説明

水分散体組成物及び積層体

【課題】比較的高い固形分濃度(好ましくは25質量%以上)に調製しながら、分散性に優れ、残渣が抑えられた水分散体組成物を提供する。
【解決手段】(A)エチレン・アクリル酸系共重合体と(B)エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスと(C)酸価が100mgKOH/g以上であり、分子量が3000以下である酸基含有化合物と(D)水とを含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン・アクリル酸系の共重合体が分散された水分散体組成物及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品包装、産業用包装など各種包装分野における密封手段としては、生産性、経済性に優れる点から、ヒートシールが広く利用されている。ヒートシールの利用に広く用いられている熱可塑性重合体等の多くは、低温ヒートシール性を有しないため、別途ヒートシール層を設けることによってシール性が付与されていることが多い。
【0003】
このヒートシール層には、安価で低温でのヒートシール性に優れたポリエチレンが多用されている。
【0004】
近年では、環境問題の高まりから包装材料の薄膜化や減容化が求められ、ヒートシール層の薄膜化が模索されるに至っている。ヒートシール層は、一般に、押出コーティングや共押出しなどの溶融加工による方法では薄膜化が困難であるのに対し、重合体の水分散体を塗布してヒートシール層を形成する態様では、薄膜化が可能になるため有利である。
例えば、酸含量の多いエチレン・アクリル酸共重合体やエチレン・メタクリル酸共重合体は、アルカリにより水に分散可能であり、その水分散体は造膜性に優れており、得られる塗膜は、低温ヒートシール性に優れている。例えば、アンモニアでエチレン・アクリル酸共重合体中の酸性基を中和することによって水分散させることが可能であり、基材上に塗布後、乾燥させてアンモニアを除去すれば、耐水性及び低温ヒートシール性に優れた塗膜が得られる。
【0005】
上記に関連する技術として、特定酸含量のエチレン・メタクリル酸共重合体を使用し、アンモニアをカルボン酸基に対して過剰に用いて中和して得た水性分散体組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。ここでは、アンモニアの使用量(中和の程度)が少ない場合には、安定な水分散液が得られないとされている。
【0006】
また、数平均分子量(Mn)が10000〜20000のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を含有する紙製容器用コーティング剤に関する開示がある(例えば、特許文献2参照)。このコーティング剤は、低分子成分を除去し、あるいは合成条件を制御する等して低分子成分を少なく調整したものである。さらに、分子量分布の狭いエチレン/α,β−不飽和カルボン酸共重合体樹脂をアンモニアを加えて60%中和することで、水系分散媒中に分散された水性分散液が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
一方、金属材料にポリオレフィン系の水分散体を塗布することにより、防錆性能を高めようとする試みは、古くから行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−248141号公報
【特許文献2】特開2003−336191号公報
【特許文献3】特開2002−322212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
水分散体としては、成膜した際の厚膜化や強度アップ、乾燥しやすさの向上の点では、分散液中の樹脂成分の固形分量は高いことが望ましいが、高い固形分量で分散性を安定化させるのは難しい。また、樹脂成分の中和度を高めることにより、分散性を高めることは可能であるが、中和度をあまり高めると粘度上昇を招来し、その後の塗布性などの取り扱い性や用途に制約となるおそれがある。
【0010】
なお、上記のような防錆性能を付与する場合には、金属材料との間の密着性が良好であることが不可欠であり、密着性を高めることで材料端部あるいは金属材料の曲げなどによる変形個所での錆の発生が抑制される。そのため、金属材料に対する防錆機能に優れる水性分散体も必要とされている。
【0011】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、比較的高い固形分濃度(好ましくは25質量%以上)に調製しながら、分散性に優れ、残渣が抑えられた水分散体組成物、及び耐水性に優れた積層体を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、エチレン・アクリル酸系の共重合体を用いた水分散体の調製にあたって、酸性基を持ち、樹脂やワックスが包含される分子量領域より低分子量のロジン等を用いると、比較的低い中和度で良好な分散性が得られる。これにより、固形分割合を高めた組成(例えば固形分量が25質量%以上)でも、水分散体の粘度上昇を低く保てるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0013】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> (A)エチレン・アクリル酸系共重合体と、(B)エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスと、(C)酸価が100mgKOH/g以上であり、分子量が3000以下である酸基含有化合物と、(D)水と、を含有する水分散体組成物である。
【0014】
<2> 前記エチレン・アクリル酸系共重合体、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び前記酸基含有化合物は、分子中の酸基の少なくとも一部がアンモニアにより中和されて水中に分散されている前記<1>に記載の水分散体組成物である。
【0015】
<3> 前記エチレン・アクリル酸系共重合体、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び前記酸基含有化合物中の酸基のアンモニアによる中和度が25モル%以上50モル%以下である前記<1>又は前記<2>に記載の水分散体組成物である。
【0016】
<4> 前記酸基含有化合物は、ロジン、変性ロジン及びその誘導体、ダイマー酸、ジカルボン酸、並びに高級脂肪酸から選ばれる前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の水分散体組成物である。
【0017】
<5> 固形分濃度が25質量%以上である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の水分散体組成物である。
【0018】
<6> 前記(A)エチレン・アクリル酸系共重合体、前記(B)エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び前記(C)酸基含有化合物の合計量に対する(C)酸基含有化合物の含有比率が、1質量%以上30質量%以下である前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の水分散体組成物である。
【0019】
<7> 前記(A)エチレン・アクリル酸系共重合体、前記(B)エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び前記(C)酸基含有化合物の合計量に対する前記(A)エチレン・アクリル酸系共重合体の含有比率が、50質量%以上90質量%以下である前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載の水分散体組成物である。
【0020】
<8> 基材と、該基材上に前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載の水分散体組成物を用いて形成された膜とを有する積層体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、比較的高い固形分濃度(好ましくは25質量%以上)に調製しながら、分散性に優れ、残渣が抑えられた水分散体組成物を提供することができる。また、
本発明によれば、耐水性に優れた積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の水分散体組成物、及びこれを用いた積層体について詳細に説明する。
本発明の水分散体組成物は、(A)エチレン・アクリル酸系共重合体と、(B)エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスと、(C)酸価が100以上であり、分子量が3000以下である酸基含有化合物と、(D)水とを用いて構成されている。本発明の水分散体組成物は、必要に応じて、さらに添加剤等の他の成分を含んでもよい。
【0023】
本発明においては、エチレン・アクリル酸系の共重合体とそのワックスを主な分散質として分散含有された水分散体では、分散性が必ずしも充分ではなく、これにロジン等の酸性基を持つ低分子成分を共存させることで、分散性が著しく向上する。これにより、例えば分散体全量に対する固形分比率が25質量%以上となるような固形分濃度の比較的高い分散系でも、粘度が著しく低減され、残渣の低減効果も大きい。
【0024】
−(A)エチレン・アクリル酸系共重合体−
本発明の水分散体組成物は、エチレン・アクリル酸系共重合体の少なくとも一種を含有する。本発明におけるエチレン・アクリル酸系共重合体は、エチレンに由来する構成単位とアクリル酸に由来する構成単位とを少なくとも含む共重合体(以下、「EAA系共重合体」ともいう。)である。このEAA系共重合体は、エチレン由来の構成単位とアクリル酸由来の構成単位とで構成される2元共重合体のほか、これらの構成単位に加えて他の単量体に由来する構成単位を有する3元以上の共重合体に構成されてもよい。
【0025】
前記他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などを例示することができる。
これら他の単量体は、例えば20質量%以下の割合で含有することが可能であり、高固形分濃度での分散安定性の点で、好ましくは10質量%以下である。
【0026】
本発明におけるEAA系共重合体は、アクリル酸由来の構成単位の割合(アクリル酸の共重合比率)が、共重合体全質量に対して10質量%以上であることが好ましい。割合が10質量%以上とは、アクリル酸が積極的に共重合されて繰り返し単位として含まれることを示す。アクリル酸の共重合比率が10質量%以上であると、より安定した水分散体が得られる。
アクリル酸の共重合比率としては、上記同様の理由から、10〜30質量%の範囲が好ましく、より好ましくは15〜25質量%の範囲である。このとき、エチレンの共重合比率は、70〜90質量%が好ましく、75〜85質量%がより好ましい。
【0027】
本発明におけるEAA系共重合体は、メルトフローレート(MFR)が100〜1500g/10分であることが好ましい。このMFRの範囲は、EAA系共重合体として、これと併用するエチレン・アクリル酸系共重合体ワックスよりも分子サイズの大きい樹脂であることを示す。すなわち、MFRは、エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスと併用する上で、用いられるEAA系共重合体の範囲が特定される。すなわち、本発明におけるEAA系共重合体のMFRが1500g/10分以下にすることで、得られる塗膜の機械的強度が良好に維持され、実使用に適したものが得られる。
なお、MFRは、JIS K 7210−1999に準拠し、190℃、荷重2160gにて測定される値である。以下、MFRについて同様である。
【0028】
本発明におけるEAA系共重合体は、180℃での溶融粘度が10,000mPa・s以上であることが好ましい。溶融粘度が10,000mPa・s以上であるものは、後述のエチレン・アクリル酸系共重合体ワックス(EAA系ワックス)より分子サイズが大きい。本発明におけるEAA系ワックスと併用するEAA系共重合体の溶融粘度が10,000mPa・s以上であると、得られる塗膜の機械的強度を実用上の利用に耐える範囲にすることができる。
【0029】
本発明におけるエチレン・アクリル酸系共重合体は、高温、高圧下のラジカル共重合により得ることができる。
【0030】
EAA系共重合体の水分散体組成物中における含有量としては、エチレン・アクリル酸系共重合体、エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び酸基含有化合物の合計量に対して、50〜90質量%が好ましく、60〜85質量%がより好ましい。この含有量は、50質量%以上であると、成膜された膜の機械的強度を保つことができ、90質量%以下であると、粘度上昇が抑えられ、分散性に優れる。
【0031】
−(B)エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス−
本発明の水分散体組成物は、エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスの少なくとも一種を含有する。本発明におけるエチレン・アクリル酸系共重合体ワックスは、エチレンに由来する構成単位とアクリル酸に由来する構成単位とを少なくとも含む共重合体のワックス(以下、「EAA系ワックス」ともいう。)である。このEAA系ワックスは、エチレン由来の構成単位とアクリル酸由来の構成単位とで構成される2元共重合体のワックスのほか、これらの構成単位にさらに他の単量体由来の構成単位を加えて3元以上とした共重合体のワックスに構成されてもよい。
【0032】
ワックスとは一般に、軟らかく油脂状の固体であるが、本発明におけるEAA系ワックスは、180℃での溶融粘度が2000mPa・s以下であるものを好適に挙げることができる。すなわち、上記溶融粘度の範囲は、メルトフローレート(MFR)が一般に測定できない程度の低分子量であることを示す。
つまり、本発明ではEAA系ワックスとして、これと併用する前記(A)エチレン・アクリル酸系共重合体に比べて分子サイズの小さい樹脂を用いることを示す。これは、前記(A)EAA系共重合体と併用するに際し、これとは異なる成分である(B)EAA系共重合体ワックスの範囲を特定するものである。本発明においては、EAA系ワックスの180℃での溶融粘度のより好ましい範囲は、30mPa・s以上2000mPa・s以下である。
【0033】
本発明におけるEAA系ワックスは、アクリル酸由来の構成単位の割合(アクリル酸の共重合比率)が、共重合体全質量に対して10質量%以上であることが好ましい。割合が10質量%以上とは、アクリル酸が積極的に共重合されて繰り返し単位を含むことを示す。アクリル酸の共重合比率が10質量%以上であると、より安定した水分散体が得られ、得られた水分散体は塗布性に優れる。
アクリル酸の共重合比率としては、上記同様の理由から、10〜25質量%の範囲が好ましく、より好ましくは12〜20質量%の範囲である。このとき、エチレンの共重合比率は、75〜90質量%が好ましく、80〜88質量%がより好ましい。
【0034】
前記他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などを例示することができる。
これら他の単量体は、例えば20質量%以下の割合で含有することが可能であり、高固形分濃度での分散安定性の点で、好ましくは10質量%以下である。
【0035】
このようなEAA系ワックスを、これより溶融粘度の高い前記EAA系共重合体と併用することで、分散にあたりアンモニア等のアルカリ剤で中和する際に、広い中和度の範囲に亘り水に良好に分散させることができる。また、得られた分散体の粘度も低く抑えられるので、固形分濃度の高い領域(例えば25質量%以上)でも、粘度上昇を低く抑えることができる。
水分散体組成物中に含有されるEAA系ワックスの含有比率としては、エチレン・アクリル酸系共重合体、エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び酸基含有化合物の合計量に対して、5〜40質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。この含有量は、5質量%以上であると、粘度上昇が抑えられ、分散性が良好に保たれ、40質量%以下であると、成膜された膜の機械的強度を保つ点で有利である。
【0036】
−(C)酸基含有化合物−
本発明の水分散体組成物は、酸価が100以上であり、分子量が3000以下である酸基含有化合物の少なくとも一種を含有する。酸基含有化合物を含むことで、前記EAA系共重合体及び前記EAA系ワックスを含み、分散質全体の分子量が大きいために必ずしも良好な分散性が確保し難い組成における分散性が著しく改善する。
【0037】
酸基含有化合物の酸価は、100mgKOH/g以上である。酸価が100mgKOH/g未満であると、分子量の大きいEAA系共重合体やEAA系ワックスを含む組成において、分散性を良好に保てない。このような化合物中の酸性基がアルカリ剤で中和されて分散状態が形成されることで、水分散物として良好な分散性が発現する。中でも、酸価は、分散性をより高める観点から、150mgKOH/g以上が好ましく、150mgKOH/g以上250mgKOH/g以下がより好ましい。
なお、酸価は、分子内の酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のmg数で表され、電位差滴定法によりKOHの0.1モル/Lエタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点(終点)までのKOH溶液の滴定量から求められる。
【0038】
酸基含有化合物の分子量は、3000以下である。分子量が3000以下であることは、既述のEAA系ワックスより低分子量であること、すなわちEAA系ワックスとは別の成分として酸基含有化合物をさらに含んでいることを意味する。分子量としては、分散性をより高める観点から、100〜3000の範囲が好ましい。
【0039】
本発明における酸基含有化合物の具体例としては、ロジン、変性ロジン及びその誘導体、ダイマー酸、アジピン酸やセバシン酸、ドデカン二酸などのジカルボン酸、ステアリン酸やオレイン酸、モンタン酸などの高級脂肪酸、などを挙げることができる。
【0040】
前記ロジンは、上市されている市販品として、例えば、荒川化学工業(株)製のパインクリスタルシリーズ(例:パインクリスタルKR−85、同KR−612、同KR−614、同KE−604、同KR−50M等)、ハリマ化成(株)製のハリエスターシリーズ(例:ハリエスターMSR−4(酸価=120〜150mgKOH/g)など)、ハリマックシリーズ(例:ハリマックT−80(酸価=170〜200mgKOH/g)など)を挙げることができる。
【0041】
また、変性ロジン及びその誘導体としては、例えば、部分水添した水添ロジンや、ロジン酸エステル樹脂などの重合ロジン等が挙げられる。
【0042】
前記ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の2分子又はそれ以上の分子が重合反応して得られる多価カルボン酸であり、通常は2種以上の混合物として得られ、混合物として各種の用途に供されている。
また、ダイマー酸は、炭素原子数8〜22の直鎖状又は分岐状の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、その誘導体も含まれる。ダイマー酸の誘導体としては、水素添加物などが挙げられる。具体的には、ダイマー酸に水添して、含有される不飽和結合を還元した水添ダイマー酸などが使用できる。
【0043】
ダイマー酸は、例えば、3−オクテン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸、リノール酸、エライジン酸、パルミトレイン酸、リノレン酸、あるいはこれらの2種以上の混合物等を、あるいは工業的に入手可能なこれら不飽和カルボン酸の混合物であるトール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、パーム油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸などを原料としたものであってもよい。これらダイマー酸としては、モノマー酸やトリマー酸を少量含有するものであってもよい。
従来から、ダイマー酸は通常、モンモリロナイト系白土を触媒として用い、トール油脂肪酸などの不飽和脂肪酸を高温下で二量化して製造することができる。
【0044】
ダイマー酸の例として、下記構造式(1)で表される鎖状ダイマー酸が挙げられる。また、構造式(1)で表される鎖状ダイマー酸のほか、下記構造式(2)又は(3)で表される環状ダイマー酸を含む混合物などが得られる。
【0045】
【化1】

【0046】
工業的に入手可能なダイマー酸としては、例えば、ハリマ化成(株)製のハリダイマーシリーズ(例:ハリダイマー200、同300)、築野食品工業(株)製のツノダイムシリーズ(例:ツノダイム205、同395)、コグニス(株)製のエンポールシリーズ(例:エンポール1026、同1028、同1061、同1062)などが挙げられる。また、水素添加ダイマー酸として、例えば、コグニス(株)製のエンポールシリーズ(例:エンポール1008、同1012)などが挙げられる。
【0047】
酸基含有化合物の水分散体組成物中における含有量としては、エチレン・アクリル酸系共重合体、エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び酸基含有化合物の合計量に対して、1〜30質量%が好ましく、2〜25質量%がより好ましい。酸基含有化合物の含有量は、1質量%以上であると、固形分濃度を高めた場合(例えば水分散体組成物の固形分比率が30質量%以上)でも、良好な分散性が得られ、また30質量%以下であると、成膜された膜の機械的強度を保つ点で有利である。
【0048】
−(D)水−
本発明の水分散体組成物は、水を分散媒とした水分散物として構成されている。
水分散体組成物中における水の含有比率については、特に制限されるものではなく、所望とする固形分比率や、分散性能の調整など場合により適宜選択することができる。水の含有比率は、例えば、水分散体組成物の全質量に対して、60〜80質量%とすることができる。
【0049】
本発明の水分散体組成物は、前記EAA系共重合体、前記EAA系ワックス、及び前記酸基含有化合物中の酸基(特にカルボキシル基)の一部又は全部をアルカリ剤で中和し、共重合体を水に分散させることにより分散液とすることができる。
【0050】
中和に用いる前記アルカリ剤としては、アルカリ金属化合物、アンモニア、アルキルアミン、アルカノールアミンなどを使用できる。
【0051】
前記アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどを例示することができる。
前記アルキルアミンとしては、炭素数1〜5の低級脂肪族アミンが好ましい。低級脂肪族アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノn−プロピルアミン、ジn−プロピルアミン、トリn−プロピルアミン、モノイソブチルアミン、ジイソブチルアミン、トリイソブチルアミン、モノn−ブチルアミン、ジn−ブチルアミン、トリn−ブチルアミンなどを例示することができる。これらの中では、特にモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。
【0052】
前記アルカノールアミンとしては、下記一般式(1)で表されるものが好適に挙げられる。
【化2】

【0053】
前記一般式(1)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、アルキル基、又は1つのヒドロキシ基を有する脂肪族飽和炭化水素基を表し、R〜Rの少なくとも1つが、1つのヒドロキシ基を有する脂肪族飽和炭化水素基である。
【0054】
前記アルカノールアミンと、前記EAA系共重合体、前記EAA系ワックス、及び前記酸基含有化合物との混合形態は、前記EAA系共重合体、前記EAA系ワックス、及び前記酸基含有化合物の中和及び分散が、アルカノールアミンを含む水性媒体中で行なえる形態であれば、特に制限されない。
【0055】
前記1つのヒドロキシ基を有する脂肪族飽和炭化水素基は、C2n+1OHで表される1価の脂肪族飽和アルコールの飽和炭化水素部分(C2n+1)から水素原子を1つ取り除いた1価の基である。
脂肪族飽和アルコールは、1価のアルコールであれば、1級アルコール(例えば、エタノール)、2級アルコール(例えばイソプロピルアルコール)、又は3級アルコール(例えばt−ブチルアルコール)のいずれでもよい。脂肪族飽和アルコールは、直鎖状構造でも、分岐状構造でも、環状構造(脂環式アルコール)でもよい。直鎖状構造の脂肪族飽和アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール(2−プロパノール)、1−ブタノール(n−ブタノール)、1−ヘキサノール、1−ペンタノール等が挙げられる。分岐状構造の脂肪族飽和アルコールとしては、例えば、tert−ブチルアルコール、2−エチル−1−ヘキシルアルコール等が挙げられる。環状構造の脂肪族飽和アルコールとしては、シクロヘキサノール等が挙げられる。
脂肪族飽和アルコールの炭素数は1〜10であることが好ましい。
中でも、性能と入手のし易さやコストの点で、炭素数1〜4の脂肪族飽和アルコールが好ましく、例えばエタノールが、入手のしやすさ等から好ましく使用される。また、前記脂環式アルコールとしては、例えば、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が好適に挙げられる。
【0056】
アルカノールアミンの例としては、ジメチルエタノールアミン〔DMEA;(CH3NCOH〕、ジエチルエタノールアミン〔DEEA;(CNCOH〕、エタノールアミン〔EA;NHOH〕、ジエタノールアミン〔DEA;NH(CHOH)〕、メチルジエタノールアミン〔MDEA;CHN(COH)〕、ブチルエタノールアミン〔BEA;CNHCHOH〕等が挙げられる。
【0057】
中和は、アルカノールアミンを単独使用してもよいが、アルカノールアミンとアンモニアとを併用してもよい。
【0058】
上記した中では、成膜後の膜中に金属等の不純物質が残存せず、臭気がしないことから、アンモニアが好ましい。この場合、前記EAA系共重合体、前記EAA系ワックス及び前記酸基含有化合物中の酸基の一部又は全部がアンモニアで中和されて分散される。
【0059】
前記EAA系共重合体及び前記EAA系ワックス中のカルボキシル基、並びに前記酸基含有化合物中の酸基(例えばカルボキシル基)をアンモニアで中和する場合、アンモニアによる中和度は、粘度上昇を抑える点で、50モル%以下であるのが好ましい。本発明においては、中和度、すなわちEAA系共重合体及びEAA系ワックスに対するアンモニア量を低く抑えて粘度上昇を抑制しつつも、分散の安定性をも高めることができる。
【0060】
前記EAA系共重合体、前記EAA系ワックス中のカルボキシル基、並びに前記酸基含有化合物中の酸基のアンモニアによる中和度は、より好ましくは20〜80モル%であり、さらに好ましくは30〜50モル%であり、特に好ましくは30〜40モル%である。
【0061】
本発明の水分散体組成物中のEAA系共重合体、EAA系ワックス、及び酸価が100mgKOH/g以上であり、分子量が3000以下である酸基含有化合物の合計濃度(固形分[質量])は、25質量%以上であるのが好ましい。一般に25質量%以上の固形分濃度で粘度上昇を抑えて安定した分散を行なうことは難しいが、本発明においては、粘度及び分散性を悪化させずに固形分を高めることができる。この固形分濃度が25質量%以上になると、成膜時に所望範囲に厚膜化でき、成膜後の乾燥負荷(乾燥時間、乾燥温度など)を低減することが可能になる。本発明では、更に高い固形分濃度にすることができ、具体的には30質量%以上、更には40質量%以上にすることが可能である。
【0062】
また、上記の固形分濃度において、本発明の水分散体組成物の粘度(25℃)は、塗布性、取扱い性などの点で、5〜2000mPa・sの範囲が好ましく、より好ましくは20〜1000Pa・sである。
粘度は、ブルックフィールド粘度計(Brookfield社製)を用い、本発明の水分散体組成物を25℃に調整して測定される。
【0063】
本発明の水分散体組成物は、次の方法により高い固形分量で安定に製造することができる。すなわち、
EAA系共重合体とEAA系共重合体ワックスと酸基含有化合物と所望のアルカリ剤(好ましくはアンモニア)と水とを用い、90℃以上、好ましくは130〜160℃の温度で、剪断力を与えながら水中で反応させることによって得られる。例えば、水と、固形分濃度が好ましくは25〜50質量%となる量に相当するEAA系共重合体、EAA系ワックス及び酸基含有化合物と、EAA系共重合体、EAA系ワックス、及び酸基含有化合物中の酸基(好ましくはカルボキシル基)を基準にして前記固形分濃度を得るために必要な量(好ましくは、カルボキシル基の総モル数の20〜80モル%)のアンモニアとを、剪断力をかけることが可能な反応装置(例えば撹拌機付きのオートクレーブ)中に入れ、これを所定温度で剪断力を与えながら反応させることによって得ることができる。反応時間は、反応温度やその他反応条件によっても異なるが、10〜120分程度である。
【0064】
本発明の水分散体組成物には、任意の各種添加剤を配合することができる。
このような添加剤の例としては、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのような多価アルコール、水溶性エポキシ化合物、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、nプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート等のエステル類、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、染料、抗菌剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防錆剤、接着剤、架橋剤、筆記性改良剤、無機充填剤、発泡剤などを挙げることができる。
【0065】
本発明の水分散体組成物は、用途の一例として、防錆塗料あるいは防錆塗料の原料として利用できる。また、本発明の水分散体組成物は、これを基材に塗布して乾燥させることによって得られるヒートシール性の積層体の作製用途に利用することができる。
【0066】
本発明の水分散体組成物を基材の上に塗布等した後に乾燥させて得た塗膜の厚みとしては、通常は1〜20μmであり、好ましくは1〜10μm以下であり、より好ましくは1〜5μmである。厚みが前記範囲内であると、例えば包装材料における減容化が可能であり、また低温ヒートシール性が得られる。更に、防錆膜を形成することができる。
基材上に設けられた膜には、耐水性、耐久性等を高める目的で、電子線照射による架橋処理を施すことができる。
【0067】
また、基材上に本発明の水分散体組成物を塗布した後に、80〜200℃程度の温度で加熱乾燥して水、アミン、アルカノールアミン等の揮発性成分を蒸発させることによって、所望厚みの塗膜が形成された積層体を得ることができる。
また、基材の材質としては、ポリオレフィンやエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体又はそのアイオノマー、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体又はそのアイオノマー等のエチレン・極性モノマー共重合体などのオレフィン系重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS系樹脂、スチレン・ブタジエンブロック共重合体等のスチレン系重合体、ポリビニルアルコールやエチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール重合体、これらの任意のブレンド材、金属、木材、紙、繊維製品、皮革などを例示することができる。
【0068】
前記ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどの単独重合体あるいはこれらオレフィン同士の共重合体が挙げられる。具体的には、各種ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンなどである。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン(エチレン・α−オレフィン共重合体)などがある。直鎖低密度ポリエチレンにおけるα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができる。直鎖低密度ポリエチレンとしては、いずれの触媒系で製造されたものでもよく、例えばシングルサイト触媒やマルチサイト触媒の存在下で共重合したものを使用することができる。
【0069】
基材として使用可能なポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどを挙げることができる。また、ポリアミドとしては、例えば、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合、あるいは前記ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合などにより得られるものが挙げられ、例えば一般にナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610、MXナイロンなどとして市販されているものを用いることができる。ポリアミドとしては、ナイロン6やナイロン66が特に好適である。
【0070】
前記ヒートシール性の積層体では、包装材料としての利用あるいは防錆塗料などの金属防錆用の材料としての利用の観点からは、前記基材として、フィルム基材又は金属基材が好ましい。フィルム基材としては、例えば厚みが10〜300μm程度のものが好適であり、特に減容化目的の場合には10〜100μm程度の厚みのフィルムが好ましい。具体的には、機能性、例えばガスバリアー性、防湿性、耐熱性、透明性、強靱性、耐磨耗性等に優れたもの等が好ましい。例えば、極性材料あるいは非極性材料の延伸又は無延伸フィルムが挙げられる。フィルム基材は、単層構造のほか、2層構造以上からなる積層フィルムであってもよい。この積層フィルムは、中間層に接着層を有するものであってもよい。具体的な例として、ポリエステル、ポリアミド、エチレン・ビニルアルコール共重合体などの無延伸フィルム、1軸延伸フィルム又は2軸延伸フィルム、ポリプロピレンの2軸延伸フィルムや高密度ポリエチレンの1軸延伸フィルムなどのポリオレフィン延伸フィルム、ポリ−4−メチルペンテン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン無延伸フィルム、前記各フィルムのアルミ蒸着、シリカ蒸着、又はアルミナ蒸着などの金属又は無機酸化物蒸着フィルム、アルミニウム箔、紙、天然繊維、半合成繊維又は天然繊維により構成される織布又は不織布、天然皮革又は合成皮革などを挙げることができる。
【0071】
また、防錆塗料あるいは防錆塗料の原料として利用した場合、防錆性の金属基材が得られる。この場合、金属基材を構成する金属材料は厚みが例えば500〜5000μm、特に1000〜2000μmの板状物が好適である。なお、この範囲から外れる厚みのものも使用できる。
【0072】
前記金属又は無機酸化物蒸着フィルムとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどの延伸又は無延伸のフィルムに、アルミニウム等の金属、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタン等の無機酸化物を真空蒸着、化学メッキ、スパッタリングなどにより蒸着したものである。蒸着厚みは、例えば、50〜2000オングストローム程度のものが好適である。
【0073】
フィルム基材が積層フィルムである場合、前記例示のフィルムを少なくとも1層含む積層フィルムが好ましい。また、積層フィルムが接着層を含む場合には、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンなどを接着層として使用することができる。
【0074】
基材には、接着性等を改良する目的で、コロナ処理を施していてもよく、予めプライマー処理を施しておいてもよい。特に樹脂フィルムを基材とする場合は、プライマー処理を施すことが好ましい。
【0075】
基材の上に本発明の水分散体組成物を塗布する場合、塗布は、公知の方法、例えば、ロール塗布、リバースロール塗布、ドクター塗布、刷毛塗り、スプレー塗布などのコーティング方式や、スクリーン印刷、グラビア印刷、彫刻ロール印刷、フレキソ印刷などの印刷方式を採用して行なえる。
【0076】
本発明の水分散物組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で他の重合体分散物と任意割合で配合してもよい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0078】
以下の実施例において、「エチレン含量」はエチレン由来の繰り返し構成単位の共重合比率を、「アクリル酸含量」はアクリル酸由来の繰り返し構成単位の共重合比率を示す。MFRは、JIS K 7210−1999に準拠し、190℃、荷重2160gにて測定したメルフローレート値である。
【0079】
(実施例1)
300mlオートクレーブに、エチレン・アクリル酸共重合体(エチレン含量:80質量%、アクリル酸含量:20質量%、MFR=300g/10分;以下、EAA共重合体Aという。)75部と、ビーズ状のエチレン・アクリル酸ワックス(エチレン含量:85質量%、アクリル酸含量:15質量%、酸価=120mgKOH/g;以下、EAAワックスBという。)22.5部と、ロジン(パインクリスタルKR−85、酸価=165〜175mgKOH/g、荒川化学工業(株)製)2.5部と、イオン交換水190部と、10質量%のアンモニア水溶液19部とを加え、温度150℃、攪拌速度800rpmで1時間攪拌した。このとき、アンモニア中和度は35モル%であった。その後、室温下で1〜3℃/分程度の降温速度で徐冷し、水分散体を得た。得られた水分散体の固形分濃度は、35質量%であった。
【0080】
次に、得られた水分散体に対して、下記の評価1を行なった。測定評価の結果は、下記表2に示す。
【0081】
−評価1−
[1]粘度
水分散体の25℃での粘度を、ブルックフィールド粘度計(Brookfield社製)を用いて測定した。
【0082】
[2]透明性
水分散体の色相を目視観察すると共に、UV分光光度計で546nmでの光線透過率を測定した。
【0083】
[3]粒径
水分散体をイオン交換水で5倍に希釈し、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−500〔(株)堀場製作所製〕を用いて、体積平均の粒子サイズ[nm]を測定した。
【0084】
[4]pH
水分散体を25℃に調整し、pHメータ〔(株)堀場製作所製〕を用いて25℃でのpHを測定した。
【0085】
[5]残渣
水分散体50gとイオン交換水150gをよく混合し、150メッシュの金網でろ過し、金網上に残った残渣を重量で測定した。
【0086】
次に、得られた水分散体を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)、又はJIS G 3141で規定される0.5mm鋼板(基材)の上にバーコーター(No.18)により塗布し、厚み10μmの塗膜を形成した後、この塗膜を温度100℃で3分間、オーブンにて乾燥させ、積層フィルム、被覆鋼板を得た。
【0087】
−評価2−
[6]塗工性
PET上又は鋼板上に塗布する際の塗工性を目視で観察し、下記評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
○:均一な塗工を有する
×:塗工性が不均一である若しくは塗工できない
【0088】
[7]塗膜状態
得られた積層フィルム、被覆鋼板の塗膜表面を目視により観察し、下記評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
○:均一な塗膜が生成している
×:塗膜が不均一である若しくは塗膜が形成していない
【0089】
(実施例2〜3)
実施例1において、EAAワックスB及びロジンの含有量を下記表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水分散体並びに積層フィルム及び被覆鋼板を作製すると共に、評価1〜2を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0090】
(実施例4)
実施例2において、ロジン(パインクリスタルKR−85)を、パインクリスタルKE−604(酸価=230〜245mgKOH/g)、荒川化学工業(株)製)に代えたこと以外は、実施例2と同様にして、水分散体並びに積層フィルム及び被覆鋼板を作製すると共に、評価1〜2を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0091】
(実施例5〜6)
実施例1において、EAA共重合体A、EAAワックスB、及びロジンの含有量を、それぞれ下記表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水分散体並びに積層フィルム及び被覆鋼板を作製すると共に、評価1〜2を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0092】
(比較例1)
実施例1において、EAAワックスB及びロジンを含有しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、水分散体並びに積層フィルム及び被覆鋼板を作製すると共に、評価1〜2を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0093】
【表1】



【0094】
【表2】



【0095】
前記表2に示すように、実施例では、35%の固形分濃度に調整した場合に、アンモニア中和度を高めることなく、粘度上昇が大幅に抑制され、従来に比べて分散性のより良好な水分散体が得られ。残渣も低減された。また、水分散体のPET基材、鋼板上への塗布性もよく、得られた塗膜の状態も良好で耐水性、防錆性(耐食性)に優れていた。
これに対し、ロジンを用いないあるいはロジンを含めてもその酸価が低すぎる比較例では、粘度上昇を抑えきれず、また残渣も見られた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の水分散体組成物は、防錆塗料あるいは防錆塗料の原料としての利用、及びヒートシール性の積層体の作製などの用途に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン・アクリル酸系共重合体と、
(B)エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスと、
(C)酸価が100mgKOH/g以上であり、分子量が3000以下である酸基含有化合物と、
(D)水と、
を含有する水分散体組成物。
【請求項2】
前記エチレン・アクリル酸系共重合体、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び前記酸基含有化合物は、分子中の酸基の少なくとも一部がアンモニアにより中和されて水中に分散されている請求項1に記載の水分散体組成物。
【請求項3】
前記エチレン・アクリル酸系共重合体、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び前記酸基含有化合物中の酸基のアンモニアによる中和度が25モル%以上50モル%以下である請求項1又は請求項2に記載の水分散体組成物。
【請求項4】
前記酸基含有化合物は、ロジン、変性ロジン及びその誘導体、ダイマー酸、ジカルボン酸、並びに高級脂肪酸から選ばれる請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水分散体組成物。
【請求項5】
固形分濃度が25質量%以上である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水分散体組成物。
【請求項6】
前記エチレン・アクリル酸系共重合体、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び前記酸基含有化合物の合計量に対する前記酸基含有化合物の含有比率が、1質量%以上30質量%以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水分散体組成物。
【請求項7】
前記エチレン・アクリル酸系共重合体、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス、及び前記酸基含有化合物の合計量に対する前記エチレン・アクリル酸系共重合体の含有比率が、50質量%以上90質量%以下である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水分散体組成物。
【請求項8】
基材と、該基材上に請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の水分散体組成物を用いて形成された膜とを有する積層体。

【公開番号】特開2012−214571(P2012−214571A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79590(P2011−79590)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】