒素ガス中で乾燥した。
【0030】
次に、洗浄乾燥した試験片の内側に磁石を挿入し、磁石が水と接触しないように端面をシール材でシールし、図3に示した水の腐食性評価装置の試験片保持部(作用極)8に取り付けた。
【0031】
次に、試験水が入った第1の水槽に、試験片、対極(白金)及び参照電極(Ag/AgCl電極)のセットを浸漬し、参照電極基準に−500mVに24時間、陰分極した。この陰分極により試験片表面が変色したことからスケール層が形成されたものと考えられる。また、試験片表面を顕微鏡で観察した。
【0032】
次に、pH6.8のほう酸/ほう砂緩衝溶液からなる標準液が入った第2の水槽に、試験片、対極(白金)及び参照電極(Ag/AgCl電極)のセットを浸漬し、参照電極基準に+50mVに陽分極し、試験片(作用極)と対極との間に流れる電流の時間に対する変化を観察した。
【0033】
ここで、緩衝溶液は自然電位から+50mV程度の分極で表面に、CuOまたはCuOの膜が比較的安定に形成されるpH5〜pH13の範囲で緩衝作用を有するものが望ましい。この実施例では、pH6.8で緩衝作用を有するほう酸/ほう砂緩衝溶液を用いた。
【0034】
図4(a)の場合は、30時間後に酸化膜の破壊による急激な腐食電流が観察された。また、陰分極後の顕微鏡観察では微粒子は観察されなかった。この結果から熱交換器の実機において1年で孔食が発生した水の場合は、水質そのものが腐食性であったと推測された。
【0035】
図4(b)の場合は、72時間後に酸化膜の破壊による急激な電流増加が観察された。また、陰分極後の顕微鏡観察では表面に10μm程度の微粒子が付着していることが観察された。この結果から熱交換器の実機において3年で孔食が発生した水の場合は、水質そのものの腐食性よりも微粒子の影響が大きかったものと推測された。
【0036】
図4(c)の場合は、300時間後も急激な腐食電流は観察されなかった。また、陰分極後の顕微鏡観察では微粒子は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明に係るに水の腐食性評価法及び水の腐食性評価装置は、水系の配管等を用いたプラント、装置等における水の腐食性を短時間で評価し、また、水中に含まれる微粒子の影響を含めた水の腐食性を短時間で評価するものとして有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明に係る水の腐食性評価法の実施の形態1を示すフロー図である。
【図2】この発明に係る水の腐食性評価装置の実施の形態1を示す断面模式図である。
【図3】この発明に係る水の腐食性評価装置の実施の形態2を示す断面模式図である。
【図4】この発明の水の腐食性評価装置を用いて試験水の腐食性を調べた結果を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ポテンショスタット、2 参照電極、3 対極、4 移動機構、5 水槽、
6 架台、7 試験片、8 シール材、9 試験片保持部(作用極)、
10 スケール層、11 酸化膜、12 磁石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材に対する水の腐食性を評価する水の腐食性評価法において、
腐食性を評価する水である試験水の中で陰分極することによって上記試験水中に含まれる金属イオンを還元した後、
上記金属部材をpH緩衝作用を有する溶液の中に浸漬して、上記金属部材が全面腐食することなく上記金属部材の表面に酸化膜を形成することができる電位で上記金属部材を陽分極し、上記陽分極の継続時間と上記金属部材の溶出電流との関係を調べることによって水の腐食性を評価することを特徴とする水の腐食性評価法。
【請求項2】
上記金属部材内部に磁石を配備し、上記試験片の表面に上記試験水中の微粒子を吸着させることを特徴とする請求項1記載の水の腐食性評価法。
【請求項3】
上記溶液は、pH5〜pH13の範囲でpH緩衝作用を有することを特徴とする請求項1記載の水の腐食性評価法。
【請求項4】
金属部材に対する腐食性を評価する水である試験水の中に上記金属部材を浸漬し上記金属部材を定電位分極するためのポテンショスタット、上記金属部材の近傍に配置され上記定電位分極における基準となる参照電極、上記ポテンショスタットに接続され上記金属部材を保持するとともに、上記ポテンショスタットと上記金属部材とを電気的に接続する作用極、上記試験水の中で上記金属部材と対向させて配置され上記ポテンショスタットに電気的に接続される対極を備えた水の腐食性評価装置において、
上記試験水を収容し上記金属部材を陰分極して上記試験水中に含まれる金属イオンを還元するための第1の水槽、
pH緩衝作用を有する溶液を収容し、上記金属部材が全面腐食することなく上記金属部材の表面に酸化膜を形成することができる電位で上記金属部材を陽分極するための第2の水槽、
上記金属部材、上記参照電極及び上記対極のセットを上記第1の水槽と上記第2の水槽との間を相対的に移動させる移動機構を備えたことを特徴とする水の腐食性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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