説明

水分インジケータとその製造方法、該製造方法に用いる塗料

【課題】微量の水分の付着によっても良好に変色し、目視による検知が十分に可能な水分インジケータを提供する。
【解決手段】少なくとも、電子供与性呈色化合物、常温において固体である酸性化合物、及び、水系樹脂エマルジョン又は水溶性高分子化合物水溶液とからなる水性塗を担持体に付着させ、加熱して乾燥させることにより呈色組成物とした水分インジケータとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水分の付着により変色し、該水分の付着を容易に検知しうる水分インジケータとその製造方法、該製造方法に用いる水分インジケータ用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水分インジケータとしては、水溶性の発色剤を担持体に担持させ、水分の付着によって該発色剤を溶出させ、変色させることによって水分の付着を検知する構成が主として知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、水溶性の発色剤とインキバインダー、及び、非水溶性の発色剤とインキバインダーとを組み合わせて担持体に担持させ、水分の付着によって水溶性の発色剤が溶出して非水溶性の発色剤のみを担持体に残して呈色させることにより水分の付着を検知するインジケータが開示されている。
【0004】
一方、インクを飛翔させて印刷媒体に付着させ、所望のパターン印刷を行うインクジェット方式の印刷機は、通常の紙などへの印刷の他、各種デバイスの製造工程などに広く用いられている。このようなインクジェット方式の印刷機においては、複数のノズルから微量のインクを印刷媒体に向けて飛翔させるが、一度に飛翔させるインクの液滴量がplレベルであるため、ノズルが目詰まりした場合であっても、印刷媒体に付着したインクの有無が検知しづらい。特に、インクが無色であった場合にはインクが付着した箇所とそうでない箇所とが目視では全く区別できない。
【0005】
そこで、変色により水分の付着を検知しうる水分インジケータを印刷媒体として、水系インクを付着させ、ノズルの目詰まりを検知する方法が考えられるが、従来の水分インジケータでは、plレベルの微量の水分では検知しづらい場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−285191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、微量の水分の付着によっても良好に変色し、目視による検知が十分に可能な水分インジケータと、その製造方法、及び、該製造方法に用いる塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1は、少なくとも、電子供与性呈色化合物、常温において固体である酸性化合物、及び、水系樹脂エマルジョン又は水溶性高分子化合物水溶液とからなる水性塗料であることを特徴とする水分インジケータ用塗料である。
【0009】
本発明の第2は、上記本発明の水分インジケータ用塗料を担持体に付着させ、加熱して乾燥させることを特徴とする水分インジケータの製造方法である。
【0010】
本発明の第3は、担持体と、大気中に曝露されるように該担持体に担持された呈色組成物からなる水分インジケータであって、該呈色組成物が、少なくとも、電子供与性呈色化合物と、常温において固体である酸性化合物と、樹脂バインダーからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0012】
〔1〕本発明の水分インジケータ用塗料は水性塗料であるため、取り扱いが容易である。
【0013】
〔2〕本発明の水分インジケータの製造方法によれば、水性塗料を紙や樹脂フィルム、布、不織布などの担持体に付着させて乾燥させることで容易に水分インジケータが得られるため、様々な形態の水分インジケータを提供することができ、用途が広い。
【0014】
〔3〕本発明の水分インジケータは、電子供与性呈色化合物を用いていることから、水分の存在を示す色相の変化の視認性が良好であり、しかも色相の変化を保持するメモリー性を有する。
【0015】
〔4〕本発明の水分インジケータ及び水分インジケータ用塗料はコバルト等重金属を含んでいないため、環境上の問題がなく、一般家庭用ゴミと同様に廃棄することができる。
【0016】
〔5〕本発明の水分インジケータは、担持体表面に微細に呈色化合物が存在するため、ごく微量の水分、具体的には10pl以下の液滴が付着した場合であっても明瞭に変色してかかる水分の存在を検知することができ、水系インクを用いるインクジェット方式の印刷機におけるノズルの目詰まりの検知に好ましく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の水分インジケータは、担持体と、該担持体に担持させた呈色組成物からなり、該呈色組成物が、少なくとも、電子供与性呈色化合物と、常温において固体である酸性化合物と、樹脂バインダーからなる。また、本発明の水分インジケータは、少なくとも、電子供与性呈色化合物、常温において固体である酸性化合物、及び水系樹脂エマルジョン或いは水溶性高分子化合物水溶液とからなる水性塗料を担持体に付着させ、加熱して乾燥させてなる。
【0018】
本発明の水分インジケータによって検知しうる水はpHが2〜14である。本発明の水分インジケータは、付着した水分のpHが高い場合には、該水分が酸化している電子供与性呈色化合物を中和して変色させ、pHが中性或いは低い場合には、該水分が直接電子供与性呈色化合物の発色サイトに作用して変色させる。
【0019】
以下、本発明の構成を詳細に説明する。
【0020】
本発明に用いられる担持体としては、紙や樹脂フィルム、布、不織布など水性塗料を付着させて加熱乾燥させることにより、該担持体の表面や内部に該塗料の成分を含む呈色組成物を担持させ得るものであればいかなる素材も用いることができる。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのフィルム、或いはシートが好ましく用いられる。
【0021】
また、本発明の水分インジケータが水分によって消色した際に担持体の色が視認されるように、担持体の少なくとも一部を有彩色としても良い。例えば、乾燥時に青色を呈する電子供与性呈色化合物を用い、担持体を赤色とすることにより、乾燥時には青色、水分付着持には赤色で明確に水分付着を検知することができる。
【0022】
有彩色の担持体としては、担持体そのものが有彩色に着色されている形態と、担持体上に有彩色インク層を設けた形態が挙げられる。
【0023】
上記有彩色に着色された担持体としては、適当な着色剤を含有するPETやPP、PEなどの着色樹脂フィルム、或いはシートや、紙や樹脂フィルム、布、不織布などの基材を適当な着色剤で着色したものが挙げられる。
【0024】
また、担持体上に有彩色インク層を設けた形態としては、呈色組成物を担持させる表面側に設ける場合と、裏面側に設ける場合があり、裏面側に設ける場合には、かかるインク層を設ける基材が透明でなければならない。
【0025】
尚、本発明において担持体の有彩色である領域は担持体全面である必要はなく、基材の一部分を着色したり、有彩色インク層を基材の一部分に設けたり、或いは、有彩色インク層において有彩色の部分を一部分としても良い。より具体的には、有彩色の柄や字といった所定のパターンを表示しておくことにより、呈色組成物が水分の付着により消色した際に、担持体の示す有彩色のパターン表示によって、より明確に水分を検知することができる。
【0026】
本発明に用いられる電子供与性呈色化合物としては、酸により発色する化合物であれば特に限定されないが、具体的にはロイコ染料が好ましく用いられ、例えば、酸性で発色或いは色変化を起こすようなpH指示薬、トリアリールメタン誘導体、フルオラン誘導体等が使用される。具体的には、例えば、クリスタルバイオレットラクトン、3−インドリノ−3−p−ジメチルアミノフェニル−6−ジメチルアミノフタリド、3−ジエチルアミノ−7−クロロフルオラン、2−(2−フルオロフェニルアミノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、2−(2−フルオロフェニルアミノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−シクロヘキシルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−5−メチル−7−t−ブチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−p−ブチルアニリノフルオラン、3−シクロヘキシルアミノ−6−クロロフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−エチル−p−トルイジノ)−フルオラン、3−ピロリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピロリジノ−7−シクロヘキシルアミノフルオラン、3−N−メチルシクロヘキシルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−N−エチルペンチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン等が挙げられる。
【0027】
本発明に用いられる酸性化合物としては、常温において固体であれば特に限定されず、好ましくは水溶性の化合物が用いられるが、例えば、シュウ酸、マロン酸、クエン酸、サリチル酸、安息香酸、ほう酸、p−トルエンスルホン酸等を挙げることができる。これらのうちでも、水に対する溶解度が高いという点で、シュウ酸、マロン酸、p−トルエンスルホン酸が好ましい。
【0028】
本発明においては、上記した電子供与性呈色化合物、酸性化合物を樹脂エマルジョン或いは水溶性高分子化合物水溶液に投入して十分に撹拌し、微分散及び/または溶解させて水分インジケータ用塗料とする。
【0029】
本発明において用いられる樹脂エマルジョンとしては、担持体に影響を及ぼさない程度の加熱乾燥によって固化し、上記成分を担持する樹脂バインダーとなり、酸性化合物と反応せず、また、これら成分の存在によって凝集しない水系エマルジョンであれば、特に限定されないが、好ましくはノニオンエマルジョン、具体的にはアクリル系エマルジョンが好ましく用いられる。また、その他にも弱アニオンエマルジョンなどを好ましく用いることができる。また、該樹脂エマルジョンは、適宜水で希釈して用いることができ、エマルジョン濃度を適宜選択することにより、湿度インジケータの発色の程度を調整することができる。
【0030】
また、本発明において用いられる水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコールや、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシエチルセルロースなどが好ましく用いられ、1〜20重量%の水溶液として好ましく用いられる。尚、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を用いた場合、水分インジケータに水分が付着した際にかかる水溶性高分子が溶出し、水分インジケータ表面が若干べたつく場合がある。よって、本発明においては樹脂エマルジョンの方が好ましく用いられる。
【0031】
本発明の製造方法においては、上記水性塗料がさらに、水に対する溶解度が5ml/100ml以上で加熱によって揮発する極性溶媒を含む構成を好ましい態様として含む。該極性溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、tert−ブチルアルコール、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、アセトン、アセトニトリルのうち1種、或いは少なくとも1種を含む混合溶媒が好ましく用いられる。
【0032】
かかる極性溶媒は、上記電子供与性呈色剤、酸性化合物、樹脂エマルジョンまたは水溶性高分子水溶液の合計100容量部に対して10000容量部以下の範囲で混合しても良く、好ましくは10〜1000容量部である。
【0033】
本発明においては、上記水分インジケータ用塗料を上記担持体に付着させ、加熱して乾燥させることにより、該塗料に含まれる電子供与性呈色化合物、酸性化合物、樹脂エマルジョン或いは水溶性高分子由来の樹脂バインダーからなる呈色組成物が該担持体に担持された水分インジケータが得られる。上記塗料を担持体に付着させる方法としては、所望量の塗料を担持体に付着させることができれば特に限定されず、例えば担持体を塗料に浸漬する方法、ワイヤーバーやロールコーター等で塗布する方法、スプレー等で吹き付ける方法、グラビアやシルクなどの各種印刷方法など、担持体や塗料の組成に応じて適宜選択される。
【0034】
加熱方法としてはオーブンや赤外線乾燥装置などを適宜用いることができる。加熱温度及び加熱時間は担持体の素材や塗料の組成にもよるが、好ましくは40〜150℃、より好ましくは50〜130℃で、好ましくは1〜2160秒間、より好ましくは2〜600秒間加熱する。また、塗料の付着と加熱乾燥を複数回繰り返して呈色組成物を所定量担持させることも可能である。乾燥後の湿度インジケータにおいて担持された呈色組成物の量は、例えばフィルムなどの平板の担持体において、0.1〜500g/m2程度が好ましく、より好ましくは0.3〜100g/m2である。
【0035】
本発明の水分インジケータは、紙やフィルムなどの担持体に水性塗料を付着させて得られるため、大面積の担持体に呈色組成物を担持させた後に切断することにより、所望の大きさのインジケータを容易に量産することができる。
【0036】
また、本発明の水分インジケータは、樹脂エマルジョンまたは水溶性高分子を用いたことにより、塗膜自体が水分を吸収しやすい。よって、従来の水分インジケータよりも微量の水分に速やかに反応して水分を検知することができる。また、水への溶解度の高い酸性化合物を選択したり、電子供与性呈色化合物の塗料への分散性を高めることで、これらの成分を樹脂バインダー内に微分散させることにより、樹脂バインダーの濡れに対する強度や物理的な強度が高く、担持体からの塗膜の剥がれが生じにくい水分インジケータとすることができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
ロイコ染料「BLUE−63」(山本化成(株)製)1重量部、シュウ酸2水和物(和光純薬工業(株)製)1重量部を、アクリルエマルジョン「DICNAL E−8203WH」(大日本インキ化学工業(株)製;固形成分45重量%)80重量部と2−プロパノール20重量部の混合液に加え、均一になるように攪拌した。この塗料をPETフィルムの表面にワイヤーバー♯20を用いて乾燥後の呈色組成物量が10g/m2となるように塗工し、80℃で1分間乾燥させ、青色の水分インジケータを得た。
【0038】
(実施例2)
ロイコ染料「RED−3」(山本化成(株)製)1重量部、シュウ酸2水和物(和光純薬工業(株)製)1重量部を、ポリビニルアルコール「PVA−105」((株)クラレ製)の10重量%水溶液80重量部と2−プロパノール20重量部の混合液に加え、均一になるように攪拌した。この塗料をPETフィルムの表面にワイヤーバー♯20を用いて乾燥後の呈色組成物量が3g/m2となるように塗工し、80℃で1分間乾燥させ、赤色の水分インジケータを得た。
【0039】
(実施例3)
ロイコ染料「BLUE−63」(山本化成(株)製)1重量部、シュウ酸2水和物(和光純薬工業(株)製)1重量部を、ヒドロキシエチルセルロース(三晶(株)製)の10重量%水溶液80重量部と2−プロパノール20重量部の混合液に加え、均一になるように攪拌した。この塗料をPETフィルムの表面にワイヤーバー♯20を用いて乾燥後の呈色組成物量が3g/m2となるように塗工し、80℃で1分間乾燥させ、青色の水分インジケータを得た。
【0040】
(実施例4)
ロイコ染料「RED−40」(山本化成(株)製)1重量部、シュウ酸2水和物(和光純薬工業(株)製)1重量部を、アクリルエマルジョン「DICNAL E−8203WH」(大日本インキ化学工業(株)製;固形成分45重量%)80重量部と2−プロパノール20重量部の混合液に加え、均一になるように攪拌した。この塗料をPETフィルムの表面にワイヤーバー♯20を用いて乾燥後の呈色組成物量が10g/m2となるように塗工し、80℃で1分間乾燥させ、赤色の水分インジケータを得た。
【0041】
(評価)
上記実施例1〜3の水分インジケータの表面に水(pH=7)を10pl滴下したところ、いずれも滴下した箇所の色が消色した。また、上記実施例1,4の水分インジケータの表面に0.1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液(pH=13)を10pl滴下したところ、いずれも滴下した箇所の色が消色した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、電子供与性呈色化合物、常温において固体である酸性化合物、及び、水系樹脂エマルジョン又は水溶性高分子化合物水溶液とからなる水性塗料であることを特徴とする水分インジケータ用塗料。
【請求項2】
請求項1に記載の水分インジケータ用塗料を担持体に付着させ、加熱して乾燥させることを特徴とする水分インジケータの製造方法。
【請求項3】
担持体と、大気中に曝露されるように該担持体に担持された呈色組成物からなる水分インジケータであって、該呈色組成物が、少なくとも、電子供与性呈色化合物と、常温において固体である酸性化合物と、樹脂バインダーからなることを特徴とする水分インジケータ。

【公開番号】特開2008−111774(P2008−111774A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295991(P2006−295991)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】