説明

水圧破砕試験方法及びその測定装置

【課題】ボーリング孔内で実施する水圧破砕試験について、孔内水に含まれる不純物により測定精度が低下するのを回避できるようにする。
【解決手段】ボーリングロッド5先端側に、遮水手段4Aと水圧センサ123及び流量センサ122を有した測定装置10Aとを配設し、遮水手段4Aをボーリング孔3A内の試験対象領域まで挿入してこの領域と他の領域とを区画した後、高圧水を送って圧力を加え試験対象領域における水圧の変動及び高圧水の送水量を測定装置で測定する水圧破砕試験方法において、その測定装置10Aに、試験対象領域に注入するための注入水が予め充填されピストン125でボーリングロッド5の内部空間側と区画されてなるシリンダ状の注入水室124が設けられ、ボーリングロッド5内の孔内水が加圧されることでピストン125で押し出された注入水のみが高圧水として試験対象領域側に送水され、破砕時の孔内音とともに注入水の水圧と送水量の変動を測定するものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧破砕試験方法及びその測定装置に関し、殊に、地下深部の岩盤の応力状態等を測定するためにボーリング孔内で実施する水圧破砕試験方法及びその試験方法に用いる測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加圧した流体を用いて地下深部の岩盤等に生じさせた亀裂の生成・開口・閉口過程に伴い発生した圧力変化やAE(アコースティック・エミッション)を測定する方法として、特開昭63−308186号公報等に記載されているような水圧破砕試験方法が広く知られており、地殻応力の測定、ダム基礎岩盤のグラウト工事における岩盤の注入適正圧力の決定、漏水孔の発生に対する限界圧力の測定、地滑りや地盤の崩落防止等の目的に利用されている。
【0003】
図3の簡略化した地盤の縦断面図は、このような水圧破砕試験方法の実施状況の一例を示すものであり、測定深度まで掘削したボーリング孔3B内に、地上側の高圧ポンプ8から延設され先端に水圧破砕試験用の測定装置10Cと遮水手段4Bを有した送水パイプ6を挿入しており、測定装置10Cの先端側に設けたパッカー41,42からなる遮水手段4Bで仕切ることにより、ボーリング孔3B内壁面と送水パイプ6外面との間に形成した水圧破砕室32に、高圧ポンプ8を駆動して送水パイプ6を介し高圧水を送ってボーリング孔3Bの内壁面を破砕し、これらの圧力過程を送水パイプ6中の測定装置本体12Cで測定するものである。
【0004】
また近年では、特開2007―9645号公報に記載されているような水圧破砕試験方法が普及している。図4はその試験方法における実施状況の縦断面図を示すものであって、この試験方法は、ボーリング孔3Aに挿入されたボーリングロッド5の内部に、パイロット孔掘削装置(図示せず)を挿入してボーリング孔3Aの孔底にボーリング孔3Aの径よりも小径の試験孔30を掘削し、この部分で水圧破砕試験を実施する点を特徴としている。
【0005】
即ち、試験孔30を掘削した後にパイロット孔掘削装置を引き上げ、基端側に測定装置本体12Bを有する測定装置10Bを、ボーリングロッド5の先端まで挿入し、先端側に設けた遮水手段4Aのパッカー40を膨張させて試験孔30の孔口を塞いでから試験孔30内部に高圧水を送水して、その送水量及び内部水圧の変化時間を測定装置本体12Bで測定するものである。
【0006】
このように、ボーリング孔3Aよりも小径の試験孔30を作成してその部分で水圧破砕試験を行うようにしたことにより、破砕する部分の容積及と注入する高圧水の容量を小さくすることができるため、測定装置を有する測定システムの剛性を大きくすることが可能となり、より正確な測定を実現しやすいものとしている。
【0007】
しかし、このように小径の試験孔30を設ける試験方法を含み、上述した従来の水圧破砕試験方法においては、孔内水に含まれる不純物が高圧水の流量測定において誤差を生じる原因となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−308186号公報
【特許文献2】特開2007―9645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、ボーリング孔内で実施する水圧破砕試験について、孔内水に含まれる不純物により測定精度が低下するのを回避できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、中空のボーリングロッド先端側に、ボーリング孔内で高圧水を注入する領域と他の領域を区画する遮水手段と、少なくとも水圧計測手段及び流量計測手段を有した測定装置とを配設し、その遮水手段をボーリング孔内の試験対象領域まで挿入してこの試験対象領域と他の領域とを区画した後、ボーリングロッド内を経由して高圧水を送りながら試験対象領域のボーリング孔内壁に圧力を加え、少なくとも試験対象領域における水圧の変動及び高圧水の送水量を測定装置で測定するものとした水圧破砕試験方法において、その測定装置には、試験対象領域に注入するための注入水が予め充填されピストンでボーリングロッドの内部空間側と区画されてなるシリンダ状の注入水室が設けられており、ボーリングロッド内の孔内水が加圧されることによりピストンが摺動して押し出された注入水のみが高圧水として試験対象領域側に送水され、この注入水の送水量を流量計測手段で破砕時の孔内音とともに測定することを特徴とするものとした。
【0011】
上述したように、ボーリング孔の孔内水を加圧して試験対象領域を加圧・破砕する従来の試験方法においては、孔内水に含まれる不純物が高圧水の流量測定において誤差を生じる要因となっていたのに対し、本発明において水圧破砕試験に用いる測定装置に、注入水を充填したシリンダ状の注入水室を設けて試験対象領域側に高圧水として送水するとともにその送水量を測定するものとして、不純物を含まない注入水を使用することで測定精度の低下を回避可能としている。同時に破砕時の孔内音を記録することにより流量変化ポイントの抽出精度を高くすることができる
【0012】
また、この測定方法において、ボーリングロッド内の孔内水から、磁力式のフィルタを用いて酸化鉄系の不純物を吸着して除去する手順を加えることにより、流量測定に影響を与えやすい因子を予め除去することが可能となり、測定精度の低下を一層回避しやすいものとなる。
【0013】
さらに、上述した水圧破砕試験方法において、注入水室に充填する注入水として、清水に所定の添加剤を加えて粘度を所定範囲に調整したものを使用することを特徴としたものとすれば、より正確な流量測定が実現されやすいものとなる。
【0014】
さらにまた、上述した水圧破砕試験方法において、その測定装置は、ボーリングロッド先端に連結するアウターチューブと、注入水室を有してボーリングロッド内での吊り上げ・吊り下げ作業により地上側への回収及びアウターチューブ内への挿脱が可能な測定装置本体とからなることを特徴としたものとすれば、注入水の再充填作業を含む測定装置の調整及びメンテナンスが容易なものとなる。
【0015】
加えて、上述した水圧破砕試験方法において、その測定装置には総ての測定データを記録しておく記録手段が配設されていることを特徴としたものとすれば、測定データを地上側に送るためのケーブルの配設が不要となり、この場合、その測定データには孔内音の記録データが含まれているものとすれば、流量変化ポイントの抽出精度を高くすることができる。
【0016】
さらに加えて、上述した水圧破砕試験方法において用いられる測定装置であって、流量計測手段と、注入水が予め充填されてピストンでボーリングロッドの内部空間側と区画されたシリンダ状の注入水室とを少なくとも有しており、ボーリングロッド内の孔内水が加圧されることによりピストンが摺動して押し出された注入水のみを高圧水として試験対象領域内に送水するとともに、少なくとも流量計測手段で注入水の送水量を測定することを特徴とした測定装置とすれば、これを水圧破砕試験に用いることで上述した各機能を確実に発揮するものとなる。
【発明の効果】
【0017】
水圧破砕試験に用いる測定装置に注入水を充填したシリンダ状の注入水室を設け、注入水のみを高圧水として試験対象領域側に送水してその送水量を測定するものとした本発明によると、孔内水に含まれる不純物により測定精度が低下するのを回避できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態を示す部分縦断面図。
【図2】図1の測定装置本体を拡大した縦断面図。
【図3】従来例の試験実施状況を示す縦断面図。
【図4】従来例の試験実施状況を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態である水圧破砕試験方法において用いられる測定装置10Aが、ボーリングロッド5先端に連結された状態の部分縦断面図を示している。この測定装置10Aは、略筒状でボーリングロッド5の先端に連結されるアウターチューブ11と、その内部に挿入配置され内部に各種測定手段を備えた略柱状の測定装置本体12Aとからなり、その先端側には図示しない遮水手段が連結されている。
【0021】
測定装置本体12Aは、流量・圧力測定用のロガーとしてアウターチューブ11内に挿入配置されるものであるが、基端側にフック128を備えてトラベリングツール等で吊り下げられ、ボーリングロッド5内を経由して単独で地上側に回収可能となっているとともに、地上側からボーリングロッド5の先端側に送り、アウターチューブ11の内周面に設けたストッパー111に外周面の段部120を当接・係止させて測定位置に配置できるようになっている。
【0022】
図2は、測定装置本体12Aを拡大した縦断面図を示している。その内部には、先端側に試験対象領域側の水圧計測手段としての圧力センサ123、試験対象領域側への送水量を計測する流量計測手段としての流量センサ122、図示しない孔内音検出手段が設けられており、これらの手段で取得したデータを、時計機構を内蔵したデジタル回路により一定間隔でAD変換してメモリに記録するデータ収録回路121を備えている。
【0023】
そして、この測定装置本体12Aの特徴部分として、その基端側内部に注入水を貯留したシリンダ状の注入水室124を有しており、ボーリングロッド5の内部空間側に連通路129で連通した開放端側をピストン125で封止された状態となっており、注入水室124の先端側から延びた送水路126が逆止弁126a,流量センサ122を経由してアウターチューブ11の内部空間でストッパー111よりも先端側の空間で開口している。
【0024】
そして、加圧時にボーリングロッド5を介して送水された高圧水の圧力により、測定装置本体12Aはアウターチューブ11内でストッパー11にその段部120を密着した状態となり、アウターチューブ11内のこの部分を介した流体の流通が封止されるため、圧力差でピストン125が摺動し注入水室124に充填された注入水のみが高圧水として送水路126、アウターチューブ11内を通り、図示しない遮水手段で区画された試験対象領域側に送水され、減圧時には逆止弁126aで送水路126が閉鎖されるようになっている。
【0025】
尚、この注入水室124に充填された注入水は、各種測定に悪影響を及ぼすような不純物を含まない清水に、所定の添加剤を加えて粘度を高めたものを使用することが推奨され、これにより流量センサ122における送水量の測定に与える影響を最小限に抑えることができる。
【0026】
また、測定装置本体12Aのストッパー111に係止する段部120の上流側と下流側とをバイパスする逆流路127が、途中に逆止弁127aを配置されて設けられており、減圧時に試験対象領域側の孔内水がボーリングロッド5側に逆流するようになっており、加圧時には逆止弁127aで逆流路127が閉鎖されるようになっている。
【0027】
次に、本実施の形態の水圧破砕試験方法の実施手順について説明する。本実施の形態における水圧破砕試験方法も、前記図3で説明した水圧破砕試験方法の手順と基本的に同様の手順にて実施することができる。即ち、ボーリング孔3Bの孔底に遮水手段4Bで区画してそれよりも先の空間を試験対象領域として高圧水で加圧・破砕して測定を行うものである。
【0028】
先ず、アウターチューブ11をボーリングロッド6の先端に連結してボーリング孔3B内に挿入し(図1及び図3を参照)、次に、図示しないトラベリングツールで吊り下げて測定装置本体(ロガー)12Aを孔内に挿入し(この時点で測定・記録を開始)、ボーリングロッド6内を経由してアウターチューブ11内に挿入・配置する。
【0029】
そして、地上側の高圧ポンプ8を駆動させ、ボーリングロッド6内を経由して高圧水を送り、測定装置本体12Aの注入水室124から高粘度の清水を水圧破砕室32に高圧水として送出して水圧破砕試験を実施する。尚、ボーリングロッド5内は孔内水(泥水)であるため、ピストン125の例えば上流側に磁力式フィルタ130を配置して、孔内水に含まれる酸化鉄系の不純物を磁気吸着により除去する段階を設けることで、測定における最大の阻害因子を除去して測定精度をより高めやすくなる。
【0030】
この水圧破砕試験においても、加圧・減圧に伴う水圧破砕室32に連通する部分での高圧水の流量・圧力・孔内音を測定・記録する。その後、トラベリングツールを用いて測定装置本体12Aを地上側に回収して記録を完了し、データ収録回路121に記録されたデータを読み出して試験を終了する。
【0031】
前述したように、本実施の形態において、試験対象領域である水圧破砕室32に注入する高圧水は、泥水の孔内水ではなく注入水室124内に貯留した高粘度の清水であり、その送出した流量のみを測定するようにしたことで、従来例において高圧水に含まれる不純物を原因とした測定への悪影響を確実に回避することができ、精度の高い流量・圧力の測定結果を得られることになる。特に、孔内音を記録したことにより、流量変化ポイントの抽出精度も向上させることができる。
【0032】
以上、述べたように、ボーリング孔内で実施する水圧破砕試験について、本発明により、孔内水に含まれる不純物で測定精度が低下するのを回避できるようになった。
【符号の説明】
【0033】
3A ボーリング孔、4A 遮水手段、5 ボーリングロッド、8 高圧ポンプ、10A 測定装置、11 アウターチューブ、12A 測定装置本体、30 試験孔、111 ストッパー、120 段部、121 データ収録回路、122 流量センサ、123 圧力センサ、124 注入水室、125 ピストン、126 送水路、126a,127a 逆止弁、127 逆流路、128 フック、130 磁力式フィルタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のボーリングロッド先端側に、ボーリング孔内で高圧水を注入する領域と他の領域を区画する遮水手段と、少なくとも水圧計測手段及び流量計測手段を有した測定装置とを配設し、前記遮水手段を前記ボーリング孔内の試験対象領域まで挿入して該試験対象領域と他の領域とを区画した後、前記ボーリングロッド内を経由して高圧水を送りながら前記試験対象領域のボーリング孔内壁に圧力を加え、少なくとも前記試験対象領域における水圧の変動及び前記高圧水の送水量を前記測定装置で測定する水圧破砕試験方法において、前記測定装置に、前記験対象領域に注入するための注入水が予め充填されピストンで前記ボーリングロッドの内部空間側と区画されてなるシリンダ状の注入水室が設けられており、前記ボーリングロッド内の孔内水が加圧されることにより前記ピストンが摺動して押し出された前記注入水のみが前記高圧水として前記試験対象領域側に送水され、前記注入水の送水量を前記流量計測手段で測定して破砕時の孔内音とともに記録することを特徴とした水圧破砕試験方法。
【請求項2】
前記ボーリングロッド内の孔内水から磁力式のフィルタを用いて酸化鉄系の不純物を吸着して除去する手順を有していることを特徴とする請求項1に記載した水圧破砕試験方法。
【請求項3】
前記注入水として、清水に所定の添加剤を加えて粘度を所定範囲に調整したものを使用することを特徴とする請求項1または2に記載した水圧破砕試験方法。
【請求項4】
前記測定装置は、前記ボーリングロッド先端に連結するアウターチューブと、前記注入水室を有して前記ボーリングロッド内での吊り上げ・吊り下げ作業により地上側への回収及び前記アウターチューブ内への挿脱が可能とされた測定装置本体からなることを特徴とする請求項1,2または3に記載した水圧破砕試験方法。
【請求項5】
前記測定装置には、測定した総ての測定データを記録する記録手段が配設されていることを特徴とする請求項1,2,3または4に記載した水圧破砕試験方法。
【請求項6】
前記測定データには孔内音の記録データが含まれていることを特徴とする請求項5に記載した水圧破砕試験方法。
【請求項7】
請求項1,2,3,4,5または6に記載した水圧破砕試験方法において用いられる測定装置であって、前記流量計測手段と、水圧計測手段と、前記注入水が予め充填され前記ピストンで前記ボーリングロッドの内部空間側と区画されたシリンダ状の前記注入水室とを少なくとも有しており、前記ボーリングロッド内の孔内水が加圧されることにより前記ピストンが摺動して押し出された前記注入水のみを、前記高圧水として前記試験対象領域側に送水するとともに、前記流量計測手段で前記注入水の送水量を測定するとともに坑内音を測定することを特徴とした測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−174559(P2010−174559A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20312(P2009−20312)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(597024522)サンコーコンサルタント株式会社 (14)
【Fターム(参考)】