説明

水不溶性のエラスチンマイクロ粒子

【課題】本発明の課題は、例えば、静脈注射により肝臓や脾臓に蓄積する大きさの微粒子である水不溶性のエラスチンマイクロ粒子を提供することにある。
【解決手段】動物由来、とくに魚類由来の水溶性エラスチンのコアセルベート液滴に、放射線を照射することにより水不溶性エラスチンのマイクロ粒子が得られる。粒子径は300nm超、10μm以下の範囲、とくに約1〜3μmの範囲にあるものが好ましい。かかるマイクロ粒子は、静脈注射をすれば肝臓や脾臓に蓄積すると考えられ、粒子に薬物を担持すれば肝臓がんや脾臓がんなどの治療に効果を発揮することが期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水不溶性のエラスチンマイクロ粒子、その製造方法およびその用途に関し、さらに詳しくは、薬物徐放性担体等に利用できる水不溶性のエラスチンマイクロ粒子、その製造方法およびそのマイクロ粒子を使用した薬物徐放性担体に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラッグ・デリバリー・システム(以下、DDSと略称することがある)は「薬剤を必要な時に、必要な場所で、必要な量だけ作用させる」ことを目的としており、薬物の効率的な活用や副作用の低減、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上のためにも非常に重要な役割を果たすことが期待されている。現在、経口、動静脈注射、経皮、経肺といった様々な投与形態でのDDS技術開発が進んでいる。例えば、抗癌剤溶液の腫瘍組織動脈内投与法は、臨床においても繁用される局所療法の一つである。しかし、この方法の場合、抗癌剤溶液を注入しても薬物の腫瘍組織に対する接触時間が短いので大きな治療効果は期待できない。
ドラッグ・デリバリー・システムにおいては、薬物を担持し目的部位まで運ぶための薬物担体(DDS担体)の開発が重要であり、DDS担体を利用するDDSの一例として、抗癌剤であるマイトマイシンCをエチルセルロースで被覆したマイクロカプセルを、腫瘍の動脈に注入する化学塞栓療法が知られている。しかし、既知のDDS担体の数はいまだ十分でなく、新たなDDS担体の開発が望まれている。
【0003】
ところで、血管系に注入された微粒子の体内動態および各臓器への移行は、投与部位と血管系・各臓器の解剖学的位置関係、および臓器における毛細血管床と血管壁の構造、さらには粒子のサイズや表面特性によって規定されることが知られている。そして、血管壁の性状は、臓器や病巣により大きく異なることから、微粒子は、血管内投与後、粒子径によって異なった臓器分布を示し、また、投与部位と臓器の解剖学的位置関係によっても臓器分布が異なってくる。例えば、静脈注射された直径12μm以上の微粒子は、循環血流に乗り肺の毛細血管床に機械的に塞栓を起こし捕捉される。また、同じ粒子を動脈内に注入すると、流域下の臓器の毛細血管で塞栓を起こす。
【0004】
一方、直径0.2〜3μm程度のマイクロオーダーサイズの微粒子は、肝臓のクッパー細胞をはじめとする細網内皮系組織(reticulo-endothelial system:RES)によって貪食されてそこに蓄積する。そのため、肝癌などの病巣がある場合は、この微粒子を担体として用い、これに抗癌剤などを担持させて静脈注射すると、特異的に肝臓のクッパー細胞をはじめとする細網内皮系組織によって貪食されることになり、肝癌などの治療に有効である。しかも、他の組織よりも特異的に肝臓のクッパー細胞などに貪食されるので、抗癌剤等の副作用は少ないと予想される。なお、直径0.1μm以下の微粒子は、肝臓やがん病巣、炎症部位では血管外へ漏出し、微粒子の標的化は不能になると言われている(非特許文献1参照)。
【0005】
一方、本発明者らは、生体高分子であるエラスチンに着目し、その薬物担体としての応用を検討してきた。エラスチンは、動物の大動脈、項靭帯、皮膚などの主要な構成成分であり、通常、生体内においては三次元網目構造の不溶性のタンパク質として存在している。かかるエラスチンを酸またはアルカリで加水分解したり、酵素で処理することによって、水溶性エラスチンが得られることは広く知られている。このようにして得られる可溶化エラスチンは、水溶液中においてコアセルベーションと呼ばれる現象を引き起こす。コアセルベーションとは、エラスチン水溶液を体温付近まで加熱すると白濁し、そのまま放置すると透明な平衡溶液と淡黄色の高粘性なコアセルベートの2層に分離し、冷却すると元の均一溶液に戻るという可逆的な一連の現象のことである(特許文献1、2および3参照)。
【0006】
本発明者らは、このコアセルベーション時に形成されるコアセルベート液滴に着目し、これにγ線を照射することによって、より安定で且つ水に不溶性の200nm程度のナノ粒子を作製することに成功し、先に特許出願を行った(特願2010−091952)。このナノ粒子は、粒子のサイズの観点から経皮投与のDDS担体としての利用が期待されている。
【0007】
しかし、前記のように肝臓や脾臓の病気治療のためには、マイクロオーダーサイズの微粒子が必要であり、先に開発したナノ粒子ではサイズが不足している。また、従来からマイクロオーダーのDDS担体は知られているが、それらは材料が合成高分子のため、化学合成や修飾などの合成工程が煩雑になり、さらには安全性の面で万全とは言えないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】福森義信ら、化学工学、63(10)、567-571(1999)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4078431号公報
【特許文献2】特開2007−45722号公報
【特許文献3】特開2009−219422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、薬物徐放性担体、とくに静脈注射により肝臓や脾臓の治療用に使用する薬剤の担体として好適な水不溶性のエラスチンマイクロ粒子を提供することにある。本発明の他の課題は、かかる水不溶性のエラスチンマイクロ粒子を簡単な操作で効率よく製造する方法を提供することにある。さらに、本発明の他の課題は、静脈注射により肝臓や脾臓の治療用に使用する薬剤用に好適な薬物徐放性担体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては、上記の課題を解決するために、第一の発明として、動物由来の水溶性エラスチンのコアセルベート液滴に、放射線を照射して得られる水不溶性のエラスチンマイクロ粒子が提供される。また第二の発明として、動物由来の水溶性エラスチンのコアセルベート液滴に放射線を照射することによって上記のマイクロ粒子を製造する方法が提供される。さらに、第三の発明として、上記のマイクロ粒子を構成成分とする薬物徐放性担体が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、動物由来の水溶性エラスチン、例えばカツオやマグロ等の魚類由来の水溶性エラスチンの水溶液を加熱してコアセルベート液滴を作製し、この液滴にγ線などの放射線を照射するという簡単な操作で、効率よく水不溶性のマイクロオーダーの粒子を作製できる。マイクロオーダーの粒子は、ナノオーダーの粒子に比較してサイズが大きく、肝臓や脾臓に捕捉されやすいので、薬物を肝臓や脾臓の病巣部位に運搬し肝臓や脾臓の病気を治療するための、DDS担体としての応用が期待できる。また、本発明のマイクロ粒子は、生体由来の高分子材料のため、酵素により分解を受け、生体内にそのまま残ることもない。さらに本発明では、マイクロ粒子を放射線照射で製造するため、無菌状態のマイクロ粒子として製造することができる。

【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】カツオ動脈球からカツオ由来の水溶性エラスチンを作製する手順を示す図である。
【図2】カツオ由来の水不溶性のエラスチンマイクロ粒子の粒径分布を示す図である。
【図3】カツオ由来の水不溶性のエラスチンマイクロ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においては、動物由来の水溶性エラスチンのコアセルベート液滴に、放射線を照射することによって水不溶性のエラスチンマイクロ粒子が製造される。水溶性エラスチンの原料となる動物性生体組織としては、とくに制限はなく、その具体例として、従来からエラスチンの含量が多いとの理由で賞用されている豚、馬、牛、羊などの哺乳動物から得られる項靭帯や大動脈血管など、カツオ、マグロ、ハマチ、サケなどの魚類の動脈球などが挙げられる。なかでも、放射線を照射した後にマイクロオーダーの粒子を形成しやすい点で、魚類由来の水溶性エラスチンが好ましい。とくに、カツオ由来の水溶性エラスチンのコアセルベート液滴を使用する場合には、放射線の照射量を調整することにより400nm超〜2μmの範囲の水不溶性粒子を容易に得ることができる。
【0015】
動物性生体組織から水溶性エラスチンを得る方法は、従来から色々と提案されており、とくに制限されないが、好ましいのは、本発明者が提案した下記の方法である(特許文献1および2参照)。
【0016】
第1の方法は、次のようにして行われる。まず、動物性生体組織からコラーゲンやその他の不要タンパク質の除去処理を行って不溶性エラスチンを得、次いでこの不溶性エラスチンをシュウ酸等の酸性可溶化液あるいは水酸化ナトリウム等のアルカリ性可溶化液に浸漬して溶解させ、水溶性エラスチンを製造する。コラーゲンやその他の不要タンパク質の除去処理は、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ性物質の水溶液を使用して行われる。これらのアルカリ性物質の濃度を1Lあたり0.005〜0.5モルとし、液温0〜105℃としたアルカリ性溶液中に、動物の生体組織を5〜60分間程度浸漬し、必要に応じてその浸漬を所定回数繰り返し行うのが好ましい。
【0017】
また、コラーゲンやその他の不要タンパク質の除去処理に際しては、アルカリ性溶液による処理の前に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化バリウムなどの塩を含む塩溶液に、動物の生体組織を浸漬させる浸漬処理(前処理)を行うこともできる。
【0018】
動物の生体組織は、先ず、ホモジナイザーを用いてホモジナイズするのがよい。ホモジナイズはミキサー、ミートチョッパーなど、生体組織を細断できるものであればよく、好ましくは3ミリメートル角以下、さらに好ましくはペースト状に細断できる器具を用いるとよい。細断した生体組織の粒が小さいほど、コラーゲンやその他の不要なタンパク質の除去効率を上げることができる。ホモジナイズした生体組織は、例えば、熱水又は熱希薄アルカリ水溶液で煮沸するか、もしくは有機溶媒で処理することによって脱脂処理を行ってもよい。
【0019】
前記の可溶化液としては、シュウ酸、蟻酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ベタイン、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、スルファミン酸、過塩素酸、トリクロロ酢酸などの酸成分を含む酸性溶液が用いられる。そして、この酸性溶液の酸の濃度は1Lあたり0.05〜5モルとし、かつ、液温を90〜105℃とするのが好ましい。
【0020】
前記可溶化液は、また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ性物質を含むアルカリ性溶液であってもよい。このアルカリ性溶液中に添加したアルカリ性物質の濃度を、1Lあたり0.01〜5モルとし、かつ、液温が90〜105℃のアルカリ性溶液とするのが好ましい。
【0021】
第2の方法は、動物の生体組織の不要部分の除去処理、動物の生体組織の脱脂処理、動物の生体組織の細断処理の少なくともいずれか一つを含む前処理工程と、前処理された生体組織をアルカリ性溶液に浸漬してコラーゲンやその他の不要タンパク質を濾別するアルカリ抽出工程と、アルカリ抽出工程後の残渣をアルカリ又は酸で溶解するアルカリ又は酸溶解工程を所定回数繰り返し、濾別により水溶性エラスチンを含む濾液を得る濾液回収工程と、濾液から水溶性エラスチンを生成する水溶性エラスチン生成工程を、順次行って水溶性エラスチンを製造する方法である。前記アルカリ溶解工程で用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムのいずれか一つ又は混合物が好ましい。また、前記酸溶解工程で用いる酸としては、シュウ酸、蟻酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ベタイン、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、スルファミン酸、過塩素酸、トリクロロ酢酸の少なくともいずれか一つ又は混合物が好ましい。
【0022】
この操作は、前記の、生体組織からコラーゲンやその他の不要タンパク質を除去して不溶性エラスチンを得て、次いで、この不溶性エラスチンを可溶化して水溶性エラスチンを得る第1の方法とは異なり、生体組織から不溶性エラスチンを得ることなく、直接、水溶性エラスチンを得る方法である。即ち、1Lあたり0.005〜0.5モルで0〜105℃としたアルカリ性溶液中に、脱脂、細断処理した生体組織を5〜60分程度浸漬し、その浸漬を所定回数繰り返し行ってエラスチン以外のコラーゲンや不要タンパク質を除去した処理組織を得、次いで、この処理組織を1Lあたり0.01〜5モルのアルカリ性溶液中に90〜105℃で20〜360分程度、繰り返し浸漬して溶解し(不要タンパク質の除去操作に比較してアルカリ性溶液の濃度がより高濃度であり、且つ浸漬時間がより長い)、あるいはこの処理組織を1Lあたり0.05〜5モルで90〜105℃の酸性溶液中に20〜360分程度、繰り返し浸漬して溶解し、水溶性エラスチンを得る方法である。
【0023】
前記のごとく第1又は第2の方法で得られた水溶性エラスチンは、次いで、例えば、透析処理することによって、低分子量のものを除去して、分子量約3,500以上の水溶性エラスチンとすることができる。特に好ましく用いられるのは、平均分子量が約10〜30万の高分子量水溶性エラスチンである。
【0024】
このようにして得られた水溶性エラスチンは、濃度0.1〜60mg/ml、好ましくは濃度0. 5〜30mg/mlの範囲で、広域緩衝溶液(pH1.0〜11.0)の溶媒でそれぞれ調整し、昇温速度0.1〜40℃/minで加熱することにより、コアセルベート液滴を形成することができる。そして、エラスチンの水溶液の濁度を4〜80℃の温度範囲で測定することによって、コアセルベート液滴の生成を確認することができる。
【0025】
本発明においては、前記のようにして得られたコアセルベート液滴に、γ線や電子線などの放射線、すなわち電離放射線を照射することによって水に不溶性のマイクロ粒子が得られる。放射線は、例えばCo−60γ線照射装置によって容易に照射することができる。照射の条件は適宜選択すればよいが、照射温度は、通常、10〜80℃、好ましくは30〜70℃であり、照射量は、通常、5〜50kGy、好ましくは10〜30kGyである。照射時間は、所望の照射量になるように適宜調整すればよい。放射線照射により、コアセルベート液滴は架橋して水不溶性の粒子に転化する。
【0026】
生成した水不溶性粒子は、反応系からろ過や遠心分離の操作により容易に分取することができる。この粒子は、マイクロオーダーサイズの粒子であり、具体的には、粒径が300nm超、10μm以下、好ましくは400nm超、10μm以下、より好ましくは約1〜3μmのものである。また、このマイクロ粒子は、長期にわたり安定に存在するものであり、例えば、4℃及び37℃で2か月間にわたり安定である。
このようにして得られる水不溶性のマイクロ粒子は、動物由来のエラスチンを用いた新規なマイクロ粒子であり、その粒径から肝臓や脾臓の治療用薬剤のための徐放性担体として用いられる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例によって何らの制限を受けるものではない。
【0028】
実施例1
(カツオ由来の水溶性エラスチンの作製)
図1に示す手順に従って、カツオ動脈球からNaCl水に可溶及びNaOH水溶液に可溶の不要タンパク質を除去した後、可溶化処理を施してカツオ由来の水溶性エラスチンを作製した。図中の×6や×2は同じ処理の繰り返しの数を表している。
【0029】
動物性生体組織としてカツオを用い、付着している脂肪や筋肉などエラスチン含量の低い部分を刃物で削ぎ落とした後、ホモジナイザーを用いてホモジナイズした。ホモジナイズしたカツオの生体組織を、4℃の希薄アルカリ溶液(0.01〜0.02N)で10日間浸漬し、さらに80〜90℃で1時間加熱処理して脱脂し、動脈球脱脂組織を得た。
【0030】
この動脈球脱脂組織を容器に入れ、該動脈球脱脂組織の重量に対して10倍容量(重量1g当たり10ml)の1M塩化ナトリウム水溶液を加えて浸漬し、4℃で24時間攪拌した。この操作は、不要なタンパク質を除去するためのものであり、可溶化した成分を除去した後に、同じ操作を繰り返し行い、合計で6回の浸漬処理を行った。
【0031】
浸漬処理を経た動脈球脱脂組織を10倍容量の0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液に入れ、50℃で30分間攪拌し、コラーゲン除去処理を行った。次いで、動脈球脱脂組織とアルカリ性溶液とを分離した後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液による50℃、15分間の処理を2回、0.01Mの水酸化ナトリウム水溶液による4℃、15分間の処理を3回繰り返して行い、不溶性エラスチンを得た。
【0032】
次に、不溶性エラスチンの重量に対して10倍容量の0.25Mのシュウ酸(可溶化液)を加え、100℃で30分間攪拌することで不溶性エラスチンを断片化して水に可溶化しその水溶性成分を分離した後、残渣に対して同じ操作を合計で4回行い、カツオ由来の水溶性エラスチンを得た。
【0033】
単離したカツオ由来の水溶性エラスチンについて非還元条件下でSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)−PAGE(ポリアクリルアミドゲルの電気泳動)を行い、分子量分布を測定した。ゲル濃度は15.0%、染色法はCBB、分子量マーカーにはタンパク質分子量マーカー「第一」・IIを用いた。分子量分布は3,500〜300,000の範囲に広く分布しており、とくに43,000以上の分子量を有する成分が多く、平均分子量は約20万程度であった。
【0034】
単離したカツオ由来水溶性エラスチンのアミノ酸組成を調べるため、アミノ酸分析を行った。各粉末約1mgを、6N・HClの1mlに溶解し、加水分解用チューブに入れ、減圧下で窒素ガスにより置換後、チューブを封管した。その後、48時間、110℃で加水分解した。加水分解サンプルについて、アミノ酸分析を行い、アミノ酸組成を算出した。その結果を表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
(水溶性エラスチンのマイクロ粒子の作製)
カツオ由来の水溶性エラスチンを10mlバイアル瓶にとり、水に溶解して2.0mg/mlの水溶液を調製した。この水溶液を加熱して45℃に調製し、Co−60γ線照射装置を用いて線量率8.8kGy/時間でγ線を照射し(照射量10kGy)、分子間架橋させることよりマイクロ粒子を作製した。得られたマイクロ粒子を遠心分離操作により分離して取得した。粒子の収量は1.1mgであり、収率は5. 5%であった。
【0037】
γ線照射後の粒子の粒径測定は、NICOMP(Imaging Technology Group, 380ZLS)を用いて、動的光散乱法(DLS)により行った。各サンプルを3mlセルに入れ、2分×3回測定した。粒径分布の測定結果を図2に示した。図2の横軸は粒径(単位はnm)であり、Kは1,000を表している。この結果から、生成した架橋粒子の91.5%が粒径1280nm±209.3nmの範囲に含まれることが確認された。
【0038】
γ線照射により作製したカツオ由来粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した写真を図3に示した。この結果より、マイクロ粒子はほぼ真球状の粒子であることがわかった。マイクロ粒子の水分散液中での安定性を確認するため、ゼータ電位測定を行ったところ、−40.5mVで十分な負の電荷を持っており、非常に安定な粒子であることが確認された。
【0039】
このように、本発明の架橋マイクロ粒子はほぼ真球状の安定な粒子であり、DDS担体として使用する際に形状的に薬剤を担持し易く、且つ、薬剤を担持したDDS担体は、血液中を移動し易くなることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によると、動物由来の水溶性エラスチンの水溶液を加熱してコアセルベート液滴を作製し、これに放射線を照射するという簡単な操作でマイクロオーダーの安定な架橋粒子を作製することができる。このサイズの粒子は、肝臓や脾臓に捕捉されるという性質があるので、静脈注射をすれば肝臓や脾臓に蓄積すると考えられ、肝臓や脾臓の病気に対する治療薬、例えば、肝臓がんや脾臓がんなどの治療用薬剤の担体、とくに徐放性担体として有用である。また、この架橋粒子は、生体由来の高分子材料のため、酵素により分解を受け、生体内にそのまま残ることもない。更に、放射線照射により製造できるため無菌状態のマイクロ粒子を得ることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性エラスチンのコアセルベート液滴に、放射線を照射して得られる水不溶性のエラスチンマイクロ粒子。
【請求項2】
水溶性エラスチンが魚類由来である請求項1記載のマイクロ粒子。
【請求項3】
粒子径が300nm超、10μm以下である請求項1または2記載のマイクロ粒子。
【請求項4】
水溶性エラスチンのコアセルベート液滴に放射線を照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロ粒子の製造方法。
【請求項5】
放射線の照射温度が10〜80℃であり、照射量が5〜50kGyである請求項4記載のマイクロ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロ粒子を構成成分とする薬物徐放性担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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