説明

水和物生成方法と蓄熱材及び蓄熱装置

【課題】水と液体ゲスト物質の分散状態を長期にわたり安定させることができ、かつ、より高い反応収率を実現可能な水和物生成方法と蓄熱材及び蓄熱装置を提供する。
【解決手段】水和物を形成する液体ゲスト物質14とホスト物質である水13とを界面活性剤で乳化させて分散液とし、これを冷却して水和物を生成する水和物生成方法であって、界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤に微量のアニオン系界面活性剤を添加したものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状炭化水素類などの液体ゲスト物質を用いて水和物とする水和物生成方法と蓄熱材及び蓄熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クラスレートハイドレート(包接水和物、以下単に水和物という)はメタンのような疎水性の分子と水分子とから生成される氷状固体物質であり、水分子(ホスト物質)が、低温・高圧条件下でクラスレートハイドレート生成分子(ゲスト物質)と接するとゲスト物質を包接する結晶構造となる。
【0003】
水和物は、生成時に熱を発生し、分解時には熱を吸収するため蓄熱材として用いることができ、例えば深夜電力で水和物を生成し、これをヒートポンプなどの冷房サイクルの冷熱源として使用することがなされつつある。
【0004】
従来、ゲスト物質としてガスを用いたガスハイドレートの生成法としては、特許文献1や非特許文献1にみられるように、ゲストガスを充填したゲストガス容器内でホスト物質である水をスプレー噴霧して水和物を生成するスプレー噴霧法や、水を充填した容器内にゲストガスを噴射して水和物を生成するマイクロバブル法などがある。
【0005】
しかし、ガスハイドレートは分解時にゲストガスと水とに分離するため、再度水和物とするには、ガスと水とを別個にハンドリングする必要があり、冷房サイクルに組み込む場合には、装置が複雑になる問題がある。
【0006】
よって、ゲスト物質を液体とするハイドレートが生成できれば、ゲスト物質もホスト物質(水)も共に液相で生成・分解が行えるので、冷房サイクルの蓄熱材などに利用するには極めて優位なものとなる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−3181号公報
【非特許文献1】山本ほか、「マイクロバブル発生装置を用いたガスハイドレートの効率的生成方法の研究」、日本エネルギー学会大会講演要旨集、vol.10、pp.253−256、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、液体をゲスト物質とする水和物は高効率な生成法が開発されていない。
【0009】
一般には、環状炭化水素類を液体ゲスト物質とし水をホスト物質として水和物を生成することは可能であるが、水よりも比重の軽い液体を液体ゲスト物質として水和物を生成する場合、容器内で水が下、液体ゲスト物質が上となって層分離してしまい、水和物は液−液界面でしか生成しないために生成速度が遅くなる問題がある。
【0010】
また、層分離をなくすために、これを撹拌、冷却しながら水和物を生成しようとしても、水和物の生成熱で液体ゲスト物質が蒸発し、液体ゲスト物質の貯蔵量が減ってしまい、液体ゲスト物質の頻繁な補充が必要となる。さらに、液体ゲスト物質が引火性の強いものであれば引火のおそれも生じる。
【0011】
また、生成速度を向上させるために冷却温度を低下させるとホスト物質である水がそのまま凍ってしまい、さらには、液体ゲスト物質と水との分散性が悪いと水和物結晶へ未反応の液体ゲスト物質が閉じ込められてしまうため、水および液体ゲスト物質から水和物への生成速度、反応収率(水和物への転化率)を向上させることが困難であるという問題がある。
【0012】
一般に水和物結晶は氷と異なるものであるが、冷却面から層状に成長して板状の塊となる点では氷の成長と類似の性質を有する。このように水和物結晶が冷却面で板状の塊となることで、まだ水和反応の起こっていない液−液界面に対して、水和物結晶が熱抵抗となり、水和物成長を自己阻害するという問題もある(氷蓄熱でも同様な問題がある)。この状況下で水和物の成長を行うためには、冷却温度をさらに低下させる必要があり、冷却機効率が著しく低下する。
【0013】
このように、液体をゲスト物質とする水和物は、実験室レベルでは製造できても、実際のプラントで製造するのは困難であった。
【0014】
そこで本発明者らは、特願2007−129553(発明の名称:水和物の生成方法)において、液体ゲスト物質と水とを界面活性剤で乳化させた分散液を蓄熱材に用いることを提案した。これにより、ホスト物質である水の連続相内に液体ゲスト物質が微細液粒となって分散した分散液を得ることができ、水和物生成反応の場である水と液体ゲスト物質の液−液界面の表面積を拡大できることから、水及び液体ゲスト物質から水和物への高い生成速度、高い反応収率を実現できる。
【0015】
ところで、この蓄熱材は水和物の生成と分解を繰り返すため、実用化のためには、長期の使用に耐える高い分散状態の安定性が要求される。
【0016】
これは、水と液体ゲスト物質の分散状態が悪くなる(液体ゲスト物質が凝集する)と、水と液体ゲスト物質の液−液界面の表面積が減少して水和物の生成速度が低下し、さらには水和物結晶へ未反応の液体ゲスト物質が閉じ込められ、反応収率が低下してしまうためである。
【0017】
そこで、本発明の目的は、水と液体ゲスト物質の分散状態を長期にわたり安定させることができ、かつ、より高い反応収率を実現可能な水和物生成方法と蓄熱材及び蓄熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、水和物を形成する液体ゲスト物質とホスト物質である水とを界面活性剤で乳化させて分散液とし、これを冷却して水和物を生成する水和物生成方法であって、前記界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤に微量のアニオン系界面活性剤を添加したものを用いる水和物生成方法である。
【0019】
請求項2の発明は、前記液体ゲスト物質がシクロペンタンであり、前記ノニオン系界面活性剤が、親水性のノニオン系界面活性剤と、シクロペンタンと相溶性を有する親油性のノニオン系界面活性剤とを混合したものである請求項1記載の水和物生成方法である。
【0020】
請求項3の発明は、前記親水性のノニオン系界面活性剤と前記親油性のノニオン系界面活性剤の質量比が3:1〜5.7:1である請求項2記載の水和物生成方法である。
【0021】
請求項4の発明は、前記親水性のノニオン系界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=12.5)であり、前記親油性のノニオン系界面活性剤がソルビタンモノ脂肪酸エステル(HLB=4.3)であり、前記アニオン系界面活性剤がアルキル硫酸ナトリウムである請求項2または3記載の水和物生成方法である。
【0022】
請求項5の発明は、シクロペンタンと水に対して前記界面活性剤を5mass%以上添加する請求項2〜4いずれかに記載の水和物生成方法である。
【0023】
請求項6の発明は、水和物を形成する液体ゲスト物質とホスト物質である水とを、ノニオン系界面活性剤に微量のアニオン系界面活性剤を添加した界面活性剤で乳化させた分散液からなる蓄熱材である。
【0024】
請求項7の発明は、前記液体ゲスト物質がシクロペンタンであり、前記ノニオン系界面活性剤が、親水性のノニオン系界面活性剤と、シクロペンタンと相溶性を有する親油性のノニオン系界面活性剤とを混合したものである請求項6記載の蓄熱材である。
【0025】
請求項8の発明は、前記親水性のノニオン系界面活性剤と前記親油性のノニオン系界面活性剤の質量比が3:1〜5.7:1である請求項7記載の蓄熱材である。
【0026】
請求項9の発明は、前記親水性のノニオン系界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=12.5)であり、前記親油性のノニオン系界面活性剤がソルビタンモノ脂肪酸エステル(HLB=4.3)であり、前記アニオン系界面活性剤がアルキル硫酸ナトリウムである請求項7または8記載の蓄熱材である。
【0027】
請求項10の発明は、シクロペンタンと水に対して前記界面活性剤を5mass%以上添加する請求項7〜9いずれかに記載の蓄熱材である。
【0028】
請求項11の発明は、請求項6〜10いずれかに記載の蓄熱材を蓄熱槽内に充填した蓄熱装置である。
【0029】
請求項12の発明は、前記蓄熱槽内に、水和物を生成/分解するための冷却管および加熱管を設けた請求項11記載の蓄熱装置である。
【0030】
請求項13の発明は、前記蓄熱槽の外部に冷却および加熱熱交換器を設け、その冷却および加熱熱交換器に前記蓄熱材を搬送して、水和物を生成/分解する請求項11記載の蓄熱装置である。
【0031】
請求項14の発明は、請求項6〜10いずれかに記載の蓄熱材をカプセルに充填すると共に、これを冷媒を充填した蓄熱槽内に投入し、前記冷媒を冷却/加熱することで前記カプセル内の蓄熱材を冷却/加熱して、水和物を生成/分解する蓄熱装置である。
【0032】
請求項15の発明は、請求項6〜10いずれかに記載の蓄熱材を充填した複数の伝熱管を蓄熱槽内に配置すると共に、前記蓄熱槽内に冷媒を充填し、その冷媒を冷却/加熱することで前記複数の伝熱管内の蓄熱材を冷却/加熱して、水和物を生成/分解する蓄熱装置である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、親水性のノニオン系界面活性剤と親油性のノニオン系界面活性剤を混合したノニオン系界面活性剤を主成分とし、これに微量のアニオン系界面活性剤を添加した界面活性剤を用いることで、水と液体ゲスト物質の分散状態を長期にわたり安定させることが可能となり、さらに、水と液体ゲスト物質の分散性を向上できるため、微細粒子状の水和物結晶を生成でき、より高い反応収率を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0035】
まず、本実施形態に係る蓄熱材について説明する。
【0036】
本実施形態に係る蓄熱材は、水和物を形成する液体ゲスト物質とホスト物質である水とを、ノニオン系界面活性剤に微量のアニオン系界面活性剤を添加した界面活性剤で乳化させた分散液からなる。
【0037】
図1は、容器10内に蓄熱材11を収容した状態を示す。この蓄熱材11は、まず液体ゲスト物質と界面活性剤とを収容し撹拌機12で混合した後、その溶液にホスト物質である水13を加えて混合し乳化させて分散液としたものである。
【0038】
このように乳化した分散液を形成することで、ホスト物質である水13の連続相内に液体ゲスト物質が微細液粒(油滴)14となって分散した蓄熱材11を得ることができる。
【0039】
この蓄熱材11を用いて水和物を生成する際には、特定の冷却速度と撹拌流動を伴わせることで、微細ビーズ状の水和物結晶を得ることができる。
【0040】
通常、液体ゲスト物質とホスト物質とを混合し、これを冷却して水和物を形成しても、液体ゲスト物質とホスト物質の液−液界面が少なく、これを冷却すると、生成した水和物結晶が冷却面に付着し、これが層状に堆積し、撹拌しても水和物結晶が熱抵抗を形成して水和物反応が進まなくなるが、本発明においては、蓄熱材11が乳化状態にあるため、冷却しても、生成した水和物結晶が冷却面に固着しない。よって、熱抵抗が増えないため、冷凍機温度を一定に保持したままで運用することが可能となり、高い反応収率(水和物への転化率)を得ることが可能となる。
【0041】
液体ゲスト物質としては、環状炭化水素類を用いる。この液体ゲスト物質としては、生成温度が0℃以上10℃以下となる水和物を生成するものが好ましく、本実施形態では、液体ゲスト物質に水和物の生成温度が6〜8℃となるシクロペンタンを用いる。
【0042】
液体ゲスト物質としてシクロペンタンを用いる場合、シクロペンタンと水とが水和物(シクロペンタン水和物)を生成する当量比は、モル比で1:17、質量比で1:4.37、体積比で1:3.26であるため、この当量比以上の水を加える必要がある。水和物の生成後に自由水を含んだスラリーとする点を考慮すると、この当量比から3倍希釈程度までが実用範囲となる。
【0043】
シクロペンタンは疎水性であり、水と混合しても層分離するため、シクロペンタンと水とに親和性を有する界面活性剤を加えて混合することで、分散液を乳化状態(エマルション)とすることができる。
【0044】
本実施形態では、界面活性剤の主成分としてノニオン系界面活性剤を用い、かつ、分散液中の油滴(シクロペンタンの微細液粒)の分散力を保持するために、油滴表面の帯電反発力を有するイオン性の界面活性剤としてアニオン系界面活性剤を微量添加する。
【0045】
アニオン系界面活性剤を微量添加することにより、シクロペンタンの凝集を抑え分散効果を向上させることができ、水和物結晶へ未反応のシクロペンタンが閉じ込められてしまうのを抑制できる。よって、水和物の生成速度を向上できると共に、反応収率を向上させることができる。
【0046】
界面活性剤の主成分として用いるノニオン系界面活性剤としては、親水性のノニオン系界面活性剤と、シクロペンタンと相溶性を有する親油性(疎水性)のノニオン系界面活性剤を混合したものを用いる。
【0047】
これは、親水性を有するノニオン系界面活性剤により、分散状態を形成する際の水界面への界面活性剤の浸透を確保すると共に、親油性を有するノニオン系界面活性剤により、分散状態を形成する際のシクロペンタン界面への界面活性剤の浸透を確保するためである。
【0048】
より具体的には、親水性のノニオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=12.5)、親油性のノニオン系界面活性剤としてソルビタンモノ脂肪酸エステル(HLB=4.3)を用い、これにアニオン系界面活性剤としてアルキル硫酸ナトリウム(HLB=30)を微量添加した界面活性剤を用いる。HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)は親水親油バランスであり、この値が0に近いほど親油性が高く、この値が高いほど親水性が高いことを示す。
【0049】
ここで、親水性のノニオン系界面活性剤と親油性のノニオン系界面活性剤の質量比(調合比)について検討する。
【0050】
最適な親水性のノニオン系界面活性剤と親油性のノニオン系界面活性剤の質量比を見出すため、親水性のノニオン系界面活性剤(界面活性剤A)と親油性のノニオン系界面活性剤(界面活性剤B)の質量比(A:B)を変化させた蓄熱材をそれぞれ作成し、作成した各蓄熱材の分散状態とその安定性を評価した。
【0051】
親水性のノニオン系界面活性剤(界面活性剤A)にはポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=12.5)、親油性のノニオン系界面活性剤(界面活性剤B)にはソルビタンモノ脂肪酸エステル(HLB=4.3)、アニオン系界面活性剤(界面活性剤C)にはアルキル硫酸ナトリウム(HLB=30)を用い、アニオン系界面活性剤の濃度は0.052mass%で一定とした。また、界面活性剤全体の濃度(全濃度)はいずれも5.9mass%とした。評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、質量比(A:B)を3.99:1とした蓄熱材では、シクロペンタンが水中に微細分散した良好な分散状態が得られ、1ヶ月以上分散状態を維持することができた。
【0054】
これに対し、質量比(A:B)を3.01:1、5.66:1とした蓄熱材では、シクロペンタンが水中に微細分散した良好な分散状態が得られたが、1週間程度で水とシクロペンタンが分離した。この傾向から、質量比(A:B)が3:1未満、あるいは5.7:1を超えると、分散状態を維持できる期間がさらに短くなると考えられる。
【0055】
よって、分散液の安定性(水とシクロペンタンの分散状態の保持性能)の観点から、親水性のノニオン系界面活性剤と親油性のノニオン系界面活性剤の質量比(調合比)は3:1〜5.7:1であるとよく、好ましくは4:1程度であるとよいことが分かる。
【0056】
この理由としては、水和物における水とシクロペンタンの体積比が3.26:1であることから、親水性のノニオン系界面活性剤と親油性のノニオン系界面活性剤の質量比をこれと同程度で、かつ親水性のノニオン系界面活性剤の割合をやや高くした4:1程度とすることにより、良好な分散状態を形成できるためだと考えられる。
【0057】
以上の検討結果をふまえ、本実施形態では、界面活性剤として、親水性のノニオン系界面活性剤と親油性のノニオン系界面活性剤の質量比を4:1程度としたノニオン系界面活性剤を主成分とし、これにシクロペンタンの油滴の凝集を抑えるためのアニオン系界面活性剤を微量添加したものを用いる。より好ましくは、親水性のノニオン系界面活性剤、親油性のノニオン系界面活性剤、およびアニオン系界面活性剤の質量比は、93:23.1:1であるとよい。この界面活性剤全体のHLB値は11程度であり、界面活性剤全体のHLB値が10〜12の範囲内であれば安定な分散状態を保持できる。
【0058】
また、界面活性剤は、水とシクロペンタンに対して5mass%以上添加される。これは、界面活性剤が5mass%未満であると、水とシクロペンタンの分散状態の保持が難しいためである。本実施形態では、水とシクロペンタンに対して界面活性剤を5.9mass%添加した。
【0059】
図2に、本実施形態に係る蓄熱材の蓄熱性能(水和物の生成/分解熱量)を示す。図2において、○は事前に分散化(乳化)して作製した蓄熱材の蓄熱性能を示し、▲はその場で分散化(乳化)して作製した蓄熱材の蓄熱性能(作製直後の蓄熱性能)を示す。図2において、(A)は親水性のノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=12.5)、(B)は親油性のノニオン系界面活性剤であるソルビタンモノ脂肪酸エステル(HLB=4.3)、(C)はアニオン系界面活性剤であるアルキル硫酸ナトリウム(HLB=30)を示す。
【0060】
図2に示すように、本実施形態に係る蓄熱材は265kJ/kg程度の高い蓄熱性能が得られることが分かる。これは、上述の組合せの界面活性剤を用いることにより分散性が向上し、反応収率(水和物への転化率)が向上したためだと考えられる。反応収率が高いことは蓄熱材としての蓄熱性能が高いことに他ならない。
【0061】
また、事前に乳化した蓄熱材(○)とその場で乳化した蓄熱材(▲)とでほぼ同じ蓄熱性能(水和物の生成/分解熱量)が得られることから、高い安定性が得られていることも確認できる。つまり、上述の組合せの界面活性剤を用いることにより、容易に水とシクロペンタンの分散化が可能となる。
【0062】
また、比較のため、界面活性剤として(A)のポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=12.5)のみを用いて分散液を作製した蓄熱材の蓄熱性能を図2に□で示す。
【0063】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルはノニオン系界面活性剤であり、シクロペンタンの分散化に適合性が悪いものではないが、界面活性剤の種類を1種類として添加量を増やしても、蓄熱性能は向上せず220kJ/kg程度が限界であった。
【0064】
次に、本実施形態に係る水和物生成方法について説明する。
【0065】
まず、シクロペンタンに上述の組合せの界面活性剤を溶解させた後、その溶液を撹拌しながら水を加える。その後、これを10〜30分間撹拌して乳化させて分散液とする。この際の撹拌は、100〜500rpm(撹拌周速度を0.1m/sec以上)とする。これにより、良好な乳化状態(エマルション)の蓄熱材が得られる。
【0066】
得られた蓄熱材を冷却して水和物とするには、水和物生成温度(6〜8℃)に対して約3℃程度低い温度に制御し、分散液の流動性を保つように撹拌しながら冷却することで、微細ビーズ状の流動性が良好な水和物を得ることができる。なお、本発明は水和物結晶の形状や寸法については特に規定するものではない。
【0067】
水和物を形成するシクロペンタンと水のモル比は1:17であるが、水をより多く混入することで、形成される水和物中に未反応の水が残り、ポンプ等で搬送を行う際の流動性を高めることができる。また、本実施形態では分散液に界面活性剤を添加しているため、この界面活性剤も流動性の向上に寄与していると考えられる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態では、界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤に微量のアニオン系界面活性剤を添加したものを用いている。
【0069】
アニオン系界面活性剤を微量添加することにより、シクロペンタンの凝集を抑え分散効果を向上させることができるため、水和物生成反応の場である水とシクロペンタンの液−液界面の表面積をより拡大することができ、水とシクロペンタンから水和物へのより高い生成速度を実現できる。
【0070】
また、シクロペンタンの凝集を抑制できるために、水和物結晶へ未反応のシクロペンタンが閉じ込められてしまうのを抑制でき、水和物の生成率をより向上させることができると共に、水和物結晶を微細粒子状に生成でき、反応収率すなわち蓄熱性能をより向上させることが可能となる。
【0071】
また、本実施形態では、ノニオン系界面活性剤として、親水性のノニオン系界面活性剤と、シクロペンタンと相溶性を有する親油性のノニオン系界面活性剤を質量比3:1〜5.7:1、好ましくは4:1程度で混合したものを用いている。
【0072】
これにより、蓄熱材の安定性(分散状態の保持性能)を向上させることができ、約1ヶ月程度と長期にわたり水と液体ゲスト物質の分散状態を安定させることが可能となる。
【0073】
次に、本発明の蓄熱材を用いた蓄熱装置を説明する。
【0074】
図3に示すように、本実施形態に係る蓄熱装置30は、蓄熱材11を充填した蓄熱槽31と、蓄熱槽31に設けられ蓄熱材11を撹拌する撹拌機32とを備える。
【0075】
蓄熱槽31内には、冷凍機33の冷却管34と、蓄熱を利用する加熱管(吸熱管)35とが設けられる。加熱管35は熱負荷36に接続され、加熱管35と熱負荷36とをブライン(または水)ポンプ37で循環するように構成する。
【0076】
蓄熱装置30では、深夜電力などを利用して冷凍機33を駆動し、冷媒を冷却管34に流して蓄熱槽31内の蓄熱材11を冷却すると共に、撹拌機32で撹拌しながら水和物を生成する。
【0077】
その後、冷房を行う際には、ブライン(または水)ポンプ37を駆動することでブライン(または水)を加熱管35に流し、そこで水和物を加熱することでブライン(または水)が冷却され、熱負荷36で熱を放出して冷房を行う。
【0078】
蓄熱槽31は、熱負荷36の日中の冷房負荷量に見合った容量の蓄熱材11を収容する容積にされるが、本発明で生成される水和物(シクロペンタン水和物)の生成/分解熱量は約265kJ/kg(氷の約80%)であるため、氷と遜色ない冷熱源となり、しかもスラリー状のシャーベットとして利用できるため、移送などのハンドリングが良好であり、最適な蓄熱装置30を構築することが可能となる。
【0079】
本発明の蓄熱材を用いた蓄熱装置の他の例を説明する。
【0080】
図4に示す蓄熱装置40は、蓄熱槽31内に充填された蓄熱材11の冷却と加熱(分解)を外部で行うようにしたものである。
【0081】
蓄熱槽31の外部には、冷凍機33に接続した冷却熱交換機41が設けられ、その冷却交換機41と蓄熱槽31は冷却循環ライン42で接続される。冷却循環ライン42には、蓄熱材11を冷却熱交換機41に導入する循環ポンプ43が設けられる。
【0082】
また、蓄熱槽31の外部には、加熱(吸熱)熱交換器44が設けられ、その加熱熱交換機44と蓄熱槽31は加熱循環ライン45で接続される。加熱循環ライン45には、蓄熱材11を加熱熱交換器44に導入する循環ポンプ46が設けられる。加熱熱交換器44は熱負荷36に接続され、加熱熱交換機44と熱負荷36とをブライン(または水)ポンプ37で循環するように構成する。
【0083】
蓄熱装置40では、蓄熱槽31から蓄熱材11を循環ポンプ43に導入し、これを冷却熱交換機41に通して冷却し、水和物として蓄熱槽31に戻すようにして水和物の生成を行い、水和物の分解時には、循環ポンプ46にて水和物を加熱熱交換機44に通し、そこで熱負荷36のブライン(または水)を冷却するようにし、ブライン(または水)で加熱されて分解した分散液を蓄熱槽31に戻すようにしている。
【0084】
図5に示す蓄熱装置50は、蓄熱材11をカプセル51に充填すると共に、これを冷媒(水など)52を充填した蓄熱槽31内に投入し、冷媒52を冷却/加熱することでカプセル内の蓄熱材11を冷却/加熱して、水和物を生成/分解するものである。
【0085】
蓄熱槽31には、冷却循環ライン53を介して冷凍機33が接続され、冷却循環ライン53には、冷媒52を冷凍機33に導入する循環ポンプ54が設けられる。また、蓄熱槽31には、加熱循環ライン55を介して熱負荷36が接続され、加熱循環ライン55には、冷媒52を熱負荷36に供給する循環ポンプ56が設けられる。
【0086】
蓄熱装置50では、深夜電力などで循環ポンプ54により冷凍機33に導入された冷媒52を冷却し、その冷媒52を蓄熱槽31に戻して、カプセル51内の蓄熱材11を冷却して水和物を生成する。また、冷房などの使用時には、冷媒52が循環ポンプ56により熱負荷36に供給され、熱負荷36で加熱された冷媒52を蓄熱槽31に戻す。カプセル51内の蓄熱材11では、加熱された冷媒52を冷却することにより水和物が分解される。
【0087】
図6に示す蓄熱装置60は、基本的に図5に示す蓄熱装置50と同じ構成であり、カプセル51に替えて、蓄熱槽31内に蓄熱材11を充填した複数の伝熱管61を配置したものである。
【0088】
蓄熱装置50、60では、冷媒52を充填した蓄熱槽31内に蓄熱材11を充填したカプセル51、あるいは蓄熱材11を充填した複数の伝熱管61を設けるため、既設の蓄熱装置(氷蓄熱装置など)に容易に適用することが可能となり、導入コストを低く抑えることができる。
【0089】
蓄熱装置50、60では、蓄熱槽31内の冷媒52を直接冷凍機33や熱負荷36に導入したが、必要に応じて冷却熱交換機や加熱熱交換機を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の蓄熱材を説明する図である。
【図2】本発明の蓄熱材の蓄熱性能(水和物の生成/分解熱量)を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る蓄熱装置の概略図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る蓄熱装置の概略図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る蓄熱装置の概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る蓄熱装置の概略図である。
【符号の説明】
【0091】
10 容器
11 蓄熱材
13 水
14 液体ゲスト物質の微細液粒(油滴)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水和物を形成する液体ゲスト物質とホスト物質である水とを界面活性剤で乳化させて分散液とし、これを冷却して水和物を生成する水和物生成方法であって、
前記界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤に微量のアニオン系界面活性剤を添加したものを用いることを特徴とする水和物生成方法。
【請求項2】
前記液体ゲスト物質がシクロペンタンであり、前記ノニオン系界面活性剤が、親水性のノニオン系界面活性剤と、シクロペンタンと相溶性を有する親油性のノニオン系界面活性剤とを混合したものである請求項1記載の水和物生成方法。
【請求項3】
前記親水性のノニオン系界面活性剤と前記親油性のノニオン系界面活性剤の質量比が3:1〜5.7:1である請求項2記載の水和物生成方法。
【請求項4】
前記親水性のノニオン系界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=12.5)であり、前記親油性のノニオン系界面活性剤がソルビタンモノ脂肪酸エステル(HLB=4.3)であり、前記アニオン系界面活性剤がアルキル硫酸ナトリウムである請求項2または3記載の水和物生成方法。
【請求項5】
シクロペンタンと水に対して前記界面活性剤を5mass%以上添加する請求項2〜4いずれかに記載の水和物生成方法。
【請求項6】
水和物を形成する液体ゲスト物質とホスト物質である水とを、ノニオン系界面活性剤に微量のアニオン系界面活性剤を添加した界面活性剤で乳化させた分散液からなることを特徴とする蓄熱材。
【請求項7】
前記液体ゲスト物質がシクロペンタンであり、前記ノニオン系界面活性剤が、親水性のノニオン系界面活性剤と、シクロペンタンと相溶性を有する親油性のノニオン系界面活性剤とを混合したものである請求項6記載の蓄熱材。
【請求項8】
前記親水性のノニオン系界面活性剤と前記親油性のノニオン系界面活性剤の質量比が3:1〜5.7:1である請求項7記載の蓄熱材。
【請求項9】
前記親水性のノニオン系界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=12.5)であり、前記親油性のノニオン系界面活性剤がソルビタンモノ脂肪酸エステル(HLB=4.3)であり、前記アニオン系界面活性剤がアルキル硫酸ナトリウムである請求項7または8記載の蓄熱材。
【請求項10】
シクロペンタンと水に対して前記界面活性剤を5mass%以上添加する請求項7〜9いずれかに記載の蓄熱材。
【請求項11】
請求項6〜10いずれかに記載の蓄熱材を蓄熱槽内に充填したことを特徴とする蓄熱装置。
【請求項12】
前記蓄熱槽内に、水和物を生成/分解するための冷却管および加熱管を設けた請求項11記載の蓄熱装置。
【請求項13】
前記蓄熱槽の外部に冷却および加熱熱交換器を設け、その冷却および加熱熱交換器に前記蓄熱材を搬送して、水和物を生成/分解する請求項11記載の蓄熱装置。
【請求項14】
請求項6〜10いずれかに記載の蓄熱材をカプセルに充填すると共に、これを冷媒を充填した蓄熱槽内に投入し、前記冷媒を冷却/加熱することで前記カプセル内の蓄熱材を冷却/加熱して、水和物を生成/分解することを特徴とする蓄熱装置。
【請求項15】
請求項6〜10いずれかに記載の蓄熱材を充填した複数の伝熱管を蓄熱槽内に配置すると共に、前記蓄熱槽内に冷媒を充填し、その冷媒を冷却/加熱することで前記複数の伝熱管内の蓄熱材を冷却/加熱して、水和物を生成/分解することを特徴とする蓄熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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