説明

水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法

【課題】 水を反応活性粉砕物では残存影響が現れやすい粉砕助剤の使用を行わなくても、粉砕助剤を用いた場合に匹敵するような高い粉砕効果が得られ、且つ水和反応活性を低減させずに十分発現できるような、水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕に適した粉砕方法を提供する。
【解決手段】 粉砕媒体に鉄とアルミナを併用し、ボールミルで粉砕することを特徴とする水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばセメントなどの水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築・土木資材として広く用いられているセメント、生石灰、カルシウムアルミネートなどのような水和反応活性が比較的高い材料は、所定の原料を加熱溶融させて得たクリンカや焼成して得たクリンカを粉砕して製造されている。このようなクリンカの粉砕は、生産性や粉砕時に混入する不純物の観点から主に鉄球を粉砕媒体としたボールミルにより粉砕されている。また、適度の反応活性を得る上で、生産的規模では粉砕物の粉末度を所望の値まで速やか至らしめるために、粉砕効率を高める粉砕助剤を用いて粉砕されている。一般に、窯業材料の粉砕助剤としては、例えばプロピレングリコールやジエチレングリコールなどの低級アルキレングリコールのオリゴマー、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類、ステアリン酸などの脂肪酸又はフェノール等の芳香族化合物、ヒドロキシアルキルヒドラジンやターシャルブチル酢酸等が知られている。この中でも被粉砕物がセメント等の水和反応活性物質では特に、低級アルキレングリコールやアルカノールアミン類が好適に用いられている。(例えば、特許文献1〜2参照。)
【特許文献1】特開平7−33487号公報
【特許文献2】特開2002−160959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ボールミル粉砕による粉砕効率を高めるために、低級アルキレングリコールやアルカノールアミン類のような有機系の粉砕助剤を併用すると、粉砕効率は高まるものの、水和反応活性が比較的高い被粉砕物では、同程度の粉末度にしたものでは、粉砕助剤を使用しなかったものに比べ、粉砕物粒子に付着残存する粉砕助剤の影響が強く現れて、反応活性が低下する。特に、速硬・急結成分としてのカルシウムアルミネートや膨張成分としての生石灰などの水和反応活性が高いものでは、この影響が大きく現れ、モルタルやコンクリートなどのセメント系組成物の混和成分に使用すると、凝結が遅延して所望の速硬性や急結性が得られなかったり、高い膨張性が十分得られないといったことが起こり易かった。そこで本発明は、このような残存影響が現れやすい粉砕助剤を用いることなく、粉砕助剤を用いた場合に匹敵するような高い粉砕効果が得られ、且つ水和反応活性を低減させずに十分発現できるような、水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕に適した粉砕方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題解決のため鋭意検討を重ねた結果、特定の粉砕媒体を用いてボールミル粉砕を行えば、粉砕助剤を用いなくても高い粉砕効果が得られ、水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカを粉砕しても、得られた粉末は反応活性が低下しなかったことから本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、次の(1)〜(3)で表される水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法である。(1)粉砕媒体に鉄とアルミナを併用し、ボールミルで粉砕することを特徴とする水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法。(2)粉砕媒体に用いるアルミナの平均粒径が鉄の平均粒径の5〜50%であることを特徴とする前記(1)の水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法。(3)粉砕媒体に用いる鉄とアルミナの割合が、鉄100容積部に対しアルミナ0.1〜10容積部であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、生産性の高いボールミル粉砕で、使用後は不要となるような高価な粉砕助剤を用いることなく、比較的高い硬度の被粉砕物であっても、粉砕助剤を用いた場合に勝るとも劣らない程度に粉砕効率を高めることができ、また高粉末度の粉末も、本来の反応活性を低減させることなく、容易に得ることができるため、水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕には特に適した方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法で対象とする被粉砕物は、水和反応活性物質を多少とも含有する無機系の溶融又は焼成クリンカであれば、被粉砕物全体としての硬度がアルミナ多結晶体と概ね同等かそれ以下である限り、何れのものでも良い。具体的には、溶融塊としてカルシウムアルミネートやカルシウムサルフォアルミネート或いはこのような成分を有効成分とするアルミナセメントやガラス等を挙げることができる。また、焼成クリンカとして、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメント、高ビーライトセメント、エコセメント、ジェットセメントなどのセメントクリンカ、石灰石を主要原料とする生石灰系クリンカ、マグネサイトや海水抽出水酸化マグネシウムを主要原料とするマグネシアクリンカ、ドロマイト等を主要原料とするドロマイトクリンカ、結晶質又は/及び非晶質カルシウムアルミネートを有効成分とするクリンカ等を例示することができる。
【0008】
本発明の水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法では、生産性に優れ、且つ比較的広い粒度範囲の粉砕物が容易に得られ易いことから、ボールミルを使用しての乾式粉砕を行う。ボールミル粉砕に使用する粉砕媒体(ボール)は、材質が鉄のものとアルミナのものを併用する。鉄は比重が高いため高い衝撃力による粉砕が期待でき、またアルミナは、硬度が非常に高く耐摩耗性に優れることから、被粉砕物を摩減して小粒化できることに加え、鉄媒体に付着した被粉砕物を随時剥ぎ取ることができ、粉砕物付着による粉砕緩衝作用を著しく抑えることができる。このことによって、本発明では一般に用いられている粉砕助剤を使用しなくても高い粉砕効率が得られる。
【0009】
本発明の水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法で、粉砕媒体に使用する鉄とアルミナの粒径は、粉砕効率を向上させる上でアルミナの平均粒径が鉄の平均粒径の5〜50%であることが好ましい。アルミナの平均粒径が鉄の平均粒径の5%未満又は50%を超えると、何れも被粉砕物の鉄媒体への付着防止効果が低減することがあるので適当ではない。また、鉄の粒径はボールミルの内容積や得ようとする粉砕物の粒度等によって幾分変動するものの、概ね5mm〜200mmであることが好ましく、この範囲にある複数の粒径の鉄を併用するのがより好ましい。また、アルミナも複数の粒径のものを併用することができる。尚、ボールミルのミル内壁材は鉄でもアルミナでも良いが、破損が少ないことから鉄が推奨される。
【0010】
また、本発明の水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法で、粉砕媒体に使用する鉄とアルミナの使用量は、鉄100容積部に対しアルミナ0.1〜10容積部が好ましい。アルミナ0.1容積部未満では、被粉砕物の鉄媒体への付着防止効果が著しく低減することがあるので適当ではなく、10容積部を超えると相対的に鉄媒体の量が低下し、粉砕力の低下を起こすことがあるので適当ではない。
【0011】
また、本発明の水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法では、乾式粉砕で行い、粉砕に際し、ボールミルに投入する被粉砕物と粉砕媒体の量は、嵩容積でミル内容容積の10〜50%に相当する量の粉砕媒体、及び嵩容積でミル内容容積の25〜75%に相当する量の粉砕媒体と被粉砕物とするのが好ましい。当該範囲から外れた量では、粉砕効率の低下や所望の粉末度の粉砕物が得られ難くなることがあるので適当ではない。より好ましくは、嵩容積でミル内容容積の20〜45%に相当する量の粉砕媒体、及び嵩容積でミル内容容積の30〜70%に相当する量の粉砕媒体と被粉砕物とするのが好ましい。粉砕時間は、被粉砕物の種類や量、得ようとする粉砕物の粉末度、使用粉砕媒体などに応じて適宜定めれば良い。一例を挙げると、数〜10cm程度の複数の溶融塊約1Kgの粉砕で、粒径100ミクロン以下のカルシウムアルミネートを得ようとする場合、1時間以内で粉砕することができる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明するが、本発明はここで表す実施例に限定されるものではない。
【0013】
[実施例1] 加熱溶融させて得たアルミナセメントクリンカ1Kgを、内容積6リットルの内壁鋼製のボールミルを使用し、粉砕媒体として4種類の粒径(直径10mm、15mm、18mm、25mm)の鋼ボール各2.5Kg(合計質量10Kg、合計容積1.27リットル)及び粒径4mmの高純度アルミナボール40g(容積0.01リットル)を用いて、20±1℃の温度下で、回転数60rpmにて40分間乾式粉砕を行った。粉砕後のアルミナセメントクリンカ粉末の比表面積を測定した結果、4490cm2/gであった。次いで、粉砕物の水和反応特性の評価として、粉砕後のアルミナセメントクリンカ粉末400gと早強ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)600g及び水400gを配合し、ハンドミキサーで1分間混練し、セメントペーストを作製した。作製直後のセメントペーストをJIS R 5201に規定された凝結用セメントペースト容器に充填し、20±1℃の室内に放置した。充填直後から2分毎に充填物の硬化状態を指触で調べ、その表面を指で10秒間押し続け、窪み、変形及び亀裂が生じていなく、かつ指に充填物の付着もなかった時点での充填直後からの経過時間を調べた。その結果4分となった。
【0014】
[実施例2] 焼成して得た結晶質カルシウムアルミネート(12CaO・7Al23)クリンカ1Kgを、実施例1と同じボールミルと粉砕媒体を用い、同じ条件で乾式粉砕を行った。粉砕後の結晶質カルシウムアルミネートクリンカ粉末の比表面積を測定した結果、4620cm2/gであった。次いで、粉砕物の水和反応特性の評価として、粉砕後の結晶質カルシウムアルミネートクリンカ粉末400gと普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)600g及び水400gを配合し、ハンドミキサーで1分間混練し、セメントペーストを作製した。作製直後のセメントペーストをJIS R 5201に規定された凝結用セメントペースト容器に充填し、20±1℃の室内に放置した。充填直後から2分毎に充填物の硬化状態を指触で調べ、その表面を指で10秒間押し続け、窪み、変形及び亀裂が生じていなく、かつ指に充填物の付着もなかった時点での充填直後からの経過時間を調べた。その結果2分となった。
【0015】
[比較例1] 加熱溶融させて得た実施例1と同様のアルミナセメントクリンカ1Kgを、内容積6リットルの内壁鋼製のボールミルを使用し、粉砕媒体として4種類の粒径(直径10mm、15mm、18mm、25mm)の鋼ボール各2.5Kg(合計質量10Kg、合計容積1.27リットル)用いて、20±1℃の温度下で、回転数60rpmにて40分間乾式粉砕を行った。粉砕後のアルミナセメントクリンカ粉末の比表面積を測定した結果、2370cm2/gであった。次いで、粉砕物の水和反応特性の評価として、粉砕後のアルミナセメントクリンカ粉末400gと早強ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)600g及び水400gを配合し、ハンドミキサーで1分間混練し、セメントペーストを作製した。作製直後のセメントペーストをJIS R 5201に規定された凝結用セメントペースト容器に充填し、20±1℃の室内に放置した。充填直後から2分毎に充填物の硬化状態を指触で調べ、その表面を指で10秒間押し続け、窪み、変形及び亀裂が生じていなく、かつ指に充填物の付着もなかった時点での充填直後からの経過時間を調べた。その結果20分となった。
【0016】
[比較例2] 加熱溶融させて得た実施例1と同様のアルミナセメントクリンカ1Kgを、内容積6リットルの内壁鋼製のボールミルを使用し、粉砕媒体として4種類の粒径(直径10mm、15mm、18mm、25mm)の鋼ボール各2.5Kg(合計質量10Kg、合計容積1.27リットル)及び粉砕助剤としてジエチレングリコールを1.0g用いて、20±1℃の温度下で、回転数60rpmにて40分間粉砕を行った。粉砕後のアルミナセメントクリンカ粉末の比表面積を測定した結果、3300cm2/gであった。次いで、粉砕物の水和反応特性の評価として、粉砕後のアルミナセメントクリンカ粉末400gと早強ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)600g及び水400gを配合し、ハンドミキサーで1分間混練し、セメントペーストを作製した。作製直後のセメントペーストをJIS R 5201に規定された凝結用セメントペースト容器に充填し、20±1℃の室内に放置した。充填直後から2分毎に充填物の硬化状態を指触で調べ、その表面を指で10秒間押し続け、窪み、変形及び亀裂が生じていなく、かつ指に充填物の付着もなかった時点での充填直後からの経過時間を調べた。その結果14分となった。
【0017】
[比較例3] 焼成して得た実施例2と同様の結晶質カルシウムアルミネート(12CaO・7Al23)クリンカ1Kgを、内容積6リットルの内壁鋼製のボールミルを使用し、粉砕媒体として4種類の粒径(直径10mm、15mm、18mm、25mm)の鋼ボール各2.5Kg(合計質量10Kg、合計容積1.27リットル)用いて、20±1℃の温度下で、回転数60rpmにて40分間乾式粉砕を行った。粉砕後の結晶質カルシウムアルミネートクリンカ粉末の比表面積を測定した結果、2200cm2/gであった。次いで、粉砕物の水和反応特性の評価として、粉砕後の結晶質カルシウムアルミネートクリンカ粉末400gと普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)600g及び水400gを配合し、ハンドミキサーで1分間混練し、セメントペーストを作製した。作製直後のセメントペーストをJIS R 5201に規定された凝結用セメントペースト容器に充填し、20±1℃の室内に放置した。充填直後から2分毎に充填物の硬化状態を指触で調べ、その表面を指で10秒間押し続け、窪み、変形及び亀裂が生じていなく、かつ指に充填物の付着もなかった時点での充填直後からの経過時間を調べた。その結果14分となった。
【0018】
[比較例4] 焼成して得た実施例2と同様の結晶質カルシウムアルミネート(12CaO・7Al23)クリンカ1Kgを、内容積6リットルの内壁鋼製のボールミルを使用し、粉砕媒体として4種類の粒径(直径10mm、15mm、18mm、25mm)の鋼ボール各2.5Kg(合計質量10Kg、合計容積1.27リットル)及び粉砕助剤としてジエチレングリコールを1.0g用いて、20±1℃の温度下で、回転数60rpmにて40分間乾式粉砕を行った。粉砕後の結晶質カルシウムアルミネートクリンカ粉末の比表面積を測定した結果、3170cm2/gであった。次いで、粉砕物の水和反応特性の評価として、粉砕後の結晶質カルシウムアルミネートクリンカ粉末400gと早強ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)600g及び水400gを配合し、ハンドミキサーで1分間混練し、セメントペーストを作製した。作製直後のセメントペーストをJIS R 5201に規定された凝結用セメントペースト容器に充填し、20±1℃の室内に放置した。充填直後から2分毎に充填物の硬化状態を指触で調べ、その表面を指で10秒間押し続け、窪み、変形及び亀裂が生じていなく、かつ指に充填物の付着もなかった時点での充填直後からの経過時間を調べた。その結果16分となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕媒体に鉄とアルミナを併用し、ボールミルで粉砕することを特徴とする水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法。
【請求項2】
粉砕媒体に用いるアルミナの平均粒径が鉄の平均粒径の5〜50%であることを特徴とする請求項1記載の水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法。
【請求項3】
粉砕媒体に用いる鉄とアルミナの割合が、鉄100容積部に対しアルミナ0.1〜10容積部であることを特徴とする請求項1又は2記載の水和反応活性物質を含有する溶融又は焼成クリンカの粉砕方法。