説明

水分測定装置と水分測定方法と水分測定用対極液

【課題】
先行技術においては、発生液5および対極液10を電解セル4に入れて使用しているときは、乾燥管1を設けて吸湿を防いでいるが、特許文献1ないし3においては対極液10の水分量に関して特別な配慮が無く、水分測定装置のバックグランドが上昇し、測定精度に影響を与える要因となっていた。本発明の課題は、対極液10の水分含有量とバックグランドの関係を明らかにし、KF電量滴定法における測定精度を向上することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、上記目的を達成するために対極液20の調整時に使用する器具の洗浄乾燥および使用する薬品を予め乾燥剤で脱水し水分含有量を少なくし、バックグランドに影響がない上限値を規定することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カールフィッシャー電量滴定法に用いられる装置と測定方法と対極液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カールフィッシャー(以下KFと略記する)電量滴定法を用いた水分測定法は、微量水分(μgオーダ)を正確に測定できる特長を備えていることから、液体試料、固体試料および気体試料などの品質管理分析の分野で広く使用されている。水分定量法としてのKF滴定法は、ヨウ素(I)、二酸化硫黄(SO)及び塩基性化合物(Base)のメタノール溶液中で水分が次式の反応に基づき、定量的に行われるのを利用した容量分析法である。
【化1】


以上の反応において、ヨウ素の代わりにヨウ化物を溶かした溶液を図1に示す発生液5として、定電流で電解酸化し、ヨウ素を発生し、水分と反応させ、ヨウ素発生に要した電気量を計測し、水分を測定する方法をKF電量滴定法という。KF電量滴定用電解液には、ヨウ素を発生する発生液5(陽極液)と対極液10(陰極液)があり、電解セル内において、発生液5と対極液10とは各々隔壁(例えばイオン交換膜、またはセラミック膜等)で隔てられた陽極室2と対極室9とに各々満たされて使用される。陽極室2ではヨウ素イオンからヨウ素を電解酸化で発生させ、化学式1により水分定量を行うが、対極室9では、電解陽極7でのヨウ素イオンの電解酸化反応に相当するだけの電解還元反応が起こっており、対極液10の組成も陽極室2でのヨウ素発生電解をスムーズに行わせるために大切な要素となる。
【0003】
一方、従来市販されているKF電量滴定用電解液の対極液は、特許文献1のニトロ化合物とハロゲン化アルカリをメタノールに溶かしたもの、特許文献2の有機窒素塩基をメタノールに溶かしたもの、特許文献3のテトラエチルアンモニウム及び第4級アンモニウム化合物の塩化物とをメタノールに溶かしたもの等がある。
KF電量滴定用試薬を使用する水分測定装置においては、発生液5は無水状態が保たれるように、余分な水分はブランク消去動作により電解され化学式1のヨウ素により水分が消去される。一方、対極液10には電解により水分を消去する成分が入っておらず、水分測定用電解セルの中においては、大気中の水分を吸収して増加することになる。通常は、大気中の水分による吸湿を防ぐため電解セル4にはシリカゲルなどの乾燥剤を充填した乾燥管1をつけている。
【0004】
前述のように、試料の水分を測定するには陽極室2の発生液5を無水に保つようにする必要があるが、実際には外気の湿気や対極液10から電解隔膜8を浸透した水分と電解陰極11で発生した還元生成物の影響で、水分はゼロにはならない。そこで、現在市販されているKF法による電量滴定装置は、特許文献4に記載されている方法でバックグランド補正を行っている。すなわち、徐々に継続的に陽極室2に浸入してくる水分をバックグランドと称して、例えば10μgHO/分という形で測定しておき、このバックグランドの下で試料の水分を測定した場合は、測定時間に対応するバックグランド値(例えば、測定時間が5分の場合は、10μgHO/分×5分=50μgHO)を差し引いて水分の測定結果を表示するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3176420号
【特許文献2】特許第3101083号
【特許文献3】特開平8−43350
【特許文献4】特開昭54−25895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の如くバックグランド補正機能を備えていても、バックグランドが高い場合はバックグランドが変動しやすく不安定であるため、微量な水分を測定する場合は、測定の環境を低湿度に保ちバックグランドを低いレベルで維持することにより測定精度が良くなるように配慮しているが、先行技術文献1〜3においては対極液10の水分量についての記載がなく不十分であった。先行技術においては、発生液5および対極液10を電解セル4に入れて使用しているときは、乾燥管1を設けて吸湿を防いでいるが、特許文献1ないし3においては対極液10の水分量に関して特別な配慮が無く、水分測定装置のバックグランドが上昇し、測定精度に影響を与える要因となっていた。本発明は、対極液10の水分含有量とバックグランドの関係を明らかにし、KF電量滴定法における測定精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、発生液5を入れる電解セル4と、この電解セル4に設けられ前記発生液5に浸す電解陽極7およびこの電解陽極7の対極となる電解陰極11と対極液20、電解陽極7と電解陰極11を仕切る電解隔膜8および発生液5に浸す指示電極3とを具備する電解セル4において、対極液20の水分量が0.2%以下で使用するよう構成された水分測定装置を用いることにより達成できる。
【発明の効果】
【0008】
水分測定において、バックグランドが高くなる要因が幾つかあるが、本発明の実施例により対極液10の水分濃度とバックグランドの関係が明らかになった。本発明の対極液20は、バックグランドを低水準に抑えるための水分濃度を規定することで、水分測定の正確度が向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を示す図
【図2】対極液の水分濃度とバックグランドの関係のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するにあたり、バックグランドと対極液10に含まれる水分濃度との関係を測定する方法について説明する。すでに述べたとおり、KF法による電量滴定装置は、バックグランド補正を行っている。対極液10の水分を徐々に増やして行きこの時のバックグランドを測定することにより対極液10の水分がバックグランドに与える影響度が比較出来る。
【0011】
KF電量滴定用電解セル4は、陽極室2と対極室9に別れており、発生液5と対極液10が交じり合わないように電解隔膜8で仕切られている。この電解隔膜8の材質は、イオン交換膜を使用したものとセラミックスを使用したものの2種類が市販されている。水分の浸透性としては、微小な細孔があるセラミックスの方が大きく、バックグランドが変化し易いため電解隔膜8はセラミックスを使用して実験を行った。
【0012】
電解セル4は、図1に示したガラス製の電解セル4が使用される。電解セル4には発生液5に水分が含有しているかどうかを検出するための指示電極3(二本の白金線がガラス先端に封入されている)が配置され、電解セル4の中の水分が無くなったことを検出するための入力アンプ12に接続されている。指示電極3からの終点検出信号は入力アンプ12によって増幅された後マイクロコンピュータ13に取り込まれ、電解用電源14の制御を行って電解電流を流し、指示電極3からの終点検出信号と釣り合うように電解電流を制御する。この釣り合った状態の電解電流を水分量に換算しバックグランドとして記録する。この対極液10の水分量とバックグランドの関係を、下記測定条件で比較を行った。
(1)水分測定装置(平沼産業株式会社製AQ−2100)にセラミック製電解隔膜8を備えた図1の実験装置に電源を通電し、バックグランド測定状態にする。
(2)8時間放置した後バックグランドを読み取り記録する。
(3)対極液10に水を添加し、水分測定装置の電源を切る。
(4)この状態で16時間放置し、再び電源を通電し(1)、(2)、(3)の操作を繰り返す。
【表1】


表1のバックグランド測定結果をグラフに表したものが図2である。図2より、対極液10の水分が0.2%以下である場合はバックグランドがあまり変化していないが、0.3%に於いては急激に上昇することが明らかになった。
【0013】
本発明による電量滴定用対極液20は、ニトロ化合物とハロゲン化アルカリとを有機溶媒で溶かしたものである。ここでニトロ化合物はニトロパラフィン、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロブタン等を脱水精製したものをメタノール、エチレングリコールなどのアルコール性OHを有する溶媒脱水精製した溶液と混合する。この混合溶媒に乾燥したハロゲン化アルカリを0.1〜1.0M濃度に溶かした溶液を対極液20として使用する。ハロゲン化アルカリとしては、塩化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどが用いられる。このようにして混合し調整された対極液20の水分は、使用する原料を脱水し、調合器具を良く乾燥させて調合すると、およそ水分量が100〜400PPM程度となる。使用する試薬の脱水および器具の洗浄乾燥が不十分である場合は、この水分値は格段に上昇する。このことから、本発明の対極液20は、上記製造方法により低い水分含有量で調整でき、バックグランド上昇を抑えることができる。
【符号の説明】
【0014】
1 乾燥管
2 陽極室
3 指示電極
4 電解セル
5 発生液
6 マグネチックピース
7 電解陽極
8 電解隔膜
9 対極室
10 従来の対極液
11 電解陰極
12 入力アンプ
13 マイクロコンピュータ
14 電解用電源
20 本発明の対極液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生液を入れる電解セルと、この電解セルに設けられ前記発生液に浸す電解陽極およびこの電解陽極の対極となる電解陰極と対極液、電解陽極と電解陰極を仕切る電解隔膜および発生液に浸す指示電極とを具備する電解セルにおいて、前記対極液の水分量が0.2%以下で使用するよう構成された水分測定装置。
【請求項2】
発生液に浸された指示電極で発生液中の水分の有無を検出し、水分が無くなるまで電解陽極と電解陰極の間に流れた電流から水分を測定する方法であって、対極室に入れる対極液の水分量が0.2%以下で調整された対極液を使用した水分測定方法。
【請求項3】
ニトロ化合物とハロゲン化アルカリを有機溶媒で溶かして調整したKF電量滴定用対極液において、調整後の試薬の水分量が0.2%以下であることを特徴とするKF電量滴定用対極液。
【請求項4】
上記請求項1のニトロ化合物がニトロエタンまたはニトロメタンであることを特徴とするKF電量滴定用対極液。
【請求項5】
上記請求項1のハロゲン化アルカリが塩化リチウムであることを特徴とするKF電量滴定用対極液。
【請求項6】
上記請求項1の有機溶媒がメタノールであることを特徴とするKF電量滴定用対極液。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−158449(P2011−158449A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22860(P2010−22860)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000240042)平沼産業株式会社 (9)