説明

水処理装置

【課題】この発明は、添加物を用いずに、プラズマを用いた水処理システムの反応速度を高めることを課題としている。
【解決手段】上記の課題を解決するために、水処理装置1は、水中でプラズマを発生させるプラズマ部2と、水に紫外線を照射する紫外線照射部3を有し、プラズマ部2の電極4に高周波を供給することによって水中でプラズマ12を発生させて過酸化水素を発生させ、紫外線照射部3の紫外線光源8より水に紫外線を照射するによって過酸化水素をOHラジカルに変化させることによって、汚染物質を高い反応速度で分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水中の汚染物質の分解等を行う水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水処理において、水中の有害化合物を処理するために促進酸化法が広く用いられている。これは活性酸素を水中で発生させ、その活性酸素の働きで、化合物を酸化・分解する方法である。
【0003】
しかし、十分な分解効率を得るためにはオゾンや過酸化水素といった添加物が必要であり、このような添加物を加えた上で、紫外線などを照射することが普通である。このような活性酸素を生み出すための添加物は高濃度では有害であり、危険である。そのため、添加物を必要としない処理方法が望まれていた。
【0004】
非特許文献1には、水中で高周波プラズマを発生させることが記載されている。また、非特許文献2には、水中でストリーマ放電を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Plasma Chem. Plasma Process 34 (2008) pp.467
【非特許文献2】IEEE Trans.Ind. Appl. 32 (1996) pp.106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1や非特許文献2に記載された水中でのプラズマを利用すれば、物理的手段によって水処理を行うことができる。特に、非特許文献1に記載の発明によれば、プラズマを水中で発生させ、OHラジカルなどの活性酸素をプラズマ中の水分子の解離から生み出す方法であるため添加物を必要としない。しかしながら、発生したOHラジカルはすぐに過酸化水素となって安定化してしまうため、十分な分解速度を得ることは出来ないことが判明した。この問題は、非特許文献2に記載の発明においても同じはずである。
【0007】
そこで、プラズマを用いる場合でも、Fe2+イオンのような金属イオンを投入すれば、過酸化水素がフェントン反応を経て、OHラジカルに変化し、速い反応が得られる。ここで、フェントン反応とは以下の化学反応式によって示される広く知られた反応である。
【化1】

しかし、この方法では添加物を利用しないという利点が無くなる。また、フェントン反応を経て生み出された褐色のFe3+イオンの処理が必要となる。
【0008】
この発明は、添加物を用いずに、プラズマを用いた水処理システムの反応速度を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明に係る水処理装置は、水中でプラズマを発生させるプラズマ部と、水に紫外線を照射する紫外線照射部を有する。紫外線照射部の紫外線光源は水中に挿入されることが好ましい。また、プラズマ発生部は水中に挿入される電極と、電極に高周波を供給する電源を有し、当該高周波によって水中でプラズマを発生させるとともに、またその高周波によって紫外線光源から紫外線を発生させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
この水処理装置は、水中でのプラズマを用いて過酸化水素を発生させ、その過酸化水素を紫外線の照射によって、OHラジカルに変化させるため、添加物を使用せず、速い酸化反応を起こすという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施例における水処理装置を示す概念図である。
【図2】第1の実施例における吸収光の変化を示すグラフである。
【図3】水中プラズマによる過酸化水素濃度の変化を示したグラフである。
【図4】第2の実施例における水処理装置を示す概念図である。
【図5】第2の実施例における吸収光の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明を実施するための形態について、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
この発明の第1の実施例について説明する。図1は第1の実施例における水処理装置を示す概念図である。
【0014】
この発明の水処理装置1は、水中でプラズマを発生させるプラズマ部2と、水に紫外線を照射する紫外線照射部3を有する。この例において、プラズマ部2は水中に挿入される電極4と、この電極4に高周波を供給する電源(図示省力)を備える。高周波を使用する場合、例えば、100kHzから3GHzの周波数が使用でき、10MHzから50MHzがより好ましい。ここでは、13.56MHzを使用している。本実施例では電極を用いてプラズマを発生させているが、電極なしで、プラズマを発生させても構わない。また、直流放電やパルスストリーマ放電を使用してもよいが、後述の通り、この実施例のような高周波プラズマがより多くの過酸化水素を発生させることができる。
【0015】
この電極4は、直径2.8mmのタングステンの外周に外径5mm、内径3mmのセラミックのパイプを設けたものである。タングステンの代わりに銅を使用してもほぼ同様の結果が得られる。
【0016】
容器5には処理対象の水6を入れることができる。電極4はこの容器5の内部に設けられており、水6に接するようになっている。ここでは、水を滞留した状態で保持するためにビーカを容器として使用しているが、水が循環する配管等に電極を設置することもできる。また、容器5内には冷却用パイプ7が設けられており、この冷却用パイプ7は接地されている。
【0017】
この例では、紫外線照射部3の紫外線光源として紫外線ランプ8(フィッリプス社製PL-L18W)が容器5の外部に設けられている。消費電力は18Wであり、UV-Cと呼ばれる殺菌用領域の紫外線(水銀の輝線253.7 nm)を効率よく発生させることが可能である。この紫外線ランプ7に近接して、石英容器9が設けられ、配管10によって容器5と接続されている。この配管10にはポンプ11も接続されており、容器5内の水が石英容器9に導入され、再度容器5に戻るような循環がなされる。
【0018】
紫外線の波長としては315nmから200nmが望ましいが、UV-C 領域(波長200nm-280nm)がより望ましい。紫外線光源として、これ以外にも例えば発光ダイオードなどを使用してもよい。また、ここでは、ポンプは三相電機株式会社製のPMD-0311B6(消費電力26W・回転数2400min-1)であり、配管の内径は4mmである。
【0019】
ついで、この実施例における水処理について説明する。ここでは有害化合物のモデルとしてメチレンブルー水溶液(5 mg/L)を用いた。ポンプ11によってこの水溶液を循環させる。石英容器9において、紫外線を照射する。
【0020】
メチレンブルー水溶液550mLを容器5に入れ、ポンプ11を用いて循環させる。水中プラズマ12は電極4上に発生させる。プラズマは高周波13.56MHzの入力により発生させる。比較のためプラズマを発生させない場合を含め、次の4通りの処理を行った。
a.プラズマのみ(入力電力210W)
b.紫外線とプラズマ(入力電力210W)
c.プラズマのみ(入力電力228W)
d.紫外線のみ
それぞれ、処理時間は10分間である。
【0021】
すべての場合に於いて、メチレンブルー水溶液の色は薄くなる。吸光度を測定することでこの変化を数値化することが出来る。図2に処理前のメチレンブルー水溶液(実線)と「a.プラズマのみ」を照射後(破線)、「b. 紫外線とプラズマ」を同時照射した後(太線)の吸光スペクトルを示す。明らかに同時照射によって、分解が進んでいることがわかる。
【0022】
吸光のピーク(664nm)の吸光度を使って、分解率を次のように定義する。ここで、A0は処理前の吸光度、Aexは処理後の吸光度である。
分解率(%) = (A0−Aex)÷A0×100
【0023】
上記4種類の処理により分解率を表1に示す。
【表1】

【0024】
表1によれば「a.プラズマ210W」に比べ、「b.紫外線とプラズマ」では明らかに分解が進んでいる。紫外線ランプの消費電力分を増やし、紫外線照射を無くした処理「c.プラズマ228W」ではaと分解率が変わらず、紫外線重畳の効果が明らかである。また、プラズマを無くして、紫外線のみを照射しても、分解は起こるが、その効果は小さい。
【0025】
これらの結果から、水中でプラズマを発生させ、その水に紫外線を重畳することは効率の良い水溶性化合物の分解を実現する。また、その際、水に何らの添加物も必要としない。
【0026】
ここで、簡単に化学反応について説明する。水中でプラズマを発生させると、その高温のため、水分子は解離し、化2に示すような反応によって、酸化力の強いOHラジカルが発生する。このOHラジカルが直接、水中の化合物と反応し、酸化することで、分解反応が起こる。この現象が「a.プラズマのみ(入力電力210W)」である。
【化2】

【0027】
一方、OHラジカルは次で示すような反応によって、過酸化水素となり、安定化する。過酸化水素は準安定であるため、速い分解反応には寄与しない。
【化3】

【0028】
つぎに、300mLの純水中で高周波プラズマを発生させることによって、過酸化水素の発生量を計測した。時間に対する過酸化水素濃度の変化を図3に示す。15分で188 mg/Lに達している。投入したエネルギー密度は900 s × 210 W/300mL = 630 J/mLである。水中パルスストリーマ放電による過酸化水素発生量が非特許文献2において、明らかにされており、630 J/mLにおいて約100 mg/Lであった。これらの結果は、本発明を実施するにあたって、プラズマは水中パルスストリーマ放電であっても構わないが、高周波プラズマの方がより好ましいことを示している。
【0029】
過酸化水素分子は紫外線によって、下記の反応を経て、OHラジカルに戻る。このOHラジカルが水中の化合物と反応し、酸化することで、分解反応が起こる。プラズマで作られたOHラジカルと紫外線によって作られたOHラジカルが同時に分解反応を起こすため、「b.紫外線とプラズマ(入力電力210W)」では高い分解率を得ていると考えられる。
【化4】

【実施例2】
【0030】
さらに、この発明の第2の実施例について説明する。ここで、第1の実施例と共通の事項については説明を省力する。図4は第2の実施例における水処理装置を示す概念図である。
【0031】
この実施例においては、紫外線光源である紫外線ランプ8は容器5の内部に設けられている。紫外線ランプ8は第1の実施例と同様、フィッリプス社製PL-L18Wを用いた。ランプ長が195mmあるため、ゆとりをもって容器に挿入するため、ガラス容器5(内径75mm×長さ80mm)2つを真鍮パイプ13(内径75mm×長さ60mm)で接続した。この例では真鍮パイプ13には接地側電極の役割を持たせている。このような容器5にメチレンブルー水溶液(5 mg/L)・950mLを入れる(循環させない)。水中プラズマはφ2.8mmの電極4の上に発生させ、紫外線(ランプの消費電力は18W)を照射する。プラズマ12は高周波13.56MHzの入力により発生させる。
【0032】
処理は以下の4通りで行った。
1.プラズマのみ(入力電力210W)
2.紫外線とプラズマ(入力電力210W・紫外線ランプへ電力供給有り)
3.紫外線とプラズマ(入力電力210W・紫外線ランプへ電力供給無し)
4.紫外線のみ
処理時間は5分間である。
【0033】
1の処理ではプラズマのみをメチレンブルー水溶液に照射しており、紫外線ランプを容器に挿入していない。2の処理は図4に示す水処理装置の機能に基づくものである。紫外線ランプ8を処理対象の水に挿入し、18Wの電力を供給している。これらの処理(1と2)と処理前の水溶液のスペクトルを図5に示す。処理前の水溶液(実線)とプラズマのみ照射後(破線)、プラズマと紫外線を同時照射した場合(太線)の吸光スペクトルである。明らかに同時照射によって、分解が進んでいることがわかる。また、第1の実施例に比べて、水溶液量が増え、時間が短縮されたにもかかわらず、分解が進んでいることがわかる。プラズマ近傍での照射の効果である。
【0034】
この理由として、次のことが挙げられる。
・プラズマ近傍に紫外線ランプが存在するため、OHラジカルが2つ結合して、過酸化水素となることを阻害していること。
・過酸化水素となって安定化してしまった分子に対しても紫外線によって2分子のOHラジカルへと戻す作用
・上記の作用において、第1の実施例と異なり、すべての紫外線が水を照射していること(第1の実施例では紫外線ランプの片面しか活用されていなかった)
が挙げられる。
【0035】
3の処理は2の処理と異なり、紫外線ランプを挿入しているものの、電線を介したランプへの直接的な電力供給を行っていない。しかしながら、電極4より水中へ漏れ出た高周波によって、ランプは弱く光る。
【0036】
4通りの処理における分解率は表2の通りであり、プラズマと紫外線の相乗効果が明らかである。紫外線ランプは電力供給されることが望ましいが、電力供給がない場合でも、高周波の漏れ電力でも発光し、分解反応を促進する。このように高周波による電力を使用する場合、紫外線光源に電極は必要なく、紫外線発生物質を封入しただけの容器でよい。通常の水銀ランプのように電極での劣化がないので超寿命であり、しかも水中での配線が不要となる。
【表2】

【符号の説明】
【0037】
1.水処理装置
2.プラズマ部
3.紫外線照射部
4.電極
5.容器
6.水
7.冷却用パイプ
8.紫外線ランプ
9.石英容器
10.配管
11.ポンプ
12.プラズマ
13.真鍮パイプ
14.撹拌棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中でプラズマを発生させるプラズマ部と、水に紫外線を照射する紫外線照射部を有する水処理装置。
【請求項2】
紫外線照射部は水中に挿入される紫外線光源を有する請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
プラズマ発生部は水中に挿入される電極と、電極に高周波を供給する電源を有し、当該高周波によって水中でプラズマを発生させるとともに紫外線光源から紫外線を発生させるようになした請求項2に記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−194379(P2010−194379A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38724(P2009−38724)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】