説明

水切り乾燥方法および水切り乾燥システム

【課題】HCFCの代替化合物を用いた処理液のアルコール濃度を一定に維持でき、水が付着した物品の水切り乾燥を安定して実施できる水切り乾燥方法、および水切り乾燥システムの提供を目的とする。
【解決手段】水が付着した物品と、特定の含フッ素エーテルを主成分とし、アルコール類を含む処理液41とを接触させて物品から水を分離し、該物品を乾燥させる水切り乾燥工程と、処理液41をエーテル層(a1)と水層(b1)に二層分離する工程と、エーテル層(a1)に、前記アルコール類を含むアルコール濃度45〜50質量%のアルコール水溶液(c)を接触させて、アルコール濃度を調整したエーテル層(a2)を得る工程と、前記エーテル層(a2)を処理液41として供給する工程と、を有する水切り乾燥方法。また、該水切り乾燥方法を実施できる水切り乾燥システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水切り乾燥方法および水切り乾燥システムに関する。
【背景技術】
【0002】
精密機械工業、光学機械工業、電機電子工業、プラスチック工業等において、基板等の電子部品、レンズ、プリズム等の光学部品、超硬チップ等の切削部品、液晶表示部品等の物品は、水系洗浄剤で洗浄した後等に、該物品(被洗物)に付着した水分を除去する必要がある。
物品に付着した水分を除去する方法としては、アルコール類とハロゲン化炭化水素を含む処理液と物品とを接触させることで、該物品に付着した水分を除去し、乾燥させる方法が知られている(特許文献1)。該方法においては、物品に付着した水分はアルコール類に溶解することで、物品から分離される。物品から分離した水分は、ハロゲン化炭化水素との比重の差によって処理液の液面へと浮上する。
【0003】
しかし、前記水切り乾燥方法では、処理液に含まれるアルコール類が水分と共に除去されるため、水切り乾燥を実施するにつれて処理液のアルコール濃度が低下する。つまり、処理液の液面に浮上した水分が除去される際、アルコール類の一部が浮上する水に抽出されて除去される。処理液のアルコール濃度が低下すると、物品から水分を除去する性能が低下し、得られる物品に水分が残留したり、シミが発生したりする等の洗浄不良が生じることがある。
【0004】
前述した洗浄不良を抑制する水切り乾燥方法としては、下記方法(i)および(ii)が挙げられる。
(i)処理液のアルコール濃度を定期的に測定し、アルコール濃度が低下していればアルコールを補充して、処理液のアルコール濃度を維持しながら水切り乾燥を実施する方法。
(ii)処理液に一定量のアルコール類を連続的に供給しながら水切り乾燥を実施する方法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3569980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、方法(i)および(ii)では、物品に付着している水分が多い場合、1回の操作で処理液のアルコール濃度が大きく低下し、水切り乾燥に適したアルコール濃度を下回るおそれがある。また、方法(ii)では、物品に付着した水分量が少ない場合にアルコール類の供給量が過剰になるので、処理液のアルコール濃度が高くなりすぎて引火しやすくなるおそれがある。
【0007】
また、ハロゲン化炭化水素としては、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が用いられるが、HCFCはオゾン層破壊係数が高い。そのため、水切り乾燥には、HCFC以外のオゾン層を破壊しない代替化合物を用いることが求められている。新しいフッ素系溶剤としては、塩素を含まない含フッ素エーテル(ハイドロフルオロエーテル:HFE)や炭化水素構造のうち水素原子の一部がフッ素原子に置換されたハイドロフルオロカーボン(HFC)が挙げられる。このうち、HFCはオゾン破壊係数を持たない一方で、地球温暖化係数が大きな化合物であるため、HCFCの代替溶剤としては、地球環境に優しいという観点からHFEがより適している。
【0008】
本発明では、HCFCの代替化合物を用いた処理液のアルコール濃度を一定に維持でき、水が付着した物品の水切り乾燥を安定して実施できる水切り乾燥方法、および水切り乾燥システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]下記工程(I)〜(IV)を有する水切り乾燥方法。
(I)水が付着した物品と、下式(1)で表される含フッ素エーテルを主成分とし、アルコール類を含む処理液とを接触させて物品から水を分離し、該物品を乾燥させる水切り乾燥工程。
(II)前記物品を接触させて水切りした処理液を、比重の違いによりエーテル層(a1)と水層(b1)の二層に分離させる工程。
(III)分離したエーテル層(a1)に、前記アルコール類を含むアルコール濃度45〜50質量%のアルコール水溶液を接触させ、アルコール濃度を調整したエーテル層(a2)を得る工程。
(IV)前記エーテル層(a2)を前記処理液として前記工程(I)に供給する工程。
f1−O−Rf2 (1)
(ただし、式(1)中、Rf1およびRf2は、それぞれ独立にフッ素原子数が1以上の含フッ素アルキル基であり、Rf1およびRf2に含まれる炭素原子数の合計が4〜8である。)
[2]さらに、下記工程(V)を有する、前記[1]に記載の水切り乾燥方法。
(V)前記工程(IV)のエーテル層(a2)上に形成される水層(b2)のアルコール濃度を45〜50質量%に調整して前記アルコール水溶液を再生し、前記工程(III)に供給する工程。
[3]前記工程(I)が、前記物品を前記処理液に接触した後、該物品を、前記処理液の蒸気または前記含フッ素エーテルの蒸気に接触させて乾燥させる工程である、前記[1]または[2]に記載の水切り乾燥方法。
[4]前記工程(V)におけるアルコール濃度を比重を測定して管理する、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の水切り乾燥方法。
[5]前記アルコール類が、メタノール、エタノールおよび2−プロパノールからなる群から選ばれる1種以上である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の水切り乾燥方法。
[6]水が付着した物品と、下式(1)で表される含フッ素エーテルを主成分とし、アルコール類を含む処理液とを接触させて水を切り、該物品を乾燥させる水切り乾燥部と、前記水切り乾燥部の処理液を抜き出して、比重の違いによりエーテル層(a1)と水層(b1)の二層に分離し、該エーテル層(a1)に、前記アルコール類を含むアルコール濃度45〜50質量%のアルコール水溶液を接触させて、アルコール濃度を調整したエーテル層(a2)を得て、該エーテル層(a2)を前記処理液として前記水切り乾燥部に供給する処理液再生部と、を有する水切り乾燥システム。
f1−O−Rf2 (1)
(ただし、式(1)中、Rf1およびRf2は、それぞれ独立にフッ素原子数が1以上の含フッ素アルキル基であり、Rf1およびRf2に含まれる炭素原子数の合計が4〜8である。)
[7]前記処理液再生部において前記エーテル層(a2)上に形成される水層(b2)のアルコール濃度を、45〜50質量%に調整して、前記アルコール水溶液として前記処理液再生部に供給するアルコール水溶液再生部を有する、前記[6]に記載の水切り乾燥システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水切り乾燥方法によれば、HCFCの代替化合物を用いた処理液のアルコール濃度を一定に維持でき、水が付着した物品の水切り乾燥を安定して実施できる。
また、本発明の水切り乾燥システムでは、処理液のアルコール濃度が一定に保たれ、水が付着した物品の水切り乾燥が安定して実施される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の水切り乾燥システムの一実施形態例を示した概念図である。
【図2】本発明の水切り乾燥方法の実施形態の一例を示したチャート図である。
【図3】飽和濃度の含フッ素エーテル(α)を含むエタノール水溶液の温度−比重管理図(A)と、含フッ素エーテルを含まないエタノール水溶液の温度−比重管理図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[水切り乾燥システム]
本発明の水切り乾燥システムは、本発明の水切り乾燥方法を実施して、水が付着した物品(被洗物)の水を物品から分離して乾燥するシステムである。本発明の水切り乾燥システムは、例えば、精密機械工業等の分野において、物品を水系洗浄剤で洗浄した後の濯ぎ工程、水での洗浄工程、めっき後のめっき液の濯ぎ工程等の後に、物品に付着した水を除去するとき等に用いる。以下、本発明の水切り乾燥システムの実施形態の一例を示して詳細に説明する。
本実施形態の水切り乾燥システム1は、図1に示すように、水切り乾燥部10と、処理液再生部20と、アルコール水溶液再生部30とを有する。
【0013】
水切り乾燥部10は、物品の水切り乾燥を行う部分である。
水切り乾燥部10の下部は、水切り槽11と蒸気発生槽12とから構成されている。また、水切り乾燥部10の上部には、冷却コイル13が設置されている。
水切り槽11には、ヒータ11aおよび超音波発信器11bが設置されており、処理液41が収容されている。蒸気発生槽12には、ヒータ12aが設置され、処理液42が収容されている。
【0014】
水切り槽11は、水が付着した物品を処理液41に浸漬する槽である。ヒータ11aにより、水切り槽11に収容された処理液41の温度が調節される。また、超音波発信器11bにより、水切り槽11に収容された処理液41に超音波振動が与えられる。
蒸気発生槽12は、収容されている処理液42をヒータ12aにより加熱して蒸気を発生させる槽である。蒸気発生槽12により発生された蒸気は、冷却コイル13により冷却され、水切り乾燥部10の外に放出されることが抑制されており、水切り乾燥部10内に蒸気ゾーン10Aが形成される。また、冷却コイル13により冷却され、凝縮して液化した蒸気43は、後述の比重分離槽21に送られる。
【0015】
処理液41は、下式(1)で表される含フッ素エーテル(以下、単に「化合物(1)」ということがある。)を主成分とし、アルコール類を含む溶液である。本発明における含フッ素エーテルとは、アルキル基の水素原子の1以上がフッ素原子に置換された含フッ素アルキル基を有するエーテルである。
f1−O−Rf2 (1)
(ただし、式(1)中、Rf1およびRf2は、それぞれ独立にフッ素原子数が1以上の含フッ素アルキル基であり、Rf1およびRf2に含まれる炭素原子数の合計が4〜8である。)
【0016】
f1およびRf2の含フッ素アルキル基のフッ素原子数は、2〜10が好ましい。
f1およびRf2に含まれる炭素原子数の合計は、4〜8であり、4〜6が好ましく、4が特に好ましい。
表面に水が付着した物品を、アルコール類を含んだ含フッ素エーテルに接触させ、物品の表面の水を分離・除去して乾燥させることから、含フッ素エーテルとしては沸点が30〜100℃であるものを用いることが好ましい。この観点から、Rf1およびRf2に含まれる炭素原子の数の合計が4〜6である含フッ素エーテルが好ましい。
【0017】
化合物(1)の具体例としては、例えば、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(CHFCF−O−CHCF、沸点56℃。以下、「含フッ素エーテル(α)」という。)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2−ジフルオロエチルエーテル(CHFCF−O−CHCHF、沸点79℃)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(CHFCF−O−CHCFCHF、沸点93℃)が挙げられ、沸点が56℃と取り扱いが容易でかつ沸点下の蒸気に暴露されたときの物品への影響が小さく、さらにアルコール類との共沸組成を持つ点から、含フッ素エーテル(α)が好ましい。
【0018】
アルコール類としては、物品の乾燥が容易になり、得られる物品の品質が向上する点から、前述した含フッ素エーテルに溶解し、該含フッ素エーテルとの共沸組成を有するものが好ましい。
アルコール類としては、炭素数が1〜3で、かつ沸点が60〜90℃のアルコールが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールが挙げられる。なかでも、有機溶媒予防規則による取扱規制の影響が少なく実用的であり、物品の水切り乾燥の性能が高く、取扱性に優れる点から、エタノールが特に好ましい。
アルコール類は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、エタノールに、変性剤としてメタノールもしくは2−プロパノール等が混合された市販品の変性アルコールを用いてもよい。
【0019】
処理液41(100質量%)のアルコール濃度は、5.0〜6.0質量%が好ましい。処理液41のアルコール濃度が5.0質量%以上であれば、物品に付着した水を除去する効果が向上するので、物品の乾燥が不完全になったり、シミが発生したりすることを抑制しやすい。処理液41のアルコール濃度が6.0質量%以下であれば、蒸気発生槽12へのアルコール類の濃縮が抑制され、引火しない組成で安定して水切り乾燥を連続運転することができる。
【0020】
処理液41の市販品としては、例えば、アサヒクリンAE−3100E(旭硝子社製、CHFCF−O−CHCF、5.5質量%エタノール混合物、沸点54℃)が挙げられる。
処理液42は、処理液41と同じ処理液が用いられる。
【0021】
処理液再生部20は、水切り乾燥部10における物品の水切り乾燥により水が混入した処理液41を取り出し、処理液41を再生する部分である。
処理液再生部20は、比重分離槽21および接触槽22を有している。比重分離槽21は、流路51により水切り槽11と連結されている。また、比重分離槽21と接触槽22は、流路52で連結されている。また、接触槽22は、水切り槽11および蒸気発生槽12とそれぞれ結ばれる各々独立した流路を有する。一方の流路は、接触槽22と水切り槽11を結び、接触槽22から水切り槽11へ処理液を循環させる流路53であり、ポンプ61が設けられている。他方の流路は、接触槽22と蒸気発生槽12を結び、蒸気発生槽12へ処理液を供給する流路54である。
流路51の上流端は、水切り槽11の処理液41の液面近くに開口している。これにより、水切り槽11からオーバーフローした処理液41が流路51を通じて比重分離槽21に流入するようになっている。
【0022】
比重分離槽21は、水切り槽11からオーバーフローして流入してきた処理液41を、比重の違いにより、下層のエーテル層(a1)と上層の水層(b1)とに二層分離するようになっている。
また、比重分離槽21では、エーテル層(a1)が収容される部分に、流路52の上流端が開口しており、アルコール濃度が低下したエーテル層(a1)が接触槽22に流入するようになっている。
【0023】
接触槽22は、比重分離槽21から流入してきたエーテル層(a1)と、アルコール水溶液再生部30から送られてくる、アルコール濃度45〜50質量%のアルコール水溶液(以下、「アルコール水溶液(c)」という。)とを接触させ、アルコール濃度を調整したエーテル層(a2)を得るようになっている。アルコール水溶液(c)は、接触槽22内で比重の違いにより水層(b2)となる。
流路52の下流端は、水層(b2)の液面付近に開口していることが好ましい。これにより、エーテル層(a1)は水層(b2)の上方から接触し、下方へと移動してエーテル層(a2)を形成するため、水層(b2)(アルコール水溶液(c))とエーテル層(a1)の接触が効率良く行える。
また、接触槽22は、エーテル層(a2)が収容される部分に、水切り槽11および蒸気発生槽12とそれぞれ結ばれる流路53、54を有する。流路53の上流端は接触槽22の底面または側面に形成されており、ポンプ61により、流路53を通じて接触槽22から水切り槽11にエーテル層(a2)が送られ、処理液が循環する。また、流路54の上流端はエーテル層(a2)の液面付近に開口しており、流路54を通じて接触槽22から蒸気発生槽12にエーテル層(a2)が送られるようになっている。
また、接触槽22は、エーテル層(a2)が収容される部分が、仕切り22aにより2つに分断されており、ポンプ61によりエーテル層(a2)を流路53に吸引する際に接触槽22内の液面が乱れて二層分離に悪影響を及ぼすことを抑制できるようになっている。
水層(b2)のアルコール濃度は、エーテル層(a1)との接触により低下するので、水層(b2)はアルコール水溶液再生部30に戻す。
【0024】
アルコール水溶液(c)に含まれるアルコール類は、処理液41に含まれるアルコール類と同じである。つまり、処理液41にエタノールが含まれている場合は、アルコール水溶液(c)はエタノール水溶液である。
アルコール水溶液(c)のアルコール濃度は、45〜50質量%である。アルコール水溶液(c)のアルコール濃度が45質量%以上であれば、アルコール水溶液(c)とエーテル層(a1)の接触後のエーテル層(a2)にアルコール類が充分に供給される。アルコール水溶液(c)のアルコール濃度が50質量%以下であれば、エーテル層(a2)のアルコール濃度が高くなりすぎて、処理液41が引火する組成になることを抑制できる。
【0025】
アルコール水溶液再生部30は、処理液再生部20の接触槽22におけるアルコール水溶液(水層(b2))を取り出してアルコール濃度を調整し、アルコール水溶液(c)を再生する部分である。
アルコール水溶液再生部30は、濃度調整槽31と蒸留器32とを有している。濃度調整槽31と接触槽22は、接触槽22から水層(b2)を取り出す流路55と、濃度調整槽31から接触槽22にアルコール水溶液(c)を送液する流路56とで、それぞれ連結されている。また、比重分離槽21と蒸留器32とが、流路57で連結されている。蒸留器32と濃度調整槽31とは、流路58で連結されている。濃度調整槽31には、アルコールを供給する流路59が設けられている。蒸留器32には、廃液を排出する流路60が設けられている。
【0026】
流路55の上流端は、接触槽22の水層(b2)が収容されている部分に開口しており、水層(b2)が濃度調整槽31に流入するようになっている。また、濃度調整槽31には、蒸留器32からアルコール水溶液(c)よりも高濃度のアルコール水溶液が流路58を通じて送られてくる。アルコール濃度が調整されたアルコール水溶液(c)は、流路56を通じて接触槽22に送られる。
【0027】
流路57の上流端は、比重分離槽21の水層(b1)が収容されている部分に開口しており、水層(b1)が蒸留器32に流入するようになっている。蒸留器32は、ヒータ32aを有している。蒸留器32では、比重分離槽21から取り出した水層(b1)を蒸留することで高濃度のアルコール水溶液が得られる。該高濃度のアルコール水溶液は、流路57を通じて濃度調整槽31に送られる。
また蒸留器32で蒸留後の釜残として得られる、アルコール濃度の低い水溶液は、廃液として流路60から排出する。
各流路における送液は、ポンプ等の送液機構により行える。
【0028】
[水切り乾燥方法]
以下、本発明の水切り乾燥方法の実施形態の一例として、前記水切り乾燥システム1を用いた水切り乾燥方法について説明する。
水切り乾燥方法を適用できる物品としては、例えば、プリント基板、フープ剤関係、液晶表示器、磁気記録部品、半導体材料、電歪用水晶、磁気記録部品、光電変換部品等の電子部品、電動機部品、発券用等部品、貨幣検査用等部品等の電機部品、ベアリング、時計等の精密機械部品、光学レンズ、プリズム、ポリゴンミラー、光学フィルター等の光学部品、超硬チップ等の加工用精密機械部品等、様々な物品が挙げられる。
これらの物品を構成する基材の材質としては、例えば、鉄、ステンレス、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、銀、銅、銅合金、錫、硫酸アルマイト等の金属、および、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、金で材料表面をめっき処理した金属、炭素、ケイ素、タングステン、ニッケル、チタン、モリブデン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等を焼結させた焼結金属材料、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、フェノール樹脂、ABS樹脂、ナイロン6、ナイロン66、PTFE樹脂、PCTFE樹脂、エポキシ樹脂のようなプラスチック材料、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、フェノールおよびフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、2,6−ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体等の高分子材料、ガラスが挙げられる。
本発明における処理液は、これらの物品に悪影響を及ぼさない。
【0029】
本実施形態の水切り乾燥方法は、図2に示すように、工程(I)〜(VI)を有する。
(I)水が付着した物品と、含フッ素エーテル(化合物(1))を主成分とし、アルコール類を含む処理液とを接触させて物品から水を分離し、該物品を乾燥させる水切り乾燥工程。
(II)前記物品を接触させて水切りした処理液を、比重の違いによりエーテル層(a1)と水層(b1)の二層に分離させる工程。
(III)前記工程(II)で分離したエーテル層(a1)に、前記アルコール類を含むアルコール濃度45〜50質量%のアルコール水溶液(c)を接触させ、アルコール濃度を調整したエーテル層(a2)を得る工程。
(IV)前記エーテル層(a2)を処理液として前記工程(I)に供給する工程。
(V)前記工程(IV)のエーテル層(a2)上に形成される水層(b2)のアルコール濃度を45〜50質量%に調整してアルコール水溶液(c)を再生し、前記工程(III)に供給する工程。
(VI)工程(II)で分離した水層(b1)を蒸留し、前記工程(V)におけるアルコール水溶液(c)の再生に供する高アルコール濃度のアルコール水溶液を得る工程。
【0030】
工程(I):
水切り乾燥部10において、水が付着した物品を処理液41に浸漬することで、物品と処理液41とを接触させる。これにより、該物品に付着した水が処理液41中のアルコール類に溶解し、水が物品から分離する。分離した水は、含フッ素エーテルとの比重の差により処理液41の液面へと浮上する。その際、処理液のアルコール類の一部は、物品に付着していた水に抽出されて液面に浮上する。さらに、接触槽22のエーテル層(a2)が、ポンプ61により吸引され、水切り槽11に供給されることで、水切り槽11の処理液41の液面に浮上した水が、処理液41とともに比重分離槽21に流れ込む。
処理液41への物品の浸漬は、水切りの効率が向上する点から、超音波発信器11bにより処理液41に超音波振動を与えながら行うことが好ましい。
【0031】
処理液41の温度は、40℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましい。処理液41の温度が40℃以上であれば、物品に付着した水を除去する効果が向上し、物品の乾燥が不完全になり、シミの発生を抑制できる。処理液41の温度が40℃未満であると、処理液の物品から水を除去する効果が減少し、乾燥不良による水シミが発生することがある。また、処理液41は、沸騰していてもよい。
【0032】
また、処理液41に浸漬した物品を、ヒータ12aにより処理液42から発生させた蒸気を含む蒸気ゾーン10Aに引き上げ、処理液42の蒸気に接触させて乾燥する。物品を該蒸気と接触させることにより、物品の温度が処理液の沸点まで容易に上昇するので、物品の乾燥が容易になる。また、物品を蒸気と接触させることは、下記効果も奏する。
処理液が物品の表面から揮発する際には、蒸発潜熱により物品の表面温度が低下する。物品の表面温度が室温より下がると、空気中の水分が物品表面に結露して乾燥シミが生じるおそれがある。しかし、物品を蒸気に接触させることで、表面温度の低下が抑制されるので、物品の水切り乾燥における仕上がりの品質が向上する。
【0033】
工程(II):
水切り槽11において物品と接触させた処理液41には、該物品に付着していた水が液面近くに混入している。処理液41は、オーバーフローして処理液再生部20の比重分離槽21に流入する。工程(II)では、水切り槽11から流入してきた処理液41を静置することで、比重の違いを利用してエーテル層(a1)と水層(b1)の二層に分離させる。該二層分離では、比重がより大きいエーテル層(a1)が下層、水層(b1)が上層となる。
物品と接触させる前に処理液41のアルコール類の一部は、物品に付着していた水と共に浮上するので、水層(b1)にもアルコール類が含まれている。そのため、エーテル層(a1)のアルコール濃度は、物品と接触させる前の処理液41のアルコール濃度よりも低くなっている。エーテル層(a1)におけるアルコール濃度の低下の度合いは、物品に付着している水の量が多いほど大きい。
【0034】
工程(III):
比重分離槽21で二層分離したエーテル層(a1)を接触槽22に取り出し、該エーテル層(a1)と、アルコール濃度45〜50質量%のアルコール水溶液(c)を接触させ、アルコール濃度を調整したエーテル層(a2)を得る。アルコール水溶液(c)は、比重の違いにより水層(b2)となる。
エーテル層(a1)とアルコール水溶液(c)とを接触させる方法としては、水層(b2)(アルコール水溶液(c))の上方からエーテル層(a1)を供給する方法が好ましい。また、接触槽22に攪拌翼等を設置して、アルコール水溶液(c)とエーテル層(a1)の接触液を攪拌してもよく、接触槽22自体を振って接触液を振り混ぜてもよく、それらを組み合わせてもよい。接触液を攪拌したり振り混ぜたりする場合には、エーテル層(a1)は水層(b2)の下方に供給してもよい。その他、アルコール水溶液(c)とエーテル層(a1)との接触面積を大きくするために、エーテル層(a1)をスプレー状に水層(b2)に供給する方法を用いてもよい。
【0035】
工程(III)の間、アルコール水溶液(c)に含まれるアルコール類は、平衡状態となるまで含フッ素エーテル中に溶解していく。つまり、得られるエーテル層(a2)のアルコール濃度は、アルコール濃度が45〜50質量%のアルコール水溶液(c)と平衡状態になっているため、エーテル層(a1)のアルコール濃度にかかわらず一定になる。
具体的には、処理液の含フッ素エーテルが含フッ素エーテル(α)で、アルコール類がエタノールである場合、アルコール水溶液(c)として、アルコール濃度が45質量%のエタノール水溶液を用いれば、アルコール濃度が5.0質量%のエーテル層(a2)が得られる。また、アルコール水溶液(c)として、アルコール濃度が50質量%のエタノール水溶液を用いれば、アルコール濃度が6.0質量%のエーテル層(a2)が得られる。
【0036】
工程(IV):
エーテル層(a2)は、処理液41として工程(I)に供給する。これにより、水切り槽11では、アルコール濃度が低下した処理液41が取り除かれつつ、アルコール濃度が再生されたエーテル層(a2)が供給されるため、処理液41のアルコール濃度が一定に保たれる。
また、本実施形態では、エーテル層(a2)は、処理液42として蒸気発生槽12にも供給され、蒸発により処理液42が枯渇することを防止している。
【0037】
工程(V):
工程(III)では、アルコール水溶液(c)から含フッ素エーテルへとアルコール類が移動するため、そのまま接触を続けると水層(b2)のアルコール濃度は低下していく。
そこで、接触槽22から水層(b2)を取り出して濃度調整槽31に戻し、濃度調整槽31において該水層(b2)に高濃度のアルコール水溶液を加えることで、アルコール濃度を45〜50質量%に調整してアルコール水溶液(c)を再生し、再度接触槽22(工程(III))に供給する。これにより、工程(III)において、安定したアルコール濃度のエーテル層(a2)が得られる。アルコール水溶液(c)の再生は、蒸留器32から供給される高濃度のアルコール水溶液を加える他に、流路59からアルコール類を加えることで行ってもよい。
【0038】
工程(V)における濃度調整槽31でのアルコール濃度の管理は、より正確にアルコール濃度を管理できる点から、比重を測定することにより行うことが好ましい。すなわち、比重を測定することでアルコール濃度を求める比重測定法を用いてアルコール濃度を管理しながら、高濃度のアルコール水溶液を加えて45〜50質量%のアルコール水溶液(c)を再生することが好ましい。具体的には、所定のアルコール濃度における温度と比重との関係を表す温度−比重管理図を予め用意し、該温度−比重管理図に基づいて、測定した比重によりアルコール濃度を管理する。
【0039】
また、接触液から分離した水層(b2)には、飽和濃度の含フッ素エーテルが含まれている。飽和濃度の含フッ素エーテルを含むアルコール水溶液の比重は、含フッ素エーテルを含まないアルコール水溶液の比重とは異なる。そのため、アルコール水溶液(c)を再生する際には、飽和濃度の含フッ素エーテルを含むアルコール水溶液についての温度−比重管理図を用いてアルコール濃度の管理を行う。
例えば、含フッ素エーテルが含フッ素エーテル(α)であるアルコール濃度45質量%のエタノール水溶液と、含フッ素エーテル(α)を含まないエタノール水溶液では、図3(A)および図3(B)に示すように、比重が異なる。そのため、45質量%のエタノール水溶液を再生する際には、図3(A)に示す、飽和濃度の含フッ素エーテル(α)を含むアルコール水溶液の温度−比重管理図を用いる。
【0040】
工程(V)におけるアルコール濃度の管理方法としては、比重測定法を用いる以外に、水層(b2)の沸点温度からアルコール濃度を求める沸点温度測定法、水層(b2)の屈折率からアルコール濃度を求める屈折率測定法、水層(b2)の赤外線吸収量からアルコール濃度を求める赤外線吸収式測定法等を用いてもよい。
【0041】
工程(VI):
工程(II)の比重分離槽21で分離した水層(b1)にはアルコール類が含まれている。水層(b1)を取り出して蒸留器32にて蒸留することにより、工程(V)においてアルコール水溶液(c)の再生に用いる高アルコール濃度のアルコール水溶液を得る。廃液は、流路60を通じて排出する。蒸留器32は特に限定されず、公知の蒸留器が用いられる。例えば、アルコール類としてエタノールを用いる場合、水層(b1)を蒸留器32で蒸留することで、水との共沸組成である96質量%、もしくはそれに類似のエタノール水溶液が得られる。また、公知の蒸留器に薄膜蒸留を組み合わせて、より高濃度のアルコール水溶液が得られるようにしてもよい。
工程(VI)を行うことにより水層(b1)に含まれるアルコール類を再利用できるため、工程(II)からの廃液量が減少する。
【0042】
以上説明した本発明の水切り乾燥方法は、処理液のアルコール濃度を一定に維持して、水が付着した物品の水切り乾燥を安定して実施できる。以下、該効果について詳述する。
工程(I)において水が付着した物品の水切り乾燥を行うと、該処理液においては、含フッ素エーテル(化合物(1))に溶解していたアルコール類が、処理液に加わった水と共に液面へと浮上して除去されるため、処理液のアルコール濃度が低下する。つまり、処理液をそのまま使用し続けると、物品の水切り乾燥を実施するにつれて、処理液に含まれるアルコール類の量が減少し、水切り乾燥の効率が低下することになる。
しかし、本発明の水切り乾燥方法では、工程(II)〜工程(IV)により、水切り乾燥した処理液を取り出しつつ、アルコール濃度を調整して再生した処理液(エーテル層(a2))を供給するため、工程(I)で用いる処理液に含まれるアルコール類の量の減少を抑制できる。そのため、処理液のアルコール濃度が一定に保たれ、安定した水切り乾燥が実現できる。
【0043】
すなわち、本発明の水切り乾燥方法では、工程(I)において水切り乾燥を行った処理液を、工程(II)においてエーテル層(a1)と水層(b1)に分離し、分離したエーテル層(a1)を工程(III)においてアルコール水溶液(c)と接触させ、アルコール濃度を調整する。工程(III)では、アルコール濃度が45〜50質量%のアルコール水溶液(c)と平衡に達するまで、アルコール水溶液(c)から含フッ素エーテルにアルコール類が移動する。そのため、物品の水切り乾燥によるエーテル層(a1)のアルコール濃度の低下の度合いにかかわらず、得られるエーテル層(a2)のアルコール濃度は、常に物品と接触させる前の処理液と同等に調整され、処理液が再生される。
【0044】
また、本発明の水切り乾燥方法は、HCFCの代替化合物である含フッ素エーテルとアルコール類を含む処理液を用いる方法である。含フッ素エーテル(ハイドロフルオロエーテル:HFE)は、オゾン破壊係数を持たず、他のHCFC代替化合物であるハイドロフルオロカーボン(HFC)やパーフルオロカーボン(PFC)よりも地球温暖化係数が小さな化合物であり、地球環境に特に優しい点で有益である。
【0045】
なお、本発明の水切り乾燥方法は、水切り乾燥システム1を用いた前記方法には限定されない。例えば、工程(V)および/または工程(VI)を有さない方法であってもよい。
工程(V)を有さない場合としては、例えば、アルコール水溶液再生部を有さない水切り乾燥システムを用いて、水層(b2)は廃棄してアルコール水溶液(c)を再生せずに、アルコール水溶液(c)を別途用意して接触槽(工程(III))に供給する方法が挙げられる。
また、工程(VI)を有さない場合としては、例えば、蒸留器を有さないアルコール水溶液再生部を備えた水切り乾燥システムを用いて、水層(b1)は廃棄して再利用せずに、別途用意した高濃度のアルコール水溶液によりアルコール水溶液(c)を再生する方法が挙げられる。
【0046】
また、工程(I)における物品と処理液の接触は、処理液に物品を浸漬する方法には限定されない。例えば、水切り乾燥部において、物品にスプレー式で処理液を吹き付けられるようになっていてもよい。また、前述のように処理液に超音波振動を与えられるようになっていなくてもよく、物品を処理液に浸漬する場合、攪拌、ポンプ等による噴流等によって処理液が流動するようにしてもよい。
また、流路53には、水分を除去するコアレッサー型フィルターを設けてもよい。これにより、流路53を通じて送られるエーテル層(a2)に、万一水分が大量に持ち込まれた場合でも、該フィルターで水分を除去することで、装置内を循環する処理液が水分の混合により白濁することを抑制できる。また、流路53には、異物を除去する異物除去用フィルターを設けてもよく、水分除去用コアレッサー型フィルターと異物除去用フィルターを併せて設けてもよい。
また、エーテル層(a2)を処理液42として、蒸気発生槽に供給しない方法であってもよい。この場合、処理液42は、処理液41と異なる組成であってもよい。また、蒸気発生槽に処理液の代わりに含フッ素エーテルを収容し、含フッ素エーテルの蒸気を含む蒸気ゾーンに物品を引き上げて、該蒸気と物品を接触させる方法であってもよい。
また、蒸気発生槽を有さない水切り乾燥部を有する水切り乾燥システムを用いて、処理液から引き上げた物品を、そのまま放置したり加熱することで乾燥する方法であってもよい。
【0047】
また、エーテル層(a1)とアルコール水溶液(c)を接触させる接触槽と、その接触液をエーテル層(a2)と水層(b2)に二層分離させる、接触槽とは別に設けられた比重分離槽とを有する処理液再生部を備えた水切り乾燥システムを用いる方法であってもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。例4〜6は実施例、例1〜3および6は比較例である。
本実施例では、水切り乾燥試験を行う物品(被洗物)として、あらかじめよく洗浄したガラス板(縦250mm×横300mm×厚さ2mm)を水に浸漬したものを用いた。
また、アルコール類と含フッ素エーテルを含む処理液として、アサヒクリンAE−3100E(旭硝子社製、CHFCF−O−CHCF、5.5%エタノール混合物、沸点56℃)を用いた。
【0049】
[例1]
図1に例示した水切り乾燥システム1において、濃度調整槽31から接触槽22に水を供給し、接触槽22において、比重分離槽21から流入してきたエーテル層(a1)に水を接触させるようにした。この水切り乾燥システムを1時間運転した後に、水切り乾燥試験を実施した。本試験にはAE−3100Eを100kg使用した。
まず、物品100枚を治具に乗せ、水切り槽11にて45℃の処理液に浸漬し、超音波振動を与えながら1分間水切りを行った。次に、処理液の蒸気ゾーン10Aで1分間蒸気洗浄を行った。これらの操作を100回(100枚×100回=10000枚)繰り返して行った。
なお、本試験において、100枚のガラス板が載った治具に付着している水の量は、水切り乾燥1回あたり50gであった。
【0050】
[例2〜6]
濃度調整槽31から接触槽22に供給する水を、表1に示すエタノール濃度(EtOH濃度)のエタノール水溶液に変更した以外は、例1と同様にして100枚×100回の水切り乾燥試験を実施した。
濃度調整槽31において、エーテル層(a1)と接触させるエタノール水溶液(アルコール水溶液(c))の濃度は、図3(A)に示す比重管理表を用いて、100枚の物品の水切り乾燥10回毎に比重測定を行いながら維持した。
【0051】
[評価方法]
(1)水切り槽の処理液のエタノール濃度
100回の水切り乾燥試験の終了後に、水切り槽11の処理液をサンプリングし、アジレント社製ガスクロマトグラフ(アジレント6890GCシステム)により処理液のエタノール濃度を測定し、下記基準で評価した。
○:エタノール濃度が5.0質量%以上6.0質量%以下であった。
×:エタノール濃度が5.0質量%未満、または6.0質量%超であった。
【0052】
(2)水切り乾燥の評価
100回目の水切り乾燥試験の終了後、目視および呼気によりガラス板表面のシミの有無を確認し、乾燥状態を評価した。
○:ガラス板表面にシミがなかった。
×:ガラス板表面にシミが確認された。
例1〜6における各評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、接触槽22において、エーテル層(a1)にエタノール濃度が45質量%のエタノール水溶液を接触させた例4では、100回の水切り乾燥試験後の水切り槽に収容された処理液のエタノール濃度が5.0〜6.0質量%の範囲に保たれており、得られたガラス板にシミが見られず安定した水切り乾燥が実施できた。同様に、エーテル層(a1)にエタノール濃度が50質量%のエタノール水溶液を接触させた例5でも、水切り槽の処理液のエタノール濃度が保たれており、安定した水切り乾燥が実施できた。
【0055】
一方、接触槽22においてエーテル層(a1)に水を接触させた例1では、アルコール類が供給されないため、水切り乾燥の実施につれて処理液のアルコール濃度が低下し、表面にシミが見られるガラス板があった。
また、エーテル層(a1)にエタノール濃度30質量%のエタノール水溶液を接触させた例2、およびエタノール濃度40質量%のエタノール水溶液を接触させた例3では、アルコール類の供給量が少ないため、処理液のエタノール濃度が5.0質量%未満となり、ガラス板表面にシミが見られた。
エーテル層(a1)にエタノール濃度55質量%のエタノール水溶液を接触させた例6では、ガラス板表面にシミが見られることはなかったものの、処理液のエタノール濃度が6.0質量%よりも高かった。そのため、蒸気発生槽12においてエタノールが濃縮されて引火するエタノール濃度となった。
【符号の説明】
【0056】
1 水切り乾燥システム 10 水切り乾燥部 11 水切り槽 12 蒸気発生槽 13 冷却コイル 20 処理液再生部 21 比重分離槽 22 接触槽 30 アルコール水溶液再生部 31 濃度調整槽 32 蒸留器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(I)〜(IV)を有する水切り乾燥方法。
(I)水が付着した物品と、下式(1)で表される含フッ素エーテルを主成分とし、アルコール類を含む処理液とを接触させて物品から水を分離し、該物品を乾燥させる水切り乾燥工程。
(II)前記物品を接触させて水切りした処理液を、比重の違いによりエーテル層(a1)と水層(b1)の二層に分離させる工程。
(III)分離したエーテル層(a1)に、前記アルコール類を含むアルコール濃度45〜50質量%のアルコール水溶液を接触させ、アルコール濃度を調整したエーテル層(a2)を得る工程。
(IV)前記エーテル層(a2)を前記処理液として前記工程(I)に供給する工程。
f1−O−Rf2 (1)
(ただし、式(1)中、Rf1およびRf2は、それぞれ独立にフッ素原子数が1以上の含フッ素アルキル基であり、Rf1およびRf2に含まれる炭素原子数の合計が4〜8である。)
【請求項2】
さらに、下記工程(V)を有する、請求項1に記載の水切り乾燥方法。
(V)前記工程(IV)のエーテル層(a2)上に形成される水層(b2)のアルコール濃度を45〜50質量%に調整して前記アルコール水溶液を再生し、前記工程(III)に供給する工程。
【請求項3】
前記工程(I)が、前記物品を前記処理液に接触させた後、該物品を、前記処理液の蒸気または前記含フッ素エーテルの蒸気と接触させて乾燥させる工程である、請求項1または2に記載の水切り乾燥方法。
【請求項4】
前記工程(V)におけるアルコール濃度を比重を測定して管理する、請求項1〜3のいずれかに記載の水切り乾燥方法。
【請求項5】
前記アルコール類が、メタノール、エタノールおよび2−プロパノールからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の水切り乾燥方法。
【請求項6】
水が付着した物品と、下式(1)で表される含フッ素エーテルを主成分とし、アルコール類を含む処理液とを接触させて水を切り、該物品を乾燥させる水切り乾燥部と、
前記水切り乾燥部の処理液を抜き出して、比重の違いによりエーテル層(a1)と水層(b1)の二層に分離し、該エーテル層(a1)に、前記アルコール類を含むアルコール濃度45〜50質量%のアルコール水溶液を接触させて、アルコール濃度を調整したエーテル層(a2)を得て、該エーテル層(a2)を前記処理液として前記水切り乾燥部に供給する処理液再生部と、
を有する水切り乾燥システム。
f1−O−Rf2 (1)
(ただし、式(1)中、Rf1およびRf2は、それぞれ独立にフッ素原子数が1以上の含フッ素アルキル基であり、Rf1およびRf2に含まれる炭素原子数の合計が4〜8である。)
【請求項7】
前記処理液再生部において前記エーテル層(a2)上に形成される水層(b2)のアルコール濃度を、45〜50質量%に調整して、前記アルコール水溶液として前記処理液再生部に供給するアルコール水溶液再生部を有する、請求項6に記載の水切り乾燥システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate