説明

水処理方法

【課題】強アルカリ、強酸を使用することなく、また、多量の塩化ナトリウムを使用することなく、軟水給水に比べて大幅にブローによる熱と水のロスを低減した運転を行うことができ、かつCaやMgによる伝熱面でのスケール化を防止するとともに、蒸気凝縮水から持ち込まれる鉄のスケール化も併せて防止することで、伝熱面を清浄に保った水処理を行う。
【解決手段】蒸気凝縮水を給水として回収・再利用する蒸気発生設備において、軟化器を使用せずに、原水を通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置21に通水して得られた処理水と、前記蒸気凝縮水の回収水とを給水として蒸気発生器に供給するとともに、該給水に、分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーを添加する水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ等の蒸気発生プラントの水処理方法に関するものであり、強アルカリや強酸を使用することなく、また、多量の塩化ナトリウムを使用することなく、従来の軟水給水に比べて、ブローによる熱と水のロスを大幅に低減した運転を行うことができ、かつカルシウムやマグネシウムによる伝熱面でのスケール化を防止するとともに、蒸気凝縮水から持ち込まれる鉄のスケール化も併せて防止することで、伝熱面を清浄に保つことができる水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ等の蒸気発生プラントでは、運転圧力が低い場合は、一般に、市水等の水道水や地下水等をナトリウム型陽イオン交換樹脂を充填した軟化器で処理することにより、水中のカルシウムとマグネシウムをナトリウムに置換した軟化水を補給水として使用している。これは、カルシウムやマグネシウムといった硬度成分がボイラ缶内に持ち込まれて伝熱面でスケール化して伝熱を阻害することでエネルギーロスが生じたり、伝熱面が過熱して損傷したりするのを防止するためである。
【0003】
しかし、補給水として軟化水を用いて蒸気発生プラントを運転する場合、軟化器の陽イオン交換樹脂の再生に多量の塩化ナトリウムを使用するという問題があるとともに、軟化器で得られる軟化水中には溶存塩類が多量に含まれているため、蒸気の発生に伴う濃縮により缶水中の塩類濃度が上昇し、缶水が蒸気とともに同伴されるキャリオーバが生じやすくなるため、比較的多量の缶水をブローして濃縮倍率を所定の範囲に維持する必要がある。缶水をブローすることは、補給水が多くなるという水量自体の問題のみならず、ブロー水に同伴して失われる熱量の問題もある。
【0004】
このような状況において、近年、省エネルギーの必要性の高まりから、ブローによって捨てられる熱を削減するために、低圧ボイラの補給水を以下のように処理することで、補給水中の溶存物質を除去し、ブロー水量を削減するケースが増えてきているが、それぞれ以下のような問題点がある。
【0005】
(1) 強塩基性陰イオン交換樹脂と強酸性陽イオン交換樹脂を用いて溶存イオンを除去する方法(非特許文献1)
この方法では、頻繁に強酸と強アルカリでイオン交換樹脂を再生する必要があるという問題点がある。
【0006】
(2) 軟化器で処理した後に逆浸透膜装置で給水の溶存塩類を除去する方法(非特許文献2)
この方法では、従来の軟化器により軟化する方法と同様に、軟化器に充填されている陽イオン交換樹脂の再生に多量の塩化ナトリウムを使用するとともに、逆浸透膜処理において比較的多くの濃縮水が排出さるため、逆浸透膜処理に供する軟化水の使用量が更に増す(従って、塩化ナトリウムの使用量が更に増す)という問題点や、ブローの削減分を差し引いても水の使用量が軟化器のみで処理する場合に比べて多くなるという問題点がある。
【0007】
(3) 逆浸透膜装置で処理した後、イオン交換膜及び直流電源を組み合わせた電気脱塩装置で処理する方法(非特許文献3)
この方法は、得られる処理水は極めて溶存物質が少ない水となるが、装置が非常に大掛かりとなり、高価でもあるという問題点がある。
【0008】
また、ボイラから発生した蒸気の凝縮水を回収して給水として再利用することは、熱と水の回収となるとともに、軟化水を補給する場合においては、給水からボイラに持ち込まれる溶存物質の低減により、ブロー水の削減による更なる省エネルギーにも繋がるが、凝縮水を回収する配管から溶出した鉄がボイラに持ち込まれることで、ボイラ缶内の伝熱面に酸化鉄スケールが付着し、伝熱効率を低下させたり、付着したスケールの下部における腐食トラブルの発生原因となることもある。このため、回収した凝縮水の鉄濃度が高い場合は、給水として再利用できずに排出する場合もある。
【0009】
なお、本発明で用いる通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置は、純水の製造などに適用されており、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置とイオン交換装置で順次処理する脱塩方法も知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−210468号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ボイラーの水管理<知識と応用> 社団法人日本ボイラ協会発行 初版P.146〜176
【非特許文献2】ボイラーの水管理<知識と応用> 社団法人日本ボイラ協会発行 初版P.183
【非特許文献3】ボイラーの水管理<知識と応用> 社団法人日本ボイラ協会発行 初版P.191〜193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のことから、
(i) 従来技術の、多量の塩化ナトリウムや強酸・強アルカリを必要するという問題点や、給水処理において多量の濃縮水が排出されるといった問題点を改善した、低圧ボイラのブロー削減運転を可能とする水処理方法
(ii) 省エネルギー・節水に繋がる蒸気凝縮水の給水としての回収・再利用による熱と水の回収再利用及びブロー削減による省エネルギー運転を、スケール付着によるエネルギーロスや腐食トラブルなどを生じることなく実現する水処理方法
の開発が求められているのが現状である。
【0013】
本発明は、上記(i),(ii)の水処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の適用により、更には、スケール防止剤として分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーを用いることにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0015】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0016】
[1] 原水を、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置及び軟化器の順に通水して得られた処理水を、蒸気発生器に給水することを特徴とする水処理方法。
【0017】
[2] 蒸気凝縮水を給水として回収・再利用する蒸気発生設備において、軟化器を使用せずに、原水を通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置に通水して得られた処理水と、前記蒸気凝縮水の回収水とを給水として蒸気発生器に供給するとともに、該給水に、分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーを添加することを特徴とする水処理方法。
【0018】
[3] [2]において、前記蒸気発生器への給水中のカルシウム量に対して、前記カルボキシル基を有する水溶性ポリマーを1〜5重量倍添加することを特徴とする水処理方法。
【0019】
[4] [2]又は[3]において、前記カルボキシル基を有する水溶性ポリマーが、アクリル酸ナトリウムのホモポリマーであることを特徴とする水処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水処理方法によれば、強塩基性陰イオン交換樹脂と強酸性陽イオン交換樹脂を用いる場合のように、強アルカリ、強酸を使用することなく、また、軟化器のみで処理する場合のように多量の塩化ナトリウムを使用することなく、従来の軟化器のみで処理した軟化水やこれを更に逆浸透膜装置で処理して給水とする場合に比べて、ブローによる熱と水のロスを大幅に低減した運転を行うことができ、かつカルシウムやマグネシウムによる伝熱面でのスケール化を防止するとともに、蒸気凝縮水から持ち込まれる鉄のスケール化も併せて防止することで、伝熱面を清浄に維持し得る水処理を行うことができる。
【0021】
特に、蒸気凝縮水を回収・再利用する場合において、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置のみで処理した処理水に、分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーを添加して蒸気発生器に給水することができ、この場合には、軟化器を不要とすることができ、装置の簡略化と軟化器の再生のための塩化ナトリウムを不要とすることが可能である。この方法においては、蒸気凝縮水とともに持ち込まれる鉄のスケール化を、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置に含まれているカルシウムを共存させると共に、分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーを添加することで、鉄とカルシウムを共にスケール化することなくブローで排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】軟化器の原理を示す模式図であって、(a)図は電圧印加(脱塩)時を示し、(b)図は短絡(排出)時を示す。
【図2】本発明の第1態様に係る水処理方法の実施形態の一例を示す系統図である。
【図3】本発明の第2態様に係る水処理方法の実施形態の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
本発明の第1態様の水処理方法は、原水を、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置及び軟化器の順に通水して得られた処理水を、蒸気発生器に給水することを特徴とする。
この水処理方法では、原水を通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置で処理して原水中のナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオン、及び塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の陰イオンを除去して、原水中のイオンを大幅に低減することができるため、後段の軟化器のイオン負荷を低減し、軟化器の再生に用いる塩化ナトリウム量を大幅に削減することができる。また、ボイラ水中に持ち込まれる塩類の濃度を大幅に低減することができ、これらの溶存塩類に起因する電気伝導率の上昇も大幅に低減させることができ、ブロー水を大幅に削減することができる。また、イオン交換樹脂を用いる場合のような強アルカリや強酸も不要である。
【0025】
本発明の第2態様の水処理方法は、蒸気凝縮水を給水として回収・再利用する蒸気発生設備において、軟化器を使用せずに、原水を通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置に通水して得られた処理水と、前記蒸気凝縮水の回収水とを給水として蒸気発生器に供給するとともに、該給水に、分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーを添加することを特徴とする。
この水処理方法では、軟化器が不要であるため、軟化器の再生のための塩化ナトリウムも不要である。また、ボイラに持ち込まれる塩類濃度は、原水を軟化器のみで処理する場合に比べて大幅に低減されるため、ブローを削減することが可能となり、排出される熱や水、水処理薬品成分が削減され、給水量が減少することで添加する水処理薬品の量も削減される。
この水処理方法では、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の処理水中に含まれるカルシウムと、給水に添加した分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーとで、蒸気凝縮水と共に持ち込まれる鉄のスケール化を防止して、ブロー水中に排出することができる。このため、給水中にカルシウムが存在することが好ましく、従って、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の処理水を軟化器で処理せずに給水する。
【0026】
まず、本発明で用いる通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置について説明する。
通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置とは、間に通液路を挟んで2つの高比表面積の導電体層を有し、これらの導電体層の外側に集電極を配置した構成を有するものであり、集電極に電圧を加えることによって、原水中のイオンを導電体層に電気的に吸着させ、溶存塩類の濃度が減少した処理水を得ることができるように構成されたものである。上記高比表面積の導電体としては、例えば活性炭が好適である。
【0027】
通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置においては、以下に示す処理工程を経て流入水中のイオン性物質が除去される。この処理機構を、流入水に含まれるイオン性物質が塩化ナトリウムであり、前記高比表面積の導電体が活性炭である場合を例にして、図1を用いて説明する。
【0028】
図1(a)に示すように、電圧印加時において、流入水中のナトリウムイオンは陰極側の集電極1に接する活性炭層2に電気的に吸着され、塩化物イオンは陽極側の集電極3に接する活性炭層4に電気的に吸着される。このため、出口から得られる処理水は、塩化ナトリウム濃度が大きく低下したものとなる。通水を長時間続けると、活性炭層2、4に対するイオンの吸着が飽和に近づくため、出口から得られる処理水の塩化ナトリウム濃度が高くなる。そこで、吸着飽和に達する前に陽極側と陰極側とを短絡させるか、あるいは逆転すれば、図1(b)に示すように、活性炭層2,4に吸着されていたナトリウムイオン及び塩化物イオンが脱離し、流入水中の塩化ナトリウム濃度よりはるかに高濃度の塩化ナトリウムを含む流出水が出口より排出される。このときの流速を遅くすれば、少ない流水量で活性炭層2,4に吸着された塩化ナトリウムを排出することができる。
【0029】
本発明では、このような通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置を用いてボイラ給水を製造する。
【0030】
なお、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置は、上述の如く、電極部において脱塩工程と排出工程を繰り返すため、排出工程中は脱塩処理水を得ることができない。連続的に処理水を得る必要がある場合は、複数の通液型電気二重層コンデンサを設置して必要な処理水量が確保できるよう動作時期を制御すればよい。
【0031】
本発明で処理する原水としては、井水、水道水、河川水、工業用水、中水、下水等のあらゆる水が挙げられる。
【0032】
以下に、図2,3を参照して、本発明の第1態様及び第2態様について、それぞれ具体的に説明する。
【0033】
図2は、本発明の第1態様の実施形態を示す系統図である。ここでは、原水はまず通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置11に導入されて処理されることで、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオン、及び塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の陰イオンが除去される。通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置11により、原水中のイオンを少なくとも数十%以上除去することができ、これに続く軟化器12のイオン負荷を数分の一から数十分の一に低減することができる。従って、軟化器12の再生に使用する塩化ナトリウムの量も数分の一から数十分の一に低減することができるとともに、軟水器12の処理水が給水タンク13を介してボイラ14に給水されることにより、ボイラ水中に持ち込まれる塩類の濃度を大幅に低減することができ、これらの溶存塩類に起因する電気伝導率の上昇も大幅に低減させることができる。このため、ブロー水を大幅に削減することが可能となり、ブローによって排出される水と熱が削減されると共に、所定の蒸気を発生するためのボイラへの給水量も減少する。この結果、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置11や軟化器12を処理水量の小さなものにすることができ、軟化器の再生に使用する塩化ナトリウムの量が更に削減されるというメリットが得られる。また、ボイラ14への給水量が減少することで、給水に所定濃度添加する水処理薬品の使用量も削減される。更に、ブローの削減により、ボイラ水の濃縮が上昇するため、ボイラ水中に所定濃度を維持することにより缶内の腐食やスケールを防止する水処理薬品については添加濃度を従来に比べてより低くすることができる。また、給水に分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーを添加することで、給水中にごく微量に含まれる硬度成分のボイラ缶内におけるスケール化を防止し、伝熱ロスやスケール下部における腐食の発生等も抑制した水処理を行うこともできる。
【0034】
第1態様において、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置における水回収率は80〜95%程度で溶存塩類の除去率は70〜90%程度とすることが好ましい。通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の水回収率が低過ぎると原水使用量が増し、高過ぎると溶存塩類を十分に除去しない。通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の溶存塩類の除去率が低過ぎると、後段の軟化器のイオン負荷が大きくなり、軟化器の再生頻度が高くなる。通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の溶存塩類の除去率が高過ぎると、使用電力の増加により経済性が低下する。
【0035】
図3は、本発明の第2態様の実施形態を示す系統図である。ここでは、原水を通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置21に通水して溶存イオンが数分の一から数十分の一に低減された処理水が、軟水器を介することなくそのまま給水タンク22に供給される。この給水タンク22には、回収した蒸気凝縮水(ドレン)も供給される。この給水タンク22の水に、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置21の処理水流量に比例して、分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーを添加してボイラに給水する。本実施形態では軟化器を使用しないため設備がシンプルになるとともに、軟化器の再生用の塩化ナトリウムが不要となる。また、ボイラに持ち込まれる塩類濃度は、原水を軟化器のみで処理する場合に比べて大幅に低減されるため、ブローを削減することが可能となり、排出される熱や水、水処理薬品成分が削減され、給水量が減少することで添加する水処理薬品の量も削減される。また、給水として回収された蒸気凝縮水中に含まれる熱交換器や配管からの溶出鉄は、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置21の処理水中に含まれている硬度成分と、添加された分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーの効果により、効果的にブローで排出され、ボイラ缶内に持ち込まれることによる伝熱面へのスケール付着を効果的に抑制することができる。
【0036】
第2態様において、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置における水回収率は80〜95%程度で溶存塩類の除去率は70〜90%程度とすることが好ましい。通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の水回収率が低過ぎると原水使用量が増し、高過ぎると溶存塩類を十分に除去しない。通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の溶存塩類の除去率が低過ぎるとブロー水量を多くする必要が生じるが、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の溶存塩類の除去率が過度に高いと、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の処理水中のカルシウムによる上記鉄のスケール化防止効果を十分に得ることができない。
従って、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の溶存塩類の除去率を適宜調整することにより、ボイラ給水中のカルシウム濃度が0.1〜10mg−CaCO/L程度となるように、カルシウムを残留させることが好ましい。
【0037】
本発明で使用される分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーとしては、アクリル酸(塩)(以下において「………酸(塩)」は、「………酸及び/又は………酸塩」を意味する。)、マレイン酸(塩)、イタコン酸(塩)、メタクリル酸(塩)等のカルボン酸(塩)のホモポリマーやコポリマー、タポリマー、あるいは2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸(塩)と上記のカルボン酸(塩)とのコポリマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)と上記のカルボン酸(塩)とのコポリマー、ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスフィン酸(塩)、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。なお、上記のカルボン酸、スルホン酸、ホスフィン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。
分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーとしては、なかでもアクリル酸ナトリウムのホモポリマーが最も好適である。
【0038】
分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーの分子量については、過度に大きいとカルシウムとの結合によりゲル化物が生成してストレーナ等を閉塞させる問題が生じ、小さ過ぎると十分な効果を発揮しないことから、通常1000〜100000、特に1500〜50000であることが好ましい。
【0039】
分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーの添加量は、ボイラ給水中のカルシウム濃度に対して0.5〜10倍、より望ましくは1〜5倍の濃度となるように調整するのが良い。上記下限よりも水溶性ポリマーの添加濃度が多くなると、蒸気凝縮水の回収ラインから持ち込まれた鉄の分散効果が低下し、スケールの付着量が増加する。上記上限よりも水溶性ポリマーの添加濃度が少ないと、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の処理水に含まれている硬度成分のボイラ缶内におけるスケール付着の防止効果が不十分となる。
【0040】
本発明においては、上記水溶性ポリマーの他に、水処理薬品として一般的に使用するアルカリ剤(NaOH、KOH、KCO、NaCOなど)や脱酸素剤(ヒドラジン、タンニン、タンニン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)、アスコルビン酸(塩)、グルコースなど)、腐食抑制剤(グルコン酸(塩)、グルコヘプトン酸(塩)、コハク酸(塩)、クエン酸(塩)、酒石酸(塩)など)、りん酸(塩)、重合りん酸(塩)、ホスホン酸(塩)等を本発明の妨げにならない範囲で併用しても良い。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0042】
なお、以下の実施例及び比較例で処理した原水は、下記水質の野木町水である。
<原水水質>
電気伝導率:25mS/m
Mアルカリ度:23mg−CaCO/L
シリカ:18mg/L
Ca硬度:30mg−CaCO/L
Mg硬度:15mg−CaCO/L
【0043】
[比較例1]
野木町水を、陽イオン交換樹脂量18Lの軟化器に通水した処理水を給水タンクに入れ、これに水処理薬品として脱酸素剤のエリソルビン酸ナトリウム30mg/Lとアルカリ剤としてボイラ水中のPアルカリ度がシリカの1.7倍濃度となるNaOH27mg/Lを添加しながら、0.450m/hで実験用ボイラに給水し、圧力0.7MPaにてボイラ水の電気伝導率が300mS/mとなるようにブローしながら10日間運転した。
このときのブロー率は平均で13.5%、蒸発量は0.39トン/hであった。また、試験期間中に軟化器の再生を6回行い、再生に使用した塩化ナトリウムは13.8kgであった。
【0044】
[比較例2]
比較例1において、野木町水を軟化器で処理した後に、逆浸透膜装置に通水して水回収率80%で運転し(このときの溶存塩類の除去率は平均98%)、逆浸透膜装置の処理水を給水タンクに入れ、これに水処理薬品として脱酸素剤のエリソルビン酸ナトリウム30mg/Lと、アルカリ剤としてボイラ水のpHが11.5となりブロー率3.0%で電気伝導率が300mS/mとなるように算出したNaOH19mg/Lを添加しながら実験用ボイラに給水し、圧力0.7MPaにて10日間運転した。
このときの蒸発量は0.39t/hであった。ボイラへの給水量は0.401m/h、原水流量は平均0.501m/hであり、試験期間中に軟化器の再生を7回行い、再生に使用した塩化ナトリウムは16.1kgであった。
【0045】
[実施例1]
野木町水を、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置に通水し、水回収率90%で運転し(このときの溶存塩類の除去率は平均80%)、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の処理水を比較例1と同様に軟化器に通水した処理水を給水タンクに入れ、これに水処理薬品として脱酸素剤のエリソルビン酸ナトリウム30mg/Lとアルカリ剤としてボイラ水中のPアルカリ度がシリカの1.7倍濃度となるNaOH17mg/Lを添加しながら、実験用ボイラに給水し、圧力0.7MPaにてボイラ水の電気伝導率が300mS/mとなるようにブローしながら10日間運転した。
このときのブロー率は平均で3.0%、蒸発量は0.39t/hであった。ボイラへの給水量は0.401m/h、原水流量は平均0.446m/hであり、試験期間中に軟化器の再生を1回行い、再生に使用した塩化ナトリウムは2.3kgであった。
【0046】
上記の比較例1,2及び実施例1の結果から、次のことが分かる。
即ち、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置と軟化器で処理した実施例1では、軟化器のみで処理した比較例1に比べて水の使用量は約1m、塩化ナトリウムの使用量は11.5(=13.8−2.3)kg削減され、燃料のA重油の使用量も2.5%削減された。また、実施例1では、軟化器と逆浸透膜装置で処理した比較例2に比べて水の使用量は132(=(0.501−0.446)×24×10)m、塩化ナトリウムの使用量は13.8(=16.1−2.3)kg削減された。燃料使用量は同等であった。
【0047】
[実施例2〜7]
野木町水を、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置に通水し、水回収率90%で運転し(このときの溶存塩類の除去率は平均80%)、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の処理水を軟化器で通水して水中のCaイオン及びMgイオンをNaイオンに置換してから容量10Lの給水タンクに入れた。また、この給水タンクに、蒸気凝縮水の給水タンクへの回収水を模擬して、90℃に加熱した純水に回収ラインにおける鉄の溶出を想定して鉄濃度が2mg/Lとなるように塩化第二鉄を添加したものを4L/hで供給した。この給水タンクからの給水に水処理薬品として腐食抑制剤のコハク酸を10mg/L、表1に示す水溶性ポリマーを表1に示す添加濃度で、また、アルカリ剤としてボイラ水中のPアルカリ度がシリカの1.7倍濃度となるNaOH13mg/Lを添加しながら、容量5Lのステンレス製テストボイラに給水し、圧力0.7MPa、蒸発量8L/h、ブロー率5%で運転した。
1週間連続運転した後に停止して伝熱チューブ(ステンレス製、表面積200cm×3本)を取り出したところ、多量の赤褐色スケールの付着が認められたため、掻き取って付着量を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例8〜19]
実施例2において、軟化器を取り除き、水溶性ポリマーとして表1に示した水溶性ポリマーを表1に示す添加濃度で添加した他は同様の条件で運転し、同様に1週間連続運転した後の伝熱チューブの付着量を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
実施例1〜17において、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の処理水中のカルシウム濃度は6mg−CaCO/Lであり、この通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の処理水を更に軟化器で処理して上記凝縮水の回収水の模擬水と共にボイラ給水とした実施例2〜7では、ボイラ給水のカルシウム濃度は0.1mg−CaCO/L未満であった。また、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置の処理水を軟化器で処理せずに上記凝縮水の回収水の模擬水と共にボイラ給水とした実施例8〜19では、ボイラ給水中のカルシウム濃度は3mg−CaCO/Lであった。
実施例2〜19におけるボイラ給水のカルシウム濃度に対するポリマー添加濃度比は表1に示す通りである。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の実施例2〜19の結果から、蒸気凝縮水を回収して再利用する場合において、軟化器を用いずに、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置のみで、分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーの所定量を添加することにより、スケール障害を防止して安定運転を継続することができることが分かる。
【符号の説明】
【0052】
1 陰極側集電極
2 陰極側活性炭層
3 陽極側集電極
4 陽極側活性炭層
11,21 通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置
12 軟化器
13,22 給水タンク
14,23 ボイラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を、通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置及び軟化器の順に通水して得られた処理水を、蒸気発生器に給水することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
蒸気凝縮水を給水として回収・再利用する蒸気発生設備において、軟化器を使用せずに、原水を通液型電気二重層コンデンサ脱塩装置に通水して得られた処理水と、前記蒸気凝縮水の回収水とを給水として蒸気発生器に供給するとともに、該給水に、分子内にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーを該給水に添加することを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項2において、前記蒸気発生器への給水中のカルシウム量に対して、前記カルボキシル基を有する水溶性ポリマーを1〜5重量倍添加することを特徴とする水処理方法。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記カルボキシル基を有する水溶性ポリマーが、アクリル酸ナトリウムのホモポリマーであることを特徴とする水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−63364(P2013−63364A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201947(P2011−201947)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】