説明

水中動植物増殖体及びそれを利用した海洋牧場

【課題】製造が容易でコストが低いのに、水中動植物を極めて効率良く保護育成することができ、しかも周囲の水質や底質も合わせて改善し保持することが可能な水中動植物増殖体及びそれを利用した海洋牧場を提供する。
【解決手段】SiO:63.9〜78.3%(重量%、以下同じ)、Al:11.6〜14.2%、Fe:3.60〜4.40%、MgO:1.52〜1.86%、CaO:1.73〜2.13%、KO:2.70〜3.32%、P:0.054〜0.068%を主成分とし、残部に他の微量元素を含有してなる広域変成岩を、水中に投入して水中動植物の育成場とすることで、コストが低いのに水中動植物を極めて効率良く保護育成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漁礁、藻礁など水中動植物の住みよい水域環境を創設すると共に、その水中動植物を保護育成するための水中動植物増殖媒体及びそれを利用した海洋牧場に関する。
【背景技術】
【0002】
本来、魚や海藻などの水中動植物が豊富に生息しているはずの沿岸は、産業経済の発展につれて埋め立てられ臨海工業地帯が多数建設され、物資の大量海上輸送が行われるようになり、更に、大型港湾施設の整備拡充も急速に進み、また、海岸侵食や波浪から人々を守るという名目で人工構造物が多数建設され、加えて国民の海洋レジャー指向に応じた大型娯楽施設も多数作られた。その結果、水質の悪化、土砂の混入、逆に陸からのミネラル分の供給停止、あるいは水中動植物の乱獲により、水中動植物が激減し、いわゆる磯焼け現象(海藻が繁殖していた岩礁地帯が、上記した原因により海藻が枯死、消滅して、石灰藻と呼ばれるサンゴモ(紅藻類)に占有されて、白色または黄色あるいはピンク色を呈する現象)が多く見られるようになった。
【0003】
一方、世界の海に雄飛して発展してきた水産国日本も、年々厳しさを加える漁業の国際環境により、再び沿岸に戻り水産資源を管理し、殖やし育てて採る漁業に転換することを余儀なくされてきた。したがって、現在、沿岸各地で大規模な漁場造成が行われるようになった。
【0004】
このような状況下で、これまでに行われた漁場造成は、主にコンクリート成型品の投下であり、このコンクリート成型品は、成型が容易で一定形状のものを大量に生産でき耐久性や強度の点で優れている。しかし、コンクリート成型品は、アルカリ性が高くそれに耐えうる種類の海藻のみが着生し、さらに海中に投入した後2〜3年で海藻の着生効果が著しく低下することも知られている。
【0005】
したがって、これら不都合な点を解消するため、(1)コンクリート成型品でありながら天然石の形状に近づけたもの、(2)コンクリート成型品の表面に他の素材、例えば、硫酸第一鉄や硫酸第二鉄を塗布したり、プラスチック製のパイプやマットを接着したものなど、が知られている。しかしながら、上述の(1)のものは海藻の着生効果は多少改善されるものの
、コンクリート成型品がコスト高になる。また、(2)のものでは、海藻の着生効果や貝、海老等の底生動物が多く住み着くなどの効果があるが、(1)のものより更にコスト高の要因となり、プラスチック製のパイプやマットの離脱が心配されるところである。さらに、これら(1)、(2)の改良型コンクリート成型品では、漁場造成すべき沿岸海域の水質、底質の汚染に対しては何ら対応できず、全く無力である。このような場合には、他の方法、例えば消石灰、生石灰を汚染海域に散布する方法と併用することになり、その対応は複雑となる。これらを解消するものとして、本出願人による以下のものが知られている。
【0006】
【特許文献1】 特許第2813974号
この特許文献1は、石灰質や珪酸等からなる各種ネクトン、プランクトン、藻類、海藻等が埋没して堆積し、腐植溶性を帯びた結晶体となった貝化石を170°C〜300°Cの範囲で熱処理して結晶水を除去し賦活化させてなる熱処理貝化石に、少なくとも骨材及び固化剤を所定比率で混合し任意形状に固化させてなり、該固化物を水中に投入して水中動植物の育成場とする水中動植物増殖媒体である。
【0007】
【特許文献2】 特願平9−307814号公報
また、特許文献2は、特許文献1における熱処理貝化石を、鉱山から掘り出して熱処理を経ない貝化石に置き換えたものである。このメリットは、水中動植物の育成効果が多少減るものの、貝化石の熱処理の過程で大量に消費する石油等の熱源を省略することが出来る点にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のものは、製造が容易でコストが比較的低く、しかも周囲の水質や底質を改善し保持しつつ水中動植物を良く保護育成することができる点で良い結果が出ている。しかし、この水中動植物増殖媒体を利用して海洋牧場を創設しようとすると、大量の水中動植物増殖媒体が必要となり、これに必要な熱処理貝化石も大量に必要になる。熱処理貝化石を得るには、鉱山から掘り出した貝化石を170°C〜300°Cの範囲で熱処理して結晶水を除去しなければならず、石油等の熱源が多量に必要となる。
【0009】
特許文献2のものは、水中動植物の育成効果は若干落ちるものの、熱処理をしていないから石油等の熱源が必要無く、コストも大幅に下げることができて、現在の原油高に対応したものとなっている。その意味で、特許文献2のものは現在の状況にマッチしたものである。しかしながら、水産物の輸入により、価格破壊が起きている現状では、水中動植物増殖媒体の更なる進化、すなわち、水中動植物の抜群の育成効果が望まれている。
【0010】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、製造が容易でコストが低いのに、水中動植物を極めて効率良く保護育成することができ、しかも周囲の水質や底質も合わせて改善し保持することが可能な水中動植物増殖体及びそれを利用した海洋牧場を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、長年、貝化石及び広域変成岩の組成、性質について、調査研究を続けてきた。また、魚の養殖、養殖漁場の水質及び底質の維持管理についても鋭意研究を続けて来た。その結果、天然の海が本来的に持っている水中動植物を保持出来る包容力を利用することが最も理に叶い、かつその想像を絶する包容力を引き出すことがこれからの沿岸漁業の発展に寄与し、汚染された沿岸の水質、底質を回復することにもなり、そのためには水質、底質の改善をしつつ、海藻を繁殖させ、その豊富な海藻により幼稚子の哺育など水産動物の棲息の場を与えるようにするのが良いと考えるようになった。本発明者は、すでに熱処理貝化石及び未熱処理貝化石が水質、底質の改善をし、かつ双方の貝化石を含有している漁礁、藻礁が海藻等を着生させる能力が高いことを見出しているが、遠赤外線放射材の原料となる広域変成岩を上記特許文献2のものに50%添加して、すなわち、広域変成岩50%及び熱処理していない貝化石50%の混合物で、水中動植物増殖媒体を作り海中に投下したところ、従来のものより倍化する勢いで水中動植物が育成していることを見い出し、本発明に到達したのである。
【0012】
上記課題を達成するために提案されたものであって、下記の構成からなることを特徴とするものである。
すなわち、請求項1記載の発明は、SiO:63.9〜78.3%(重量%、以下同じ)、Al:11.6〜14.2%、Fe:3.60〜4.40%、MgO:1.52〜1.86%、CaO:1.73〜2.13%、KO:2.70〜3.32%、P:0.054〜0.068%を主成分とし、残部に他の微量元素を含有してなる広域変成岩を、水中に投入して水中動植物の育成場とすることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、任意形状の芯体表面に請求項1記載の広域変成岩を付着させてなり、該広域変成岩付着の芯体を水中に投入して、水中動植物の育成場とすることを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の広域変成岩に、少なくとも固化材を所定比率で混合し任意形状に固化させてなり、該固形化物を水中に投入して、水中動植物の育成場とすることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の広域変成岩と、石灰質や珪酸等からなる各種ネクトン、プランクトン、藻類、海藻等が埋没して堆積し腐植溶性を帯びた結晶体となった貝化石と、の混合物に、少なくとも固化材を所定比率で混合し任意形状に固化させてなり、該固形化物を水中に投入して水中動植物の育成場とするものである。
【0016】
また、請求項5記載の発明は、任意形状の芯体表面に請求項1記載の広域変成岩と請求項4記載の貝化石との混合物を付着させてなり、該混合物付着の芯体を水中に投入して水中動植物の育成場とすることを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項6記載の発明は、海底に、請求項1、2、3、4又は5記載の水中動植物増殖媒体を投入配置し藻場造成してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、本発明によれば、以下のような効果がある。
すなわち、請求項1の発明は、水中動植物増殖媒体としての広域変成岩が有するミネラル分を利用しようとする水中植物の指向性により、水中植物が広域変成岩に良く着生し生育して、良好に生育した水中植物の周りに水中動物が集まる。したがって、製造が容易でコストが低いのに、水中動植物を極めて効率良く保護育成することができる効果がある。
【0019】
請求項2の発明は、広域変成岩付着芯体の広域変成岩であっても、水中植物が良く着生し生育する。この良好に生育した水中植物にプラスして芯体の形状によっても、広域変成岩付着の芯体の周りに水中動物が集まる。したがって、上記の効果に加えて、芯体の形状によっても、水中動植物を極めて効率良く保護育成することができ、さらに広域変成岩の使用量を減らせる効果がある。
【0020】
請求項3の発明は、固形化物に含まれる広域変成岩であっても、水中植物が固形化物に良く着生し生育して、良好に生育した水中植物の周りに水中動物が集まる。この良好に生育した水中植物にプラスして固形化物の形状によっても、固形化物の周りに水中動物が集まる。したがって、上記の効果に加えて、固形化物の形状によっても、水中動植物を極めて効率良く保護育成することができ、広域変成岩の使用量も減らせる効果がある。
【0021】
請求項4の発明は、固形化物に含まれる貝化石により、周辺の底質及び水域のマイナス要因たる硫化物、COD、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、リン酸態リンを徐々にではあるが減衰させ、かつプラス要因たる溶存酸素に影響を与えず、pHをほとんど上げないから、水中動植物にとって良好な環境を現出し、かつ貝化石及び広域変成岩の有するミネラル分を利用しようとする水産植物の指向性により、水中植物が固形化物に良く着生し生育して、良好に生育した水中植物の周りに水中動物が集まる。したがって、上記の効果に加えて、貝化石により周辺の環境を改善し、貝化石及び広域変成岩の双方のミネラル分により、水中動植物を極めて効率良く保護育成することができる効果がある。
【0022】
請求項5の発明は、任意形状の芯体表面に付着した広域変成岩及び貝化石により、芯体の形状による上記した作用、広域変成岩及び貝化石のミネラル分による上記した作用及び貝化石による周辺環境の改善作用を得られ、これにより水中植物が混合物付着の芯体に良く着生し生育して、良好に生育した水中植物の周りに水中動物が集まる。したがって、上記の効果に加えて、貝化石による周辺環境の改善、貝化石及び広域変成岩のミネラル分による水中動植物の高効率の保護育成並びに芯体の形状による水中動物の集合を、同時に可能にすることができる効果がある。
【0023】
請求項6の発明は、各水中動植物増殖媒体の有する特性により、水中動植物にとって良好な環境を現出しかつ水中植物が各水中動植物増殖媒体に良く着生し生育するから、水中動物も集まり育つ。したがって、水中植物を陸上の牧草になぞらえば、良き牧草の生育するところ良き家畜が育つの例えどおり、良き水中動物が育ち、水中植物ともども有効利用が出来る効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明の水中動植物増殖媒体1は、図1に示すように、海、湖、沼、河川、干潟などの水底2に投入された広域変成岩であり、それを水中動植物の育成場とするものであって、採掘場から採掘したままの状態のものから、径が2cm〜3cmの小石大のものまですべてを含み、形状による限定はない。但し、径が2cm〜3cmの小石大のものより小さい広域変成岩は、水中動植物増殖媒体1としてふさわしくない。その理由は、水流などにより流れてしまうからであって、径が2cm〜3cmの小石大のものより小さい広域変成岩を水中動植物増殖媒体1から排除するものではない。
【0026】
広域変成岩は、緑色片岩、エクロジャント、花崗片麻岩、角閃岩、石墨片岩、紅簾石片岩、藍閃石片岩、緑閃片岩、緑泥片岩、千枚岩など種々あるが、水中動植物増殖媒体1を構成する広域変成岩は、SiO:63.9〜78.3%(重量%、以下同じ)、Al:11.6〜14.2%、Fe:3.60〜4.40%、MgO:1.52〜1.86%、CaO:1.73〜2.13%、KO:2.70〜3.32%、P:0.054〜0.068%を主成分とし、残部に他の微量元素を含有してなるものである。この他の微量元素は、Sr、Zr、Ru、Y、Ga、Zn、Cu、Ni、Mn、Ti、Cl、Naであり、上記した主成分と相俟って水中動植物の増殖を著しく促すものであると想定される。
【0027】
本発明に使用される広域変成岩は、日本では現在のところ富山県のみで産するが、産地による限定がない。上記した主成分を有する広域変成岩てあれば、いかなる産地のものであってもよい。富山県で産した広域変成岩は、その分析値が表1のとおりであるが、より具体的には、富山県内の数カ所の採掘場において採掘されたものと、且つこれらの採掘場から採掘された表1に示す成分の広域変成岩の類似品と、である。
【0028】
【表1】

【0029】
なお、上記富山県において採掘されている広域変成岩は、表1に示す成分値から明らかな通り、特にケイ素、アルミニウム、鉄、カリウムが非常に多く、カルシウムの含有率、すなわち、炭酸カルシウムの含有率が非常に低いことが特徴となっている。さらに、この広域変成岩の成分値は、採掘場間及び同じ採掘場でも鉱脈による若干の相違が認められる。
【実施例2】
【0030】
また、本発明の水中動植物増殖媒体1aは、図2、3に示すように、既存の魚礁、藻礁などの任意形状のものを芯体3としたり、あるいは自然石の種類や大きさを問わず適切なものを芯体3として、これらの芯体3に広域変成岩を付着させてなり、この広域変成岩付着の芯体3を水中に投入して、水中動植物の育成場としたものであってもよい。付着の形態は、芯体3の全表面を覆うものでも、芯体3の一部表面を覆うものでもよい。付着の方法は、特に限定がないが、通常、広域変成岩を粉粒体にして、これの固化接着の機能を有する固化材を混ぜたものを芯体3に吹き付け、広域変成岩層4を形成するのが一般的である。
【実施例3】
【0031】
また、本発明の水中動植物増殖媒体1bは、図4に示すように、立方体をなした固形化物5の真ん中に通過孔6を有しているが、この形状はその他直方体、円柱体、球体など特に限定がなく、防波堤に使用されるような大型のものから、直径2〜3cm程度の小石状のものまでを包含し、粉粒体の広域変成岩に、少なくとも固化材を所定比率で混合し任意形状に固化させてなり、この固形化物5を水中に投入して水中動植物の育成場とするものである。
【0032】
前記水中動植物増殖媒体1bは水流により流出するのを防止する立場から、ある程度重量のあるものが望ましい。したがって、水中動植物増殖媒体1bは、粉粒体の広域変成岩を単に固化材を添加して固化させるだけでなく、骨材を加えて重量を増すのがよい。この骨材は、固化材の種類により変化するが、砂利、砕石、貝殻や木材を砕いたものなどが使用される。また、骨材は、砂利、砕石、貝殻や木材を砕いたものなどと共に、あるいは単独で使用する珪藻土、パーライト、タルク並びに天然及び人工ゼオライト等の多孔質体の粉粒物であっても良い。
【0033】
さらに、上記骨材に泥炭を混ぜたものを骨材としても良い。例えば、上記骨材100に対して泥炭1〜20の割合で混ぜる。この泥炭は、水苔等が数千年から数万年にわたり自然分解したもので、それを水分値約75%から45%程度に乾燥し粉砕して、上記骨材に混ぜ合わせ易くしたものである。このようにすると、泥炭の有する有機性養分を水中動植物が利用でき、さらにその嵩高性により通水性がよくなり、広域変成岩の有するミネラル分を水中動植物がより一層利用し易くなる。なお、この泥炭は産地による限定、水分による限定は特にない。したがって、原産地から掘り出したものをそのまま上記の骨材と混ぜ合わせても良い。
【0034】
固化材は、セメントに代表されるが、その外に粘土、石膏、水ガラスなどの無機質のものから、合成樹脂エマルジョン、合成ゴムラテックスなど有機質の物が使用される。
【0035】
そして、これら広域変成岩、骨材、固化材の配合比率は、固化材としてセメントを使用した場合、コンクリートの配合の表示法に従いその一例を示すと、広域変成岩が細骨材料となり748kg/m、骨材(粗骨材)が1112kg/m、固化材が268kg/m、水が155kg/m、混和剤が0.67kg/mとなる。実際の配合比率は、これらの数値から最大プラスマイナス20%程度の範囲で変わる。
【0036】
この水中動植物増殖媒体1bは、任意形状に固化させたものであるから、通過孔6以外に、図4に示すように、その固形化物5の表面に凹凸7や窪み8を設け、この凹凸7は水中植物である海藻が着生し易いようにすると共に、広域変成岩が水や底質に接する面積を拡大する効果がある。また、この表面に凹凸7を設けることは、海藻が着生し易いようにするが主目的であるが、逆に凹凸7の数や量を調整することで、固形化物5の表面積を変え、広域変成岩が水や底質に接する面積を調整して、広域変成岩の溶出を制御することも可能になる。一方、窪み8は、サザエ、アワビ、とこぶしなどの貝類、伊勢海老、なまこ、たこのすみかとしたり、上記した通過孔6と相俟って魚の棲息を可能としたものである。
【実施例4】
【0037】
また、本発明の水中動植物増殖媒体1cは、上記した広域変成岩と、石灰質や珪酸等からなる各種ネクトン、プランクトン、藻類、海藻等が埋没して堆積し腐植溶性を帯びた結晶体となった貝化石と、の混合物に、少なくとも固化材を所定比率で混合し任意形状に固化させてなり、この固形化物5aを水中に投入して、水中動植物の育成場とするものである。なお、水中動植物増殖媒体1cの形状、固化材は、前記水中動植物増殖媒体1bに準じ、広域変成岩と貝化石との混合比率は、特に限定がないが、1:1を基本とし、概ね広域変成岩:貝化石=0.2〜1:1〜0.2の範囲にて決定される。さらに、水中動植物増殖媒体1cに骨材を加える場合は、前記水中動植物増殖媒体1bに準じる。
【0038】
本発明に使用される貝化石は、考古学名では有孔虫化石、地質学名では石灰質砂岩であり、日本では富山県、石川県能登半島などに産するが、産地による限定がない。以下に説明する特性を有する貝化石であれば、いかなる産地の貝化石であっても良い。本発明の貝化石は、より具体的には、富山県内の数カ所の採掘場において採掘された試料についての下記定量分析表(表2)によるものと、これらの採掘場から採掘された表2に示す成分の貝化石の類似品と、である。
【0039】
【表2】

【0040】
なお、上記富山県において採掘されている貝化石は、日本の他の地域で採掘される貝化石の成分構成と、分子集合形態が大きく異なり、特に珪素もある程度含有するが、炭酸カルシウムの含有率が非常に高いことが特徴となっている。そして、この貝化石は、生体より分泌されたアラゴライト形の結晶構造をとり、一定の有効径を持つ小孔が無数に有り、これら無数の小孔には結晶水を含むものも、含まないものもあり、様々である。これら結晶水を含まない小孔は、活性炭と同様に吸着性能を有し、被吸着物質の種類によっては活性炭の数十倍の能力を示す場合がある。この貝化石は、上述のとおり、動植物や微生物の遺体が数百万年に及ぶ地球規模の変遷を経て、姿かたちを変えたものであるから、これらの動植物や微生物を構成する全ての元素を含有し、特に必須ミネラルが豊富に含まれている。
【0041】
また、上記した貝化石における腐植溶性は、次のとおり定義される。まず、腐植とは、動植物や微生物の遺体が土壌中で酸素の乏しい状態で生物群集により分解され、ポリフェノール類、キノン類、アミノ化合物が生成され、さらに、これらの物質は、酵素、微生物の酸化酵素、無機イオン、粘土鉱物などの触媒作用により重縮合され、土壌固有の暗色無定形コロイド状高分子化合物に、変化することである。したがって、腐植溶性は、動植物や微生物の遺体が土壌中で分解、重縮合されて生成された物質が可溶性を示すこと、である。そして、腐植溶性を帯びた結晶体とは、動植物や微生物の遺体が数百万年に及ぶ地球規模の変遷を経て、姿かたちを変えたものである。
【0042】
したがって、本発明の水中動植物増殖媒体1cは、前記広域変成岩と上記した貝化石とを利用形態に合わせて最適な粒径にし混合することで、それぞれが有する長所を出し合い、それぞれが有する短所をカバーし合うことが可能となる。すなわち、広域変成岩は、水中植物が着生するのに有用なミネラルが高いものの、吸着性能が低い。これに対し、貝化石は、吸着性能が高く、周辺の底質及び水域のマイナス要因たる硫化物、COD、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、リン酸態リンを徐々にではあるが減衰させ、かつプラス要因たる溶存酸素に影響を与えず、pHをほとんど上げない特性があることが、知られているものの、水中植物が着生するのに有用なミネラルが低い。これらの長所短所を互いに補完していると言える。
【実施例5】
【0043】
また、本発明の水中動植物増殖媒体1dは、図6に示すように、任意形状の芯体3a表面に広域変成岩と貝化石との混合物4aを付着させてなり、該混合物4a付着の芯体3aを水中に投入して水中動植物の育成場とするものである。この任意形状の芯体3aは、水中動植物増殖媒体1aに準じ、水中動植物増殖媒体1dにおける混合物4a付着の形態、付着の方法は、共に水中動植物増殖媒体1aに準じ、広域変成岩と貝化石との混合比率は、特に限定がないが、水中動植物増殖媒体1cと同様に、1:1を基本とし、概ね広域変成岩:貝化石=0.2〜1:1〜0.2の範囲にて決定される。
【実施例6】
【0044】
図7は上記水中動植物増殖媒体1、1a、1b、1c、1dを各単独、あるいは混合して海底10の一定区画に投入設置して藻場11を造成して、その区画及びその周辺を海洋牧場12としたものである。水中動植物増殖媒体1、1a、1b、1c、1dの藻礁としての機能を充分に発揮させ、豊かな海藻しげる藻場11とし、海藻を食料とする水中動物が繁殖し、また海藻をすみかとしたり、産卵の場とする魚が集まり、それらの水中動物や魚をえさとする大型の水中動物が回遊することになり、その一帯はあたかも緑豊かな草原に草をはむ家畜を飼育しているような状況となり、海洋牧場12が誕生する。
【0045】
次に、上記構成の水中動植物増殖媒体の効果の確認のための調査を行ったのでその状況を説明する。
〈試験例1〉
広域変成岩、骨材、固化材の配合比率は、固化材としてセメントを使用した場合、コンクリートの配合の表示法に従いその一例を示すと、広域変成岩が細骨材料となり748kg/m、骨材(粗骨材)が1112kg/m、固化材が268kg/m、水が155kg/m、混和剤が0.67kg/mとして、この配合比率の原材料により、幅10cm×長さ27cm×高さ4cmの広域変成岩ブロックを6個作製する。
〈試験例2〉
試験例1の広域変成岩ブロックにおける広域変成岩に代えて、広域変成岩と貝化石とを1:1の比率で混合したものとし、同サイズの広域変成岩+貝化石ブロックを6個作製する。
〈比較例1〉
試験例1の広域変成岩ブロックにおける広域変成岩に代えて貝化石とし、同サイズの貝化石ブロックを6個作製する。
〈比較例2〉
試験例1の広域変成岩ブロックにおける広域変成岩に代えて一般の建設資材用の砂利とし、同サイズのコンクリートブロックを6個作製する。
【0046】
試験例1、2及び比較例1、2の各ブロックにつき以下のような実験方法にて、効果の確認を行う。
幅50cm×長さ200cm×深さ15cmの水槽内に、これらの試験例1、2及び比較例1、2の広域変成岩、広域変成岩+貝化石、貝化石及びコンクリートブロックの各6個をアトランダムに設置し、この水槽内に自然海水を水深10cm、流速20cm/分となるように流す。試験期間は夏期の7月中旬〜10月中旬の丸3ヶ月間であり、3ヶ月間後に広域変成岩、広域変成岩+貝化石、貝化石及びコンクリートブロックの各6個を引き上げ、以下の測定を行う。(1)総湿重量の測定、(2)総乾重量の測定、(3)乾燥単位重量当たりの植物色素量、(4)全植物色素量
なお、植物色素量は、クロロフィルa+フェオフィチンを測定することにより行う。
測定結果を表3、4に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表1、2によれば、本発明の試験例1、2は、比較例1、2に対して、(1)総湿重量の測定、(2)総乾重量の測定、(3)乾燥単位重量当たりの植物色素量、(4)全植物色素量の4項目とも、約2倍以上の差があり、本発明の水中動植物増殖媒体の効果が確認された。
【0050】
以上、本発明の実施例1ないし6を説明したが、具体的な構成はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲での変更・追加、各請求項における他の組み合わせにかかるものも、適宜可能であることが理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の水中動植物増殖体及びそれを利用した海洋牧場は、水中動植物を極めて効率良く保護育成したく、しかも周囲の水質や底質も合わせて改善し保持したいような場合に利用可能性が高く、さらに製造コストも下げたいような場合に、その利用可能性が極めて高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】 本発明の実施形態を示す水中動植物増殖体を水底に投入した状態の断面図(実施例1)である。
【図2】 本発明の実施形態を示す水中動植物増殖体の斜視図(実施例2)である。
【図3】 同上の水中動植物増殖体の断面図(実施例2)である。
【図4】 本発明の実施形態を示す水中動植物増殖体の斜視図(実施例3)である。
【図5】 本発明の実施形態を示す水中動植物増殖体の斜視図(実施例4)である。
【図6】 本発明の実施形態を示す水中動植物増殖体の断面図(実施例5)である。
【図7】 本発明の実施形態を示す水中動植物増殖体を水底に投入した状態の断面図(実施例6)である。
【符号の説明】
【0053】
1、1a、1b、1c、1d 水中動植物増殖体
2 水底
3、3a 芯体
4 広域変成岩層
4a 混合物
5、5a 固形化物
6 通過孔
7 凹凸
8 窪み
10 海底
11 藻場
12 海洋牧場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO:63.9〜78.3%(重量%、以下同じ)、Al:11.6〜14.2%、Fe:3.60〜4.40%、MgO:1.52〜1.86%、CaO:1.73〜2.13%、KO:2.70〜3.32%、P:0.054〜0.068%を主成分とし、残部に他の微量元素を含有してなる広域変成岩を、水中に投入して水中動植物の育成場とすることを特徴とする水中動植物増殖媒体。
【請求項2】
任意形状の芯体表面に請求項1記載の広域変成岩を付着させてなり、該広域変成岩付着の芯体を水中に投入して、水中動植物の育成場とすることを特徴とする水中動植物増殖媒体。
【請求項3】
請求項1記載の広域変成岩に、少なくとも固化材を所定比率で混合し任意形状に固化させてなり、該固形化物を水中に投入して、水中動植物の育成場とすることを特徴とする水中動植物増殖媒体。
【請求項4】
請求項1記載の広域変成岩と、石灰質や珪酸等からなる各種ネクトン、プランクトン、藻類、海藻等が埋没して堆積し腐植溶性を帯びた結晶体となった貝化石と、の混合物に、少なくとも固化材を所定比率で混合し任意形状に固化させてなり、該固形化物を水中に投入して、水中動植物の育成場とすることを特徴とする水中動植物増殖媒体。
【請求項5】
任意形状の芯体表面に請求項1記載の広域変成岩と請求項4記載の貝化石との混合物を付着させてなり、該混合物付着の芯体を水中に投入して、水中動植物の育成場とすることを特徴とする水中動植物増殖媒体。
【請求項6】
海底に、請求項1、2、3、4又は5記載の水中動植物増殖媒体のうち、1種類以上を投入配置し、藻場造成してなることを特徴とする海洋牧場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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