説明

水位上昇を抑制した海岸構造

【課題】消波のための人工リーフの背後の水位上昇を抑制し、沿岸流の生成が行われないようにして人工リーフを含む海岸を海浜レジャーに利用できるようにする。
【解決手段】上面に複数の傾斜板13からなるトラップを有する上面開放の函体2を海底に設置し、函体2が砕波の突入によって移動しないように岸側にブロック等を設置すると共に、人工リーフ1背後に砂4を供給して養浜を行い、静穏な海域を形成すると共に海浜レジャーに適したものとする。函体2からなるため、人工リーフ1による背面の水位上昇が抑制され、沿岸流の生成がほとんど起きないため、安定した汀線が得られるので、海岸の利用価値が上昇し、海浜レジャーの海岸構造として最適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に没した人工リーフとその背後に形成した養浜等の海岸構造物を組み合わせることにより、人工リーフによって消波すると共に背後の水位上昇を抑制し、沿岸流の発生を防止して汀線の安定を図った海岸利用レクレーションに好ましい海岸構造に関する。
【背景技術】
【0002】
消波構造物として図9に示す人工リーフがあり、海浜の安定化や静穏海域の形成に効果があり、また、海面下に没しており景観に影響を与えないため、消波ブロックに代わって観光地や海浜レジャーの地域において利用されるようになってきている。
この人工リーフは、一般には設置場所の海底に形成した基礎やマウンドの上に大型の石やコンクリートブロック等を積み上げて断面を台形に形成したものであり、マウンドの法面や人工リーフの天端での水深変化に基づく砕波の生成によって消波効果を生じさせるものである。
【0003】
しかしながら、従来の消波構造物としての人工リーフは、波動エネルギーの減衰という面で見れば、その減衰効果はあまり期待できず、消波効果を得るには、天端幅を広くして大断面とする必要があり、大規模工事となっていた。また、大容積の構造体が海中に存在し、海水の水平方向流に対して抵抗体となって大きな力が作用するため、人工リーフを構成する材料は大重量のものが必要となっていた。
【0004】
発明者らは、特許文献3(特開2002−242150号公報)に示される人工リーフを提案した。この人工リーフは、上面開放の函体で、沖側端部の下側に開口を有し、天端には砕波を函体内部に導入してそのエネルギーを減衰させるスリットが形成されているものである。この人工リーフの消波効果は大きく、人工リーフの規模が小さなもの(小断面)でも実効が期待でき、海岸保全に有効であることが認められた。また、設置工事も、石積みに比較して予め製作した函体を所定の位置に設置するだけのものであるので短期間に済むものである。
【特許文献1】特開平8−3965号公報
【特許文献2】特開平11−13040号公報
【特許文献3】特開2002−242150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、旧来の台形型人工リーフは、消波性能向上のために、天端幅を広くするか、あるいは天端水深を浅くしていたが、これによって人工リーフ上で砕波した波が岸側へ寄せて背後の水位が上昇してしまっていた。特に、天端水深が浅い場合は、背後の水位上昇量が大きくなる傾向が強まり、水面のヘッド差が生じて岸に平行な沿岸流が発生し、この沿岸流によって人工リーフ背後の砂等が流出してしまい、海浜の安定が悪くなっていた。
また、人工リーフを設置した背後の水深が深く、海底勾配が急な場合、海浜の利用が限定されてしまい観光レジャー用としては利用することが難しかった。
図8に示すように、潜堤の背後に養浜砂4を設けた場合、水位上昇によって養浜砂が流出して消失することがあり、再度砂を供給せざるを得なかった。特に、環境面から、砂の供給源の確保が難しくなっている現況を踏まえると、流出を防ぐことが重要である。
そこで、本発明は、消波構造物の背後の水位上昇を抑制し、沿岸流の生成をできるだけ阻止して人工リーフを含む海岸を海浜レジャーに利用できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の海岸構造に用いる人工リーフは、水位上昇を抑制して沿岸流の生成を抑え、汀線の安定をもたらすものであり、マウンド上に上面に複数の傾斜板からなるトラップを有する中空体を設置し、この人工リーフの背部から海岸に向かう人工海岸構造物を汀線まで形成することによって背面側の水位上昇がなく、また、沿岸流が形成されない海岸構造としたものである。
このようにすることによって、沿岸流が抑制され砂の流出が防止され汀線の安定が図れ、海岸の利用価値が上昇するのである。
また、人工海岸構造物は養浜や、ボックスカルバートなどの構造物を設置したり、人工リーフから岸側に伸びる突堤等の構造物を構築して平面形状をT型としたものである。
【0007】
人工リーフに進入してきた波は、海底の勾配、または、マウンド等の下段リーフによって増幅され、函体の直立壁部分での急激な水深の減少によって通常の砕波よりも大きな砕波を発生する。更に、この砕波がスリットに突入することにより岸方向への波の伝達率を減少させるので岸側に静穏海域が創り出される。
函体内に突入した砕波は、直立壁に設けた開口を通じて沖側に流れる戻り水流となり、函体内に連行された砂が戻り水流と共に流出し、函体内に砂が堆積することが防止される。更に、この戻り水流によって函体沖側前端の直立壁部分において砕波が発生しやすくなると共に、砕波点が沖側に移動し、砕波がスリットに突入しやすくなるので波浪のエネルギーが効率よく低減され、消波効率が高くなると共に、人工リーフを越えて岸側に伝達される波高は小さくなるので沿岸流の発生が防止されるのである。
【0008】
実施例
図1に示す海底に形成した基礎の上に図2に示す沖側前端下部に開口11と天端にスリット14を有する函体2を設置して人工リーフ1を形成し、人工リーフの背後に砂や砂利を供給して養浜を設けた場合について説明する。
人工リーフ1の設置水深はh1であり、直立壁10の高さR2の函体2を海底に形成した基礎の上に設置した。水面から天端までの深さはRである。
函体2の天端部分には砕波が水表面に突入する際の角度にあわせて傾斜させたスリット板13が間隔をおいて配置され、傾斜したスリット14が形成されている。
【0009】
水面から天端までの深さRは、1.5m以下が消波効率からは望ましい。函体2の岸側には、捨石または消波ブロックが積み上げられ、函体2が波浪によって移動するの防止している。
更に、人工リーフの1の背後の海底には、海底の砂よりも大きな粒径の砂利または砂が養浜4として設置され、海岸レジャーの水域として適当な水深とした。
海岸から20〜30m程度までは急激な水深変化とならないように最大水深2.5mとして海岸からなだらかな傾斜となるようにした。人工リーフ1を越えた波が海底に影響を与えると予測される部分には、砂や砂利の移動を防止するため、大きな石やブロックを設置して防護する。
【0010】
沖合から進行してきた波高H0の波は、函体2の直立壁10に到達すると急激な水深の減少によって砕波が発生する。砕波は、函体2の上面に突入し、斜めのスリット14を通過して函体2内部で減勢され、開口11へ向かう戻り水流を生成するので、函体2内部に連行された砂が開口11から戻り水流と共に流出させられ、函体2内部に砂が堆積することがなく、函体2内の空間が常に維持される。
【0011】
開口11から沖側に向かう戻り水流が生成されるため、生成される砕波の砕波点が沖側に移動し、スリット14に突入しやすくなるので、波浪エネルギーが効率よく減勢される。
函体2の岸側の消波ブロックや捨石は、スリット14で捕捉しきれない波を消波すると共に、函体上部で波から流れへ変換されたエネルギーを低減し、人工リーフ1を通過した波は減衰されるため、人工リーフの背後は静穏海域となると共に、水面の上昇が沿岸流を生起するほどのヘッド差を形成せず、海底との摩擦や海水の粘性によって吸収されるので、沿岸流が形成されず、安定した汀線が得られる。
【0012】
図3に本発明による水位上昇抑制効果を従来の人工リーフと対比して示す観測値と実験値を示す。ηは、水位上昇量であり、添字のwaveは、水位上昇が波によるものであることを示す。なお、水位上昇は、風の吹き寄せや気圧、潮位によっても変動するものである。なお、図3中に示した水位上昇を示す3種類の曲線は、従来型の人工リーフについて公的機関である国土交通省が作成した「人工リーフの設計の手引き」からの引用である(図4参照)。
0は沖波の波高を、L0は沖波の波長をそれぞれ示し、Rは、人工リーフの天端水深を示すものである。
実験は、2.0≦H0≦6.0m、50≦L0≦310mの範囲の波で行った。この範囲内の波浪を2次元水路で造波し、水路内の沖側で計測した波を浅水変形などの解析処理を行って、H0及びL0を算出した。水路内に設置した人工リーフ背後で計測した波を統計処理し、水位変動量の平均値としてηを算出したものである。
【0013】
現地観測は、沖波は離岸距離1500m、水深20mの地点で、また、トラップ式ダブルリーフ型の人工リーフの背後地点で波浪計測を約1ヶ月行い、解析を行った。波浪観測は、毎正時の前後10分間、0.5秒間隔で実施した。沖波の波高及び波長は、2.0≦H0≦6.0m、30≦L0≦300mの範囲内のものであった。
【0014】
観測結果、実験結果共に、上面開放の函体の前端側に開口を形成し、上面に斜めトラップを形成した人工リーフの背後の水位上昇は、従来型の人工リーフに比較して小さく、天端水深を適切に設定することにより、水位上昇を効率よく抑制することができることが判明した。図3から判るように、R/H0を0.3以上、好ましくは、0.5以上とすると効果的であることが判る。
なお、参考のために「人工リーフの設計の手引き」に記載されている従来型の人工リーフの水位上昇の観測結果を図4に示す。結果は、図3に示した従来型人工リーフの水位上昇を示すグラフの曲線と合致するものであった。
【0015】
図5に示す例は、海底にマウンド3を形成してその上に函体2を設置した人工リーフ1の例である。函体2を設置するマウンド3が形成してあり、沖側にマウンド3の天端が一定の長さ設けてあり、沖波はマウンド3の前端の水位変化で砕波を形成し、更に、函体2の直立壁10における急激な水位変化で砕波となって函体2のスリット14を通って突入する。マウンド3がない場合と同様に、函体2で戻り流が形成され、開口11から沖に向かう流れに乗って砂が排出される。
【0016】
岸から沖への水流の発生が抑制されるので、海底の砂の移動が少なくなり海岸の浸食が防止される。また、函体2の底には四角形の穴15を複数設けて、函体2の底面に大きな揚圧力が作用しないようにしてある。
開口11の沖側1〜3mのマウンド3の表面には、根固めブロックが敷設してあり、開口11を通じて沖側に向かう戻り水流の鉛直下向成分による洗掘を防止している。
【0017】
図6に示す例は、捨石マウンド3を構築し、このマウンド3に上面開放の函体2を設置した人工リーフであり、函体2の上面の沖側5m程度は閉塞部19でフラット面が形成してあり、残りが開放部である。函体2の上面開放部には図5の例と同様に進行方向に対し傾斜させたスリット板13が間隔をおいて配置されており、傾斜したスリット14が形成されている。函体2の沖側にフラットな面が形成されており、マウンド3の前端で形成された砕波が確実に傾斜スリット14に導かれ、大きな消波効果が得られると共に、人工リーフ背後の水位上昇が抑制される。
【0018】
図7に示す例は、従来、離岸堤と突堤を組み合わせていたヘッドランド工法において、離岸堤に代えて函体の人工リーフ1を利用したものであり、人工リーフ1と突堤41を組み合わせることによってヘッドランドが海面から突出することがないため景観に悪影響を与えることなく、かつ、工期を短縮化し、低廉な工費で安定した海岸構造を得ることができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
上面開放の函体の沖側前面が直立壁で下端に開口が形成してあり、天端に沖側が高くなるように傾斜させたスリット板を設け、波の進行方向に対して複数の傾斜したスリットを形成した人工リーフの背後に養浜砂等の海岸構造物を形成した海岸構造とすることによって、人工リーフ背後の水位上昇が抑制され、沿岸流の生成が行われないため静穏な海域が得られると共に汀線が安定し、海浜レジャーの海岸構造として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の海岸構造の実施例の断面図。
【図2】本発明の海岸構造の函体の断面図。
【図3】本発明の人工リーフ背面の水位上昇を示すグラフ。
【図4】従来の人工リーフ背面の水位上昇を示すグラフ。
【図5】本発明の海岸構造の他の実施例の断面図。
【図6】本発明の海岸構造の函体の他の実施断面図。
【図7】本発明の海岸構造の他の実施例。
【図8】従来の海岸構造の実施断面図。
【図9】従来の人工リーフの断面図。
【符号の説明】
【0021】
1 人工リーフ
10 直立壁
11 開口
13 スリット板
14 スリット
2 函体
4 養浜
41 突堤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面開放の函体の沖側前面が直立壁で下端に開口が形成してあり、天端に沖側が高くなるように傾斜させたスリット板を設け、波の進行方向に対して複数の傾斜したスリットを形成した人工リーフが水中に設置してあり、人工リーフの背面側に人工海岸構造物が汀線までつながっている海岸構造。
【請求項2】
上面開放の函体の沖側前面が直立壁で下端に開口が形成してあり、天端に沖側が高くなるように傾斜させたスリット板を設け、波の進行方向に対して複数の傾斜したスリットを形成した人工リーフが水中に設置してあり、人工リーフの背面側に養浜を形成した海岸構造。
【請求項3】
上面開放の函体の沖側前面が直立壁で下端に開口が形成してあり、天端に沖側が高くなるように傾斜させたスリット板を設け、波の進行方向に対して複数の傾斜したスリットを形成した人工リーフが水中に設置してあり、人工リーフから岸に向かう突堤が設けてある海岸構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、函体がマウンド上に設置されている海岸構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、函体の沖側上面に閉塞部を設けた海岸構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−9423(P2006−9423A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188503(P2004−188503)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(597097375)
【Fターム(参考)】