説明

水処理施設用可動式覆蓋

【課題】強風時の覆蓋本体の横転や吹飛びを防止可能な耐風性の高い水処理施設用可動式覆蓋を提供する。
【解決手段】一定の方向に走行し、水処理施設の水槽又は水路の上部に形成された開口31の上部を閉塞可能な大型覆蓋2及び小型覆蓋3と、レール6とを有した水処理施設用可動式覆蓋1において、レール6のレール本体の上部に係止部材55を形成する。そして、常時、又は大型覆蓋2及び小型覆蓋3が特定の場所へと移動したときに、大型覆蓋2及び小型覆蓋3の一部を係止部材55の下部へ位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪等の移動手段を備えた水処理施設用可動式覆蓋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理施設には施設の目的や用途に応じて覆蓋が設けられている。例えば、浄水施設における水槽等(ろ過池など)の覆蓋は、主に水槽内における藻類の発生防止や、異物混入防止、安全対策(テロ防止)等を目的として設置されている。また、下水処理施設における水槽等(沈砂池など)の覆蓋は、主に防臭や水槽内への転落防止を目的として設置されている。
【0003】
この種の覆蓋は、水槽内の状態(濾過状態や沈殿状態)を確認する場合や、水槽内部の保守点検を行う場合、あるいは一般の見学者が水処理施設内を見学する場合などに開放する必要がある。特に、見学者が施設内を見学する場合には、対象となる水槽等が一時的に開放されるだけなので、覆蓋は容易に開閉できる構成が望ましい。そこで、覆蓋に可動用の車輪のような移動手段を設けて適宜可動させる技術(可動式覆蓋)が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1の覆蓋は、覆蓋本体に車輪が配され、水槽の1対の開口側面に沿って配されたL型鋼を用いたレール部材に沿って覆蓋本体を移動させることが可能な構成とされている。具体的には、レール部材が垂直部と水平部を有し、垂直部の外側(レール部材に対して水槽側を内側とする)に覆蓋の車輪を配置して、その車輪が水平部の上を転がる構成とされている。
【0005】
一方、保守点検を行う場合には、対象となる水槽等に覆われた覆蓋を全て外すことが望ましいとされている。そのため、通常、水処理施設においては、比較的安価な固定式の覆蓋が多数採用されている。なお、固定式とは、覆蓋が移動できないように、ボルト等の固定手段を用いて構造物(床面等)に固定する方式である。
従って、最近の水処理施設においては、可動式の覆蓋と、固定式の覆蓋が混在して配されているのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−24716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、屋外に設置された覆蓋は雨風に晒される状態にあるため、台風が接近する等の理由によって暴風、強風が発生すると、強い風に煽られてしまう。
このとき、床面等にボルトで固定した固定式の覆蓋とは異なり、可動式覆蓋は床面等に強力に固定していない場合がある。この場合、強い風に煽られた覆蓋が転倒してしまい、横倒しになったり、裏返ったりするおそれがあった。
【0008】
そこで本発明は、従来技術のこのような問題に鑑み、強い風に煽られた場合の転倒及び吹飛びを防止可能な、耐風性の高い水処理施設用可動式覆蓋を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、水槽又は水路の上部に形成された開口を覆って閉塞可能な覆蓋本体と、覆蓋本体の移動方向を一定の方向にガイドするガイド手段とを有した水処理施設用可動式覆蓋であって、ガイド手段は長尺状の立設部を有し、当該立設部は天地方向(鉛直方向)の成分を含む方向に立設され、開口縁に沿って延伸されるものであって、立設部に、板状の係止部材が水平方向に突出状に取り付けられ、覆蓋本体は、その一部が前記係止部材に下方から当接した状態、あるいはその一部が前記係止部材の下方に僅かな間隔をもつように配置された状態で、一定方向に移動可能に構成されていることを特徴とする水処理施設用可動式覆蓋である。
【0010】
本発明の水処理施設用可動式覆蓋では、覆蓋本体の移動方向を一定の方向にガイドするガイド手段が板状の係止部材を備えており、覆蓋本体の一部を係止部材の下部へ位置させることができる構成となっている。このことにより、強風によって覆蓋本体が吹き上げられても、係止部材が覆蓋本体の天地方向上方への移動を阻止するため、覆蓋本体が吹飛んだりすることがない。また、係止部材が覆蓋本体の浮き上がりを防止するため、覆蓋本体の横転を防止できる。つまり、覆蓋本体の耐風性を強くすることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記覆蓋本体は、側方に突出状の突設された突出板部を有し、前記突出板部が前記係止部材の下方から当接あるいは前記突出板部が前記係止部材の下方に僅かな間隔をもつように配置されることを特徴とする請求項1に記載の水処理施設用可動式覆蓋である。
【0012】
かかる構成によると、覆蓋本体から外部に向かって突出した突出板部が係止部材の下部へ位置するので、覆蓋本体の全体又は一部が浮き上がったとき、突出板部と係止部材とが当接し易い位置にある。したがって、覆蓋本体が強風に煽られて姿勢が傾いたり、上方へ浮き上がったりすると、突出板部と係止部材とが確実に当接し、覆蓋本体の全体又は一部の上方への移動を阻止する。即ち、強風時の覆蓋本体の横転や吹飛びをより確実に阻止することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記係止部材と、係止部材の下方に位置する覆蓋本体の一部とを固定する固定手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理施設用可動式覆蓋である。
【0014】
かかる構成によると、係止部材に覆蓋本体を強固に固定できるため、覆蓋本体の横転や吹飛びをより確実に防止することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記固定手段は、係止部材及び覆蓋本体の一部にそれぞれ形成された貫通孔又は有底穴と、これらに挿通される棒状部材とを具備することを特徴とする請求項3に記載の水処理施設用可動式覆蓋である。
【0016】
かかる構成によると、比較的簡易な構成で固定手段を作成できるため、製造コストが飛躍的に増加することがなく、耐風性の高い水処理施設用可動式覆蓋を安価に提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、係止部材が覆蓋本体の天地方向上方への移動を阻止するため、強風時の覆蓋本体の横転や吹飛びを防止できるという効果がある。このことにより、耐風性の高い水処理施設用可動式覆蓋を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る可動式覆蓋を水槽上に配した状態を示す斜視図である。
【図2】図1の状態から小型覆蓋を移動して水槽の開口部を開放した状態を示す斜視図である。
【図3】図1の可動式覆蓋を示す斜視図である。
【図4】図3の可動式覆蓋のA方向矢視図である。
【図5】図1をA方向からみた正面図である。
【図6】図5のA部分を拡大した部分拡大図である。
【図7】図3の可動式覆蓋をB方向からみた側面図である。
【図8】図7の可動式覆蓋のボルト受け部材を示す斜視図である。
【図9】図3のC部分を拡大した部分拡大図である。
【図10】図1のレールを示す斜視図である。
【図11】図10のレールの分解斜視図である。
【図12】図1の可動式覆蓋のB部分を拡大した一部破断斜視図である。
【図13】図12をA−A面で切断した断面斜視図である。
【図14】図13のA方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、特に断りがない限り、上下左右の関係は図面を基準とする。
【0020】
本実施形態の可動式覆蓋(水処理施設用可動式覆蓋)1は、図1、2に示すように、水処理施設(下水処理場や浄水場等)における水槽30の開口部31の上側に配されるもので、大きさの異なる複数の可動式の覆蓋によって構成されている。本実施形態の可動式覆蓋1は、大型覆蓋2と、その大型覆蓋2より小さい小型覆蓋3を有している。そして大型覆蓋2及び小型覆蓋3は、それぞれ複数の走行用車輪部材4(図3参照)を備えており、それぞれ別のレール6(ガイド手段)上を独立して一定の方向に移動が可能である。
【0021】
この可動式覆蓋1は、図1に示すように、大型覆蓋2と小型覆蓋3とを隣り合う位置に直列に配することにより、水処理施設における水槽30の開口部31(開口)を覆って蓋をすることが可能である。即ち、可動式覆蓋1によって開口部31を覆われた状態では、異物等が水槽30内に落下することを防止できる。さらに、水槽30から異臭が発生しても周囲に拡散することを防止できる。
【0022】
また、本実施形態の可動用覆蓋1は、図2のように大型覆蓋2の下部に小型覆蓋3を移動させて、水槽30の一部を開放した状態にすることができる。これにより、水処理施設における水槽30の内部の状態を確認したり、清掃したりすることができる。
【0023】
大型覆蓋2は、図3,4に示すように、大型覆蓋本体7と、取付用部材9と、走行用車輪部材4と、ガイド用車輪部材10と、ボルト受け部材11(図7,図9参照)を備えている。
大型覆蓋本体7は、繊維強化樹脂(例えば、商品名「エスロンネオランバー FFU」積水化学工業株式会社製)でその一部又は全体を形成されている。そのため、金属製の覆蓋等に比べて耐腐食性が高いという利点がある。またさらに、軽量化と同時にたわみ等に対する剛性を高くすることができるという利点もある。
【0024】
また大型覆蓋本体7は、図3,4に示すように、下側が開放された略箱状の蓋体であって、天面部21、2つの側面壁部22、前面壁部23、後面壁部24から形成されている。詳説すると、天面部21は略切妻屋根状であって、天面部21の下面から2つの側面壁部22、前面壁部23、後面壁部24がそれぞれ下方に向けて垂設されている。このとき、2つの側面壁部22は、天面部21の梁間方向の両端部近傍からそれぞれ垂設され、対向する位置にある。また前面壁部23と後面壁部24は、天面部21の桁行方向の両端部近傍からそれぞれ垂設されて対向する位置にある。そして、前面壁部23及び後面壁部24と、2つの側面壁部22とはそれぞれ略垂直に交わっており、2つの側面壁部22の対向する内側面を繋ぐように、前面壁部23、後面壁部24が設けられている。
つまり大型覆蓋本体7は、図3で示すように、天面部21と、2つの側面壁部22と、前面壁部23と、後面壁部24とによって囲まれた大型覆蓋空間32を有し、この大型覆蓋空間32は、天面部21に対向する側が開放された蓋体となっている。
【0025】
また図3、4に示すように、前面壁部23は後面壁部24に比べて天面部21からの垂設長さが短くされている。具体的には、図3に示すように、前面壁部23の下方に開口状の開放部26が設けられており、外部と大型覆蓋空間32を連通している。つまりこの開放部26は、前面壁部23を厚さ方向に貫通するものであって、天面部21よりに位置する開口形状が三角形の部分と、下方側に位置する開口形状が四角形の部分とが連続している。したがって大型覆蓋本体7においては、下面側の開放部に加えて、前面壁部23側の開放部26でも大型覆蓋空間32に連通している。
【0026】
取付用部材9は、図3,4に示すように、2つの側面壁部22の下端側にそれぞれ取り付けられており、後述する走行用車輪部材4やガイド用車輪部材10の一部が接続される部材である。具体的には、取付用部材9は断面形状がL字型の長尺状の部材(本実施形態ではL型鋼を使用)であり、側面壁部22と接続された取付部27と、側面壁部22から外側に向かって張り出した張出部28(突出板部)を有している。そして、この張出部28の長手方向の中心近傍に切り欠き溝29(図3,図9参照)が形成されている。
切り欠き溝29は、張り出し方向先端側から張り出し方向基端側に向かって延びる切り欠きである。この切り欠き溝29は張出部28の表面と裏面に開口を有しており、張出部28を天地方向(厚さ方向)に貫通している。このとき、切り欠き溝29の開口形状はいずれも略U字状であり、延び方向先端側の部分に位置する半円状の部分と延び方向基端側に位置する長方形状の部分から形成されている。
【0027】
走行用車輪部材4は、図3,図4に示すように、1つの大型覆蓋本体7に対して4つ設けられており、車輪15と、車輪15の回転軸を備えた車輪保持部材16とによって構成されている。即ち、車輪15は、車輪保持部材16に対して相対的に回転可能に取り付けられており、車輪保持部材16を介して、取付用部材9の張出部28の下方に固定されている。そして車輪15の回転軸は、図5,図6に示すように、大型覆蓋本体7の側面壁部22に対して略垂直に延びている。つまり、この車輪15の回転軸は水平軸となっている。
【0028】
ガイド用車輪部材10は、図3,図4に示すように、1つの大型覆蓋本体7に対して4つ設けられている。そしてガイド用車輪部材10は、図7で示すように車輪17と、車輪17の回転軸を備えたガイド車輪保持部材18とによって構成されている。そして、車輪17は、ガイド車輪保持部材18に対して相対的に回転可能に取り付けられており、ガイド車輪保持部材18を介して、取付用部材9の張出部28の下方に固定されている。そして車輪17の回転軸は、張出部28の表面及び裏面に対して略垂直に延びている。つまり、この車輪17の回転軸は垂直軸となっている。
【0029】
ボルト受け部材11は、図7に示すように、取付用部材9の下面に取付けられており、図8に示すように、断面形状がL字型の部材(本実施形態ではL型鋼を使用)でとなっている。このボルト受け部材11は、共に長方形板状の天板部45と側板部46から形成されている。このとき側板部46は、天板部45の端部から略垂直に垂下されており、天板部45は張出部28の裏面と接続されている。ここで天板部45には、天板部45を厚さ方向(天地方向)に貫通する、ボルト取付け用貫通孔47が形成されており、このボルト取付け用貫通孔47の内周面にはネジ山が形成されている。
【0030】
ここで、大型覆蓋2の組み立て構造について説明する。
大型覆蓋本体7の2つの側面壁部22には、図3,図4に示されるように、それぞれの下端側に図示しないボルト等の固定手段によって取付用部材9が取り付けられている。具体的には、取付用部材9の取付部27が側面壁部22に取り付けられており、張出部28は、側面壁部22に対してほぼ直交方向へ突出している。換言すると、大型覆蓋2の外側に向かって板状の張出部28が突出している。
【0031】
そして、図7で示されるように、取付用部材9の張出部28の下面であって、取付用部材9の長手方向の両端近傍には、それぞれ2つの走行用車輪部材4が取り付けられている。そして、取付用部材9の長手方向において、走行用車輪部材4よりやや中心よりの位置にガイド用車輪部材10が取付けられている。このとき走行用車輪部材4の車輪15は、図3乃至図6で示されるように、大型覆蓋本体7の側面壁部22より下方にその一部が突出している。そしてガイド用車輪部材10の車輪17は、その一部が張出部28の張り出し方向の先端部分から外側へ突出した状態となっている。
なお大型覆蓋2には、2つの側面壁部22に取付用部材9が取り付けられているため、合計4つの走行用車輪部材4と、合計4つのガイド用車輪部材10が取り付けられている。
【0032】
また取付用部材9の張出部28の下面には、図7で示されるように、取付用部材9の長手方向の中心近傍にボルト受け部材11が取付けられている。このとき、図9で示されるように、張り出し部28の切り欠き溝29とボルト受け部材11のボルト取付け用貫通孔47の開口は重なり合っており、切り欠き溝29からボルト取付け用貫通孔47の開口の全面が露出した状態となっている。即ち、切り欠き溝29とボルト取付け用貫通孔47は連通孔を形成している。
【0033】
次に小型覆蓋3について説明する。なお、以下の説明においては、大型覆蓋2と共通する部材については説明を省略し、同じ番号を使用する。
小型覆蓋3は、図3,4に示されるように、小型覆蓋本体8(覆蓋本体)に取付用部材12を介して走行用車輪部材4と、ガイド用車輪部材10と、ボルト受け部材11を取付けたものである。
【0034】
小型覆蓋本体8は、大型覆蓋2の大型覆蓋本体7と同様に、下側が開放された略箱状の蓋体であって、図3,図4に示すように、天面部34、2つの側面壁部35、前面壁部36、後面壁部(図示せず)により形成されるものである。
ここで、小型覆蓋3の小型覆蓋本体8と大型覆蓋2の大型覆蓋本体7を比較すると、小型覆蓋本体8の天面部34は、大型覆蓋本体7の天面部21に比べて、全体的に小型である。具体的には、図3,図4に示すように、小型覆蓋本体8の走行方向(長手方向)の長さは大型覆蓋本体7の走行方向(長手方向)の長さとほぼ同じであり、高さ及び幅が大型覆蓋本体7の高さ及び幅より小さい。より具体的に説明すると、図5で示されるように、小型覆蓋3全体の幅Wは、大型覆蓋2の開放部26の幅より小さくされている。そして、小型覆蓋3の最頂部分は、大型覆蓋2の開放部26の最頂部分より低い位置にある。
【0035】
また、小型覆蓋本体8の前面壁部36は、大型覆蓋本体7の前面壁部23のように開放部26に当たる部分がない。即ち、小型覆蓋本体8の前面壁部36は、後面壁部(図示せず)と略同形状となっている。換言すれば、小型覆蓋本体8においては、下側に形成された開放部のみが、天面部34と、2つの側面壁部35と、前面壁部36と、後面壁部(図示せず)とによって囲まれた図示しない小型覆蓋空間と連通している。
【0036】
そして図3,図4に示すように、小型覆蓋本体8の2つの側面壁部35にもそれぞれの下端側に図示しないボルト等の固定手段によって取付用部材12が取り付けられている。
小型覆蓋本体8の取付用部材12は、図5,図6で示されるように、断面形状がL字型の長尺状の部材(本実施形態ではL型鋼を使用)を2本組み合わせたものであり、組み合わせた断面形状がT字型となっている。つまり取付用部材12は、長尺板状の取付部63と、取付部63の短手方向における略中心部分から突出する張出部64を有している。そして、取付部63は小型覆蓋本体8の側面壁部35と接続されており、張出部64は側面壁部35側から外側に向かって張り出している。換言すると、小型覆蓋本体8の取付用部材12は、取付部63の鉛直方向中央に張出部64が位置する構成とされている。なお、図3で示されるように、この取付用部材12の張出部64における長手方向の中心部分にも切り欠き溝29が形成されている。なおこの切り欠き溝29の形状は、大型覆蓋2の取付用部材9に形成された切り欠き溝29と略同形状であるため、詳細な説明を省略する。
【0037】
次に小型覆蓋3の組み立て構造について説明する。
小型覆蓋本体8の2つの側面壁部35には、それぞれの下端側に図示しないボルト等の固定手段によって取付用部材12が取り付けられている。具体的には、取付用部材12の取付部63が側面壁部35に取り付けられている。このとき、取付部63の下端と側面壁部35の下端が略同じ高さにあるため、張出部64は、側面壁部35の下端のやや上方から側面壁部35に対してほぼ直交方向へ突出している。つまり、板状の張出部64が小型覆蓋3の外側に向かって突出している。
なお、取付用部材12の張出部64の下部における各部材の位置関係は、前記した大型覆蓋2の張出部28の下部における各部材の位置関係と略同じであるため説明を省略する。
【0038】
次にレール6について説明する。
レール6は、図1で示されるように長尺状のL型鋼によって形成されるレール本体49を直接又は固定用部材67を介して床面に固定する。
レール本体49は、図10に示されるように、共に長方形板状の立設部50と平面部51を有している。そして、平面部51が床面と平行に配された状態で床面に対して固着され、平面部51の短手方向の片側端部(以下外側端部とし、対になる短手方向の端部を内側端部とする)から立設部50が上方へ突出している。
なお立設部50は、平面部51の上面51aと連続する面である内側面50aと、内側面50aと対向する位置にある外側面50bとを有している。そして立設部50の外側面50bには、2つの係止部材用固定部材54が長手方向に間隔をおいて取付けられており、この2つの係止部材用固定部材54を介してレール6に係止部材55が取付けられている。
【0039】
係止部材用固定部材54は、高ナット57、高さ調整部材58、取付け用ボルト59から形成されている。
高ナット57は、立設部50の外側面50bにその側面を溶接されて一体的に固定されている。このとき、高ナット57の長手方向が立壁部50の突出方向に沿うように取付けられている。
高さ調整部材58は、図11に示されるように、上面から下面までを貫通する貫通孔を有する円筒状の部材である。この高さ調整部材58は、図10に示されるように、高ナット57の上面に載置された状態で取付けられるものであり、このとき高さ調整部材58の下面と高ナット57上面とが接触した状態となる。
取付け用ボルト59は、従来公知のボルトであって、係止部材55及び高さ調整部材58を貫通し、高ナット57と螺合している。
【0040】
係止部材55は、図11で示されるように、長方形板状の部材であって、その表面から裏面を貫通する3つの貫通孔を有している。具体的には、係止部材55の短手方向の片側端部の近傍であって、長手方向の両端部分の近傍に2つの取付け用貫通孔60が形成されている。また、係止部材55の短手方向の片側端部の近傍であって、長手方向の中心部分の近傍に固定用貫通孔61が形成されている。また、この固定用貫通孔61の内周面にはネジ山が形成されており(図示せず)、ボルト62(棒状部材)が螺着されている。
なおボルト62は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、デンデンボルト(蝶番ボルト、ロットボルト)を使用している。ここでデンデンボルトとは、ボルトの頭部がリング状のボルトであり、所謂アイボルトに比べて頭部の輪形状部分の径が小さくなっている。
【0041】
次に本実施形態の可動式覆蓋1の動作について説明する。
本実施形態の可動式覆蓋1は、大型覆蓋2と小型覆蓋3の少なくとも一方をレール6の長手方向に沿って走行させることにより、水処理施設等の水槽30を開閉するものである。即ち、施設の管理者などが可動式覆蓋1の車輪15の走行方向に外力等を加えることにより、図1,図2に示すように、大型覆蓋2や小型覆蓋3を水槽30に対して相対的に移動させることができる。
【0042】
具体的に説明すると、図1,図2で示されるように、水処理施設等の開口部31の縁部分近傍に2つのレール6が隣り合う位置に配されている。そして、この2つのレール6は高さの異なる位置に配されており、開口部31から遠い位置にあるレール6が、開口部31に近接した位置にあるレール6より高い位置にある。そして、開口部31に近接した位置にあるレール6には小型覆蓋3が載置されており、開口部31から遠い位置にあるレール6には大型覆蓋2が載置されている。
このとき、図6で示されるように、大型覆蓋2と小型覆蓋3はそれぞれ走行用車輪部材4の車輪15がレール6の平面部51上に載置された状態となっている。そして、レール6の平面部51上で走行用車輪部材4の車輪15が回転することにより、大型覆蓋2と小型覆蓋3はレール6上を走行する。
【0043】
また本実施形態では、大型覆蓋2と小型覆蓋3にそれぞれガイド用車輪部材10が取付けられており、大型覆蓋2と小型覆蓋3を一定の方向に走行させることが可能となっている。
具体的に説明すると、仮に何らかの原因によって、大型覆蓋2又は小型覆蓋3が本来の走行方向に対して斜め方向に進んでしまい、レール6に近付いて行くと、ガイド用車輪部材10の車輪17が、レール6の立設部50の内側面50aと接触した状態となる。このとき、大型覆蓋2又は小型覆蓋3が更に斜め方向に進んでも、車輪17が立設部50の内側面50aと接触したまま回転することにより、大型覆蓋2又は小型覆蓋3のレール6の長手方向に沿う方向への走行は妨げられることがない。そのため、大型覆蓋2又は小型覆蓋3は、本来の走行方向であるレール6の長手方向に沿う方向へ円滑に移動することができる。
【0044】
ここで、可動式覆蓋1が強風に煽られた場合について考察する。
本実施形態の可動式覆蓋1は、図5,図6,図12で示されるように、大型覆蓋2の取付用部材9の一部である張出部28と、大型覆蓋2の小型覆蓋3の一部である張出部64とがそれぞれ係止部材55の下部側に位置している。具体的には、図1で示されるように、可動式覆蓋1が閉塞状態のとき、大型覆蓋2及び小型覆蓋3の各張出部28,64は係止部材55の下部側に位置する。そして、図2で示されるように、可動式覆蓋1が開放状態のとき、小型覆蓋3の外側に位置する大型覆蓋2の張出部28のみが係止部材55の下部側に位置している。
【0045】
さらに具体的には、図12に示されるように、係止部材55はレール本体49の上方に位置するものであり、より詳細には、レール本体49の長手方向の全域の内、特定の一部分の上方を覆うように設けられている。
このとき、図13,図14で示されるように、係止部材55と、大型覆蓋2の張出部28と、レール6の平面部51とは平行な位置に配されている。ここで、係止部材55は、レール本体49の立設部50側から大型覆蓋2側へ突出している。加えて、大型覆蓋2の張出部28は、大型覆蓋2側から立設部50側へと突出している。つまり、係止部材55と張出部28は水平方向において逆向きに突出している。
さらにこのとき、図13,図14で示されるように、係止部材55の下面の一部と張出部28の上面の一部とが鉛直方向で重なった位置にある。そして、係止部材55の下面と張出部28の上面の間には僅かな隙間が形成されている。
なお、僅かな隙間とは5mm以内の間隔であることが望ましい。
【0046】
このような可動式覆蓋1では、大型覆蓋2又は小型覆蓋3が風に煽られて鉛直方向上側へ移動した場合や、大型覆蓋2又は小型覆蓋3の端部が浮き上がってしまった場合、大型覆蓋2又は小型覆蓋3と共に取付用部材9,12が上方へ移動する。このとき、取付用部材9,12の張出部28,64が係止部材55の下部側に位置していると、取付用部材9,12の上方への移動に伴って、張出部28,64の上面が係止部材55の下面と接触する。このことにより、大型覆蓋2又は小型覆蓋3の上方への移動、又は大型覆蓋2又は小型覆蓋3の端部の浮き上がりが阻止される。
【0047】
さらに本実施形態では、取付用部材9,12の張出部28,64が係止部材55の下部側に位置しているとき、ボルト62によって係止部材55と張出部28,64を固定することができる。具体的には、図13,図14示されるように、ボルト62が係止部材55と、張出部28,64を貫通した状態で張出部28,64の下部にあるボルト受け部材11と螺着する(固定手段)。そのことにより、取付用部材9,12と一体の大型覆蓋2又は小型覆蓋3が、係止部材55に強力に固定されるため、大型覆蓋2又は小型覆蓋3の上方への移動、又は大型覆蓋2又は小型覆蓋3の端部の浮き上がりをより確実に阻止することができる。
【0048】
上記した実施形態では、大型覆蓋2が走行するレール6と、小型覆蓋3が走行するレール6にそれぞれ1つずつ係止部材55を取付ける構成としたが、本発明の水処理施設用可動式覆蓋はこれに限るものではない。それぞれのレール6に複数の係止部材55を設けても構わない。また、係止部材55を2つの係止部材用固定部材54でレール本体49に取付ける構成としたが、1つの係止部材用固定部材54で取付ける構成としてもよく、3つ以上の係止部材用固定部材54で取付ける構成であってもよい。
【0049】
上記した実施形態では、係止部材用固定部材54に高ナット57、高さ調整部材58、取付け用ボルト59を用いる構成としたが、本発明の水処理施設用可動式覆蓋はこれに限るものではない。例えば、高ナットと取付け用ボルトのみを用いる構成であってもよい。即ち、上記した実施形態より長い高ナットを採用し、高ナットの上面がレール本体49の立設部50の上端面より上側に位置するように設けても良い。
しかしながら、上記した実施形態のような構成によると、高さ調整部材58及び取付け用ボルト59の長さを変更することによって、係止部材55の床面からの高さを変更することができ、より望ましい。
【0050】
上記した実施形態では、係止部材55がレール本体49の立設部50の上端面より上側に位置しているが、本発明の水処理施設用可動式覆蓋はこれに限るものではない。例えば、係止部材55の下面と立設部50の上端面が当接するような構成であっても構わない。この場合、レール6の立設部50の高さをより高いものとしてもよい。
【0051】
また上記した実施形態では、係止部材55をレール本体49の長手方向の全域の内、特定の一部分の上方を覆うように取付ける構成としたが、本発明の水処理施設用可動式覆蓋はこれに限るものではない。例えば、長尺状の係止部材を採用し、レール本体49の長手方向の全域の上方を覆うように取付ける構成であっても構わない。
【0052】
上記した実施形態では、ボルト受け部材11を断面形状がL字型の部材としたが、本発明の水処理施設用可動式覆蓋で使用するボルト受け部材11はこれに限るものではない。例えば、長方形平板状のような板状の部材であってもかまわない。また、本発明の水処理施設用可動式覆蓋は、ボルト受け部材11を用いない構成であってもよい。取付用部材9,12の張出部28,64に直接ネジ孔を設ける構成であってもよい。
【0053】
加えて、上記した実施形態では、係止部材55には固定用貫通孔61を設け、大型覆蓋2及び小型覆蓋3のボルト受け部材11にはボルト取付け用貫通孔47を設けて、これらの内周面にネジ山を設けた構成としている。即ち、係止部材55側と覆蓋側の両方にネジ孔を有する構成としている。しかしながら、本発明の水処理施設用可動式覆蓋の構成はこれに限るものではない。係止部材55側と覆蓋側のいずれか一方にのみネジ孔を有する構成であってもよく、いずれにもネジ孔を有さない構成であってもよい。つまり、係止部材55側と覆蓋側のいずれか一方はネジ山を有さない貫通孔であって、これらをボルトで固定する構成であってもよい。また、ネジ山を有さない2つの貫通孔に棒状又は鉤状の部材を挿通し、大型覆蓋2及び小型覆蓋3を係止部材55に固定する構成であってもよい。つまり、大型覆蓋2及び小型覆蓋3を係止部材55に固定できればよい。
【符号の説明】
【0054】
1 可動式覆蓋(水処理施設用可動式覆蓋)
6 レール(ガイド手段)
7 大型覆蓋本体(覆蓋本体)
8 小型覆蓋本体(覆蓋本体)
28 張出部(突出板部)
31 開口部(開口)
47 ボルト取付け用貫通孔
50 立設部
55 係止部材
61 固定用貫通孔(貫通孔)
62 ボルト(棒状部材)
64 張出部(突出板部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽又は水路の上部に形成された開口を覆って閉塞可能な覆蓋本体と、覆蓋本体の移動方向を一定の方向にガイドするガイド手段とを有した水処理施設用可動式覆蓋であって、
ガイド手段は長尺状の立設部を有し、当該立設部は天地方向の成分を含む方向に立設され、開口縁に沿って延伸されるものであって、
立設部に、板状の係止部材が水平方向に突出状に取り付けられ、
覆蓋本体は、その一部が前記係止部材に下方から当接した状態、あるいはその一部が前記係止部材の下方に僅かな間隔をもつように配置された状態で、一定方向に移動可能に構成されていることを特徴とする水処理施設用可動式覆蓋。
【請求項2】
前記覆蓋本体は、側方に突出状の突設された突出板部を有し、
前記突出板部が前記係止部材の下方から当接あるいは前記突出板部が前記係止部材の下方に僅かな間隔をもつように配置されることを特徴とする請求項1に記載の水処理施設用可動式覆蓋。
【請求項3】
前記係止部材と、係止部材の下方に位置する覆蓋本体の一部とを固定する固定手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理施設用可動式覆蓋。
【請求項4】
前記固定手段は、係止部材及び覆蓋本体の一部にそれぞれ形成された貫通孔又は有底穴と、これらに挿通される棒状部材とを具備することを特徴とする請求項3に記載の水処理施設用可動式覆蓋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−135715(P2012−135715A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289222(P2010−289222)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】