説明

水中のアンモニア性窒素の直接酸化法及びその装置

【課題】アンモニア性窒素を含む水処理において、従来の方法より低コストで効率的にアンモニア性窒素を酸化処理して除去することができ、同時にこの処理によって電気エネルギーの回収も可能な水処理方法と水処理装置を提供すること。
【解決手段】導電性担体の上に形成させた微生物膜を用いた生物膜電極を負極とする負極槽と、隔膜を隔てて内部に正極を有する正極槽からなり、負極槽にアンモニア性窒素を含む被処理水を導入し、嫌気性条件下で微生物反応を行わせることによってアンモニア性窒素を直接窒素ガスに酸化し、酸化処理時に負極に発生した電子を正極に伝達し、正極において溶存する酸素を還元する水処理方法と水処理装置。正極と負極の間に0.5V程度のわずかの直流電圧を印加するとよい。また、負極から正極への電子の移動から、電気エネルギーを回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の処理方法及び水処理装置に関し、特に、水中の窒素化合物の除去のために、嫌気性条件下でアンモニア性窒素を直接窒素ガスへ酸化処理し、同時に電気エネルギーの回収も可能な水の処理方法及び水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア性窒素は本来微生物の栄養源となる物質であるが、畜産排水、生活排水及び工場排水などの種々の排水中に高濃度含まれている。これらの排水が環境中に排出されると、排水中に含まれるアンモニア性窒素の一部は、微生物の働きによって硝酸性窒素、亜硝酸性窒素等の窒素化合物となり、アンモニア性窒素を含むこれら窒素化合物が閉鎖性水域の富栄養化をもたらすという問題が生じている。このアンモニア性窒素は生物学的手法によって窒素ガスまで無害化することが可能である。種々の窒素化合物の無害化方法の中で、硝化菌及び脱窒素菌と言われる細菌によって引き起こされる硝化・脱窒反応を利用する方法が主流となっている。アンモニア性窒素は硝化プロセスにおいて、好気性条件下で硝酸性窒素もしくは亜硝酸生窒素まで酸化される。硝化プロセスにおいて生じた硝酸性窒素及び亜硝酸生窒素は、嫌気性条件下で脱窒プロセスにおいて窒素ガスまで還元されて無害化される(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このような従来の生物学的処理法では、硝化プロセスにおいて電子受容体として溶存酸素を必要とするため、反応槽にエアレーションを行う必要があり高コスト化の要因となっている。また、脱窒プロセスでは電子供与体として有機物等を供給する必要があり、電子供与体の供給方法として被処理水中に含まれる有機物を利用するAOプロセス、酢酸、メタノール等の有機物等を供給する有機物添加法等が提案されてきた。ここで、AOプロセスとは、嫌気好気活性汚泥法とも言われ、処理水の流路順に独立した嫌気槽と好気槽を持ち、好気槽でアンモニア性窒素を硝酸性窒素又は亜硝酸生窒素に酸化し、嫌気槽において電子供与体としての排水中の有機物を利用して硝酸性窒素又は亜硝酸生窒素の窒素化合物を窒素ガスにまで還元する方法である。
しかし、これらの従来の水の処理方法では、最適な有機物添加量を把握することが難しい上、過剰に加えた有機物の処理が必要となることに加えて有機物を添加することによって生ずる余剰汚泥の処理が必須となり、処理プロセスが煩雑化している。
【0004】
また、このような硝化・脱窒プロセス以外にもアンモニア性窒素処理の生物学的処理法が提案されており、その1つとしてANAMMOXプロセスが挙げられる。ANAMMOXプロセスは、嫌気性条件下でアンモニア性窒素とアンモニア性窒素の亜硝酸型硝化によって生じる亜硝酸性窒素をバランスよく存在させることによって、アンモニア酸化能のある微生物としてplanctomycetes菌を利用し、この菌が電子受容体として亜硝酸性窒素を要することで、アンモニア性窒素を直接窒素ガスへ酸化処理する水処理方法である。このようにANAMMOXプロセスは嫌気性条件下で全処理プロセスを完了することができる。しかし、亜硝酸生窒素を必要とするため、これを供給するためには水中のアンモニア性窒素の一部を硝化する必要があり、このためのエアレーションに比較的大きなコストを要することとなる。また、水中のアンモニア性窒素を効率よく亜硝酸型硝化する技術は未確立であり、ANAMMOXプロセスは処理を安定させることが硝化・脱窒処理と比べると比較的難しいという問題がある(非特許文献1参照)。
【0005】
上述のような硝化・脱窒プロセスは、現在確立したアンモニア性窒素処理法であるが、酸素を電子受容体として用いる硝化プロセスを要するため、エアレーションのためのコストを必要とし、嫌気性処理法と比べて処理コストが高くなるという問題がある。
【0006】
また、脱窒プロセスでは有機物等を電子受容体として供給する必要があるためAOプロセスや有機物添加法等が提案されているが、AOプロセスでは排水中に含まれる有機物量が相対的に少ない場合が多く、その窒素除去率が50〜60%と低いという問題がある。このAOプロセスの対応策でもある有機物添加法では余剰汚泥の処理、過剰に加えた有機物の除去が必要となるため処理工程が煩雑化するという問題がある。
【0007】
また、アンモニア性窒素処理の嫌気性処理法であるANAMMOXプロセスでは、ここで使用するplanctomycetes菌による反応が酸素等に大きく阻害される上、planctomycetes菌の増殖速度が非常に遅く、硝化・脱窒プロセスと比べると処理が不安定であり処理速度が比較的遅くなるという問題がある。
【0008】
さらに、近年、地球温暖化に起因すると考えられる様々な環境問題が顕在化する様になり、化石燃料への依存を可能な限り少なくするため、植物や畜産廃棄物を生物処理して得られるバイオエタノールやバイオメタンガスの利用等、エネルギー源を分散させる試みがなされている。
【0009】
【特許文献1】特公平6−10423号公報
【特許文献2】特開2002−346566号公報
【非特許文献1】T.Khin, A.P. Annachhatre “Biotechnology Advances”, 22 (2004), 519-532
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような従来の排水処理方法の問題点に鑑み提案されたものであり、これらの従来の方法の問題点を解決して、嫌気性条件下で被処理水中のアンモニア性窒素を直接窒素ガスへ、低コストで酸化処理することを可能にし、さらにこの酸化処理を利用して電気エネルギーを回収することが可能な水の処理方法及び、水処理装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、微生物膜がその表面上に形成された導電性担体を負極として利用して、これを隔膜により分離された正極と結んで、この負極槽にアンモニア性窒素を含む被処理水を導入することによって一種の電池構造とし、負極槽内を嫌気性条件とし微生物反応を起こさせることによってアンモニア性窒素を直接窒素ガスに酸化させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とする発明である。
(1)水中のアンモニア性窒素を除去する水処理方法であって、導電性担体の上に形成させた微生物膜を用いた生物膜電極を負極とする負極槽と、隔膜を隔てて内部に正極を有する正極槽からなり、負極槽にアンモニア性窒素を含む被処理水を導入し、嫌気性条件下で微生物反応を行わせることによってアンモニア性窒素を直接窒素ガスに酸化し、酸化処理時に負極に発生した電子を正極に伝達し、正極槽内水中の溶存酸素又は空気中の酸素を還元することを特徴とする、水処理方法。
(2)正極と負極の間に微小な直流電圧を印加することを特徴とする、前記(1)記載の水処理方法。
(3)負極槽にアンモニア性窒素を含む被処理水を導入し、正極槽に電解質溶液を導入したのち、両電極間に微小な直流電圧を印加した状態で、嫌気性条件下で微生物反応を行わせることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の水処理方法。
(4)生物膜電極が、導電性担体表面上に微生物膜を形成させ、該導電性担体を負極の電極材料と接続したものである、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の水処理方法。
(5)隔膜によって分離された内部に正極を有する正極槽、内部に負極を有する負極槽、及び両電極を接続する結線から構成され、負極が導電性担体の表面上に形成させた微生物膜を用いた生物膜電極であることを特徴とする水処理装置。
(6)正極と負極の間に直流電源を設け、両電極間に微小な電圧を印加することを特徴とする、前記(5)に記載の水処理装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水処理方法を用いることによって、アンモニア性窒素を含有する農業排水、工業排水、その他の様々な水から、そこに含まれているアンモニア性窒素を硝酸性窒素や亜硝酸生窒素を経ることなく直接窒素ガスまで酸化することができ、アンモニア性窒素を含む水中の窒素除去を効率的に行うことができる。さらに、この方法によれば、嫌気性の条件下でアンモニア性窒素の酸化処理を行うことができるため、従来の方法で硝化プロセスにおいて必要とした被処理水のエアレーションの必要がなくなり、このために処理コストが高くなるという問題を解消することができる。また、従来の方法では、脱窒プロセスで電子受容体として有機物等を添加する必要があったが、本発明の方法によればこのような余分な有機物の添加が必要でなくなり、その処理プロセスの簡略化やコストダウンが可能となった。
【0014】
更に、本発明の装置は、電池と類似した構造をしており、負極槽での酸化処理の際に電子が放出され、これが正極での還元反応に利用される。従って、水の処理に伴い両極間に電流が流れることとなり、電気エネルギーの回収が可能な水処理方法と水処理装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、イオン交換膜等の隔膜によって隔てられた正極槽及び負極槽の2槽構造で、各槽に正極及び負極の役割を果たす電極を装備した創エネルギー型のアンモニア性窒素酸化処理装置及び、嫌気性条件下でアンモニア性窒素を直接窒素ガスへ酸化処理しつつ、酸化処理時に生じる電子を回収することによって電気エネルギーの回収を可能とする水処理方法である。
【0016】
以下に本発明について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の水処理装置の全体概略構成図である。
【0017】
図1において、負極槽16では、その内部に負極材料8に接した導電性担体18が充填され、その表面上に微生物膜を形成させることによって、生物膜電極が構成される。アンモニア酸化のための微生物膜の確実な形成とその形成速度の促進を図るために活性汚泥19を用いることが望ましい。負極槽には負極溶液流入口17及び負極溶液流出口15が設けられている。アンモニア性窒素を含む被処理水である負極溶液は、負極溶液流入口17から導入される。また、正極槽10と負極槽16は、陽イオン交換膜などの隔膜6によって完全に分離されている。
【0018】
電気エネルギーの回収及び負極槽での処理速度を促進させるために、両電極間には直流電源1等によって微小の電圧が印加されることが好ましい。電圧印加の目的は、両電極の間に、水の電気分解を引き起こすような大きな電位差ではなく、微小な電位差をあらかじめ強制的に生じさせておくことによって、目的とする微生物反応を誘起し、更に促進させるためのものである。従って、両電極間に印加する電圧は、この目的に適する限度で微小な電位差であることが必要であり、具体的には、2.0ボルト以下で使用することができ、好ましくは0.1〜1.0ボルト程度でよく、更に好ましくは0.3〜0.8ボルト程度である。両電極間に2.0ボルトを超える電圧を印加すると水の電気分解が進行し始めるため、本発明の目的には好ましくない。
【0019】
負極槽16では、生物膜電極によりアンモニア性窒素を直接窒素ガスへ酸化処理しつつ、このときに生じる電子の流れを利用することによって、電気エネルギーの回収が行われる。処理後の負極溶液は処理水として負極溶液流出口15から装置外へ流出する。アンモニア性窒素を直接窒素ガスへ酸化処理するときに生じた電子は正極7へと移動し、正極槽10において正極溶液中の溶存酸素又は空気中の酸素を水へ還元する。正極溶液は正極溶液流入口11から導入され、正極溶液流出口9から装置外へ流出する。
【0020】
負極槽16では、下記の反応式(1)に従って被処理水中のアンモニア性窒素が嫌気性条件下で窒素ガスへ直接酸化処理される。
2NH → N+8H+6e (1)
また、正極槽10では、下記の反応式(2)に従って正極溶液中の溶存酸素が水へ還元される。
+4H+4e → 2HO (2)
上記の反応式(1)、(2)から、総括反応式は下記の反応式(3)となる。
4NH+3O → 2N+4H+6HO (3)
反応式(3)のギブス自由エネルギー変化はΔG=−1106(kJ/mol)の反応となり、反応は左から右に進行する。
【0021】
微生物膜を形成させる導電性担体18としては、活性炭、導電性プラスチック、炭素材ペレット、多孔質金属材などが使用することができ、これらのうちで活性炭がもっとも好ましい。
【0022】
また、本発明の生物膜電極に使用することができる微生物は、活性汚泥中に多く存在するもので、常温で増殖するとともに、嫌気性条件下で水中のアンモニア性窒素を酸化する能力を有するものが使用することができる。具体的には、生活排水処理系のAOプロセス等の嫌気槽や好気槽中に存在する汚泥から得られるものが適している。
【0023】
本発明の水処理装置は、隔膜で正極槽と負極槽とに分けられた2槽式である。この隔膜の役割としては、電気的導電性を維持しつつ、両極に存在、発生する物質が、拡散、対流により相互に混合することを防止することであり、その性質としては、電気化学的又は生物学的に耐食性を有し、電位差が小さく、機械的強度が大きく加工性に優れ、装着や管理が容易であることが望ましい。実際には、本発明の隔膜としては、極微細孔を持つ薄濾布や素焼き板、陶磁器、不織布、親水性高分子膜、イオン交換膜等を用いることが可能であるが、特に、効率のよい反応のためには、陽イオン交換膜が隔膜として最適である。
【0024】
本発明の水処理装置は、回分式と連続式のいずれの方式でも使用可能である。回分式の場合には、例えば図1において、まず負極槽に活性炭などの導電性担体18を負極材料8に接触させた状態で充填し、活性汚泥19を投入することによって生物膜電極を形成させる。次いで、ここに負極液流入口17からアンモニア性窒素を含む被処理水を導入する。一方、正極槽にはリン酸緩衝液等の電解質溶液を正極液として導入する。次に、正極7と負極8の間に直流電源1から、可変抵抗2を調節して0.5ボルト程度の電圧を印加する。この状態で放置することによって、負極槽の中で微生物反応が進行し、負極液中のアンモニア性窒素が酸化されて、窒素ガスとなって排出口14から装置外へ排出される。負極でのアンモニア性窒素の酸化に伴って電子が発生し、その電子が結線を通って正極へ移動する。正極では移動してきた電子が正極液中の溶存酸素又は空気中の酸素を還元して水となる。微生物反応の進行に伴って負極液中のアンモニア性窒素が減少してゆくので、目標値まで減少した時点で反応を終了し、被処理液を抜き出す。
【0025】
連続式の場合には、回分式の場合と同様に、生物膜電極を形成させ、負極に被処理水を、正極に正極液を導入して、両電極間に電圧を印加して負極で微生物反応を進行させる。被処理水を連続的に負極槽へ注入し、処理済の水を連続的に排出するが、この際、微生物反応の進行に応じて処理済の水の中のアンモニア性窒素の濃度が目標値以下となるようにその注入量をコントロールする。
【0026】
なお、水中の硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素を除去するために、負極に生体触媒電極又は生物膜電極を用いて水の電気分解を行い、この電気分解によって生ずる水素を用いて生物膜電極によって水中の硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素を生化学的或いは生物学的に除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかし、これらの方法は、脱窒反応に必要な電子受容体である水素の供給源として水の電気分解によって発生する水素を利用するものである。
これに対して、本発明の方法は、このような水の電気分解を行うのではなく、生物膜電極の微生物反応そのものによって水中のアンモニア性窒素を窒素ガスにまで酸化させるものであり、この微生物反応をより促進させるために、電気分解が起こらない程度のごく微小な電位差を両電極間に印加するもので、全く異なった反応メカニズムによるものである。即ち、印加する電圧は0.5ボルト程度のごく微小なもので、これは生物膜電極の微生物反応を誘引し、促進させるためのものであって、水の電気分解が発生するほどの電力を消費するものではない。
【0027】
次に、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
溶存酸素を除去し、アンモニア性窒素を90ppm含むアンモニア含有模擬排水を人工的に作成し、図1に示す水処理装置を用いて、模擬排水中に含まれるアンモニア性窒素を直接窒素ガスへ酸化する処理を行った。この水処理装置の正極槽10は0.6リットル、負極槽16は0.6リットルであり、隔膜7としてデュポン社製の陽イオン交換樹脂膜(商品名:Nafion)を備えている。模擬排水の酸化処理は回分操作で行った。
【0029】
まず、アルゴンガス流入口13からアルゴンガスを装置内部へ流入させ、装置内部の気体を気体排出口14から排出することで、装置内部の気体をアルゴンガスで置換した。この水処理装置の負極槽16の中に、硝化汚泥100mlと活性汚泥100mlの混合汚泥19を活性炭180gと混合したものを装入した。ここに少量の模擬排水を入れて室温で放置して汚泥中の微生物を増殖させ、導電性担体である活性炭18の表面上へ微生物膜を形成させた。この表面に微生物膜を形成された活性炭を負極8に接触するように設置して、生物膜電極とした。
【0030】
このようにして負極槽に生物膜電極を備えた水処理装置に、1週間に1度の回分操作で、溶存酸素を除去しアンモニア性窒素を90ppm含むアンモニア含有模擬排水を、被処理水として負極溶液流入口17から負極槽16に供給し、負極槽16をそのまま嫌気性条件下に保った。また、正極槽も同様に溶存酸素を5〜8ppm程度含むリン酸緩衝液を正極溶液として1週間に1度の回分操作で正極溶液流入口11から正極槽10に供給した。
生物膜による酸化反応及び処理時に生じる電子の回収を促進するため、処理中は正極7及び負極8の間に直流電源1を用いて、ごく少量の0.5Vの電圧を印加し続けた。回分処理実験中に発生した気体は、気体排出口14を閉鎖して窒素採取口12に連結したテドラーバッグの中に回収した。
【0031】
この状態で1週間放置して、生物膜電極による反応を進行させ、本発明の水処理装置による水処理を行った。
1回の回分処理毎に、負極溶液を負極溶液流出口15から回収し、この負極溶液中のアンモニア性窒素濃度、硝酸性窒素濃度及び亜硝酸性窒素濃度を測定し、テドラーバッグ内の窒素ガス量を測定した。また、処理中は1日1回電極間に生じる電流値を測定した。
【0032】
この水処理装置による模擬排水の処理において、正極槽10と負極槽16は隔膜である陽イオン交換膜6によって分離されているため、アンモニア性窒素が負極槽16から正極槽10へ流出することも考えられたが、正極溶液中のアンモニア性窒素は極めて少量しか検出できなかったため、アンモニア性窒素の陽イオン交換膜6を介して正極槽10への流出量はほとんどなかったと考えられる。
【0033】
比較対照として、図1の水処理装置において、直流電源1、可変抵抗2及び負極槽16に混合汚泥19を用いず活性炭のみとした水処理装置を用いて同様の排水処理操作を行った。毎回の回分処理実験ごとに活性炭に吸着するアンモニア性窒素量及び、回分処理実験の当初よりテドラーバッグに残留していた窒素ガス量を測定した。これは毎回の操作において、活性炭に吸着されるアンモニア性窒素の量と、テドラーバッグ内に実験開始前から残留する窒素ガスの量を把握して補正するために行った。これにより、本発明の排水処理装置での排水処理操作による流出アンモニア性窒素処理量、流出硝酸性窒素処理量、流出亜硝酸性窒素処理量、及び回分処理実験中に発生した窒素ガス量を補正計算した。
【0034】
これらの模擬排水の処理実験の結果を図2及び図3に示す。図2中のaは処理前の模擬排水中のアンモニア性窒素量(10.5mg程度)、bは処理後の模擬排水中のアンモニア性窒素量(9.5mg程度)、cは処理後の模擬排水中の硝酸性窒素量及び亜硝酸性窒素量(0.0mg)、dは1回の回分処理実験中に発生した窒素ガス量(1.0mg程度)、eは処理後の処理水中のアンモニア性窒素量、硝酸性窒素量、亜硝酸背窒素量、及び回分処理実験中に発生した窒素ガス量の合計値(10.5mg程度)をそれぞれ示す。また、図3中のfは電極間に発生した電流値(50.0μA程度)、gは直流電源1を用いて電極間に印加した0.5Vの電圧によって電極間に流れる電流値(22.0μA程度)を示す。
【0035】
この図2からわかるように、処理後のアンモニア性窒素量(b)は処理前のアンモニア性窒素量(a)に比べて減少しており、処理後の負極溶液中で硝酸性窒素量と亜硝酸窒素量(c)はほとんど測定されていないことから、アンモニア性窒素が処理されて減少し、かつ硝酸性窒素量と亜硝酸窒素は生成していないことがわかる。また、処理後の窒素の合計量(e)が、一部処理前のアンモニア性窒素量(a)より大きくなっているところが見られるが、これは窒素ガス量(d)の測定誤差による変動に起因するものであり、全体的には平均すればこれは処理前のアンモニア性窒素量(a)と大略等しい値となっている。そして、この処理によるアンモニア性窒素の減少量は概ね処理中に発生した窒素ガス量(d)と同程度であり、さらにこれらの値と電流値は式(1)の関係をほぼ満足していることから、嫌気性条件下でアンモニア性窒素が直接窒素ガスへ酸化処理され、電子が回収されたことがわかった。
さらに、図3に示されるように、処理期間中において、電極間に0.5Vの電圧を印加することによって流れる電流値(g)よりも大きな電流値(f)が発生していることがわかる。以上のことから、嫌気性条件下でアンモニア性窒素を直接窒素へ酸化処理しつつ、電極間に電圧を印加することにより電気エネルギーを回収することができ、負極槽での生物膜電極による反応処理速度を促進することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法及び装置によれば、嫌気性条件下でアンモニア性窒素を直接窒素ガスへ処理しつつ電気エネルギーの回収を行うことが可能なため、従来の方法に比べて低コスト、低環境負荷でかつ省エネルギーで水中のアンモニア性窒素を処理することが可能であり、地下水等の環境水の浄化処理、工業用水、農業用水等の用水処理、及び下水や産業廃水、農業排水等の排水処理等の分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の水処理装置の全体概略構成図である。
【図2】実施例におけるアンモニア性窒素の処理結果を示すグラフである。
【図3】実施例における電子回収を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1:直流電源、2:可変抵抗、3:可変抵抗、4:電圧計、5:電流計、6:隔膜(Nafion膜)、7:正極、8:負極、9:正極溶液流出口、10:正極槽、11:正極溶液流入口、12:窒素採取口、13:アルゴンガス流入口、14:気体排出口、15:負極溶液流出口、16:負極槽、17:負極溶液流入口、18:活性炭、19:混合汚泥(消化汚泥及び活性汚泥)
a:処理前のアンモニア性窒素量、
b:処理後のアンモニア性窒素量、
c:処理後の硝酸性窒素量及び亜硝酸性窒素量、
d:回分処理実験中に発生した窒素ガス量、
e:処理後のアンモニア性窒素量、硝酸性窒素量、亜硝酸背窒素量及び回分処理実験中に発生した窒素ガス量の合計量、
f:電極間に発生した電流値、
g:電極間に印加した0.5Vの電圧によって電極間に流れる電流値、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中のアンモニア性窒素を除去する水処理方法であって、導電性担体の上に形成させた微生物膜を用いた生物膜電極を負極とする負極槽と、隔膜を隔てて内部に正極を有する正極槽からなり、負極槽にアンモニア性窒素を含む被処理水を導入し、嫌気性条件下で微生物反応を行わせることによってアンモニア性窒素を直接窒素ガスに酸化し、酸化処理時に負極に発生した電子を正極に伝達し、正極槽内水中の溶存酸素又は空気中の酸素を還元することを特徴とする、水処理方法。
【請求項2】
正極と負極の間に微小な直流電圧を印加することを特徴とする、請求項1記載の水処理方法。
【請求項3】
負極槽にアンモニア性窒素を含む被処理水を導入し、正極槽に電解質溶液を導入したのち、両電極間に微小な電圧を印加した状態で、嫌気性条件下で微生物反応を行わせることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
生物膜電極が、導電性担体表面上に微生物膜を形成させ、該導電性担体を負極の電極材料と接続したものである、請求項1ないし3のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項5】
隔膜によって分離された内部に正極を有する正極槽、内部に負極を有する負極槽、及び両電極を接続する結線から構成され、負極が導電性担体の表面上に形成させた微生物膜を用いた生物膜電極であることを特徴とする水処理装置。
【請求項6】
正極と負極の間に直流電源を設け、両電極間に微小な電圧を印加することを特徴とする、請求項5に記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−61390(P2009−61390A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231146(P2007−231146)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第41回日本水環境学会年会、社団法人日本水環境学会主催、平成19年3月15日〜17日、
【出願人】(392035972)株式会社ヤマト (21)
【Fターム(参考)】