説明

水制工及びその構築方法

【課題】水制工の施工を良好にし、耐久性や柔軟性も良好にし、建設副産物を材料として利用する。
【解決手段】河川7や海岸に陸地から張り出して、或いは河川や海の中に構築する水制工A・Bであって、中心部Cは、土、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材3とした土のう袋1を設置する。中心部Cを囲む水際となる水衝部Dには、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材5としたネット状袋材4を配置する。ネット状袋材4は、中詰材4が水流を低減し、生物の生息場所ともなる。中心部Cの土を詰めた土のう袋1は、比較的平滑な表面となって、その上を車両が通交でき、植生も可能となる。クレーンによって吊り下げて設置でき、施工性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や海の中に構築して水流方向を制御するための水制工及びその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川や海岸近くの海の中に構築して、特に河川の水流を弱めたり、河川の流れの方向を制御することにより、堤防の安全性を高め、周辺の生態系の維持・復元を図るための水制工が採用されている。
水制工の形状としては、その平面形状がT字形、L字形、I字形、円弧形など、様々な形状が存在する。
水制工としては、その水際部分は水流によって洗掘され難く、水際部分に囲まれた中心部分は植生などが可能であることが望ましい。
従来、この水制工としては、粗朶を組み合わせ、その中に石材を詰めたものや、コンクリートブロックを積み上げた構造のものが広く採用されていた。
【0003】
前記した従来の水制工における課題としては、施工性が悪いことが挙げられる。
粗朶を使用した場合、粗朶を大量に確保するのが難しくなっており、設置場所で、人力で粗朶を組み合わせる必要があり、重機による施工も出来ないという施工性の悪さがある。
コンクリートブロック積みの場合は、多くの場合、現場にて型枠を使用してブロックを製造することが多く、養生する期間が必要で、それらをストックするストックヤードの確保が必要となる。
【0004】
前記した従来の水制工には、耐久性や構造上の課題もある。
粗朶を使用した施工の場合、粗朶が天然素材のため、紫外線や水位の変化により劣化するため、水制工の機能を半永久的に持続させることができない。
コンクリートブロックの場合では、流水が当たる水制工の上流端や、水制工の先端では、大きな河床洗屈が起きる可能性があるが、コンクリートブロックを用いた水制工は柔軟性がないため、一気に崩れる可能性がある。
【0005】
更に上記した従来技術では、施工に必要な材料を現場で調達するのではないため、現場で不要となっている建設副産物の再利用には結びつかない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−239321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、施工性の悪さであり、耐久性や柔軟性が良くないことであり、建設副産物を利用していないことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる水制工は、河川や海岸に陸地から張り出して、或いは河川や海の中に構築する水制工であって、
中心部は土砂、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材とした土のう袋を設置し、
前記中心部を囲む水際となる水衝部には、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材としたネット状袋材を配置するものである。
【0009】
本発明にかかる水制工の構築方法は、河川や海岸に陸地から張り出して、或いは河川や海の中に水制工を構築する方法であって、
中心部は土砂、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材とした土のう袋を設置し、
前記中心部を囲む水際となる水衝部には、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材としたネット状袋材を配置するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上のような構成を有し、少なくとも下記のいずれか一つの効果を達成する。
<a>水制工の中心部には、土砂、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材とした土のう袋を設置し、前記中心部を囲む水際となる水衝部には、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材としたネット状袋材を配置するため、それぞれの利点を生かした構造物とすることができる。
<b>水衝部に設置する石材などの中詰材を詰めたネット状袋材は、水流を通す多数の孔を有しており、流速低減効果を発揮し、水制工としての機能が向上する。
また、中詰材として石材やコンクリート殻を使用し、土を詰めていないので、水流によって中詰材が押し流されることがない。
<c>水際に設置したネット状袋材には、中詰材の間に多くの孔が形成されるため、稚魚やカニ、貝類などの河川や浜辺に生息する様々な生物たちの生態系に良好な影響を与えることになる。
<d>土のう袋やネット状袋材に、現場で処分に困っていた土砂やコンクリート殻などの建設副産物を中詰材として詰めることで、建設副産物の再利用を図ることができる。
<e>中心部に設置する土のう袋には土砂を詰めるため、比較的表面を平滑に形成出来、車両の通交が充分可能となり、別途仮設道路を造る必要もなくなる。
また、詰めた土に草木などが根づき易く、表面の緑化なども図れる。
<f>中詰材を詰める土のう袋やネット状袋材を使用するため、粗朶を用いた水制工と比較し、重機による施工が可能となり、施工性が大幅に向上する。
<g>工場で製造した土のう袋やネット状袋材を使用するため、コンクリートブロックを用いた水制工と比較して、養生期間や広大なストックヤードの確保が不要になり、現場での施工速度の向上、工事期間の短縮が可能となる。
<h>耐候性の土のう袋やネット状袋材などを使用し、石材などを中詰材とするため、粗朶を用いた水制工と比較し、耐久性に優れており、腐食などの心配がない。
<i>石材などを中詰材とした袋或いは袋材という柔軟な部材によって構築するため、河床洗掘に追従することが可能であり、一気に崩れることがなく、水制工としての機能を長く持続することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施した水制工の平面図
【図2】河川において施工した水制工の平面図
【図3】本発明を実施した水制工の一部斜視図
【図4】本発明の水制工の断面図
【図5】本発明で使用した土のう袋の斜視図
【図6】本発明で使用したネット状袋材の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、水制工の中心部には土、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材とした土のう袋を設置し、前記中心部を囲む水際となる水衝部には、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材としたネット状袋材を配置し、それぞれの部材の適性を生かした二重構造とした。
【実施例1】
【0013】
以下、図に示す実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
<1> 土のう袋
図5に示すのは、本発明で使用する土のう袋1であり、耐候性を有する化学繊維を使用した布地やシート地によって形成されており、その形状として丸筒形状や各筒形状に形成されている。
土のう袋1は、その大きさとして0.5m3以上であることが好ましい。
土のう袋1は、上端で絞るようにして封をし、吊り上げるためのベルト2が設けられている。
土のう袋1内には、土砂、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材3として詰める。
土のう袋は、内側に収納した土砂等がバラけないように拘束し、且つ水流にさらされても流出し難い材質から成っていることが好ましい。
【0014】
<2> ネット状袋材
図6に示すのは、本発明で使用するネット状袋材4であって、多数の網目を有するネット状の袋に形成されている。
ネットは、耐候性を有する化学繊維を使用して形成したもので、その形状はキンチャク袋形状に形成されている。
ネット状袋材4は、上端で絞るようにして封をし、絞った部分に取り付けられているロープにクレーンのフック6をかけて吊り上げることが出来る。
ネット状袋材4には、石材或いはコンクリート殻、或いはそれらの混合材料を中詰材5として詰める。
【0015】
<3> 水制工
図2に示すのは、河川7において本発明を実施した水制工の平面図であり、堤防8から複数個のT字形の水制工Aを突設してあり、河川7の幅方向中間部に複数個のほぼ直線形状の水制工Bを構築してある。
水制工A・Bの河川7の流れ方向の長さLは80mであって、隣り合う水制工A・B間の間隔Wは20mである。
【0016】
<4> 中心部
水制工A・Bの中心部C、つまりは水制工A・Bの周囲の水際でない部分には、中詰材3を詰めた土のう袋1を設置する。
図1では、一点鎖線で囲まれた部分が中心部Cである。
設置にはクレーンなどを使用して吊り上げ、設置が可能である。
土のう袋1は、水制工A・Bの中心部分の幅方向に必要個数並べて置き、その高さ方向にも必要個数積み上げることができる。
土のう袋1内には、土、石材或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を詰めるため、比較的表面を平滑にすることができ、その上を車両などが通過することが可能で、別途仮設道路を構築する手間が不要となる。
また土のう袋1内に土を詰めておくことで、中心部C表面に草木を植生することも可能となる。
【0017】
<5> 水衝部
前記した水制工A・Bの外周側の部分であって、水流にさらされる水際部分を水衝部Dと呼び、この水衝部Dには中詰材5を詰めたネット状袋材4を設置する。
ネット状袋材4の設置にもクレーンなどの重機が使用できる。
ネット状袋材4は、幅方向に必要個数並べて設置し、高さ方向にも必要個数積み上げることができる。
ネット状袋材4内には、石材或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を詰めるもので、土を詰めていないため、水流にさらされても中詰材5が押し流されてしまうことが少ない。
また、ネット状袋材4には、石材やコンクリート殻などの中詰材5を詰めてあるため、網目を通って内側に入った水流は、中詰材5の間に生じた無数の孔(多孔質)の間に流れ込み、流速低減効果を発揮する。
これにより、水制工A・Bとしての機能が向上する。
また、前記した中詰材5の間に生じた無数の孔の中は、稚魚やカニなどの生物の生息可能な場所となり、生態系の維持・向上を図ることができ、生態系に配慮した水制工となる。
【0018】
<6> 水衝部の植生
前記した水制工A・Bの水際部分となる水衝部Dは、石材やコンクリート殻の中詰材5を詰め、土は詰めないが、砂が中詰材5同士の間に溜まり、その部分から植物が生育することもある。
【符号の説明】
【0019】
A 水制工
B 水制工
C 中心部
D 水衝部
1 土のう袋
2 ベルト
3 中詰材
4 ネット状袋材
5 中詰材
6 フック
7 河川
8 堤防

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川や海岸に陸地から張り出して、或いは河川や海の中に構築する水制工であって、
中心部は土砂、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材とした土のう袋を設置し、
前記中心部を囲む水際となる水衝部には、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材としたネット状袋材を配置してなる、
水制工。
【請求項2】
前記中詰材を詰めたネット状袋材は、流速低減効果を有することを特徴とする、
請求項1記載の水制工。
【請求項3】
前記土のう袋及びネット状袋材は、合成樹脂製の耐候性材料から成ることを特徴とする、
請求項1又は2記載の水制工。
【請求項4】
前記土のう袋は、石材等の中詰材を拘束し、且つ水流にさらされても流出し難いことを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水制工。
【請求項5】
前記した中詰材を詰めたネット状袋材は、多孔質な空間を有し、生物が生息し易い生態系に配慮した構造であることを特徴とした、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載した水制工。
【請求項6】
河川や海岸に陸地から張り出して、或いは河川や海の中に水制工を構築する方法であって、
中心部は土砂、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材とした土のう袋を設置し、
前記中心部を囲む水際となる水衝部には、石材、或いはコンクリート殻、又はそれらの混合材料を中詰材としたネット状袋材を配置する
水制工の構築方法。
【請求項7】
前記した土のう袋やネット状袋材に詰める中詰材として、解体した構造物のコンクリート殻や、掘削した土砂などの建設副産物を採用することを特徴とする、
請求項6記載の水制工の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−180637(P2010−180637A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25930(P2009−25930)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【Fターム(参考)】