説明

水中油型乳化物及びクリーム

【課題】ホイップクリームを製造する際にホイップの終点幅が広く、乳化安定性及びホイップ後の食感、口溶けが良く、二次加工耐性にも優れた水中油型乳化物を提供する。
【解決手段】本発明の水中油型乳化物は、水中油型乳化物中に油脂36〜50重量%、平均分子量1000〜4000のカゼイン蛋白分解物を含有し、油脂を構成する全脂肪酸のうちの炭素数12〜18の飽和脂肪酸の中で、最も含有量が多い脂肪酸の炭素数をnとしたとき、全構成脂肪酸中の炭素数n±2の飽和脂肪酸の含有割合が40〜80重量%であり、水中油型乳化物中の油脂含有量をm重量%(36≦m≦50)としたとき、下記(a)式で示す割合のカルシウムを含有することを特徴とする。
(数1)
L=(−0.0007m+0.0668)±0.005 (a)
(但し、Lは、水中油型乳化物中のカルシウム含有率:重量%)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中油型乳化物及び、この乳化物を起泡させて得たクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より生クリームを起泡させたホイップクリームは、デザート、ケーキ類のトッピング、サンド用等として用いられている。ただし、生クリームは乳化物の安定性に劣り、水中油型の状態で振動、温度により乳化破壊を生じやすく、また起泡し、ホイップクリームとし使用する時も、終点幅が極端に短く使いづらい事が知られている。このため近年は生クリームの欠点を改良した、植物性油脂を乳化した水中油型乳化物が用いられるようになってきた。これらの植物性油脂を使用した水中油型乳化物は、連続ホイップマシーンによりホイップクリームの大量生産を可能とし、連続的に生産されたホイップクリームは、その後さらにデコレーションケーキにナッペしたり、パンや洋菓子のサンドクリームとして使用する等、ホイップ後に再度機械を通し2次加工し使用される場合が多くなってきている。ただし、2次加工は使用する設備や条件によりクリームに損傷を与える事は良く知られており、練り加工等の際に加わる圧力や、設備からくる加工中の温度上昇等に対する耐性を有することが要求される。このような機械耐性を考慮したものとして、構成脂肪酸残基が炭素数20〜24の飽和脂肪酸を5〜70重量%含む油脂と、乳化剤として構成脂肪酸残基が炭素数20〜24の飽和脂肪酸である乳化剤とを組合せた水中油型乳化物(特許文献1)や、乳化剤とリゾホスホリポ蛋白、リゾホスホリポ蛋白以外の蛋白で分子量がリゾホスホリポ蛋白よりも大きい蛋白を組合せた水中油型乳化脂(特許文献2)が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−276978号公報
【特許文献2】特開平8−280346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、長鎖飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂と長鎖脂肪酸の乳化剤とを組合わせて用いる特許文献1記載の水中油型乳化物は、炭素数20〜24の飽和脂肪酸の含有比率にもよるが、このような油脂を高濃度で含有させると食感、特に口どけ感の低下を生ずる。また特許文献2の水中油型乳化脂は、乳化剤、リゾホスホリポ蛋白と、これより高分子量の蛋白、例えばカゼインミセルを組合せるものであり、リゾホスホリポ蛋白、カゼインミセルは共に複合体であるため、均質化が高圧で出来ず、結果として乳化が不安定になりやすいという問題があった。本発明はこれら従来の問題を解決した水中油型乳化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)水中油型乳化物中に油脂36〜50重量%、平均分子量1000〜4000のカゼイン蛋白分解物を含有し、油脂を構成する全脂肪酸のうちの炭素数12〜18の飽和脂肪酸の中で、最も含有量が多い脂肪酸の炭素数をnとしたとき、全構成脂肪酸中の炭素数n±2の脂肪酸の含有割合が40〜80重量%であり、水中油型乳化物中の油脂含有量をm重量%(36≦m≦50)としたとき、下記(a)式で示す割合のカルシウムを含有することを特徴とする水中油型乳化物、
(数1)
L=(−0.0007m+0.0668)±0.005 (a)
(但し、Lは、水中油型乳化物中のカルシウム含有率:重量%)
(2)上記(1)の水中油型乳化物を起泡させてなるクリーム、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水中油型乳化物は、特定の油脂成分、油脂を包み込む特定の平均分子量からなる蛋白分解物及び油脂成分含有量に対して特定の割合でカルシウム量を調整することにより、ホイップの終点幅が広く、製品の乳化安定性やホイップ後の口どけが良好になる。また、ホイップ後の物性変化が少ないため、2次加工耐性に優れたクリームを提供する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の水中油型乳化物に用いることができる油脂は、油脂を構成する全脂肪酸のうちの炭素数12〜18の飽和脂肪酸の中で、最も含有量が多い脂肪酸の炭素数をnとしたとき、炭素数n±2の脂肪酸を全構成脂肪酸中に40〜80重量%含有する油脂である。例えば全構成脂肪酸のなかの炭素数12〜18の飽和脂肪酸中、炭素数12の飽和脂肪酸であるラウリン酸が最も多い脂肪酸の場合、炭素数がn±2=10〜14の飽和脂肪酸の合計量が、全構成脂肪酸中40〜80重量%である油脂であり、このような油脂としては、例えばパーム核油、ヤシ油やこれらに水素添加した硬化油、あるいは炭素数10〜14の脂肪酸の割合が全構成脂肪酸中40〜80重量%の条件が保たれる範囲で、パーム核油やヤシ油を分別した分別油、エステル交換したエステル交換油、さらには、パーム核油、ヤシ油やこれらの硬化油に、上記の条件が保たれる範囲で他の油脂を混合した混合油脂等が挙げられる。パーム核油、ヤシ油等に混合することができる油脂としては、例えばナタネ油、大豆油、パーム油、ラード、バター等の動植物油脂や、これらの硬化油、分別油、エステル交換油等の1種又は2種以上が挙げられる。また、炭素数16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸が最も多い場合、炭素数がn±2=14〜18の飽和脂肪酸の合計量が全構成の40〜80重量%であり、例えば、パーム油を主体とする事で条件に合致した油脂を調製する。同様に、炭素数18の飽和脂肪酸であるステアリン酸が最も多い場合、炭素数がn±2=16〜20の飽和脂肪酸の合計量が、全構成脂肪酸中40〜80重量%であり、例えばナタネ硬化油を主体とする事により、上記条件に合致した脂肪酸組成を持つ油脂を調製する事ができる。ただしナタネ硬化油を主体とする場合、その硬化度は高くする必要があり、ナタネ硬化油だけでは油脂の融点は高くなるため、炭素数16〜20の飽和脂肪酸の合計量が、全構成脂肪酸中40〜80重量%という条件が保たれる範囲で上記した動植物油脂や動植物油脂の硬化油、分別油、エステル交換油の中から低融点の油脂を1種又は2種以上を選択して混合したり、エステル交換して用いることが好ましい。全構成脂肪酸中、上記炭素数n±2(12≦n≦18)の脂肪酸の割合が40重量%未満の油脂は、製品の製造中に増粘、固化が生じやすくなり、しまりが強くなるため、2次加工には適さない。また80重量%を超える油脂を使用した場合、製品の食感が低下する。本発明において用いる油脂は、炭素数n±2の飽和脂肪酸の、全構成脂肪酸中における割合が40〜60重量%であるものがより好ましい。
【0008】
本発明の水中油型乳化物は、平均分子量1000〜4000のカゼイン蛋白分解物を含有することにより、ホイップ後のクリームの保型性が向上すると共に、2次加工により受ける物理的衝撃を緩和させる事ができる。カゼイン蛋白は大きく分類してα−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインという平均分子量20000〜25000のサブユニットの複合体として構成されており、カゼイン蛋白の平均分子量は75000〜375000である。これらサブユニットの特徴は構成するアミノ酸の一部がリン酸化されていることである。本発明で用いるカゼイン蛋白分解物は、カゼイン蛋白を平均分子量1000〜4000のリン酸基を含むペプチドに分解したものであり、平均分子量はこれらのリン酸基を含むペプチドの分子量平均を指す。カゼイン蛋白分解物は酸カゼインをタンパク質分解酵素によりリン酸基を含むペプチドの平均分子量が1000〜4000となるように加水分解して得ることができる。本発明においてはリン酸基を含むペプチドの平均分子量が1000〜4000となるように加水分解した分解物を部分的に精製したものや、苦味成分を除去したもの等も、カゼイン蛋白分解物として用いることができる。これらカゼイン蛋白分解物は、例えばタンパク質分解酵素の種類や組み合わせ、分解時間等を調整することにより、リン酸基を含むペプチドの平均分子量が1000〜4000になるよう調製することができる。また平均分子量は、リン酸基を含むペプチドの分子量と濃度から求めることができる。平均分子量は、例えば目的の分子量分画に適したゲルろ過材を使用したカラムクロマトグラフィーにより分離を行い、溶出した蛋白質を特定の光波長における吸光度、例えば蛋白質の吸光度(一般に光波長280nmにおける吸光度)及び有機リンの吸光度(一般に光波長820nmにおける吸光度)で測定し、分子量ごとの濃度を求める等により確認することができる。カゼイン蛋白分解物の平均分子量が1000未満の場合や、4000を超える場合には、水中油型乳化物の乳化安定性が低下するとともに、ホイップ物性が悪化し、それによりホイップクリームの2次加工耐性が低下する。上記分子量のカゼイン蛋白分解物は、水中油型乳化物中に0.0005〜1.0重量%含有することが好ましい。カゼイン蛋白分解物が0.0005重量%未満であると、ホイップクリームのホイップ物性が悪化し、それによりクリームの2次加工耐性が低下する虞があり、1.0重量%を超えると水中油型乳化物の乳化安定性が低下する虞がある。
【0009】
本発明の水中油型乳化物はカルシウム源として、乳由来原料である牛乳、全脂粉乳の他、無脂乳固形分、無脂乳固形分から乳蛋白質を分離、濃縮した蛋白濃縮物、各種カルシウム塩を利用することができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。無脂乳固形分としては、例えば脱脂乳、脱脂粉乳、ホエーパウダー、バターミルクパウダー、チーズ等が挙げられ、カルシウム塩としては、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、L−グルタミン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等が挙げられる。また蛋白濃縮物としては、乳蛋白濃縮物(トータルミルクプロテイン)、ホエー蛋白濃縮物等が挙げられる。なお、特に全脂粉乳、脱脂粉乳、チーズ等を用いると、保型性が向上すると共に、2次加工における物理的衝撃に対する耐性を向上させる事ができると共に、風味が向上する効果があるので好ましい。
【0010】
本発明の水中油型乳化物は、上記油脂の乳化物中の含有率をm(重量%)としたとき、下記(a)式で示す割合のカルシウムを含有する。
(数2)
L=(−0.0007m+0.0668)±0.005 (a)
(但し、Lは水中油型乳化物中のカルシウム含有率:重量%)
カルシウムの割合が上記(a)式で示す範囲を外れる場合、乳化物の安定性が低下し、この乳化物を起泡して得たホイップクリームは締まりが強くなり過ぎる等の問題を生ずる。
【0011】
水相と油相とを乳化して本発明乳化物を得る際に、乳化剤を使用することができる。乳化剤としては、例えば蔗糖脂肪酸エステル、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸脂肪酸エステル等が挙げられる。また風味向上のために卵黄由来のもの等を上記乳化剤と併用することもできる。これら乳化剤は単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0012】
本発明の乳化物には、必要に応じて蛋白質融解作用を有する無機塩、有機酸、有機酸塩の1種又は2種以上を配合することができる。無機塩としては、例えばリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。有機酸としては、例えばアジピン酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸等が挙げられ、有機酸塩としては例えば、クエン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等が挙げられる。本発明乳化物には、更に必要に応じて糖類を配合することができる。糖類としては、グルコース、果糖、キシロース等の単糖類、乳糖、蔗糖、麦芽糖、トレハロース等の二糖類、異性化糖、オリゴ糖、澱粉加水分解糖、糖アルコール、増粘多糖類等が挙げられる。これらの糖類は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
本発明の水中油型乳化物は、カゼイン蛋白分解物、無脂乳固形分及び必要に応じて更に他のカルシウム源や、乳化剤、無機塩、有機酸、有機酸塩、糖類を添加した水相に、必要により乳化剤を添加した油相を添加攪拌して乳化することにより得ることができ、乳化後、加熱殺菌、冷却、熟成等を施して製品化される。
【0014】
本発明の水中油型乳化物は、ホイップクリーム用、コーヒークリーム用、濃縮乳等として使用されるが、特にホイップクリーム用として好適である。本発明の水中油型乳化物は、攪拌して起泡させることによりクリームを製造することができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。尚、カゼイン蛋白分解物としては、平均分子量約4500のもの(MW−4500)、平均分子量約3500のもの(MW−3500)、平均分子量約1500のもの(MW−1500)、平均分子量約500のもの(MW−500)を用いた。またカルシウム源としては、乳酸カルシウム(ピューラック・ジャパン製:カルシウム含有量14重量%)及び脱脂粉乳(よつ葉乳業製:カルシウム含有量1.1重量%)を用いた。
【0016】
実施例1〜4
ヤシ油と、このヤシ油をほぼ完全に水素添加したヤシ硬化油(融点34℃)を、重量比で1:2で混合した混合油脂に、乳化剤(大豆レシチン)を加えて65℃に保持した。一方、水にカゼイン蛋白分解物、乳酸カルシウム、脱脂粉乳、リン酸一ナトリウム及び乳化剤(蔗糖脂肪酸エステル、HLB=16)を添加して65℃に保持した。上記油相、水相を65℃に保持しながら、油相を水相に添加して予備乳化し、次いでホモゲナイザー(イズミフードマシナリ製)にて50kg/cmで均質化処理して乳化物を得た。得られた乳化物を直接加熱殺菌機(イズミフードマシナリ製)により142℃で3秒間殺菌し、更にホモゲナイザーで均質化処理した後、プレート式冷却器(APV製)により5℃に冷却し、同温度で一昼夜エージングした。油脂の脂肪酸組成を表1に、各成分の配合割合を、水中油型乳化物中の割合(重量%)として表2に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
比較例1
ヤシ油と、このヤシ油をほぼ完全に水素添加したヤシ硬化油(融点34℃)を、重量比で1:2で混合した混合油脂に、乳化剤(大豆レシチン)を加えて65℃に保持した。一方、水に加水分解をしていないカゼインナトリウム、乳酸カルシウム、脱脂粉乳、リン酸一ナトリウム及び乳化剤(蔗糖脂肪酸エステル、HLB=16)を添加して65℃に保持した。上記油相、水相を65℃に保持しながら、油相を水相に添加して予備乳化し、次いでホモゲナイザー(イズミフードマシナリ製)にて50kg/cmで均質化処理して乳化物を得た。得られた乳化物を直接加熱殺菌機(イズミフィードマシナリ製)により142℃で3秒間殺菌し、更にホモゲナイザーで均質化処理した後、プレート式冷却器(APV製)により5℃に冷却し、同温度で一昼夜エージングした。油脂の脂肪酸組成を表1に、各成分の配合割合を、水中油型乳化物中の割合(重量%)として表2に示す。
【0020】
比較例2〜3
ヤシ油と、このヤシ油をほぼ完全に水素添加したヤシ硬化油(融点34℃)を、重量比で1:2で混合した混合油脂に、乳化剤(大豆レシチン)を加えて65℃に保持した。一方、水にカゼイン蛋白分解物、乳酸カルシウム、脱脂粉乳、リン酸一ナトリウム及び乳化剤(蔗糖脂肪酸エステル、HLB=16)を添加して65℃に保持した。上記油相、水相を65℃に保持しながら、油相を水相に添加して予備乳化し、次いでホモゲナイザー(イズミフードマシナリ製)にて50kg/cmで均質化処理して乳化物を得た。得られた乳化物を直接加熱殺菌機(イズミフードマシナリ製)により142℃で3秒間殺菌し、更にホモゲナイザーで均質化処理した後、プレート式冷却器(APV製)により5℃に冷却し、同温度で一昼夜エージングした。油脂の脂肪酸組成を表1に、各成分の配合割合を、水中油型乳化物中の割合(重量%)として表2に示す。
【0021】
比較例4〜5
ヤシ油と、このヤシ油をほぼ完全に水素添加したヤシ硬化油(融点34℃)を、重量比で1:2で混合した混合油脂に、乳化剤(大豆レシチン)を加えて65℃に保持した。一方、水に平均分子量が1500になるよう加水分解したカゼイン蛋白分解物、乳酸カルシウム、脱脂粉乳、リン酸一ナトリウム及び乳化剤(蔗糖脂肪酸エステル、HLB=16)を添加して65℃に保持した。上記油相、水相を65℃に保持しながら、油相を水相に添加して予備乳化し、次いでホモゲナイザー(イズミフードマシナリ製)にて50kg/cmで均質化処理して乳化物を得た。得られた乳化物を直接加熱殺菌機(イズミフードマシナリ製)により142℃で3秒間殺菌し、更にホモゲナイザーで均質化処理した後、プレート式冷却器(APV製)により5℃に冷却し、同温度で一昼夜エージングした。油脂の脂肪酸組成を表1に、各成分の配合割合を、水中油型乳化物中の割合(重量%)として表2に示す。
【0022】
比較例6〜7
ナタネ部分硬化油(融点33℃)と、ヤシ油をほぼ完全に水素添加したヤシ硬化油(融点34℃)を、重量比で1:1で混合した混合油脂に、乳化剤(大豆レシチン)を加えて65℃に保持した。一方、水に平均分子量が1500になるよう加水分解したカゼイン蛋白分解物、脱脂粉乳、リン酸一ナトリウム及び乳化剤(蔗糖脂肪酸エステル、HLB=16)を添加して65℃に保持した。上記油相、水相を65℃に保持しながら、油相を水相に添加して予備乳化し、次いでホモゲナイザ−(イズミフードマシナリ製)にて50kg/cmで均質化処理して乳化物を得た。得られた乳化物を直接加熱殺菌機(イズミフードマシナリ製)により142℃で3秒間殺菌し、更にホモゲナイザ−で均質化処理した後、プレート式冷却機(APV製)により5℃に冷却し、同温度で1昼夜エージングした。油脂の脂肪酸組成を表1に、各成分の配合比率を、水中油型乳化物中の割合(重量%)として表2に示す。
【0023】
実施例、比較例において得られた水中油型乳化物の粘度及び乳化安定性を測定した。またこの水中油型乳化物を縦型ミキサー(関東ミキサー製)でホイップしてクリームを製造し、このクリームの諸物性を測定した。結果を表3に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
水中油型乳化物の物性:水中油型乳化物の粘度、乳化安定性を以下のように測定した。
(1)粘度
水中油型乳化物を5℃に調温した後、B型粘度計(東京計器製)を用いて5℃における粘度を測定した。
(2)乳化安定性
水中油型乳化物を5℃及び20℃に調温し、各温度において30分攪拌した時のボテ発生の有無を目視で観察し、ボテがないものを良、ボテが発生した場合は、その状態により、増粘、固化として判定した。
【0026】
クリームの物性:クリームのオーバーラン、しまり、二次加工耐性を以下のようにして測定した。
(1)オーバーラン
水中油型乳化物を縦型ミキサーにて起泡させて得たクリームの重量:W1と、クリームの容積と同一容積の乳化物重量:W2とを測定し、下記(1)よりオーバーラン(%)を求めた。
(数3)
オーバーラン(%)=(W2−W1)÷W1×100 (1)
(2)しまり
クリームの硬さをレオメーター(山電製)により、ホイップ直後と15℃の調温室中に30分間静置した後とで測定し、その差が50gf/cm以下であるものを、しまりなしと判定した。
(3)二次加工耐性
クリームをデポジッター(関東ミキサー製)を通過させ、通過前と通過後のクリームの硬さをレオメーターで測定した。その差が80gf/cm以下であるものを二次加工耐性があると判定した。
【0027】
保型性/保水性:ホイップ直後のクリーム及び、クリームをデポジッターを通過させた二次加工後の保型性/保水性を以下のように評価した。表3の評価は、左側が保型性、右側が保水性を示す。
(1)保型性
縦型ミキサーでホイップして得たクリーム及び、それをデポジッター処理したものを花形状に造形し、10℃、15℃、20℃の各温度で1日間静置した後の形状の変化を目視により判定し
◎・・造花直後と比較して形状の変化なし。
○・・やや形状の変化がある。または若干「しわ」のようなものが見える
△・・かなり形が崩れている。又は「しわ」のようなものが見える。
×・・完全に形が崩れている。又は「ひび」が入っている。
と評価し、◎及び○を良、△及び×を不良と判断した。
(2)保水性
縦型ミキサーでホイップして得たクリーム及び、それをデポジッタ−処理したものを花形状に造形し、10℃、15℃、20℃の各温度で1日間静置した後の、離水の有無を目視により判定し、
◎・・造花直後と比較して離水が認められない。
○・・やや離水が認められる。
△・・かなりの離水が認められる。
×・・離水が激しい。
と評価し、◎及び○を良、△及び×を不良と判断した。
【0028】
各クリームの食感、口溶け性は、ホイップ直後と、クリームをデポジッターを通過させた後(二次加工後)とについて官能試験により評価した。官能試験は、10人のパネラーがクリームを試食し、各パネラーが各々、良い、普通、悪いの三段階で評価した。評価を与えた人数を表4に示す。
【0029】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中油型乳化物中に油脂36〜50重量%、平均分子量1000〜4000のカゼイン蛋白分解物を含有し、油脂を構成する全脂肪酸のうちの炭素数12〜18の飽和脂肪酸の中で、最も含有量が多い脂肪酸の炭素数をnとしたとき、全構成脂肪酸中の炭素数n±2の飽和脂肪酸の含有割合が40〜80重量%であり、水中油型乳化物中の油脂含有量をm重量%(36≦m≦50)としたとき、下記(a)式で示す割合のカルシウムを含有することを特徴とする水中油型乳化物。
(数1)
L=(−0.0007m+0.0668)±0.005 (a)
(但し、Lは、水中油型乳化物中のカルシウム含有率:重量%)
【請求項2】
請求項1の水中油型乳化物を起泡させてなるクリーム。