説明

水分散型防錆塗料用組成物

【課題】 耐アルカリ性が優れた防錆塗料用組成物を提供する。
【解決手段】 体積平均粒径が0.02〜5μmで水分散した、本発明者らは鋭意研究の結果、1価の金属イオン及び/又はアミンで中和されたアイオノマー樹脂(A)、オキサゾリン基を1分子中に2個以上有する水溶性又は水分散性多官能オキザゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、シランカップリング剤(D)、及びカルボキシル基との反応性を有する水溶性ジルコニウム化合物(E)を含有する水分散型防錆塗料用組成物であり、また、この組成物からなるノンクロメート鋼板用防錆塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ処理後の防錆性に優れた水分散型防錆塗料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
主として炭化水素から構成される高分子鎖からなり、側鎖に有するカルボキシル基の一部が金属陽イオンで中和されている部分中和物であるアイオノマー樹脂は、各種基材、特に、金属と良好な密着性を有することはよく知られている。例えば、日本接着学会誌、Vol.19、No.3、p95−101(1983)にアルカリ金属や2価金属などの架橋イオンの種類によってアイオノマー樹脂の塗膜物性や密着度に違いが生ずることが報告されている。また、このアイオノマー樹脂から成る防錆層は耐水性が優れるため、アイオノマー樹脂を金属基材の防錆材として使用できることも知られている。しかも、Na、Kなどの1価金属イオンやアミンで中和されたアイオノマー樹脂は水中に分散することが可能であるため、アイオノマー樹脂の水分散体を使用した種々の防錆処理材が開発され、現在、各種産業分野に広く用いられている。
【0003】
しかし、このようなアイオノマー樹脂の単独処理では顧客が要求する耐錆性や密着性などの性能に応え得るものではなく、主に、下地にクロメート処理などを施した有機被覆複合鋼板の製造に使用されてきた。しかし、近年、世界的規模で環境問題に関心が集まり、6価クロムを使用しない表面処理金属製品の要求が高まっている。そのため、クロメート下地処理を行わずに、有機樹脂による1段処理のみで従来並みの防錆性や密着性などを有する防錆塗料が求められるようになった。これらの要求に答えるため、すでに種々の検討がなされている。例えば、特開平11-012411号公報には、防錆性能を向上するため2価の金属で中和されたアイオノマー樹脂、エポキシ基含有化合物、アイオノマー樹脂とエポキシ基含有化合物の反応物とからなる水性分散体組成物が開示されている。しかし、本発明者らが評価したところでは、上記の開示された技術では、アルカリ脱脂処理後に塩水噴霧試験すると発錆し防錆性(以下、耐アルカリ性と略す)は十分ではなかった。更に、最近、防錆塗料の薄膜化が進み、防錆塗料は従来に増して高い耐アルカリ性を求められている。
【特許文献1】特開平11-012411号公報
【非特許文献1】日本接着学会誌、Vol.19、No.3、p95−101(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来の問題点、すなわち、耐アルカリ性が優れた防錆塗料用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究の結果、1価の金属イオン及び/又はアミンで中和されたアイオノマー樹脂(A)、オキサゾリン基を1分子中に2個以上有する水溶性又は水分散性多官能オキザゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、シランカップリング剤(D)、及びカルボキシル基との反応性を有する水溶性ジルコニウム化合物(E)を含有する防錆塗料用組成物が優れた耐アルカリ性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、
[1]1価の金属イオン及び/又はアミンで中和されたアイオノマー樹脂(A)、オキサゾリン基を1分子中に2個以上有する水溶性又は水分散性多官能オキザゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、及びシランカップリング剤(D)を含有する水分散型防錆塗料用組成物。
[2]1価の金属イオン及び/又はアミンで中和されたアイオノマー樹脂(A)、オキサゾリン基を1分子中に2個以上有する水溶性又は水分散性多官能オキザゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、シランカップリング剤(D)、及びカルボキシル基との反応性を有する水溶性ジルコニウム化合物(E)を含有する水分散型防錆塗料用組成物。
[3]アイオノマー樹脂(A)100重量部に対して、オキサゾリン基を1分子中に2個以上有する水溶性又は水分散性多官能オキザゾリン樹脂樹脂(B)を10〜70重量部、触媒(C)を0.1〜10重量部、シランカップリング剤(D)を0.1〜5重量部、水溶性ジルコニウム化合物(E)を0.0〜5重量部の割合で含有する水分散型防錆塗料用組成物。
[4]アイオノマー樹脂(A)がエチレンとアクリル酸及び/又はメタクリル酸の共重合体であって、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を5〜40重量%含有し、かつ、アクリル酸及び/又はメタクリル酸が1価の金属イオンで20〜90%中和されていることを特徴とする水分散型防錆塗料用組成物。
[5]アイオノマー樹脂(A)がエチレンとアクリル酸及び/又はメタクリル酸の共重合体であって、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を5〜40重量%含有し、かつ、アクリル酸及び/又はメタクリル酸がアミンで50%以上中和されていることを特徴とする水分散型防錆塗料用組成物。
[6]アイオノマー樹脂(A)のアクリル酸及び/又はメタクリル酸の中和に使用されるアミンがアンモニア、トリメチルアミン、モノエタノールアミンである水分散型防錆塗料用組成物。
[7]触媒(C)が酸、酸エステル、オニウム塩、リチウム塩から選ばれた化合物である水分散型防錆塗料用組成物。
[8]上記記載の水分散型防錆塗料用組成物からなるノンクロメート鋼板用防錆塗料。
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防錆塗料用組成物によれば、優れた耐アルカリ性を付与することができ、特に、ノンクロメート鋼板用防錆塗料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の水分散型防錆塗料用組成物(以下、組成物と略す)の主成分であるアイオノマー樹脂(A)は主として炭化水素から構成される高分子主鎖から成り、側鎖にカルボキシル基を有し、該カルボキシル基の少なくとも1部が1価の金属イオン及び/又はアミンで中和された重合体である。このアイオノマー樹脂の具体例として、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体であって、含有するカルボキシル基の少なくとも1部が1価の金属イオン及び/又はアミンで中和された部分中和物から成るアイオノマー樹脂を挙げることができる。
【0010】
このアイオノマ−樹脂(A)の主鎖を構成するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、ランダム共重合体でもよいし、ポリエチレンへの不飽和カルボン酸のグラフト共重合体でもよい。特に、透明性の点で、エチレン−不飽和カルボン酸ランダム共重合体が好ましい。また、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、1種類の不飽和カルボン酸のみでもよいし、2種類以上の不飽和カルボン酸を含むものでもよい。
【0011】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の成分である不飽和カルボン酸としては、炭素数3〜8の不飽和カルボン酸などを挙げることができる。炭素数3〜8の不飽和カルボン酸の具体的例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、グルタコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸などを挙げることができる。これらの中では、特に、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0012】
また、このアイオノマー樹脂(A)の主鎖を構成するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸に加えて第3成分を含んでいてもよい。この第3成分としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチルなどの不飽和カルボン酸エステル、酢酸ビニルエステルを挙げることができる。尚、(メタ)アクリル酸メチルのような記載は、アクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸メチル示し、以下(メタ)とは同様の意味である。
【0013】
このエチレン−不飽和カルボン酸共重合体におけるエチレンと不飽和カルボン酸の含有割合は、アイオノマ−樹脂(A)100重量中、通常、エチレン95〜60重量%、不飽和カルボン酸5〜40重量%の割合であり、好ましくは、エチレン90〜75重量%、不飽和カルボン酸10〜25重量%の割合であり、更に好ましくは、エチレン85〜78重量%、不飽和カルボン酸15〜22重量%の割合である。また、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が第3成分を含む場合は、第3成分は40重量%以下の量で存在することが好ましい。エチレン含有割合が上記の範囲にあると、安定した分散体が得られ、また、鋼板に対する密着性が良好で、更に耐アルカリ性が当初の目的を達成することができる。 このアイオノマー樹脂(A)において、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の側鎖であるカルボキシル基は部分的に1価の金属イオン及び/又はアミンで中和されている。
【0014】
本発明において、アイオノマー樹脂を中和する1価の金属イオンとしては、Li、Na、K、Rbなどを挙げることができる。また、アイオノマー樹脂を中和するアミンとしては、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モルフォリン、ピペリジン、モノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを挙げることができる。これらの中でも、Na、K、アンモニア、トリメチルアミン、モノエタノールアミンが好ましい。また、1価の金属イオンとアミンを併用することもできる。
【0015】
アイオノマー樹脂(A)において、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の側鎖であるカルボキシル基の全量に対して、1価の金属イオンで中和されたカルボキシル基の割合、すなわち、中和度は、耐アルカリ性を付与するためには、通常20〜90%であり、好ましくは30〜80%である。一方、アミンで中和する場合には、中和度は、通常50%以上好ましく60%以上である。中和度がこの範囲であると、安定した水分散体が得られ、また耐アルカリ性が良好である。
【0016】
また、アイオノマー樹脂(A)のMFRは、通常0.05〜500g/10分であり、好ましくは0.1〜400g/10分である。なお、MFRの測定はASTM D 1238による。 MFRがこの範囲であると、安定した水分散体を得ることができ、また塗膜強度が向上するので好ましい。
【0017】
このアイオノマー樹脂(A)の製造は、例えば、エチレンと不飽和カルボン酸、及び必要に応じて第3成分を高圧ラジカル重合法により共重合させ、得られるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基を、前記の1価金属イオンを有する化合物またはアミンで中和処理する方法等の方法に従って行うことができる。また、この製造は、押出機に所定の成分を供給して溶融混錬して反応させても良いし、水あるいは適当な有機溶剤中で行っても良い。
【0018】
前記1価の金属イオンを有する化合物としては、例えば、LiOH、NaOH、KOH、RbOH等を挙げることができる。これらの中で、NaOHとKOHが好ましい。
次に、本発明の必須成分であるオキサゾリン基を1分子中2個以上有する水溶性又は水分散性多官能オキサゾリン樹脂(B)は、例えば、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリン化合物と(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール等の(メタ)アクリルエステル類、(メタ)アクリル酸アミド酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレンスチレンスルホン酸ナトリウム等のオキサゾリン基と反応しない共重合可能な単量体との共重合体の水溶性又は水分散体共重合体である。具体的な例として、日本触媒(株)の製品であるエポクロスK−1010E、K−1020E、K−1030E、K−2010E、K−2020E、K−2030E、W−500等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中では、エポクロスK−1030EとK−2030Eが好ましい。水溶性又は水分散性多官能オキサゾリン樹脂(B)の分子量は、塗膜の機械的強度の点で、通常500以上であり、好ましくは1000以上、更に好ましくは1500以上である。
また、水溶性及び/又は水分散多官能オキサゾリン樹脂(B)のオキサゾリン基当量は、通常、200〜5000g/当量、好ましくは250〜4000g/当量、更に好ましくは300〜3000g/当量である。オキサゾリン基当量がこの範囲であると、塗膜強度、耐アルカリ性の点で好ましい。また、水分散性の多官能オキサゾリン樹脂(B)が好ましい。本発明の組成物において、オキサゾリン基を1分子中2個以上有する水溶性又は水分散多官能オキサゾリン樹脂(B)は、アイオノマー樹脂(A)100重量部に対して、通常10〜70重量部、好ましくは10〜65重量部、更に好ましくは15〜60重量部である。水溶性又は水分散多官能オキサゾリン樹脂(B)の配合量がこの範囲であると、塗膜強度、耐アルカリ性の点で好ましい。
【0019】
次に、本発明の必須成分であるカルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)として酸、酸エステル、オニウム塩、リチウム塩類等が挙げられる。具体的には、テトラメチルホスホニウムクロライド、テトラエチルホスホニウムクロライド、メチルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド等の第4級ホスホニウム塩、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のハロゲン化物又はその水酸化物等、リン酸、リン酸水素1アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、フェニルリン酸、フィニルリン酸アンモニウム、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸アンモニウム等の酸又はそのアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルクロライド等の第4級アンモニウム塩又はその水酸化物等を挙げることができる。この中で、テトラメチルホスホニウムクロライド、リチウムブロマイド、リチウムクロライド、水酸化リチウム、リン酸水素2アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルヒドロキサイドが好ましく、特に、リチウムブロマイド、水酸化リチウム、リン酸水素2アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドが好ましい。
本発明の組成物において、触媒(C)の配合量は、アイオノマー樹脂(A)100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜7重量部、更に好ましくは、0.3〜5重量部である。触媒(C)の配合量がこの範囲であると、塗膜強度、耐アルカリ性の点で好ましい。
【0020】
本発明の必須成分であるシランカップリング剤(D)は、通常のシランカップリング剤を挙げることができる。エポキシ基、アミノ基又はアミド基を有するシランカップリング剤が好ましく、特に、エポキシ基を有するシランカップリング剤が更に好ましい。
シランカップリング剤の具体的な例として、信越化学のシランカップリング剤KBM−303、KBM−403、KBM−603、KBM−903、KBM−585等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。本発明の組成物において、アイオノマー樹脂(A)100重量部に対して、シランカップリング剤(D)の割合は、塗膜強度、耐アルカリ性の点で、通常0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜4重量部、更に好ましくは0.3〜3重量部が好ましい。
【0021】
本発明に含まれる、カルボキシル基と反応し得る水溶性ジルコニウム化合物(E)としては、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート等を挙げることができる。これらの中で、炭酸ジルコニウムアンモニウムと炭酸ジルコニウムカリウムが好ましく、特に、炭酸ジルコニウムアンモニウムが好ましい。
本発明の組成物において、カルボキシル基と反応し得る水溶性ジルコニウム化合物(E)の配合量は、樹脂の保存安定性の点で、アイオノマー樹脂(A)100重量部に対して、通常0.0〜5重量部、好ましくは0.0〜3重量部、更に好ましくは0.1〜2重量部である。
本発明の組成物の体積平均粒径(マイクロトラック UPA 日機装(株))は、水分散体の安定性、塗膜強度の点で、通常0.01〜5μmであり、好ましくは0.01〜1μm、更に好ましくは0.01〜0.5μmである。なお、本発明の組成物においては、アイオノマー樹脂(A)、水溶性又は水分散性多官能オキサゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、シランカップリング剤(D)、ジルコニウム化合物(E)からなる水分散体の固形分濃度は、特に制限されず、塗装方法、塗装に使用される装置に応じて適宜調整される。通常は(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)の合計量100重量部に対して水100〜2000重量部の割合で用いられる。
【0022】
また、本発明の組成物は各成分を室温でブレンドして鋼板に塗布することもできるが、本発明の組成物をプレ反応させてから塗布することもできる。プレ反応条件としては40〜120℃で5〜100分間、好ましくは、50〜100℃で、10〜60分間、特に、50〜80℃で10〜60分間が好ましい。
【0023】
本発明の組成物は、アイオノマー樹脂(A)、多官能オキサゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、シランカップリング剤(D)、ジルコニウム化合物(E)以外に、必要に応じて、各種の樹脂、配合剤等の他の成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。
【0024】
他の成分としては、水溶性アミノ樹脂、水分散エポキシ樹脂等の水溶性または水分散樹脂、有機増粘剤、無機増粘剤、防錆剤、シリカ等の充填剤等が挙げられる。
【0025】
水溶性アミノ樹脂は、塗膜強度を向上させるために用いられ、例えば、水溶性メラミン樹脂、ヘキサメトキシメラミン、メチロール化ベンゾグアナミン樹脂、メチロール尿素樹脂等が挙げられ、その添加量は、アイオノマー樹脂(A)、多官能オキサゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、シランカップリング剤(D)、ジルコニウム化合物(E)の合計100重量部に対して1〜20重量部が好ましく、特に、2〜15重量部が好ましい。
【0026】
水分散エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンを原料として製造したビスフェノールB型エポキシ樹脂、または、その他のエポキシ樹脂を界面活性剤を用いて水分散したもの、あるいは、片末端基が1級アミンであるポリアルキレングリコールとエポキシ樹脂を反応させて合成した自己乳化性エポキシ樹脂等の水分散体等が挙げられ、その配合量は、アイオノマー樹脂(A)、多官能オキサゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、シランカップリング剤(D)ジルコニウム化合物(E)、合計100重量部に対して1〜50重量部が好ましく、5〜35重量部が更に好ましい。
【0027】
本発明では組成物を、鋼板上に塗布し、乾燥、硬化して塗膜を形成させる。組成物の塗布は、スプレー、カーテン、フローコーター、ロールコーター、刷毛塗り、浸せきのいずれの方法によっても行うことができる。組成物を塗布した後、自然乾燥でもよいが、焼き付けを行うことが好ましい。通常、焼き付け温度は60℃〜500℃で、1〜120秒加熱することにより耐アルカリ性が良好な塗膜を形成することができる。
【0028】
以下、実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
鋼板としては電気亜鉛メッキ鋼板(メッキ付着量:20g/m)を用い、この鋼板に焼き付けた塗膜の耐アルカリ性の評価方法を以下に記す方法で評価した。
耐アルカリ性:
32gの脱脂剤(日本パーカライジング社製、ファインクリーナーL4460A:20g、L4460B:12g)を水で1Lに希釈して処理液(pH:約13)を調製する。以下の実施例で示した防錆処理剤を鋼板に塗布後焼き付けた防錆鋼板試料を60℃の上記処理液に5分間浸せきする。そして、水洗して60℃で1時間乾燥した後、塗膜の状態を観察して評点をつける。引き続き、SST試験(5%NaCl水溶液噴霧、35℃)を48時間行ってから発錆面積を測定する。なお、評点は五段階で示し、5:良好(塗膜の変化なし)、1:悪い(全面溶解or全面浮き上がり)とする。
【実施例1】
【0029】
内容積1.5LのオートクレーブにNaイオンで中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体(MFR(190℃)=1.1g/10分、メタクリル酸含量20重量%、中和度50%)260g、水740gを入れて150℃に昇温した後、2時間攪拌して水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分濃度26.5%、粘度125mPa・s、pH10.0、平均粒径0.02μmであった。この水分散体100重量部にエポクロスK−2030E(日本触媒製、水分散性多官能オキサゾリン基含有ポリマー、オキサゾリン当量:550g/当量)を40重量部、触媒であるテトラメチルアンモニウムクロライドを1.0重量部、炭酸ジルコニウムアンモニウム(第一稀元素化学工業製、商品名:ベイコート20)を0.5重量部、シランカップリング剤(信越シリコーン製、商品名:KBE−403)を1重量部、コロイダルシリカ(日産化学製、商品名:スノーテックス)を30重量部、を配合して防錆処理剤を調製した。この防錆処理剤をバーコーターを使用して、乾燥後膜厚1.0μmになるように塗布し、250℃のエア−オーブンに入れて鋼板到達温度が150℃になるまで焼き付けて防錆鋼板試料を作製した。この防錆鋼板試料の耐アルカリ性を評価し、その結果を表2に示した。
【実施例2】
【0030】
内容積1.5LのオートクレーブにNaイオンで中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体(MFR(190℃)=1.1g/10分、メタクリル酸含量20重量%、中和度50%)260g、水740gを入れて150℃に昇温した後、2時間攪拌して水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分濃度26.5%、粘度125mPa・s、pH10.0、平均粒径0.02μmであった。この水分散体100重量部にエポクロスK−1030E(日本触媒製、水分散性多官能オキサゾリン基含有ポリマー、オキサゾリン当量:1100g/当量)を60重量部、触媒であるテトラメチルアンモニウムクロライドを1.0重量部、シランカップリング剤(信越シリコーン製、商品名:KBE−403)を1.0重量部、コロイダルシリカ(日産化学製、商品名:スノーテックス)を30重量部、を配合して防錆処理剤を調製した。この防錆処理剤をバーコーターを使用して、乾燥後膜厚1.0μmになるように塗布し、250℃のエア−オーブンに入れて鋼板到達温度が150℃になるまで焼き付けて防錆鋼板試料を作製した。この防錆鋼板試料の耐アルカリ性を評価し、その結果を表2に示した。
【実施例3】
【0031】
内容積1.5LのオートクレーブにNaイオンで中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体(MFR(190℃)=1.1g/10分、メタクリル酸含量20重量%、中和度50%)260g、水740gを入れて150℃に昇温した後、2時間攪拌して水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分濃度26.5%、粘度125mPa・s、pH10.0、平均粒径0.02μmであった。この水分散体100重量部にエポクロスK−2030E(日本触媒製、水分散性多官能オキサゾリン基含有ポリマー、オキサゾリン当量:550g/当量)を30重量部、触媒であるリチウムブロマイドを1.0重量部、炭酸ジルコニウムアンモニウム(第一稀元素化学工業製、商品名:ベイコート20)を0.3重量部、シランカップリング剤(信越シリコーン製、商品名:KBE−403)を1.0重量部、コロイダルシリカ(日産化学製、商品名:スノーテックス)を30重量部、を配合して防錆処理剤を調製した。この防錆処理剤をバーコーターを使用して、乾燥後膜厚1.0μmになるように塗布し、250℃のエア−オーブンに入れて鋼板到達温度が150℃になるまで焼き付けて防錆鋼板試料を作製した。この防錆鋼板試料の耐アルカリ性を評価し、その結果を表2に示した。
【実施例4】
【0032】
内容積1.5LのオートクレーブにNaイオンで中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体(MFR(190℃)=50.0g/10分、メタクリル酸含量12重量%、中和度60%)260g、水740gを入れて150℃に昇温した後、2時間攪拌して水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分濃度26.5%、粘度250mPa・s、pH10.0、平均粒径0.25μmであった。この水分散体100重量部にエポクロスK−2020E(日本触媒製、水分散性多官能オキサゾリン基含有ポリマー、オキサゾリン当量:550g/当量)を30重量部、触媒であるリン酸水素2アンモニウムを1.0重量部、炭酸ジルコニウムアンモニウム(第一稀元素化学工業製、商品名:ベイコート20)を0.5重量部、シランカップリング剤(信越シリコーン製、商品名:KBE−403)を1.0重量部、コロイダルシリカ(日産化学製、商品名:スノーテックス)を30重量部、を配合して防錆処理剤を調製した。この防錆処理剤をバーコーターを使用して、乾燥後膜厚1.0μmになるように塗布し、250℃のエア−オーブンに入れて鋼板到達温度が150℃になるまで焼き付けて防錆鋼板試料を作製した。この防錆鋼板試料の耐アルカリ性と耐粘着テープ剥離性を評価し、その結果を表2に示した。
【実施例5】
【0033】
内容積1.5LのオートクレーブにNaイオンで中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体(MFR(190℃)=0.9g/10分、メタクリル酸含量20重量%、中和度20%)260g、水740gを入れて150℃に昇温した後、2時間攪拌して水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分濃度26.5%、粘度125mPa・s、pH10.0、平均粒径0.02μmであった。この水分散体100重量部にエポクロスK−1020E(日本触媒製、水分散性多官能オキサゾリン基含有ポリマー、オキサゾリン当量:1100g/当量)を60重量部、触媒であるテトラメチルアンモニウムヒドロキサイドを1.0重量部、シランカップリング剤(信越シリコーン製、商品名:KBE−403)を1.0重量部、コロイダルシリカ(日産化学製、商品名:スノーテックス)を30重量部、を配合して防錆処理剤を調製した。この防錆処理剤をバーコーターを使用して、乾燥後膜厚1.0μmになるように塗布し、250℃のエア−オーブンに入れて鋼板到達温度が150℃になるまで焼き付けて防錆鋼板試料を作製した。この防錆鋼板試料の耐アルカリ性と耐粘着テープ剥離性を評価し、その結果を表2に示した。
[比較例1]
エポクロスK−2030Eとテトラメチルアンモニウムクロライド、炭酸ジルコニウムアンモニウムを添加しない以外は実施例1と同様にして防錆鋼板試料を調製し、耐アルカリ性を評価した。
[比較例2]
エポクロスK−2030Eとテトラメチルアンモニウムクロライドを添加しない以外は実施例1と同様にして防錆鋼板試料を調製し、耐アルカリ性を評価した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1価の金属イオン及び/又はアミンで中和されたアイオノマー樹脂(A)、オキサゾリン基を1分子中に2個以上有する水溶性又は水分散性多官能オキザゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、及びシランカップリング剤(D)を含有する水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項2】
1価の金属イオン及び/又はアミンで中和されたアイオノマー樹脂(A)、オキサゾリン基を1分子中に2個以上有する水溶性又は水分散性多官能オキザゾリン樹脂(B)、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応を促進する触媒(C)、シランカップリング剤(D)、及びカルボキシル基との反応性を有する水溶性ジルコニウム化合物(E)を含有する水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項3】
アイオノマー樹脂(A)100重量部に対して、オキサゾリン基を1分子中に2個以上有する水溶性又は水分散性多官能オキザゾリン樹脂樹脂(B)を10〜70重量部、触媒(C)を0.1〜10重量部、シランカップリング剤(D)を0.1〜5重量部、水溶性ジルコニウム化合物(E)を0.0〜5重量部の割合で含有する請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項4】
アイオノマー樹脂(A)がエチレンとアクリル酸及び/又はメタクリル酸の共重合体であって、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を5〜40重量%含有し、かつ、アクリル酸及び/又はメタクリル酸が1価の金属イオンで20〜90%中和されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項5】
アイオノマー樹脂(A)がエチレンとアクリル酸及び/又はメタクリル酸の共重合体であって、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を5〜40重量%含有し、かつ、アクリル酸及び/又はメタクリル酸がアミンで50%以上中和されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項6】
アイオノマー樹脂(A)のアクリル酸及び/又はメタクリル酸の中和に使用されるアミンがアンモニア、トリメチルアミン、モノエタノールアミンである請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項7】
多官能オキサゾリン樹脂(B)が水分散性で、かつ、オキサゾリン基当量が200〜500g/当量である請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項8】
触媒(C)が酸、酸エステル、オニウム塩、リチウム塩から選ばれた化合物である請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項9】
触媒(C)がリン酸水素2アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、ハロゲン化リチウム、リチウムヒドロキサイドから選ばれた化合物である請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項10】
シランカップリング剤(D)がグリシジル基、アミノ基またはアミド基を有する化合物である請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項11】
水溶性ジルコニウム化合物(E)が、炭酸ジルコニウムアンモニウムである請求項2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項12】
水分散型防錆塗料用組成物の体積平均粒径が0.01〜5μmである請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の水分散型防錆塗料用組成物からなるノンクロメート鋼板用防錆塗料。

【公開番号】特開2006−22127(P2006−22127A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198785(P2004−198785)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】