説明

水処理設備の膜ろ過制御方式

【課題】処理設備の運転効率を高め、長期間の安定したクロスフローろ過運転ができる。
【解決手段】クロスフローろ過方式の水処理設備において、コントローラ6は膜モジュール3の膜ろ過流量計測値とその設定値の偏差に応じてポンプ2の回転数・トルクを制御し、膜モジュール面を透過する膜ろ過流量を自動制御する。コントローラ10は循環タンク1に戻す循環戻り流量計測値とその設定値の偏差に応じて循環戻り流量電動弁8の開度を制御する。これら膜ろ過流量制御と循環戻り流量制御の同時安定点を抽出して両制御装置の運転を制御する。
コントローラ6による偏差がある値の範囲に入ったときに、コントローラ10の制御を開始することで、安定化制御を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜モジュールを使って処理水を浄化する水処理設備に係り、特にクロスフローろ過方式における膜モジュール循環水および膜ろ過水の流量制御に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の水処理設備は、上水道・中水道・再利用水向けの処理水中の懸濁物質(砂やシルト、藻類、菌、原虫など)を除去するためや、凝集剤や塩素剤を添加することで溶解性物質を懸濁態に変化させて除去するために設備される。
【0003】
膜モジュールへの通水方式には、全量ろ過方式とクロスフローろ過方式とがある。全量ろ過方式は、図3の(a)に模式図を示すように、砂ろ過方式と同じに、膜供給水の全量を膜モジュールに透過させることで懸濁物質を膜モジュール面の堆積で除去する。この全量ろ過方式は、消費動力が少ない反面、処理水中の濁質が全て膜モジュール内に蓄積される(ケーキ層を形成する)ため、膜差圧の上昇が早くなる。
【0004】
一方、クロスフローろ過方式は、図3の(b)に示すように、膜モジュール面に対して処理水を平行に流しながら膜モジュールを透過させることで、膜モジュール面に懸濁物質が堆積しにくくする。このクロスフローろ過方式は、通水のためのポンプの消費動力が増加する反面、膜面に平行に通水することにより膜表面のケーキ層の形成を抑制して、膜差圧の上昇を遅らせることができる。
【0005】
いずれのろ過方式においても、膜モジュール面には次第に濁質が付着するため、処理水が膜モジュールを透過するために必要な水流抵抗が高くなり、膜ろ過流量も低下してくるが、クロスフローろ過方式では通水流量を高める(水圧を増す)ことで膜ろ過流量を一定に維持することができる。
【0006】
クロスフローろ過方式の水処理設備構成図を図4に示す。循環タンク1には処理水となる原水を注入し、電動ポンプ2は循環タンク1内の処理水を膜モジュール3にクロスフローろ過方式で循環させる。膜モジュール3は、例えば孔径0.1μmのMF膜を使用する。手動調整弁4は、膜モジュール3を経た処理水の循環戻り水量を制限することで、処理水が膜モジュール3の面を透過するのに必要な最小限の通水圧力を発生させる。
【0007】
膜ろ過流量計5は膜モジュール3を透過した膜ろ過水の流量を計測する。膜ろ過流量コントローラ(FIC)6は、膜ろ過流量設定値と膜ろ過水量との偏差に応じて比例積分微分(PID)等の演算を行い、この演算結果でインバータ7の出力周波数と電圧を制御することによって電動ポンプ2の回転速度・トルクを変化させ、膜ろ過流量を膜ろ過流量設定値に自動制御する。
【0008】
このように、クロスフローろ過方式では、ポンプ制御によって膜供給水量を一定にすることで、流量の安定化を実現できる。また、膜モジュールに循環させる処理水に凝集剤等を添加することで、膜を閉塞させやすいとされる高分子有機物がある程度処理され、安定運転が可能な時間の延長が期待できる。
【0009】
しかしながら、クロスフローろ過方式においても、長期間の運転では膜モジュールに懸濁物質の堆積量が増すため、定期的な膜モジュールの洗浄により閉塞原因物質を除去する必要がある。このための保守点検は、浄化水の回収率の低下、工数上昇による人件費の増加などを招く。
【0010】
懸濁物質の堆積量を減らす手法として、前処理プロセスで対象物質を除去した原水を膜処理システムに供給する手法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平07−256283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記のように、クロスフローろ過方式では、全量ろ過方式に比べて、膜モジュールが懸濁物質で閉塞されるのを遅らせることができる。しかし、膜モジュールの閉塞の進行によって膜モジュールでの透過水抵抗が増大するも、一定の膜ろ過水量を得るためには、クロスフローろ過に必要な返送水量も増加してしまい、ポンプに要求される吐出量(インバータの出力周波数・電圧)が次第に高くなり、必要とする消費動力が増してくる。
【0012】
これは、膜モジュールの閉塞の進行が進むほど、処理設備の運転効率の低下と運転コストアップになる。さらに、膜モジュールの閉塞の進行度合いによってはポンプ負荷が著しく上昇し、安定した循環水流量制御および安定した膜ろ過流量が得られなくなるばかりでなく、インバータの過負荷で設備運転を停止させるおそれもある。
【0013】
この対策として、膜循環水に凝集剤等を添加する手法や前処理プロセスで対象物質を除去する手法を併用する場合にはそれらの設備が必要となるし、膜モジュールへの懸濁物質の堆積を遅らせることができても、膜モジュールの詰まりを完全に無くせるものではない。また、膜モジュールから懸濁物質を定期的に除去することは、頻繁な保守点検を必要とし、浄化水の回収率の低下、工数上昇による人件費の増加などを招く。
【0014】
本発明の目的は、処理設備の運転効率を高め、長期間の安定したクロスフローろ過運転ができる水処理設備の膜ろ過制御方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、膜ろ過流量制御装置に加えて循環戻り流量制御装置を併用し、両制御装置を同時に安定化制御することで、膜ろ過流量および循環戻り流量共に安定化・最適化(最小化)し、処理設備の運転効率を高め、長期間の安定したクロスフローろ過運転ができるようにしたもので、以下の構成を特徴とする。
【0016】
(1)ポンプ運転によって、処理対象水を膜モジュール面に平行的に通水させて循環タンクに戻すクロスフローろ過方式の水処理設備において、
前記膜モジュールの膜ろ過流量計測値とその設定値の偏差に応じて前記ポンプの回転数・トルクを制御し、膜モジュール面を透過する膜ろ過流量を自動制御する膜ろ過流量制御装置と、
処理対象水を前記循環タンクに戻す循環戻り流量計測値とその設定値の偏差に応じて循環戻り流量電動弁の開度を制御する循環戻り流量制御装置と、
前記膜ろ過流量制御と循環戻り流量制御の同時安定点を抽出して前記両制御装置の運転を制御するコンピュータ処理手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
(2)前記コンピュータ処理手段は、
前記電動弁の開度を前回制御での終了値に固定しておく手段と、
この後、前記膜ろ過流量制御装置による膜ろ過流量をその設定値に一致させる制御を開始し、この膜ろ過流量の制御開始で、膜ろ過流量が設定値に対して閾値以内に安定したときに、前記膜ろ過流量制御装置の膜ろ過流量の制御出力をその値に保持する手段と、
この膜ろ過流量の制御終了で前記循環戻り流量制御装置の設定値に対する誤差が閾値以内のときは、前記膜ろ過流量制御装置の制御を再開し、膜ろ過流量を閾値以内にした安定化制御を繰り返す手段と、
膜ろ過流量の制御終了で前記循環戻り流量制御装置の設定値に対する誤差が閾値を越えているときは、前記循環戻り流量制御装置による循環戻り流量制御を開始し、この循環戻り流量の制御開始で、循環戻り流量が設定値に対して閾値以内に安定したときに、前記循環戻り流量制御装置の前記循環戻り流量制御を終了して前記電動弁の開度を固定する手段と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上のとおり、本発明によれば、膜ろ過流量制御装置に加えて循環戻り流量制御装置を併用し、両制御装置を同時に安定化制御するため、膜ろ過流量および循環戻り流量共に安定化・最適化(最小化)し、処理設備の運転効率を高め、長期間の安定したクロスフローろ過運転ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態を示すクロスフローろ過方式の水処理設備構成図である。同図が図4と異なる部分は、手動調整弁4に代えて、循環水流量制御装置を備えたことにある。
【0020】
この循環水流量制御装置は、循環戻り水経路には電動弁8と循環戻り水流量計9を介挿し、循環戻り流量コントローラ(FIC)10が循環戻り流量設定値と循環戻り水量との偏差に応じて循環戻り流量電動弁8の開度を調節し、循環戻り流量を循環戻り流量設定値に自動制御する。
【0021】
本実施形態において、通常時は、膜ろ過流量コントローラ(FIC)6によって、膜ろ過流量の計測値と設定値との偏差がなくなるよう、インバータの周波数・電圧を調整して、膜ろ過流量を一定に制御する。同時に、循環戻り流量は、循環戻り流量コントローラ(FIC)10によって、循環戻り流量設定値と循環戻り水量との偏差がなくなるよう、電動弁8の開度を調整して、循環戻り流量を一定に制御する。
【0022】
ここで、循環戻り水流量はポンプ2の回転数と電動弁8の開度に依存して流れることになるが、2つの制御対象(膜ろ過流量と循環戻り流量)に対して2つの操作量(制御量)があるため、安定点は必ず存在し、この安定点に設定値を設定することで、膜ろ過流量制御と循環戻り流量制御の同時安定制御が可能となる。
【0023】
例えば、膜ろ過流量の一定制御には、膜ろ過流量設定値を固定し、この設定値に従ってポンプ流量を一定に制御し、このポンプ流量を一定に維持するのに必要な循環戻り流量設定値を変更し、この設定値に従って電動弁8の開度を制御する。また、膜モジュールにおける懸濁物質の堆積量が増すことでポンプの運転効率が低下してくるときは、循環戻り流量設定値を高い値に変更し、この設定値に従って循環戻り水に対する抵抗を下げることでポンプの運転効率の低下を防ぐ。
【0024】
このような膜ろ過流量制御と循環戻り流量制御の同時安定制御により、処理設備の運転効率を高め、長期間の安定したクロスフローろ過運転ができる。
【0025】
なお、膜ろ過流量制御と循環戻り流量制御の同時安定点の抽出と設定は、過去の設備運転状態から経験的に求めておくか、制御モデルを使ったコンピュータシミュレーションにより求めることでもよい。
【0026】
(実施形態2)
図1に示す水処理設備による同時制御において、膜ろ過流量コントローラ6では一般的なPIDコントローラで膜ろ過流量を制御する。一方、循環戻り流量コントローラ10により電動弁8を調整すると、循環戻り流量が変化するため、膜ろ過流量が再び変化する。そのため、コントローラ6が再度膜ろ過流量を目標値に追従させるよう、ポンプ回転数が変化することになる。つまり、流量バランスを保つことができる回転数と電動弁開度はあるものの、膜ろ過流量および循環戻り流量の両制御系の過渡応答特性によってはなかなか安定点に到達できない可能性がある。特に、膜モジュールの洗浄や交換時など、膜モジュールでのろ過抵抗が大きく変化したときに制御状態が不安定になる。
【0027】
本実施形態では、上記現象を回避するため、コントローラ6による偏差がある値の範囲に入ったときに、コントローラ10の制御を開始するものであり、図2にコントローラ6,10による膜ろ過流量と循環戻り流量の制御手順(S1〜S8)を示し、これら制御は水処理設備の制御用コンピュータシステムを構築するコンピュータ資源を利用したソフトウェア処理によって実現される。
【0028】
(S1)循環戻り流量の設定値は通常あまり変化させないため、膜の汚れがあまり変わらなければ、電動弁8の開度はほぼ一定値である。そのため、膜モジュールの洗浄終了後の膜ろ過開始時などでは、電動弁8の開度を前回制御での終了値に固定する。
【0029】
(S2)コントローラ6による膜ろ過流量をその設定値に一致させる制御を開始する。
【0030】
(S3)この膜ろ過流量の制御開始で、膜ろ過流量を設定値に対して閾値以内に安定させる。
【0031】
(S4)膜ろ過流量が設定値の閾値以内に安定したときに、コントローラ6による膜ろ過流量の制御を終了、すなわち、コントローラ6による膜ろ過流量の制御出力を制御終了時の値に保持する。
【0032】
(S5)膜ろ過流量の制御終了で循環戻り流量設定値に対する誤差が閾値以内かを判定する。この判定で、閾値以内のときは、処理S2に戻って、コントローラ6による膜ろ過流量制御を再開し、膜ろ過流量を閾値以内にした安定化制御を繰り返す。
【0033】
(S6)循環戻り流量設定値に対する誤差が閾値を越えているとき、コントローラ10による循環戻り流量制御を開始する。
【0034】
(S7)この循環戻り流量の制御開始で、循環戻り流量を設定値に対して閾値以内に安定させる。
【0035】
(S8)循環戻り流量が設定値の閾値以内に安定したときに、コントローラ10による循環戻り流量の制御を終了、すなわち、コントローラ10による電動弁開度を固定する。
【0036】
以上の制御は、膜モジュールの洗浄や交換時に特に効果的となる。膜モジュールの洗浄前後では膜差圧が大きく変化し、循環戻り流量が洗浄直後には設定値より低くなる場合がある。この場合、循環戻り流量の誤差が閾値の範囲外になり、コントローラ10による循環戻り流量の制御を開始し、弁開度を大きくすることで、循環戻り流量を大きくする。この制御で循環戻り流量が閾値内に入って安定化したときにコントローラ10による循環戻り流量制御を終了する。このコントローラ10の制御時にはコントローラ6によるポンプ流量制御はしていないため、膜ろ過流量は少なくなる。そのため、再び膜ろ過流量の制御を行う。これを繰り返すことで、最適なクロスフローろ過流量を得たまま、膜ろ過流量を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態1を示すクロスフローろ過方式の水処理設備構成図。
【図2】本発明の実施形態2を示す膜ろ過流量と循環戻り流量の制御手順。
【図3】全量ろ過方式とクロスフローろ過方式の模式図。
【図4】従来のクロスフローろ過方式の水処理設備構成図。
【符号の説明】
【0038】
1 循環タンク
2 電動ポンプ
3 膜モジュール
4 手動調節弁
5 膜ろ過水流量計
6 膜ろ過流量コントローラ
7 インバータ
8 電動弁
9 循環戻り水流量計
10 循環戻り流量コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ運転によって、処理対象水を膜モジュール面に平行的に通水させて循環タンクに戻すクロスフローろ過方式の水処理設備において、
前記膜モジュールの膜ろ過流量計測値とその設定値の偏差に応じて前記ポンプの回転数・トルクを制御し、膜モジュール面を透過する膜ろ過流量を自動制御する膜ろ過流量制御装置と、
処理対象水を前記循環タンクに戻す循環戻り流量計測値とその設定値の偏差に応じて循環戻り流量電動弁の開度を制御する循環戻り流量制御装置と、
前記膜ろ過流量制御と循環戻り流量制御の同時安定点を抽出して前記両制御装置の運転を制御するコンピュータ処理手段と、
を備えたことを特徴とする水処理設備の膜ろ過制御方式。
【請求項2】
前記コンピュータ処理手段は、
前記電動弁の開度を前回制御での終了値に固定しておく手段と、
この後、前記膜ろ過流量制御装置による膜ろ過流量をその設定値に一致させる制御を開始し、この膜ろ過流量の制御開始で、膜ろ過流量が設定値に対して閾値以内に安定したときに、前記膜ろ過流量制御装置の膜ろ過流量の制御出力をその値に保持する手段と、
この膜ろ過流量の制御終了で前記循環戻り流量制御装置の設定値に対する誤差が閾値以内のときは、前記膜ろ過流量制御装置の制御を再開し、膜ろ過流量を閾値以内にした安定化制御を繰り返す手段と、
膜ろ過流量の制御終了で前記循環戻り流量制御装置の設定値に対する誤差が閾値を越えているときは、前記循環戻り流量制御装置による循環戻り流量制御を開始し、この循環戻り流量の制御開始で、循環戻り流量が設定値に対して閾値以内に安定したときに、前記循環戻り流量制御装置の前記循環戻り流量制御を終了して前記電動弁の開度を固定する手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の水処理設備の膜ろ過制御方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−126137(P2008−126137A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313731(P2006−313731)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】