説明

水圧転写装置の残滓回収システム及びその残滓回収方法

【課題】転写フィルムの転写時に発生したフィルムの残滓を効率よく確実に回収することができる水圧転写装置の残滓回収システムを提供すること。
【解決手段】残滓回収システム1の水圧転写装置2では、転写槽11の水面12に転写フィルム100を浮かべた状態で、その上方から被転写体200を押し付け、水圧によって被転写体200の表面に印刷模様層及び硬化性樹脂層を転写する。転写槽11の下流側に設けられた回収槽21の上方にUVランプ5が配置され、転写槽11から回収槽21に流入したフィルムの残滓105に紫外線を照射する。回収槽21にはフィルタ22が設けられており、紫外線照射によって硬化したフィルムの残滓105をフィルタ22で回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧転写によって被転写体の表面に装飾を施す水圧転写装置に用いられ、転写フィルムの転写時に発生したフィルムの残滓を回収する水圧転写装置の残滓回収システム及びその残滓回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品などでは、デザイン性や品質を高めるために成形体の表面に水圧転写によって装飾を加えるようにした表面加飾品(例えば、コンソールボックス、インストルメントパネル、アームレストなど)が多く実用化されている。
【0003】
水圧転写では、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)などの水溶性または水膨潤性フィルムからなる基材上に印刷模様層(木目模様層や幾何学模様層など)を形成してなる転写フィルムが用いられる。そして、転写フィルムを転写槽の水面に浮かべて所定サイズに膨潤させた後、転写フィルムの上方から被転写体を押し付け、水圧によって被転写体の表面に印刷模様層を転写する。
【0004】
転写フィルムには、基材と印刷模様層との間に紫外線照射により硬化させて表面保護コートとする硬化性樹脂層が形成されたトップコート付与フィルムも実用化されている。このトップコート付与フィルムを用いれば、被転写体の表面に印刷模様層に加えて表面保護コートを同時に水圧転写することができる。このため、表面保護コートを別工程で形成する必要がなくなり、作業効率が向上する。
【0005】
上記水圧転写を行う場合、転写槽の水面で膨潤させた水圧転写フィルムのサイズは被転写体よりも大きく、水圧転写後において被転写体に転写されなかった余剰フィルムは、フィルムの残滓として転写槽の水面に浮遊したり水中に沈降したりする。ここで、転写槽の水面にフィルムの残滓が浮遊している状態で次の被転写体の水圧転写を行うと、そのフィルムの残滓が被転写体に付着して転写不良となってしまう。このため、従来の水圧転写装置では、転写領域の下流側にフィルムの残滓を流して回収している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
具体的には、特許文献1の水圧転写装置は、水圧転写を行うための本槽(転写槽)と、その本槽の上流端から下流端に向けて移動する仕切り板と、その仕切り板に付着したフィルムの残滓を回収する回収手段とを備えている。この水圧転写装置では、本槽の上流端から下流端に向けて仕切り板を移動させることで、水面近傍の水とフィルムの残滓とを下流側に押し流す。また、水圧転写装置の本槽の下流側には副槽が設けられており、本槽の下流端から漏れた水やフィルムの残滓をその副槽に収容している。副槽は、フィルタやポンプを介して本槽に接続されている。そして、副槽内のフィルムの残滓がフィルタで除去され、フィルムの残滓が除去された水がポンプによって本槽に戻される。このように、本槽と副槽とで水を循環させ再利用することで、水圧転写装置で使用する水量を抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−123947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、転写フィルムは水溶性の材料を含むため、フィルムの残滓は時間経過とともに水に溶けて細かい残滓となってしまう。このため、フィルムの残滓がフィルタに引っ掛かりにくくなり、その一部がフィルタを通過してしまう。この場合、フィルムの残滓を含んだ水が副槽から本槽に戻るため、そのフィルムの残滓が被転写体の表面に付着して転写不良となることがある。また、フィルムの残滓は粘り気のある状態でフィルタにて濾過されるため、フィルタの目詰まりが起き易くなる。さらに、フィルムの残滓がフィルタに一旦付着すると、その除去が困難であるため、定期的な交換作業が必要となるが、他の部位を汚さないように注意して作業しなければならず、メンテナンス作業が煩雑となる。また、副槽から本槽に水を戻すためにポンプを使用しているが、フィルムの残滓がポンプに付着すると、ポンプが故障するといった問題も生じてしまう。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、水圧転写時に発生したフィルムの残滓を効率よく確実に回収することができる水圧転写装置の残滓回収システム及び水圧転写装置の残滓回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、水溶性または水膨潤性フィルムからなる基材とその片面に形成した印刷模様層との間に紫外線照射により硬化させて表面保護コートとする硬化性樹脂層が形成された転写フィルムを前記印刷模様層が上側となるように転写槽の水面に浮かべた状態で、前記転写フィルムの上方から被転写体を押し付け、水圧によって前記被転写体の表面に前記印刷模様層及び前記硬化性樹脂層を転写する水圧転写装置に用いられ、前記転写フィルムの転写時に発生したフィルムの残滓を回収する残滓回収手段と、前記フィルムの残滓を除去した水を前記転写槽に戻して再利用するための水循環手段と、前記被転写体の表面に前記転写フィルムを転写する転写領域よりも下流側であって前記残滓回収手段よりも上流側の領域に配置され、前記フィルムの残滓に紫外線を照射する紫外線照射手段とを備えたことを特徴とする水圧転写装置の残滓回収システムをその要旨とする。
【0011】
手段1に記載の発明によると、紫外線照射手段により、転写フィルムの転写時に発生したフィルムの残滓に紫外線が照射されて、そのフィルムの残滓が硬化される。この紫外線照射による硬化後には、フィルムの残滓は水に溶解しにくくなり大きな塊の状態を維持するため、従来のようにフィルムの残滓が細かくならない。従って、残滓回収手段によってフィルムの残滓を効率よく確実に回収することができる。このため、フィルムの残滓を除去した水を水循環手段で循環させることができ、フィルムの残滓が付着して水循環手段が故障するといった問題を回避することができる。また、フィルムの残滓は、硬化した状態で残滓回収手段に回収されているので、残滓回収手段に付着しにくい。この結果、残滓回収手段の定期的なメンテナンスを容易に行うことができる。
【0012】
手段2に記載の発明は、手段1において、前記転写槽において、前記転写領域よりも下流側の領域に前記紫外線照射手段が設けられるとともに、前記被転写体への前記紫外線の照射を遮光する遮光部材が設けられることをその要旨とする。
【0013】
手段2に記載の発明によると、転写槽において、転写フィルムの転写時に発生したフィルムの残滓に対して迅速に紫外線を照射することできるため、フィルムの残滓を比較的大きな塊の状態で硬化させることができる。また、転写槽において、紫外線照射手段の紫外線が遮光部材によって遮光されることで、印刷模様層及び硬化性樹脂層が転写された被転写体の表面に紫外線が誤って照射されることを防止することができる。
【0014】
手段3に記載の発明は、手段1または2において、前記残滓回収手段は、前記転写槽の下流側に配置され、前記フィルムの残滓を含んだ排水が前記転写槽から流入する回収槽と、前記回収槽内に配置され、前記排水に含まれる前記フィルムの残滓を除去するフィルタとを備えたことをその要旨とする。
【0015】
手段3に記載の発明によると、転写フィルムの転写を行う転写槽の下流側に回収槽が別途設けられ、フィルムの残滓を含んだ排水が転写槽から回収槽に流入される。そして、回収槽内に配置されたフィルタによって排水に含まれるフィルムの残滓が効率よく除去される。
【0016】
手段4に記載の発明は、手段3において、前記回収槽において、前記フィルタよりも上流側に前記紫外線照射手段が設けられることをその要旨とする。
【0017】
手段4に記載の発明によると、回収槽において、フィルタよりも上流側に配置された紫外線照射手段が紫外線を照射することでフィルムの残滓が硬化される。そして、硬化されたフィルムの残滓を下流側のフィルタで効率よく確実に除去することができる。またこの場合、回収槽に紫外線照射手段が設けられているので、転写槽において、印刷模様層及び硬化性樹脂層が転写された被転写体の表面に紫外線が誤って照射されることを防止することができる。
【0018】
手段5に記載の発明は、水溶性または水膨潤性フィルムからなる基材とその片面に形成した印刷模様層との間に紫外線照射により硬化させて表面保護コートとする硬化性樹脂層が形成された転写フィルムを前記印刷模様層が上側となるように転写槽の水面に浮かべた状態で、前記転写フィルムの上方から被転写体を押し付け、水圧によって前記被転写体の表面に前記印刷模様層及び前記硬化性樹脂層を転写する水圧転写装置に用いられ、水圧転写時に発生した前記転写フィルムの残滓を回収する残滓回収方法であって、前記転写フィルムの残滓に紫外線を照射してその残滓を硬化させるステップと、前記硬化させた転写フィルムの残滓を回収するステップとを含むことを特徴とする水圧転写装置の残滓回収方法をその要旨とする。
【0019】
手段5に記載の発明によると、転写フィルムの転写時に発生したフィルムの残滓に紫外線が照射されて、そのフィルムの残滓が硬化される。この紫外線照射による硬化後には、フィルムの残滓は水に溶解しにくくなり大きな塊の状態を維持するため、フィルムの残滓を効率よく確実に回収することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上詳述したように、請求項1乃至5に記載の発明によると、水圧転写時に発生したフィルムの残滓を効率よく確実に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施の形態の残滓回収システムを示す概略構成図。
【図2】転写フィルムを示す断面図。
【図3】残滓回収方法を示す説明図。
【図4】残滓回収方法を示す説明図。
【図5】残滓回収方法を示す説明図。
【図6】残滓回収方法を示す説明図。
【図7】残滓回収方法を示す説明図。
【図8】第2の実施の形態の残滓回収システムを示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施の形態]
以下、本発明を具体化した第1の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態における水圧転写装置の残滓回収システムの概略構成図である。
【0023】
図1に示されるように、残滓回収システム1は、水圧転写装置2と、残滓回収装置3(残滓回収手段)と、水循環装置4(水循環手段)と、UVランプ5(紫外線照射手段)とを備えている。
【0024】
水圧転写装置2は、転写フィルム100を用いて被転写体200(例えば、自動車のアームレストに設けられる装飾パネル)に水圧転写印刷を行う装置である。水圧転写装置2は、内部に水W1を貯留した転写槽11と、被転写体200を保持した状態で転写槽11の水面12下への下降及び水面12上への上昇を行う昇降装置13と、転写槽11における一方の側壁(図1では右側の側壁)の上部に設けられた注水口14を介して転写槽11に水W1を供給するための給水槽15とを備えている。
【0025】
本実施の形態の転写フィルム100は、水溶性または水膨潤性フィルムからなる基材101(具体的には、PVAキャリア部)とその片面に形成した印刷模様層102(具体的には、木目模様の柄インキ部)との間に紫外線照射により硬化させて表面保護コートとする硬化性樹脂層103(具体的には、UVトップコート)を形成してなる(図2参照)。つまり、転写フィルム100は、被転写体200の表面に印刷模様層102に加えて表面保護コートを転写するためのUV硬化型のトップコート付与フィルムである。
【0026】
転写フィルム100は、転写槽11の水面12の中央部分において、印刷模様層102を上側に向けた状態で浮かべられて膨潤させられる。この転写槽11の水面12において転写フィルム100を浮かべる領域が転写領域R1であって、その転写領域R1における転写フィルム100の上方から被転写体200を押し付けることで被転写体200の表面に印刷模様層102及び硬化性樹脂層103を転写する。また、膨潤後の転写フィルム100のサイズは、被転写体200よりも若干大きい。このため、転写フィルム100の水圧転写時には、被転写体200に転写されない余剰フィルム(フィルムの残滓)が発生する。
【0027】
転写槽11において、給水槽15が設けられている側壁の内側上部には、エア吹き出し口17が設けられており、エア吹き出し口17は転写領域R1に向けてエアを吹き付ける。また、転写槽11において、給水槽15が設けられている側壁と対向する側壁には、その上端部に排出口18が設けられている。排出口18は、転写槽11の側壁にて他の部位よりも低く形成された部位である。転写槽11において、給水槽15からの給水により転写槽11内の水位が上がると、排出口18となる側壁の上端を越えてオーバーフローした水W1が排出口18から排出される。従って、転写槽11においては、水面12近傍にて給水槽15側から排出口18側に向かって流れる水流が生じ、フィルムの残滓105がその水流によって排出口18に流される。またこのとき、エア吹き出し口17からのエアの風圧によって、水面12上に浮遊するフィルムの残滓105が排出口18側に確実に流される。そして、転写槽11の排出口18から排水W1とともにフィルムの残滓105が排出される。
【0028】
残滓回収装置3は、転写槽11の下方位置(下流側)に配置された回収槽21と、その回収槽21内に配置されるフィルタ22とを備える。回収槽21において、一方の端部側(図1では左側)には転写槽11の排出口18から排出された排水W1が流入され、他方の端部側(図1では右側)には水循環装置4が接続される。また、回収槽21内におけるフィルタ22は、水循環装置4が接続される端部の近傍にて着脱可能な状態で配置されている。
【0029】
水循環装置4は、回収槽21と給水槽15とを接続する配管24と、配管24の途中に設けられるポンプ25とを備え、ポンプ25の駆動により、配管24を通して回収槽21内の水W1を給水槽15に供給する。この結果、回収槽21内において、一方の端部側(転写槽11から排水W1が流入する側)から他方の端部側(水循環装置4が接続される側)に向けて排水W1が流れる。そして、排水W1がフィルタ22を通過することでその排水W1に含まれるフィルムの残滓105が除去される。さらに、フィルムの残滓105が除去された水W1がポンプ25の駆動によって給水槽15に戻されて再利用される。
【0030】
また、本実施の形態では、回収槽21の上方であってフィルタ22よりも上流側の位置に、複数のUVランプ5が所定の間隔をあけて配置されている。各UVランプ5は、水面12の上方から水中のフィルムの残滓105に向けて紫外線を照射する。
【0031】
次に、本実施の形態における水圧転写装置2の残滓回収方法について説明する。
【0032】
先ず、作業者は、転写槽11において、印刷模様層102が上側となるよう転写フィルム100を水面12に浮かべ(図3参照)、印刷模様層102の表面に活性剤を塗布する。
【0033】
このとき、転写フィルム100を例えば60秒間水面12に浮かべることにより、被転写体200への転写に適した状態となるまで転写フィルム100が膨潤させられる。転写フィルム100の膨潤後、昇降装置13により被転写体200を下降させて転写フィルム100の上方から被転写体200を押し付けることで、水圧によって被転写体200の表面に印刷模様層102及び硬化性樹脂層103が転写される(図4参照)。
【0034】
この水圧転写時には、昇降装置13により被転写体200を水面12下に下降させて水中に完全に沈める。なお、昇降装置13による被転写体200の下降時間は10秒程度である。その後、エア吹き出し口17からエアA1を吹きつけてフィルムの残滓105を排出口18側に流す(図5参照)。またこのとき、水循環装置4のポンプ25を駆動して、回収槽21から給水槽15を介して転写槽11に水W1を注水する。その結果、転写槽11の水面12付近の水W1とフィルムの残滓105とが排出口18側に流された後、排出口18から回収槽21に排出される。
【0035】
回収槽21では、複数のUVランプ5を点灯させることにより、水中のフィルムの残滓105に対して紫外線L1を照射することで、そのフィルムの残滓105を硬化させる(図6参照)。そして、そのフィルムの残滓105が回収槽21の下流側に流れてフィルタ22で除去される。さらに、ポンプ25の駆動を継続させることによって、フィルムの残滓105が除去された水W1が給水槽15に戻され再利用される。ここで、転写槽11の水面12にて浮遊する全てのフィルムの残滓105が流されて排出口18から排出されたときに、ポンプ25の駆動が停止される。なお、このポンプ25の駆動時間は20秒程度である。
【0036】
その後、昇降装置13により、被転写体200を上昇させ水面12から引き上げる(図7参照)。さらに、印刷模様層102及び硬化性樹脂層103が転写された被転写体200を昇降装置13から取り外して、その被転写体200を後工程の洗浄装置等に搬送する。以上の工程を経て被転写体200の水圧転写が行われる。
【0037】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0038】
(1)本実施の形態では、転写フィルム100の転写を行う転写槽11の下流側に回収槽21が別途設けられ、フィルムの残滓105を含んだ排水W1が転写槽11から回収槽21に流入される。また、回収槽21において、フィルタ22よりも上流側にUVランプ5が配置されており、UVランプ5が紫外線L1を照射することでフィルムの残滓105が硬化される。この紫外線照射による硬化後には、フィルムの残滓105は水W1に溶解しにくくなり大きな塊の状態を維持するため、従来技術のようにフィルムの残滓105が細かくならない。従って、硬化されたフィルムの残滓105を下流側のフィルタ22で効率よく確実に除去することができる。このため、フィルムの残滓105を除去した水W1を水循環装置4で循環させることができ、フィルムの残滓105が付着してポンプ25が故障するといった問題を回避することができる。また、フィルタ22で回収される残滓105が硬化しているので、その残滓105がフィルタ22に付着しにくく、フィルタ22の定期的なメンテナンスを容易に行うことができる。
【0039】
(2)本実施の形態において、転写槽11とは別に設けられた回収槽21にUVランプ5が配置されているので、UVランプ5による紫外線L1が転写後の被転写体200に誤って照射されることを防止することができる。
【0040】
(3)本実施の形態において、複数のUVランプ5が回収槽21の上方に配置されており、回収槽21における水面の上方から水中のフィルムの残滓105に紫外線L1を効率よく照射することができる。
[第2の実施の形態]
【0041】
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図8に基づき説明する。本実施の形態の残滓回収システム1Aは、水圧転写装置2Aと水循環装置4とによって構成されており、第1の実施の形態における残滓回収装置3の機能を水圧転写装置2A内に設けた点が第1の実施の形態と異なっている。なお、水循環装置4(配管24及びポンプ25)の構成は、上記第1の実施の形態と同じである。また、本実施の形態で用いる転写フィルム100も、上記第1の実施の形態と同様に、基材101、印刷模様層102、硬化性樹脂層103を有するトップコート付与フィルムである(図2参照)。以下、水圧転写装置2Aの構成について詳述する。
【0042】
図8に示されるように、水圧転写装置2Aは、水W1を溜めておく転写槽11Aと、転写フィルム100を転写槽11Aの水面12に浮かべて送り出す転写フィルム給送装置6と、被転写体200を移送して転写フィルム100の上方から水中に押し付ける転写ロボット(図示略)とを備える。
【0043】
転写槽11Aは、本槽31とその後側に位置する副槽32とに分かれている。そして、副槽32内には、フィルタ22が設けられおり、そのフィルタ22よりも下方位置に水循環装置4の配管24が接続されている。配管24はポンプ25を介して本槽31の前側に接続されている。そして、ポンプ25が駆動されると、本槽31内の水W1が本槽31の側壁を越えて副槽32の中に流入し、その水W1がフィルタ22でろ過された後、再び本槽31内に供給される。このように、本実施の形態の転写槽11Aは、水W1が循環する方式の水槽となっており、転写フィルム100を受け入れる受入側から転写フィルム100を放出する放出側に向かう表面流(水流)が本槽31の水面12に発生されるようになっている。
【0044】
本実施の形態における転写槽11Aにおいて、被転写体200に転写フィルム100を転写する転写領域R1よりも下流側に、複数のUVランプ5が設けられている。また、各UVランプ5の近傍には、被転写体200への紫外線L1の照射を遮光するための遮光部材34が設けられている。この遮光部材34は、断面がL字状の板材であって、UVランプ5の上方と転写領域R1側となる側方とを遮光している。転写槽11Aにおいて、本槽31の転写領域R1から副槽32に至るまでの区間は1000mm程度の距離であり、フィルムの残滓105はその区間を30秒程度で流れた後に副槽32に流入する。従って、フィルムの残滓105は、本槽31の転写領域R1から副槽32に向けて流れている間にUVランプ5の紫外線L1が確実に照射され、その紫外線照射によって硬化した状態となる。
【0045】
このように、本実施の形態の水圧転写装置2Aでは、転写槽11Aにおける転写領域R1の下流側にUVランプ5が設けられている。また、水圧転写装置2Aにおいて、転写フィルム100の転写直後は、フィルムの残滓105が水面12近傍に浮いた状態で転写領域R1から下流側に流される。このため、転写領域R1の下流側に設けたUVランプ5によって、効率よく迅速にフィルムの残滓105に紫外線L1を照射することできる。この場合、フィルムの残滓105を比較的大きな塊の状態で硬化させることができ、副槽32内のフィルタ22によってフィルムの残滓105をより確実に回収することができる。また、転写槽11Aにおいて、UVランプ5の紫外線L1が遮光部材34によって遮光されることで、印刷模様層102及び硬化性樹脂層103が転写された被転写体200の表面に紫外線L1が誤って照射されることを防止することができる。
【0046】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0047】
・上記各実施の形態では、水面12よりも上方にUVランプ5を設け、水面12の上方から紫外線L1を照射するよう構成したが、これに限定されるものではない。例えば、防水構造のUVランプ5を水中に配置して、そのUVランプ5によって水中に浮遊するフィルムの残滓105に紫外線L1を照射するよう構成してもよい。また、UVランプ5の照射によってそのランプが高温となる場合には、UVランプ5を冷却するための冷却手段をさらに設けるように構成してもよい。
【0048】
・上記各実施の形態では、紫外線照射によって硬化したフィルムの残滓105をフィルタ22で回収するように構成していたが、これに限定されるものではない。例えば、可動式の金網などからなる残滓回収手段を用いて水面上に浮遊するフィルムの残滓105をすくい取るように構成してもよい。また、紫外線照射によって硬化したフィルムの残滓105がフィルムの状態を維持して比較的大きなサイズである場合には、そのフィルムの残滓105を作業者が手で回収してもよい。さらに、掃除機のような吸引装置を用いて水面上に浮遊するフィルムの残滓105を吸引するように構成してもよい。なおこの場合、フィルムの残滓105とともに吸引した水W1をフィルタで濾過した後、給水槽15に戻すように構成する。
【0049】
・上記第1の実施の形態において、回収槽21にUVランプ5を設けているが、これに加えて転写槽11における転写領域R1の下流側にUVランプ5を設けるようにしてもよい。このように構成すると、UVランプ5による紫外線L1の照射時間を十分に確保することができるため、フィルムの残滓105をより確実に硬化させることができる。
【0050】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0051】
(1)手段1乃至4のいずれかにおいて、前記紫外線照射手段を冷却する冷却手段を備えることを特徴とする水圧転写装置の残滓回収システム。
【0052】
(2)手段1乃至4のいずれかにおいて、前記紫外線照射手段は、水面の上方から紫外線を照射することを特徴とする水圧転写装置の残滓回収システム。
【0053】
(3)手段1乃至4のいずれかにおいて、前記転写槽において、水面に浮かぶ前記フィルムの残滓をエアの風圧によって前記転写領域の下流側に流すエア吹き出し口を設けたことを特徴とする水圧転写装置の残滓回収システム。
【符号の説明】
【0054】
1,1A…残滓回収システム
2,2A…水圧転写装置
3…残滓回収手段としての残滓回収装置
4…水循環手段としての水循環装置
5…紫外線照射手段としてのUVランプ
11,11A…転写槽
12…水面
21…回収槽
22…フィルタ
24…水循環手段を構成する配管
25…水循環手段を構成するポンプ
34…遮光部材
100…転写フィルム
101…基材
102…印刷模様層
103…硬化性樹脂層
105…フィルムの残滓
200…被転写体
L1…紫外線
R1…転写領域
W1…水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性または水膨潤性フィルムからなる基材とその片面に形成した印刷模様層との間に紫外線照射により硬化させて表面保護コートとする硬化性樹脂層が形成された転写フィルムを前記印刷模様層が上側となるように転写槽の水面に浮かべた状態で、前記転写フィルムの上方から被転写体を押し付け、水圧によって前記被転写体の表面に前記印刷模様層及び前記硬化性樹脂層を転写する水圧転写装置に用いられ、
前記転写フィルムの転写時に発生したフィルムの残滓を回収する残滓回収手段と、
前記フィルムの残滓を除去した水を前記転写槽に戻して再利用するための水循環手段と、
前記被転写体の表面に前記転写フィルムを転写する転写領域よりも下流側であって前記残滓回収手段よりも上流側の領域に配置され、前記フィルムの残滓に紫外線を照射する紫外線照射手段と
を備えたことを特徴とする水圧転写装置の残滓回収システム。
【請求項2】
前記転写槽において、前記転写領域よりも下流側の領域に前記紫外線照射手段が設けられるとともに、前記被転写体への前記紫外線の照射を遮光する遮光部材が設けられることを特徴とする請求項1に記載の水圧転写装置の残滓回収システム。
【請求項3】
前記残滓回収手段は、
前記転写槽の下流側に配置され、前記フィルムの残滓を含んだ排水が前記転写槽から流入する回収槽と、
前記回収槽内に配置され、前記排水に含まれる前記フィルムの残滓を除去するフィルタと
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の水圧転写装置の残滓回収システム。
【請求項4】
前記回収槽において、前記フィルタよりも上流側に前記紫外線照射手段が設けられることを特徴とする請求項3に記載の水圧転写装置の残滓回収システム。
【請求項5】
水溶性または水膨潤性フィルムからなる基材とその片面に形成した印刷模様層との間に紫外線照射により硬化させて表面保護コートとする硬化性樹脂層が形成された転写フィルムを前記印刷模様層が上側となるように転写槽の水面に浮かべた状態で、前記転写フィルムの上方から被転写体を押し付け、水圧によって前記被転写体の表面に前記印刷模様層及び前記硬化性樹脂層を転写する水圧転写装置に用いられ、水圧転写時に発生した前記転写フィルムの残滓を回収する残滓回収方法であって、
前記転写フィルムの残滓に紫外線を照射してその残滓を硬化させるステップと、
前記硬化させた転写フィルムの残滓を回収するステップと
を含むことを特徴とする水圧転写装置の残滓回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−101961(P2011−101961A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257127(P2009−257127)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】