説明

水分発生用反応炉

【課題】 白金触媒層を有する反応炉内に水素ガスと酸素ガスとを供給し、触媒反応させることにより、燃焼させることなく、水素ガスと酸素ガスとの着火点より低い触媒反応温度で高純度の水分を発生させる水分発生用反応炉において、母材と白金触媒層との間に設けたバリア層に対し、白金触媒層高い付着力を長期間維持することができる水分発生用反応炉を提供する。
【解決手段】 ガス入口及び水分出口が設けられた反応炉本体と、前記反応炉本体の内壁面の少なくとも一部に成膜されたYバリア層と、該Yバリア層上の少なくとも一部に成膜された白金触媒層と、を有することとした。前記Yバリア層の膜厚は、好ましくは、50nm〜5μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金触媒層を有する反応炉内に水素ガスと酸素ガスとを供給し、触媒反応させることにより、燃焼(約2000℃)させることなく、水素ガスと酸素ガスとの着火点(500〜580℃)より低い触媒反応温度(400℃以下)で高純度の水分を発生させる水分発生用反応炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造に於ける水分酸化法を用いたシリコンの酸化膜付けにおいて、超高純度の水分を連続的に供給するために用いられる水分発生用反応炉が知られている(例えば、特許文献1〜5)。
【0003】
この種の水分発生用反応炉は、例えば、図4に示すように、炉本体部材22、23を対向状に組み合せ溶接することにより、反応用の内部空間Pを有する反応炉本体が形成されており、この反応炉本体に原料ガス入口24、水分ガス出口25、入口側反射体26、出口側反射体27等を夫々設けると共に、原料ガス入口24と対向する側の炉本体部材23の内壁面に白金触媒層28bを設けることにより形成されている。
【0004】
反応炉のステンレス製母材と白金触媒層28bとの間にはバリア層28aが形成され、該バリア層によって、母材中の不純物が白金触媒層28b内に拡散することを阻止し、白金触媒層の劣化を防止している。
【0005】
バリア層28aの厚さは0.1μm〜5μm程度とされ、例えば、TiNからなるバリア層28aがイオンプレーティング法により形成されている。更に、白金触媒層28bの厚さは1nm〜0.5mmとされ、例えば、真空蒸着法により形成されている。尚、バリア層28aの形成方法としては、前記イオンプレーティング法以外に、イオンスパッタリング法や真空蒸着法等のPVD法や化学蒸着法(CVD法)、ホットプレス法、溶射法等を用いられる。また、白金触媒層28bの形成方法は、前記真空蒸着法以外に、イオンプレーティング法やイオンスパッタリング法、化学蒸着法、ホットプレス法等が用いられ、更に、バリア層28aがTiN等の導電性のある物質の時にはメッキ法も用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第97/28085号パンプレット
【特許文献2】特開2000−169108号公報
【特許文献3】特開2000−169109号公報
【特許文献4】特開2000−169110号公報
【特許文献5】特開2002−274812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のTiN等からなるバリア層は、長期間使用すると白金触媒層のバリア層への付着力(剥離強度)が低下するという問題があった。
【0008】
このような付着力の経時低下は、触媒反応による活性化された酸素(Oラジカル)が白金触媒層を通過してバリア層の白金触媒層との界面付近を徐々に酸化することにより、バリア層と白金触媒層との付着力を低下させるためと考えられる。
【0009】
このような付着力の低下は通常の使用状態において白金触媒を剥離させる程ではないが、例えば、メンテナンス時の意図しない落下等による水分発生用反応炉への予期しない衝撃等により、白金触媒層が部分的に剥離する恐れがある。
【0010】
白金触媒層が剥離すると、剥離した白金がコンタミネーションとなって、製造される半導体の品質に重大な悪影響を及ぼすことになる。
【0011】
また、白金触媒層が剥離すると、剥離した白金は熱容量が小さく、水素ガスと酸素ガスの触媒反応によって生じる反応熱によって温度が上昇し着火源となるため、爆発や燃焼による製造装置の損傷や安全性の問題も生じる。
【0012】
そこで、本発明は、白金触媒層のバリア層に対する高い付着力を長期間維持することができる水分発生用反応炉を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は鋭意研究の結果、バリア層をYによって形成することにより、白金触媒層がバリア層との間に高い付着力を長期間維持できることを見出した。
【0014】
従って、上記目的を達成するため、本発明は、ガス入口及び水分出口が設けられた反応炉本体と、前記反応炉本体の内壁面の少なくとも一部に形成されたYバリア層と、該Yバリア層上の少なくとも一部に形成された白金触媒層と、を有する水分発生用反応炉を提供する。
【0015】
前記Y層の膜厚は、50nm〜5μmであることが好ましく、100〜300nmであることがより好ましい。
【0016】
また、前記反応炉本体は、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることが好ましい。
【0017】
また、水分発生用反応炉は、少なくとも1枚の反射体を前記反応炉本体内に更に備え、該反射体が水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることが好ましい。
【0018】
また、前記反射体は、前記ガス入口及び前記水分出口の少なくとも一方を所定間隔を介して遮るように、前記反応炉本体にスペーサーを介して固定ネジによって固定されており、前記スペーサー及び前記固定ネジが水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材質によって形成されていることが好ましい。
【0019】
また、反応炉本体部材や反射体のような反応炉内のガスに接する面を有する部材を、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材質を使用するようにすることが好ましい。
【0020】
前記触媒活性を有しない材料は、鉄−クロム−アルミ合金、アルミ合金、又は銅合金であることが好ましい。
【0021】
また、前記反応炉本体の、内部空間内の前記白金触媒層を設けた部分以外の部位が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材質からなるバリア層によって被覆されていることが好ましい。
【0022】
さらに、水分発生用反応炉は、少なくとも1枚の反射体を前記反応炉本体内に更に備え、該反射体が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料からなるバリア層によって被覆されていることが好ましい。
【0023】
さらにまた、前記反射体は、前記ガス入口及び前記水分出口の少なくとも一方を所定間隔を介して遮るように、前記反応炉本体にスペーサーを介して固定ネジによって固定されており、前記スペーサー及び前記固定ネジが水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材質からなるバリア層によって被覆されていることが好ましい。
【0024】
前記触媒活性を有しない材料からなるバリア層が、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、Al、Cr、SiO、CrN、及び、Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の材料により形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、反応炉本体の内壁面にYバリア層を成膜し、このYバリア層上に白金触媒層を成膜することにより、白金触媒層のYバリア層への付着力の経時低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1、2について白金触媒層のYバリア層への付着力を試験した結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例3、4について白金触媒層のYバリア層への付着力を試験した結果を示すグラフである。
【図3】比較例について白金触媒層のTiNバリア層への付着力を試験した結果を示すグラフである。
【図4】従来の水分発生用反応炉の一形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る水分発生用反応炉の実施形態について、以下に図1〜4を参照して説明する。なお、バリア層28aをYにした点を除き、水分発生用反応炉の構造は従来と同様であるので、図4を参照する。
【0028】
水分発生用反応炉は、出口側の炉本体部材23の内壁面に、Yバリア層が成膜され、該Yバリア層上に白金触媒層28bが成膜されている。このYバリア層は、炉本体部材23の母材中の不純物が白金触媒層28b内に拡散することを阻止するバリア層である。入口側の炉本体部材22の内壁面にも、出口側の炉本体部材23と同様に、Yバリア層を成膜し、該Yバリア層上に白金触媒層を形成することもできるが、原料ガス入口24の入口近傍で水分発生反応が活発に行なわれると入口側接続用金具等の温度が上昇し過ぎるおそれがあるため、入口側の炉本体部材22の原料ガス入口24の中心から少なくとも半径10mm位の範囲、望ましくは半径15〜25m位の範囲には白金触媒層を形成しないことが望ましい。
【0029】
反応炉本体の母材には、例えば、SUS316L等のステンレス鋼、ニッケル合金鋼、ニッケル鋼が用いられ得る。反応炉本体がステンレス鋼、ニッケル合金鋼、ニッケル鋼のようにOやHに対して触媒活性作用を及ぼし得る材料により形成されている場合は特に、炉内の白金触媒層が形成されていない部分は、酸素及び水素に対する触媒活性を有しない非触媒性のバリア層を、母材による触媒活性を妨げるためのバリア層として成膜しておくことが望ましい。そのようなバリア層の材料としては、TiN、TiC 、TiCN 、TiAlN、Al、Cr、SiO、CrNを挙げることができるが、Yとしてもよい。なお、これらの材料を2種以上用いても良い。
【0030】
このことは、反応炉本体内に反射体26,27が設けられている場合には、当該反射体26,27についても同様である。すなわち、反射体26,27の母材が、OやHに対して触媒活性作用を及ぼし得る材料である場合には、酸素及び水素に対する触媒活性を有しない非触媒性のバリア層を成膜することが望ましい。
【0031】
なお、母材による触媒活性を妨げるためのバリア層としてYを用いる場合、このバリア層を、上記した母材中の不純物が白金触媒層28b内に拡散することを阻止するバリア層と共通化することができる。すなわち、炉本体部材23,24の内面全面にYのバリア層を成膜した後、該バリア層上の所望部分のみに白金触媒層28bを成膜すれば良い。
【0032】
反射体26,27は、反応炉内に対向して配置され得る。反射体26,27は、図示例ではディスク状に形成されているが、反応炉の内部空間P内へ流入した混合ガスとの衝突により混合ガスを拡散させる効率を高めることができるものであれば、その形態は限定されない。入口側の反射体26は、入口側の炉本体部材22と一定の間隙を介して原料ガス入口24を遮るように、スペーサー31を介して固定ネジ30により炉本体部材22に固定されている。出口側の反射体26もまた、出口側の炉本体部材22と一定の間隙を介して原料ガス入口24を遮るように、スペーサー31を介して固定ネジ30により炉本体部材23に固定されている。反射体は、螺子止めに限らず、溶接等の他の固定手段により固定することもできる。なお、図示例では一対の反射体を備える例を示したが、反射体は一つでもよく、その場合、好ましくは出口側の反射体27のみが設けられ得る。
【0033】
原料ガス入口24を通して反射体26へ向けて噴射された混合ガスGは、反射体26へ衝突したあと内部空間P内で拡散され、拡散された混合ガスGは、白金触媒層28bの全面に亘って略均等に衝突接触することにより所謂触媒活性化されHとOとが反応することにより水分ガスが生成される。また、内部空間P内に形成された水分ガスは、出口側の反射体27と出口側の炉体本体部材23との隙間Lを通して水分ガス出口25へ導出されて行く。
【0034】
反応炉の炉本体部材22,23の母材及び反射体26、27の母材として、ステンレス鋼、ニッケル合金鋼、ニッケル鋼のようにOガスやHガスに対して触媒活性作用を及ぼし得る材料に代えて、OガスやHガスに対して触媒活性作用を及ぼさない材料、例えば、鉄−クロム−アルミ合金、アルミ合金、銅合金を用いても良い。
【0035】
反応炉の炉本体部材22,23の母材を上記のような触媒活性を有しない材料によって形成した場合には、内部空間内のYバリア層28aを設けた部分以外の部分では、これ等の非触媒性材の外表面に、内部ガスや内部金属組成材の外部への放出を防止するための適宜の表面処理を施すことが望ましい。前記表面処理としては、非触媒性で且つ耐食性、耐還元性及び耐酸化性に優れたバリア層を成膜することができる。そのようなバリア層としては、TiN、TiC 、TiCN 、TiAlN、Al、Cr、SiO、CrNを用いることができるが、Yを用いても良いし。これらの材料を2種以上用いても良い。なお、この場合も、前記表面処理としてYのバリア層を用いる場合は、このバリア層を、上記した母材中の不純物が白金触媒層28b内に拡散することを阻止するバリア層と共通化することができる。反射体26,27についても、上記と同様の記表面処理を施すことが好ましい。
【0036】
バリア層は、ゾル−ゲル法によって好適に形成することができ、例えば、ステンレス鋼等で形成された炉本体の母材上に、イットリウムアルコキシドの有機溶剤溶液をスピンコーティング、ディップコーティング、又はスプレーコーティング等によって塗布し、塗膜を乾燥させた後、酸素雰囲気中で500〜600℃×1〜5時間焼成することによって成膜することができる。なお、TiN、TiC 、TiCN 、TiAlN、Al、Cr、SiO、或いはCrNのバリア層は、イオンプレーティング法、スパッタリング法、真空蒸着法等のPVD法や化学蒸着法(CVD法)、ホットプレス法、溶射法等を用いて、厚さ0.1〜5μmに形成することができる。
【0037】
バリア層を上記ゾル−ゲル法のような湿式法により成膜する場合、1回の塗布及び焼成で膜厚50nm程度の皮膜を得ることができるので、必要に応じて所望膜厚(例えば、100nm、300nm)になるまで塗布及び焼成を複数回繰り返す。
【0038】
ステンレス母材中の不純物が白金触媒層に拡散するのを防ぐバリア性能を高めるためにはバリア層の膜厚がより厚い方が好ましいとも考えられるが、Yバリア層の原料の粒子径や成膜工程を精密に制御することでピンホール等の欠陥の無い緻密な膜を成膜することにより従来のTiNバリア層より薄い膜厚で同等のバリア性能を得ることが可能であり、コーティング回数及び焼成回数の増加によるコストアップを考慮すれば、Yバリア層の膜厚を300nm以下とすることが好ましい。
【0039】
一方、イットリウムは高価な材料であるためYバリア層の膜厚をより薄くしてコスト低減を図ることが好ましいが、Yバリア層の膜厚が薄過ぎるとバリア性能を低下させる恐れがあるし、その膜厚の制御も困難になるため、Yバリア層の膜厚は、通常は100nm以上としているが、50nm以上あれば十分に機能を発揮することが出来る。
【0040】
なお、Yバリア層は、製造設備のコスト削減の観点からゾル−ゲル法によって成膜することが好ましいが、それに限らず、溶射法、PVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって成膜することもできる。溶射法等の乾式法によれば、前記湿式法の如く同じ工程を繰り返さなくてもYバリア層の膜厚を厚くすることができるが、乾式法の場合であっても、材料コストを考慮すればYバリア層の膜厚を5μm以下とすることが好ましい。
【0041】
バリア層の上に、白金触媒層が成膜される。白金触媒層は、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学蒸着法、ホットプレス法等によって成膜することができる。
【0042】
白金触媒層の膜厚は、0.1μm〜3μm(100nm〜3000nm)とすることが好ましい。すなわち、薄過ぎると触媒としての機能及び前記保護膜としての機能を十分に果たせなくなるため、0.1μm(100nm)以上とすることが好ましい。一方、白金触媒層は、触媒としての機能、及び、後述するようにバリア層の保護膜としても機能を考慮すれば、膜厚を厚くする方が好ましいが、厚すぎるとコスト高となるため、3μm(3000nm)以下とすることが好ましく、0.5μm(500nm)以下とすることがより好ましい。
【0043】
実施例
白金触媒層のYバリア層に対する付着力について、以下の手順にて試験した。
【0044】
[実施例1]
まず、SUS316L製の円形基板(直径35mm×厚さ3mm)を用意した。 株式会社高純度化学研究所製Yコート材料(YYK01LBY−03:褐色液体)を、スプレーノズルよって基板上に吹き付けて塗布し、乾燥させた後、O/N比20%の酸化雰囲気中で500℃×1時間の加熱処理(焼成)を施した。一度の塗布及び加熱処理により、約50nmの膜厚のY膜が成膜され、塗布及び加熱処理を2回繰り返すことにより、約100nmの膜厚のYバリア層を形成した。
【0045】
次いで、イオンプレーティング装置(神港精機株式会社製AAIF―T12100SB型)を用いて、Yバリア層上に白金触媒層を以下のようにして成膜した。
【0046】
すなわち、アルゴンイオンのボンバード(Arボンバード)によりYバリア層表面の酸化膜等を除去した後、イオンプレーティング処理により白金触媒層を成膜した。Arボンバードは、Ar流量260sccm、基板バイアス−1500V、処理時間10分とした。成膜工程では、基板バイアス−500V、イオン化電極50V、成膜速度0.025μm/分、EB電圧9kVとし、膜厚が0.23μm(230nm)の白金触媒層を形成した。
【0047】
上記のようにして成膜した実施例について、付着力試験を行った。試験装置は、アドヒージョンテスター(塗膜付着力試験機、コーテック株式会社製Type 0610型)を用いた。
【0048】
試験装置に付属のドリーを、所定のエポキシ樹脂系接着剤を用いて、白金触媒層に接着させた。ドリーを接着した試料を、500℃の空気雰囲気で400時間加熱して環境加速を行いつつ、50時間毎にアドヒージョンテスターによる剥離強度測定を行った。
【0049】
[実施例2]
実施例1と同様にして、膜厚0.3μm(300nm)のYバリア層を基板上に成膜し、該Yバリア層の上に膜厚0.23μm(230nm)の白金触媒層を成膜し、実施例1と同条件でアドヒージョンテスターによる付着力試験を行った。
【0050】
[実施例3]
白金触媒層の膜厚を0.28μm(280nm)とした以外は実施例1と同様の試料を作成した。
【0051】
試験装置に付属のドリーを、所定のエポキシ樹脂系接着剤を用いて、白金触媒層に接着させた。ドリーを接着した試料を、500℃の空気雰囲気で1000時間加熱して環境加速を行いつつ、50時間毎にアドヒージョンテスターによる剥離強度測定を行った。
【0052】
[実施例4]
実施例3と同じ試料を用いた。試験装置に付属のドリーを、所定のエポキシ樹脂系接着剤を用いて、白金触媒層に接着させた。ドリーを接着した試料を、550℃の空気雰囲気で1000時間加熱して環境加速を行いつつ、50時間毎にアドヒージョンテスターによる剥離強度測定を行った。
【0053】
比較例
膜に代えてTiN膜をバリア層とし、TiNバリア層上に白金触媒層を形成した。TiNバリア層は、カソードアーク方式イオンプレーティング装置を用いて成膜し、膜厚を3μmとした。成膜したTiNバリア層の上に、イオンプレーティング装置(神港精機株式会社製AAIF―T12100SB型)により、0.3μm(300nm)の白金触媒層を成膜した。実施例1〜3と同様に、500℃の空気雰囲気で加熱して環境加速を行いつつ、前記アドヒージョンテスターによる剥離強度試験を行った。
【0054】
上記実施例及び比較例の試験結果のグラフを図1〜図3に示す。図1は、実施例1,2の試験結果を表わし、図2は実施例3,4の試験結果を表わし、図3は比較例の試験結果を表わしている。
【0055】
図1〜図3のグラフを参照すれば、比較例では200時間経過後に付着力が極端に低下しているが、実施例1,2については400時間経過時でも付着力が殆ど低下しておらず、実施例3,4については1000時間経過時でも付着力が殆ど低下していないことが分かる。
【0056】
実施例1と実施例2とを比較すれば、Yバリア層の膜厚が変わっても、付着力への影響が見られなかった。しかしながら、実施例1と実施例3とを比較すれば、実施例1より白金触媒層の膜厚が厚い実施例3の方が高い付着力を維持していることから、白金触媒層の膜厚が厚い方が高い付着力を維持することが分かる。これは、白金触媒層が厚い方が、Yバリア層の白金触媒層との界面付近が酸化されにくいためと考えられる。すなわち、白金触媒層は、Yバリア層を酸化から保護する保護膜としても機能すると考えられる。ただし、白金触媒層とYバリア層との付着力は、5kgf/cm以上あれば実用上の問題を生じることはない。実施例1〜4の試験結果によればYバリア層の白金触媒層との付着力の経時低下が殆ど見られないから、付着力の観点からは、実施例1のようにYバリア層の膜厚が0.1μm(100nm)もあれば実用上の問題は生じない。
【0057】
また、実施例と比較例とを対比すれば、Yバリア層は、TiNバリア層(3μm)の10分の1以下の膜厚(0.3μm、0.1μm)であっても、TiNバリア層よりも高い付着力を維持することが分かった。これは、Yバリア層が、TiNバリア層よりも標準生成ギブスエネルギーが大きく安定した物質であり耐酸化性に優れているためと考えられる。したがって、Yバリア層の膜厚を制御することにより、チタンに比べて高価なイットリウムを使用しても、TiNバリア層と同等又はそれ以下のコストで、より優れた付着性能を有するYバリア層を形成することができる。
【符号の説明】
【0058】
22、23 炉本体部材
24 原料ガス入口
25 水分ガス出口
26 入口側反射体
27 出口側反射体
28a バリア層
28b 白金触媒層
30 固定ネジ
31 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス入口及び水分出口が設けられた反応炉本体と、前記反応炉本体の内壁面の少なくとも一部に成膜されたYバリア層と、該Yバリア層上の少なくとも一部に成膜された白金触媒層と、を有することを特徴とする水分発生用反応炉。
【請求項2】
前記Yバリア層の膜厚が50nm〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項3】
前記反応炉本体が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項4】
少なくとも1枚の反射体を前記反応炉本体内に更に備え、該反射体が水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項5】
前記反射体は、前記ガス入口及び前記水分出口の少なくとも一方を所定間隔を介して遮るように、前記反応炉本体にスペーサーを介して固定ネジによって固定されており、前記スペーサー及び前記固定ネジが水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材質によって形成されていることを特徴とする請求項4に記載の水分発生用反応炉。
【請求項6】
反応炉本体部材や反射体のような反応炉内のガスに接する面を有する部材を、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材質を使用するようにした請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項7】
前記触媒活性を有しない材料が、鉄−クロム−アルミ合金、アルミ合金、又は銅合金であることを特徴とする請求項3〜6の何れかに記載の水分発生用反応炉。
【請求項8】
前記反応炉本体の、内部空間内の前記白金触媒層を設けた部分以外の部位が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材質からなるバリア層によって被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項9】
少なくとも1枚の反射体を前記反応炉本体内に更に備え、該反射体が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料からなるバリア層によって被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項10】
前記反射体は、前記ガス入口及び前記水分出口の少なくとも一方を所定間隔を介して遮るように、前記反応炉本体にスペーサーを介して固定ネジによって固定されており、前記スペーサー及び前記固定ネジが水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材質からなるバリア層によって被覆されていることを特徴とする請求項9に記載の水分発生用反応炉。
【請求項11】
前記触媒活性を有しない材料からなるバリア層が、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、Al、Cr、SiO、CrN、及び、Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の材料により形成されていることを特徴とする請求項8〜10の何れかに記載の水分発生用反応炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−254525(P2010−254525A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107139(P2009−107139)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【Fターム(参考)】