説明

水中構造物の塗装方法

【課題】研磨工程など新たな工程を増加させることなく、エアレススプレー塗装において特定の溶媒を用いることによって、平滑性の高い塗膜を形成することができ、さらに塗膜の平滑性と塗装作業性とを両立することができる塗装方法を提供すること。
【解決手段】水中構造物を被塗物として、防汚塗料組成物を塗装する塗装方法であって、この防汚塗料組成物は、塗装時において、有機溶剤を25〜55体積%含み、有機溶剤は、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤を、有機溶剤の総量に対して80〜100体積%の範囲で含み、防汚塗料組成物はエアレススプレー塗装により被塗物に塗装され、およびエアレススプレー塗装時の吐出圧が8MPa以上である、水中構造物の塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中構造物の塗装に適した塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海または河川といった水中に浸漬された状態で設置されるまたは使用される水中構造物においては、一般に、基材の腐食防止を目的とした防食塗膜が設けられ、そしてこの防食塗膜の上に、海洋生物などの付着防止性能などを有する防汚塗膜が設けられる。そしてこれらの塗膜の平滑性は、水中構造物に対して様々な影響を及ぼすこととなる。例えば船舶においては、塗膜の平滑性が低い場合は、摩擦抵抗が大きくなり、船舶運航時における消費エネルギーが大きくなるという不具合がある。また、例えば橋梁などにおいては、塗膜の平滑性が低いことは、海洋生物の付着可能箇所の増大をもたらすこととなり、海洋生物の付着による被害が大きくなるおそれがある。
【0003】
水中構造物における塗膜表面を平滑化する方法について、これまでにも幾つかの検討がなされてきた。例えば特開昭61−254271号公報(特許文献1)には、船舶の没水部外板塗膜表面を平滑化する方法が記載されている。この特許文献1の方法においては、船舶の没水部外板塗膜表面を、動力により駆動されるブラシ状物を用いて研磨することを特徴としている。しかしながらこの方法は、機械的な研磨により平滑性を向上させる方法であるため、研磨工程という新たな工程が加わることとなり、設備費用が増大し、また工数管理が増加するといった不具合がある。
【0004】
特開昭59−189176号公報(特許文献2)には、平均粒子径1〜300μ、厚み0.05〜10μのリーフィングタイプ銅フレーク顔料および/またはリーフィングタイプ銅合金フレーク顔料を含有する防汚塗料組成物が記載されている。この発明は、リーフィングタイプのフレーク顔料を用いることによって、塗装した塗膜表面にフレーク顔料が配向して積層し、平滑な塗面が得られると共に、金属フレーク顔料によって防汚性も発揮されるという発明である。しかしながら、このようなリーフィングタイプのフレーク顔料は、塗料製造時において割れまたは欠けが発生しやすく、塗料製造作業性が劣るという欠点がある。
【0005】
一般に、水中構造物の塗装において用いられる防汚塗膜は、塗膜中に含まれる特定の成分が溶出することによって、海洋生物の付着を防止するという機能を有している。そのため、このような防汚塗膜は、防汚機能を長期間保持するために、非常に厚い膜厚(例えば膜厚100〜300μm)が必要とされる。エアレススプレー塗装は、粘度の高い塗料組成物を、厚膜として塗装することができる塗装方法である。しかしながら一度の塗装で厚膜を塗装する方法においては、平滑性の低下が生じやすく、またタレの発生といった塗装作業性における技術的課題も多い。
【0006】
ここで一般的な防汚塗料組成物を用いて塗装する場合において、平滑性を向上させるためには、希釈溶剤を多く用いて塗料の粘度を下げて塗装する手段が考えられる。しかしながら希釈溶剤を多く用いる場合は、塗装膜厚が薄くなる恐れがあり、またその場合に塗装膜厚をかせごうとすると、塗着粘度が低下することによりタレの発生が生じやすくなり、塗装作業性が劣るという不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−254271号公報
【特許文献2】特開昭59−189176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、研磨工程など新たな工程を増加させることなく、エアレススプレー塗装において特定の溶媒を特定量用いて、そして特定圧力以上の吐出圧で塗装することによって、平滑性の高い塗膜を形成することができ、さらに塗膜の平滑性と塗装作業性とを両立することができる塗装方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
水中構造物を被塗物として、防汚塗料組成物を塗装する塗装方法であって、
この防汚塗料組成物は、塗装時において、有機溶剤を25〜55体積%含み、
この有機溶剤は、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤を、この有機溶剤の総量に対して80〜100体積%の範囲で含み、
この防汚塗料組成物はエアレススプレー塗装により被塗物に塗装され、およびエアレススプレー塗装時の吐出圧が8MPa以上である、
水中構造物の塗装方法、を提供するものであり、これにより上記課題が解決される。
【0010】
上記吐出圧が12MPa以上であるのがより好ましい。
【0011】
また、上記防汚塗料組成物は、塗装時において、有機溶剤を25〜45体積%含むのがより好ましい。
【0012】
また、上記防汚塗料組成物の粘度は90〜120KUであるのがより好ましい。
【0013】
また、上記防汚塗料組成物は、バインダー樹脂、防汚剤、有機溶剤を含み、
このバインダー樹脂は、下記一般式(1):
【0014】
【化1】

[式(1)中、Xは、
【化2】

で表される基であり、kは0または1であり、Yは炭化水素であり、Mは2価金属であり、Aは一塩基酸の有機酸残基を表す。]
で示される基を側鎖に有するアクリル樹脂であるのがより好ましい。
【0015】
上記アクリル樹脂は、側鎖に、下記一般式(2):
【化3】

[式(2)中、R1、R2、R3は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。]
で表される基をさらに有する樹脂であるのが、より好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、塗装時において、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤を有機溶剤の総量に対して80〜100体積%含む有機溶剤を、25〜55体積%含む防汚塗料組成物を、エアレススプレー塗装時の吐出圧:8MPa以上の状態で塗装することによって、膜厚100〜300μmほどの厚膜であっても平滑性が高い塗膜を得ることができ、かつ、タレの発生を伴わず良好な塗装作業性の確保が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の塗装方法は、水中構造物を被塗物として、防汚塗料組成物を塗装する塗装方法である。本発明の塗装方法で用いることができる防汚塗料組成物は、エアレススプレー塗装を行うことができ、そして水中構造物の塗装用途において必要とされる防汚性能を有するものであれば、特に限定されることなく用いることができる。このような防汚塗料組成物として、例えば、バインダー樹脂および防汚剤を少なくとも含む防汚塗料組成物が挙げられる。
【0018】
防汚塗料組成物
本発明の塗装方法で用いることができる防汚塗料組成物として、例えば、バインダー樹脂および防汚剤を含む防汚塗料組成物が挙げられる。このような防汚塗料組成物は、必要に応じてさらに有機高分子粒子を含んでもよい。なお本発明の塗装方法においては、防汚塗料組成物は、バインダーまたは添加剤などに含まれている有機溶剤を防汚塗料組成物自体が含んでおり、さらに塗装時に有機溶剤量および粘度を調整してもよく、そしてこれらにより、塗装時において有機溶剤を25〜55体積%含むこと、そしてこの有機溶剤は、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤を、有機溶剤の総量に対して80〜100体積%含むこと、を条件とする。
【0019】
バインダー樹脂
防汚塗料組成物に含まれるバインダー樹脂としては特に限定されず、各種の防汚性樹脂から、所望の目的に応じて、適宜選択することができる。このようなバインダー樹脂の具体例として、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルキド樹脂、ポリ塩化ビニル、塩素化パラフィン、ポリビニルエーテル、ポリプロピレンセバケート、部分水添ターフェニル、ポリエーテルポリオール、シリコンオイル、ワックス、ワセリン、流動パラフィン、ロジン、水添ロジン、ナフテン酸、脂肪酸およびこれらの2価金属塩などを挙げることができる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明においては、バインダー樹脂としてアクリル樹脂を用いるのが好ましい。そしてバインダー樹脂としてアクリル樹脂を用いる場合は、下記一般式(1):
【0021】
【化4】

【0022】
で表される基を側鎖に有するアクリル樹脂(以下、アクリル樹脂(A)と称する)を用いるのが好ましい。ここで、式中、Xは、
【0023】
【化5】

【0024】
で表される基であり、kは0または1であり、Yは炭化水素であり、Mは2価金属であり、Aは一塩基酸の有機酸残基を表す。
【0025】
上記アクリル樹脂(A)は、上記一般式(1)で表される基が有する金属エステル結合の加水分解性に起因して、水中(特には海水中)において徐々に加水分解する性質を示す。これにより、上記アクリル樹脂をバインダー樹脂とする防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜は、水中浸漬によりその表面が自己研磨され、これにより、防汚成分が塗膜表面から放出され続けることとなり、塗膜が完全に消耗されるまでの間、防汚性能を示すこととなる。
【0026】
本発明で用いるアクリル樹脂(A)としては、加水分解性基として上記一般式(1)で表される基を側鎖に有し、下記一般式(2)で表される基を側鎖に有しないアクリル樹脂(以下、アクリル樹脂(A1)と称する)、ならびに、加水分解性基として上記一般式(1)で表される基および下記一般式(2)で表される基の双方を側鎖に有するアクリル樹脂(以下、アクリル樹脂(A2)と称する)等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、アクリル樹脂(A1)とアクリル樹脂(A2)と併用してもよい。なお、本明細書中において、「アクリル樹脂」とは、樹脂の少なくとも一部が、(メタ)アクリル酸あるいはその誘導体または(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位からなる樹脂を意味する。(メタ)アクリル酸の誘導体には、(メタ)アクリル酸金属塩も含まれる。
【0027】
【化6】

【0028】
[上記一般式(2)中、R1、R2、R3は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。]
【0029】
アクリル樹脂(A1)
アクリル樹脂(A1)は、加水分解性基として上記一般式(1)で表される基を側鎖に有し、上記一般式(2)で表される基を側鎖に有しないアクリル樹脂である。典型的には、加水分解性基として上記一般式(1)で表される基のみを側鎖に有するアクリル樹脂である。上記一般式(1)において、Mは2価金属であり、例えば、周期律表中の3A〜7A、8、1B〜7B族元素を挙げることができる。なかでも、Mは、銅、亜鉛であることが好ましい。
【0030】
上記一般式(1)において、Aは、一塩基酸の有機酸残基である。好ましい一塩基酸としては、例えば、一塩基環状有機酸等を挙げることができる。一塩基環状有機酸としては特に限定されず、例えば、ナフテン酸等のシクロアルキル基を有するもののほか、三環式樹脂酸等の樹脂酸およびこれらの塩等を挙げることができる。三環式樹脂酸としては特に限定されず、例えば、ジテルペン系炭化水素骨格を有する一塩基酸等を挙げることができ、このようなものとしては、例えば、アビエタン、ピマラン、イソピマラン、ラブダン各骨格を有する化合物を挙げることができる。より具体的には、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、水添アビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、デキストロピマル酸、サンダラコピマル酸、およびこれらの塩等を挙げることができる。これらのうち、加水分解が適度に行なわれるので長期防汚性に優れるほか、塗膜の耐クラック性、入手容易性にも優れることから、アビエチン酸、水添アビエチン酸、およびこれらの塩が好ましい。
【0031】
さらに、好ましい一塩基環状有機酸としては、酸価が120〜220mgKOH/gのものが挙げられる。酸価が220mgKOH/g以下の一塩基環状有機酸を用いることにより、得られるアクリル樹脂(A1)の粘度を低下させることができるようになり、得られる塗料の溶剤含有量を減らすことができる。これはアクリル樹脂(A1)の粘度が、一般式(1)で示される官能基同士の相互作用によるところが大きいためである。酸価が220mgKOH/g以下の一塩基環状有機酸を用いて得たアクリル樹脂(A1)は、一塩基環状有機酸の立体反発が大きくなる傾向があり、この立体反発が一般式(1)で示される官能基同士の相互作用を阻害する働きがあると思われ、その結果、アクリル樹脂(A1)の粘度を低下させることができる。また、酸価が120mgKOH/gを下回る場合、得られるアクリル樹脂(A1)が疎水性になりすぎて、得られる塗膜の加水分解が進まない場合が有り好ましくない。
【0032】
上記一塩基環状有機酸としては、高度に精製されたものである必要はなく、例えば、松脂、松の樹脂酸等を使用することもできる。このようなものとしては、例えば、ロジン類、水添ロジン類、不均化ロジン類等やナフテン酸を挙げることができる。ここでいうロジン類とは、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等である。ロジン類、水添ロジン類および不均化ロジン類は、廉価で入手しやすく、取り扱い性に優れ、長期防汚性を発揮する点で好ましい。これらの一塩基環状有機酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明で使用できる一塩基酸のうち、上記一塩基環状有機酸以外のものとしては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、リノール酸、オレイン酸、クロル酢酸、フルオロ酢酸、吉草酸等の炭素数1〜20のもの等を挙げることができる。これらの一塩基酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記一般式(1)におけるYとしては、炭化水素であれば特に限定されず、例えば、重合性不飽和有機酸単量体にフタル酸、コハク酸、マレイン酸等の二塩基酸を付加した場合における残基を挙げることができる。
【0035】
アクリル樹脂(A1)の製造方法としては、特に限定されず、例えば、(イ)重合性不飽和有機酸とその他の共重合可能な不飽和単量体とを重合させることにより得られた樹脂と、一塩基酸と金属化合物とを反応させる方法、(ロ)重合性不飽和有機酸と金属化合物と一塩基酸とを反応させるか、または、重合性不飽和有機酸と一塩基酸の金属塩とを反応させ、得られる金属含有不飽和単量体と、その他の共重合可能な不飽和単量体とを重合させる方法等を挙げることができる。
【0036】
上記方法(イ)および(ロ)における重合性不飽和有機酸としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基を1つ以上有する重合性不飽和有機酸などを挙げることができる。より具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸等の不飽和一塩基酸;マレイン酸およびこのモノアルキルエステル、イタコン酸およびこのモノアルキルエステル等の不飽和二塩基酸およびこのモノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのマレイン酸付加物、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのフタル酸付加物、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのコハク酸付加物等の不飽和一塩基酸ヒドロキシアルキルエステルの二塩基酸付加物等を挙げることができる。これらの重合性不飽和有機酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、方法(ロ)において、金属含有不飽和単量体として、その一部あるいは全部を2価金属ジ(メタ)アクリレートに置き換えて使用してもよい。2価金属ジ(メタ)アクリレートを用いた場合には、一般式(1)で示された基を介して樹脂が架橋構造となるが、そのような樹脂を用いることも可能である。
【0037】
上記その他の共重合可能な不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等のエステル部の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のエステル部の炭素数が1〜20の水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸環状炭化水素エステル;(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、重合度2〜10のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル;炭素数1〜3のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート等の他、(メタ)アクリルアミド;スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、アクリロニトリル等のビニル化合物;クロトン酸エステル類;マレイン酸ジエステル類、イタコン酸ジエステル類等の不飽和二塩基酸のジエステルを挙げることができる。上記(メタ)アクリル酸エステル類のエステル部分は炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましい。好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルである。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記金属化合物としては特に限定されず、例えば、金属酸化物、水酸化物、塩化物、硫化物、塩基性炭酸塩、酢酸金属塩等を挙げることができる。また、上記一塩基酸としては特に限定されず、例えば、上述したものを挙げることができる。
【0039】
上記アクリル樹脂(A1)の数平均分子量(GPC、ポリスチレン換算)としては特に限定されないが、2000以上、100000以下であることが好ましく、3000以上、40000以下であることがより好ましい。2000未満であると、塗膜の造膜性が低下するおそれがあり、100000を超えると、得られる塗料の貯蔵安定性が悪くなり実用に適さないだけでなく、塗装時に大量の希釈溶剤の使用により公衆衛生、経済性等の点で好ましくない。
【0040】
上記アクリル樹脂(A1)は、少なくとも1つの一般式(1)で表される基を含有する。そして一般式(1)で表される基の含有率を調整することにより、水中への塗膜溶出速度(塗膜の加水分解速度)を所望の溶出速度に制御することができる。上記一般式(1)で表される基の含有率は、主に、アクリル樹脂(A1)の酸価を調整することにより調整することができる。アクリル樹脂(A1)の酸価としては、100〜250mgKOH/gであることが好ましい。100mgKOH/g未満であると、側鎖に結合させる金属塩の量が少なくなり、防汚性に劣ることがあり、250mgKOH/gを超えると、溶出速度が速すぎて、長期の防汚性が得られにくい傾向にある。
【0041】
アクリル樹脂(A2)
アクリル樹脂(A2)は、加水分解性基として上記一般式(1)で表される基および上記一般式(2)で表される基の双方を側鎖に有するアクリル樹脂である。上記一般式(2)において、R1、R2およびR3は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基等の炭素数が20以下の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロヘキシル基、置換シクロヘキシル基等の環状アルキル基;アリール基、置換アリール基等を挙げることができる。置換アリール基としては、ハロゲン、炭素数18程度までのアルキル基、アシル基、ニトロ基またはアミノ基等で置換されたアリール基等を挙げることができる。なかでも、得られる塗膜において安定したポリッシングレート(研磨速度)を示し、防汚性能を長期間安定して維持することができる観点から、イソプロピル基等が好ましい。
【0042】
アクリル樹脂(A2)の製造方法としては、特に限定されず、例えば、(I)重合性不飽和有機酸とトリオルガノシリル基を有するモノマー成分とその他の共重合可能な不飽和単量体とを重合させることにより得られた樹脂と、一塩基酸と金属化合物とを反応させる方法、(II)重合性不飽和有機酸と金属化合物と一塩基酸とを反応させるか、または、重合性不飽和有機酸と一塩基酸の金属塩とを反応させることにより得られる金属含有不飽和単量体と、トリオルガノシリル基を有するモノマー成分と、その他の共重合可能な不飽和単量体とを重合させる方法等を挙げることができる。
【0043】
上記トリオルガノシリル基を有するモノマー成分としては、下記一般式(3):
【0044】
【化7】

【0045】
で表されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートを好ましく用いることができる。一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートにおいて、Zは、水素原子またはメチル基を表す。上記R4、R5およびR6は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表し、例えば、上記R1、R2およびR3と同様の炭化水素残基を挙げることができる。
【0046】
上記一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートの具体例としては特に限定されず、例えば、トリメチルシリル(メタ)アクリレート、トリエチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−プロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ−i−プロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−i−ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−s−ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−アミルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−ヘキシルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−オクチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−ドデシルシリル(メタ)アクリレート、トリフェニルシリル(メタ)アクリレート、トリ−p−メチルフェニルシリル(メタ)アクリレート、トリベンジルシリル(メタ)アクリレート、エチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n−ブチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、ジ−i−プロピル−n−ブチルシリル(メタ)アクリレート、n−オクチルジ−n−ブチルシリル(メタ)アクリレート、ジ−i−プロピルステアリルシリル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルフェニルシリル(メタ)アクリレート、t−ブチルジフェニルシリル(メタ)アクリレート、ラウリルジフェニルシリル(メタ)アクリレート、t−ブチル−m−ニトロフェニルメチルシリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。なかでも、安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間維持する点から、トリ−i−プロピルシリル(メタ)アクリレートが好ましい。これらのトリオルガノシリル(メタ)アクリレートは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
上記重合性不飽和有機酸、その他の共重合可能な不飽和単量体、金属化合物および一塩基酸としては、上記アクリル樹脂(A1)について述べたものを挙げることができる。これらの重合性不飽和有機酸およびその他の共重合可能な不飽和単量体等は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記アクリル樹脂(A2)の数平均分子量(GPC、ポリスチレン換算)は、2000以上、100000以下であることが好ましく、3000以上、40000以下であることがより好ましい。2000未満であると、塗膜の造膜性が低下するおそれがあり、100000を超えると、得られる塗料の貯蔵安定性が悪くなり実用に適さないだけでなく、塗装時に大量の希釈溶剤を使用する必要があることから公衆衛生、経済性等の点で好ましくない。
【0049】
アクリル樹脂(A2)は、上記一般式(1)で表される基と、上記一般式(2)で示される側鎖とを、それぞれ少なくとも1つ有するものである。一般式(1)および一般式(2)で示される基の合計の含有率を調整することにより、水中への塗膜溶出速度(塗膜の加水分解速度)を所望の溶出速度に制御することができる。一般式(1)および一般式(2)で示される基の合計の含有率は、主に、アクリル樹脂(A2)の酸価を調整することにより調整することが可能であり、アクリル樹脂(A2)の酸価としては、30〜200mgKOH/gであることが好ましい。30mgKOH/g未満であると、側鎖に結合させる金属塩の量が少なくなり、防汚性に劣ることがあり、200mgKOH/gを超えると、溶出速度が速すぎて、長期の防汚性が得られにくい傾向にある。
【0050】
バインダー樹脂として上記アクリル樹脂(A1)および/または(A2)を用いる場合は、必要に応じて、塩素化パラフィン、ロジン、水添ロジンなどの他の樹脂を併用してもよい。
【0051】
防汚塗料組成物において、バインダー樹脂の含有量は、防汚塗料組成物に含有される固形分中、下限20質量%、上限70質量%であることが好ましく、下限25質量%、上限65質量%であることがより好ましい。20質量%未満である場合、塗膜にクラック・剥離等の欠陥が生じる傾向がある。また、70質量%を超える場合には、防汚効果が得られにくい傾向にある。なお、防汚塗料組成物に含有される固形分とは、防汚塗料組成物に含まれる溶剤以外の成分の合計をいう。
【0052】
防汚剤
防汚塗料組成物に含まれる防汚剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。防汚剤として例えば、無機化合物、金属を含む有機化合物及び金属を含まない有機化合物等を挙げることができる。
【0053】
防汚剤の具体例として、例えば、酸化亜鉛;亜酸化銅;マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート;ジンクジメチルジチオカーバメート;2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル;N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素;ジンクエチレンビスジチオカーバーメート;ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート;3−ヨード−2−プロピルブチルカーバーメート;ロダン銅;4,5,−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン;N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド;N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド;テトラメチルチウラムジサルファイド;2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド;2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン;ジヨードメチルパラトリスルホン;フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド;2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール;ステアリルアミン−トリフェニルボラン、ラウリルアミン−トリフェニルボラン、ピリジントリフェニルボラン等のトリフェニルボランアミン錯体;4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル;ジンクピリチオン(2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩);銅ピリチオン(2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩);1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−フェニルメタンスルフェンアミド;1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−(4−メチルフェニル)メタンスルフェンアミド;2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン;N’−(3,4−ジクロロフェニル)−N,N’−ジメチル尿素;および、N’−tert−ブチル−N−シクロプロピル−6−(メチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミン;などが挙げられる。これらの防汚剤は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0054】
上記防汚剤の含有量は、防汚塗料組成物の固形分中、下限0.1質量%、上限80質量%であるのが好ましい。0.1質量%未満では防汚効果が得られず、80質量%を越えると塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じることがある。防汚剤の含有量は、下限1質量%、上限70質量%であることがより好ましい。
【0055】
有機高分子粒子
防汚塗料組成物は、必要に応じてさらに有機高分子粒子を含んでもよい。有機高分子粒子が含まれることによって、良好な低摩擦性能を有する塗膜を得ることができるという利点がある。上記有機高分子粒子として、天然由来高分子または合成高分子の何れも用いることができる。
【0056】
有機高分子粒子は、親水性官能基を有し、必要に応じて架橋鎖を有するものであることが好ましい。親水性官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ポリオキシエチレン基等を挙げることができる。親水基を有することによって、高い吸水量を得ることができるが、親水性が高くなりすぎて、海水への溶解度が高くなりすぎる場合がある。親水性が高くなりすぎた場合には、疎水基を導入したり、架橋したりすることにより、人工海水への溶解度を調節することができる。
【0057】
有機高分子粒子として使用することができる天然由来高分子としては、例えば、キチン、キトサン、アラビアゴム、アルギン酸、カラギーナン、寒天、キタンサンガム、ジェランガム、セルロース、キシロース、デンプン、プルラン、ペクチン、ローストビーンガム、デキストラン、カードラン等の多糖類;ケラチン、コラーゲン、絹、γ−ポリグルタミン酸(以下、γ−PGAと記す)等のタンパク質:核酸等を挙げることができる。また、必要に応じてこれらの天然由来高分子に対して加水分解、架橋反応等を行うことによって、親水化(例えばヒドロアルキル化)、ポリエチレングリコール化、疎水化(例えばアルキル化)、グラフト化、3次元化した半合成高分子等の誘導体化合物もこれらに含まれる。
【0058】
上記天然由来高分子は、カチオン性基を有することが好ましい。カチオン性基を有することによって、海水への溶出速度を制御できるものと推測される。上記カチオン性基としては特に限定されず、例えば、アミノ基、アミド基、ピリジン基等を挙げることができる。元来カチオン性基が存在する天然高分子を使用してもよいし、カチオン性基が存在しない高分子の場合は、当該高分子を誘導体化してカチオン性基を導入してもよい。
【0059】
有機高分子粒子として用いることができる天然由来高分子としては、キチン、キトサン、γ―PGA、絹粉砕物及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の有機高分子粒子であることがより好ましい。
【0060】
上記キチンは、多糖類であり、この脱アセチル化物がキトサンである。上記脱アセチル化は、完全脱アセチル化であっても、部分脱アセチル化であってもよい。必要に応じてポリオキシエチレン、アルデヒド基含有化合物等によって、修飾又は架橋したものであってもよい。
【0061】
上記絹粉砕物とは、蚕が産生するまゆ糸である絹を粉砕して粒子化したものである。このうち、絹の主成分として含まれる天然由来高分子であるフィブロイン、セリシンが好適な作用を有すると推測される。絹粉砕物は、天然の絹をそのまま粉砕したものであっても、必要に応じて雑成分の除去、加水分解、精製、分級等を行い粒子化したものであってもよい。
【0062】
γ−PGA粒子は、菌類が産生した天然由来のものを乾燥し、粒子化したものである。上記γ−PGA粒子は、必要に応じて雑成分の除去、加水分解、精製、分級等を行い粒子化したものであってもよい。
【0063】
上記有機高分子粒子として用いることができる合成高分子としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミン系樹脂、変性ポリビニルアルコール系樹脂等を挙げることができる。これらは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の親水性基を有する親水性樹脂であることが好ましく、海水への溶解性をコントロールするために、必要に応じて一部架橋構造を有するものであることが好ましい。公知の方法によって、親水性/疎水性及び架橋比率を調整することにより、上記性質を有する合成高分子を得ることができる。
【0064】
有機高分子粒子として使用することができる合成高分子としては、特に、アクリル系樹脂粒子を好適に使用することができる。アクリル系樹脂粒子としては、例えば、アクリル系単量体と所望により架橋性単量体とからなる単量体組成物の乳化重合等によって得られたものであるアクリル系樹脂粒子を挙げることができる。
【0065】
上記アクリル系樹脂粒子は、例えば、アクリル系単量体と架橋性単量体とからなる単量体組成物を乳化重合することによって得ることができる。上記アクリル系単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アルリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等を挙げることができる。
【0066】
上記乳化重合においては、その他のエチレン性不飽和単量体を使用してもよい。上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等を挙げることができる。上記アクリル系単量体及びエチレン性不飽和単量体は、単独で使用するものであっても、二種類以上を併用して使用するものであってもよい。
【0067】
上記架橋性単量体としては特に限定されず、例えば、分子内に2個以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する単量体等を挙げることができる。
【0068】
上記アクリル系樹脂粒子の製造に使用することができる分子内に2個以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する単量体としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールアリロキシジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリメタクリレート等の多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート等の多塩基酸の重合性不飽和アルコールエステル;ジビニルベンゼン等の2個以上のビニル基で置換された芳香族化合物等を挙げることができる。
【0069】
上記単量体組成物において上記架橋性単量体は、単量体組成物全量に対して、1質量%以上であることが好ましい。上記質量比が上記範囲外であると、所望のアクリル系樹脂粒子が得られないおそれがある。上記質量比は、より好ましくは、5〜70質量%である。
上記単量体組成物の重合方法としては特に限定されず、乳化重合、懸濁重合等の従来公知の方法により行うことができる。
【0070】
上記有機高分子粒子は、2種以上の高分子からなる複合樹脂粒子であってもよい。ここでいう2種以上の高分子からなる複合樹脂粒子とは、上述したような各種天然由来高分子、合成高分子のうちの2種以上を粒子化したものであって、複合化の具体的手段としては特に限定されず、混合、グラフト化、コアシェル化、INP(相互網目侵入構造)化、表面処理化等の任意の手法を挙げることができる。
【0071】
上記2種以上の高分子としては、特に限定されず、例えば、上述したような上記天然由来高分子及び上記合成高分子を挙げることができる。なかでも、デンプン、プルラン、アラビアノリ、κ−カラギーナン、ゼラチン、セルロース、キトサン及びこれらの誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸及びその共重合体から選択される少なくとも1種の親水性樹脂と、アクリル系樹脂とからなる複合樹脂粒子であることが好ましい。このような組合せであると、アクリル系樹脂の組成によって、粒子の物性を所望によって変化させつつ、親水性を得ることができる点で好ましい。上記親水性樹脂としては、キトサン、キトサン誘導体、ポリビニルアルコールから選択される少なくとも1の樹脂を使用することが好ましい。
【0072】
上記親水性樹脂とアクリル系樹脂とからなる複合樹脂粒子は、例えば、上記親水性樹脂存在下で、アクリル系樹脂の原料単量体を、乳化重合又は懸濁重合させることによって得ることができる。重合時に使用する乳化剤としては、公知の乳化剤を使用することができるが、耐水性、基材密着性の観点から、反応性乳化剤が好ましい。
【0073】
上記反応性乳化剤は、α,β−エチレン性不飽和結合を有する界面活性剤であり、アニオン型、カチオン型、ノニオン型、両性イオン型という4種のタイプに分類される。上記反応性乳化剤として市販されているものの中でアニオン型の例として、エレミノールJSシリーズ(三洋化成工業社製)、ラテムルS、ASKシリーズ(花王社製)、アクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE、SRシリーズ(旭電化社製)、アントックスMS−60(日本乳化剤社製)等が挙げられる。また、カチオン型の例として、ラテムルKシリーズ(花王社製)が、さらに、ノニオン型の例として、アクアロンシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープNE、ERシリーズ(旭電化社製)等が挙げられる。
【0074】
上記反応性乳化剤の添加量としては、15質量%以下であることが好ましい。15質量%を超えると、複合樹脂粒子を含有した塗料から得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0075】
上記複合樹脂粒子の合成において、アクリル系樹脂の原料である単量体組成物と親水性樹脂との混合比は、質量比(固形分)で40/60〜97/3であることが好ましい。
【0076】
上記有機高分子粒子は、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上であり、粒径0.05〜100μmであるのが好ましい。なお、ここで溶解度及び吸水量の基準として使用したのは、ASTM D1141−98に規定された人工海水である。
【0077】
有機高分子粒子の、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/Lを超えると、充分な低摩擦性能を発揮できないおそれがある。すなわち、上記有機高分子粒子の海水に対する溶解度が高すぎる場合には、有機高分子粒子が海水に容易に溶解して、塗膜表面から流出してしまうおそれがあるためである。上記溶解度は、12g/L以下であるのがより好ましい。なお、上記溶解度は、有機高分子粒子を室温で減圧下乾燥後、秤量し、ASTM D1141−98に従い調製した人工海水への溶解度を測定した値である。
【0078】
また、有機高分子粒子の、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%未満であると、海水との親和性が低いために充分な効果が得られず、摩擦の低減が抑制されるおそれがある。上記吸水量は、0.1質量%以上であるのがより好ましい。ここで吸水量は、室温で真空下(減圧下)乾燥した有機高分子粒子1gを精秤し、ASTM D1141−98に従い調製した50gの人工海水中に添加した後、23℃で5時間攪拌し、その後濾別し、残渣を水洗し、秤量して求めた値である。
【0079】
更に、上記有機高分子粒子は、粒径が下限0.05μm、上限100μmの範囲内であるのが好ましい。上記粒径が0.05μm未満であると、充分な摩擦低減効果を得ることができないおそれがある。また上記粒径が100μmを超えると、海水中で膨潤した際に、表面状態が悪化するという問題が生じるおそれがある。上記下限は、0.1μmであるのがより好ましく、上記上限は40μmであるのがより好ましい。更に好ましくは、1〜30μmである。なお、上記粒径は、光散乱やレーザー散乱により求めた重量平均粒子径を指すものである。
【0080】
上記有機高分子粒子が防汚塗料組成物に含まれる場合における配合量は、塗料中の全固形分に対して、下限0.01質量%、上限30質量%の範囲内であることが好ましい。上記含有量が0.01質量%未満であると、有機高分子粒子の添加による所望の効果が得られず好ましくない。上記含有量が30質量%を超えても、摩擦低減効果は配合量に見合ったものが得られないだけでなく、粒子の膨潤により塗膜の割れ等が生じる場合がある。上記上限は、24質量%がより好ましい。
【0081】
他の成分および防汚塗料組成物の調製
防汚塗料組成物は、上記成分の他に、塗料組成物において一般的に用いられる添加剤などを含んでもよい。添加剤としては特に限定されず、例えば、フタル酸モノブチル、コハク酸モノオクチル等の一塩基有機酸、樟脳、ひまし油などの可塑剤;水結合剤;タレ止め剤;色分かれ防止剤;沈降防止剤;消泡剤;塗膜消耗調整剤;各種顔料;などの慣用の添加剤などを挙げることができる。
【0082】
防汚塗料組成物は、例えば、上記バインダー樹脂に、上記防汚剤、および必要に応じた有機高分子粒子、そして必要に応じた可塑剤、塗膜消耗調整剤、顔料等の上記添加剤を添加し、ボールミル、ペブルミル、ロールミル、サンドグラインドミル等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。なお本発明の塗装方法においては、防汚塗料組成物は、バインダーまたは添加剤などに含まれている有機溶剤を防汚塗料組成物自体が含んでおり、さらに塗装時において、有機溶剤が特定の種類および量を満たす範囲において、有機溶剤の量の調整を行うことができる。
【0083】
塗装方法
本発明の塗装方法は、水中構造物を被塗物として、防汚塗料組成物を塗装する塗装方法であって、
上記防汚塗料組成物は、塗装時において、有機溶剤を25〜55体積%含み、
上記有機溶剤は、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤を、有機溶剤の総量に対して80〜100体積%の範囲で含み、
上記防汚塗料組成物はエアレススプレー塗装により被塗物に塗装され、およびエアレススプレー塗装時の吐出圧が8MPa以上である、
水中構造物の塗装方法、である。
【0084】
被塗物
本発明の塗装方法において、塗装される対象である被塗物は、例えば海または河川といった水中に浸漬された状態で設置されるまたは使用される構造物である。本明細書においては、このような構造物を「水中構造物」とする。水中構造物の具体例として、例えば、船舶、港湾施設、オイルフェンス、配管材料、橋梁、浮標、工業用水系施設、海底基地などが挙げられる。
【0085】
これらの水中構造物は、防汚塗料組成物が塗装される前に、防食塗料組成物が塗装されているのが好ましい。防食塗料組成物は、当業者において一般的に用いられている防食塗料組成物を用いることができる。
【0086】
塗装方法
本発明の塗装方法において、防汚塗料組成物は、塗装時において、有機溶剤を、防汚塗料組成物の体積に対して25〜55体積%の範囲で含む。さらに本発明においては、上記有機溶剤は、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤を、有機溶剤の総量に対して80〜100体積%の範囲で含む。防汚塗料組成物は、一般に、塗装時に有機溶剤を添加して、塗装方法に適した粘度に調整される。そして本発明の塗装方法においては、特定範囲の相対蒸発速度を有する有機溶剤を含む有機溶剤を、防汚塗料組成物の体積に対して25〜55体積%の範囲で含めることによって、エアレススプレー塗装における塗装作業性を低下させることなく、平滑性に優れた塗膜を、例えば100〜300μmといった厚さの膜厚で形成することが可能となる。
【0087】
本発明の塗装方法においては、塗装対象である被塗物は、水中構造物である。そしてこの水中構造物の防汚塗装においては、防汚機能を長期間保持するため、極めて厚い塗膜が必要とされる。水中構造物の防汚塗膜は、水中において防汚塗膜自身が徐々に溶解することにより、海洋生物などの付着防止機能が発揮されるため、溶解するのに十分な量が必要とされるためである。一方で、膜厚100〜300μmといった極めて厚い塗膜を設ける場合は、タレおよび平滑性低下などの塗装不具合が生じやすいという問題がある。より具体的には、塗料組成物の粘度を下げることによって塗膜の平滑性を向上させることができる一方で、タレなどの不具合が発生し易くなる。また、塗料組成物の粘度を上げることによってタレなどの不具合の発生を防ぐことができる一方で、塗膜の平滑性が低下する傾向がある。
【0088】
なお、厚い塗膜を設ける方法として、塗装工程を数回繰り返す方法も挙げられる。しかしながら、塗装工程を繰り返すことによって、塗装工程が繁雑となり、また塗装時間が長くなるという不具合がある。また塗装工程を数回繰り返す場合において、塗膜の上にさらに塗膜を設ける場合は、塗膜のタレが生じやすく、また密着性も低下するなどの問題もある。
【0089】
本発明者らは、膜厚100〜300μmといった極めて厚い塗膜を設ける場合において、防汚塗料組成物が塗装時において有機溶剤を25〜55体積%含み、そしてこの有機溶剤として、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤を、この有機溶剤の総量に対して80〜100体積%の範囲で含むものを用いて、そしてこの防汚塗料組成物を、エアレススプレー塗装時の吐出圧が8MPa以上という条件で、エアレススプレー塗装により被塗物に塗装することによって、このように極めて厚い塗膜であっても、平滑性が高い塗膜を得ることができ、かつ、タレの発生を伴わず良好な塗装作業性の確保が可能となることを見出した。上記塗装条件によって塗膜平滑性が向上し塗装作業性が良好となる理由として、防汚塗料組成物において相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤が含まれることと、吐出圧が高いエアレススプレー塗装方法との組み合わせが、膜厚100〜300μmといった極めて厚い塗膜を設ける場合において、高い平滑性をもたらし、かつ、タレの発生を伴わず良好な塗装作業性が達成されることとなったと考えられる。
【0090】
防汚塗料組成物は一般に、塗装前に有機溶剤を用いて希釈される。そして本発明においては、防汚塗料組成物の塗装時において、有機溶剤が下限25体積%、上限55体積%含まれる。この有機溶剤の体積%の上限は45体積%であるのがより好ましい。有機溶剤の量が25体積%未満である場合は、塗料粘度が高くなり、塗装時の微粒化が不十分となることから、平滑性が劣ることとなるおそれがある。また有機溶剤の量が55体積%を超える場合は、塗装時の粘度が下がり、タレが生じやすくなるため、水中構造物の塗装方法として好ましくない。
【0091】
本発明の塗装方法においては、上記防汚塗料組成物に含まれる有機溶剤中に、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤が、有機溶剤の総量に対して80〜100体積%含まれる。相対蒸発速度が300を超える場合は、塗装時における溶剤揮発が早すぎるため、塗着時のフローが生じ難くなり、塗膜の平滑性が低下することとなる。また相対蒸発速度が30未満である場合は、溶剤揮発が遅すぎるために塗着粘度が低下し、タレの不具合が生じやすくなる。なお、本明細書における「相対蒸発速度」とは、有機溶剤の蒸発速度について、n−ブチルアセテートの蒸発速度を100として相対表示した数値をいう。ここで「有機溶剤の蒸発速度」は、一定温度(例えば20℃)および一定圧(例えば760Torr)の条件において、測定される有機溶剤の90質量%が蒸発するのに必要とされた時間を意味する。
【0092】
相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤の具体例として、例えば、キシレン(相対蒸発速度:68)、トルエン(相対蒸発速度:195)、エチルベンゼン(相対蒸発速度:84)、n−ヘプタン(相対蒸発速度:386)、メタノール(相対蒸発速度:250)、エタノール(相対蒸発速度:190)、2−プロパノール(相対蒸発速度:150)、1−プロパノール(相対蒸発速度:90)、2−メチル−1−プロパノール(相対蒸発速度:70)、1−ブタノール(相対蒸発速度:50)、イソブチルアセテート(相対蒸発速度:152)、n−ブチルアセテート(相対蒸発速度:100)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(相対蒸発速度:34)、メチルイソブチルケトン(相対蒸発速度:165)、エチレングリコールモノメチルエーテル(相対蒸発速度:47)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(相対蒸発速度:66)、エチレングリコールモノエチルエーテル(相対蒸発速度:32)などが挙げられる。
【0093】
有機溶剤として、相対蒸発速度が60〜200である有機溶剤を用いるのがより好ましい。
【0094】
上記相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤と併用することができる、他の有機溶剤として、例えば、シクロヘキサノン(相対蒸発速度:25)、メチルエチルケトン(相対蒸発速度:465)、メチルアセテート(相対蒸発速度:1180)、エチルアセテート(相対蒸発速度:615)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(相対蒸発速度:21)、エチル−3−エトキシプロピオネート(相対蒸発速度:12)、3−メトキシブチルアセテート(相対蒸発速度:14)、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート(相対蒸発速度:10)、4−ヒドロキシン−4−メチル−2−ペンタノン(相対蒸発速度:14)、3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−オン(相対蒸発速度:3)、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン(相対蒸発速度:18)、エチレングリコールモノ−tertブチルエーテル(相対蒸発速度:19)、エチレングリコールモノブチルエーテル(相対蒸発速度:6)、3−メチル−3−メトキシブタノール(相対蒸発速度:5)などが挙げられる。但し、これらの他の有機溶剤の量は、有機溶剤の総量に対して20体積%以下であることを条件とする。
【0095】
本発明の塗装方法においては、エアレススプレー塗装が用いられる。エアレススプレー塗装とは、塗料組成物自体をポンプにより加圧し、耐圧ホ−スでエアレスガンに接続し、液圧で塗料組成物をノズルから霧状に噴射微粒化させて、被塗面に塗装する方法をいう。このエアレススプレー塗装による塗料組成物の微粒化の原理は、空気吹きつけによるものではなく、むしろ水鉄砲に似ており、塗料組成物自体に圧力をかけることにより、ノズルから高速で噴出した塗料が空気に衝突して微粒化するというものである。更に、その微粒化程度は塗料の吐出量によるものである。装置的には、塗料組成物の圧送ポンプ、耐圧塗料ホース、エアレス塗装ガン及びガン先に付けて塗料を霧化するためのスプレーノズルチップから構成されている。当該ポンプとしては、例えば、エア駆動式、油圧駆動式、電動式などがあげられ、屋外塗装では電動式を用いることもある。ポンプとしてエア駆動式および油圧駆動式を用いた場合は、プランジャ−形のポンプで圧縮空気、又は油圧で駆動し、駆動圧に対して数倍〜数十倍に液圧をあげるポンプが使用できる。電動式では、油圧を介したポンプを直接モ−タで動かすものが挙げられる。エアレススプレー塗装は、塗装処理可能な面積が広く、また作業性が良好であるという利点がある。また、膜厚が厚い塗膜を設けることができ、さらに高粘度である塗料組成物を塗装することができるという利点がある。
【0096】
本発明の塗装方法においては、この塗装機の塗装時におけるガン先から被塗面までの距離は、100〜1000mm、特に300〜900mm、長手方向のスプレーパターン幅は400〜800mm、特に450〜600mmの範囲内が好ましい。上記塗装機による塗布量は、塗料組成物質量を基準に、150〜1000g/m、特に250〜800g/mの範囲内が適している。そして、本発明の塗装方法において、エアレススプレー塗装時の吐出圧が8MPa以上である。ここで「吐出圧」とは、エアレススプレー塗装において、塗料組成物が霧状に噴出する吐出部(ノズル部)における、塗料組成物が噴出する圧力をいう。エアレススプレー塗装時の吐出圧が8MPa以上であることによって、塗装時の微粒化が進み、平滑な塗膜が得られる。また、塗料組成物中に含まれる有機溶剤の揮発が起こりやすく、塗着粘度が上昇し、厚膜であってもタレが生じ難くなる。この吐出圧は12MPa以上であるのが好ましい。吐出圧の上限は、塗装現場での実作業面などから20MPa以下であるのが好ましい。
【0097】
本発明の塗装方法において、防汚塗料組成物は、塗装時において、粘度が90〜120Kuの範囲であるのがより好ましい。防汚塗料組成物の粘度が上記範囲であることによって、エアレススプレー塗装においてより良好な塗装作業性を確保することができるという利点がある。なお上記防汚塗料組成物の粘度は、ストーマー粘度計法(日本工業規格(JIS)K5600−2−2 塗料一般試験方法 第2部:塗料の性状・安定性 第2節:粘度 p153〜155参照)に準拠して測定することができる。
【0098】
なお本発明においては、エアラップスプレー塗装を用いて、エアレススプレー塗装と同様に塗装してもよい。なおこのエアラップスプレー塗装は、塗料組成物中にエアを含まず、ノズル周りでエアをラップとして用いる塗装である。このようにエアラップスプレー塗装は、塗料組成物中にエアを含まない点において、エアレススプレー塗装の1態様として含めることができる。
【実施例】
【0099】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0100】
製造例1 アクリル樹脂ワニス1の調製
攪拌機、冷却機、温度制御装置、窒素導入管、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、キシレン64質量部、n−ブタノール16質量部を加え115℃に保った。この溶液中に、アクリル酸エチル 26.02質量部、メタクリル酸シクロヘキシル 15.00質量部、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル(NKエステルM−90G、新中村化学社製) 10.00質量部、アクリル酸 8.98質量部、アクリル酸トリイソプロピルシリル 40.00質量部からなるモノマー混合物およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16質量部、n−ブタノール4質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1.5時間保温することにより樹脂ワニスを得た。得られた樹脂ワニス中の固形分は49.6質量%であり、粘度は6ポイズであった。また、この樹脂ワニス中の樹脂の数平均分子量(GPC、ポリスチレン換算)は6000であり、酸価は70mgKOH/gであった。
次に、同様の反応容器に、得られた樹脂ワニス 100質量部、酢酸銅12.9質量部、水素添加ロジン(ハイペールCH、酸価160、荒川化学工業社製)21.7質量部、キシレン110質量部を加えて130℃に加熱し、溶剤とともに酢酸を除去することにより、固形分が60.2質量%のアクリル樹脂ワニス1を得た。
【0101】
製造例2 アクリル樹脂ワニス2の調製
上記製造例1より得られたアクリル樹脂ワニス1を、エバポレーターを用いて溶剤を除去し、固形分が75.1質量%のアクリル樹脂ワニス2を得た。
【0102】
製造例3 アクリル樹脂ワニス3の調製
攪拌機、冷却機、温度制御装置、窒素導入管、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、キシレン64質量部、n−ブタノール16質量部を加え100℃に保った。この溶液中に、アクリル酸エチル 58.3質量部、メタクリル酸シクロヘキシル 15.0質量部、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル(NKエステルM−90G、新中村化学社製) 10.0質量部、アクリル酸 16.7質量部からなるモノマー混合物およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16質量部、n−ブタノール4質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間30分間保温することにより樹脂ワニスを得た。得られた樹脂ワニス中の固形分は49.8質量%であり、粘度は4.4ポイズであった。また、この樹脂ワニス中の樹脂の酸価は130であった
次に、同様の反応容器に、得られた樹脂ワニス100質量部、酢酸亜鉛25.4質量部、ナフテン酸(NA−165、酸価165、大和油脂工業社製)39.2質量部、キシレン110質量部を加えて130℃に加熱し、溶剤とともに酢酸を除去することにより、固形分が60.0質量%のアクリル樹脂ワニス3を得た。
【0103】
製造例4 アクリル樹脂ワニス4の調製
上記製造例1と同様の反応容器に、キシロール50質量部を加え90℃に保った。この溶液中に、メタクリル酸メチル 35.0質量部、アクリル酸トリイソプロピルシリル 65.0質量部からなるモノマー混合物およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシロール7質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1.5時間保温した。その後、60℃まで冷却しキシロール10質量部を加えることによりアクリル樹脂ワニス4を得た。得られたアクリル樹脂ワニス4中の固形分は60.0質量%であった。また、アクリル樹脂ワニス4中の樹脂の数平均分子量(GPC、ポリスチレン換算)は8000であった。
【0104】
製造例5 有機高分子粒子の調製
キチン(大日精化社製:商品名キチンP)をジェット粉砕機で粉砕し、粒径4μmの有機高分子粒子を得た。
【0105】
製造例6〜17 防汚塗料組成物(1)〜(15)の製造
上記製造例1〜5で得られたアクリル樹脂ワニス1〜4および有機高分子粒子、そして下記表1、2に示すその他の成分を用いて、高速ディスパーにて混合することにより、防汚塗料組成物(1)〜(15)を製造した。なお、下記表1、2に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。

・亜酸化銅:NCテック社製「NC−301」
・銅ピリチオン:アーチケミカル社製「カッパーオマジン」
・亜鉛華:堺化学工業社製「酸化亜鉛2種」
・弁柄:戸田工業社製「トダカラーKN−R」
・塩素化パラフィン:東ソー社製「トヨパラックス A50」
・ウッドロジン:荒川化学工業社製「WWロジン」
・タレ防止剤:楠本化成社製「ディスパロン A600−20X」

キシレン:相対蒸発速度68
メチルエチルケトン:相対蒸発速度465
トルエン:相対蒸発速度195
シクロヘキサノン:相対蒸発速度25
エチレングリコールモノブチルエーテル:相対蒸発速度6
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
実施例1〜14および比較例1〜6
塗装板(ブリキ板サイズ300mm×400mm、厚み0.3mm、(JIS G3303(SPTE))を垂直に設置した。レシプロ(垂直方向に一定に上下する装置、66cm/sで作動)に、エアレスガン(旭サナック社製AG−4型、チップ60C11)を取り付けた。下記表3、4に示す防汚塗料組成物をブリキ缶に入れて、エアレスポンプ(ポンプ圧(元圧) 0.6MPa)にて送液し、表3、4に示す吐出圧で、常温で塗装を行った。塗装終了後、塗装板を、塗装ブースから取り出し、塗装面を塗装時と同じく垂直に保ち、常温で24時間以上静置し、乾燥させた。こうして、乾燥膜厚が120μmの塗膜を得た。
【0109】
塗膜の粗度の測定
実施例および比較例で得られた塗膜の上に、ビスラー粗度計(メテコ社製)を塗板に乗せて、粗度計の取っ手を持ち、走査して、リニアゲージの値(μm)を測定した。
併せて、塗膜の粗度について、下記基準により評価した。
○:粗度が50μm以下
×:粗度が50μmを超える
【0110】
タレ限界膜厚の測定方法
実施例および比較例で用いた塗装板を垂直に設置し、下端にテーピングを行った。この塗装板に、各実施例および比較例で用いた防汚塗料組成物を、乾燥塗膜の膜厚を変更して約10〜20μm毎の膜厚を設けたこと以外は、上記実施例と同様に塗装した。ここで乾燥膜厚の厚さは、塗装のレシプロ移動速度と塗装パス回数の条件で調節し、約10〜20μm毎の膜厚の塗板を作成した。塗装後1分間乾燥した後、テーピングを剥がした。得られた塗膜を乾燥した後、テーピングが行われていた非塗装部分へのタレの最大長さを測定した。ここで3mm以上のタレが生じた場合を「不可」とし、そして3mm以上のタレが生じた最小乾燥膜厚を、タレ限界膜厚とした。
併せて、タレ限界膜厚の判定において、下記基準により評価した
×:タレ限界膜厚100μm未満、
○:タレ限界膜厚100〜150μm
◎:タレ限界膜厚が150μmを超える
【0111】
【表3】

【0112】
【表4】

【0113】
表3、4に示されるように、実施例においては何れも、塗膜の粗度が低いため塗膜平滑性が高く、かつ、タレ限界膜厚も100μm以上と高かった。
比較例1、6は、塗装時において、防汚塗料組成物に含まれる有機溶剤の量が55体積%を超える実験例である。この場合は、塗膜の平滑性は良好である一方で、タレ限界膜厚が低いため、水中構造物の塗装に適さない。
比較例2は、塗装時において、防汚塗料組成物に含まれる有機溶剤の量が25体積%未満である実験例である。この場合は、タレ限界膜厚が高く良好である一方で、塗膜の平滑性が低くなった。
比較例3、4は、有機溶剤中、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤の体積%が80体積%未満である実験例である。これらの場合は、塗膜平滑性およびタレ限界膜厚の両立が図れなかった。
比較例5は、エアレススプレー塗装時の吐出圧が8MPa未満である実験例である。この場合は、塗膜平滑性およびタレ限界膜厚の両方が低下することとなった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の塗装方法によれば、エアレススプレー塗装において、有機溶剤を25〜55体積%含み、そしてこの有機溶剤は、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤を、有機溶剤の総量に対して80〜100体積%の範囲で含む防汚塗料組成物を、吐出圧が8MPa以上であるエアレススプレー塗装で塗装することによって、厚膜を形成する塗装においても高い作業性が達成され、かつ平滑性の高い塗膜を形成することができる。そのため、この塗装方法は、水中構造物の塗装において用いられる防汚塗膜の塗装方法として極めて適した塗装方法である。本発明の塗装方法は、研磨工程など新たな工程を増加させることなく、より平滑性の高い塗膜を形成することができ、さらに塗膜の平滑性と塗装作業性とを両立することができるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中構造物を被塗物として、防汚塗料組成物を塗装する塗装方法であって、
該防汚塗料組成物は、塗装時において、有機溶剤を25〜55体積%含み、
該有機溶剤は、相対蒸発速度が30〜300である有機溶剤を、該有機溶剤の総量に対して80〜100体積%の範囲で含み、
該防汚塗料組成物はエアレススプレー塗装により被塗物に塗装され、およびエアレススプレー塗装時の吐出圧が8MPa以上である、
水中構造物の塗装方法。
【請求項2】
前記吐出圧が12MPa以上である、請求項1記載の水中構造物の塗装方法。
【請求項3】
前記防汚塗料組成物は、塗装時において、有機溶剤を25〜45体積%含む、請求項1または2記載の水中構造物の塗装方法。
【請求項4】
前記防汚塗料組成物の粘度は90〜120KUである、請求項1〜3いずれかに記載の水中構造物の塗装方法。
【請求項5】
前記防汚塗料組成物は、バインダー樹脂、防汚剤、有機溶剤を含み、
該バインダー樹脂は、下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、Xは、
【化2】

で表される基であり、kは0または1であり、Yは炭化水素であり、Mは2価金属であり、Aは一塩基酸の有機酸残基を表す。]
で示される基を側鎖に有するアクリル樹脂である、
請求項1〜4いずれかに記載の水中構造物の塗装方法。
【請求項6】
前記アクリル樹脂は、側鎖に、下記一般式(2):
【化3】

[式(2)中、R1、R2、R3は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。]
で表される基をさらに有する、請求項5記載の水中構造物の塗装方法。

【公開番号】特開2012−50909(P2012−50909A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194207(P2010−194207)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】