説明

水分を吸収しジェル化した高分子吸収体を使用した耐火素材と、火災に遭遇した場合に簡単に着用するだけで熱風や炎から身体を守れるようにした簡易型耐火スーツ、及び内包した断熱材の接合部分から熱が侵入しないようにするための形状と金属箔を張り付けたり蒸着したりすることで放射熱を反射させる工夫、さらに安価に製造する場合の簡略型の仕様。

【課題】火災に遭遇した際に誰でも簡単に着るだけで炎や煙から身体を守り、避難路を確保できるようにするための耐火スーツと、その内部で断熱材を接合した場所から熱が侵入しないようにするための構造と、耐火スーツの機能を高めるための放射熱を反射させる方法とを提供する。
【解決手段】あらかじめ水分を吸収させてジェル化した高分子吸収体をポリエチレンシートなどで包んで安定させたものを、断熱材としてガラスクロスなどの耐熱素材で包みこんで、炎や熱風から身体を守るようにした耐火スーツとする。この耐炎スーツの耐熱素材であるジェル化した高分子吸収体をポリエチレンなどに封入した場合に、ポリエチレンの接合部から熱が侵入しないように接合部に段差をつけ、接合部の耐熱性を補うようにした。さらに炎から放射される放射熱を反射させるために表面や内部に金属箔を張り付けて内部に熱が入りにくくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、火災に遭遇した場合に炎や熱風・煙などから身体を保護し安全な避難路を確保するために着用する耐火スーツに関するものです。
【背景技術】
【0002】
従来、火災に遭遇した場合には水に浸したシーツやタオルを身にまとって熱から身体を保護し、口を濡れタオル等で覆い隠して煙を吸い込まないようにして逃げるなどの原始的な方法しかなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、現在では建物の高層化が進んだ上、建材には火災時に高熱を発したり有害な煙を多量に発生させたりする化学物質が随所に使われていたりするので、実際に火災に遭遇した場合には避難路を確保することが難しくなった場所が数多く存在する。
このため、実際に火災に遭遇した場合には、非難口や脱出用シューターなどが比較的各所に設置されているにもかかわらず、煙に巻かれて呼吸ができなくなって死亡してしまう例や、炎や熱風に避難路をふさがれて大やけどを負ってしまったり、逃げられずに焼死してしまったりする例が数多く存在した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような事態に遭遇した場合に、たとえ数十秒から数分間でも煙や炎・熱風から身体を保護できるスーツがあれば、非常口や非難シューターなどにたどり着くことができる可能性が高くなり、生命を損なわずに済むのではないかと考え、以下のような防火スーツを考案した。
【発明の効果】
【0005】
高分子吸収体は一般に紙おむつなどに広く使用されているが、このたび、水分を吸収してジェル化した高分子吸収体には高い耐炎性・遮熱性があることを発見した。
そこで、この素材を使用することで耐火性を持つシートを作ることができると考えた。表面に耐熱性のあるガラスクロスやセラミッククロスなどの素材を使用し、その下にこの高分子吸収体に水分を吸収させてジェル化したものをポリ袋などの素材で封印したものを断熱材として内包する『複合素材』を考案した。図1
(必要に応じては外熱によって高分子吸収体が熱を蓄えたてしまった場合でも身体を保護できるようにグラスウールなどの難燃性が高い断熱層を設置し、更に内部の人体に接する部分にはグラスウールなどから皮膚を守るため不織布などをあてる。)
【0006】
次にこの素材をつかった『つなぎ型耐火スーツ』を考案した。
これは、火災時の高熱から身体を保護できるように全身を覆う雨合羽のような格好の耐火スーツであり、視界を確保するために目の部位に耐熱性のゴーグルを設置し、煙から目を守れるように顔面にフィットできるようにする。
また、煙の吸い込みによって呼吸ができなくなることを防止するために、防煙マスクあるいは簡易な酸素ボンベを装備する。(酸素ボンベはいささか高価になりそうではあるが、火災時には空気中の酸素量が減少していることが考えられる上に現在では運動時の酸素補給用などの簡易な酸素ボンベもあるので、できれば酸素ボンベをお勧めしたい思う。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
あらかじめ水分を吸収させてジェル化した高分子吸収体をポリ袋などに入れて安定させたものを断熱材として使用し、表面を熱に強いガラスクロスなどの素材でこの断熱材を包み込むことで耐火性のある生地(素材)を作るものである。
表面のガラスクロスは熱には強いのだが単体では熱を通過させてしまう、そこで断熱材としてジェル化した高分子吸収体を内包してやり、この断熱作用を利用して熱が通らないようにしてやることで耐火性を持たせることができる。炎や熱風を浴びた場合、ポリエチレンは融けてしまうのであるが、内包してあるジェルは粘性があるのでガラスクロスなどの表面素材にはばまれて流れ出さずにすむので断熱材として機能することができ、同時にジェルの水分によって表面のガラスクロスが高温になることを防ぎ、燃焼・溶解することを防いでくれる。このような相互作用によって耐火性のある生地(素材)を作ることができるものである。
【0008】
ポリエチレンに包まれたジェル化した高分子吸収体は、一般に保冷材などに使用されているように安定性が高いので保存には特別な配慮は必要なく、ごく普通に保管できるのでこれを耐火スーツに使用した場合にも保管は大変簡単なものであると考えられる。
この生地(素材)を使用して耐火スーツを製造するもので、火災に遭遇した場合には、このスーツを着るだけで炎や熱風などから身体をまもることができる。
この耐火スーツを着て脱出を図るものである。
【0009】
ただし、高分子吸収体は単体では軟らかいジェル状態になってしまっているのであまり軟らかすぎると流れ出してしまったり、自重に負けて下のほうに垂れてきてしまったりして炎を十分に防ぐだけの厚みを保てなくなってしまう懸念があるので、それらを防止するために難燃性のパルプを混入したり、極微細のグラスウールを混入したりして形態を保てる硬さにしてやったり、またはジェルを小分けに梱包し、自重に負けて下のほうに溜まったりしにくいような形態を取るなどの工夫をしてやる必要性があると考えられる。
【0010】
耐火スーツの形状としては、火災時の炎や熱風から全身を守るために、誰でも簡単に着用することができ、なおかつ動きやすくするために全身を覆う『つなぎタイプ』が有効であると思う。図2
そして、防炎マスクや酸素ボンベによって煙の吸い込みによる呼吸不全を防ぎ、耐熱性のあるゴーグルを顔面にフィットさせることによって煙による視界障害を排除する。
このスーツを着用することで火災時の熱や煙から身体を守り、避難路の確保をはかる。
【0011】
さらに、このスーツの機能性を高める方法として反射機能をもたせることができる。
これは、表面にアルミ箔を貼り付けたり、あるいは断熱材を封入するポリエチレンにアルミ蒸着を施したりすることによって放射熱を反射させることで熱から防御する機能である。本発明のようにあらかじめ水分を吸収してジェル化した高分子吸収体をポリ袋に内包する方法をとった場合には外から水を注入する必要がないことから、このように表面を鏡面状にすることができる。これは炎から照射される熱(赤外線)を金属面によって反射させるものであり、これによって熱に弱いポリ袋を守り、熱が内部に侵入することを防ぐ効果をもたせることができる。これは火災に遭遇した場合にスーツを着用した人への熱による影響を防ぐことにつながるので、耐火スーツとしてはより有効であると考えられる上に、火災に遭遇した際に煙などで識別が困難になった場合にも、表面が銀色になることから外部からの視認性がよく、救助の助けにもなるのではないかと期待される。
【0012】
製造方法としては、グローブを一例として説明をすると、ポリエチレンシート2枚を手袋の形にヒートシールして袋状にし、内部にジェル化した高分子吸収体を封入する。これを上下に2セット用意し、手の入り口を除いてシートの端を溶着するとグローブの形に製造できる。これに表面にガラスクロスを、また内面にも皮膚を保護するために不織布等を接着しグローブを製造する。他の部品も同じように製造することでスーツを製造することができる。
【0013】
ただし、このように断熱材としてジェルをポリ袋などに入れて内包した場合、構造上ポリ袋とポリ袋を合わせたつなぎ目(例えば表面と背中面のつなぎ目など)にはジェルが入らないため、断熱効果がそこだけが薄くなってしまうことが懸念される。このままではここの部分だけ断熱効果がないので、火傷を負ってしまう危険があり、これを是正するための特殊な形状が必要となる。これにはジェルを入れたポリ袋のつなぎ目に段差をつけておき 図3、この段差の内側に袋のはしを溶着することで合わせ目の段差にジェルを封入した部分を創ることができる。これをテープなどで固定して段を埋めることができるようにしたものである。図4
【0014】
更に構造を簡略化する方法として、表面の耐熱材(ガラスクロスなど)を省略する方法も考えられる。この場合だと、耐火性はいくらか落ちてしまうのではないかと考えられるのだが、実際の火災時にも一般的には炎に煽られるなどの危険性(長時間火の中に居続けること)はそれほど多くはないのではないかと考えられるので、ある程度の熱風を避けられれば良いという考えに重きをおいた場合の使用である。ポリエチレンなどの樹脂は熱には弱いが、内封してあるジェルの影響もあってある程度の熱風に煽られても一気に溶けてしまうわけではなく、ところどころ穴があく程度なので内封するジェルを内側の不織布に固定するなどの工夫(紙おむつのようにジェルとパルプを混入して固定しやすくするなど)を行えば、とりあえずポリエチレンシートだけでも内部のジェルが流れ出さずにすむためにある程度の耐熱性を守ることができるためである。ポリエチレンの耐熱温度は240度あり、内部にジェルを内包していることから、この場合には400度程度の熱風ならば耐えられると考えられる。数十度程度の熱風で火傷を負い、身動きができなくなってしまうことを考えればこれだけでも十分な実用性能といえるのではないだろうか。
【0015】
このようなポリエチレンシートのみの場合でも、タ−ポリンのように繊維を生地に練りこんだり挟み込んだりすれば強度は飛躍的に向上すると考えられるので、このように更に簡略化させた型の場合にはこのような方法も有効であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
以前に使用の際に水を含ませてから使う方法を考案したのだが、万が一火災に遭遇した場合にはどうしても極度の緊急性を要することや、ホテルや旅館などの場所に設置する場合には、使用に関して説明が行き届かない恐れのある不特定多数の人間を対象にしなければならないことなどを考慮すると、どうしてもすばやく簡単に着用できなおかつ機能を十分に発揮させなければならない必要があると考えられるので、はじめから事前に水分を吸収させてジェル化した断熱材を内包しておき、着るだけで十分な効果を発揮できるようにしておいたほうがよいのではないかと考えた。
更に、この方法をとる場合には、表面や内部に金属箔を張り付けたり蒸着させたりして鏡面をつくりだし、放射熱を反射させることができるようになるのでより一層断熱効果は高まると考えられるし、その他にも構造を簡略化することで普及しやすくできる方法も合わせて提案したいと考えた。
これらの事項によって誰でも着るだけで簡単に避難できるようになることから耐火スーツとしての有効性はより高められたのではないかと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】 素材の構造
【図2】 耐火スーツの正面図
【図3】 耐熱材を製造する際の作り方の説明
【図4】 接合する前の接合部の構造
【図5】 接合した後の接合部の構造
【符号の説明】
【0018】
1 耐熱シート(ガラスクロスやファイバークロスなど)
2 ポリエチレンなどで高分子吸収体を封入した断熱材
3 不織布
4 ゴーグル
5 防炎マスク又は酸素ボンベ
6 チャック
7 グローブ
8 ブーツ
9 接合部分
10 テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用しやすく、また保管しやすくするために水分を吸収してジェル化した高分子吸収体をポリエチレンなどで封入して安定させたものを断熱材としてガラスクロスなどの耐熱素材で包み込んだ耐火性のある生地(素材)
【請求項2】
火災時に単に着るだけでよい様に、あらかじめ水分を吸収させてジェル化した高分子吸収体をポリエチレンシートなどで包んで安定させたものを断熱材として内包し、表面をガラスクロスなどの耐熱素材で包みこむことで製造した炎や熱風から身体を守る耐火スーツ。
【請求項3】
当発明の耐火スーツの表面や内包する断熱材の表面に金属箔を張り付けたり蒸着したりして鏡面化し、炎から発せられる放射熱を反射させることで熱から身体を保護しやすくするための構造。
【請求項4】
当発明のスーツに内包する断熱材の構造と製造法
【請求項5】
当発明の耐炎スーツの耐熱素材である、ジェル化した高分子吸収体をポリエチレンなどに封入した場合に接合部から熱が侵入しないようにするための構造。
【請求項6】
当発明の耐火スーツの普及を安価で生産し促進するために、構造を更に簡略化させた場合の仕様と構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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