説明

水中切離装置

【課題】
水底に係留されている測定機器が切離されたかを迅速かつ正確に確認でき、この測定機器を効率的に回収できる簡便で安価な水中切離装置を提供する。
【解決手段】
水底測定装置1は、水底測定機器17、垂下する錘13、送受波器12、それらを水底から水面へ浮上させる浮力体16が、一体化し傾倒されたまま、該水底に沈められる錨20へ切離器11を介して係留されており、該送受波器12が、該水底で受信した切離指令信号を検知する回路、及び検知した該切離指令信号に応じ該切離器11に切離の作動を指示する回路と、該切離により該錘13を下にして起き上がって浮上しつつある該測定機器17の傾斜変動を感知する傾斜計14から、出力された傾斜感知信号を検知する回路、及び検知した該傾斜感知信号に応じ切離完了信号の送信を該送受波器12に指示する回路とへ、接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底に沈め、人工地震の地震波等を測定したり水質を調査したりする水底測定機器を、水面へ浮上させて回収するために用いられる水中切離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底の地下浅部の地層構造や大陸棚の複雑な地形を探査したり、海洋や湖沼の水底の水質を調査したりするため、水底測定装置が用いられる。
【0003】
海底の地層構造の探査は、海底に数kmおきに、地震計等の測定機器を配置した後、人工地震を起こし、地震波を測定することにより行われるものである。地震波の伝搬距離が長いという特性を利用して地震波の中の屈折波を解析すると、海底の地下浅部の地層構造を推測することができる。
【0004】
このような海底地層構造探査等に用いられる測定機器は、浮力体が繋がれており、切離装置を介して錨に係留されて海底に沈められ、地震波を測定した後、切離装置を駆動させることにより錨を切り離し、浮力体により海上へ浮上させて、回収される。回収後、測定機器から地震波測定データが収集される。
【0005】
特許文献1には、船舶上からの超音波信号により切離装置を作動させ、測定機器を切り離して浮上させ回収できる自己浮上式海底観測装置が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−205898号公報
【0007】
従来、切離の完了を確認するために、測定機器に備え付けた超音波発信機から経時的に発信される超音波を船上の受信機で受信し、その伝搬時間を計測し、測定機器が位置している水深を算出し、その水深が徐々に浅くなっていることで判断するという煩雑な方法を採っていた。しかし、海底で反射した超音波が受信されてしまう結果、切離完了を正確に確認できなかったり、浮上途中の位置を正確に把握できなかったりするという問題があった。さらに、数1000mもの深海底での切離を確認する場合、経時的に超音波を受信しなければならないため船舶をその海域に暫く停泊させなければならず、測定機器の回収効率が悪いという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、水底に係留されている測定機器が切り離されたかを迅速かつ正確に確認でき、この測定機器を効率的に回収できる簡便で安価な水中切離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲に記載の請求項1に係る発明は、水底測定機器、垂下する錘、送受波器、それらを水底から水面へ浮上させる浮力体が、一体化し傾倒されたまま、該水底に沈められる錨へ切離器を介して係留されており、該送受波器が、該水底で受信する切離指令信号を検知する回路、及び検知した該切離指令信号に応じ該切離器に切離の作動を指示する回路と、該切離により該錘を下にして起き上がって浮上しつつある該測定機器の傾斜変動を感知する傾斜計から、出力された傾斜感知信号を検知する回路、及び検知した該傾斜感知信号に応じ切離完了信号の送信を該送受波器に指示する回路とへ、接続されていることを特徴とする水中切離装置である。
【0010】
この水中切離装置は、浮上開始の際の傾斜変動により、切離が完了されたかを簡易に迅速かつ正確に確認することができる。
【0011】
同じく請求項2に係る発明は、強制電蝕によって、前記切離の作動がなされることを特徴とする請求項1に記載の水中切離装置である。
【0012】
強制電蝕は、海水中で二つの金属部材間に、電池等の電源を接続することにより強制的に電位差を与え、陽極側の金属を酸化させて腐食させることにより切断し、切離器を開裂させるというものである。強制電蝕によれば、頑丈で重いモータ・電磁石の動力やガス発生装置からのガス圧でフックを開放して切り離すという従来のものより、切離器の構成を軽くコンパクトにできるうえ、数1000mの深海でも確実に切離を達成できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水中切離装置は、簡易で軽量である。これを用いると、水底に係留されている測定機器が切り離されたかを迅速かつ正確に確認できる。そのため、その海域に船舶を暫く停泊させておく必要がなく、測定機器が浮上する数時間の間に別な海域の測定機器の回収作業をすることができるので、測定機器を効率的に回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の水中切離装置の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこの実施例に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の水中切離装置を搭載した水底測定装置の実施途中を示す斜視図である。
【0016】
水底測定装置1は、重錘となる鉄棒を2段重ねに枠組みした錨20上に、二つの椀状の樹脂製容器をその鍔同士で突き合わせた収納容器10が、切離器11により係留されたものである。
【0017】
傾斜計14と、回路ボックス15と、水底測定機器17である地震計とが、内部を空洞とする耐圧ガラス製浮力体16内に収められ、収納容器10内に一体化して固定されている。
【0018】
収納容器10の鍔の一部に錘13が螺子止めされている。
【0019】
超音波送受波器12が、収納容器10の側壁から伸びた板に載せられ、錘13に立設された支柱で支持され、収容容器10と一体化している。
【0020】
送受波器12の入出力端子が、ガラス製浮力体16内で、回路ボックス15内へ繋がっている。回路ボックス15内で送受波器12の出力端子が切離指令信号検知回路21、切離作動指示回路22へ順次繋がり、さらにガラス製浮力体16に設けられた別の水密コネクタを通して、切離器11へ繋がっている。
【0021】
また傾斜計14の出力端子が、水密コネクタを通して、回路ボックス15内へ繋がっている。回路ボックス15内で傾斜計14の出力端子が、傾斜変動感知信号検知回路23、切離完了信号送信指示回路24へ順次繋がり、さらに水密コネクタを通して、送受波器12の入力端子へ繋がっている。(図2参照)
【0022】
切離器11は、重なった2枚の金属製切離板11a・11bを有する。切離板11a・11bは、その一端近傍で軸心が貫通し、その直ぐ傍で互いに反対方向へ各々斜交いに伸びたつめを有している。根元で錨20に螺子止めされた2本の帯11fの先端へ取付けられたバネが、切離板11aの一方の側に伸びたつめと、11bの同側に伸びたつめとに挟み込まれつつ掛けられ、他方の側も同様になっている。このバネが、切離板11a・11bを、引き離す方向へ付勢している。切離板11a・11bの他端近傍で、強制電蝕線11dで固定された絶縁性切離板固定具11eにより、切離板11a・11bを外れないよう繋ぎ止めている。切離作動中に、切離板11aは、コネクタ11cを通して陰極に接続され、強制電触線11dは陽極に接続される。
【0023】
電池が内蔵されたフラッシュライト18とラジオビーコン19とが、収納容器10の鍔に螺子止めされている。
【0024】
この水底測定装置1は、以下のようにして使用される。
【0025】
地震波を測定すべき所定の海域で、水底測定装置1は、船舶上より海中へ投入され、自由落下によって海底まで沈められて、設置される。数km置きに順次、水底測定装置1を設置する。ダイナマイトやエアガンで人工地震を発生させて、各水底測定装置1で地震波を測定する。
【0026】
その後、船舶上から、一つの水底測定装置1に向けて、超音波の切離指令信号を発信する。この切離指令信号には、所望外の水底測定装置1で受信してその切離器を誤作動させないように、コード化された水底測定装置1ごとに固有の認識番号(ID番号)が含まれている。この水底測定装置1の送受波器12で、この水底測定装置1固有の切離指令信号が受信される。送受波器12で受信した切離指令信号が切離指令信号検知回路21で検知されると、切離作動指示回路22が、切離器11を作動させるために、切離器11に電蝕を開始するように電圧を印加する指示をする。
【0027】
切離器11の強制電触線11dに陽極、切離板11aに陰極の電位差がかけられ、この間に海水を通して電流が流れる。すると陽極に接続された強制電蝕線11dが数分かけて酸化されて腐食し、遂にはこの強制電蝕線11dが破断する。すると、強制電蝕線11dにより固定されていた切離固定具11eが開放され、バネにより付勢されている切離板11a・11bが、軸心を中心として互いに外向きにずれる。その結果、切離板11a・11bの各々のつめの間に隙間が生じ、そこから帯11fごとバネが外れ、収納容器10が錨20から開放され、切離が完了する。
【0028】
収納容器10は、錘13を下にして起きあがり浮上を開始する。
【0029】
収納容器10が起き上がったことにより、傾斜計14が傾斜変動を感知する。傾斜計14から傾斜変動感知信号が出力される。この信号を傾斜変動感知信号検知回路23で検知すると、切離完了信号送信指示回路24が、送受波器12へ切離完了信号の送信を指示する。
【0030】
送受波器12から送信された切離完了信号が、洋上の船舶で受信される。これにより、切離が完了したことを迅速に正確に確認することができる。暫くすると、海上に収納容器10が浮上する。このとき、フラッシュライト18の閃光点滅、またはラジオビーコン19の電波標識により洋上で漂流している収納容器10を、昼夜に関わらず正確かつ迅速に見付けることができる。測定機器17ごと収容容器10を回収し、測定機器17内の地震波測定データを収集する。
【0031】
同様にして、順次別な水底測定装置1についても切離しを行う。
【0032】
なお、水底測定装置1を深海に設置した場合には、浮上に数時間を要するため、広範囲に設置された数個〜数10個の水底測定装置1の切離しを順次指令した後、浮上の頃合を見計らって収納容器10を次々と回収してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の水中切離装置は、水底で、地震波等を測定したり、水質を調査したりする水底測定機器の回収に用いられる。この水中切離装置は、切離の完了が迅速かつ正確に確認できるので、測定機器を効率的に回収することができる。回収された測定装置は、データ収集された後、繰返し使用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を適用する水中切離装置を搭載した水底測定装置の実施の一例を示す斜視図である。
【0035】
【図2】本発明を適用する水中切離装置が有する回路図である。
【符号の説明】
【0036】
1は水底測定装置、10は収納容器、11は切離器、11a・11bは切離板、11cはコネクタ、11dは強制電蝕線、11eは切離板固定具、11fは帯、12は送受波器、13は錘、14は傾斜計、15は回路ボックス、16はガラス製浮力体、17は水底測定機器、18はフラッシュライト、19はラジオビーコン、20は錨、21は切離指令信号検知回路、22は切離作動指示回路、23は傾斜変動感知信号検知回路、24は切離完了信号送信指示回路である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底測定機器、垂下する錘、送受波器、それらを水底から水面へ浮上させる浮力体が、一体化し傾倒されたまま、該水底に沈められる錨へ切離器を介して係留されており、該送受波器が、該水底で受信した切離指令信号を検知する回路、及び検知した該切離指令信号に応じ該切離器に切離の作動を指示する回路と、該切離により該錘を下にして起き上がって浮上しつつある該測定機器の傾斜変動を感知する傾斜計から、出力された傾斜感知信号を検知する回路、及び検知した該傾斜感知信号に応じ切離完了信号の送信を該送受波器に指示する回路とへ、接続されていることを特徴とする水中切離装置。
【請求項2】
強制電蝕によって、前記切離の作動がなされることを特徴とする請求項1に記載の水中切離装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−30124(P2006−30124A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212908(P2004−212908)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】