説明

水圧転写装置

【課題】 水圧転写装置において、3次元形状を有したり大型物品であったりする被転写体であっても、入水抵抗、引上げ抵抗低減するとともに安定した入水、引上げを行うとともに引上げ時の落水等を抑制して均一な転写品質を得られ、しかも転写効率を良好にできるようにした簡素かつ汎用性に優れた保持機構を有するようにする。
【解決手段】 上下動制御手段により上下動される昇降ユニット2に傾斜角可変に設けられた保持機構3を備え、アクチュエータ17Aとリンク機構20とを有する傾斜角制御手段により、保持機構3の保持板24を傾斜させる。そして、昇降ユニット2により被転写体を水面上の転写フィルムに対して傾斜させて転写フィルムを転写させ、転写後に被転写体を傾斜させて水面の外に引き上げるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水圧転写装置は、模様等を印刷した転写層を密着させた水圧転写フィルムを水槽の水面上に浮かべた状態で、曲面等の3次元形状面を表面に有する物品を浸水あるいは水没させて、転写フィルムの転写層を物品の3次元形状の転写部位に水圧によって付着させる装置である。
ここで、転写フィルムは、水溶性或いは水膨潤性の樹脂からなる支持体フィルムと、支持体フィルムの上に設けた有機溶剤に溶解可能な疎水性物質からなる転写層とを有している。支持体フィルムとして、例えばPVA(ポリビニルアルコール)等があり、また、転写層として例えば印刷インキ皮膜または塗装皮膜等がある。
また、転写フィルムにおいて、転写層が活性エネルギー線照射或いは加熱の少なくともいずれかによって硬化可能な硬化性樹脂層を有している転写フィルムがあり、この転写フィルムは特にトップコート付き転写フィルムと呼んでいる。ここで、硬化性樹脂膜として例えば次の(1)〜(6)が挙げられる。
(1)活性エネルギー線硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層(2)活性エネルギー線硬化性樹脂と非重合成性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層(3)熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層(4)熱硬化性樹脂と非重合成性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層(5)活性エネルギー線硬化性樹脂と熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層(6)活性エネルギー線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及び非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層
【0003】
例えば特許文献1に記載された水圧転写装置では、水槽の水面上に転写フィルムを載置しており、転写フィルムは水溶性の薄質膜からなるフィルムの上に接着性の塗料またはインクによる所定の模様が印刷された転写層を設けた構成を有している。そして、転写フィルムの上に溶剤が吹き付けられた後、物品を保持具で保持して転写フィルムに押圧して水中に沈めることになる。この場合、物品を保持する保持具がコンベアで水槽上に運ばれ、クレーンにより吊り下げられて水槽内に降下させられ、物品の表面に水圧転写を行う。そして一定時間経過してフィルムが溶解して転写層が物品に密着した後に持ち上げられ、洗浄槽で洗浄させられることになる。
また、特許文献2に記載された水圧転写装置では、水槽の転写フィルムを浮かべた水面の上方に、略三角形状の無端状の転写コンベアが設けられている。この転写コンベアは二つの斜辺で挟まれる略三角形の頂角が水面に向けられている。そして、転写コンベアのホルダーに治具を介して物品が保持され、転写コンベアのコンベアベルトが一方の斜辺に沿って斜め下方に向けて移動することで、物品が水槽の上流側から、転写フィルムに対して傾斜した状態で水中に押し入れられ、物品に転写層が転写させられる。その後、コンベアベルトが他方の斜辺に沿って斜め上方に向けて移動することで、水槽の下流側から物品が引き上げられる。
このようにして、転写コンベアで物品を連続して搬送し、転写フィルムの転写層を転写することになる。
【特許文献1】特開平4−43100号公報
【特許文献2】特開平6−312571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の水圧転写装置には、以下のような問題があった。
例えば、特許文献1に記載の技術では、物品が保持具に保持されてクレーンにより吊上げられて水槽内に降下させられる。そのため、例えば浴槽や冷蔵庫の扉などのように、3次元形状を有するため、あるいは被転写面積が0.20m以上あるような大型物品であるために、入水抵抗が大きく、排水量も多くなるものでは、水面の波立ちが大きくなって転写品質に悪影響を及ぼす。すなわち、物品に付着した転写層に投入痕、転写シワ、転写伸び等が発生してしまう。特に物品を垂直に降下させると転写伸びを生じ易い不具合がある。
また、保持具やクレーンの剛性によっては、入水抵抗による微小振動が誘起され、微小な伸び縮みが転写画像に反映され、転写する図柄などによっては、転写画像の品質が劣化するという問題がある。この場合、保持具やクレーンの剛性を増大して微小振動を低減することも考えられるが、剛性を増大することにより慣性が増大して位置制御の負荷が大きくなるとともに、製作コストも増大するという問題がある。
また、転写終了後に水面から物品を引き上げる際にも同様の問題があり、引上げ抵抗によって水面を乱すので、次の転写作業は水面の波が落ち着くまで開始できず、転写効率が低下するという不具合を生じる。また、引上げ抵抗が大きいと被転写体の落下も招き易くなる。しかも物品の形状によっては引上げ時の物品の周囲からの落水も多くなり、落水が水面に残った転写滓を水面に飛散させる。転写滓が水面に飛散したりすると次の転写作業までに回収するのに手間がかかる欠点もある。
物品の水面への投入及び引上げ速度を例えば1mm/秒程度に極低速にすれば上述した不具合を改善できるが、タクトタイムが長くなる上に、転写層を活性化処理をした後の転写までの時間の差が大きくなり、転写密着力の均一性が損なわれ好ましいものではなかった。また被転写体が大型の部品の場合には、着水時から引上げまでの転写時間に差が発生し、転写品質にバラツキが出るという問題もあった。
また、特許文献2に記載の技術では、水面に対して物品を斜め下方に移動させて転写フィルムに押しつけ、転写後には斜め上方に移動させて水面から引き上げるために、水槽を含む水圧転写装置が大型化してコストの増大を招く欠点がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、3次元形状を有していたり被転写面積が0.20m以上あるような大型物品であったりする被転写体であっても、入水抵抗、引上げ抵抗低減するとともに安定した入水、引上げを行うとともに引上げ時の落水等を抑制して均一な転写品質を得られ、しかも転写効率を良好にできるようにした簡素かつ汎用性に優れた保持機構を有する水圧転写装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の水圧転写装置は、フィルム上に転写層を有する転写フィルムを水槽の水面に浮かべた状態で、被転写体を転写フィルムに押しつけて転写層を被転写体に転写させるようにした水圧転写装置であって、被転写体を水面に対して傾斜角可変に保持する保持機構を有し、該保持機構を少なくとも略垂直方向に上下動させる昇降ユニットと、該昇降ユニットに設けられたアクチュエータと、該アクチュエータの駆動力を前記保持機構に伝達して該保持機構を傾斜させるリンク機構とを有する傾斜角制御手段と、前記昇降ユニットを介して前記保持機構に保持された被転写体を水面上の転写フィルムに押しつけるとともに水面から引き上げる上下動制御手段とを備え、前記昇降ユニットによって、被転写体を水面上の前記転写フィルムに対して傾斜させて前記転写フィルムを転写させ、転写後に被転写体を傾斜させて水面の外に引き上げるようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、被転写体を水面上の転写フィルムに対して被転写体の形状に応じた最適な角度に傾斜させて転写フィルムに押しつけて水面下に進入させることで、入水抵抗が小さく水面の波立ちを抑制できるため、投入痕、空気咬み込み、転写シワ、転写伸びなどを抑えて転写品質を向上できる。また転写後の水面からの引き上げに際しても、被転写体の形状に応じた最適な角度に傾斜させ直して所望の部分から引き上げることで、被転写体からの引き上げ抵抗を抑制し、水面の波立ちを抑制するとともに落水を滑らかかつ静かに行うことにより転写滓の飛散を抑制し、転写滓などの排出または回収が容易でタクトタイムが短くなる。しかも、被転写体における転写時間の個体差を抑制して均一な転写を行うことができる。
そして、このような被転写体の傾斜角を昇降ユニットに設けられたリンク機構を介する傾斜角制御手段により制御するので、保持機構に、例えばアクチュエータなどの駆動機構を設けることなく傾斜角を制御できる。また、リンク機構によりアクチュエータの駆動負荷を低減できる。そのため、保持機構に傾斜角を可変する駆動機構を直接設ける場合に比べて、保持機構を簡素な構成とすることができるともに、被転写体の質量や形状に応じて駆動負荷が変わっても幅広く対応できる汎用性に優れた構成とすることができる。
【0007】
なお、水槽は静水式でも流水式でもよいし、転写フィルムを繰り出しによって水面上に載置する場合や転写後に水中に残る転写滓やフィルムの残滓等を寄せ集めて回収または排出する時に流水を利用した静水式でもよい。また、流水式の水槽を採用した場合には、本発明による水圧転写装置全体が転写フィルムの移動に同調して相対速度ゼロとなるようにして転写を行うこともできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水圧転写装置によれば、リンク機構を介することにより低駆動負荷で被転写体を傾斜保持できる簡素な保持機構を形成することができ、それにより被転写体を入水時および引上げ時に傾斜させて水圧転写を行うことができるので、転写品質、転写滓等の回収効率および転写作業の効率を向上することができ、しかも保持機構上に駆動機構を有する場合に比べて被転写体の質量、大きさ、形状などに容易に対応できるため汎用性を向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、前記保持機構が前記昇降ユニットに固定された第1の回動支点を有し、前記昇降ユニットに設けられたリンク機構が、前記保持機構に対して水平方向に離間した第2の回動支点を有し、前記リンク機構が、前記アクチュエータが前記第2の回動支点回りの駆動力を供給することにより、前記保持機構に前記第1の回動支点回りの駆動力を伝達することが好ましい。
この場合、リンク機構が保持機構に対して水平方向に離間した第2の回動支点回りに回動することにより、保持機構を第1の回動支点回りに傾斜させることができる。そのため、アクチュエータを、水平方向において、第2の回動支点を挟んで保持機構の反対側に配置することができる。すなわち、昇降ユニット上で保持機構とアクチュエータと水平方向に離間して配置した構成とすることができる。
また、第2の回動支点をてこ支点とするてこ比を調整することにより、アクチュエータの駆動負荷を容易に調整することができる。
【0010】
また本発明のうち、前記第1の回動支点を有する構成では、前記傾斜角制御手段の前記リンク機構が、前記保持機構に対して、前記第1の回動支点から水平方向に離間するとともに前記第1の回動支点を通り異なる方向に延びる直線上の位置において、それぞれ連結される2本のロッド部材を備え、前記アクチュエータにより前記2本のロッド部材を略鉛直方向に独立に駆動することにより、前記保持機構の傾斜角を制御することが好ましい。
この場合、アクチュエータでリンク機構を介して2本のロッド部材をそれぞれ独立に駆動することにより、第1の回動支点回りに2軸方向の傾斜角を可変できるので、被転写体の形状や転写作業の必要に応じて、転写品質や転写効率が良好となるように被転写体の傾斜姿勢を可変することができる。
【0011】
また本発明うち、前記第1の回動支点を有する構成では、前記保持機構を、前記第1の回動支点回りの一定方向に、モーメントを付勢することにより、前記保持機構の回動時の振動を抑制する振動抑制手段を設けた構成とすることが好ましい。
この場合、振動抑制手段により、保持機構が第1の回動支点回りの一定方向に付勢されているので、保持機構のガタやアソビが解消され、転写時に水圧を受けたり、傾斜角を可変したりする回動動作時の保持機構の振動を抑制することができる。その結果、被転写体の転写時の振動を低減して、転写品質を向上することができる。
【0012】
また本発明では、前記昇降ユニットが、鉛直方向に定荷重ばねにより支持されていることが好ましい。
この場合、定荷重ばねの負荷荷重を適宜設定することにより、昇降ユニットの自重をキャンセルもしくは低減することができるので、昇降ユニットの上下動の駆動負荷を低減できるとともに、上下動を円滑に行うことができる。その結果、昇降ユニットや被転写体の質量により影響を被ることなく良好な水圧転写を行うことができる。
【0013】
以下では、本発明の実施形態に係る実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0014】
本発明の実施例の水圧転写装置について説明する。
図1は、本発明の実施例の水圧転写装置の概略構成を説明するそれぞれ正面視の部分断面説明図である。図2は、図1のA視の側面説明図である。図3は、図1のB視の側面説明図である。図4は、図1のC視の部分断面説明図である。図5(a)は、図1のD部の詳細説明図である。図5(b)は、図5(a)のE視の側面説明図である。図5(c)は、図5(a)のF−F断面図である。
【0015】
本実施例の水圧転写装置100は、フィルム上に転写層を有する転写フィルムを水槽の水面に浮かべた状態で、被転写体を転写フィルムに押しつけて転写層を被転写体に転写させるようにしたものであり、その概略構成は、図1〜4に示すように、支持フレーム1、昇降ユニット2、垂直移動機構9、および定荷重ばね4からなる。
【0016】
支持フレーム1は、装置の各部材を取り付ける支持体であり装置本体をなすものである。そして、金属製の柱部材を格子状に連結して構成され、設置面50上に固定設置されている。
支持フレーム1の高さ方向の中間部に昇降ユニット2が設けられている。
【0017】
昇降ユニット2は、スライド部11、フレーム12、水平移動機構6、保持機構3、およびリンク機構20を備える。
スライド部11は、フレーム12に固定されたスライダと、スライダを水平方向に移動可能に保持するスライドガイドからなる直動機構であり、本実施例では棒状の2本の直動機構を用いている。このような直動機構は、例えば、ボールベアリングなどを用いた直動レール機構などにより構成することができる。
それぞれのスライド部11は、正面視ではそれぞれが図示奥行き方向に整列して、支持フレーム1の左側面(図1の左側)から水平に延ばされ、さらに右側面(図1の右側)を越えて支持フレーム1の外部に突出されている。また、平面視では、図4に示すように、それぞれのスライド部11が、支持フレーム1の奥行き方向(図4の上下方向)の中間部に互いに平行に配置されている。
スライド部11の突出部の下方には、水圧転写を行うために後述する水槽53が配置できる空間が形成されている。また、支持フレーム1内のスライド部11の水平方向の中間部下方には、被転写体であるワークを納めるためのワークストッカ51が配置されている。
そして、スライド部11、11の下面は、垂直移動機構9により上下動可能に支持された水平方向に延びるスライド部保持板10a、10b、10cにより支持されている。
【0018】
フレーム12は、複数の板部材、フレーム部材などから構成された、保持機構3、リンク機構20を一体に保持する構造体である。そして、スライド部11、11上のスライダに固定され、スライド部11に沿って水平方向に移動可能とされている。
フレーム12の形状は、平面視略矩形状とされている。そして、平面視では、スライド部11、11をまたぐ幅を有し、スライド部11の延設方向の長さ(正面視の幅)はスライド部11の突出部の長さよりわずかに長くなっている。
フレーム12において、スライド部11の突出部側方向(図1の図示右側)の端部の下側には、スライド部11、11間の中間位置に、保持機構3が吊り下げられている。そして、その反対側(図1の図示左側)の端部の上側には、駆動部保持フレーム12aが設けられ、その上に、駆動軸17a、17b(図2参照)をそれぞれ独立に上下方向に駆動できるアクチュエータ17A、17Bと、フレーム12との間に駆動伝達部8aを備えることによりフレーム12を水平方向に駆動する駆動モータ8が設けられている。
アクチュエータ17A、17Bは、必要に応じて適宜の推力を有するものを採用することができるが、例えばステッピングモータとスクリューを組み合わせたものであれば、1軸で1000N程度の高推力を出せるため好ましい。
【0019】
水平移動機構6は、駆動モータ8と駆動伝達部8aとからなる。
駆動モータ8は、位置制御可能に駆動できれば、どのようなモータを用いてもよい。例えば、ACサーボモータやステッピングモータなどが採用できる。また、電動モータに限らず、リニア型の空圧制御機構、エアシリンダなども好適に採用できる。
駆動伝達部8aは、例えば歯車伝動機構、タイミングベルトなどのベルト伝動機構など適宜の伝動機構を採用できる。
なお、駆動モータ8、駆動伝達部8aを合わせて、リニアモータとして構成してもよい。
【0020】
保持機構3とアクチュエータ17A、17Bとの間にはリンク機構20が設けられている。アクチュエータ17A、17Bとリンク機構20とは、傾斜角制御手段を構成している。
【0021】
保持機構3は、被転写体を水面に対して傾斜角可変に保持するための機構であり、図5(a)、(b)に示すように、固定軸21、保持板24、吸着パッド25…、およびエアシリンダ23、23(振動抑制手段)を備える。
固定軸21は、被転写体からの荷重を負荷するために、フレーム12から鉛直下方に延された軸部材である。そして下側先端が2軸方向に回動可能なユニバーサルジョイント26(第2の回動支点)を介して保持板24の中心部と連結されている。
固定フレーム22は、固定軸21の下端側とフレーム12との間を筋交いとして設けられた補強部材である(図1参照)。固定軸21とはクランパ29bを介して固定されている。
【0022】
保持板24は、吸着パッド25…を介して、被転写体を所定の傾斜角を有する姿勢に保持するための、例えば略円板状の板部材である。そして、図5(c)に示すように、中心部の上面側にユニバーサルジョイント26が設けられ、ユニバーサルジョイント26を回動中心として固定軸21に対して傾斜角可変に連結されている。
そして、上面側の1つの直径上にユニバーサルジョイント26を挟んでそれぞれ2軸方向に回動可能なユニバーサルジョイント27A、28が設けられ、同じくそれと交差する他の直径上にユニバーサルジョイント26を挟んで同様のユニバーサルジョイント27B、28が設けられている。
ユニバーサルジョイント27A、27B、28、28の径方向の配置位置およびそれぞれが設けられた直径のなす角度は、適宜角度設定することができるが、本実施例では、ユニバーサルジョイント27A、27Bの径方向の配置位置がそれぞれ等しく、またユニバーサルジョイント28、28の径方向の配置位置がそれぞれ等しくなっている。これらがそれぞれが配置された直径のなす角度は90°とされている。
【0023】
保持板24の下面側には、被転写体を吸着するための吸着パッド25…が設けられている。吸着パッド25の個数や配置位置は被転写体の大きさ、形状、質量などの条件により適宜設定することができるが、本実施例では、4個を十字方向に配置している。
吸着パッド25は、必要に応じて、例えば真空吸着機構、磁気吸着機構、メカチャック機構、板バネチャック機構等を採用することができる。
【0024】
エアシリンダ23、23は、保持板24が傾斜する際に発生する振動を抑制するための振動抑制手段である。本実施例では、エアシリンダ23により、保持板24に常時引張り力を付勢することにより、ガタなどのアソビを無くしている。そのため、保持板24が水圧により外力を受けても、がたつくことがなく、振動を抑制できるものである。
エアシリンダ23の付勢力は、保持板24が受ける想定外力の大きさから適宜設定することができる。例えば、本実施例の場合、φ20で、シリンダ空圧が、40N/mのものを用いることにより、良好な振動抑制効果を得ている。
エアシリンダ23は、下端側がユニバーサルジョイント28を介して保持板24と連結され、上端側がユニバーサルジョイント28、クランパ29aを介して固定軸21の中間部に固定されている。
エアシリンダ23、23は、本実施例では、それぞれ、ユニバーサルジョイント27A、26およびユニバーサルジョイント27B、26を通る直線上に配置されているので、ユニバーサルジョイント27A、27Bにそれぞれ連結される後述の縦ロッド15A、15Bの駆動力に対して効率よく付勢力をバランスさせることができる。
【0025】
リンク機構20は、フレーム12の水平方向の中間部に設けられた軸受14a(第1の回動支点)に支持されて、図1の奥行き方向の延ばされた回動軸14と、回動軸14に直交して略水平方向に延ばされた水平ロッド13A、13B(図4参照)と、水平ロッド13A、13Bの図1の右端側に連結部16a、16aにより回動自在に連結され、略鉛直方向に配置された縦ロッド15A、15B(ロッド部材)とからなる。
縦ロッド15A、15Bの下端は、ユニバーサルジョイント27A、27Bに連結されている。
水平ロッド13A、13Bの図4の左側の端部は、上側から延ばされたアクチュエータ17A、17Bの駆動軸17a、17bに対して連結部16b、16bにより回動自在にそれぞれ連結されている。
【0026】
垂直移動機構9は、図2、3、4に示すように、支持フレーム1の四隅に配置された鉛直方向に延びる支柱部材のうち、支柱1a、1b、1cに沿って鉛直方向に敷設された3つのスライドレール9aと、各スライドレール9aに沿って上下動可能に設けられた3つのスライダ9bとからなる。そして、各スライダ9bに、それぞれスライド部保持板10a、10b、10cが固定されている。そのため、スライド部11、11上で水平移動可能な昇降ユニット2がスライドレール9aに沿って上下動可能に保持されている。
垂直移動機構9は、適宜の直動機構、例えば、ボールベアリングなどを用いた直動レール機構などを採用することができる。
【0027】
それぞれの垂直移動機構9の近傍には、垂直移動機構9の移動方向に沿って、ボールねじ5a、ボールねじナット部5bからなる垂直送り機構5が設けられている。
各ボールねじナット部5bは、スライド部保持板10a、10b、10cと固定されている。
各ボールねじ5aには、支持フレーム1に固定された駆動モータ7からの回転駆動力が、ジョイント5d…を介して伝達される。それぞれのジョイント5dは、伝達軸5c…により連結され、駆動モータ7の回転がそれぞれのボールねじ5aに同期して伝達されるようになっている。そのため、駆動モータ7を回転すると、各ボールねじナット部5bが同方向に同期して移動できるようになっている。
駆動モータ7としては、位置制御可能に駆動できれば、どのようなモータを用いてもよい。例えば、ACサーボモータやステッピングモータなどが採用できる。
駆動モータ7、垂直送り機構5は、上下動制御手段を構成する。
【0028】
定荷重ばね4は、支持フレーム1の上部と昇降ユニット2との間に設けられ、垂直移動機構9により上下動される昇降ユニット2を一定荷重で上側から保持するためのものである。本実施例では、図4などに示すように、昇降ユニット2の下面側に設けられたばね固定部材19、19にそれぞれ2箇所ずつ合計4箇所設けられ、下端がばね取付部18によりそれぞれ固定されている。
定荷重ばね4としては、例えば、薄い板ばねをドラムで巻き取り、板ばねを引き出す際に一定荷重を要するような構成などを採用することができる。本実施例では、1箇所に2個1組で配置している。
一定荷重の大きさとしては、昇降ユニット2の移動を円滑に行うための大きさであればいくらでもよいが、本実施例では、昇降ユニット2の移動時の慣性の影響をキャンセルするために、昇降ユニット2の自重と同一の荷重としている。具体的には、一定荷重として、1個当たり150Nとしているため、昇降ユニット2の質量約120kgによる重量1200Nが相殺されている。
なお、昇降ユニット2が保持する被転写体の質量が比較的大きい場合には、昇降ユニット2と被転写体との自重の合計に対応する荷重としてもよい。
また、それぞれの一定荷重は、昇降ユニット2の重量バランスなどにより場所により変えてもよい。
また、定荷重ばね4は、取り付け位置を位置調整できるようにして、重量バランスをとってもよい。
【0029】
次に、本実施例の水圧転写装置100の動作について説明する。
図6は、本発明の実施例の保持機構の動作について説明する正面視の動作説明図である。図7は、本発明の実施例の転写動作と保持機構の動作との関係を説明する模式説明図である。図8は、本発明の実施例のリンク機構の動作について説明する模式的な動作説明図である。図9は、本発明の実施例の水圧転写装置の昇降ユニットの動作について説明するための正面視の動作説明図である。
【0030】
保持機構3は、縦ロッド15B(15A)を上下動させることにより、保持板24の固定軸21に対する傾斜角を、ユニバーサルジョイント26を中心に可変できる。例えば、図6(a)に示すように、縦ロッド15B(15A)を上方に引き上げると、図示時計回りに角度θだけ傾斜させることができる。また、図6(b)に示すように、縦ロッド15B(15A)を下方に引き下げると、図示反時計回りに角度θだけ傾斜させることができる。
角度θは適宜に設定することができるが、本実施例では、最大30°に設定している。
【0031】
そして、縦ロッド15A、15Bの上下の移動量を適宜組み合わせることにより、保持板24の傾斜角を適宜に設定することができる。例えば、図7(a)に示すように、平面視矩形状のワーク52(被転写体)を保持機構3により保持する場合、矩形の対角線M上に、固定軸21が位置し、縦ロッド15A、15Bがそれぞれ距離L、L離間した位置に配置されるとする。本実施例では、対角線Mに対して対称な位置にそれぞれを配置するものとする。
この場合、ワーク52を転写開始から転写終わりまで、対角線Mの傾きを変えるように傾斜させるには、縦ロッド15A、15Bをそれぞれ同距離上下動させればよい。また、縦ロッド15A、15Bを例えば、距離X、Xのように、異なる距離だけ上下動すれば、その差(X−X)に応じて、対角線M回りにワーク52が回動する傾斜角を設けることができる。すなわち、縦ロッド15A、15Bを独立に駆動することにより、保持板24に保持されたワーク52の傾斜角を2軸方向に可変することができる。
【0032】
このような縦ロッド15A、15Bの上下動は、アクチュエータ17A、17Bにより駆動されるリンク機構20により実現される。
昇降ユニット2内に設けられたリンク機構20は、図8(a)に示すような構成を有している。
すなわち、水平ロッド13A(13B)により、軸受14aに回動支持された回動軸14を支点、連結部16bを力点、連結部16aを作用点とするてこが形成され、アクチュエータ17A、17Bの駆動力が縦ロッド15A、15Bを介してユニバーサルジョイント27A、27Bに伝達される。
そのため、図8(b)に示すように、アクチュエータ17A(17B)により、駆動軸17aが上方に引き上げられると、縦ロッド15A(15B)が鉛直下方に押し下げられ、保持板24が図示時計回りに回動する。
アクチュエータ17A(17B)の駆動負荷、伸縮長さは、水平ロッド13A(13)上の回動軸14の位置によるてこ比により適宜設定することができる。したがって、被転写体の質量が大きい場合でも、低出力のアクチュエータ17A(17B)を採用することが容易となるという利点がある。
【0033】
また、保持板24は、エアシリンダ23、23により、一定方向に付勢されているので、縦ロッド15A、15Bから駆動力に対して抵抗するため、保持板24の回動に伴う振動は抑制される。
【0034】
保持機構3の水平方向の位置は、昇降ユニット2が、駆動モータ8によりスライド部11に沿って移動することにより可変される。図9(a)は、保持機構3が、水平方向に最大限移動され、水槽53上に移動した様子を示す。
また、保持機構3の垂直方向の位置は、昇降ユニット2が、駆動モータ7から垂直送り機構5を介して各垂直移動機構9に沿って移動することにより可変される。図9(b)は、保持機構3が、垂直方向に移動され、水槽53内に最大限沈降された様子を示す。
【0035】
このとき、本実施例では、昇降ユニット2のうち、駆動モータ8、アクチュエータ17A、17Bなどが保持されて相対的に質量が大きくなっている駆動部保持フレーム12aは、支持フレーム1の枠内にとどまるように移動範囲が設定されている。そのため、スライド部11の突出部に吊り下げられるのは、ロッド類や吸着パッド25などの比較的低質量な構成とされた保持機構3のみとなる。その結果、スライド部11の剛性が低くても保持機構3を安定して保持することができるという利点がある。
【0036】
また、昇降ユニット2が上下動する際、4つの定荷重ばね4により、常に自重をキャンセルするように保持されているので、上下動に際してストレスなく、円滑に移動できる。特に、慣性が大きい場合の振動、例えば駆動ビビリなどを防止することができる。そのため、転写品質を向上することができるという利点がある。
また、垂直送り機構5を駆動する駆動モータ7の出力を低出力化することができ、駆動モータ7の小型化を図ることができる。また、3つの垂直送り機構5を駆動モータ7のみで駆動することが容易となっている。したがって、水圧転写装置100を小型化、軽量化することができ、ひいては安価な装置とすることができるという利点がある。
【0037】
次に、水圧転写装置100による水圧転写動作について本実施例に関係する部分を中心として簡単に説明する。
図10(a)、(b)、(c)は、本発明の実施例の水圧転写装置による被転写体の一例の概略形状について説明するための平面図、正面図、右側面図である。図11は、本発明の実施例の水圧転写装置の水圧転写工程について説明するための模式的な工程説明図である。
【0038】
以下では、図10に示すワーク54を用いて、図示斜線部の範囲に転写フィルムを転写する場合の例で説明する。なお、水槽の上流側と下流側とは、転写フィルム30を繰り出しによって水面上に載置する場合や転写後に水中に残る転写滓やフィルムの残滓等を寄せ集めて回収または排出する場合の上流側と下流側を意味する。
転写フィルム30(図11参照)は、水溶性または水膨潤性の樹脂、例えばPVA(ポリビニルアルコール)からなる支持体フィルム(以下、単にフィルムという)の上に有機溶剤に溶解可能な疎水性物質からなる転写層としてインキ皮膜30bが設けられている。インキ皮膜30bには、例えば大理石の模様が印刷されている。そしてフィルムとインキ皮膜30bの間には、活性エネルギ−線照射あるいは加熱の少なくともいずれかによって硬化可能な硬化性樹脂層、例えば活性エネルギー性硬化性樹脂層が介在している。なお、転写フィルム30は活性エネルギー性硬化性樹脂層が含まれていなくてもよい。
【0039】
ワーク54は、例えば浴槽、水槽、容器、外装体など凹部を有する3次元形状の物品の一例である。そして、図10(a)、(b)、(c)に示すように、例えば略四角錐台形状または縦断面視略台形状を呈しており、四周の側面は底面から開口に向けて漸次外側に傾斜して形成され、開口では全周に亘って外側に略L字状に折り曲げられまたは湾曲させられた耳部54bを形成している。そして、本実施例では、ワーク54の耳部54bと開口の内面上部54bとの断面視略コの字形状部分にインキ皮膜30bを転写させるようにしている。
【0040】
まず、転写フィルム30のインキ皮膜30bを浴槽に転写させる耳部54bおよび内面上部54bを除いて、浴槽内部をマスキングテープでマスクする。
そして、水槽53の上流端53aに設けた不図示の繰り出し機構、移送テーブルなどを用いて、水槽53上に転写フィルム30を所定長さだけ繰り出して切断し、上側にインキ皮膜30bが、下側にPVA等のフィルムが位置する状態で水面上に浮かべる。
転写フィルム30は水に接触することで徐々に水に溶け始めるので、噴霧ノズルで活性剤を転写フィルム30のインキ皮膜30b全面に噴霧する。
【0041】
その間、水圧転写装置100は、図1に示す状態から、駆動モータ7を駆動して、垂直送り機構5の作用により昇降ユニット2を垂直移動機構9に沿って下降させ、ワークストッカ51に納められたワーク54を耳部54aが下向きとなる姿勢で保持機構3の吸着パッド25により吸着する。このとき、本実施例のようにワーク54に適当な吸着面がない場合には、吸着面が形成された取り付け治具55(図11参照)をワーク54に取り付けた状態で吸着する。なお、取り付け治具55には、転写工程で、ワーク54が水面内に深く沈降される場合に、保持機構3が水に直接浸されないようにワーク54からの距離をかせぐこともできるという作用もある。
【0042】
そして、同様にして昇降ユニット2を上昇させてから、駆動モータ8により駆動される水平移動機構6を介して昇降ユニット2を水平方向に移動して、保持機構3をワーク54上に位置させる。
そして、アクチュエータ17A、17Bを駆動して、保持板24の傾斜角を転写開始状態の角度に設定する。
すなわち、ワーク54の開口を含む仮想平面Lが水面及び転写フィルム30に対して互いに直交する2方向で傾斜角θ、θをなすよう傾斜させる(図11(a)参照)。ここで、傾斜角θ、θは、ワーク54の形状などに応じて、転写性が良好となるように適宜の角度に設定することができる。
この状態で昇降ユニット2を、例えば、投入速度150〜1200mm/分で降下させて入水させる。すると、図11(a)に示すようにワーク54の上流側の一方の角部の耳部54b部分が転写フィルム30に押しつけられ、インキ皮膜30bを転写させながら水面下に浸入する。このとき、転写フィルム30のPVAからなるフィルムは水に溶け出しており、溶け残った一部がインキ皮膜30bと共にワーク54に被着する。
ワーク54を角度θ、θで斜めに傾斜させて一の角部を転写フィルム30に押しつけることで、入水抵抗が小さく水面の波立ちも少ないために、投入痕、転写しわや転写伸びを抑制できる。
【0043】
次にアクチュエータ17A、17Bにより、駆動軸17a、17bの駆動量を可変することにより、縦ロッド15A、15Bを個別に異なる距離降下させて、耳部54b全体が水面下に沈むように水平状態にさせて下流側部分の転写を行う(図11(b)参照)。ワーク54の投入とフィルムの水への溶け出しによって、インキ皮膜30bはワーク54への転写部分の外側領域が分断され、転写滓となって水面に浮遊するか沈下する。ワーク54の内部に位置するインキ皮膜30bはマスクに転写させられる。
ワーク54の耳部54bと内面上部54bへのインキ皮膜30bの転写が終了したら、アクチュエータ17A、17Bにより縦ロッド15A、15Bを互いに異なる距離上昇させて、開口を含む仮想平面Lを水面に対して直交する2方向に角度θ、θ傾斜させる。この状態で、昇降ユニット2を上昇させると、ワーク54は上流側部分の投入時と同一の角部から順次引き上げられる(図11(c)参照)。
【0044】
この場合、ワーク54の耳部54b内に溜まった水や転写滓は下流側の最下方に位置する耳部54bから水槽53の下流側に落水するが、傾斜面を流れるために落水時の波打ちや水面の乱れは小さい。そのため、引上げ後の水面が落ち着くまでの時間が短い。また、ワーク54の引上げ時に水面の上流側に浮遊する転写滓等は少ない。
その後、昇降ユニット2をワーク54上から移動して、次工程へ搬送させ、洗浄工程でフィルムの滓等を取り除き、乾燥させ、トップコーティングして光沢させる。
また水槽53内では、仕切り板56を水槽53の上流側から下流側に移動させることで、水面や水面下に浮遊する転写滓や残滓等を下流側に押しやり、水槽53から副槽53b内に水と共に落下させる。
そして次のワーク54について同様の工程を繰り返して、インキ皮膜30bを転写させる。
【0045】
このように本実施例によれば、ワーク54を直交する2方向に角度θ、θ傾斜させた状態で転写フィルム30に押しつけて一方の角部から投入して転写させ、そして引き上げるために、水圧による抵抗や落水が小さく、投入痕や転写しわや転写伸びを抑えて転写品質を良好にできる。しかも、水面の波立ちが小さく、転写滓や残滓の回収を短時間で行えるので、次の転写作業開始までの時間が短くて済み、転写効率を向上させることができる。
【0046】
また、本実施例では、昇降ユニット2を定荷重ばね4で自重をキャンセルするように保持することにより、昇降ユニット2の慣性によって発生する上下移動時の振動を抑制できるので、転写時に転写フィルムの伸び縮みが低減され高精度な転写を行うことができる。そのため、特に微小の伸び縮みにより風紋状の濃淡斑などが発生しやすい精密な模様を転写する場合にも、高品質な模様を転写することができる。
また、被転写体を回動させる時には、保持板24に設けられたエアシリンダ23、23により保持板24の回動方向の振動を抑制するから、傾斜角を変化させて転写する過程で、転写フィルムの伸び縮みが低減されるので、高精度な転写を行うことができる。
【0047】
また、本実施例では、駆動モータ8、アクチュエータ17A、17Bや、駆動伝達部8a、などの駆動機構が支持フレーム1内に残され、転写が行われる水槽53から離れた箇所に配置されて駆動されるから、これら駆動機構により発生しがちな、微細なゴミなどが水面上に落下しないので、ゴミの落下などによる転写不良などを防止できる。
【0048】
また、本実施例では、保持機構3の回動を、リンク機構20により遠隔的に行うので、保持機構3上に、アクチュエータを2つ配置して保持板24の傾斜角を直接制御する場合に比べて、保持機構3を軽量化することができ、保持機構3の重量によりモーメントを受けるスライド部11や支持フレーム1の負荷も低減できるから、装置全体としても、簡素かつ軽量の装置とすることができる。
【0049】
なお、上記の説明では、被転写体である物品としてワーク54を用いた例で説明したが、ワーク54に限定されることなく、例えば、冷蔵庫や洗濯機、エアコン等の各種大型家庭用電化製品の扉や本体、自動車のドア、ボンネット等、各種の大型物品に適用できる。これらは、転写面積が0.20m以上、好ましくは0.20〜4m程度の比較的大きいものに好適に用いることができる。また、携帯電話の筺体等の小型物品にも適用できる。
【0050】
また、上記の説明では、転写層はインキ皮膜3bとして説明したが、これに限定されることなく塗装膜等各種の薄膜を採用できる。
【0051】
また、上記の説明では、ワーク54を水面に対して傾斜状態に保持して水面に略垂直な方向に上下動させて転写を行うようにしたが、ワーク54等の被転写体を水面または転写フィルムに略垂直に昇降させて転写しなくてもよく、例えば斜め下方に降下させて水面上の転写フィルムに押しつけて転写させ、転写終了後に斜め上方に上昇させて水面から引き上げるようにしてもよい。或いは降下と上昇の一方のみにおいて被転写体を水面または転写フィルムに略垂直に移動させ、他方では斜めに移動させて転写するようにしてもよい。
【0052】
また、上記の説明では、上下動制御手段として、駆動モータ7、垂直送り機構5を採用した例で説明したが、これに限定されるものではない。例えば、リニアモータを用いたものでもよく、電動モータに限らず、リニア型の空圧制御機構、エアシリンダなども好適に採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例の水圧転写装置の概略構成を説明するそれぞれ正面視の部分断面説明図である。
【図2】図1のA視の側面説明図である。
【図3】図1のB視の側面説明図である。
【図4】図1のC視の部分断面説明図である。
【図5】図1のD部の詳細説明図、ならびにそのE視の側面説明図およびF−F断面図である。
【図6】本発明の実施例の保持機構の動作について説明する正面視の動作説明図である。
【図7】本発明の実施例の転写動作と保持機構の動作との関係を説明する模式説明図である。
【図8】本発明の実施例のリンク機構の動作について説明する模式的な動作説明図である。
【図9】本発明の実施例の水圧転写装置の昇降ユニットの動作について説明するための正面視の動作説明図である。
【図10】本発明の実施例の水圧転写装置による被転写体の一例の概略形状について説明するための平面図、正面図、右側面図である。
【図11】本発明の実施例の水圧転写装置の水圧転写工程について説明するための模式的な工程説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 支持フレーム
2 昇降ユニット
3 保持機構
4 定荷重ばね(振動抑制手段)
5 垂直送り機構(上下動制御手段)
6 水平移動機構
7 駆動モータ(上下動制御手段)
8 駆動モータ
11 スライド部
13 水平ロッド
14 回動軸
14a 軸受(第2の回動支点)
15A、15B 縦ロッド(ロッド部材)
16a、16b 連結部
17A、17B アクチュエータ(傾斜角制御手段)
20 リンク機構(傾斜角制御手段)
21 固定軸
23 エアシリンダ(振動抑制手段)
24 保持板
25 吸着パッド
26 ユニバーサルジョイント(第1の回動支点)
30 転写フィルム
30b インキ被膜
51 ワークストッカ
52、54 ワーク(被転写体)
53 水槽
53a 上流端
55 取り付け治具
100 水圧転写装置
L 平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム上に転写層を有する転写フィルムを水槽の水面に浮かべた状態で、被転写体を転写フィルムに押しつけて転写層を被転写体に転写させるようにした水圧転写装置であって、
被転写体を水面に対して傾斜角可変に保持する保持機構を有し、該保持機構を少なくとも略垂直方向に上下動させる昇降ユニットと、
該昇降ユニットに設けられたアクチュエータと、該アクチュエータの駆動力を前記保持機構に伝達して該保持機構を傾斜させるリンク機構とを有する傾斜角制御手段と、
前記昇降ユニットを介して前記保持機構に保持された被転写体を水面上の転写フィルムに押しつけるとともに水面から引き上げる上下動制御手段とを備え、
前記昇降ユニットによって、被転写体を水面上の前記転写フィルムに対して傾斜させて前記転写フィルムを転写させ、転写後に被転写体を傾斜させて水面の外に引き上げるようにしたことを特徴とする水圧転写装置。
【請求項2】
前記保持機構が、前記昇降ユニットに固定された第1の回動支点を有し、
前記昇降ユニットに設けられたリンク機構が、前記保持機構に対して水平方向に離間した第2の回動支点を有し、
前記リンク機構が、前記アクチュエータが前記第2の回動支点回りの駆動力を供給することにより、前記保持機構に前記第1の回動支点回りの駆動力を伝達する構成とされた請求項1に記載の水圧転写装置。
【請求項3】
前記傾斜角制御手段の前記リンク機構が、
前記保持機構に対して、前記第1の回動支点から水平方向に離間するとともに前記第1の回動支点を通り異なる方向に延びる直線上の位置において、それぞれ連結される2本のロッド部材を備え、
前記アクチュエータにより前記2本のロッド部材を略鉛直方向に独立に駆動することにより、前記保持機構の傾斜角を制御する請求項2に記載の水圧転写装置。
【請求項4】
前記保持機構を、前記第1の回動支点回りの一定方向に、モーメントを付勢することにより、前記保持機構の回動時の振動を抑制する振動抑制手段を設けた請求項2または3に記載の水圧転写装置。
【請求項5】
前記昇降ユニットが、
鉛直方向に定荷重ばねにより支持されている請求項1〜4のいずれかに記載の水圧転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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