説明

水圧転写フィルム用インキ組成物

【課題】黒色の濃度を向上させて、かつ良好な転写性が得られる水圧転写フィルム用インキ組成物を提供すること。
【解決手段】基材フィルムと印刷層からなる水圧転写フィルムの印刷層を形成するためのものであり、かつ活性剤組成物の塗工により活性化されるインキ組成物であって、該インキ組成物中の顔料がカーボンブラックを25質量%超50質量%以下(固形分基準)の割合で含有する水圧転写フィルム用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として凹凸による立体面や曲面を有する成形体の表面に転写層を形成するのに好適な水圧転写フィルムにおいて、該フィルムの印刷層を形成する水圧転写フィルム用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装品、家電製品またはOA機器などには表面に木目調や金属調(金属光沢)などの装飾が施された成形品が利用されている。これらの成形品は複雑な三次元形状を有するものが多く、その複雑な形状からなる成形品に意匠性の高い装飾を簡便に施す方法が検討されている。
こうした装飾方法として、水圧を利用した水圧転写法が知られている。この水圧転写法は、水溶性あるいは水膨潤性の基材フィルムに、所望の装飾層を印刷した転写フィルムを用意し、該転写フィルムの装飾層に、有機溶剤から成る活性剤組成物を塗布して、該装飾層の少なくとも一部を溶解または膨潤して軟化(活性化)させる。その前または後に、前記転写フィルムを転写用の印刷層面を上面にして、水面上に浮遊させ、次いで、該転写フィルム上に被転写体となる物品を押圧して、水圧によって転写フィルムを被転写体の装飾処理をすべき被転写面に密着させた後、基材フィルムを除去して装飾層を転写する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、消費者の嗜好の多様化から、黒を基調とした木目調などの装飾が好まれるようになっている。黒を基調とした装飾は、通常赤色顔料、黄色顔料及び藍色顔料を用いて行うことが知られている。しかし、黒色の濃度が不十分であり、消費者の嗜好に十分応えられていなかった。一方、特許文献2には、黒色顔料としてカーボンブラックが用いられた水圧転写用フィルムが開示されている。しかし、黒色の濃度が十分ではなく、また、黒色の濃度をより濃くしようとする検討や示唆は一切されていない。
【0004】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【特許文献2】特開2006−51672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、黒色の濃度を向上させて、かつ良好な転写性が得られる水圧転写フィルム用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、黒色顔料としてカーボンブラックを特定の使用量で用いることで、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)基材フィルムと印刷層からなる水圧転写フィルムの印刷層を形成するためのものであり、かつ活性剤組成物の塗工により活性化されるインキ組成物であって、該インキ組成物中の顔料がカーボンブラックを25質量%超50質量%以下(固形分基準)の割合で含有する水圧転写フィルム用インキ組成物、
(2)顔料が、さらに黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料から選ばれる少なくとも1種を含む上記(1)に記載の水圧転写フィルム用インキ組成物、
(3)基材フィルムと印刷層からなる水圧転写フィルムの印刷層を形成するためのものであり、かつ活性剤組成物の塗工により活性化するインキ組成物であって、インキ組成物中の顔料が黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料から選ばれる少なくとも1種、ならびにカーボンブラックを含む水圧転写フィルム用インキ組成物、
(4)黄色顔料、赤色顔料及び藍色顔料の合計量が1〜25質量%(固形分基準)であり、かつカーボンブラックが1〜25質量%(固形分基準)である上記(3)に記載の水圧転写フィルム用インキ組成物、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水圧転写フィルム用インキ組成物が用いられる水圧転写フィルム、
(6)上記(5)に記載の水圧転写フィルムを用い、該水圧転写フィルムを、基材フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させて印刷層を被転写体に転写する水圧転写方法であって、該水圧転写フィルムを水面に浮遊させる前または後に、印刷層に活性剤組成物を塗工する水圧転写方法、及び
(7)上記(6)に記載の水圧転写方法により得られる水圧転写加飾成形品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、黒色の濃度を向上させて、かつ良好な転写性が得られる水圧転写フィルム用インキ組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[水圧転写フィルム用インキ組成物]
本発明の水圧転写フィルム用インキ組成物は、基材フィルムと印刷層からなる水圧転写フィルムの印刷層を形成するためのものであり、かつ活性剤組成物の塗工により活性化されるインキ組成物であって、該インキ組成物中の顔料がカーボンブラックを25質量%超50質量%以下(固形分基準)の割合で含有するものである。カーボンブラックの含有量は、良好な黒色の濃度、装飾柄の一部が白く抜けてしまう白抜けがなく、柄の歪みなどがない転写性、及びインキ組成物の保存安定性を得る観点から、25質量%超40質量%以下(固形分基準)が好ましく、30〜40質量%(固形分基準)がさらに好ましい。
【0009】
また、本発明のインキ組成物中の顔料は、良好な黒色の濃度を得る観点から、さらに黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。インキ組成物中の黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料の合計量は、1〜25%(固形分基準)が好ましく、5〜25%(固形分基準)がより好ましく、5〜20%(固形分基準)がさらに好ましい。また、黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料の含有量は、各々0〜10質量%、5〜15質量%、及び5〜15質量%(いずれも固形分基準)が好ましく、0〜10質量%、5〜10質量%、及び5〜10質量%(いずれも固形分基準)がより好ましい。なお、本発明のインキ組成物中の固形分は、後述するビヒクル、助剤、及び顔料であり、固形分基準はビヒクル、助剤、及び顔料の合計量に対する含有量のことである。
【0010】
本発明の水圧転写フィルム用インキ組成物の他の態様は、基材フィルムと印刷層からなる水圧転写フィルムの印刷層を形成するためのものであり、かつ活性剤組成物の塗工により活性化するインキ組成物であって、インキ組成物中の顔料が黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料から選ばれる少なくとも1種、ならびにカーボンブラックを含む水圧転写フィルム用インキ組成物である。
黄色顔料、赤色顔料及び藍色顔料の合計量は1〜25質量%(固形分基準)が好ましく、5〜25質量%(固形分基準)がより好ましく、5〜20質量%(固形分基準)がさらに好ましく、かつカーボンブラックの含有量は1〜25質量%(固形分基準)が好ましく、1〜20質量%(固形分基準)がより好ましい。また、黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料の含有量は、各々0〜10質量%、5〜25質量%、及び5〜25質量%が好ましく、0〜10質量%、5〜10質量%、及び5〜10質量%(いずれも固形分基準)がより好ましい。
【0011】
[カーボンブラック]
本発明で用いられるカーボンブラックとしては、例えばファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが用いられる。
カーボンブラックの平均一次粒径は、10〜70nmが好ましく、10〜60nmがより好ましい。カーボンブラックの平均一次粒径が上記範囲内にあれば、黒色の発色性と光沢性が向上するので、黒色の濃度を向上させることができる。ここで、平均一次粒径は、カーボンブラックをクロロホルムなどの溶媒で十分に希釈分散させた分散液を、コロジオン膜付メッシュ上に展開、乾燥させた後、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影したTEM写真のコンピューター画像解析を行い、抽出された各凝集体の面積と等しい面積を有する円の直径(等面積円径)を粒径とし、得られた粒径分布より求めた算術平均径(数平均値)である。
【0012】
カーボンブラックは、DBP吸油量が40〜150ml/100gであるものが好ましく、40〜130ml/100gがより好ましく、50〜120ml/100gがさらに好ましい。DBP吸油量が上記範囲内にあれば、良好な転写性を得ることができる。ここで、DBP吸油量は、JIS K6221 A法で測定された値である。
【0013】
カーボンブラックの比表面積は、10〜300m2/gが好ましく、10〜250m2/gがより好ましく、20〜250m2/gがさらに好ましい。比表面積が上記範囲内にあれば、黒色の発色性と光沢性が向上するので、黒色の濃度を向上させることができ、良好な転写性が得られる。ここで、比表面積は、窒素吸着によるJIS K6221に準拠して測定された値である。
また、カーボンブラックのpHは、特に制限はないが、インク組成物中の保存安定性を向上する観点から、3〜10が好ましく、3〜7がより好ましく、3〜5がさらに好ましい。カーボンブラックのpHは、水性懸濁液を調製し、ガラス電極で測定することにより求められる。
【0014】
カーボンブラックは、酸化処理を施されたものであってもよい。カーボンブラックの酸化処理は、硫酸、硝酸、塩素酸塩、過硫酸塩などの酸化剤の水溶液中にカーボンブラックを入れて、攪拌混合して行われる。この酸化処理は、室温〜90℃程度でおこなわれることが好ましい。酸化処理されたカーボンブラックは、その表面上にカルボキシル基、水酸化基などが生成して表面変性したものであり、このようなカーボンブラックを用いることで、インク組成物の保存安定性が向上する。
【0015】
[黄色顔料、赤色顔料、藍色顔料、及びその他の顔料]
本発明で用いられる黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料は、従来公知のものを適宜選択すればよく、黄色顔料としては、例えば、黄色酸化鉄、バリウムイエロー、クロムイエロー、チタンイエロー、ベンジジンイエロー、イソインドリノンイエローなどが挙げられ、赤色顔料としては、例えば、カドミウムレッド、べんがら、朱、ポリアゾレッド、キナクリドンレッドなどが挙げられ、藍色顔料としては、例えば、群青、コバルトブルー、インダスレンブルー、フタロシアニンブルーなどが挙げられる。
【0016】
本発明において、上記したカーボンブラック以外の黒色顔料を用いてもよく、そのような黒色顔料としては、鉄黒、チタンブラックなどが挙げられる。また、本発明において、上記した以外の色の顔料を用いることができ、例えば、アルミペーストなどのシルバー顔料、チタン白、アンチモン白、鉛白、パール顔料が挙げられる。
【0017】
[ビヒクル]
本発明のインキ組成物に用いられるビヒクルとしては、例えば、アマニ油、大豆油、合成乾性油などの各種の油脂類;ロジン、硬化ロジン、ロジンエステル、重合ロジンなどの天然樹脂;フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノアルキッド樹脂、フッ素樹脂などの合成樹脂;ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート樹脂、エチルセルロースなどの繊維素誘導体;塩化ゴム、環化ゴムなどのゴム誘導体;その他カゼイン、デキストリン、ゼインなどが挙げられる。
【0018】
インキ組成物中のビヒクルの含有量は、5〜35質量%が好ましく、5〜25質量%がより好ましい。ビヒクルの含有量が上記範囲内にあれば、良好な塗工性と転写性を得ることができる。
【0019】
[助剤]
本発明のインキ組成物には、助剤として無水フタル酸などのフタル酸系可塑剤、脂肪酸誘導体(柔軟剤用途)を添加することが好ましい。これにより、インキの安定性、柔軟性を向上させることができる。また、本発明のインキ組成物には、被転写体の被転写面に転写される印刷層の耐候性を高める目的で、さらに紫外線吸収剤や光安定剤を添加することもできる。
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、サリチル酸エステルなどの有機系化合物や、粒径0.2μm以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウムなどの無機質系化合物が挙げられ、また、光安定剤としては、例えばビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケートなどのヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、ピペリジン系ラジカル捕捉剤などのラジカル捕捉剤などが挙げられる。
なお、インキ組成物中の紫外線吸収剤や光安定剤などの含有量は、それぞれ0.5〜10質量%程度である。
【0020】
[溶媒]
本発明のインキ組成物に用いられる溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなど、あるいはこれらの混合液であるガソリン、石油、ベンジン、ミネラルスピリット、石油ナフサなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;トリクロルエチレン、パークロルエチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、アミルアルコール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどの一価のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチレングリコール・モノ・メチルエーテル、エチレングリコール・モノ・エチルエーテル、ジエチレングリコール・モノ・メチルエーテル、ジエチレングリコール・モノ・エチルエーテル、ジエチレングリコール・モノ・ブチルエーテル、ジエチレングリコール・ジ・ブチルエーテル、プロピレングリコール・モノ・ブチルエーテルなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチレングリコール・モノ・メチルエーテル・アセテート、エチレングリコール・モノ・エチルエーテル・アセテート、ジエチレングリコール・モノ・メチルエーテル・アセテート、ジエチレングリコール・モノ・エチルエーテル・アセテート、ジエチレングリコール・モノ・ブチルエーテル・アセテートなどの酢酸エステル類;酪酸エステルなどのエステル類;セロソルブ;ニトロ炭化水素類;ニトリル類;アミン類;その他アセタール類;酸類;フラン類などが挙げられる。これらのうち、環境などを考慮すると、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素は用いないことが好ましく、本発明の活性剤組成物との溶解性などの観点から、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、セロソルブ、シクロヘキサノン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール・モノ・ブチルエーテル、及びプロピレングリコールなどを用いることが好ましい。なお、これらの溶剤は1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0021】
このような溶媒のインキ組成物中の含有量は、インキ組成物の塗工性、保存安定性などから適宜選定すればよく、通常50〜85質量%程度であり、55〜80質量%が好ましく、60〜75質量%がより好ましい。
【0022】
[印刷層の形成方法]
転写用の印刷層を基材フィルム上に形成する方法としては特に限定されないが、グラビア印刷によって形成されることが多い。
グラビア印刷方法においては、基材の一方の面に、グラビア印刷により、絵柄層を1層、または重ね刷りにより2層以上を有する印刷層が形成される。この重ね刷りにおいては、例えばカラー写真などを印刷する場合、通常3〜7回重ね刷りするのが一般的である。4色刷りでは、例えばC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)及びK(黒)が一般に用いられる。
【0023】
上記の各絵柄層の厚さは、特に制限はないが、通常0.1〜10μm程度、好ましくは0.5〜5μmである。
また、各絵柄層を形成するインキ組成物の塗布量は、各絵柄層の厚みが上記の範囲内にあれば特に制限はなく、得られる加飾成形品の意匠性の観点から0.5〜1.5g/m2であることが好ましく、0.7〜1.4g/m2であることがより好ましい。
【0024】
[基材フィルム]
本発明の水圧転写フィルムに用いられる基材フィルムは、水溶性または水膨潤性を有するものが好ましく、従来水圧転写フィルムとして一般に使用されているフィルムのなかから、適宜選択して用いられる。
この水溶性または水膨潤性のフィルムを構成する樹脂としては、例えばポリビニルアルコール樹脂、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上で用いてもよい。なお、基材フィルムには、マンナン、キサンタンガム、グアーガムなどのゴム成分が添加されていてもよい。
【0025】
これらのうち、基材フィルムとして用いられるフィルムとしては、特に生産安定性と水に対する溶解性及び経済性の点から、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムが好ましい。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、PVA以外に、澱粉やゴムなどの添加剤を含有していてもよい。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコールの重合度、ケン化度、及び澱粉やゴムなどの添加剤の配合量などを変えることにより、基材フィルムに対して転写用の印刷層を形成する際に必要な機械的強度、取り扱い中の耐湿性、水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度、水中での延展または拡散に要する時間、転写工程での変形のしやすさなどを適宜調節することができる。
【0026】
ポリビニルアルコール樹脂フィルムからなる基材フィルムとして好適なものは、特開昭54−92406号公報に説明されているフィルムであり、例えば、PVA樹脂80質量%、高分子水溶性樹脂15質量%、澱粉5質量%の混合組成からなり、平衡水分3%程度のものが好適である。
また、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは水溶性ではあるが、水に溶解する前段階では水に膨潤して軟化しつつもフィルムとして存続することが好ましい。フィルムとして存続している状態にあるときに水圧転写を行なうことにより、水圧転写時における印刷層の過度の流動、変形を防止することができるからである。
【0027】
水溶性または水膨潤性を有する基材フィルムの厚さは、10〜100μmの範囲が好ましい。10μm以上であると、膜の均一性が良好で、かつ生産安定性が高い。一方、100μm以下であると、水に対する溶解性が適度であり、かつ印刷適性に優れる。上記の観点から、基材フィルムの厚さは、さらには20〜60μmの範囲が好ましい。
【0028】
なお、上記の水溶性または水膨潤性を有する基材フィルムは、例えば紙、不織布、布などの水浸透性を有する基材(以下、基材ということがある。)と積層した積層体として使用することができる。この場合、当該積層体は、水圧転写用シートを水面に浮かべる前に基材を基材フィルムから分離させるか、または水面に浮かべた後の水の作用によって基材フィルムから基材が分離するように構成しておくことが好ましい。
【0029】
[水圧転写フィルム]
本発明の水圧転写フィルムは、上記した基材フィルムと、インキ組成物により形成される転写用の印刷層とを有する。
図1は、水圧転写フィルムの構成の好ましい一例を示す概略断面図である。水圧転写フィルム10は、基材フィルム1の一方の面に、グラビア印刷などにより、第1の絵柄層2、第2の絵柄層3、第3の絵柄層4及び第4の絵柄層5が、順に設けられ、印刷層6が形成されている。印刷層6は1層の絵柄層を有するものでもよいし、2層以上の絵柄層を有するものでもよく、得られる成形品の意匠性の観点から2層以上の絵柄層を有することが好ましい。
【0030】
絵柄層の絵柄としては、木目模様、金属模様(金属光沢)、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)などの岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様など、あるいはこれらを複合した寄木、パッチワークなどの模様などが挙げられる。
【0031】
[活性剤組成物]
活性剤組成物は、水圧転写フィルムの印刷層を活性化する(適度に印刷層の少なくとも一部を溶解または膨潤して軟化させる)ためのものであって、水圧転写フィルムの基材フィルム側が水面側に向くように水面上に浮遊させる前または後に、印刷層に塗工されるものである。
本発明で用いられる活性剤組成物は、このような性質を有すれば特に制限はないが、1価アルコール、ケトン類、及びエステル類を含有することが好ましい。
【0032】
1価アルコールとしては、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどが挙げられ、これらのうちイソプロピルアルコール、及びイソブチルアルコールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
ケトン類としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジブチルケトン、及びジイソブチルケトンなどが挙げられ、なかでもジブチルケトン、及びジイソブチルケトンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、エステル類としては、具体的には、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、メトキシブチルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、シュウ酸ジブチルなどが挙げられる。これらのうち酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、メトキシブチルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、及びシュウ酸ジブチルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
活性剤組成物は、脂肪族炭化水素、エーテル類を含有することができる。
脂肪族炭化水素としては、ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、オクタン、イソオクタンなどが挙げられ、これらのうちヘプタンが好ましい。
エーテル類としては、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブなどが挙げられ、このうちブチルセロソルブが好ましい。
【0035】
活性剤組成物は、35質量%以下の可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤は、印刷層のインキを軟化させる機能を活性剤組成物に付与するためのものであり、35質量%以下の含有量であるとインキの一部の溶解が早すぎるという問題がなく、白抜け、柄が流れる、あるいは歪むといったことがない。
可塑剤としては、フタル酸エステルが好ましく、フタル酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチルなどが挙げられる。これらのうちフタル酸ジメチルが活性状態を安定化させるのとともに、適度に他の溶剤とともに蒸発する点から好ましい。
【0036】
活性剤組成物中の可塑剤の含有量の下限値については特に制限はないが、印刷層の十分な活性化を得る観点から5質量%以上であることが好ましい。すなわち可塑剤の含有量は5〜35質量%の範囲が好ましく、10〜35質量%の範囲がより好ましく、10〜20質量%がさらに好ましい。
【0037】
活性剤組成物には、溶剤に対して1〜20質量%程度の樹脂を添加することができる。この樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル重合体;ポリスチレンやポリスチレン誘導体などのスチレン系重合体;ポリ酢酸ビニルなどのビニルエステル重合体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸またはフマル酸などの不飽和カルボン酸類のエステル誘導体の重合体;同ニトリル誘導体または同酸アミド誘導体の重合体;上記の不飽和カルボン酸類の酸アミド誘導体のN−メチロール誘導体及び同N−アルキルメチロールエーテル誘導体、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、2−ヒドロキシエチル−(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル−(メタ)アクリレート、エチレングリコール−モノ(メタ)アクリレートなどの単量体の、単独または共重合体などからなる熱可塑性樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;フェノール系樹脂;メラミン系樹脂;尿素樹脂;エポキシ系樹脂;フタル酸ジアリル系樹脂;ケイ素樹脂;ポリウレタン系樹脂などの熱硬化性樹脂またはそれらの変性樹脂もしくは初期縮合物、あるいは、天然樹脂、ロジン及びその誘導体、ニトロセルロースなどのセルロース誘導体、天然または合成ゴム、石油樹脂、セルロースアセテートブチレート(CAB)、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
【0038】
[水圧転写方法]
本発明の水圧転写方法は、本発明の水圧転写フィルムを用い、該水圧転写フィルムを、基材フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させて印刷層を被転写体に転写する水圧転写方法であって、該水圧転写フィルムを水面に浮遊させる前または後に、印刷層に活性剤組成物を塗工することを特徴とし、これにより水圧転写加飾成形品が得られる。
本発明の水圧転写方法は、好ましくは工程(A)水圧転写フィルムの印刷層に、活性剤組成物を塗布し、該印刷層の少なくとも一部を溶解または膨潤して軟化させる活性化工程、工程(B)前記活性化工程を経た水圧転写フィルムに被転写体を押圧し、水圧によって該印刷物を被転写体の被転写面に密着させる工程、工程(C)被転写体の被転写面に密着した印刷物の基材フィルムを完全に除去して印刷層のみを転写する脱膜工程、及び工程(D)転写された印刷層上に、必要に応じて保護膜を形成する工程、を有する。
【0039】
[工程(A)]
工程(A)は、水圧転写フィルムの印刷層に、活性剤組成物を塗布し、該印刷層の少なくとも一部を溶解または膨潤して軟化させる活性化工程であり、該活性剤組成物の塗布は、水圧転写フィルムを水面に浮遊させる前または後に行うものである。
基材フィルムと印刷層とからなる水圧転写フィルムは、基材フィルム側が水面側に向くように水面上に浮遊させる。水圧転写フィルムを水面に浮遊させるには、枚葉の印刷物を1枚ずつ浮遊させてもよく、また水を一方向に流し、その水面上に連続帯状の水圧転写フィルムを、連続的に供給して浮遊させてもよい。
【0040】
水圧転写フィルムの印刷層に活性剤組成物を塗工する方法としては、グラビアオフセットコート、グラビアコート、ロールコート、バーコート、スプレーコートなどの方法が挙げられ、印刷層の十分な活性を得る観点から、スプレーコート法、ロールコート法が好ましく、良好な黒色の濃度を得る観点から、スプレーコート法が好ましい。
活性剤組成物の塗工量は、通常1〜50g/m2程度、好ましくは3〜30g/m2であり、より好ましくは10〜25g/m2である。
【0041】
[(B)工程]
工程(B)は、前記活性化工程を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該水圧転写フィルムを被転写体の被転写面に密着させる工程である。
図2は、当該工程(B)を概念的に示す説明図である。すなわち、当該工程(B)においては、水面W上に浮遊させた水圧転写フィルム10’の上から、被転写体7を、その被転写面8が下方となるようにして下降させて、被転写体7を水中に押し込むことで、その被転写面8の形状に沿って該水圧転写フィルム10’を伸ばし変形させて、水圧によって被転写面8に水圧転写フィルム10’を密着させる。なお、水圧転写フィルム10’を水面Wに浮かべてその基材フィルム1’が水と接した際、該基材フィルム1’が水膨潤性の場合には膨潤し、水溶性の場合は溶解する。従って、基材フィルム1’が水膨潤性の場合は、該基材フィルム1’は、印刷層6’と一体となって被転写面8に密着する。一方、基材フィルム1’が水溶性の場合には、完全に水に溶解し印刷層6’のみが水面上に浮遊する場合と基材フィルム1’の一部が溶解し一部が残存する場合とがある。前者の印刷層6’のみが水面上に浮遊する場合は、被転写体7には印刷層6’のみが密着した状態となる。
【0042】
水圧転写フィルム10’を浮かべて水圧を印加するための水は、基材フィルム1’の種類(例えば水溶性あるいは水膨潤性の差)などに応じて、適宣水温を調整するのが良い。例えば、基材フィルム1’が澱粉系フィルムの場合は水温25〜50℃がよい。また、基材フィルム1’の除去を促進する添加剤を添加してもよく、例えば澱粉系フィルムの場合はアミラーゼなどを添加することが好ましい。
【0043】
本発明に用いられる被転写体としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、繊維系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂、あるいはこれらを混合した樹脂のほか、鉄、アルミニウム、銅などの金属、陶磁器、ガラス、琺瑯などのセラミックス、木材などの材料からなる構造体が挙げられる。被転写面の形状は、平面形状である二次元形状であってもよいし、凹凸形状や曲面形状などの三次元形状であってもよい。これらの中で、通常、樹脂製構造体が多用される。この樹脂製構造体は、成形時において離型剤が付着するとともに、ゴミや脂分なども付着することがあり、水圧転写フィルムの印刷層を密着性よく転写させるために、あらかじめ脱脂液により被転写面を清浄化しておくことが好ましい。
【0044】
脱脂液としては、アルカリ脱脂剤などの界面活性剤を含まないものが用いられる。例えば界面活性剤を含まないカリウム・リン酸塩系の弱アルカリ性液体が挙げられる。このようなカリウム・リン酸塩系の液は、界面活性剤を含まないので被転写体の表面から水をはじくことができる。被転写体の表面において水とのなじみを抑えることにより、被転写体と水圧転写フィルムの印刷層との間に水が侵入することを防止することができるので、被転写体の被転写面に該印刷層を直接的、かつ確実に付着させることができる。
また、前記被転写体の被転写面には、水圧転写フィルムの印刷層表面との間の密着性を良好にするために、プライマー層をあらかじめ形成しておくこともできる。
【0045】
[工程(C)]
工程(C)は、被転写体の被転写面に密着した水圧転写フィルムの基材フィルムを完全に除去して印刷層のみを転写する工程であり、基材フィルムが印刷層とともに被転写体に押圧され被転写体に密着した場合に、その基材フィルムを溶解あるいは洗浄で除去し、印刷層のみを被転写体上に残す工程である。従って、被転写体を水中に押込み、水圧を印加する際に、水面上に印刷層のみが浮遊している場合には、この工程(C)は不要である。つまり、工程(C)は、水圧転写フィルムの基材フィルムの少なくとも一部が溶解せずに被転写体上に残存している場合に、被転写体の被転写面に転写された印刷層が十分に密着後、その基材フィルムを除去する工程である。
基材フィルムの除去は、例えば、水を用いてシャワー洗浄することで行うことができる。この工程(C)により、被転写面に付着している基材フィルムは完全に除去される。なお、シャワー洗浄の条件は、基材フィルムの種類などによって異なるが、通常は水温15〜60℃程度、洗浄時間10秒〜5分程度が好ましい。そして、工程(C)の後、あるいは工程(C)が省略される場合は、前記工程(B)の後で、被転写体を十分乾燥し水分を蒸発させれば、被転写体の被転写面に転写された印刷層によって、所望の意匠が付与された成形品が得られる。
【0046】
[工程(D)]
工程(D)は、転写された印刷層上に、必要に応じて保護膜を形成する工程である。
当該工程(D)においては、前記工程(C)にて被転写体の被転写面に転写された印刷層に対し、表面強度向上、表面保護、表面艶調整などのために必要に応じて塗装を施し、透明保護膜を形成する。この透明保護膜の形成には、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など、具体的にはウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂などが用いられる。塗装方法としては、スプレー塗装、静電塗装、刷毛塗り、浸漬塗装などの方法が挙げられる。
【0047】
本発明の水圧転写フィルムを用いて装飾される成形品は、黒色濃度が10〜40、好ましくは10〜28である部分を有するものであり、非常に黒色の濃度が濃いものである。ここで、黒色濃度は、色彩色差計(「CM−3700d(型番)」、ミノルタ株式会社製)により測定される明度の測定値(L*値)である。
このように、本発明の成形品は、黒色の濃度が濃く、また、白抜けなどがなく優れた外観を有するので、特に高い意匠性が要求される自動車内装材、建材、家具類、電気製品のハウジングなどとして好適に用いられる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた転写用印刷物及び水圧転写成形品について以下に示す性能評価を行った。
(1)黒色の濃度の測定
各実施例及び比較例で得られた水圧転写成形品を5cm角に裁断し、黒色濃度測定用試料とした。色彩色差計(「CM−3700d(型番)」、ミノルタ株式会社製)に、転写された印刷面が光源に向くように水圧転写成形品をセットし、反射光によって明度の測定を行った。明度の測定値(L*値)を黒色濃度とした。当該測定値は、小さいほど黒色濃度が高いことを示す。
○;10〜28:黒色濃度が高く、意匠性が良好である。
△;28超〜40:黒色濃度が若干低くなり、意匠性は劣るが実用上問題ない。
×;40超〜100:黒色濃度が低く、意匠性が劣る。
【0049】
(2)転写状態
活性化された絵柄を被転写体に転写した後の絵柄の転写状態を目視で評価した。評価基準は以下のとおりである。
○;均一に絵柄が転写されており、柄の白抜けがない。
△;一部柄の白抜けが生じているが、実用上問題がない。
×;白抜けなどによる絵柄が転写されていない部分がある。
【0050】
実施例1
(1)水圧転写フィルムの作製
水溶性フィルムとして、PVAフィルム[「トスロン(商品名)」(東セロ株式会社製)、厚さ30μm]を用いる。その片面に電動式グラビア印刷機にて、第1表に示す成分を第1表に示す含有量となるように混合してインキ組成物1を調製した。このインキ組成物を用いて、水溶性フィルム上に、重ね刷りにより図1に示すように第1絵柄層〜第4絵柄層からなる厚さ2μmの印刷層(木目模様)を設けることにより水圧転写フィルムを作製した。
【0051】
(2)活性剤組成物の調製
イソプロピルアルコール20質量部、イソブチルアルコール45質量部、酢酸エチル10質量部、ジイソブチルケトン10質量部、及びフタル酸ジメチル15質量部を混合して、活性剤組成物を調製した。
【0052】
(3)水圧転写成形品の作製
上記(1)で得た水圧転写フィルムを図2のように、水温30℃の水面W上にこの転写用印刷物10’をその基材フィルム1’側が水面側を向くようにして浮遊させた。2分経過後に(2)で調製した活性剤組成物をスプレーコート法により15g/m2で噴霧した。15秒経過後、基材フィルム1’が膨潤状態となった後に、ABS樹脂製成形体の被転写体7を、水圧転写フィルム10’の上方から押入れて、被転写体7の被転写面8に水圧転写フィルム10’を延展させ密着させた。この後、該水圧転写フィルムが表面に延展し密着した被転写体を水中から引出した。次に、脱基材フィルムの工程(上記(C)工程)として、該被転写体に40℃の温水シャワーを1分間噴射した後、さらに清水シャワーを噴射して、被転写体上に付着している該水圧転写フィルムの基材フィルムを除去した。次いで、被転写体を乾燥して、印刷層が被転写体に転写された転写物品を得た。
次いで、転写物品の印刷層の表面に、透明保護層として厚さ10μmのアクリル系樹脂層を形成して、水圧転写加飾成形品を作製した。
上記方法にて評価した結果を第2表に示す。
【0053】
実施例2〜6、比較例1
インキ組成物を第1表に示すものとした以外は、実施例1と同様にして水圧転写成形品を作製し、上記方法にて評価した。評価の結果を第2表に示す。
【0054】
【表1】

*1,「シースト(商品名)」:東海カーボン株式会社製,平均一次粒径:43nm,DBP吸油量:115cm3/100g
*2,「サイムラー(商品名)」:大日本インキ株式会社製
*3,「ファストゲン(商品名)」:大日本インキ株式会社製
【0055】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、黒色の濃度を向上させて、かつ良好な転写性が得られる水圧転写フィルム用インキ組成物を提供することができる。また、当該インキ組成物を用いた水圧転写フィルムにより得られる水圧転写加飾成形品は、黒色の濃度が濃く、白抜けなどがなく優れた外観を有するので、特に高い意匠性が要求される自動車内装材、建材、家具類、電気製品のハウジングなどとして好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】水圧転写フィルムの構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】水圧転写法で成形品を製造する際の一工程を概念的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1 基材フィルム
1’ 基材フィルム
2 第1の絵柄層
3 第2の絵柄層
4 第3の絵柄層
5 第4の絵柄層
6 印刷層
6’ 活性剤含有印刷層
7 被転写体
8 被転写面
10 印刷物
10’転写用印刷物(水圧転写フィルム)
W 水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと印刷層からなる水圧転写フィルムの印刷層を形成するためのものであり、かつ活性剤組成物の塗工により活性化されるインキ組成物であって、該インキ組成物中の顔料がカーボンブラックを25質量%超50質量%以下(固形分基準)の割合で含有する水圧転写フィルム用インキ組成物。
【請求項2】
顔料が、さらに黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の水圧転写フィルム用インキ組成物。
【請求項3】
インキ組成物中の黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料の合計量が1〜25質量%(固形分基準)である請求項1又は2に記載の水圧転写フィルム用インキ組成物。
【請求項4】
基材フィルムと印刷層からなる水圧転写フィルムの印刷層を形成するためのものであり、かつ活性剤組成物の塗工により活性化されるインキ組成物であって、インキ組成物中の顔料が黄色顔料、赤色顔料、及び藍色顔料から選ばれる少なくとも1種、ならびに及びカーボンブラックを含む水圧転写フィルム用インキ組成物。
【請求項5】
黄色顔料、赤色顔料及び藍色顔料の合計量が1〜25質量%(固形分基準)であり、かつカーボンブラックが1〜25質量%(固形分基準)である請求項4に記載の水圧転写フィルム用インキ組成物。
【請求項6】
活性剤組成物が、スプレーコート法により塗工される請求項1〜5のいずれかに記載の水圧転写フィルム用インキ組成物。
【請求項7】
カーボンブラックのDBP吸油量が、40〜150ml/100gである請求項1〜6のいずれかに記載の水圧転写フィルム用インキ組成物。
【請求項8】
カーボンブラックの平均一次粒径が、10〜70nmである請求項1〜7のいずれかに記載の水圧転写フィルム用インキ組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の水圧転写フィルム用インキ組成物が用いられる水圧転写フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載の水圧転写フィルムを用い、該水圧転写フィルムを、基材フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させて印刷層を被転写体に転写する水圧転写方法であって、該水圧転写フィルムを水面に浮遊させる前または後に、印刷層に活性剤組成物を塗工する水圧転写方法。
【請求項11】
活性剤組成物の塗工量が、10〜25g/m2である請求項10に記載の水圧転写方法。
【請求項12】
活性剤組成物が、スプレーコート法により塗工される請求項10又は11に記載の水圧転写方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載の水圧転写方法により得られる水圧転写加飾成形品。
【請求項14】
黒色濃度が28以下である部分を有する請求項13に記載の水圧転写加飾成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−83281(P2009−83281A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255883(P2007−255883)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】